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@pasberth
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りよのじ先生の次回作です

(1)

 俺はごく普通の高校2年生。強いて違う所をあげるとすれば絵を描くのが好きだってことかナー。名前はりよのじ。 毎日、朝早く起きては、同じバスに乗り、同じ高校に通って、同じような問題を解くのだ。たまの日曜日に 絵を描くのも、もはや繰り返しのひとつに過ぎない。要するにくだらない人生である。

 今日も夜遅くに帰宅し、両親のいないキッチンで晩飯をとった。代わり映えのない1日の終わりだった。 それから、俺は風呂の支度をし、沸くまで待つ事にして、自室に戻った。すると

「きゃー!」

 と、甲高い女の子の声。それから目の前には、明らかになにか動物的に振動する物体が包まれた布団。 ここは俺の部屋で、俺は猫を飼っていない。戸締まりもキチンとしているはずである。 よって論理的に考えて猫でもなさそうである。俺は一瞬だけ目をまん丸にして硬直したが、 思ったより冷静であった。俺は我に戻り、スマホを持ち出して110番にかけようとする。

「きゃー! まって、通報しないで」

 布団にくるまったまま叫ぶ女。 ちょっと今すぐ出て行くなら勘弁してやると言いたい所だが、なにか盗まれたとしたら 困るので冷静に考えれば通報しないわけにはいかない。 俺が止まらないのを察知して、女は布団から飛び出して、俺を押し倒し、 通報できないように腕を抑えた。

「悪い人じゃないの。おねがい、信じてください」

 俺の上でそう訴える彼女に、悪い人じゃないならどうして隠れていたんだと問いただそうとしたが、 その理由は見れば明らかであった。そんなことよりも俺の喉から別の質問が飛び出した。

「……どうして、裸?」

「複雑なんです」

 俺の目の前に、童顔に似合わない豊満な乳が揺れているし、ちょっと目を降ろせば生のあの部分を 拝めてしまいそうである。しかしそこは童貞力の高い俺であるので、硬直する以上の 行動は起こさない。

「と、とにかく、服を着ようぜ」

「ないんです」

「ない? じゃあ、裸で外を歩いて来たってわけ?」

「違います! そんな痴女じゃありません」

 彼女の真っ黒な髪はとても長くて、彼女が大げさに首を振ると俺の顔をくすぐった。 俺は目に入るその髪を避けながらたずねた。

「じゃあ、どうして」

「あなたが描かなかったからですよ!」

「……は?」

「わたしはあなたの絵から生まれたんです。……お父さん」

「……まったく、理解できない」

「本当なんです! 信じてください」

「信じる信じない以前に、なにを言っているのか、脳が理解する事を拒否している」

 彼女は泣きそうな顔になってしまった。 でも俺は容赦したりしない。

「出て行け」

「ひどい」

「ひどいってなんだよ! 意味がわからないのはそっちだろ」

「裸の女の子をこんな夜中に放り出すの?」

「まず、入ってくるのがおかしいから」

「偶然なんです」

「なに? コンビニに行こうと思っていたら、 どういうわけか服がなくなって、そして気づいたらこの部屋にいたって、 そう言いたいわけ?」

「違います! でも、出て行けっていうのはいくらなんでもひどすぎます」

「……」

「一緒に寝たいです」

「あのさ」

「一緒に寝ましょう?」

「……」

「お父さん」

(2)

 昨日、ワケのわからない女が、裸で俺の部屋にいたってワケ。しかも、彼女は 俺が描いた絵から生まれたとか抜かしやがる。そんなことが信じられるわけがない。 しかし、何度怒鳴っても一向に出てゆこうとしないし、一緒に同じ布団で寝ましょうとか言われたら 人間の鏡として泊まらせてあげないわけにはいかないだろ!?

 本当は眠った隙になにか盗られるんじゃないかと心配していて、眠った振りをしてシッポをつかんでやろうと 思っていたのであるが、いつの間にか眠っていた。しかも、今朝、彼女は俺よりも早起きしていたのに、俺を 起こしてくれた。俺は

「杞憂だったのか……」

 と思いつつ、2人分の朝飯の支度をしていた。

 どうやら例の女は、本当かどうか知らないが、服を持っていないので外に出られないらしい。 それも、彼女の立場にしてみれば当然かもしれないけど、この家の中ですら誰かいるか心配なので、 俺の部屋の、しかもあの布団から出たくないのだという。

「引きこもりかよ」

 とかつぶやきつつ、俺はトーストにバターを塗っただけのものを 彼女に届けに自室に戻った。

「ほら」

 と俺はトーストを彼女に差し出す。

「……? なんですか?」

「朝飯だよ」

「ありがとうございます。助かります。でも、いりません」

「いらない?」

「お腹がすいていないんです」

 俺は(せっかく用意したのに……)とちょっとムカつきつつも、

「でも、今日、俺が帰ってくるまで、ほとんど食べるものないぞ。 自分で買いに行くというなら話は別だが」

「その口ぶりだと、夜までいてもいいって言っているように聞こえます」

「それはそう」

「本当ですか!? それは本当に助かります、お父さん」

「信用してるわけじゃないけど、もし目的が盗みなら、 もう追い出した所でどうにもならないしな」

 それに、話していても気分は悪くない。

「でも、じつは……」と、彼女は続けた。

「なに?」

「服が欲しいんです。見てわかると思いますが。そうしてくれたら、わたし、それがいちばん、本当に助かります」

 俺はその発言で一瞬で理解した気がした。 そうか。こいつはこういう手口で服を集めて売るかなにかするタイプの悪い女なんだ。

「悪いが女の子の服なんて持ってない」

「本当に恥ずかしいんです。お父さん、おねがいですから服を着せてください」

「わかってるぞ。たぶらかして買ってもらうつもりなんだろ?」

「買ってくれる必要なんてないんです!」

「言ってる事がまちがいなく矛盾している」

「単にイラストに描き足してくれればいいんです。 もともとのイラストは裸でしたから、わたしは裸なんです。 だから描き足してくれれば服も現れるはずです」

 俺はまったくもって理解不能な発言だと思った。

「つまり、とにかく、絵を描いてほしいってことか?」

「そうです、お父さん。 でも、新しいのではダメです。必ずわたしが指定した絵に描き足してください」

「わかった。でも、そのお父さんって呼び方やめろよ」

「? どうしてですか?」

「気持ち悪い。まるで本当に俺が創ったみたいじゃないか」

「……昨日の話、信用してないんですか?」

「信用する方がどうかしてる」

「……そう、ですか」

「そんなマジな反応をされても」

「だって、それについては信用してもらわないと、わたし、困るんです」

「はいはい」

「本当です! だって……。  頭がどうかしてるなんて思わないでください!  じっさいに、服を描いて頂ければ信用してもらえるはずです!」

「わかった。とにかく、描くよ。夜な」

(3)

 そういうわけで、俺は裸の三次女子のじろじろとした目線が痛い部屋で、裸の二次女子に服を 着せるという異例の体験をしているわけだ。基本エロは描かないので、裸のイラストなんて限られていたし、 彼女が指定したイラストはすぐに見つかった。

 俺が、いちおうコピーをとって新しいもので作業しようとすると、彼女が口を挟んだ。

「まってください! コピーはしないでください。もうちょっと正確に言うと、 コピーするのは構いませんが必ず古いほうを編集してください」

「ふうん。つまりそのファイルがきみとリンクしていると主張したいわけ?」

「まさにその通りです」

「ばかばかしい」

「でも描いてみればわかると思います!」

「どうせ、言い訳も用意してあるんでしょ?」

「……そういう性格だからモテないんだと思いますよ」

 ウッ、と思ってしまった。ともあれなぜか絵を描きたい気分でもあるし、 差分を描くのも悪くはない気がした。お題としてちょうどいい。

 そこまで話すと、彼女はやっぱり裸を見られるのが恥ずかしいのか布団の中にもぐってしまった。

 そういうわけで、件のイラストに、まず線画を描き足し、それから色を塗ってゆく。 服の部分だけなら数時間もあれば終わりそうである。当然のごとくミニスカをはかせるのである。 集中している間は話したくないもので、じっさい話しかけもしなければ話しかけられもしなかった。 彼女は集中している人間がそれを乱されるのを嫌うのを理解しているらしい。

 1時間ほどそうしてから、「そういえばさ」と俺が話しかけた。

「まだ、名前知らないんだけど」

「名前……ですか」

「案外名前なんてなくても話せるみたいだけどね」

「2人だからでしょう。3人だと困ります」

「言いたくないの?」

「言いたくないです」

 俺はまたムカッとした。

「なら、俺も言わない」

「知りたくありません」

 さっきからなんなのだろう……。この女の態度は。

「じゃあ、不便だから、裸女とでも呼ぶ事にする」

 布団の中にもぐっている彼女が露骨にビクッとして布団がこすれあう音が深夜の部屋に響いた。

「それは困ります!」

「じゃあ、名前教えて」

「……」

「裸女、もうすぐで描き終わる」

「……もうすぐ、わたしが裸女ではなくなるわけですね」

「ファンタジーな予言だ」

 それからもう1時間ほどして俺は件のイラストに服を着せてあげた。 しばらくぶりにけっこう集中できた気がする。 ほどなくして、裸女が嬉しそうに声をあげた。

「きゃー! 可愛いですね」

 俺はPCをスリープモードにしつつ振り向いて目を引ん剝いた。 そこには、確かに俺が描いたイラストと同じ服を着た裸女が立っていたわけである。

「その格好、一体どうしたの……」

「どうしたって? あなたが描いたんじゃないですか、お父さん?」

「マジで」

「信じてもらえました?」

 俺は口をパクパクさせていた。

 どうやら、俺は本当に彼女の服を描いてしまったらしい。 もし仮に服を買いに行ったとしても、またあらかじめ用意していたとしても、 今まさに俺が描いたものと一致するものを用意できるはずがないし、論理的に考えて 用意するという可能性を排除される。

 待てよ。じゃあ、仮に本当に、彼女がイラストとリンクしていて、 描き足したから服を着たのだと仮定しようじゃないか。 もしそうだとすれば、レイヤーを削除したら服は消えないとおかしい。 そう思ってPCを起動し、イラストのレイヤーを消してみた。

 すると驚く事に、彼女の服が本当にパッと消えてしまったのだ。 それから、驚いて各所を手で隠し、怒りだす彼女。

「服を消さないでください!」

 俺も諸に見てしまったんで得意の童貞力を発揮して急いでレイヤースイッチした。 彼女も安堵のため息をつく。

 俺は試しに適当なネックレスを描き足してみた。すると 線をなぞるようにネックネスが彼女の首に巻かれてゆく。

「きゃあ! 可愛い」

 不思議な事だ。どうやら、俺はイラストを具現化する力を手に入れてしまったらしい。 いったいどういうことなのかわけがわからないが、とにかく、 この力を使えばいろいろと良からぬ事ができそうである。 レイヤーをオフにすれば彼女の服があっという間に消えてしまうのを実験で確かめた。 服を脱がせるのも思いのままだ!!

(4)

 人というのは、1度うまくできると覚えてしまった方法を、何度も繰り返すものである。 聞く所によれば猿でも学習するらしい。ここ1週間、俺はいろいろレイヤーを追加したり色を変えたりして 遊んでいた。

「どうしてこんな服を着せるんですか!?」

「露出の多い服はすばらしい」

「変な髪型にしないでください! 色は、ちょっと気に入っているけど……」

「変とはなんだ? それに、むしろ緑の髪を気に入るセンスはどうかと思う」

「腕輪はいいですけど、首輪は余計なアクセサリーです!」

「そんなことはない。非常によく似合っている」

「お父さんの趣味で変な格好をさせないでほしいです」

 その間、こんなやり取りが続いた。 俺はなぜか当然芽生えた自分自身の特殊能力に満足だった。まだ使い方がよくわからないところもあるが、 絵を描けばそれだけで彼女を自由にできるのだから、高揚せずにはいられない。 それに、彼女もまんざらではなさそうである。彼女が楽しそうにしている姿を見るのは よりいっそういたずらを加速させてしまった。

 しかし、数週間もすれば不審に思う事もあった。別のイラストを描いても具現化しないわけである。 つまり、例の彼女のイラストだけが具現化するのである。試しに同じ絵を彼女のイラストにコピペすれば、 やはり具現化するが、そのファイル以外では、うんともすんとも言わないわけである。

 ある週末の夜、理由を彼女に問いつめた。思えば、最初にイラストに描き足せばよいと教えてくれたのも彼女だ。 なにか秘密を知っていると思ったのだ。そうすると、彼女は深刻そうに答えてくれた。

「……実はわたしはこの世界に放たれた天使の1人なのです。 あなたのイラストを借りてこの世に存在しています。 決してあなたの特殊能力で創られたわけではないのです」

「て、天使?」

「はい。わけあって事細かに話すわけにはいかないのですが、とにかく、 聖なる力がわたしとそのイラストを紐付けています。だからそのイラストだけが特別なのです。 たとえばそのイラストを削除したら、わたしも消えてしまいます」

 俺は矢継ぎ早に飛び出す彼女の突拍子もない発言に圧倒されていた。 天使だの聖なる力だの、まったく理解できない。 でも、あのような不思議現象には、それくらいしか説明できる根拠がありそうにないのも確かだと思った。

 彼女はひどく落ち込んで言った。

「いま、天界はとても荒れています。事情は察してください……」

 俺はその様子からだいたいのことは想像できる気がした。 きっと彼女の故郷は戦争かなにかみたいなことが起きていて、彼女は それが嫌になって俺のイラストに逃げ込んだんだ。

「可哀想に」

「本当はこんなに遊んでばかりいるのはいけないんですけど」

「遊んでいるとは?」

「ここ数週間、あなたといろいろ一緒にしたことです。 とても楽しかったですし、あるいは……このまま一生、そうして過ごすのも悪くないと思っています」

 俺はちょっとドキッとした。なんというか、一生そうして過ごすって つまり告白みたいなものじゃないか。

「……その、天界とやらが本当に嫌で」

「嫌というわけでは……」

「ふむ。とにかくなにか事情があって」

「はい」

「でもさ、一生そうして過ごすってことは」

「……」

「結婚、というか、まあ、なんというか」

「それはありません」

「えっ」

「どうして結婚するまで話を飛躍させるんですか? 理解できません」

「ちょ、いやだってさ。ていうか、天界どうのだってそうとう飛躍していると思う」

「なにを言っているのか、脳が理解する事を拒否しています。これだから童貞はいけないと思うんですよ」

 俺はウッとなった。

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