優劣がつく物事においては、必然的に「上下」というものさしが生まれます。 そして、その一番上になることを多くの人が憧れます。 音ゲーでもそれは同じで、わかりやすいものでは「スコアの上下」があります。
それともう一つ。 人間は、「自分には敵わない」と思う対象を自分とは別世界の存在として隔離しようとします。 音ゲーの世界では、それが"神様"という名前になって定着しています。 これはごく自然な流れであり、自然であるが故に打ち破ることが難しい流れであったりします。 この記事では、"神様"の殺し方、というタイトルでどうすれば格上に勝てるのか、という話をしていきたいと思います。
先述の通り、音ゲーにおける"神様"とは自分には到底敵わない、雲の上の存在、という意味で使われます。 こう書くと、「いや、単純に凄い人のことを神様って呼んでるでしょ」と言われる方、たぶんたくさんいらっしゃると思います。 でも、ちょっと考えてみてください。 自分よりもちょっと上手い人のこと、身近に居たとして"神様"って呼びますか? 大抵、"神様"って呼ぶときは「自分では勝てない」、「自分とは世界が違う」といった感覚が無意識にあります。 まず、そのことに気付けない限り、この先"神様の命日"は訪れません。
更に、多くの人は"神様"を崇めます。 みなさんも一度くらいは行ったことがあるのではないでしょうか。「○○さんって凄いんだぜ」と。 勿論、○○さんの部分にはみなさんの会ったことのないような人の名前が入ります。KACの中継とか、リザルト画像とかだけで知ってる人。 とりあえずよくわかんないけどとにかく凄い。何が凄いって凄いから凄い。 人は、神様に対してそういった感情を抱きます。 特に、この傾向は競技の世界では顕著だ、と僕は感じています。
ここで少しDDRの話をしますと、DDRの国内トッププレイヤーはもう十年弱変わっていません。
KAC2011優勝者のBROSONI.。 彼はSuperNOVA時代から頭角を現し、その後youtube等の動画で驚くべきスコアを叩き出し、有名になりました。 その彼は、未だに国内DDRのNo.1プレイヤーとして君臨し続けています。
傍から見れば、KAC2012で僕が優勝したのは多くの人にとって"青天の霹靂"だったのかもしれません。 割りと「誰だアイツ」みたいなコメントは見かけました。
絶対王者であった彼が負ける日。それも、どこの馬の骨とも知らぬ男が"神様を殺した"。 (ちなみにあれが彼の大会初敗北だったみたいです) 僕もEXTREMEから始めて、SuperNOVA頃には発狂のトッププレイヤーとして一部には知られていましたが、 いかんせん動画を上げる諸々の環境がなかったため知名度としては格段に低く、こんなシチュエーションになったのでは、と思っています。
KAC2012、あの時、神様は死んだ。 しかし、現実には神様が増えただけだった。 彼らは「神様が死んだ」という事実とともに、「神様を殺せる人間は人間ではない、神様だ」と思ってしまったから。
結果、DDRの世界には今数人の神様がいます。 ようやく何人かが力をつけている風はありますが、まだ、僕達の首を掻っ切ってやろうとチェーンソーを持ってくるプレイヤーは現れません。
"神様"は「自分の敵わない存在」。ならばどうすればその"神様"を殺せるのか。
「神様なんて居ない」
そう思えるかどうかが全てです。 "神様"といえど所詮は人間。そこに辿り着いた理由があるはず。 せっかくこれだけ動画があふれているのだから、他人の良い所をどんどん取り込めばいい。 それが例え"神様"だろうと、技はいくらでも盗める。 盗んで、実践する。合わなければ、捨てる。 「"神様"は全て正しい」なんて思っちゃいけない。あいつらはあいつらなりの技を持ってるんだ。 これの繰り返しで、自分のスタイルがある程度確立できる。 そこまで来て自分の足で立てるようになったら、いよいよ準備をしましょう。
"神様"を殺す準備を。
これに関してはKAC2012で僕が優勝した後に書いたつぶやきまとめがあるのでこちらを御覧ください。 (こっちも長文なので恐縮ですが…)
やるべきこととしては、
- 自分と相手の強み、弱点を知る
- 闘う場の情報を仕入れる(競うルール、会場のコンディション等) そのうえで、
- 勝率を上げるためにすべき努力は何かを考え、行動する
かと思います。
自分の場合は、
- 自分の強みと弱点
→全体的に程々高いスコアが出る、ただしMFCの様な突き詰めたスコアを出すのは非常に苦手
→変速系譜面は問題なくさばけるので得意といえるが、ノート数の多い譜面では体力切れが起きるので後半持たない
みたいな感じです。 これくらいの分析をした上で、この大会に勝つためにはどういう練習をすべきか、どの曲を練習しておかないといけないかを考え、練習しておきます。
これだけやれば、どんな相手でもルール次第で勝率1%くらいにはなるはずです。 (どんなルールでも、とは流石に言えませんが...)
勝率1%なんて実質勝てないじゃないか、とお思いの方もいるかと思います。 残念ですが、そう思ってるうちは"神様"を殺すことは出来ません。 発想を変えましょう。「一発勝負でその1%を引けばいい」と。
昔、某氏とBUZZ(DDRにおけるスコア対戦)をやりました。その時に、 「君が勝つまでやるよ。ただし、選曲は全部君がしていい」 というルールでやりました。結果、その日では終わらず、結局数日越しで98戦目だったかで彼が勝ちました。 その時に話したのが、 「君にだって勝率は1%あるんだ、大会でその1%を引ければ君の立派な勝ちじゃないか」 という話でした。 対戦回数とかはあやふやですが、言いたいこととしては 「一発勝負の環境下ならチャンスは誰にでも生まれる」 「そのチャンスを物にできるかが大会での勝敗を決める」 です。
昨今ではあまり大会も開催されず、そういった感覚があまりないのかな、とも思いますが、 対戦は常に相手との斬り合いです。油断したらどんなに格下でも負ける可能性があります。 その油断を見逃さず、一瞬で決められるかどうかが1%を引く力であり、「強さ」の証明だと思っています。
1%をこじ開ける力というのは非常に簡単で、上手くなるってことです。 自分が上手くなれば勝率は1%から2%3%、と上がっていきます。 そうすれば本番で勝ちを引きやすくなる。
この2つが揃えば、例え手の届かない"神様"だって、ちゃんと殺すことが出来るのです。
僕の経験談にはなりますが、神様になっても、案外何も変わらないです。 ただ、知らない所で物事は変わっています。 大抵、それに気付くのはしばらくたってからになります。神様を殺すと、その人のことを多くの人が神様だと扱います。 それに対して神様になるか、ならないかはその人次第だと思います。 僕は神様になるつもりはないですが、今回は敢えて神様としてこの文章を書きました。
自分にとって音ゲーはただのコミュニティツールであって、 音ゲーをきっかけに、面白い人と知り合えたらいいので、 特に神様になろうとか、神様であろうといったつもりはありません。 それもひとつの選択肢だと思っています。
"神様"を殺した後、その先は、人それぞれ選べばいいと思います。
KAC2012で言った言葉に偽りはありません。 皆さんが、あの場に来ることを待っています。 神様が殺され、世界が変わっていくのを楽しみにしています。どうか、僕を殺してください。
その先の世界を見れる日を、僕は心から待ち望んでいます。