本書全体の要約がキレイにまとまっているので、まずはここから要約しておく。
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リーン・スタートアップの5原則(P17)
- アントレプレナーはあらゆるところにいる
- 起業とはマネジメントである
- 検証による学び
- 構築ー計測ー学習
- 革新会計(イノベーションアカウンティング)
なお第1部はこの1.2.3.について言及している。
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スタートアップはなぜ失敗するのか(P19)
- 不確実性の大きいスタートアップは旧来のマネジメント手法(優れた計画やしっかりした戦略、市場調査の活用)では対処できない
- 一部、方法論をあきらめて「とにかくやってみよう」という無秩序な方法を採用するアントレプレナーや投資家が存在すること
スタートアップに適した新しいマネジメント手法があり、それを解説するのが本書であるとここで謳っている。
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本書の構成(P20)
- 第1部「ビジョン」は5原則の1.2.3.について
- 第2部「舵取り」は5原則の4.5.にプラスして、方向転換(ピボット)の判断方法について
- 第3部「スピードアップ」はリーン・スタートアップをスケールアップする方法の検討や、その原理を応用する方法についての検討
- 旧来の総括的なマネジメントはスタートアップが直面せざるをえない混乱と不確実性に対して相性が悪い、アントレプレナーには起業に伴うチャンスを現実のものとするマネジメント原理が必要(P25)
- リーン・スタートアップの目的は、経済的な損失に加え、貴重な人的資源(時間、情熱、スキル)の無駄づかいとなる スタートアップの失敗 を防止すること(P28)
- リーン・スタートアップとは「検証による学び」を通して画期的な新製品を開発する方法(P31)
- 新しい製品、新しい機能、新しいマーケティング方法などは成長のエンジンを改良しようとする試みだと言え、リーン・スタートアップではさまざまな仮説に基づいて複雑な計画を立てるのではなく、構築ー計測ー学習というフィードバックループをハンドルとして継続的に調整を行う(P32〜P33)
- 製品は最適化というプロセスで変化していく(エンジンのチューニング)、戦略も変化することがある(ピボット)、全体を支配するビジョンはめったに変わらない(P35)
- 起業とはマネジメントである(P36)
第1章でリーン・スタートアップの本質について語られていると感じた。
- 新しいマネジメント手法である
- 必ず起業が成功する銀の弾丸ではない、失敗を最小限にして成功する確率を高めるための方法
またコアとなるものは「検証による学び」と「構築ー計測ー学習による継続的な調整」であり、その適用範囲について言及していると解釈した(製品、戦略、ビジョンのくだり)。
- スタートアップの定義「スタートアップとは、とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創り出さなければならない人的組織」(P41)
- スタートアップの定義で一番重要なのは定義に含められなかった部分で、会社のサイズや業界、セクターなどは触れられていない、つまりとてつもなく不確実な状態で新しい製品や事業を生み出そうとする者は、全員がアントレプレナー(P41)
第2章ではアントレプレナー(=対象読者)を明示している。アントレプレナーを幅広く定義していることで、本書で解説する手法が幅広く適応可能であることを暗に示唆していると解釈した。
スナップタックスの事例は 大企業内における持続的イノベーション(破壊的イノベーション?)へのリーン・スタートアップ適応例 であり、この章の主題はあくまでも 対象読者の明示 と解釈したので上記サマリーには含めていない。が、個人的に響いた文章がいくつかあるので以下に箇条書きしておく。
- 大企業は既存製品を少しずつ改良し既存顧客を満足させる持続的イノベーションが得意、逆に未来の成長をもたらす画期的な新製品を苦労して創りあげる破壊的イノベーションは不得意(P46)
- イノベーションはボトムアップで進む(P47)
- 新しいマネジメント手法はアントレプレナーだけでなく、アントレプレナーを支援する人々や育てる人々、アントレプレナーに責任を問う立場の人々も身につける必要がある(P47)
- ひとつしか試さない場合、アントレプレナーではなくて政治家が増えてしまう(P49)
- 問題となるのはリーダーであり中間管理職、企画立案と分析を行う事、そして計画を策定することが自分の仕事だと考えている(P50)
- 企業が長期にわたって経済的な成長を継続できる道は、リーン・スタートアップ手法で破壊的イノベーションを継続的に生み出す「イノベーション工場」を作る以外にない(P51)
- テストシステムを開発するのは経営幹部の仕事、新しいアイデアをシーザーのように承認したり却下したりするだけだったリーダーが新しい文化とシステムを導入し、チームがどんどん動いてシステムと同じスピードでイノベーションを進められるようにすること(P53)
- 検証による学び という概念で学びをとらえなおす、それはスタートアップが育つすさまじいばかりの不確実性という土壌において進捗を的確に測る方法であり、実質的な成果をもたらさない計画をしっかり遂行し、失敗を達成してしまうという致命的なトラブルによく効く解毒剤となる(P56)
- リーンな考え方における価値とは顧客にとってのメリットを提供するものを指し、それ以外はすべて無駄だと考える(P69)
- スタートアップの場合、顧客が誰なのかもわからなければその顧客が何に価値を見いだすかもわからないので、価値の定義自体を見直す必要がある(P70)
- スタートアップにとって学びは進歩に欠かせないものだと考えるようになり、顧客の望みを学ぶためにどうしても必要なもの以外の努力はなくてもいい、これを「検証による学び」と呼ぶことにした(P71)
- 検証による学びを得るためには、現実の顧客から集めた実測データを基礎とする必要がある(P72)
- 自分たちのビジョンと顧客が受けいれてくれるものをひとつにまとめることを自分たちの仕事だと考えた(P73)
- 検証による学びを活用すれば、大胆なゼロがもたらす無駄を減らせる、製品開発という形で大きな成功に向けて少しずつ進んでいることを証明する(P77)
- スタートアップは大きな実験だと考えること、問うべきは「この製品は作るべきか」であり「このような製品やサービスを中心に持続可能な事業が構築できるか」で、このような問いに答えるためには、事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証する必要がある(P79)
- スタートアップが行うことはすべて、検証による学びを得るための実験だと考える(P79)
第3章ではスタートアップにおける進捗を的確に計測する方法として 検証による学び を提唱し、IMVUでの事例をもって説明をしている。
ただ自分が読んだ印象として、そのものについて端的にまとめて断言している箇所がないため概念的なものとして説明している印象を受けた。つまり検証による学びとはあくまでフレームワークであり、具体的に何をもって学びとするかは各アントレプレナーがそれぞれ定義するものだと感じた。
またこの章の重要な点として、リーンな考え方における価値とは 顧客にとってのメリットを提供するもの だがスタートアップの場合には顧客とその顧客が見いだす価値が不確実性であることを言及しており、スタートアップにおける価値とは何かを見直すことが必要だと言っている点だと感じた。
- スタートアップが行うことを「戦略を検証する実験」、戦略のどの部分が優れていてどの部分が狂っているのかを検証する実験としてとらえなおす、ビジョンを中心に持続可能な事業を構築する方法を明らかにすることが実験の目標である(P81)
- 戦略的計画は策定に何ヶ月もかかるが、リーン・スタートアップ的な実験ならすぐに始められ、小さくスタートすれば、全体的なビジョンを損なうことなく、実行時の無駄を大幅に減らせる(P81)
- 実験は製品である - 単なる理論の探求ではなく、最初の製品でもある(P90)
第4章では検証による学びを得るための 実験 についての言及と、事例によるその具体例を提示している。
リーン・スタートアップ的な実験のポイントとして以下点を挙げてもいる。
- 小さくスタートすること
- 全体のグランドビジョンを分解して構成部分(特に重要な価値仮説と成長仮説)に分けること
- アーリーアダプターをみつけコンシェルジュ型実用最小限の製品と呼ぶ手法を使うこと
- 第2章のスナップタックスの事例は持続的イノベーションなのか破壊的イノベーションなのかがあいまいに捉えられた。P48L12で「持続的イノベーションという最近の問題にうまく対処できない」とありこの事例は前者なのかと匂わせておきながら、P51L4で事例のまとめとして「破壊的イノベーションを継続的に生みだす」と書いてあるため。破壊的イノベーションを継続的に生みだすと、それは持続的イノベーションと同義になるということでしょうか?
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第3章でのIMVUにおける検証による学びとは具体的に何だったのか?また以下についても細かく討議したい。
- 事例における 実質的な成果をもたらさない計画 と 失敗の達成 とは何だったか
- 戦略の間違い とは何で、それは何から学べたのか
- 顧客にとってのメリットを提供するもの は何で、 それ以外の無駄 は何だったのか
- 学びを得るために集めた 顧客からの実測データ は何だったのか
- ビジョン と 顧客が受けいれてくれるもの は何だったのか
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第4章の各事例はどの点がリーン・スタートアップの手法にのっとった検証による学びを得るための実験だったのか?また何が優れていたのか
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架空のスタートアップを定義し、検証による学びを得るための実験案を考えてみたい(ワークショップ的に)