本文書は以下の2つの内容からなります。
- Kinky Dungeonの紹介
- バステゲー論考
Kinky DungeonはブラウザでプレイできるフリーのRoguelike Gameです。表現内容は完全にNSFWで人を選ぶので注意してください。
表現内容を脇に置いても、手作り感満載のコテコテの海外製Roguelikeという感じなのでむちゃくちゃ人を選ぶと思います。この文書はその部分の取っつきづらさを解消することを目的としています。
本ゲームはSPAとして実装されていて、Webブラウザでそのまま遊べます。ゲームの進行状況はブラウザ内 (localStorage) に保存されるので、ユーザー登録のような手続きが不要な反面、セーブデータの紛失には注意が必要です。
ゲームが進行すると(おそらくリアルタイムで)状態が保存されますが、ゲーム上でコード (いわゆる秘密の呪文) が開示されるタイミングは限られます。具体的には各階をクリアしたときにコードが表示されるので、これをメモしておくことでセーブを移行したり途中からやり直したりできます。
ゲームの始め方は大きく分けて以下の3種類です。
- 最初から
- 途中から (ブラウザ内に保存された状態から)
- コードを入力
一般的なRoguelikeと違い、ゲームオーバーはなく単に詰み状態になることでゲームが終了します。「これは詰んだな」と思ったタイミング (jailされたときとか) でメニューから終了するのがよいでしょう。ちなみに諦めるボタンは「セーブデータを削除」という名前になっています。Roguelikeなので。
まあRoguelikeなので、1つのセーブデータを後生大事に取っておくというよりは毎回フレッシュな気持ちで始めるのが良いのではないでしょうか。なので、とりあえず設定とかは後で見直すことにしてまずはStart New Gameを押してみましょう!
現時点では日本語訳はなさそうです。さすがにそれなりの英語力がないときついかも。フレーバー表現も多いので、君はわからないなりに雰囲気でプレイしてもいいし、辞書を片手にプレイしてもいい。
UIは手作り感が強く、正直わかりにくいです。
まず画面遷移が体系化されていないので、モーダルからメイン画面に戻る方法がモーダルの種類によってまちまちだったりします。だいたい以下のパターンがあります:
- Leaveという選択肢を押す
- 画面外をクリックする
- Go back to the game みたいなボタンを押す
- フレーバーで変な名前になっているやつもいるので超ややこしい
何がclickableなのかがわかりづらいです。動作もそこそこ重いので押せたのか自信がないときが結構あります。
というかそもそもマウスが必須です。クリックやhoverをしないとできない操作があるのでキーボードやタッチパネルだけでは無理です。逆にマウスさえあれば一応操作はできる。
ゲームを始めるとロビーに入ります。ロビーからはダンジョンを選ぶことができます。ここではまず移動, 選択, ステイができる必要があります。
- 移動
- マウスの場合: 移動先をクリックする。
- キーボードの場合
- W, A, S, D で上左下右移動
- Q, E, Z, C で斜め移動
- 選択: 移動と同じ。指定したマスに何かがある場合は選択になる。
- ステイ
- マウスの場合: 自分のいるマスをクリックする。
- キーボードの場合: X
- XとS逆じゃね? と思わなくもないけど、業界標準のWASDを維持しようとするとそうなるんだろう……
幽霊に話しかけると各ダンジョンの説明があるので、チュートリアルダンジョンに入りましょう。ダンジョンに入るには階段の上に移動してステイです。
このゲームで何ができるのか、何をしなければならないのかを幽霊が教えてくれます。が、なんか画面に関する説明が最新じゃない箇所がある気がする……
まあ死んでもNew Gameしてやり直せばいいだけなので、雰囲気でいろいろ触ってみましょう!
雰囲気でプレイして少しずつ覚えていこう!
雰囲気でプレイして少しずつ覚えていこう!
まあ、詰むためのゲームなので……
さて、Kinky Dungeonはいわゆる「バステゲー」としての魅力が非常に強い作品です。そこでバステゲーについて説明しながら、いかにKinky Dungeonが優れたゲームであるかを説明したいと思います。
「バステ」とはBad Stateのことで、キャラクターの能力値を低下させる属性のことです。デバフともいいます。
しかし「バステゲー」と言われるときはより特定のニュアンスがありそうです。具体的にはバステゲーというのは以下のようなロールプレイをするためのゲームです。 (本稿ではこの定義でいきます)
- 本来は強いはずのプレイヤーが
- 能力低下など不利な状況に追いこまれ
- 全力で戦ったのに
- 負けてしまう
この「全力で戦ったのに」というのがポイントです。この界隈では自爆ボタンがあるゲームも多いですが(それ自体はもちろんユーザーフレンドリーで良いことです)、それだけでは不十分なわけです。自爆ボタンを押したら負け、というわけですね (ダブルミーニング)。
別の言い方をすれば、セルフシチュエーションSMプレイが求められているわけです。
このようなシチュエーションには一定の人気があり、小説や漫画などの非インタラクティブな媒体でも多数の作品が存在します。ヒロピン (ヒロインピンチ) という概念とも重複がありますね。
しかし、この「全力で戦ったのに」という部分を実感を持って体験するには、小説や漫画では物足りない…… という、要求水準を上げてしまった可哀そうな人というのも存在します。なぜならば小説や漫画でとった選択肢にはプレイヤーの入力が介在しないからです。
「プレイヤーは最善の努力を行った。それでも負けてしまった。悔しい!」という体験をともなったナラティブが必要なのです。NTRでしか興奮できなくなってしまった人と近いものがちょっとありそうですね。
以上のようにバステゲーでは「プレイヤーは最善の努力を行ったが、負けてしまう」という体験が必要です。では単に難易度を上げればいいのでしょうか?
まあ実はこれの答えはYesで、ストーリーがBad End1本だけの短編とかではこれもありです。
ただ、それなりに規模を大きくしていくとそれではゲームとして成立しなくなってしまいます。長くゲームを続けるには結局普通のゲームと同じように報酬が必要で、それはプレイヤーに与えられる自由度ということになります。ふつう自由度が与えられればプレイヤーは自分の意思で強くなることができてしまいます。それでは「最善努力での敗北」に反してしまいます。
また、プレイヤーも一枚岩ではなく、自分なりに好きにシチュエーションをカスタマイズしたいという要求はどうしても出てきます。わがままですね。
何にせよ、このようにバステゲーは「ゲームに求められる自由度」と「シチュエーションに求められる不自由」の両立を迫られることになります。
このジレンマをなんとか誤魔化すには、基本的にはプレイヤーの二面性をそのまま受け入れるしかありません。つまり、「シチュエーションを自由に設定するプレイヤー」と「設定されたシチュエーションの中で苦しみに耐えるプレイヤー」を分けるのです。この分離を支援するためにゲームという自動化システムが役に立つ、という言い方もできます。
これを実現する方法のひとつは、ゲームを「ルール設定ステップ」と「ルール実践ステップ」の2段階に明確に分けるものです。
たとえば、ホームではバステを着脱できるが、ダンジョン内ではバステを解除できない、というルールにします。
プレイヤーは自身でもこのジレンマを理解しているので、このシステムに自身の二面性を反映してプレイしてくれます。
たとえば「クオルタ・アメテュスEG」では全てのバステが解除可能であるという(ある意味ではこのジャンルでは思い切った)設計になっていますが、そのバステの解除はホームでしかできないようになっています。
バステではない例だと「リングフィットアドベンチャー」にも似たような構造が見られますね。RFAでは選択したスキルセットは戦闘中には変更できず、一度選択した技は運動を完了するまでキャンセルできませんが、これも運動の必要性を理解している自分といざスクワットをしようとするとつらいので止めたくなる自分との戦いをサポートするものだと理解できます。
もう一つの方法は、「少しだけ好奇心で気まぐれな動作をする自分」を許すというものです。プレイヤーも自身が矛盾した願望を抱えていることは理解しているので、そういう妥協も必要であれば行ってくれます。
大事なのは、その気まぐれによって(ある意味ではプレイヤーが望んだ通りに)ピンチな状況に陥るということです。
この状況設定を実現する最適な方法は、ゲームの状態空間/力学系に2つの安定状態、つまり「安全状態」と「ピンチな状態」を用意することです。いわば活性化エネルギーを与えることで安全状態からピンチな状態に遷移するようにするわけです。
このような状態遷移を実現するにはゲームシステムが3つの特性を持っている必要があります。
- 「安全状態」では、「安全状態」を維持するためにギリギリ十分なリソースがある。
- 「安全状態」を維持するためのリソースが不足すると、プレイヤーを取り巻く状況を悪化させる正帰還フィードバックに突入する。
- 「安全状態」から「ピンチな状態」への急速な状態遷移が終わると、今度は状況を維持しプレイヤーが悪い状況を楽しむ時間を与えるための負帰還フィードバックに突入し、状態が安定する。
一般的に1と2はプレイヤーの行動の選択肢や行動回数が中心的なパラメーターになることが多いです。
- プレイヤーが十分に行動できる → バステが防がれる
- バステが防がれる → プレイヤーが十分に行動できる
という正帰還フィードバックが通常見られます。もちろん正帰還フィードバックを止めるものがなければ、プレイヤーを取り巻く状況はどんどん改善してしまうため何らかのキャップを設けることになります。これはたとえば「バステの個数がマイナスになることはない」など自然な方法で実現できます。
1から2への移行は、この正帰還フィードバックが裏返ることで発生します。
では3の負帰還フィードバックはどうでしょうか? これはなるべくプレイヤーから隠す必要があります。一般的にはプレイヤーキャラが最も悪い状態になると、敵キャラも行動を停止するというのが考えられます。バステゲーだとよくあるのが賢者タイムシステムですね。広い意味ではいわゆる「無敵時間システム」もこれに近いかもしれません。
ピンチの正帰還フィードバックを実現するのに空間的な表現は必須ではありません。たとえば「世界の卵~夢幻のリーリウム~」では空間性のあるマップを排していますが、バステゲーとしての性質をある程度満たしています。
とはいえ、空間的な方法でピンチを演出できれば、ユーザーにとっての臨場感を高めることができるでしょう。これをRoguelikeで実現しているのがKinky Dungeonといえます。
Kinky Dungeonではたとえば細い道で一方向から来る敵を少しずつ倒しているときは比較的安全ですが、後ろから敵が回りこんでくると急に状況が悪化します。これはわかりやすい例ですが、細い道以外の地形でもそれぞれに安全な状況とピンチな状況の境目に来るタイミングがあり、これがゲームとしてもシチュエーションとしても面白さを増やしているのではないでしょうか。
理想のバステゲーを目指して日々邁進している作者の方々に感謝
まほルナも遊ばねば……