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@takuya-andou
Created June 19, 2016 14:34
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あきつ湧き宙にとどまる地獄谷
いつきに夏ふと人間が宙にあり
かいつぶり硝子の沓を宙に見す
かはらけの宙とんでゆく二月かな
からくりの唐子宙飛ぶ飛騨の春
かるがるとおんぶばつたの宙をとぶ
かるた取り紫式部宙に舞ふ
くろぐろと富士は宙吊り冬霞
こたへなき雪山宙に労働歌
こと切れしごとく枯蔓宙吊りに
この少女宙の荒野より来りしか
さしのべし手と綿虫と宙にあり
すいと来て宙にとどまる赤とんぼ
そら耳に千鳥を宙にやり過ごす
そら耳に千鳥を宙にやり過す
それぞれにうかぶ宙ありチューリップ
だんご虫転けて宙掻く脚清ら
つらなりて雪嶽宙をゆめみしむ
とぶ鰡の宙にとどまる胴太し
とゞまりて牡丹の虻の宙にあり
どうしても悲しく吹けぬ瓢の宙
ぬきんでて宙の淋しき今年竹
はたはたの宙に脚垂れ遠ざかる
ひと焔宙にとどまる畦火かな
ふらここの宙を二つに割り遊ぶ
もつれては宙に遊べる雪の翳
よく晴れて寒禽宙にわかれけり
コスモスの浮遊が守る宙の色
ゴンドラの宙に踏み出す青山河
ゴンドラ行く雪降る宙は雪に満ち
サーカスの少年の汗宙に跳ぶ
ジパングの宙に絶筆書かれたり
ジヨツキ宙に合する音をーにせり
バンドネオンに翼枯木の宙を舞ふ
一つ火の宙に座れる寒さかな
一樹無く葭簀を張りし庭の宙
三椏の蕾々の宙にあり
二人して宙に淡雪産み散らす
交み椋鳥宙で分れて雪ぐもり
人恋ふる刻を鰈の宙にあり
仏壇の宙に生きもの春の塵
仔猫等に宙ひびかせて颱風来る
仰ぎ見る宙青かりき蝉の死に
低く来て宙に糞する秋の鳶
傀儡の宙を駆けゆく恋路かな
冬の蝿宙にとどまるとき見ゆる
冬日宙少女鼓隊に母となる日
冬日宙湧水八重にひらきけり
冬日宙見る見る孤児が煙草吸う
冷し馬鋼のごとく宙とばす
凍滝は巌にかかり宙に出づ
初蝶の宙にて風につきあたる
初蝶の宙へと昇る伽藍かな
剪定の宙に未来を描きつつ
勝鶏の宙をとびゆく土けむり
吊橋や百歩の宙の秋の風
向日葵のみひらく宙の渇きかな
吾亦紅宙に浮いたる思惟二三
吾子よ宙のつばめの胴を掴めるか
咲く常山木宙をすぎ去る風みゆる
囀りの森より宙へ観覧軍
囮鮎もろとも宙に光り跳ね
土用芽や宙にとどまる微塵光
地の深雪宙の二階の白根澄む
夏空といふ宙りすの尾のそよぎ
夏草や宙に我が顔淡く見ゆ
夏雲やいるか光りて宙に飛ぶ
夜釣糸宙を手探りしてさがす
大やんま宙にうかがふ陰開墓
大年の宙つたひ来る海の音
大綿の宙のたしかさ石の上
大花火水だけ宙にゆれるとき
大魔術宙に人浮き年の暮
学校に声満ち雪は宙に充ち
安土城址を宙に無言の毛見の衆
宙くらしぎしぎしばかり吹かれゐて
宙でまた会えばや虻の俯かむ
宙という美しきもの雪舞えり
宙にのみありて華麗なる雪片
宙に一瞬水の塊楸邨忌
宙に一線か垂れる錯覚一ぴきの雪虫にして
宙に在る老人とそのかたつむり
宙に垂れ没日と秋の蜂の脚
宙に日を十一月の楢櫟
宙に混む紅梅の炎や年の暮
宙に見えぬものつたひとぶ寒雀
宙に足上げて堰越ゆ茄子の馬
宙に逢ふ双の螢火のほか見えず
宙に鍬ひかる耕しの深からむ
宙に飛びとゞまりて蜂蜂を待つ
宙の木の鳥に名を告ぐ冬景色
宙の虻しづかに脚を擦りにけり
宙をふむ人や青田の水車
宙をゆく父の鉄鉢雪降れり
宙を舞ふ竹の落葉も旅愁かな
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し
宙を飛ぶ枯葉よ麦は萌え出でて
宙を飛ぶ長靴を買ふクリスマス
宙吊りにわが手袋と鵠と
宙吊りのききと乾けり唐辛子
宙吊りの愛在り海へ降る黄砂
宙吊りの豚はももいろ十三夜
宙吊りの飾羽子板飾凧
宙跳んで白息揃ふ稚児の舞
宙飛んで晩夏かゞやく山すゞめ
富士雪解水車しぶきを宙にあげ
寒き夕映え被爆ドームを宙にして
寒き宙支へ阿修羅の肘直角
寒垢離の合掌を解き宙掴み
寒明けの宙妖精の降りてくる
寒月や牛市のこゑまだ宙に
寒木の宙かすむ日の紙芝居
寒桜淡きいのちを宙に揺る
寒満月山脈低み宙に浮く
寒猫の宙よりこゑを落しけり
寝部屋もろとも野分の宙に浮く
尺蠖ののぼりつめたる宙ばかり
屋根替の竹を大きく宙に振り
山梔子にいりあひの宙闢くなり
岬の濤のけぞる宙の凍てにけり
帰燕の宙へ農夫が梯子突き出せり
幻覚の寒き白き手宙に伸ぶ
幾度びも宙に乗り出し霧のバス
幾砂丘かぎろふ宙を越え行くや
広島忌蔓あるものは宙に伸ぶ
悴むや拳固宙までおろしけり
投縄のごとくに宙にぬかご蔓
抽んでて宙にとどまる蓮の花
指さして破る宙あり甘茶仏
揚ひばり海へ一瞬宙つかむ
揚羽蝶ひらかなのごと宙舞へり
撒く水の一瞬宙に麦の曇り
散る花の宙にしばしの行方かな
日あたりて綿虫の宙杉の宙
日は宙にしづかなものに茗荷の子
日は宙に春の天壇ねむるさま
日も月も宙にただよひ熊野灘
日月は宙を向きたる顔ばかり
春の夕光ただよう宙へ生まれし声
春の川宙にもにじみゐるごとし
春もやや光りのよどむ宙のさま
月光は凍りて宙に停れる
月明の宙に出で行き遊びけり
朝霧のひようと高巻き日は宙に
木枯や寝て聴く汽車は宙をゆき
朴ひらき宙におくつきあるごとし
枇杷すすりをはりし双手宙にせる
枇杷を剥く指から宙は始まりぬ
枝伸べて桜は水の宙に在り
枯れあけび宙にもつれて炎の形
枯野の中独楽宙とんで掌に戻る
栗駒の雪宙に浮き苗揃ふ
桃の宙とぎれとぎれに山浮かみ
桃咲くや姥捨て山は宙に浮き
梅固し日輪宙に白く錆び
梅雨の部屋蝿みな宙をとべりけり
梓弓弦月宙を寒うせり
棚経僧の青頭が宙にひかり過ぐ
椋鳥のしばらく宙に畦青む
水上に宙たつぷりとつばくらめ
水槽のえび宙を掻く虹生れむ
水鳥の夢宙にある月明り
洋の宙鳥を渡せば無に帰る
流氷のうちあふこだま宙に消え
海猫の空くらき夏日が宙吊りに
涛声に菊花壇の日宙をめぐる
渓谷に蹤き来て猿と宙
満月の宙やきらめく春の霜
滝ではない!と樹に宙吊りの魚叫ぶ
滝凍てて日輪宙にくるめける
滝風に言葉は宙へとびにけり
濤声に菊花壇の日宙をめぐる
灼くる宙に眼ひらき麒麟孤独なり
灼くる正午索道宙にいこひをり
炎天の山河を蔽ふ宙の濤
炭俵火となる焔宙に鳴る
点滴筒斑雪浅間の宙に吊り
熊蜂宙に飛びとどまれり海の壁
燕の子宙六尺を泳ぎつく
父の座に母がすわりて負真綿
牛の尾の宙を払へば雲の峰
牡丹焚く宙にちちははみんなゐて
牡丹焚く宙に青衣の女人の手
牡丹雪操車場宙にせり上ぐる
猫とんで宙にとどまる雪解風
獏の檻綿虫宙に遊びをり
獣屠り黙し去るまで宙とぶ蝉
玄き諸仏春禽宙に愛しあふ
田螺鳴くルオーの日いま宙にあり
甲斐駒にくれいろひくく宙の凍て
白木蓮の滾りて銀の宙にあり
白牡丹散る一瞬の熱き宙
白露の日神父の裳裾宙に泛き
百段の宙より芙美子日傘振る
目つむれば宙に浮く吾日向ぼこ
目を宙に標本擬ひの大蜥蜴
眼を凝らす宙のつめたさ昼半月
石工あり玄翁宙に風冴ゆる
石舞台に宙より流る円舞曲
祝婚歌花散る宙の明るさに
秋の風富士の全貌宙にあり
秋山に遊ぶや宙を運ばれて
秋燕や宙に枝あるガラス吹
秋蝶のはげしく宙に三つ巴
稲束を投げし宙より跳ぶ蝗
立つ僧の綿虫を宙釈名す
立冬の大葉一枚宙よりして
竿灯は大きく宙を一泳ぎ
節の豆宙に童の眼もをどる
糸とんぼ宙にして石進むなり
紅花や山の入日の宙吊りに
絵馬の馬宙にとどまる初詣
綿虫が飛ぶ石の宙竜安寺
綿虫の死しても宙にかがやくや
綿虫を宙にてとどむ祈りのこゑ
縦吊りの鉄骨の宙花曇り
縹渺と宙を支うるたなごころ
羽ばたきて一尺宙に羽抜鶏
老いぬれば股間も宙や秋の暮
臘梅や僧来て宙をかきまはす
自転車を漕ぐ寒星の宙の中
舞初の眼ざし宙を宙を追ふ
芒野の宙や今日のみ女富士
芦を焼くけむり日輪宙吊りに
花くわりん宙を伝ひて日のあゆむ
花宙に散るや生涯不覚なり
草宙にこゞめるひとの影法師
菊人形蹴鞠の麹が宙吊りに
菜殻火に轅は昏るゝ宙を指す
落葉の群れ宙に追ひぬく雨一粒
葉ざくらや宙に翅澄む虻いくつ
葉桜や一宙劃る仏の手
蓑虫や宙明るすぎ土暗すぎ
虻ついと宙の凹みに落ちにけり
虻の宙光背のごと翅のひびき
虻の眼の爛々として宙にあり
虻宙にとどまり牡丹句碑生まる
虻宙にとどまるときの羽音かな
虻翔けて静臥の宙を切りまくる
蚊を撲つに眼を宙に漂よはせ
蜂のとびゆく塩田の宙鹹し
蜂の王宙にとどまるかにみえて
蜘蛛の子のとどまる宙の明けてゐし
蜻蛉の宙にあるとき翅のなく
螢火の明滅宙にひとつきり
蟇楸邨宙に還りけり
蟹と居て宙に切れたる虹仰ぐ
行く雁の啼くとき宙の感ぜられ
裂けた木に僧侶と鮒が宙吊りに
誰も知らぬ老婆の駈け足枯木の宙
谺して宙真空の秋の井戸
象の鼻宙に秋陽を求めたり
赤とんぼキヤッチボールの宙を縫ふ
赤とんぼ宙にして石進むなり
足場は宙にのびて焚火の余燼冷ゆ
跳炭火の粉宙になほ跳ね愛つらぬけ
身を宙に放り出されし花火かな
轟然と山枯れ宙に日は漂ふ
返り花/宙に/帰り花/棺に
逃水の消えたる宙にルドンの目
連翹といふ一宇宙ありにけり
鈎呑んで宙に躍りし子持鯊
鉄線花垣上り切り宙に咲く
闘鶏のばつさばつさと宙鳴れり
闘鶏の血しぶきの宙くもれりき
雨蛙明恵坐禅の宙に鳴く
雨蛙黒き仏の宙に鳴く
雪すべてやみて宙より一二片
雪はげし生まるる言葉宙に消え
雪ばんば消ゆるさびしさ宙にせる
雪壁の崩れんばかり日は宙に
雪山を宙にひくめて年新た
雪崩止め宙にかかげて座禅草
雪解谷顔なき仏宙に湧き
雲のぼる六月宙の深山蝉
雲は飛び宙に皆跳ね袋掛
雷鳴や山川草木宙より来
霜ふみてしづまる心宙を見る
霧襖ゴンドラ宙へ突き出さる
露けしや撞木の縄の宙とんで
青梅雨の宙にただよふ朴の花
鞦韆の宙の空白薄着して
韋駄天に日輪はなほ雪の宙
顔見世の白狐吊られて宙にあり
風冴えて宙にまぎるる白梅花
餅花のなだれんとして宙にあり
魂を宙にとどめし昼寝かな
鰯雲や船より牛を宙吊りに
鰺刺の宙にある身を一擲す
鴉騒げば宙まじりくる石の国
鴨あはれ宙青ければ鳴き乱れ
鵙の贄四肢を広げて宙に居り
麦踏みは夕陽の宙をゆくごとし
黄落の宙に欅の力瘤
黒揚羽宙より降れる晋山式
鼻尖り杳かな宙を梅匂う
いつの日の山とも知れず夏大空
かたちなき大空を享け寒行者
きら星の除夜の大空ありにけり
げんげんに寝て大空の声を聞く
こんな好い月を一人で見て寝る
たんぽぽや日はいつまでも大空に
みな去れば冬大空のごときかな
もつれ上る蝶に大空どんよりと
下に立つ花の大空ある如く
亡き人の湯呑と春の大空と
入れ物はない両手でうける
初燕大空に見し月夜かな
北風や余燼の中の幾屍
卍なす大空なれば玉遊び
吹き晴れし大空のある蝶々かな
啖呵切るごとく大空霜晴れて
大地より大空広し霞網
大空と大地一つにして立夏
大空と大海の辺に冬籠る
大空にあらはれ来る柳絮かな
大空にうかめる如き玉椿
大空にうらゝが降ると仰ぎけり
大空にくらく雪降る別れかな
大空にしら梅をはりつけてゆく
大空にすがりたし木の芽さかんなる
大空にそむきて通草裂け初めぬ
大空につらなりわたる枯野かな
大空にものうき虻の舞ひ隠る
大空にわが生涯の初比叡
大空にルビふるごとくいかのぼり
大空に万燈の燭花辛夷
大空に伸び傾ける冬木かな
大空に傾く栃の落葉かな
大空に又わき出でし小鳥かな
大空に唸れる虻を探しけり
大空に塵とゞめざる初音かな
大空に天女花ひかりたれ
大空に富士澄む罌粟の真夏かな
大空に富士澄む罌粟の真夏かな
大空に彫られし丘のつばきかな
大空に微塵かがやき松手入
大空に散骨の灰瓜育つ
大空に日はうすうすと枯茨
大空に春の雲地に春の草
大空に月ぶら下り雲凍てぬ
大空に月を放ちて夜なべ村
大空に牡丹かざして祭すむ
大空に田がひらめけり甘茶仏
大空に突き上げゆがむ日蔽かな
大空に罅走らせて枯欅
大空に羽子の白妙とどまれり
大空に舞ひ別れたる鶴もあり
大空に草矢はなちて恋もなし
大空に草矢放ちて恋もなし
大空に落花の時空ありにけり
大空に見えて落ち来る木の実かな
大空に跳ねて降る葉や松手入
大空に蹴あげて高し鞠始
大空に長き能登ありお花畑
大空に雲を敷き詰め涅槃の日
大空に顔の出てゐて松手入
大空に風すこしあるうめもどき
大空に飛び据る虻の光りかな
大空に飛石の如冬の雲
大空のあくなく晴れし師走かな
大空のあけつぴろげの野菊かな
大空のあるばかりなり桑を摘む
大空のうつろ踏みゆく墓参かな
大空のきはみと合ひし花野かな
大空のしぐれ匂ふや百舌鳥の贄
大空のすこしを使ひ囀れり
大空のつめたく昏るゝ花野かな
大空のどこかが欠けし流れ星
大空のました帽子かぶらず
大空のまんなかを鳥渡りけり
大空のもとの祭典犬ふぐり
大空の一枚白く凍てにけり
大空の一角にして白き部屋よ
大空の下あるき来て花御堂
大空の凧に風ある茅花かな
大空の動く一劃渡り鳥
大空の吹かれてゐるや青あらし
大空の少し低きにある冬日
大空の春さりにけり椰子の花
大空の春は立てども陰りけり
大空の月の歩みのやや斜め
大空の波にのりけり鯉幟
大空の淋しき国へ凧
大空の深きに落葉舞ひ上る
大空の清艶にして流れ星
大空の片隅にある冬日かな
大空の穴がさくらの蘂のぞく
大空の端は使はず揚雲雀
大空の美しきとき鳥渡る
大空の羽子赤く又青くまた
大空の蒼さを羽摶ち鶴来たる
大空の藍ふりそそぐ二月富士
大空の見事に暮る暑哉
大空の鏡に老いて牡丹散る
大空の雲はちぎれて秋祭
大空の青艶にして流れ星
大空の静かさ移る蜻蛉かな
大空の風きゝすます火燵かな
大空の風をはらみて銀杏散る
大空の風を裂きゐる冬木あり
大空はまなこひらきぬさみどりを噴き上げてくるはるのやなぎに
大空は四隅もなくて時鳥
大空は廃ひたる眼や花吹雪
大空は微笑みてあり草矢放つ
大空は紺青に枇杷は鈴をなす
大空は虚しと眺む浮人形
大空は虹してすてし蜆殻
大空は雲のまんだら千草咲く
大空へうすれひろがる落花かな
大空へつづく島畑鳥帰る
大空へ呼ばれしやうに草の絮
大空へ山を吹きこすしぐれ哉
大空へ帽投げて果つ大試験
大空へ手話の宣誓草青む
大空へ海動く飛魚がとぶ
大空へ鳩らんまんと風車
大空も形見と見えず梅の花
大空も見えず若葉の奥深し
大空やさくらの梢に日が一つ
大空やどこから春の痩せてゆく
大空やひとり更け行く高灯籠
大空や去年骨折れた色もなし
大空や朝の月吹く青嵐
大空や渡り行く鳥布の如し
大空や相よらんとす凧二つ
大空や霞の中の鯨波の声
大空をあふちて桐の一葉かな
大空をたゞ見てをりぬ檻の鷲
大空を亀這ひゆきて師走なる
大空を使ひきらむと荒神輿
大空を動かしてゐる鰯雲
大空を急ぐ音あり犬ふぐり
大空を白いふうせん目借時
大空を稲妻にして夜を在りき
大空を見てゐて風邪を引きにけり
孑孑や大空を覗くかはる~
山山と大空と居て鳥屋師老中
山火事の北国の大空
幟はたはた大空ににほひやはある
懐手大空に解き大欠伸
打ちやめて大空ひろき砧かな
指箒大空おびただしき葉あり
揚雲雀大空に壁幻想す
敵機来し大空持てる八重桜
日傘行くや大空の光あつむべし
月いよいよ大空わたる焼野かな
月出づと大空の星ゐならびて
月君臨すわが誕生の大空に
朝の蚊のまことしやかに大空へ
朴咲くや大空青を全開す
板じきに夕餉の両膝をそろへる
枯蔓の大空よりぞさがりたる
桐の花富士と大空頒ちけり
梅に下りゐし大空夜の痕もなし
梅雨の蝶草むらを出て大空へ
横たはる枯草堤大空に
永き日の大空をうつ旗の音
火事煙凧の大空よごしけり
父の日の朝の大空匂ひけり
牛は生涯大空を見ず空つ風
癒ゆる日のために見ておく夏大空
白木蓮の蕾大空押し上げて
耕人に大空のあり鳶の輪
肉が瘠せて来る太い骨である
脱穀の大空にある高笑ひ
船の上に揺るる大空五月ならむ
芦と鷺とに干拓の大空間
若竹に青き大空ありにけり
草に東風大空に雲動かぬ日
菊畠や大空へ菊の気騰る
落葉松の朝の大空露けしや
蒲公英や日はいつまでも大空に
蓑虫の下から大空ひろがれり
蛙つぶやく輪塔大空放哉居士
蜘蛛消えて只大空の相模灘
連翹に大空の日の漲れり
野を焼いて大空の端汚したる
雁帰る大空濁り放しかな
雪雫きらめきてはちきるる大空
青い土筆いま大空は力抜く
青とうきびわが寝てみるは大空なり
飛騨のかた大空秋となり
鰯雲ずれ大空の誤植なす
鳥渡る大空や杖ふり歩く
鶴の来るために大空あけてまつ
晴れわたるおおぞら秋の忍び足
穹を出入りす白鳥の股関節
虚空を引きとゞめばや鳳巾
声でわかる鶲の機嫌空模様
花苔に吾を焚く日の空模様
空模様読みつつ発たせ戎駕
空模様あやふやにして皐月咲く
もちこたふべったら市の空模様
まひまひに霽れかゝりたる空模様
河豚鍋や落ち着いてきし空模様
夫婦して万歳の顔かなしけれ
子燕に蒼穹遥か活火山
山桜背に蒼穹を負ひにけり
極楽が見ゆと蝙蝠乱舞せり
蒼穹にまなこつかれて鋲打てる
蒼穹に心触れつつすだれ吊る
蒼穹に日はうちふるへ樹氷満つ
蒼穹に虹熟睡のダリの髭
蒼穹に雪崩れし谿のなほひゞく
蒼穹へ放つ一の箭熊祭
蒼穹を天井にして御柱祭
解く帯の足にまつはり花疲
起重機の旋回我も蒼穹もなく
起重機の豪音蒼穹をくづすべく
超過時間に入った天竺の蒼穹
雪崩あぐ蒼穹に雲ひるがへり
鳴子引く蒼穹を引き緊めむため
鴨引いてより蒼穹となりにけり
凍蝶や月天涯を照らしつつ
大根焚食べて五体の暖まる
天涯にマナスル淡き蕎麦を刈る
天涯に火色の雲や草の花
天涯に紛るゝことなく落花舞ふ
天涯に雲の扉ひらく朴の花
天涯に雲屯せり岩ひばり
天涯に青嶺むらがり牡丹園
天涯に風吹いてをりをみなへし
天涯のバッファローより霾れり
天涯の島畠に人花蜜柑
天涯の碧さ野菊と吾れに透く
天涯の船上昼の月を見つ
天涯の藤ひらきおり微妙音
天涯へ梅の蕊張る気息かな
天涯やゆうがおも咲く深き襞
天涯や夏を寒しと翔ぶ羽毛
天涯や女に陰の毛を与へ
太ズボンゆく天涯を鹿のこえ
引鶴として天涯の瑠璃に帰す
炎晝のゆけどとどかぬ天涯見ゆ
睡蓮の花喰めば天涯見ゆるべし
菜殻燃え水城天涯星くらし
薄着してゆく天涯の梅の花
鳳蝶天涯に来てただよへり
雪山に成層圏の蒼さ墜つ
大歳の日が没る成層圏飛行
あぢさゐの色をあつめて虚空とす
かまきりの虚空をにらむ残暑かな
この黴の書をふところに学びたる
さくら咲く峡は虚空といふ日向
さながらに柳絮吹雪の虚空かな
じんじんと耳蝉が鳴く虚空かな
たんだもの虚空もないがこくうある
つる草はほろびのはてにあかあかと虚空に一つ実を育てたり
とんぼうの薄羽ならしし虚空かな
ぬきんでて虚空さみしき今年竹
ひとひらは虚空へ散りぬ白牡丹
ふりむけば虚空がありておけら鳴く
めつむれば虚空を黒き馬をどる
もの探す形虚空の秋蚕あり
やまぼうし花もて領す一虚空
よるべなき声は虚空に響かへり
われとわが虚空に堕ちし朝寝かな
コスモスの花あそびをる虚空かな
マッチの火虚空に飛びし夜釣かな
ラグビーのぶつかつてゐる虚空かな
一個の岩に母来てすわる虚空かな
一月虚空少年団とその他隼
一枝の走りし寒の虚空かな
一葉してまのあたりなる虚空かな
二月果つ虚空に鳩の銀の渦
五月の蝶消えたる虚空修司の忌
亡き父が来る白梅の虚空蔵
仏掌の上の虚空や秋麗ら
元日の膝上膝下虚空なり
冬そうび虚空を統べて気韻さへ
冬山の終の日消えし虚空かな
冬浪の銀扇の飛ぶ虚空かな
冬眠のものの夢凝る虚空かな
冬蝶を鈴のみちびく虚空かな
凍つる夜を羽摶くものゝある虚空
凍みに凍む虚空蔵さんのどぜう髯
凍蝶のきりきりのぼる虚空かな
凩夜を荒れて虚空火を見る浅間山
切株に虚空さまよふ枯尾花
十夜粥押頂いて熱からず
吊られたる虚空の下は青嵐
吾をのせて菜殻火飛べる虚空かな
噴水の虚空をついてこぼれけり
噴烟の波動虚空に凍て透る
地虫なくさみだれ水の虚空にて
墓洗ふ虚空を洗ふごとくなり
夕鶴の虚空つかめる寒さかな
大仏殿蝿一匹の虚空かな
大綿の消えて消えざる虚空かな
大蜘蛛の虚空を渡る木の間かな
実南天眉間につけて虚空を忌む
客観写生の鷹となり来る虚空の点
寒紅の去りし鏡の虚空かな
寒聲は虚空の月にひゞきけり
寒雷の鳴り終りたる虚空かな
寒鮒を堕して鳶の笛虚空
尾をひいて芋の露飛ぶ虚空かな
山国の虚空日わたる冬至かな
嶺のあやめ折るや虚空に色流る
廃車積み虚空や秋の深かりし
思念老ゆ五月虚空の歩みまた
抱きこめば女体虚空の匂いのみ
振向けば花野の虚空背後にも
掘つてある梅に傾く虚空かな
放哉忌竹の病む葉を虚空より
早介が虚空をつかむ螢かな
春寒く虚空に燃やす化学の火
春来り虚空に向ふ合掌は
春眠の虚空に体置き忘れ
智恵詣鼻緒が痛くなりにけり
朝の蜘蛛海の虚空をつかみをり
木枯や深山秀虚空鷲一羽
木登りの虚空の足の春日影
林泉の鴨寒の虚空にしばし舞ふ
枯木の手虚空の春をわし掴み
枯芝にねむり虚空に出てゆきぬ
椎の花虚空よりふる観世音
橙をうけとめてをる虚空かな
武者絵凧虚空を睨みつつ揚がる
死なざらむ虚空生たり梅花人
水引の花の消え入る虚空かな
波の華上がり切りたる虚空かな
波は手を虚空にあげて十三夜
涼風や虚空に満ちて松の声
深雪晴わが影あをき虚空より
滝白く落ちて虚空の夜となる
滴りのきらめき消ゆる虚空かな
火事跡に虚空を掴む一樹あり
熊野の虚空とうとうたらりおみなえし
狛犬にそびらの虚空のぞかるる
玉虫と気づく一瞬虚空なり
玉虫に虚空ひびかずなりにけり
白梅や天没地没虚空没
白障子あくれば虚空へ通ふらし
皐月来て虚空あかるき一湖村
盆過ぎや竹ざうざうと虚空より
真っ白な花の二つが触れ虚空
短日や一管噎ぶ虚空の曲
石橋の虚空獅子飛ぶ牡丹かな
石鹸玉割れし虚空を蝶が過ぐ
磔像や虚空に朴の実の焦げて
神送る鳥居の上の虚空かな
禅寺の澄みし虚空や紅葉狩
秋の風むかしは虚空声ありき
穀象を虚空蔵とききゐたりけり
空也忌の木を伐る虚空抜けにけり
空也忌の虚空を落葉ただよひぬ
空蝉の開きし背に虚空あり
籠枕ころがつている虚空かな
細枝をみそさざい翔ち虚空かな
綿虫や虚空掴みしたなごころ
羽子はたゞ突かるゝまゝの虚空かな
老松相愛するを見つ虚空没
脱糞のこころざし有り虚空われ
花の香や虚空にひろし東山
花散りしあとに虚空や曼珠沙華
花白き虚空すかして月あらぬ
茱萸をふふめば楢の虚空をバツハの曲
草なびく月も虚空に吹かれ出て
落下する先も虚空や那智の滝
落葉すやこの頃灯す虚空蔵
落葉焚き虚空蔵山をまなかひに
薄氷の底はながれて虚空なり
藪風に蝶ただよへる虚空かな
虎に虎入りて虚空のしづけさよ
虚空を引きとゞめばや鳳巾
虚空あるばかり晩夏の都府楼址
虚空にてかすかに鳴りし鷹の腹
虚空にて凍死の者のむさし出身
虚空にて生くる目ひらき揚雲雀
虚空にて虚空のうごく芙蓉かな
虚空にて見えざる鞭が柘榴打つ
虚空にて雲雀の羽根は四つに見ゆ
虚空には日の流れをり黐の花
虚空の穴いつみえそめし白粉花
虚空めぐる土一塊や竹の秋
虚空より定家葛の花かをる
虚空より無が動きだし虹となる
虚空より落ちて虚空へひびく滝
虚空より虫下がり来し花菖蒲
虚空より遊糸到れり漆の木
虚空を引とゞめばや鳳巾
虚空ノ宴へ捧グル角ハ枯樹ノ如シ
虚空会の説法蝉のこゑ借りて
虚空蔵の塔を見飽かぬ端居かな
虚空蔵菩薩雪掻く音の中
虚空蔵足裏に春の潮満つ
虚空蹴る足の力や蝗串
虫籠をさげし虚空のかたむける
蛇交み終るまで虚空静か
蝶々に額いちまいの虚空かな
蟇のゐて蚊を吸寄する虚空かな
蠅むれて虚空に飛ぶや馬の市
贄裂いて百舌鳥は虚空に去りにけり
身のうちの虚空に懸かる旱星
通し鴨ときに虚空を見つづけぬ
野分雲透きし虚空をわが覗きぬ
野分雲透ける虚空を君よ見るな
金屏の金ンを放てる虚空かな
鈴鴨の虚空に消ゆる日和哉
鐘供養すみし御寺に追寄進
門内の虚空を煽る芭蕉かな
闇冴えて虚空に聴きし濤の音
降り鶴の脚さしたらす虚空かな
雪の譜とたましひの灯は虚空行く
雪折の枝の飛びゆく虚空かな
雪霏々と冥き虚空に曼陀羅見ゆ
霜柱虚空べしべし音の立つ
青が尾を曳きて草矢の虚空かな
青きを踏む虚空の水の惑星の
青嵐吹きすぼまりし虚空かな
風涼し架上絶叫せし虚空
風音の虚空を渡る冬田かな
餅膨れつつ美しき虚空かな
鶏鳴に露のあつまる虚空かな
鷹の目の虚空のものに向ひけり
鷹匠の虚空に据ゑし拳かな
鷹舞へば虚空渦巻く枯野かな
鷺草の花の彫める虚空かな
鹿おどし虚空の枯れを打ちにけり
アラスカの上空白き毛糸編む
上空が渦巻いており麦の秋
上空にもも透きとおる時間かな
上空の朝日溶けあふ野分前
上空の雲雀かすかに揺らぎもす
上空へ上空へ人食いにゆく
動物園上空の青寒気団
夜を働く上空に寒気団
大島上空にありとのみ夜長かな
野焼始まる阿蘇上空のほうき星
風の音上空にありむし暑し
黒海上空涼しく雲の漂へり
あきつ舞ふ伊勢の高空ありにけり
いく壁の翳りを刻む高空のかの山脈に日照るらむか
合掌村高空を截る秋燕
慈悲心鳥高空のみに星生れ
散る欅或は高空渡りつつ
木曾高空声掛け合つて大根引く
獅子頭双十節の高空に
葉をふるふ朴高空へ誘なはれ
高空となく押しすすめ鶴舞へり
高空にゐて毛虫焼く修道女
高空に八ヶ岳が雲脱ぐ梅雨の月
高空に水あるごとし青鷹
高空に照り合ふ岳や青林檎
高空に青き山あり吹流し
高空の無より生れて春の雲
高空の風の冬芽となりにけり
高空は疾き風らしも花林檎
高空を鞭打つ風や猟期来ぬ
高空を風の音過ぐ百日紅
とこしえに天心をゆく夜汽車かな
三山の天心にして春の雷
三更の月天心に柚子湯かな
天心では濃き昼の月野に遺賢
天心にして白鳥の大翼
天心にして脇見せり春の雁
天心にゆらぎのぼりの藤の花
天心に会ふ二ながれ鰯雲
天心に光りいきづくおぼろかな
天心に在れば満ちくる春ひかり
天心に太陽膝に毛糸玉
天心に幻日かゝげ寒桜
天心に手足あそばす春の暮
天心に抛りて羽子を休めたる
天心に日を迎へたる雲雀かな
天心に昼月澄めり達磨市
天心に最も近し梅雨入鯉
天心に跼むは蓬摘める母
天心に風船のゆく南風かな
天心に鶴折る時の響きあり
天心のフエノロサの来しこの枯野
天心の墓は土饅頭春の芝
天心の月の左右なる去年今年
天心の月の白毛稲を干す
天心の月ふるひたる雪崩かな
天心の浜薔薇に朋たてこもる
天心の田舎に蜂の還るかな
天心の羽子ゆるゆると落ち始む
天心の青迅からむ雁渡
天心の魚が唾垂れ立葵
天心や一聲もらす菫草
天心をそれぬ鷹あり奇景なり
天心をひた指す壺のひとすぢの息のふかさに立ち上がりたり
天心を月ゆく穂草穂草かな
小米花月天心に来て明し
山粧ふ日毎峰より袈裟がけに
常しえに天心をゆく夜汽車かな
月天心何をなすにも縄はなし
月天心家のなかまで真葛原
月天心栗打つ音をのこしけり
月天心獅子のうへなる知恵菩薩
月天心貧しき町を通りけり
月天心鬼門に水の溜り居る
次に見し時は天心冬の月
満月の天心にして胸さわぐ
潮騒やさみだれ晴るゝ天心居
燕来て天心ことに利鎌の羽
脱獄監視の電球霧色天心澄む
苔青き天心塚を撫でて辞す
萍の生ひて天心そのあたり
豆実る天心居なり浪の音
霙打つ天心の墓供華もなし
青き天心文化の日こそ掃除の日
虫涼し天象星を列ねたり
スカイ・ラウンジ廻さるる身もかすむべし
気象旗の時化を告げをり鰊群来
江湖会や気象はげしき一大姉
佳節の気象地に青き蕗の薹
秋の雲気象の青旗は昏れのこり
あけすけに団栗の木と冬青空
あけっぱなした窓が青空だ
あらしがすつかり青空にしてしまつた
いくばくの青空蝶を錐もみす
お涅槃の日の青空を鳶ながす
かたかごの花のさゞなみ青空へ
こがらしのあとの青空風鶴忌
さくら枯れし枝の青空餅を切る
すこし春少し青空日捲りぬ
つばめきて青空たかき軒端かな
てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る
とんぼとぶ青空ながらくもりそめ
どこかに青空がありそうなたそがれの裸木
どの紅葉にも青空のある山路
なつめの実青空のまま忘れらる
ぬける青空冬の篠山刈りのぼる
ばらばらのままの青空大栄螺
ひとみ元消化器なりし冬青空
ほつかりと柚子青空に櫓の音す
まつくらな青空があり春の山
まつ毛瞭らかに冬青空はあり
まなかひに青空落つる茅花かな
みんな消えてしまふシャボン玉よ青空
めつぽうな青空となる札納め
やつこ凧も枯原の青空にゐる
わが死後の青空ならむ朴の花
わが胸に旗鳴るごとし冬青空
カナリヤの籠の目すべて冬青空
コスモスを剪り青空を連れて来し
サングラス青空失せてうろたへり
ペンキ塗る青空がまだ灼けぬうち
ラグビーボールぶるぶる青空をまはる
リラ嗅いで青空がすぐうしろかな
レモン齧れよ青空の落ちて来よ
世間体一つ外せば冬青空
久々に青空を見し秋刀魚かな
五月一日ジエットコースターは青空へ
伊吹嶺に青空触るる梅二月
便所より青空見えて啄木忌
傾く軒の旱の青空へ鶏を追ひだす
八月の巨雲青空抜けて信濃
公魚を釣る青空をへこませて
冬の鳥射たれ青空青く遺る
冬雲の穴の青空移りゆく
冬青空祖母が煙りに風になる
冬青空いつせいに置く銀の匙
冬青空このまゝ死なば安からむ
冬青空さえぎるもののなき別れ
冬青空ひとの歩みの映るかな
冬青空わが魂を吸ふごとし
冬青空わたしの羽音ありにけり
冬青空アミメキリンの首を容れ
冬青空マッチの軸が水に浮き
冬青空九億九光年の留守
冬青空双手ひろげて使徒の像
冬青空夜は万年筆の中
冬青空工夫の胃ぶくろよろこびあふ
冬青空明日をはるかとおもふとき
冬青空母より先に逝かんとは
冬青空涙とともにパンを食べ
冬青空灯台打ち上げて見たし
冬青空瑞枝さみしきときもあり
冬青空胸中の鈴鳴りはじむ
冬青空鈴懸の実の鳴りさうな
切通からの青空水仙花
刈草を抛ついつも青空で
初氷夜も青空の衰へず
初花や一日青空きはまりて
初薬師より青空を連れ帰る
初音いま青空ひらく逢ひてのち
剪定の青空拡む長梯子
劇場街青空ふかく松過ぎぬ
北風や青空ながら暮れはてて
十二月青空を見る小さき旅
午からの青空が見え寒ざらし
卒業証書を眼鏡にし青空覗きをり
厨芥車に青空は遠い凧飾る
句とは何か概念の小をんなの青空
喫茶店はオアシス青空よく映る
噴水は上り青空下りて来る
囀りは青空に満ちすぐに退き
四人の子がきく冬青空の鐘
四角な庭の青空へ机の塵はたいて座る
地に埋没してゆく階段手すりの青空
地の果てに海その果てに冬青空
地平まで青空ありて槻の冬
地震すぎたる青空の尖つた建もの
坂の上の青空が好き青木の実
塀の上冬の青空しか見えず
墓穴一つ規し青空青野原
夏柑の不器量青空市晴れて
夜も青空辛夷千手の拳開く
大根の花や青空色足らぬ
大根抜き青空縋るところなし
大青空水牛が雲喰べたから
女工が仰ぐ崖の桜の咲ききつて青空
妥協なき冬青空とうち仰ぎ
妻たちに冬の青空果てしなし
妻癒えよ稲妻が見す夜の青空
宿木の翔び立ちさうな冬青空
寂しくて青空を被る寒桜
寐ころべば靴青空へ卒業期
寒林にその青空を映す水
寒鮒の釣れて青空よみがへる
寝ころべば靴青空へ卒業期
小鳥来る窓に青空ゆきわたり
小鳥来る驚くほどの青空を
少し寝てあと青空の限りなし
屑買ひは青空仕事紺ジャケツ
山で見た青空が鳴る布団かな
山を離れて青空の落葉かな
山上は無垢の青空斧仕舞
山中は青空に明け冬苺
山家の法会の鉦の音が青空を刺して冬
山枯れてみな青空にしたがへり
山翡翠や初青空が淵にあり
山茶花や青空見ゆる奥座敷
崖の上の冬青空は壁なせり
嶺の残雪ぢりぢりと青空が押す
川越えて同じ青空秋まつり
師と歩む初冬青空眼に尽きず
帰雁見えなくなりまた青空また山並
年あらたなり青空を塗り替へて
底ぬけの大青空の油照り
恐竜のかじった青空
愛うすき日の青空を鳥渡る
戸樋伝ふ雪解雫の青空に
手がかりのなき青空や毛糸編む
手に足に青空沁むと日向ぼこ
手のとどく青空のあり草城忌
抜けがけのやうに青空夏つばめ
揚げても揚げても青空に紙鳶がとどかない
日暮まで椎葉青空花山葵
早春の青空こそばゆくそよいで芦の穂
春の青空瞳にひめし子を抱きとりぬ
昨日より今日の青空凍返る
暑き日の青空のぼる胡蝶かな
更衣青空に袖通すなり
曼珠沙華青空われに殺到す
月の青空寒林に昼透きとほり
朝霧を舟ぬけて青空となる
朱を入れて凧とびやすし冬青空
松山を透く青空に蝶のぼる
林中や枯青空のささやきて
枝つゞきて青空に入る枯木かな
枯峠青空に風無尽蔵
枯菊を刈るや青空凛と張り
柿*もぎて青空更に深くせり
柿むいて今の青空あるばかり
柿若葉して青空の生マ乾き
栗咲く香この青空に隙間欲し
栴檀の実に青空のあるばかり
桃の枝の青空指して長短
桐咲いてより青空の離れざる
梅もどき空は青空なるがよき
梨もいで青空ふやす顔の上
梨出荷大き麦藁帽に青空
梯子あり颱風の目の青空へ
歌会始の青空仰ぐ何んとなく
武蔵野に青空きまる初日記
武蔵野は青空がよし十二月
死後もこの青空あらむ紅芒
毛帽子の幼子の瞳に青空あり
水仙と矢の翔ぶやうな青空と
水打つ頃青空少しづつ消ゆる
水楢の芽吹く青空農具市
氷上の肩青空をもてあます
池涸れて尚ほ青空を映しをり
海を見て青空を見て更衣
海軍のような青空苺を染め
港よりの青空ここに返り花
満足の青空を見ず午后の船
滝落ちて冬青空をひきしぼる
澄みわたる土佐の青空鷹渡る
瀧の水青空へ蜂吹きはらひ
火山の青空夏雲雀の声昇天す
炎天ふかく濃き青空を見定めぬ
烈風の青空白足袋だけを干す
父の忌の青空ありぬ苜蓿
父よいま冬青空も深呼吸
画房出て青空のもと林檎選る
疲れたる瞳に青空の綾もゆる
白亜紀の青空を持ち乳房死ぬ
白鳥の青空目がけ翔つ十字
真直ぐに青空切れて落葉谿
真近なる山の青空十二月
石垣にすこし青空がある落葉
磨かれし青空揺れる榛の花
神の階青空に見え北風吹けり
神殿の列柱残る冬青空
秋の樹の万朶の小声青空へ
秋風は青空に雲を飛ばすかな
稲車押し青空についてゆく
空風は青空の日を支へたる
窓からの青空地球に独り
立冬のあとの青空松葉降る
素足拭く西青空の法師蝉
紫苑ゆらす風青空になかりけり
絶壁をけものの堕ちる冬青空
綿虫の青空よぎる時の白
縫目なき冬青空へ消えし鳥
翡翠や露の青空映りそむ
耐えるため青空に割る鏡かな
耳を病んで音のない青空続く
耳聾ひて雪原と青空にあり
臘八の大青空となりゐたり
芝平ら文字摺草に青空に
芥子の舌ひらひらひら青空ハネムーン
若布負ひ歩く青空幾尋ぞ
茶の花や青空すでに夕空に
落葉木をふりおとして青空をはく
葦刈つて水の青空のこしけり
蓑虫にこの青空の切なからむ
蓑虫の青空を引き入れてをり
蕗の薹青空雲の中にあり
薄幸に似て青空の干鰈
虫干や青空かけて梅小紋
蜥蜴の目死にて青空みてをりぬ
蜻蛉とぶや青空ながら曇りそめ
蝌蚪育つ鳥除けが青空の旗
蝦夷大葉子青空に花穂さし入れて
蟻地獄青空木々の上にあり
裏山の暗い青空紅葉散る
謡初へ青空うつる白障子
豊年の雀青空より降りぬ
贋作の青空冬の来るらし
起重機の巨躯青空を圧しめぐる
越の田個々卯月青空みな容れて
跳躍のあとの青空ともに渇く
身の内の青空埋め青山河
身近なる山の青空十二月
通夜が明けたる硝子戸の凍てついた青空
郭公の啼きやみし青空ばかり
野の上のまろき青空揚ひばり
野ばらの莟むしりむしりて青空欲る
金色の柚子を青空よりもらふ
鎌倉の切通ゆく冬青空
雀交る地上二尺の青空に
雉子を売る眼の青空にほかならぬ
雪とべる痕いくすぢも青空に
雪嶺の上の青空機始め
雪渓は船出の形青空へ
雪解の青空へ草蛙のはねあげて旅する
雪達磨青空ひろくなりきたる
雪雲に青空穴のごとくあく
電気毛布にも青空を見せむとす
霧ながら青空の影園にさす
青年に虚無の青空躰使う
青田も青空も停留所までは来る
青空から汚染受ける酒臭の胸
青空があつて照る柿
青空がある寒餅をきり並べ
青空がずり落ちて蝉転落死
青空がまるごと灼けて玉砕日
青空がめぐりくるなりほとゝぎす
青空が創りし朴の花白し
青空が昏れ三日月と野火が濃し
青空が見えて気抜けす春の雪
青空が見えて雨降る胡麻の花
青空とせめぎ合ふなり秋の雷
青空と戦後のあけびしづもれる
青空と荒野を愛し子を抱かず
青空にきゆる雲あり鯔の海
青空にさくらはひかり喰ひをり
青空にして玄冬の鷹ひとつ
青空にふれし枝先より黄葉
青空にーすじあつし蜘蛛の糸
青空に一筋の雲大根焚
青空に並んで冷たい墓となる石
青空に亀裂なかりし桜かな
青空に凌霄の蔓出羽の國
青空に切つ先ありぬ冬鴎
青空に吸はれたき蝶高く舞ふ
青空に堂扉を開けて節分会
青空に声あらはれて雪卸す
青空に声にじませて植樹祭
青空に天女花ひかりたれ
青空に天気が映る小学校
青空に太陽乾草の山に人
青空に寒気多感の雀ども
青空に寒風おのれはためけり
青空に小鳥飛ばされ初嵐
青空に山羊つれ来り麦を刈る
青空に帰りそびれし露の玉
青空に引く秋雲を旅として
青空に指で字をかく秋の蟇
青空に掴まつてをり枯蟷螂
青空に木の葉一枚吸はれゆく
青空に木守くわりん生らせおく
青空に木賊の節を継足せる
青空に松を書きたりけふの月
青空に枝さしかはしみな冬木
青空に消ゆる頭痛や墓参
青空に無数の傷や曼珠沙華
青空に無花果奇声上げて割れ
青空に白鳥帰る氷の如し
青空に絵具の色の石榴の実
青空に繋ぎとめたり父の凧
青空に羽毛の月出て苗木市
青空に色鳥しみる眠りかな
青空に花の満ちたる桃李
青空に裂けて通草のがらんどう
青空に触れし枝より梅ひらく
青空に辛夷ととんび大揺れに
青空に銀嶺走るだるま市
青空に闇が待ちゐる植田原
青空に障子を上げて洗ひけり
青空に雪の峻峰と鷲とかな
青空に雲がでてきて鰡の貌
青空に雲も日もなきお茶の花
青空に雷気の走る花杏
青空に音楽流れ朴の花
青空に顔ひきしまる花辛夷
青空に飛距離を伸す櫟の葉
青空に飽きて向日葵垂れにけり
青空のあたたかき風山にあり
青空のいつみえそめし梅見かな
青空のかけらはすでに石である
青空のきれい過たる夜寒哉
青空のこの色が好き冬支度
青空のそのまま夜へ籠に胡桃
青空のそのまま暮れて良夜かな
青空のたった今ごはんですよ
青空のちぢめられゆき雪もよひ
青空のちらちら雪や達磨市
青空のつめたき茅花流しかな
青空のどこ涯とせむ葛の花
青空のなやらひの日の滑り臺
青空のはりつめてゐるお正月
青空のまだ残りをる切子かな
青空のままの一日芋嵐
青空のまま昏れ柿の蔕月夜
青空のまるくなりたる袋掛
青空のやうな帷きたりけり
青空の一枚天井羽子板市
青空の一気に満ちて棗の実
青空の下に襤ある辛夷かな
青空の下りてくる麦二三寸
青空の下馬刀の穴覗きけり
青空の中に風ふく薄暑かな
青空の光つてゐたる秋の暮
青空の冷え込んでくる切山椒
青空の凧には凧の自由席
青空の向うへ茅の輪くぐりけり
青空の奥処は暗し魂祭
青空の奥蕩揺す霜みだれ
青空の奥處は暗し魂祭
青空の妖しかりける落葉掻
青空の常念岳や畳替
青空の年頭会ふは空也像
青空の押し移りゐる紅葉かな
青空の日を蜻蛉は来りけり
青空の映れる水に針魚みゆ
青空の暗きところが雲雀の血
青空の流れてゐたる氷柱かな
青空の深くて曲る雲の峰
青空の濡れてゐるらし鹿の声
青空の白くなりたる餅配
青空の白雲動き春の蟻
青空の目にしむラムネ飲みにけり
青空の端に出されし福寿草
青空の端に雲あり返り花
青空の端より凍てゝ滝かかる
青空の芯より垂れて烏瓜
青空の見ゆる霰の落ちてきし
青空の賽の河原へ枯蟷螂
青空の道ずんずん行き暮れてしまつた
青空の雨おほつぶに厄日来る
青空の雨をこぼせり葛の花
青空の雨をこぼせる紅葉かな
青空の雲を呼ぶことなくしぐれ
青空の静まりかへり茄子の苗
青空の風のいとまの唐辛子
青空はどこへも逃げぬ炭を焼く
青空は山国にのみ曼珠沙華
青空は無限蓮の実つぶさなり
青空は遠夏山の上にのみ
青空へふくれあがりて茶山なる
青空へもぐら顔出す二日かな
青空へ一二三と飛花発ちて
青空へ手あげてきるや秋桜
青空へ昼寝の犀が火をこぼす
青空へ水吹きかけて出初式
青空へ祭舞合は筵がけ
青空へ突き出す晩年の拳
青空へ花ぶつつけて辛夷咲く
青空へ飛び去る冬の蠅の音
青空もつかの間杉にまた雪来
青空もみずうみのいろ枯ホップ
青空やはるばる蝶のふたつづれ
青空や今日も確かな冬芽嵌む
青空や千の花火を昨夜呑みし
青空や手ざしもならず秋の水
青空や松の花粉のたちしあと
青空や板戸を立てて氷る宿
青空や海の方晴れ春の雨
青空や狼烟のやうな春の雲
青空や花は咲くことのみ思ひ
青空や落葉終りし大銀杏
青空や道に巻かれて山眠る
青空や鷹の羽せゝる峰の松
青空ゆ下り来し顔が梅干はめり
青空ゆ辛夷の傷みたる匂ひ
青空より枝おろされてユリ並木
青空より西瓜へ世界まつぷたつ
青空より跳ねて来たりし桜鯛
青空をしばしこぼれぬ春の雪
青空をどこへも逃げぬ炭を焼く
青空をみんな連れきて運動会
青空をもみじひと刷毛塗りにけり
青空を或るとき汚し万国旗
青空を押じ上げてゐし櫻かな
青空を氷らして咲くさくらかな
青空を海に拡げて十二月
青空を滝が落ちくるはるかにて
青空を燃えわたる日よ更衣
青空を白雲走る木の芽かな
青空を見極めやうと揚雲雀
青空を負いひとすじの傷舐める
青空を跨ぎて男剪定す
青空を輝きとべる柳絮かな
青空を配し斜面の桃描く
青空を鈎に引寄せ櫨ちぎり
青空を雁が流れぬ厚氷
青空を風の拭へり植樹祭
青空ニ心ノ死角揚雲雀
韃靼の方は青空梅雨の海
風おろしくる青空や一の酉
風知らず青空知らず水中花
風花の舞ふは青空消えしより
高熱の鶴青空に漂へり
髪刈って頭の頼りなき冬青空
鰰や青空は風ひびきけり
鳰にも青空のうれしくて
鵙のくる一劃青空見えてをり
鶏頭を剪り青空の流れだす
鶴去る日青空に消ゆこころざし
鷹去つて青空に疵一つ無き
麦藁帽のふちに青空動きをり
あを空の近寄つて来る犬ふぐり
あを空や手ざしもならず秋の水
あを空や楓そよげば花がある
あを空や身にふりかかる花あけび
あを空を時の過ぎゆく桐の花
帰る雁見ゆるあをあを空流れ
この旅の一天守一蟻地獄
たんぽゝや一天玉の如くなり
つちふるや一天くらく林鳴り
わが野火に一天昏きしばしかな
一天にはかにかきくもる赤ん坊
一天にをさまる古墳草の花
一天に一滴もなき梯子乗り
一天に太陽と冬ありにけり
一天に比ぶ日と月春隣
一天に深浅の青雁わたし
一天のあり風のあり花野行く
一天のかたむきて花吹雪かな
一天の告白のごと雪降れる
一天の安騎の大野の刈田かな
一天の寒星つれて出航す
一天の林檎おごれり旅装のまま
一天の深さ木の辛夷つぼみたり
一天の漆光りに星月夜
一天の玉虫光り羽子日和
一天の瑠璃を張りたり鵙の声
一天の翳りなきとき帰燕かな
一天の雲ゆきつくす峡の春
一天の青き下なる紫蘇の壺
一天へ申しあはせて犬ふぐり
一天を転げ出したる雪起し
一天を頂く旅にとる扇子
九十九里の一天曇り曼珠沙華
冬帝と太陽と一天にあり
冷まじき青一天に明けにけり
古稀自祝一天辛夷あかりかな
噴水の一天昃り亙りけり
四万六千日一天雲の無きならひ
城廃れ一天に置く五月富士
大夕焼一天をおしひろげたる
大野火に一天の掻き暗みたる
春泥蒼し一天萬乗の大君とか
朝あらし一天はれてのぼりかな
枯菊に一天の碧ゆるみなし
橡咲いて一天蒼さばかりなる
残照の紅葉一天裏石廊
牡丹咲く一天ゆたかなるひかり
牡丹満を持して一天雲あらず
茄子の苗一天の紺うばひ立つ
菊花節大東亜圏晴一天
蓮枯れて一天に瑕なかりけり
誰彼もあらず一天自尊の秋
雪ちら~一天に雲なかりけり
雲海や一天不壊の碧さあり
魔の逃げて一天曇る落花かな
鯊釣りに一天の藍しづかなり
鵙晴の一天手向けたる葬
鶴舞ふと一天露を含みけり
木の芽雨天気予報の通りに降る
春の雨天地無用の荷を濡らす
朝顔や雨天にしぼむ是非もなき
雨天なりとおい扉のくるくるあり
あおむけの蟹炎天を掻きむしり
あやふきを炎天の亀しかけたり
いきいきとして炎天の草の露
いさぎよし炎天重き担ぎ荷は
いはれなき懣り炎天の坂あるさヘ
うつむいて炎天の草を刈る風がうごかない
かつと炎天街路樹稚し横浜市
かの日炎天マーチがすぎし死のアーチ
からす来て炎天の巌落着きぬ
きらきらと炎天光るものこぼす
くさめして炎天老うる齢ならず
こひびともかもめも炎天のこんじき
こんじきの棺炎天の湖わたる
しのび鳴く虫炎天の野にひろく
しんかんと炎天ザイル垂るるのみ
すぐ他人なり炎天に別れしひと
つきまとう炎天の蠅われになにある
てむかひしゆゑ炎天に撲ちたふされ
とらわれの蟹炎天を掻きむしり
どくだみの花炎天の水に咲く
どこまでも炎天ひとに縋られず
なつかしき炎天に頭をあげてゆく
にんげんに祭り雀に真炎天
ねむり子を抱き炎天を追ひ行けり
はぐれ猿来て炎天の鏡立つ
はりつめし炎天先駆する柩車
ひそかにてすでに炎天となりゆくも
ひたすらに炎天を行き伊良湖岬
ふりむかばわれ炎天の魚とならむ
みすぼらしき尾や炎天に牛尿る
みちのくに春色おそし牧の草
むしろ旗より炎天のデモ縮む
わが行手より炎天の火の匂ひ
アイシャドウ濃く炎天の一帆追ふ・・・ジャワ
コウモリをさし炎天に殺意湧く
シャツ干せば炎天の富士も夫もあはれ
トラック遠く走り炎天しづまれる
バスに跳ねる炎天の尾や明治村
ピカソ館出て炎天を登りゆく
ワイシャツ干す炎天の他触れさせず
一塵もなき炎天でありにけり
一睡もせず炎天がはじまれり
九十九の渦を炎天に逆立たしむ
予後の身に炎天といふ試金石
仏壇を負う男炎天の山脈見えぬ
佛像に飽き炎天の石跨ぐ
作務衣の紐三つ目結うて炎天へ
円覚寺炎天へ鐘撞きにけり
切れ目なき炎天どこまでが戦後
刮目の新炎天を人は避く
午後二時の炎天くらし簾の外に
厚朴の葉のひまに炎天青くふかし
古き代は見えず炎天の大河のみ
古き帆を張り炎天の風恃む
同齢なりしと炎天に死をつぶやけり
君みうしなふ炎天のチーズ市
君ら征きしはまぼろし炎天のまぼろし
吸殻を炎天の影の手が拾ふ
哭かむまで炎天の澄みまさりけり
回転扉ひらりひらりと黒炎天
土煙炎天に立て羊追ふ
地下街を出て炎天に翅音あり
地獄劇息詰めて見る真炎天
埒もなし炎天に蔓ひきまはす
域の内暗し炎天の世をへだて
塩ふける梅干を炎天の簀に曝らし八月六日原爆記念日の昼
墓地炎天雑草浅草区をうずむ
夢殿の八角の影真炎天
夢殿を出て炎天に捉へらる
大道芸炎天に置く銭の箱
妻恋し炎天の岩石もて撃ち
妻遥かにて炎天を分ち合ふ
完璧な炎天となり吾を入れず
寸鉄のヘヤピンを挿し炎天へ
屋上の気球炎天の海遠望
屋根師らの尻の小さし真炎天
屋根貧しき涯炎天の接収港
山荘の炎天茅渟の海へ伸ぶ
山頂や三百六十度の炎天
己が首持てる石像炎天に
師の逝きて炎天の端に残さるる
師を送り来て炎天のよるべなし
帯売ると来て炎天をかなしめり
幸福肌にあり炎天の子供達
影さへも亡び炎天の幾礎石
往生の道炎天を貫けり
心もどる炎天の松見あげては
心太くふ炎天の人の餓
心棒に狂ひを生ず真炎天
心炎天の花掴み病みこけてゐる
扉さびし炎天・ほとけそして錠
手がかりとせむ炎天にふくらむ波
打って出るおもひ強かり炎天に
抱き合ふ榾の中より大炎
捨て台詞吐き炎天へ鴉翔つ
旅なればこの炎天も歩くなり
日もすがら焦土のけむる炎天下
日日いらだたし炎天の一角に喇叭鳴る
日蝕の別の炎天とはなりぬ
明日死ぬ妻が明日の炎天嘆くなり
書展出て炎天のうす墨の色
果実の言葉炎天をゆく少女らより
梅桜炎天ひくく光りけり
棘もつ木伐つて炎天くつがへす
棟木上ぐ鬨炎天の真洞かな
歩おとろふ父に炎天容赦なし
歯を抜いて炎天の真中が冥し
死して炎天悪妻にして悪母なり
死して鎧ふ巨き炎天の墓石なり
死ぬ日まで炎天の野を蝶舞へり
死のときのひとりのごとし炎天ゆく
殺意にも似し炎天の気貴さよ
水に流すには非ず炎天水を流す
水脈の果て炎天の墓碑を置きて去る
水鏡して炎天はいづこにも
氷挽く泡だちてゐる炎天に
求職の列炎天に蔭もたず
汗し働く基地の炎天生々し
泥染の泥の炎天はじまれり
活火山炎天にあり石を投ぐ
浮游する炎天の群に降るべきか
海に船見えず炎天身に痛し
涯しなき青田炎天白濁す
涸れつくし母炎天の礫めく
湯地獄の底轟きて真炎天
濯ぎ石炎天をのせはじめけり
瀕死の病婦に彼等あたえしもの炎天
火を焚いて故意に炎天濁しけり
炎天が婆の命を剥ぎとりぬ
炎天が曲げし農夫の背と思ふ
炎天が校庭広くしてをりぬ
炎天こそすなはち永遠の草田男忌
炎天といのちの間にもの置かず
炎天といふしづけさに在所あり
炎天となるおん墓のうらおもて
炎天となる一隅の雲たぎち
炎天となる赤縞の日除かな
炎天なれば蜘蛛の餌の食ひのこりもよ
炎天にあがりて消えぬ箕のほこり
炎天にあるきだしをり舌出して
炎天にあるき神つくうねり笠
炎天にいつまでも見え見送れる
炎天にいま逢ひそれも過去のごとし
炎天にうすかげろふは一縷の詩
炎天におとろへし火をまた焚ける
炎天にきりんの首の漂へり
炎天にそよぎをる彼の一樹かな
炎天にたはむれあせし牛の舌
炎天にちよと出てすぐに戻り来し
炎天につかへてメロン作りかな
炎天につよく生まれて甲斐わらべ
炎天になめらかなりき松の幹
炎天にはじけ出されし訃報かな
炎天にはたと打つたる根つ木かな
炎天にはたと打つたる根つ木かな
炎天にひるがえらむとす葉の勁さ
炎天にふるへてゐたる蝶の舌
炎天にぶつかつてゆくひろびたひ
炎天にもってゆかれし大飛球
炎天にわん~と鉦鳴らし行く
炎天にテントを組むは死にたるか
炎天にモスク剥落とめどなし
炎天に一樹の影の地を移る
炎天に上りて消えぬ箕の埃
炎天に乱打されをる太鼓かな
炎天に乾びきつたる怒りあり
炎天に何もなし人生きて群れ
炎天に何置く台の引出され
炎天に出づ名曲に潤ひて
炎天に出でてわが身のあたらしき
炎天に出んとて咳をこぼしけり
炎天に即して松のいさぎよし
炎天に吊らるる背骨ひとつらね
炎天に吾が生き墓石自若たり
炎天に哭けとこそあり捨て寝墓
炎天に嘆き一すぢ昇り消ゆ
炎天に四人目の孫名も面倒なり「東」とす
炎天に墓を晒して鬼舞へり
炎天に夢呆けの貌ありにけり
炎天に大軋りして埠頭貨車
炎天に尻うち据ゑて栄螺割る
炎天に山風の香や吉野口
炎天に待つ群衆の皆跼む
炎天に心おくれて憩ひける
炎天に怒りおさへてまた老うも
炎天に抱く卒塔婆の木の香かな
炎天に揺れゐて草のしづかかな
炎天に旅人憶良の山指さる
炎天に気の触る雀など居らず
炎天に水強くあり北信濃
炎天に池を置き去る鰻番
炎天に汽笛なりて沖ふと近し
炎天に消ゆる雲あり鳶高く
炎天に深谷ありぬ鞍馬寺
炎天に火を焚いて来し眼あり
炎天に火山を置けりきりぎりす
炎天に焔となりて燃え去りし
炎天に焚きたる火より猫走る
炎天に無聊のわれを投じたる
炎天に焦げ叫び伏したゞアラー
炎天に煌と城壁草田男忌
炎天に燕湧き翔ち伊良湖岬
炎天に父の聲母の聲まじる
炎天に犬身振ひの骨の音
炎天に獄衣干しけり監獄署
炎天に瑞の太枝を引きずりゆく
炎天に生木を焚きてゐたりけり
炎天に目のしたたかな油賣り
炎天に眠る峡谷無韻なり
炎天に眩むや髄細りたり
炎天に眼なほ在り捨て鰈
炎天に穴一の穴の日かげかな
炎天に窪む石あり塩くれ場
炎天に立つ師も弟子も遠くして
炎天に笠もかむらず毒蛇捕り
炎天に筵たたけば盆が来る
炎天に繋がれて金の牛となる
炎天に耳の動くはさみしけれ
炎天に耳鳴りのごと乗る木馬
炎天に聲を拡げて物売れり
炎天に肥煮る釜のたぎり哉
炎天に肩落し消ゆ誓子はも
炎天に莚たたけば盆が来る
炎天に菊を養ふあるじかな
炎天に蒼い氷河のある向日葵
炎天に蓮池青き焔むら立ち
炎天に蓼食ふ虫の機嫌かな
炎天に訣る洋傘の絹の艶
炎天に誰も見てゐぬ雀影
炎天に谺す深井汲みにけり
炎天に道を余して引き返す
炎天に鉄のたたずむ自噴井
炎天に鎮まりて赤煉瓦館
炎天に雁来紅の沸き上る
炎天に雄鶏の胸硬く死せり
炎天に電柱一本づつ退屈
炎天に鰈が生きて片眼かな
炎天に鰯いきいき売りすすむ
炎天に鹿沼麻緑蔭に鹿沼土
炎天に麦屑を焼く焔かな
炎天に黒き喪章の蝶とべり
炎天に鼻を歪めて来りけり
炎天のあらがふ蔓に肱張りて
炎天のいつか夕ばむ川面かな
炎天のいづこか昏き喪明けなる
炎天のいづこか笑ふ閻魔寺
炎天のうしろこゑなきひとりごと
炎天のうしろ思へり孔雀鳴く
炎天のうすきまなざし稲の穂や
炎天のうたごえおこる鐵骨の中
炎天のかすみをのぼる山の鳥
炎天のくるぶしに田がやはらかし
炎天のこぼしてゆきし日照雨かな
炎天のごと物足らぬ生死かな
炎天のしじまに光る塩湖あり
炎天のしづまり返り川流る
炎天のすでに秋めく己が影
炎天のその崖見るが一大事
炎天のたいせつにある木たくさん
炎天のつばくらばかりいきいきと
炎天のとかげのわれを知る呼吸
炎天のところどころに湿める家
炎天のどこかつまづき三時過ぐ
炎天のどこかほつれし祭あと
炎天のどこにも触れず戻り来ぬ
炎天のどの角度より逃がれんや
炎天のにわとり雌をおさへけり
炎天のはしばしを海打ちにけり
炎天のひとつの墓に心寄す
炎天のひとりに立ちし埃かな
炎天のほどをはだけて憩ひるも
炎天のむなしさ己が影を追ひ
炎天のわが影ぞ濃き喜雨亭忌
炎天のわづかなる風土管を抜け
炎天のをとこがをとこ翳らせて
炎天のイブは片目をつむるかな
炎天のガスタンク抱きたき勝利
炎天のキヤラメル工場迷彩のこす
炎天のパパイヤよりぞ睡魔かな
炎天のポストは橋のむかふ側
炎天のポストヘ無心状である
炎天のポプラ逆立つ鱒の水
炎天のレールの襞へ油たらす
炎天の一戸一戸の患者訪ふ
炎天の一揖に人を葬りしや
炎天の一枚に照り子を送る
炎天の一樹一影地にきざむ
炎天の一点として飛べるなり
炎天の一片の紙人間の上に
炎天の一片の紙人間の上に
炎天の一隅松となりて立つ
炎天の七里ケ浜のエロスたち
炎天の三輪山に入る鳥一つ
炎天の下さはやかに蛭泳ぐ
炎天の下に睡蓮花を閉づ
炎天の下りて上る墓地のみち
炎天の中こぎ行くや車引き
炎天の中の空より声かへる
炎天の中ほどを日のすすみゐる
炎天の中空を雲押し来り
炎天の乾飯食める雀かな
炎天の伊吹立ちくる板艾
炎天の光へ水をさげてゆく
炎天の八方砂丘なだれ合ふ
炎天の割れるものならわれしやんせ
炎天の卒ほがらかに號令す
炎天の原型として象あゆむ
炎天の号外細部読み難き
炎天の号外裏面なかりけり
炎天の嚢中の銭うらがなし
炎天の土の栖は影もたず
炎天の地に救ひなき死馬の体
炎天の地蔵の頭撫でて過ぐ
炎天の地軸に立てて杖はこぶ
炎天の坂に輓馬の頸力む
炎天の坂や怒を力とし
炎天の埃洗へば白髪ふゆ
炎天の墓しんしんと酒を吸ふ
炎天の墓を思い出にわが生身
炎天の墓を電車が迅く過ぐ
炎天の大仏へ妻と胎内の涼しさに
炎天の大器の縁の欠けてをり
炎天の大榕樹下の市をなす
炎天の奥へ奥へと歩むなる
炎天の女体アパートヘ一筋道
炎天の妻子遠しといまはいわず
炎天の孤松ぞやがて鳴りいづる
炎天の室戸怒濤の鬼薊
炎天の室津は道に塩噴ける
炎天の富士となりつつありしかな
炎天の屋根に影ひく煙りかな
炎天の屋根塗れり蟇とつくばひて
炎天の山が黙つてゐたりけり
炎天の山に対へば山幽らし
炎天の山河を蔽ふ宙の濤
炎天の山荘に老郵便夫
炎天の岩にまたがり待ちに待つ
炎天の峠こえくる一人かな
炎天の島このほかに港なし
炎天の島より放つ荼毘の船
炎天の巌の裸子やはらかし
炎天の巨石や落つる刻を待つ
炎天の市にとゞろと法鼓かな
炎天の師の墓に影預けけり
炎天の平たき町を通りけり
炎天の底の蟻等ばかりの世となり
炎天の底びかるまで斧を研ぐ
炎天の底濁るかにくもりけり
炎天の弧にも爆痕ある如し
炎天の影ことごとく殲滅す
炎天の影なき橋を渡りけり
炎天の影もちあるく港町
炎天の影を恃まず一樹立つ
炎天の影を離さず霊柩車
炎天の影先立ててわが蹤けり
炎天の心音たしかむ被爆の地
炎天の戸口に音すひとりづつ
炎天の振子に縋る悪の翳
炎天の撫牛なでて安らなり
炎天の散り葉に触りて覚めにけり
炎天の旅孔雀の尾持ち歩く
炎天の旗竿に旗なかりけり
炎天の日々あらたなり阿修羅像
炎天の日の入り込まぬ蝉の穴
炎天の日暮れてをりし躙口
炎天の暗さ負目の蝶かがよふ
炎天の未来の刻を地に経る
炎天の杜の中うつろありけり
炎天の来し方遠くけぶりをり
炎天の杭なり海を恋ひにけり
炎天の板ひらひらと家が建つ
炎天の梨棚がめりめりさがりくる
炎天の梯子昏きにかつぎ入る
炎天の樟を越えつつ兜虫
炎天の樹下りんりんと山蛙
炎天の欅生死を見下ろせり
炎天の水くぼませて簗を打つ
炎天の沙吸ひ入れて壺眠る
炎天の洗面器空子が寝入れば
炎天の浜に火焚けば蟹隠る
炎天の浜白泡を長く保つ
炎天の海、底岩の彩たゞよふ
炎天の海見たき日の白帽子
炎天の海高まりて島遠し
炎天の深ささみしむ胸反らし
炎天の湖ひとところ夜のごとし
炎天の湖遠し夫立てば立つ
炎天の澄みたるものに弥勒仏
炎天の濤に照られて月消ゆる
炎天の火の山こゆる道あはれ
炎天の火を消す水の荒びかな
炎天の火ロ金輪際を行く
炎天の焚火まつたく音をなさず
炎天の焚火埃りの荒々し
炎天の熊笹の道いゆくなり
炎天の熱気持ち込む市営バス
炎天の犬捕り低く唄ひだす
炎天の現実女靴みがき
炎天の甃そり返るロゴス見き
炎天の田の母を呼ぶ嬰児の目
炎天の田の隅に吊り盆燈籠
炎天の白皚々の塩湖かな
炎天の目となつて来る葵紋
炎天の真ン中に太陽のあり
炎天の真水掛け合ふ海女親子
炎天の石ころがれりこんにちは
炎天の石の剛直安土城
炎天の石の時間のゆっくりと
炎天の石仏にわが貌さがす
炎天の石光る我が眼一ぱいに
炎天の石動かせて挺子しなふ
炎天の石柱に手を触れんとす
炎天の石灰馬が掲示を嗅ぐ
炎天の砂利に小鳩は首なき影
炎天の空にきえたる蝶々かな
炎天の空へ伸び立つ藤の蔓
炎天の空へ吾妻の女体恋ふ
炎天の空美しや高野山
炎天の署名小鳥の籠さげて
炎天の群蝶を喰ふ大鴉
炎天の羽音や銀のごとかなし
炎天の老婆に無事を祝福され
炎天の老婆氷塊さげ傾ぐ
炎天の肩車より父を統ぶ
炎天の胸の扉あけて我を見る
炎天の能楽堂草擦る音か
炎天の自然発火やいくところ
炎天の船ゐぬ港通りけり
炎天の船笛何ぞ荒涼たる
炎天の艪音こきこき遠ざかる
炎天の色は冷めたし凌霄花
炎天の色やあく迄深緑
炎天の芋畑の母に兵隊の子が逢ひに来てゐる
炎天の芯の暗さやくすり噛む
炎天の花が散るなり百日紅
炎天の花火に故山応へけり
炎天の花火涼夜を約束す
炎天の草に沈める鉄の棒
炎天の草負うて人ころびたり
炎天の荷車にさす油かな
炎天の菊を縛して花見せず
炎天の葉知慧灼けり壕に佇つ
炎天の葛くぐりゆく水のこゑ
炎天の葬列につく手を垂れて
炎天の蓮裏返るまで吹かず
炎天の薄雲とほる肺の陰画
炎天の蝶黄塵に吹かれけり
炎天の蟻迅き地のあるばかり
炎天の街へ呼びかけ献血車
炎天の街角に犬立ちもどる
炎天の表紙の裏のピラミッド
炎天の袋かがやく林檎畠
炎天の裏側は風吹いてをり
炎天の裸木リヤ王の白さなり
炎天の認定被爆者席二百
炎天の貌を小さく戻りけり
炎天の身に方寸の飾りなし
炎天の軸とし立てり孤寥の白
炎天の農夫の頭石に負けず
炎天の道のはるかを修道女
炎天の道行く泉あれば飲み
炎天の道贖罪のごとく行く
炎天の遠き帆やわがこころの帆
炎天の遠揺れ犬の精悍に
炎天の遠目にしかと琴抱へ
炎天の邑にいく筋も道絡む
炎天の郷土にあたま晒しをり
炎天の酒徒が見送る磧越ゆ
炎天の酔顔頷く旧師の前
炎天の野に近くとぶ鴉かな
炎天の金輪際をゆく鳥か
炎天の鎖をひいて疾走す
炎天の隙間を風の来たりけり
炎天の雨樋修理に友死せり
炎天の雲のゆきたる岩照りぬ
炎天の顔見えてゐて顔見えぬ
炎天の風のきこゆる油田帯
炎天の香なり臭木の香にあらず
炎天の馬あれつのる峠かな
炎天の馬くさめせり瓦斯行きて
炎天の馬の背中は急流か
炎天の駅みえてゐる草の丈
炎天の高みの黝む緑樹帯
炎天の鬱たる嶺々は尖がくる
炎天の鴉散らばる恐山
炎天の鶏まつ毛なきまばたきを
炎天の鷹の声なり紛れなし
炎天の鹿に母なる眸あり
炎天の黄河ゆるゆる曲り来る
炎天の黒人霊歌けむらへり
炎天はときに富嶽を蔵すかに
炎天はまぶし目を伏せ旅疲れ
炎天は影よりほかになかりけり
炎天は打楽器ひびき合ふごとし
炎天は晴男の意地一周忌
炎天は蒼し廃墟に貌よごれ
炎天ふかく濃き青空を見定めぬ
炎天へ一歩の蟇の指ひらく
炎天へ出て恋ひはじむ伎芸天
炎天へ出る身構へのひと呼吸
炎天へ出揃いチェホフ忌の家族
炎天へ妻着て出づるジャワ更紗
炎天へ打つて出るべく茶漬飯
炎天へ朝から震う糞尿車
炎天へ炭車影ごと突つ放す
炎天へ無頼の青田もりあがる
炎天へ産まるるときはたれも泣く
炎天へ立ちてはならぬ葡萄蔓
炎天へ花かゝげそめやぶからし
炎天へ蜥蜴みづから色失ふ
炎天へ蝙蝠傘を挿入す
炎天へ遠き部屋にて水を煮る
炎天へ遠山をおく竹の幹
炎天へ鉄のベンチを引きずり来る
炎天も幾度か眼に余りけり
炎天も老いもがらんとしてをりぬ
炎天や「うごけば寒い」吾が墓石
炎天やいくたび人の死に逢ひし
炎天やいつまでのこる法隆寺
炎天やおもて起して甑岳
炎天やかばんの中の受信音
炎天やきらり~と水車
炎天やくらきところを家といふ
炎天やこの道のみは歩まねば
炎天やしかとふまへし火口丘
炎天やただ行くといふ意志あるのみ
炎天やつぼみとがらす月見草
炎天やなお抗わず税負う屋根
炎天やのめりて悪もなさぬなり
炎天やのめりて登る廃伽藍
炎天やひかりとぼしき車馬のかげ
炎天やひしと蔦這ふ石館
炎天やひそかに鹿に囲まれし
炎天やひとりとなつて風の声
炎天やむくろの蝉のうらがえり
炎天やゑた村の上に鳶の鳴く
炎天やをすめすの綱大まぐはひ
炎天やケセラ辻潤の背徳歌
炎天やピカソゲルニカ残しけり
炎天やマキンタラワのおらびごゑ
炎天や一念一歩山深し
炎天や一重瞼が恋しくて
炎天や世にへつらはず商へる
炎天や人がちいさくなつてゆく
炎天や人が小さくなつてゆく
炎天や内がわ曇る焼酎壜
炎天や切れても動く蜥蜴の尾
炎天や別れてすぐに人恋ふる
炎天や前世のやうに異国を過ぎ
炎天や動かしてみる己が影
炎天や十一歩中放屁七つ
炎天や厩の軒の古草鞋
炎天や口から釘を出しては打つ
炎天や口をつぐみし石地蔵
炎天や吹かれ通しの末枝の葉
炎天や命あるもの二三翔ぶ
炎天や地に分配の塩こぼれ
炎天や大樹になりたきイブの裔
炎天や天火取りたる陰陽師
炎天や子の手にぎりて何めざす
炎天や家に冷たき薬壺
炎天や小路を廻る薬売り
炎天や屋台の丈の屋台蔵
炎天や屋根なす浪の大室戸
炎天や山寨の鼓おどろおどろ
炎天や幌馬車一つ黒きのみ
炎天や恋ゆき死なばよかるらむ
炎天や我が毛穴より我が涙
炎天や投げつけし如き人の影
炎天や摩崖仏驚破崖を墜つ
炎天や昆虫としてただあゆむ
炎天や棒高跳びの棒倒る
炎天や森の青々樅梢
炎天や死にし血生き血よりも濃し
炎天や死ねば離るゝ影法師
炎天や水に磧に橋の影
炎天や水を打たざる那覇の町
炎天や海にこもれる海の音
炎天や渡頭の舟の枯れ~に
炎天や牧場ともなき大起伏
炎天や犬は背かず吾に蹤く
炎天や瓦をすべる兜蟲
炎天や生き物に眼が二つづつ
炎天や田の口細き水零れ
炎天や病臥の下をただ大地
炎天や相語りゐる雲と雲
炎天や秋蚕の為の桑の出来
炎天や空にも地にも花槐
炎天や笑ひしこゑのすぐになし
炎天や笠頼母しき鰻掻き
炎天や精を切らさず一飛燕
炎天や縄で氷を提げてきし
炎天や耳を削がれし気球たち
炎天や肩より匂ふナフタリン
炎天や胸に二トロのペンダント
炎天や葵咲かせて異人墓地
炎天や藤村顔の犬寝ておりぬ馬籠坂
炎天や藺の花ひらく水の上
炎天や蛙が鳴けば水思ふ
炎天や蛙鳴きゐる寺の中
炎天や蜥蜴のごとき息づかひ
炎天や行くもかへるも熔岩のみち
炎天や裏町通る薬売
炎天や誰か子はだしの放し飼
炎天や貝殻山を踏みしだき
炎天や道路工事の異国人
炎天や金策つきし鞄置く
炎天や釘打つ音の頭に刺さり
炎天や鉄線の弧は橋を釣る
炎天や鍋釜持たぬ野猿の顔
炎天や鎌を背にして海女あるく
炎天や長城嶺を直下せり
炎天や開かずの踏切てふに待つ
炎天や雫たらして岩兀と
炎天や青田の中に村ひそむ
炎天や額の筋の怒りつゝ
炎天や顔遠くして杉に立つ
炎天や鰻つかめば鳴くきこゆ
炎天や鳶交る声谺して
炎天や鴉があるく森の底
炎天や麹町なし水巴なし
炎天ゆく手提の中に鏡持ち
炎天ゆく水に齢を近づけて
炎天より僧ひとり乗り岐阜羽島
炎天より幼な燕の聲したたる
炎天より金魚の貌をして戻る
炎天をあるきて己れ光らしめ
炎天をいただいて乞ひ歩く
炎天をいよいよ青しきりぎりす
炎天をいよ~青しきりぎりす
炎天をぐわらんぐわらんと鐘樓かな
炎天をこのみて歩く布衣の肩
炎天をさ迷ひをれる微風あり
炎天をすぎゆく風のうすみどり
炎天をふわりと歩き転生す
炎天をゆきて戻りて掌がさみし
炎天をゆき目ン玉をおとしけり
炎天をゆくや彼の地に眼ひらきて
炎天をゆくわが息の聞かれけり
炎天をゆく明眸を失はず
炎天をゆく死者に会ふ姿して
炎天をゆく胎内の闇浮べ
炎天をゆく食はむため生きむため
炎天をマリオネットのごと歩し来
炎天を一人悲しく歩きけり
炎天を一枚の鴉落ち来る
炎天を一歩す心きまりけり
炎天を三半規管に従ひて
炎天を味方につけぬ勝投手
炎天を墓の波郷は立ちてをり
炎天を大きな腹でくる路地の妻女と目で挨拶
炎天を帰りみぢんに葱きざむ
炎天を愉しみゐるは雀のみ
炎天を憩ひの場とす服役し
炎天を断つ叡山の杉襖
炎天を来しよこがほで押し黙る
炎天を来し人に何もてなさん
炎天を来し人小さきドアに消ゆ
炎天を来てアポロンの喉ぼとけ
炎天を来てクーラーに冷やさるゝ
炎天を来てスーパーの深海魚
炎天を来てビルといふ影の箱
炎天を来て地獄絵に見入るなり
炎天を来て大阪に紛れ込む
炎天を来て押売の声つまづく
炎天を来て水音の如意輪寺
炎天を来て炎天を振りむく子
炎天を来て無類の妻の目の涼しさ
炎天を来て燦然と美人たり
炎天を来て砂浜を更にゆく
炎天を来て紛れなき金閣寺
炎天を来て苔臭き茶をすする
炎天を槍のごとくに涼気すぐ
炎天を歩きまはりて妻なき如
炎天を泣きぬれてゆく蟻のあり
炎天を真つ黒な傘さしてをり
炎天を真直に来てふり向かず
炎天を瞶むや刻のうしろより
炎天を耕し寡黙深めけり
炎天を蠍色にて立ちにけり
炎天を行くやうしろは死者ばかり
炎天を行くや身の内暗くなり
炎天を行く食はむため生きむため
炎天を負ひて二百五十歩かな
炎天を遠く遠く来て豚の前
炎天を避けきし蜂の逐ひ難し
炎天を鉄鉢と為す茄子の花
炎天を領せし加賀の國一揆
炎天を駆けて降園時間なり
炎天を駆ける天馬に鞍を置け
炎天を黒衣まとひて神の使徒
炎天ヘズボンの折り目踏み出せり
炎天墓地磨かれたるはかなしめり
炎天広場群衆はみな遠くあり
炎天来て肋截るべく告げられぬ
炎天無心どの墓もわれをふりむかず
炎天焦土人群れやすく散りやすく
炎天翔ぶ翼に無数の鋲かゞやき
炎天行かすかにきしむ鳩の羽
炎天行く真つ赤なものを身に纏ひ
炎天見る武人埴輪の面持ちに
炎天青く子の顔遠く旅にある
無人の境行くが如くに炎天行く
熱もつてゐる炎天を来し一書
父倒る炎天透けて音もたず
父母の墓炎天の真只中に
父母の墓遠く炎天に水こぼす
物言はぬ額炎天の笑ひ受く
犀星碑まで炎天の土不踏
犬撫でて炎天けもの臭くせり
猫、炎天の獲物へと近付けり
獨房の窓に炎天青く妻を追う
璃瑠蜥蜴棲む炎天の巌幽し
甘蔗丈けて炎天の道つづきけり
生きて渇く蟹よ炎天の蟹売よ
生くるべし炎天を航く車椅子
白い声発す喪のごとき炎天に
白炎天鉾の切尖深く許し
目をぎゅっとつむって開いて炎天へ
目鼻なき大炎天の正午なり
真炎天雀憶せず足許へ
眠る子を背に炎天の河馬の前
眼が裂けてをる炎天の鴎かな
碑まぶしく読み炎天を去りがたき
磐石に炎天の香ありにけり
祭絵馬より炎天の溢れ出づ
積砂利の中冷めきつて炎天に
空知川見えては光る炎天に
笑ひ声消ゆことはやし炎天に
米ぐらの倉庫は閉つていても雀炎天にあつまる
網走も炎天の下箒草
縛られ地蔵縛られつづく真炎天
罷り出ておろおろするな真炎天
老眼に炎天濁りあるごとし
耳より声出す炎天の曳かれ牛
胸なめゐし猫炎天に啼き上げし
胸の上炎天までを一樹なし
舟べりにゐて炎天の暗くあり
船半ば塗られ炎天の海動かぬ
草取はせず炎天を唯眺め
葉を巻いて炎天の虫栖みにけり
葛の蔓つるに絡みて炎天へ
蓮の風立ちて炎天醒めて来し
薄紅葉して炎天は昨日のこと
虫瘤の意気壮んなり真炎天
蛇が殺されて居る炎天をまたいで通る
蛙のむくろ腹見せて炎天の池の真つ青
蜂の巣を見つけ炎天子がわめく
蜜と乳賜ふカンナの白炎天
螺子ひとつ買ふのみに出づ真炎天
蟻一疋どちみても炎天の土
行乞の真上炎天うごかざり
解剖室の水流されて炎天へ
言葉たくみに炎天を遁れ来し
診察は束の間炎天また戻る
詩想・微風まとひつくのみ青炎天
豚炎天に哭き八方の釘ゆるむ
貧農が炎天干の胡麻むしろ
赤い旗振る炎天の貨車押せり
軽子職なし炎天仰ぐ遠花火
軽装がベスト炎天あるく旅
透視了へ炎天の鉄骨錆びたり
通院の炎天の道ゆく他なし
逢ふによしなく炎天の風に煽られて歩く
過ぎ去りし炎天かかえこむ産後
遠颱風炎天の奥軋み鳴り
邃く暗し炎天死後もかくあらむ
野ざらしに見ゆ炎天の蟹港
金策や炎天に顔突き出して
釘抜くや炎天に穴ひとつ増える
銭かぞふ男炎天濁しけり
銭落ちし音炎天のどこか破れ
長城を踏み炎天を忘れをり
隠岐からの船炎天に牛おろす
離農家族炎天に犬をのこし去る
雲過ぎる炎天さらに奥ありて
電柱の一列炎天はじまれり
電線の影あるのみの炎天を
青栗をゆする炎天のかぜ冷えぬ
頭にふるる炎天の風故郷なり
風のある炎天に出づ主義に生く
飴うりが飴うりに炎天に笛をふく
高原を馬馳け吾子馳け青炎天
高山もこの炎天の下に臥す
髪染めて偽りの身を炎天に
鬼に随き炎天の道あるばかり
鮒を蘭にさして通れり炎天に
鯛泳ぐとも炎天の彩褪せず
鳥なんぞになり炎天に消えなむか
鳥の眼で飲む炎天の水飲場
鳥棲まず風が果ゆく黒炎天
鳩に襲はる愉しさ炎天の一少女
鳴門炎天激怒しおこる貧乏渦
鳶鳴きし炎天の気の一とところ
黒眼鏡かけ炎天の墨絵かな
齢おもふたび炎天のあたらしき
遠天に雪の栗駒山仔馬撫づ
遠天に雪山ほのと秋の暮
遠天の蒼光り凍河流るる音
遠天へ遠山をおく竹の幹
遠天や童女着せかへられにけり
ころがして干天草の仕上がりぬ
仰ぎ見て旱天すがるなにもなし
旱天に星みえ疲労冴えてくる
旱天に蜆掻く音のみ遺る
旱天の冷えにのけぞる駒ケ嶽
旱天の夜雲の白き盆の唄
旱天の慈雨なる生絲相場かな
旱天の百姓何も持たず歩く
旱天の闌くる露もつ陸稲畠
旱天の雲がいちにち水のいろ
旱天の露さゝげたる木賊かな
旱天や軒端甜め飛ぶ蝶ひとつ
旱天を衝く葭切の声鋭ど
瓜蠅旱天の暾を愉しめる
叫天子九天九地に声充つる
九天の霞をもれてつるの聲
酒ノ瀑布冷麦の九天ヨリ落ルナラン
曉天を陸続と雁湧き出でし
曉天にひろごる茜田鶴わたる
芝ざくら好天あますところなし
好天にうるほへる洲の蘆を刈る
「荒天」の六林男にむかし歓喜あり
五形花田や荒天鴎流れ飛び
千鳥来てゐる荒天の桑畠
荒天に砂丘ただありきりぎりす
荒天の埠頭の雲に夏つばめ
荒天の海にたんぽぽ黄をつよむ
荒天を鎮めて上る冬の月
貌が眼が光り荒天かぎりなし
あっぱれの阿蘭陀万才秋天下
のこぎりの歯を秋天に剣岳
ふるさとを同うしたる秋天下
みちのくに入るや秋天高くあり
ゆくところどこも秋天に天守あり
サッカー少年午後の秋天喪失す
ヤコブが見し一つの梯子秋天へ
一荷つくりて秋天のもと入院す
一隅を領し大仏秋天下
人の像時を打つなり秋天下
人の死へ秋天限りなく蒼し
人の足に乞食合掌秋天下
何をなせとや秋天下かく臥して
光る湖秋天を引き上げてをり
出水退くや秋天日がな風鳴れり
北京秋天刺繍のくつにはきかえて
北京秋天纒足というもの消えし
北京秋天自転車水尾のごと流れ
厚朴の葉や秋天たかくむしばめる
口笛を吹く顔来たり秋天下
命蓮の法力使ふ秋天下
噴煙に秋天の風すさぶらし
園児等の声秋天に風となる
塔も碧き秋天を雲ゆき消ゆる
大玻璃戸拭き秋天を拭いてをり
天使魚も母も秋天知らず病む
家毀つ音秋天に谺して
寄せ打になる網舟や秋天下
富士秋天墓は小さく死は易し
寝しづむ数戸秋天塩川密漁期
山頂のなお秋天の底の吾れ
師の逝きて秋天の階あきらかに
弘法の産屋小さし秋天下
捨て錨秋天計り難きかな
故郷の秋天濃しや土手上崖の上
斧の音杉の貴船の秋天透き
方丈に鯉の一ト跳ね秋天下
曝涼の勅使に秋天晴れあがる
最上峡秋天を抜く土湯杉
望楼に登る秋天拡げつつ
朴の葉や秋天高くむしばめる
機影無し秋天の毬みな上下
沼に波あり秋天に何もなし
浮きをどる名古屋城かや秋天に
海女もぐる尻の丸さを秋天へ
点眼の一滴秋天より落とす
白浪とほく漕げり秋天鳥をもとむ
秋天が咳する煮干しか天皇か
秋天とわが山脈を基地が占む
秋天とわが身一つのほかはなし
秋天にうつろのまなこ笑みもする
秋天にこだまも青く枝おろし
秋天につかまつてをる蜘蛛のあり
秋天につながる坂をのぼりけり
秋天にまたたきはせず窓一つ
秋天にもたぐる芭蕉破葉かな
秋天にわれがぐんぐんぐんぐんと
秋天にクルスは白を色とせる
秋天に一蝶放ちモンブラン
秋天に傾きめぐる独楽があり
秋天に声なく伐折羅咆哮す
秋天に声をとばして心晴れ
秋天に微塵となりてゆく別れ
秋天に投げてハタ~放ちけり
秋天に日食終へし雲流れ
秋天に棹上げ答ふ渡し守
秋天に橋懸あり天女消ゆ
秋天に流れのおそき雲ばかり
秋天に煙突毀す男のあり
秋天に煩悩を絶つ鳶の笛
秋天に瑕といふものなかりけり
秋天に美校は古び置かれたり
秋天に翳はありけり瀧の壁
秋天に赤き筋ある如くなり
秋天に鉄うつひびき暮れゆけり
秋天に鐘打ち終へて十字切る
秋天に雲母ひろがるダビデの詩
秋天に音軽々と戦闘機
秋天に風の形のちぎれ雲
秋天に高く~と虫柱
秋天に鳶の翼の傷あらは
秋天のあをさ障子の外にあり
秋天のかく晴れわたること讃へ
秋天のひかり落つ五世歌右衛門
秋天の一翳もなき思ひなり
秋天の下に浪あり墳墓あり
秋天の天守閣より樋下る
秋天の岳のひとつに火山あり
秋天の巌より巌へロープかな
秋天の微塵となつてゆく離陸
秋天の昃り実生の松あかく
秋天の松より低き昼の月
秋天の果を浄土と疑はず
秋天の歓呼の中に君巨き
秋天の涯やたまらず一機澄む
秋天の球をどの子がうけるだらう
秋天の禽獲れといふ幼妻
秋天の紺きつぱりと子の嫁ぐ
秋天の藍抜けて飛ぶ鳥は師ぞ
秋天の藍火口湖にこぼれたり
秋天の裳裾を菊の彩れる
秋天の赤きしをりや幼き死
秋天の離々たり父の眉衰ふ
秋天の高さ淋しさ極りぬ
秋天は常のごとあり夫逝くに
秋天へ一と雲吐きぬ桜島
秋天へ千木もろともにわれきびし
秋天へ白き葉裏を竹煮草
秋天へ紺を投げたる山上湖
秋天へ飛ばしては売る紙の鳩
秋天やあまりに小さき子の拳
秋天やひとつの石に人集ふ
秋天やダム高々と瀞を捧げ
秋天や一ト日は籠り一ト日出づ
秋天や哭すれば青底ひなき
秋天や塔に根本如来在す
秋天や大堤防に寝ころびて
秋天や家に柩のはこばるる
秋天や峡をたのみて峡に生く
秋天や崩れ落ち来る砂丘壁
秋天や心のかげを如何にせん
秋天や最も高き樹が愁ふ
秋天や白根の湯釜夢のいろ
秋天や皆少年の墓の主
秋天や相かたむける椰子二本
秋天や石に塩置き放牧す
秋天や連理の並樹こゝに絶ゆ
秋天や長わづらひの人に飽かれ
秋天や飛べざる鳰は水に在り
秋天や高さ争ふ峯二つ
秋天や鴉の声は玉のごと
秋天をおろして牧柵をめぐらせり
秋天をかくさふ庭木栗も柿も
秋天をちさく占めしよ豚の捲尾
秋天をつくらんとして雲のとぶ
秋天をななめに頒つ男の手
秋天を仰ぎ打ち出す獅子太鼓
秋天を医やしつづけて火口の水
秋天を射たる砂丘の光り物
秋天を支ふものなき日本海
秋天を歩みて白湯を所望せり
秋天を溜め込んでいる壷の腹
秋天を癒しつづけて火口の水
秋天を祖とし我らに蒙古斑
秋天を絞り溜めたり山上湖
秋天を蜜柑暮れゆく早さかな
秋天を跳ぶ大道の曲芸師
秋天を開いて塔の建ちにけり
秋天ヘテニスサーブの胸反らす
秋天下ベルツの髯の一文字
秋天下ポケット押え探しもの
秋天下一杯に巻く竜頭かな
秋天下一歩あらたに老の杖
秋天下山落ちきつて太る水
秋天下微塵となりてゆく別れ
秋天下生きとし生けるもの蠢く
秋天下耶馬台国の一古墳
秋天下軽き罪持つ少年よ
秋天澄む真昼鍵かけもの書けば
秋天航く堅き空気につまづきつ
空母「みどり」秋天に泌みいる血友病
窓といふもの秋天を嵌めにけり
立枯れて秋天に立つ何の意ぞ
紺青の海坂まろし秋天下
絵画展出て秋天に階を下り
耕せり大秋天を鏡とし
製煉所秋天にトロの鳴り過ぐる
記憶の断層秋天の蝶墜ち来たる
誰がための秋天を置く水鏡
転けし子の考へてをり秋天下
野を馳くる仔馬の足の秋天に
鎌倉の谷戸秋天を高うせり
長城万里秋天はただ一枚に
阻む岩攀ぢ秋天の中に我
雑魚網を引き絞りゆく秋天下
雲のみか秋天遠きものばかり
青樫や秋天の雲にささやける
駱駝の背高し秋天また高し
鳥のみちすじ魚のみちすじ秋天下
鳥消えて秋天たよりなく広し
鴫立て秋天ひきゝながめ哉
鴫立て秋天ひきゝ眺め哉
黄河蛇行して秋天の打ち霧ひ
鼻綱を秋天に投げ牛合はす
龍舞のくねり始めぬ秋天下
龍馬像秋天冥むほど深し
わが頭上最も青し秋の天
上行と下くる雲や秋の天
僧達に大本山の秋の天
嗄煙は音なく秋の天に凝り
噴煙の雲となりゆく秋の天
囚獄のうす煙りして秋の天
天壇の瑠璃の歳月秋の天
石工に四角な秋の天ありぬ
秋の天むらがりて鯉傷つかず
秋の天小鳥ひとつのひろがりぬ
飛行雲二つに裂きし秋の天
鵄尾はねて支ふる如し秋の天
きみとみるこの夜の秋の天の川いのちのたけをさらにふかめゆく
一樹一石おろそかならず秋の天
上行くと下くる雲や秋の天
壺の馬抜け出しさうな秋の天
左右より雲来てかくす秋の天
秋の天微塵のいのち地に曝し
蜻蛉の微のまぎれずに秋の天
とびついてくる晴天のゐのこづち
むらさきの僧晴天の栗の花
カーンと晴天白鳥の来しと言ふ
ノアはまだ目ざめぬ朝を鴿がとぶ大洪水の前の晴天
ラムネで乾杯して涙ぐむ大晴天
一月末日大晴天を祀るなり
今日も晴天セーターにつよく首突込む
仏滅の晴天を呼ぶ*むつ五郎
土蔵ひらけば晴天のほととぎす
夏雲をきざす晴天海黝む
山梔子の火が晴天をまねきけり
帰り花この晴天の果ては雨
掛稲の夜の晴天を月わたる
晴天と一つ色也日傘
晴天と書きしばかりや初日記
晴天にあやかり点青犬ふぐり
晴天にいたいたしきは袋角
晴天にからからとひく鳴子かな
晴天にたゞよふ蔓の枯れにけり
晴天に広葉をあほつ芭蕉かな
晴天に暮てまもなし朧月
晴天に神話ぐらつく金屏風
晴天に苞押しひらく木の芽かな
晴天に身の軽くなり草の絮
晴天に雪散る日なり鷽替る
晴天に鳶の輪寒し梅の花
晴天の何か優れる凍深空
晴天の山ひとつ負ひ薺粥
晴天の昏るるべく燃ゆ葉鶏頭
晴天の樹の雫おつ青蜥蜴
晴天の水に突出し紅葉かな
晴天の水輸人ごゑ夏やなぎ
晴天の牛蒡の長さ抜き揃へ
晴天の真昼にひとり出る哉
晴天の真昼にひとり出る哉
晴天の筵機は藁噛みしまま
晴天の翳を擦りゆく蛇綺麗
晴天の芭蕉裂けたりはたゝ神
晴天の霧いつ閉ぢし蕗を刈る
晴天の鮟鱇といふわだかまり
晴天はいま風葬の山桜
晴天は鵙がもたらすものなりや
晴天へ虫とばしをり大夏木
晴天やコスモスの影撒きちらし
晴天や一遠に梅仰ぎゐて
晴天や恋をはりたる猫とゐる
晴天や白き五弁の梨の花
晴天より欅若葉の緑の聲
晴天を喪くすベトナム兵として
晴天三日節句を待たず桃ひらく
晴天枕に彼も宇宙飛行士のほほえみ
本日は晴天なり走行距離をのばす精子
柘榴裂け吾は晴天童子なり
毛虫出づ蕗を食べたき晴天を
滝を着込む熊あり倭国は晴天なり
病葉が晴天高きより落ち来
登山者のわが庭通る晴天也
百日紅晴天続きに干反る皮
菊咲くや晴天の風こまやかに
讃岐富士聳え晴天高うする
通草もぐふと晴天のでき心
青鵐鳴く晴天にして樹の雫
青鷺がここにもオホーツク晴天
駒鳥の告げし晴天夜につづき
鵙鳴けば晴天応へ居る如し
*はまなすに青天鵞絨の海昏るゝ
あけび蔓引く青天を手繰り寄せ
つぼすみれ濃し青天の落し胤
コスモスを越えて蟷螂青天ヘ
チューリップ青天へ温室の窓ひらく
一教師たかが青天白月ぞ
七夕の竹青天を乱し伐る
二度塗りのごとき青天寒土用
今白岳双峰赤天狗青天狗
冬青天意地はりとほす声したり
凧の糸青天濃くて見えわかぬ
出水退くや青天日がな風鳴れる
初舞台踏むかに春着背に青天
初髪に青天こぼす雪すこし
参道の青天細くほととぎす
囮鳴くや青天樹々の霜雫
墓掘りにある青天や曼珠沙華
夕の川風の母郷は青天に
夕べともなき青天の花火かな
山息吹く須叟青天の修羅落葉
文化祭紋章の蜂青天に
木の葉髪青天玉のごとくにて
木屑山より青天へかぶと虫
杉二十五幹同根冬青天
毛虫焼く火を青天にささげゆく
無風青天宝のごとし菜を漬くる
燃ゆる日や青天翔ける雪煙
牡丹は一茎一花、青天に對して開く
獅子舞の青天に毛を振りかぶり
白桃や青天へ皆のびし枝
石仏のねむき青天返り花
碧湖より青天かけて山紅葉
花過ぎの青天一日氷のごとし
辺福は青天と薔薇書買ふのみ
遥かなる青天を指しつくしんぼ
雪下し青天に腰のばしけり
雪卸し一隅の青天はためかす
青天が洩れゝ見え花の厚さかな
青天と一つ色也日傘
青天と辛夷とそして真紅な嘘
青天にくれなゐ少し落葉籠
青天にただよふ蔓の枯れにけり
青天に乳房柱しつ冬怯ゆ
青天に向つてひらく牡丹かな
青天に日はゆるぎなし山ざくら
青天に昼月雪しろ山女釣る
青天に月は大きな氷玉
青天に朝より凧を漂はす
青天に松散つて誘ふ音もなし
青天に沸騰しをる瀧がしら
青天に産声上ル雀かな
青天に白を増やして紙を干す
青天に米点打ちて公孫樹枯る
青天に縁濃ゆき月萩も白し
青天に葡萄の泳ぐ風迅しや
青天に開き切る桃ふくぶくし
青天に雪ちる戸々の飾りかな
青天に音を消したる雪崩かな
青天に飼はれて淋し木兎の耳
青天のざらつく花火買ひにけり
青天のとつぱづれ也汐干がた
青天のどこか破れて鶴鳴けり
青天の翳ると見えて雪崩れたり
青天の花に雨ばらばらと打ちかかる昼どき
青天の落花かがやき焼葬す
青天の藁にまみれし野梅かな
青天の蛇は縦に裂くべし車百合
青天の辛夷や墓のにほひする
青天の銀座で柿を食べにけり
青天の霹靂とはこれ蝉の尿
青天の霹靂癌来て吾れを犯すかな
青天は一枚の絹鶯に
青天は流るゝごとし冬木原
青天へ一瀑晒す木の芽かな
青天へ吹き上げらるゝ尾花かな
青天へ幹あり蝉の鳴きにけり
青天へ木兎がとび出し雪崩かな
青天へ梅の蕾がかけのぼる
青天へ風のぼりゆく竹の秋
青天やなほ舞ふ雪の雪の上
青天やアマリリスこそ島の芯
青天やレモンの如くひよこ撒き
青天や夜に入りつつも雪なだれ
青天や夜に入りつゝも雪なだれ
青天や植ゑし苗木を聳えしむ
青天や白き五弁の梨の花
青天や皇帝いつも蝶臭し
青天や落ちてみひらく花椿
青天や谿深きより花見唄
青天より落花ひとひら滝こだま
青天を一ト雲走る霰かな
青天を余し翠微を織る飛燕
青天を喪くすベトナム兵として
青天を悼みて地べた広がりぬ
青天を戴きたりし古巣かな
青天を流るゝ霧のありにけり
青天を鷹の逆落つ海あかり
青天地蛙葉と化しねむり溜む
須く太藺青天目指すべし
風船の早や青天に見放さる
鵙鳴けば青天応へ居る如し
鷹の声青天おつる草紅葉
鷹翔り青天雪を降らしける
鷹鳩に化して青天濁りけり
乗鞍岳烟り全天霰降る
寒星の爛たる眼全天に
長政のこゑぞ全天夕焼けて・・・タイ、インドネシア
除夜の鐘全天の星動き初む
雁過ぎしあと全天を見せゐたり
霜鏡全天瑠璃をなせりけり
一枚の蒼天傾ぎ枯野と逢ふ
兵の子の凧蒼天へ糸張れり
冬の橋うかぶ蒼天華麗にて
冬耕や蒼天の富士全かり
完泳の子等蒼天に立ちあがる
新築や蒼天上在二○○○年
枯木見て立つ蒼天に身をひたし
柘榴の実蒼天に爆ぜ武家屋敷
梯子乗蒼天ひびきはじめけり
毛虫焼き蒼天戻る枝の先
水鶏ゆくや蒼天ふかみ照りもせず
湖冴ゆる夜の蒼天へ風奔り
生まれくる蒼天昨夜へはせゆく霧
臘梅を剪る蒼天に梯子架け
花辛夷蒼天ゆふべ茜さし
茅枯れてみづがき山は蒼天に入る
莨一本蒼天の余寒来りけり
蒼天と碧海にのみ居る鯨
蒼天に冬芽満ちつつ山枯れたり
蒼天に山芋の枯れすすむなり
蒼天に枝つきぬけて桃の花
蒼天に桐の蕾のみな立てり
蒼天に氷れる滝の裸身めき
蒼天に浪くだけゐるとんどかな
蒼天に触れんと雪に来し山ぞ
蒼天に道あるごとし花吹雪
蒼天に金きらきらの秋の田の
蒼天に雲消ゆ雪嶺離りては
蒼天に髻とけし相撲かな
蒼天に鳶を放てる雪解かな
蒼天に鷹の帆翔斑雪村
蒼天のキンキンと鳴る釘をうつ
蒼天の一刷の雲冬嵐
蒼天の凍らんとして鷹翔る
蒼天の夜へつづけり愛と辛夷
蒼天の夢を淋漓と筆始め
蒼天の暮れてもあをし返り花
蒼天の槍若芝に落ちて立つ
蒼天は吹雪のひまに移りをり
蒼天へつづく尾根尾根植樹祭
蒼天へ積む採氷の稜ただし
蒼天や一夫あることのみ悲し
蒼天や父に尋ねる火のゆくえ
蒼天や舌出す凧の三番叟
蒼天や芙蓉はさらに身に近き
蒼天より八ッ手をたたくあられくる
蒼天をゆきつつ雲も氷る山
蒼天を切つて釣りあぐ鯊小さし
蒼天を来る~蜂の武者修業
蒼天を涵し氷湖の罅深し
蒼天下冬咲く花は佐久になし
蝉の尿無味無臭にして蒼天
雪晴れて蒼天落つるしづくかな
雪晴れの蒼天は智に鏡なす
雪解村蒼天もまた滴れり
鵙飛んで枝蒼天につきささる
中天の巨人懸垂もう止めよ
中天に太子現われ糸瓜かな
中天に日をとどめたる牡丹かな
中天に月いびつなる枯野かな
中天に月冴えんとしてかかる雲
中天に月懸り汐止るとき
中天に木枯の陽のありにけり
中天に舞はせて磴の落葉掃く
中天に蛙鳴き更け父みとる
中天に赤き月あり熱帯夜
中天に雁生きものの声を出す
中天のつきやおぼろに潦
中天の巨人懸垂もう止めよ
中天の日の光浸み枯尾花
中天の日を浸し湧く冬泉
中天の月の昏さよお山焼
中天の月橘の中よりす
中天の陽をあふち撲つ幟かな
中天を翔び来る鴨の跡ひかり
噴煙も珠冬麗の中天に
大根引磐梯の日の中天に
山の日は中天にあり蝶の舌
心電図を襲いて中天へゆく雷の群れ
日は玉のごと中天に合歓の花
月明の滝中天にかけのぼる
水芭蕉中天に日も蒼みたり
虫時雨寝て中天へ掲げらる
道白くはじまりすでに中天なり
遠つ汽車の音中天に冬はゆく
銀河中天老の力をそれに得つ
雨の中なほ雪痕を中天に
鳴神の一鼓百鼓や壺中天
あめゆきは天界の垢冷えゆくはいのちを産みし不灘なる腔
天水に映る天界涅槃寺
天界に仕事始めの縄なふや
天界に倦みて風船降りてくる
天界に塵の狂乱蘆を焼く
天界に待つひと増えて
天界に待つ人増えて
天界に散華きらきら蝉の昼
天界に月と火口湖相照らす
天界に湧く水蒼しお花畑
天界に火星燃えそふ門火かな
天界に焦すものなきお山焼
天界に雪渓として尾をわかつ
天界のものとし拾ふ沙羅落花
天界の供華大輪の揚花火
天界の入口めきて末黒山
天界の父母に火宅の茸飯
天界の花地に咲けり曼珠沙華
天界へ一抜け二抜け踊りの輪
天界へ向け大氷柱叩くなり
天界へ跳んで白隠雪嶽描く
天界やさらに幻らきが雪乳房
天界や横より雨のごときもの
天界を下りぬ暗きに夏蚕見て
帆をあげて天界めざす水芭蕉
御来迎天界の露降り尽す
朴咲きぬ天界おのづから青し
椋鳥さわぐ天界不況和音なし
泥つけしまま天界の凧となる
炭竃を見て天界を臨みもし
蛇の衣垂れ天界に点る声
野火を愛せよ天界にある戦さ人
行住の天外かゝる苅田径
冬星や天球廻す者ありて
天球にぶらさがりいる人間のつまさきほそいかなしみである
天球に冬のひかりの深きものいかつり星と呼べばかなしも
天球の一角おぼろなる砂漠
天球図持ちし煬帝二十歳のまま
蟹の穴より天球へ泡ひとつ
わが屋根にとどろく雨に暗闇にみひらき思う天空のいたみ
凍ゆるびたる天空の窪みかな
天空に大書し小学生昏れゆけり
天空に月ひとつわが受精卵
天空に潮のひびき朴咲けり
天空に白妙の富士磯遊び
天空に神の弓あり破魔矢うく
天空に鳥別るるや洗い髪
天空のうすむらさきを鶴舞へり
天空のかくもしづかに大旱
天空は生者に深し青鷹
天空へとぶ草のわた沓穿けり
天空へ喉のすりへるまで雲雀
天空へ自讃の朴の花を放ち
天空へ舞ひあらはれし鷹一つ
天空へ駆けのぼるごと冬の滝
天空も崖もまぼろし氷り瀧
天空も水もまぼろし残り鴨
天空下蝦蛄仰向けに干されける
日の夕ベ天空を去る一狐かな
春の夢天空駆けてゐる「わたし」
牡丹吹かれゐて天空に波おこる
秋霖や天空見える鳥の檻
耳聾す風天空を花こぶし
落蝉の天空を風吹き抜けり
ストーブにビール天国疑はず
二人子にぬり絵天国梅雨永し
偸安や雨粒光る実南天
大揚羽娑婆天国を翔けめぐる
天国の夕焼を見ずや地は枯れても
天国に近い薔薇です
天国に近き山家ぞ星月夜
天国の刻が遅れて鳴りそめし
天国の夕焼を見ずや地は枯れても
天国の大寒小寒治虫かな
天国の夫に白夜の旅だより
天国の時計鳴りゐるきんぽうげ
天国の母からの餅焦がしけり
天国の鍵わすれたる星月夜
天国へ行かず密集の雪のべか
天国へ行くまで母は地獄の草*毟り続け
天国ヘルイス茨木足袋はいて
天國に花の翳添へな
天國へ行くまで母は地獄の草毟り続け
掛取りのもどり天国のよな夕焼
暖炉燃え河童天国満たしをり
枯芝に寝て天国と対ひ合ふ
殉教者に天国さむき露のいろ
洟拭きしあと天国を希ひけり
漆黒の蛙天国医書を閉ぢ
秋日燦天国自由切符欲し
臀あたためつ天國の話すこししたり
虹の輪の中の天国見ゆるかと
蚕豆の花や天国知らぬ母
蛙天国かんかん帽がやつてくる
親なしの天国いかに露の夜
虫涼し天象星を列ねたり
あやまちて天上の麦刈りつくす
うなり凧天上にあり軒菖蒲
つきぬけて天上の紺曼珠沙華
なべて霧天上の月孤なりけり
まんまろき餅が天上を志す
やすらかな天上に屠蘇酌み給へ
わが墓は天上にあり乱れ萩
二級河川天上川に冬日差し
八朔の天上大風響き止む
出初式果つ天上の水びたし
初鴉一羽離れて鳩の天
受難節天上にあり朝寝せり
墓原に咲く曼珠沙華誰が「死後の恋」突き抜けて天上は紺
夜光虫燃え天上に銀河濃く
夢醒めよ天上大風凧あがる
天上にちかき淋しさケルン積む
天上にちちはは磯巾着ひらく
天上にひきあぐ螺旋鷹柱
天上によき国ありや星月夜
天上に上りし蛇の衣掛かる
天上に修羅ありぬべし散る銀杏
天上に倦む日や蝶の胴くびれ
天上に咲く華挿頭し寒烈し
天上に川あるごとく靴流る
天上に師の顔笑ふ初笑ひ
天上に御座ただよふ春の雁
天上に戻らでなんの曼珠沙華
天上に昇らむと蝶生れけむ
天上に星斗雛にかよひ路ありやなし
天上に映りて麦を刈り尽す
天上に杖倒れゐる麥は穂に
天上に梅咲くほかは怒濤かな
天上に殖ゆる血痕曼珠沙華
天上に母を還して蜷の道
天上に滝のひびきの朴散華
天上に火をつけにゆく蝸牛
天上に紅差し指をわすれきて
天上に羽衣の曲月今宵
天上に触れし花火の散るほかなし
天上に誰か笛吹く囮かな
天上に還らむとする風花あり
天上に銃口はあり寒雀
天上に風あるごとし竹の春
天上に颶風童女を載せ駱駝
天上に鳶の木赫と雁渡
天上のひたひたと昏れ牡丹焚く
天上のやうに耕しはじめたる
天上のゆたかなるころ雁渡る
天上の声の聞かるゝ秋うらら
天上の声溜めおらん白椿
天上の妻のつむぎし雪の華
天上の妻への手紙朴の花
天上の恋をうらやみ星祭
天上の我が母もまた落葉焚
天上の日を鎮めゐし狐罠
天上の椅子降りてくる雪の朝
天上の楽零れ来る落花かな
天上の湯浴みをここに柚子湯かな
天上の灯は二月堂春の闇
天上の熱帯魚賣場でござゐます
天上の父への献花川開き
天上の玩具鳴りゐる油照り
天上の真日の焔や梅の花
天上の花摘むごとし野の遊び
天上の茶会に召され冬の星
天上の言葉ついばみ小鳥来る
天上の誤謬の鶴を撃つ友よ
天上の隅を見てをり煤拂
天上の風の涼しき修験みち
天上の鱶が目覚める牡丹雪
天上は春風まかせまなぐ凧
天上は骨のにおいの日傘かな
天上は鰯雲地を乳母車
天上へ赤消え去りし曼珠沙華
天上もまた秋蝶の舌の光
天上もわが来し方も秋なりき
天上も天下もあらず白日忌
天上も淋しからんに燕子花
天上より椅子降りてくる雪の朝
天上をさして揃ひぬ帚草
天上を過ぎてゆくもの風の盆
天上を闇の底とし春の星
天上を鴨わたりゆく響きかな
天上大風地上に春の花きそふ
天上大風天狗牛若まなぐ凧
天上大風梯子乗りして遠見の形
天上大風田螺の道の今日短かし
天上大風秋蝶のきりきりと
天上大風麦酒の泡は消えやすく
天上氷河地上花野よ徒渉る
孑孑が天上するぞ三ケの月
彼へかれへ天上の蒼なだれおり
御来迎天上に音なかりけり
手品師は村過ぎて天上に犀がゐる!
散り紅葉夜は天上のきらら星
日は沈む狐影天上の雪に曳き
日天上うましき枇杷ぞ手にもがむ
明日は吹雪かんと天上蒼ざめたり
春月や摩耶山*とう利天上寺
春風や天上の人我を招く
暮れてなほ天上蒼し雪の原
木の葉舞ふ天上は風迅きかな
桜淡墨天上無風散りそむる
椋鳥や天上すでに北の音
死ぬために天上帰る雁ならめ
水飲んで天上くらき夏あした
涼味満点天上大風てふ地酒
片雲の散り尽くしたり鵙の天
白髪の天上母のほととぎす
秋澄むや天上希求埋葬図
立秋の雲天上は無風かな
糸尽きてなほ天上を恋ふる凧
絹雲や日は月山の天上に
芋畑天上大風吹き初めぬ
葡萄垂れ天上をゆく強き櫂
蝶に針天上ふいに足元に
雹止みて天上雷を残しけり
餅搗のあと天上の紺に溶け
鳴神の逢瀬天上往き来して
鵙なくや雲の切目の蒼き天
鶴舞うて天上の刻ゆるやかに
啓蟄やキトラ古墳の天体図
天体に身を差し入れし髭くぢら
天体のくらみをめでて夏帽子
天体は移りつつあり冬の城
天体や多産の綿のほとりゆく
天体や桜の瘤に咲くさくら
天体や黒い肌に冬の蝿
天体ニ氷ル脂訪ヲ狙撃セヨ
星の生誕現場を想う天体を模したる経穴を體に探りつつ
秋に入る天体の環あるごとく
胡桃割る夜や天体の遠ざかる
花火爆ぜ天体繭のごときもの
蜂窩垂れ天体昏きこと久し
遊里に天体を抱く上を下へののどけさ
天頂に出て逆落し渡り鷹
昇りゆく月に天頂ある如く
オリオン座天頂に年逝かんとす
天文の博士ほのめりく冬至かな
天文や大食の天の鷹を馴らし
天文や大食の天の鷹を馴らし
天文や明日よりの妻を薬すかな
からたちの冬天蒼く亀裂せり
まひる冬天の青かぶさり来て沈黙
カシオペアは冬天の椅子児は寝しや
コルト撃ち恋冬天にひるがえる
ザトペック冬天を馳す跫音す
ペン執りし身を冬天に爆ぜしめき
信濃路へ冬天の川ながれをり
冬天が星をこぼせり達磨市
冬天といふ一枚の碧さかな
冬天にゆゆしきほむら落城史
冬天に勁きくちばしありにけり
冬天に牡丹のやうなひとの舌
冬天に見えぬ星あり娶られて啼かず翔ばずのひと生の如き
冬天に透く金の葉や樺の梢
冬天に錐立つ嶺のテレビ塔
冬天のどこまで異邦紅茶澄む
冬天のまるくかかれり無住寺
冬天の動物園や歌舞伎町
冬天の無縫の青を遺さるる
冬天の碧さ言ふべきこともなし
冬天の青に湧き顕つグレコの街
冬天へ杉は槍なす平家村
冬天や北に棲むほど熱き肌
冬天や噴煙のほかに雲二三
冬天より父貌の鳥降り来たる
冬天を仰ぎぬ要らぬものばかり
冬天を降りきて鉄の椅子に在り
呼ばれたるごとく冬天打ち仰ぐ
失墜の鳥を捜せこの冬天の坂の彼方
屋根に猫鳴いて冬天遠きかな
岩裂けて冬天にひとを攀じらしむ
松ふぐりひとつは蒼き冬天に
核の冬天知る地知る海ぞ知る
欺かれ冬天あまり青く寡婦
汝冬天にありきわが乳房と
蹴球や冬天に見る時計塔
鉄階のつめたさ冬天の蒼さ
鳶の笛冬天汚れなかりけり
仏塔は凍天の独楽影引きて
凍天に星を鏤め月を彫り
凍天に逆さ吊られ咲くは音楽
凍天へ干すは磔刑男シャツ
凍天へ弾キュンキュンと喰ひ込めり
凍天や無灯の聖樹残しけり
掴みどころなし凍天の縄梯子
つきとめし香ぞ曇天の椎の花
ばら百花曇天の日のある限り
もう小鳥来ぬか曇天ひろがるか
タンポポの黄に曇天の沼覚めし
何で癒やす疲れ啄木忌の曇天
初花や曇天にして澄みわたり
坂くだる曇天あつと桃が咲き
少年の唾曇天の蔦若葉
底光る夏の曇天煙突ども
新たなる竹に曇天すぐ来たり
曇天と古草の間屍行く
曇天にまぎるる桐の咲きにけり
曇天にシユールになれる薔薇であり
曇天に三椏の花ふさぎ虫
曇天に時に湧きたつ鵜なりけり
曇天に江山ほのと氷かな
曇天に紛れて針を買ひわする
曇天に花は溢れて空家かな
曇天に雪嶺しづむ野梅かな
曇天に風募り来し落花かな
曇天のにはかに日差す桔梗の芽
曇天のひくき揚羽を怖れけり
曇天のわるい人らがくもり居り
曇天の土に梅剪りこぼしたる
曇天の山をだまきは睡き花
曇天の山深く入る花のころ
曇天の椿が落す椿かな
曇天の母屋に風邪の老婆かな
曇天の気晴らしとなる若布の香
曇天の水動かずよ芹の中
曇天の白き太陽蟻地獄
曇天の百舌横着に高杉に
曇天の罠よりぬくきもの外す
曇天の耐へに耐へをる大手まり
曇天の花重たしや義士祭
曇天の虹怺へをり消えつつも
曇天の釣舟草の皆揺るる
曇天の鵙の長啼き海ふくらむ
曇天の黄色い老婆を射殺せよ
曇天の黒点なれど声は雲雀
曇天へまづ白点や辛夷蕾む
曇天へ煙直ぐなる野焼かな
曇天やことに孔雀と乱れたり
曇天や塀に重たき花ミモザ
曇天や縮れて梅の走り花
曇天や菊よりしろき鶏のむれ
曇天や蝮生き居る壜の中
曇天をうけとめてゐる蓮の葉
曇天空砲方向喪失のレミコンへ
沖の曇天パン抱いて漂泊をこころざす
浅春の曇天うるむ細枝網
渦潮の曇天にして青奈落
白鳥翔け曇天の可視圏内
硝子器重し曇天に桜満ち
硝子障子は曇天のいろ笹子鳴く
義士祭の曇天の花重たしや
花合歓に曇天覆ひ被さりぬ
茄子茂る曇天を風吹きすさび
菫は野に鳶職屋根の曇天に
華麗とは曇天を得し葉鶏頭
蛭泳ぐ曇天遠く爆破音
遠い炎が児え曇天の花ざかり
金亀虫交む曇天白きとき
雄鶏と曇天の火を掻きおこす
雲雀の音曇天掻き分け掻き分けて
青む草木曇天をさへ格子へだて
いつまでも暮天のひかり冷し馬
凧揚げし手の傷つきて暮天かな
団扇さげて見やる暮天の鷺影かな
引鴨のふたてにわかる暮天かな
暮天の冬日掴み来たれよかじかむ子
月山の暮天うつくし雛燕
松は高し暮天を移る鴨の声
水現れて檜山の暮天曳き落つる
水鳥の聲のかたまり暮天冴ゆ
波の刃を暮天にのこす秋の汐
海鼠噛む遠き暮天の波を見て
稲扱機音し暮天にはばからず
立葵いよよ素知らぬ暮天かな
紙鳶あげし手の傷つきて暮天かな
虹ありし暮天の碧さはなやぐも
鉄風鈴鳴りぬ暮天にまぎれなく
友よと告ぐる死やひびきあう星満天
年ゆくと満天の星またたける
慈悲心鳥満天の楢萌えほぐれ
手繰り寄せ木槿を截るや梅雨満天
星満天まだ若き同志らのいたわり
星満天雁わたるべき道もなし
月出づと満天の星黙しけり
橇がゆき満天の星幌にする
涯まろき満天の星吾子生るる
満天に不幸きらめく降誕祭
満天に星降り来ると初便
満天のひととき近し田植後
満天の星が響くよラムネ玉
満天の星に会陽の垢離をとる
満天の星に引鴨たぢろがず
満天の星に旅ゆくマストあり
満天の星の一つを見て寒し
満天の星の中なる天の川
満天の星ひびき合ひわがための鎖となりて落ち来る怖れ
満天の星へかはづのこゑ畳む
満天の星を支へて枯木立
満天の星墜ちてくる寒夜かな
満天の星消ゆるまで空磨く労働の中身たれも穢して
満天の春星ねむるけもの達
満天の枯野の星のみなうごく
満天の波羅蜜の世の樟若葉
満天の雪に舟出す葦間かな
満天を怖るる鹿のをとこかな
独活買つて提げ満天に貼りつく星
藤の葉の満天にあり散りはじむ
赤富士に露の満天満地かな
また青き夜天にかへる火事の天
まぼろしか非ず夜天の雪の富士
凍鶴は夜天に堪へず啼くなめり
凩の夜天の端や輜重行
味噌釜を干す白鳥の来る夜天
夜天より大粒の雨花篝
夜天より梯子降りきて梅を干す
撒水形の花火や夜天青むかに
日記買ふ夜天を焦がす熔鉱炉
浦富士は夜天に見えて鳴く千鳥
省みるばかりのひと夜天の川
軍需工業夜天をこがし川涸れたり
長崎を夜天に描く麦の秋
青黍の夜天の澄ぞ押しうつり
この穴の青天井の八咫鳥
ふらここは青天井より垂れゐたり
日の暮の青天井に地虫なく
枝沿ひに桃咲き昇る青天井
枯柏青天井の何処か鳴る
柿ことごとく落ち裏山の青天井
梅林の青天井に飛行雲
水馬青天井をりん~と
花冷えの青天井に及びをり
草の絮青天井をめざしけり
青天井公共の場を掃初ぞ
鴨引くにはそら恐しき青天井
鵙を追ふ鵙や青天井に飽き
あらかやの砂舞い昇れ茜空
杉冷えてゆく広重の茜空
茜空凍みて東京横浜間
雪嶺の浮きて流れず茜空
しんしんと澄む秋空やゆき場なし
ポプラはや秋空透しはじめけり
一遍の秋空に遭ふ日暮れかな
喪われた秋空のもとインコ埋める
夏空が秋空となる刻に音
子供らよ秋空に放たうものなく
富士の弧の秋空ふかく円を蔵す
寶石売子の目に秋空の澄むつかれ
昨日より深き秋空庭師来る
時じくに秋空欠けて瀧落つる
曳かれる牛が辻でずつと見廻した秋空だ
枯竹を割るみやびごゑ秋空に
白壁は秋空のある窓に厚し
秋空がまだ濡れてゐる水彩画
秋空にさしあげし児の胸を蹴る
秋空につぶてのごとき一羽かな
秋空にとどまる打球ありにけり
秋空にとぶ竹竿のしなひやう
秋空にジラフ仕立てのトピアリー
秋空に何か微笑す川明り
秋空に大皿役げる婦人かな
秋空に富士の孤高の犯されず
秋空に尖塔のクルスやゝ歪む
秋空に斑鳩の路地すぐ終る
秋空に煤煙としてただよへり
秋空に音を投げ出しちんどん屋
秋空に鳶の打ったる感嘆符
秋空のつめたさ谷の日をおほふ
秋空の一族よびて陽が帰る
秋空の奥に星辰またたきぬ
秋空の晝は火山を低くしぬ
秋空の深みより蜂もどりつぐ
秋空はうらおもてなき扉かな
秋空へ大きな硝子窓一つ
秋空へ打ってこどもの闘鶏樂
秋空やこころおぼえの窓の人
秋空や天地を分つ山の王
秋空や子をかずつれし鳶の笛
秋空や嵐忘れし雲高く
秋空や日和くるはす柿のいろ
秋空や日落ちて高き山二つ
秋空や里穏かに寺の屋根
秋空や飽食の子の夢持てず
秋空や高きは深き水の色
秋空を二つに断てり椎大樹
秋空を金襴屋台押し移る
窓外の秋空のごと出湯澄めり
草に寝て秋空の紺眼に溶かす
記憶にも今日の秋空桐立たむ
雲に透く秋空見れば笛欲しや
二日早や朝空汚すけぶりかな
初山の朝空雪を散らしけり
地うるむ朝空ふかし鰯雲
廂間の濃き朝空や書より紙魚
朝空に鷺仰がるゝ田植かな
朝空の隈なく晴れて雪解かな
朝空の青きに消ゆる月ならず
朝空は鏡のごとし田鶴わたる
朝空も定まる色に春の土
朝空や一樹の朴葉散りつくし
朝空や背戸の芋掘佛の日
朝空を青一枚に朴の花
朝空焼けて*ほうぼうのみちをゆく
火の粉とぶ朝空零下父生きよ
花莟む朝空ふかく風秘めぬ
朝顔やわれを引き抜く天つ空
水泡にうつりて曲る天つ空
夕くれや花をはなるゝ天の原
天の原よし原不二の中行く時雨かな
天の原南十字の傾ける
天の原和田の原より初鴉
天の原夏富士藍を流しやまず
天の原月出づる大気ながれけり
天の原雪渓の襞そろひたる
天の原鶴去つて残暑すみにけり
富士はだけて雪解光りや天の原
秋風や鹿の嗅ぎ寄る天の原
膝たてゝおそき日みるや天の原
銀杏全く黄葉して散らず天の原
雉子の啼く鏡のおくや天の原
遠空にナイター明り亀乾く
遠空に出初の水の走りたる
遠空の火事のほむらもさめて来し
遠空の露の茜や宝塚
遠空へ雪嶺畳めり晝蛙
遠空をゆく電車音野は凍てて
遠空を染むる花火や盆芝居
十二月の曇空よ暮れてしまへ
しわしわと梅雨竹の子の曇空
人に家雁に寒空果てしなく
口きりや此寒空のかきつばた
寒空に乾ききつたる鳶の声
寒空に杵売るを見む買はねども
寒空に枝こまごまと伸びきりし
寒空に皮を剥るふぐと哉
寒空に都を逃し物ぐるひ
寒空に鳴るニコライの鐘うごけり
寒空のどこでとしよる旅乞食
寒空の昼の眉月田が終る
寒空は輝く雲にありにけり
寒空へ枝強く張る鬼くるみ
寒空やみなあきらかに松ふぐり
寒空や鶴しづ~と汚れつゝ
寒空を穴の開くほど見てをりし
朝寒空「けふははっきりしませんね」
火種にも似て寒空ヘピラカンサ
時雨空よりも暗かり佐渡の海
時雨空光りくる朝の松葉踏む
時雨空木の間ゆく身を思ひ見じ
竝ぶ訃やただ柿熟るゝ時雨空
薪割って割って憂さ飛ぶしぐれ空
蝉時雨空の真ん中穴あいて
蝋梅や枝疎なる時雨空
鶴は棹鴨は飛礫や時雨空
うすうすと紺のぼりたる師走空
師走空暮るると見つつ眠りたり
長梯子何処へ掛けても師走空
ラムネ飲むとき蒼空のほか見えず
凍蝶に蒼空うすれさがりけり
夏深き蒼空鳶がすべるのみ
月山の蒼空冥し夏スキー
燕の恋蒼空の毬と逐ぐ
瑠璃揚羽蒼空の蒼持ち去れり
知床の蒼空滝を振り落とす
蒼空に星かげの無き白夜かな
蒼空に罠はじけ居り冬の山
蒼空の切り傷となる幼児の頸
蒼空の松の雪解や光悦寺
蒼空や桑くゞりゆく秋の暮
蝌蚪の池蒼空すこしうつしをり
雹はれて又蒼空や梅かほる
馬の瞳に蒼空映る冬木風
そらまめの葉裏空色招提寺
また逢わんいぬのふぐりは空色に
ネクタイは鳩の空色七五三
久方の空色の毛糸編んでをり
寒烏傾くときは空色に
曙の空色衣かへにけり
朝顔のみな空色に日向灘
沼と空色を同じに蘆花日和
目薬は夜も空色猫の恋
稲雀日は空色に磨かれて
空色のゴム手袋や牡蠣を割る
空色の山は上総か霜日和
空色は男の色よ新学期
空色は褪めつつ母と洗う罎
長月の空色袷きたりけり
露草の空色の花の咲くあたり
麦藁を染めバラ色に空色に
*はまなすやきのふより濃き空の色
かなかなや夕ふと空の色うごき
つちふるも武蔵野ぶりの空の色
はまなすやきのふより濃き空の色
ふところに柚子一つある空の色
スケートに青きかなしき空の色
亜浪忌や空の深みに冬の色
初午や星出るころの空の色
十六夜や慥に暮るゝ空の色
噴水をひきたてゝゐる空の色
夕暮の氷柱は空の色をして
夕桜夕とは空の色のこと
子等去りてプールは空の色となる
春の田へ落つる時水空の色
春めきてものの果てなる空の色
春暁の移りつつある空の色
朝貌の今や咲くらん空の色
朝顔に空の色まだ定まらず
朝顔の凋ばぬ今日の空の色
渡り鳥見えずなりたる空の色
猫柳故郷にありし空の色
真日照るや樹氷に冥き空の色
秋なれや木の間木の間の空の色
秋海棠まだ降りたらぬ空の色
空に空の色よみがへり黄水仙
空の色うつして雪の青きこと
空の色うつりて霧の染まるかと
空の色やさしくなりぬ良寛忌
空の色大地にうつり冬館
空の色映し矢車草ひらく
空の色映りて晴るる氷柱かな
空の色松虫草の花にあり
空の色濡るると仰ぎ木の芽吹く
空の色透かしレースの傘開く
芦刈つて水に触れたる空の色
落鯊や風の出できし空の色
蓮の実のはじけ飛んだる空の色
蓮の花数へてよりの空の色
蕣や夜は明きりし空の色
見とれるやむかしの空の色を着て
遠火事や焦がしあまれる空の色
雑踏やラムネの泡と空の色
雲よりも花に従ふ空の色
枯芦の空の海あるさま
立秋と云はれて空の海のいろ
おほむらさき太虚も又年経たる
はねつるべ太虚に跳ねて五月の村
吹き抜ける落葉の太虚妻らの旅
太虚を孕み割れたるガラスびん
日の尾根の太虚に亙り寒き聯
秋の雲太虚の風に乗りにけり
芦枯るる風が研ぎ出す太虚の日
萩刈りて太虚といふを庭の上
谷渡る雉子に太虚の光りかな
雪嶺の無言に充てる太虚かな
鷹の巣や太虚に澄める日一つ
日が割る梅雨空洗罐婦に水云ひなりに
梅雨空となるオルガンの踏みごたへ
梅雨空と吾子の泣声かぶり病む
梅雨空に罅はしらせて雷一つ
梅雨空のずり落ちて来る馬の尻
梅雨空の突っかえ棒の外れ月
梅雨空へ三十六峰雲を吐く
梅雨空や水も昔の色ならず
梅雨空や独楽屋の独楽のみな横倒れ
梅雨空を押上げのぼる観覧車
痢にこやる妻に梅雨空けふも低し
送電線無限梅雨ぞら鷺倦めり
風邪永びく梅雨空垂れておびやかす
低空の夕日を掬ひ初つばめ
低空を古型機飛ぶ菊花展
低空を煙ながれて萵苣はがす
日本の笑顔海にびつしり低空飛行
梅雨茸や低空飛行実に低し
温室の内翳らせて低空機
知覧より低空飛行桜どき
わが屋根にとどろく雨に暗闇にみひらき思う天空のいたみ
凍ゆるびたる天空の窪みかな
天空に大書し小学生昏れゆけり
天空に月ひとつわが受精卵
天空に潮のひびき朴咲けり
天空に白妙の富士磯遊び
天空に神の弓あり破魔矢うく
天空に鳥別るるや洗い髪
天空のうすむらさきを鶴舞へり
天空のかくもしづかに大旱
天空は生者に深し青鷹
天空へとぶ草のわた沓穿けり
天空へ喉のすりへるまで雲雀
天空へ自讃の朴の花を放ち
天空へ舞ひあらはれし鷹一つ
天空へ駆けのぼるごと冬の滝
天空も崖もまぼろし氷り瀧
天空も水もまぼろし残り鴨
天空下蝦蛄仰向けに干されける
日の夕ベ天空を去る一狐かな
春の夢天空駆けてゐる「わたし」
牡丹吹かれゐて天空に波おこる
秋霖や天空見える鳥の檻
耳聾す風天空を花こぶし
落蝉の天空を風吹き抜けり
ふるさとの中空せましつばくらめ
オリオンのかたむきふけし中空に撓るがごとき風ふるふ夜
中空にとどまる凧も夕陽浴ぶ
中空にとまらんとする落花かな
中空にひらきし面て銀杏散る
中空によろけ竿灯立ち直る
中空にオリオン揚げて村凍てし
中空にバケツを伏せて死ぬ四月
中空に修羅を舞ひたる春の夢
中空に手を挙げカインの末裔とぞ
中空に月吹上げよ冬の風
中空に槻の落葉と鵙の声
中空に澄み切る秋の骸かな
中空に秋の燕となりにけり
中空に素の香を流す泰山木
中空に見えて芒種の月の暈
中空に見し雪片を身にまとふ
中空に起重機鳴れる深雪かな
中空に銀河放てり奥穂高
中空に降りきゆるかと夕あられ
中空のうごかぬ月をうらみけり
中空の茜さす薔薇に閉しける
中空の鴉見送る単衣かな
中空は川曲明りに秋の声
中空は白熱ゆらぎ桃の花
中空は蝶そぎ落す最上川
中空をつづる炎や萩を焚く
中空を割りし軽雷こぶしの芽
中空を十六夜の月の出かけかな
中空を歩きすぎたる花茗荷
中空を芭蕉葉飛べる野分中
中空を風鳴り渡り千鳥なく
中空を駈けて修羅なす修二会の火
冬終る封筒の中空色に
夏来たる砲台の中空つぽで
折れて伸ぶ木賊一群中空の思想といふを如何に束ねむ
松の花風は中空のみに吹く
梅白し中空を風猛りつつ
水仙や日は中空にかゝりたる
河鹿の音月あるときは中空に
涅槃したまふ中空を飛び交ふ蜂
渡り鳥伸び縮まりつ中空に
滝凍る中空に裾ふつ切れて
炎天の中空を雲押し来り
稲扱機踏むや西透き中空透き
雀より鵙が近しや熱の中
霾ぐもり大鉄橋は中空に
青柚もぐ中空に香をはしらせて
かの地層河より立ちて夏空に
さだかに夏空音さし交いに砂利を練る
シートベルトかちゃりと締めて夏空へ
パントマイム天使の輪っか夏空に
不動明王夏空かすめゆくものなし
仰のくや夏空落ちん瀧の直グ
吹きあがる蜂の嗔りが夏空へ
夏空があつまつてこの嬰児の瞳
夏空が救ひのやうにある日なり
夏空が秋空となる刻に音
夏空といふ宙りすの尾のそよぎ
夏空に地の量感あらがへり
夏空に妻子描かん雲もなし
夏空に聖き炎あぐる塔二つ
夏空に記憶の一樹家郷を去る
夏空のいよ~遠し鹿湯越
夏空の一滴蒼く氷河透く
夏空の下美しき故山あり
夏空の冷え透明ぞ岳鴉
夏空の真中思へり寝返りぬ
夏空の羅馬やいのち惜しみ来し
夏空へ雲の落書奔放に
夏空やポプラは遠くでもわかる
夏空や何かなしうてからすうり
夏空や廃れて高き煙出し
夏空や旗あげし処国府台
夏空や水中に建つモニュメント
夏空を航くに何にも鍵かけず
夏空読むか学の眼鏡に緑映え
夏空透くドーム雀のこゑつづり
夏空馳すアンパンマンは強かりき
太平洋側は夏空嘘のやう
子の瞳の中の吾も夏空も永久なれよ
山一つ山二つ三つ夏空
支ふべし夏空のまた砕けなば
樹齢五百年夏空を割りて立つ
積まれたる石の放熱夏空に
翼打つ音のばっさり夏空より
遠い日の零戦の影だと老人のいう
鳩の歩の夏空までは遠きかな
すぐ褪むる西空の紅冬の虫
烈風の西空燃えぬ酉の市
蝉鳴いて西空の明死者とあり
血重く立つ西空のみどりの樹
西空に茜雲寄る大根引き
西空の守る一日の秋桜
西空の朱もわづかや笹鳴す
西空の柿のわめきのほつと消ゆ
西空の犀ぶつ倒れ妻走る
西空の虹行き切符で逝きしひと
西空焼け人影冬木ともに黒し
西空透く夜は牡蠣雑炊ときめ
銀杏ちるちるちる西空の茜寒む
闇汁へ急ぐ西空美しく
颱風一過の西空理髪師外へ出て
齢きし鳶も馴染の西空ドラマ書く
ひとありて春空にかがやきつ神のごとく
壺を抱く春空のもの皆入れて
大屋根に春空青くそひ下る
日輪のしろささみしさ春空へ金管楽器水仙鳴れり
春空とふ大いなる枡の底にわれ
春空に虚子説法圖ゑがきけり
春空に身一つ容るるだけの塔
春空に雪まだとけずくに境
春空に露びつしりとあるごとし
春空に鞠とゞまるは落つるとき
春空の思はぬ方へ靴飛べり
春空へ割り込む山車を仰ぎけり
春空へ砂なげ上げてあそぶ子ら
春空やけむりとならむ大思い
浅き春空のみどりもやゝ薄く
縄跳に春空たわみやすきかな
とんと手をとんととび箱春の空
まん中が黒い蝶々や春の空
やがてかのなきがらも無し春の空
ゆけむりの上にゆけむり春の空
ゆびきりの指が落ちてる春の空
ガスタンク孵りさうなる春の空
シャガールの女たゆたふ春の空
ピアノは地ヴァイオリン春の空ながる
一つづつ春の空ゆく絵蝋燭
今日はしも匂ふがごとき春の空
仰ぐこと多くなり春の空となる
仰ぐこと多くなり春の空となる
伸ばせば手が眞っ青となる春の空
何番の花で尽くるや春の空
切れがちに榛の樹までの春の空
四五人の僧の仰げる春の空
妻の上にあくまで濃くて春の空
山脈の空みどりなす春の月
山鳩の鳴きいづるなり春の空
影曳きて春の空ゆく熱気球
待春の空に襞ある瀧の音
手を容れて冷たくしたり春の空
日輪をかくして春の空ひろし
春の夜をはかなまねども旅の空
春の空人仰ぎゐる我も見る
春の空円しと眺めまはし見る
春の空叩いて鴨のとべるなり
春の空帆船の綱交錯す
春の空日の輪いくつも色となり
春の空森のひとすみ濡れてをり
春の空濡れてゐる手ぞ美しき
春の空目を上ぐるたび濃かりけり
春の虹智恵子の空に懸かりけり
春の雪林の空の力抜け
月淡く出でてたゆたふ春の空
木々涵したる春の空ほろほろ鳥
松島の鶴になりたや春の空
梨の木に水のぼりゆく春の空
此処からも大仏見ゆる春の空
死は春の空の渚に游ぶべし
死んで花が咲くなら死にます春の空
水平線溶けどこまでも春の空
水煙の天女が舞へる春の空
点滴の終りに近し春の空
玻璃ごしに見てゐる限り春の空
盗みする鳶も舞けり春の空
草に臥て右や左の春の空
行く春の空に煙吐く湯殿哉
襖絵の虹のつづきに春の空
許すまじ春の空井戸覗かれて
開拓の昔のまゝの春の空
雨晴れておほどかなるや春の空
震度五の空が屈折春の虹
首長ききりんの上の春の空
騎馬像の駆け上がらんと春の空
高々と煙突立てり春の空
鳶のかげ笠にかかるや春の空
鴎の目鋭きかなや春の空
昼空に月あり桃の節句なり
桐咲いて真上の遠き昼の空
春昼の空より落ちて松葉かな
綿虫や夕ベのごとき昼の空
あぎと引き冬空はひきしまりけり
あをさぎの巣は冬空にかけておく
ひろすぎる冬空に貼る人の顔
クレーンの手冬空に鐵を掴み去る
ザラ紙のような冬空レンズ磨いても
タワー赤冬空の青引き上げて
ベル押せば冬空に足音おこり
マルメロの創冬空となりにけり
一人だけ死ぬ冬空の観覧車
一噴煙冬空涜しひろごりぬ
一塵もなき冬空に日を満たし
人ゐて冬空の青い枝きる
人送りて今日の冬空見たりけり
冬空と極楽鳥花玻璃一重
冬空にしてうすぎぬの烏帽子かな
冬空につき出でてゐるもの多し
冬空にとぎれ未完のハイウェイ
冬空に噛みつくものや礁と濤
冬空に宝塔暮るゝ金色に
冬空に探す逃がした詩の言葉
冬空に掴まれて富士立ち上る
冬空に撞木の揺れ残りをり
冬空に枯木のみ見えて雲も無し
冬空に聖痕もなし唯蒼し
冬空に触れし指より光りそむ
冬空に騒立つ樫を伐りにけり
冬空に鳩を見上げて松葉杖
冬空のビルジングの資本の攻勢を見ろ
冬空の一方へ竹伐り倒す
冬空の一片落ちてくる咳のあと
冬空の下一点のわが歩み
冬空の下身をかがめくぐり押す
冬空の大起重機に人居る窓
冬空の弾けば響きさうな青
冬空の汚れか玻璃の汚れかと
冬空の溢れて黒き河口かな
冬空の澄みつ暮れゆく鎮魂歌
冬空の疵とはならぬ鴉かな
冬空の禅寺丸柿形見とし
冬空の薄き瞼を裂く青さ
冬空の鋼色なす切通
冬空の鳶や没後の日を浴びて
冬空の鴉いよいよ大きくなる
冬空へくぐり戸の鈴鳴り終る
冬空へとどかぬ梯子婚約す
冬空へ出てはつきりと蚊のかたち
冬空へ打つ甘藷の鳥威し
冬空へ消えてゆくたましいよ涙
冬空へ深入りしたる風船よ
冬空へ煙さでたくや灘の船
冬空へ象嵌ひたひたと愛技
冬空やみちのおく道先づ千住
冬空や大樹くれんとする静寂
冬空や宝珠露盤は寺の屋根
冬空や山陰道の君が家
冬空や峡にくひ入る桑畑
冬空や巣鴨は江戸の北はづれ
冬空や津軽根見えて南部領
冬空や父いますごと大欅
冬空や猫塀づたひどこへもゆける
冬空や野をかけるトロの大軋り
冬空や風に吹かれて沈む月
冬空や魂は横移動する
冬空や麻布の坂の上りおり
冬空をいま青く塗る画家羨し
冬空をかくす大きなものを干す
冬空をふりかぶり鉄を打つ男
冬空遠く大工の音とアヴェマリア
凧一つ貌のごときが冬空に
凶作になんのかかわりもなく冬空に白く議事堂
唐辛子の色冬空が盗みたり
四角な冬空万葉集にはなき冬空
寒肥をひく冬空の泣くばかり
山峡の冬空よ生きせばむるか
幹高きその冬空へ耳を寄す
我もだし冬空もだしゐたりけり
戸あくれば冬空に帽とりて客
手術の日冬空少し汚れけり
故郷の冬空にもどつて来た
旅立たむ冬空はしらのあるごとく
日当つて大仏の顔冬空に
朝雲ちり冬空とほく光りあり
泉見て今日冬空を見しと思ふ
湯加減のごと冬空に手を入れて
煙草なく米なく出でて冬空美し
父を焼くいま冬空へうす煙
甘き冬空右手に母が箸持たす
田鳧啼き冬空をまた深くせり
白壁と冬空の壁人死せり
移民船冬空へ旗ちぎれ飛び
紺の香きつく着て冬空の下働く
結界に冬空が見ゆ縄梯子
絶対安静冬空に押へられ
螺旋階尽き冬空まで昇れず
街中の焼跡の墓地冬空持つ
裏庭に冬空の立ちはだかれる
針もつ母に東京の冬空となりくる
鉄を截る音冬空にありにけり
雲生れてきて冬空の相となる
高貴なる冬空を得て天女丸
一塊の碧空実梅太らする
囀りや卒塔婆と杉の碧空に
大根を抱き碧空を見てゆけり
岩ひばり日輪碧空の中に小さし
操縦士撃たれ碧空に身をもめる
日もすがら碧空を恋ひ石蕗の花
栴檀の実を碧空に冬休
真二つに碧空割れん菊の花
短日の碧空たたく揚花火
碧空に冬木しはぶくこともせず
碧空に命とりあふまたたきをせず
碧空に山するどくて雛祭
碧空に山充満す旱川
碧空に振れども鳴らず釣鐘草
碧空に支那の子父を撃たれたり
碧空に消ゆる雲あり夏蕨
碧空に濡れ訪ね来る荷物かな
碧空に鋭声つづりてゆく鳥よ
碧空の下にあり四方に落花降る
碧空へつづく山家の白障子
碧空やわれに束の間てんと虫
藪入の碧空の凧澄めるかな
裸木の碧空頼むけしきかな
鉄骨の碧空ふかく鋲をうつ
雑沓を出て碧空の寒さかな
露の父碧空に齢いぶかしむ
七月の碧落にほふ日の出前
墓守に碧落のあり日のさくら
富士が嶺や南無碧落の秋の雪
汲みさげし閼伽に碧落秋彼岸
漱石忌雲碧落に遊びをり
碧落に擲げて戻らぬ木の実かな
碧落に日の座しづまり猟期きぬ
碧落に神雪嶺を彫りにける
碧落に聖火台嵌めスケート場
碧落に見えて鶫の群なるべし
碧落に鷹一つ舞ふ淑気かな
碧落の主峰垂氷を砦とす
碧落の牡丹の中に山の音
碧落の蔵王に迫る結氷期
碧落の都心へ落葉別れとは
碧落は太初このかた雪の富士
碧落へ色うしなへる返り花
碧落や父子距たれば揚ひばり
碧落や鶴が邪魔する雲気かな
碧落を写す皐月の田の面かな
碧落を掃く竹の春の竹
碧落を支へきれずに朴葉落つ
積雪の碧落藪をそめにけり
絶壁のわんわんと鳴るとき碧落
葡萄園出て碧落に身を涵す
葦生より碧落淡む十三の方
誘ふ碧落墓への階も一人幅
いつか星空屈葬の他は許されず
お松明燃えて星空なかりけり
ささめごと星空に咲く露台
とんどの子去りし星空さがりくる
めつむりし中の星空白雄の忌
ものうい通夜の星空へ夜業の煙が黒々とのぼつている
らん~と星空生きぬ鬼やらひ
余寒凪星空染めて浪けぶる
北風凪ぎの星空ゆくは鴎かや
叱責の子を星空に連れてゆく
吾若し春星空に帆綱鳴る
地吹雪と別に星空ありにけり
声秘めて語る星空花柘榴
夏の夜の星空こがす炬火の列ひたひたと弥撒にゆく使徒の列
夏の星空の家路よ犬の寝そべり
夜の秋や恵那の星空手にこぼれ
大旱の星空に戸をあけて寝る
寒に入る夜や星空きらびやか
旱田に星空の闇広がりし
星空となりゆく雪を掻きにけり
星空となるまで森のさへづれり
星空となる約束の青木の実
星空となる菊人形直立し
星空と濡れて一夜の紅葉山
星空に一ト夜埋まりてキヤンプ濡れ
星空に始点終点安息日
星空に居る大富士や除夜の駅
星空に干しつるる衣や杣が夏
星空に星がうごいてあたたかし
星空に琴をあずけて花野ゆく
星空に総身のばし枯木立つ
星空に聳えわけても鳳凰台
星空に鐘鳴り森に降誕歌
星空のうつくしかりし湯さめかな
星空のかたむく下向お水取
星空のこぼす夜露を踏みながら
星空のさむき夜明よ地に寝て
星空のすぐ降りて来る焼野かな
星空のどこまで匂ふ稲架襖
星空のはてより木の葉ふりしきり夢にも人の立ちつくすかな
星空のひろがる明日の山焼かん
星空の下の人の世のこゝに泣く男
星空の下健康な寒さあり
星空の中から聞こえ青葉木菟
星空の中より散りて来し木の葉
星空の涼しければの瞳なりけり
星空へたちあがりたる橇の馭者
星空へひしめく闇の芋畑
星空へ口を大きく社会鍋
星空へ店より林檎あふれをり
星空へ消え入りがてに梅白し
星空へ田植三日の顔あらふ
星空へ総身のばし枯木立つ
星空へ蛙は闇をひろげたり
星空ゆく屋台提灯夢うつつ
星空をふりかぶり寝る蒲団かな
星空をまはす水車や春隣
星空を足音あゆむ十一月
星空を闇とは見せつ酉の市
春大風海の星空剥れずに
枯萩を焚き星空を曇らしぬ
歳明くる戸を星空へ繰りて老
氷塊を挽き終えて夏星空ヘ
渡り鳥は知つている星空の暗号
立ちあがればよろめく星空
美しき星空なりし村の盆
船の窓の星空の揺れそめし輝き
花の夜の星空河鹿啼きそめぬ
花火みゆ星空劃ぎる軒端かな
虫の夜の星空に浮く地球かな
蝉殻を割れば星空響き合う
降るやうな星空村は寒に入る
青炎の星空に澄む橇の鈴
風除の中へ星空下りてくる
*たらの芽や空をばうちに抱く御空
いまさらに富士大いなり初御空
うち晴れて顔施の御空風生忌
お手本のやうな御空や野分晴れ
つらら垂る竟の御空もこの碧さに
わが年の雲ひとつなき初御空
わが谺かへらぬ祖谷の初御空
ファックスにすぐくる返事初御空
レーダーに船影あらず初御空
一機影雲より生れし初御空
傷一つ翳一つなき初御空
八ヶ嶽露の御空を噛みにけり
冬凪ぎて勅語ひゞきし御空なる
冬御空老いて召されしもの多し
凍港の歛まる雲や初御空
初声や子の身空なるわが御空
初御空どこより何の鈴の音
初御空はや飛び習ふ伝書鳩
初御空八咫の鴉は東へ
初御空富岳まさしく三保にあり
初御空岬に長き馬の影
初御空念者いろなる玉椿
初御空晴雪に飛ばす駒もがな
初御空水辺に近きさざれ巌
初蝶の御空は神の領し給ふ
叡山は京都左京区初御空
国興す大き音あり初御空
垣の上の舟の舳や初御空
大内山立春の雨御空より
大山の全容近し初御空
大帝の馬車わたりくる初御空
大御空仰くや春の月の色
大御空卵の如きもの胸に
大御空敵機それしか冬凪ぎぬ
大那智の滝の上なる初御空
子の髪に昼月重ね初御空
弓弦の一箭鳴りし初御空
御空より発止と鵙や菊日和
懐手解かぬは御空広きゆえ
春暁や御薬師岳の御空より
曲玉の瑠漓ひびきあふ初御空
未知のもの現れさうな初御空
末枯や御空は雲の意図に満つ
渡り来る鶴の空あり初御空
燈臺の古き國旗や初御空
玉霰幽かに御空奏でけり
真白さのつくばねうけよ初御空
穂芒に声在りとせば御空より
竈火のどろどろ燃えて初御空
経蔵に影さす枝や初御空
総持寺の鳩来て羽摶つ初御空
美しき背山妹山初御空
群鳶の舞なめらかに初御空
鐘楼のあたりくらさや初御空
霊峰の明け放たれし初御空
風花の御空のあをさまさりけり
駅通りまつすぐに来よ初御空
鳶の輪のやがて大きく初御空
鳶笛の一管澄める初御空
鴨とぶやゆたにたゆたに初御空
えごの花川は深空につづきけり
五本杉五本囁く冬深空
井筒より深空へをみな声を出す
冬三日月ひたと機窓に深空航く
初深空今年占ふ鷹か鳶か
山々に深空賜はる秋祭
川筋の夏ゆく深空のぞきけり
晴天の何か優れる凍深空
水が享く夕深空や落葉して
深空より茂吉忌二月二十五日
短日の深空杉山檜山据ゑ
銀杏ふむ人ら深空をあふがなく
風花やみなてのひらに深空もつ
くりかえしくりかえし夕空ばかりの世
たつた一人になりきつて夕空
つばくらの夕空となり島の路地
つばくらや藍ただよわす夕空ヘ
つばめらと夕空ばかりグッド・バイバイ
ぼたんづる夕空に舞ひ避暑期去る
交みしまゝの虫夕空をながるる
僧一人わたりゆき長き橋夕空
冬の雁夕空束の間にかはる
凩の果の夕空血が滲む
初花と見し夕空のありにけり
半透明な夕空のいま春誕生
原爆忌の夕空「血池の上澄み」ぞ
原爆忌の夕空「血池の上澄み」ぞ
口喧嘩やめて水まく夕空に
夕空が赤味噌に似て燕去る
夕空が透き猫が鳴き涼しくなる
夕空にぐん~上る凧のあり
夕空にひとときの色蜻蛉湧く
夕空にまぎれなかりし返り花
夕空に咲けりともなく初桜
夕空に寂しく咲ける桜かな
夕空に弓打つ子等や黍の風
夕空に恋する猫の天守かな
夕空に新樹の色のそよぎあり
夕空に日はありながら合歓の花
夕空に晴れ間の見えし雨水かな
夕空に此頃燃やす菜種殻
夕空に片あかりせり初桜
夕空に磐梯の弧や渡り鳥
夕空に窓つつまれぬ胡瓜もみ
夕空に蚊の湧き上る軒葡萄
夕空に融けて焚火の焚き埃
夕空に足の音する秋の山
夕空に身を倒し刈る晩稲かな
夕空に鋤きこむ花を待たれしか
夕空に雪加よく見えよく聞こえ
夕空のいまが火の時朴の花
夕空のうつろひ枯れし街並木
夕空のからくれなゐに義士祭
夕空のごろごろ鳴れる真菰かな
夕空のさくらは重し赤子泣き
夕空のすこし傾く土佐みづき
夕空のたのしさ水にうつる雲
夕空のなごみわたれる案山子かな
夕空のなほかすかにもさへづれる
夕空のにはかに晴れて牡丹焚き
夕空のひとときの色蜻蛉湧く
夕空の一角かつと通草熟れ
夕空の喜捨まぶしくて歩道橋
夕空の少し傷みて桐の花
夕空の悲鳴のはじめ大公孫樹
夕空の星研ぎいづる氷湖かな
夕空の水より淡く梅若忌
夕空の濃い邂逅を待つばかり
夕空の碧まだ昏れずえごの花
夕空の秋雲映ゆる八重葎
夕空の紺よみがへる沙羅の花
夕空の紺より藍へ蕎麦の花
夕空の絶え入るばかり梅咲けり
夕空の美しかりし葛湯かな
夕空の雲に移りぬ花のいろ
夕空は眼につめたくて蓬籠
夕空は空瓶の色桐の花
夕空は雪降りつくし漂ふ紺
夕空は青とり戻し春隣
夕空へいま命ある木の芽かな
夕空へ拡がる風や郁子の花
夕空へ蜻蛉をぬりつぶしたる
夕空やこころの鵙の血まみれに
夕空やむざんに晴れて凍みわたる
夕空や五字抹消の蝉の稿
夕空や切先のぞく軒菖蒲
夕空や日のあたりゐる凧一つ
夕空や紅梅の色隠しつつ
夕空や芒念仏口に継ぐ
夕空や蚊が鳴出してうつくしき
夕空や蛙聞えてしろくなる
夕空や野の果て寒き街づくり
夕空や雪野に黒き楊柳
夕空ゆパパイヤの実を受けとむる
夕空を広めむと歩すセル着なる
夕空を引つぱつてゐる烏瓜
夕空を昇らむために春蚊生まれ
夕空を白馬曳かるる夏越かな
夕空を航くものがあり烏瓜
夕空を花のながるる葬りかな
夕空を鋭く鶴の流れけり
夕空心に焼けかかりしみじみ陸の恋しき
夕空見てから夜食の箸とる
夕立のあと夕空の残りけり
天山の夕空も見ず鷹老いぬ
子がなくて夕空澄めり七五三
寒明きぬ夕空青く雪に垂り
数え日の夕空贅を盡したり
日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし
春夕空星の生るる波紋見ゆ
春愁や一と日夕空街に澄む
月を生む夕空頓に澄みわたり
梅雨明けの夕空に腹ひかる鳥
水を打つ夕空に月白う刎ね
水打ちて夕空近し二三軒
水草の花夕空を波立たす
深まりて夕空夜空お雛さま
溝浚へ了へて夕空近うしぬ
漢名は目赫爛れし夕空に
父逝くは悔し夕空を駱駝
独活浸す水夕空につながりて
畦塗の夕空の紺塗りこめし
石蒋の花石蹴つて夕空が澄み
積雪に夕空碧み雲の風
綿虫の夕空毀れやすきかな
羽ばたけるもの夕空に針供養
茎立つや夕空の晴れ所在なく
茶の花や青空すでに夕空に
茸狩の夕空がもう肩の上
藻を焼いて濁る夕空鴨引けり
虫籠の軽さ夕空の軽さ
蚊柱に夕空水のごときかな
蛇笏忌や富士の夕空がらんどう
赤とんぼ夕空涜し群れにけり
辛夷泛く夕空神を愛しまむ
道玄坂さんま出るころの夕空ぞ
還らざる者らあつまり夕空焚く
金魚売夕空を何見上げゐる
陋巷に鳩舞う夕空一事を期す
雁ゆきてまた夕空をしたたらす
雪下し夕空碧くせまりくる
青々と夕空澄みて残暑かな
風音の夕空となり鴨帰る
騎馬の青年帯電して夕空を負う
鳥帰るこんにやく村の夕空を
鳥渡る聲の夕空身に近き
鳩降りて夕空どつと寒くなりぬ
鶴が渡つてこないここら
鶴凍てて夕空高く鳴りにけり
鶴来るか夕空美しくしてゐる
七草のつねの夕焼空なりし
使ひ鳩かへる空みち夕焼けぬ
土赫き切り通しの崖昏らみたり梅雨に入りゆく空夕焼ける
夕焼けの川面空壜が沈みさう
夕焼空に五位ほのと見し宵の春
夕焼空は愚問の如し大工の子
夕焼空アラー讃ふるこゑのぼる・・・タイ、インドネシア
夕焼空燃えきはまれりソーダ水
夕焼空詩に鴆毒あることも
大夕焼空ひとゆすりして消えし
柳絮おふ家禽に空は夕焼けぬ
桃買ふや夕焼けて来し旅の空
水車踏む夕焼空をゆくごとし
渓空に夕焼けてつづく川ちどり
誇張して夕焼空を彩れる
鵜が翔ける大石狩の夕焼空
分け入りてにわか雪空美濃馬場
宇治発つと雪空にごりきたりけり
息のむや加賀雪空の街ばかり
斑雪空へつながる海の紺
暮れてゆく雪空やいつか静まりぬ
朝より雪空熱がまた出でむ
枝下しをる雪空の日洩れ
母を呼ぶ声なき声や雪空ヘ
海に出て見るに雪空裏日本
濠端犬つれて行く雪空となる
炎上の雪空に舞ふ鴉かな
猟師消ゆ老いも死もなく雪空に
石の上雪空となりゆれ通し
窓しめて雪空遠き助炭かな
雪空となりし三日の夫婦客
雪空と鐘にしらるゝ夕べ哉
雪空にじむ火事の火の遠く恋しく
雪空に人あらはるゝ砂丘かな
雪空に堪へて女も鱈を裂く
雪空に滲みてきたる日ありけり
雪空に睡魔の描く大伽藍
雪空に野火が舞はせる金砂子
雪空に霰ふるなる但馬かな
雪空に黒鳥ひとつ渡りけり
雪空のものうくて貨車うごき出す
雪空の下水の花か糞湧き浮く
雪空の拡がり行くや潮の上
雪空の最後の一つをもぐ
雪空の羊にひくし出羽の國
雪空は駅の煙によごれけり
雪空ややかんぼつくりこの子等の陣
雪空やよごれはてたる檣頭旗
雪空や桐へ下りくる山鴉
雪空や檻の海鵜は遠く見る
雪空や死鶏さげたる作男
雪空や片隅さびし牛のるす
雪空や襤の海鵜は遠くを見る
雪空をなまはげの闇おりてくる
雪空をアンモナイトになる心
雪空を落ちくるものもなかりけり
雪空垂れて兵士のように乳児立つ
雪空暮れくるお地蔵の前の道をとる
飢ゆる都市雪空動くゆるやかに
鴉の声過ぎ雪空ににじむかとも
お水取済みし夜空に星秀づ
かりがねの女のこゑを夜空より
きらめきて夜空に湧きし落花かな
さえざえとまたなき夜空現れにけり
しんしんと夜空ゆ降り来る宇宙線みえねど石に飛沫きてをらむ
しんしんと月の夜空へ柿若葉
たばこ手に出づるや夜空手に沁みつ
なにはづの夜空はあかき外寝かな
のぼる蛾に立山のみの夜空あり
はばからず夜空へ押し出す酔歩なり永遠てふ穴ぼこあらむ
ひとねむり冬にちかづく夜空かな
びわすする夜空ちかぢかありにけり
まさをなる夜空を負ひし帰雁かな
まだ泳ぎ足りない水着干す夜空
みちのくの帰雁に夜空悲しとも
むらさきの夜空の下の桜かな
ものの芽の伸びて夜空の濃かりけり
オリオンの巌たる寒の夜空かな
サルビアの枯れし夜空を花火飛ぶ
デージーや夜空の星に眠りしか
ワイキキの黒き夜空の火取虫
一の酉夜空は紺のはなやぎて
七夕をきのふに荒るる夜空かな
七月の夜空の潔さ群青忌
二の酉を夜空にそれと乗る電車
五月夜空叉光敵機を放たざる
今逝きしばかりの年とその夜空
兜虫放ち夜空の張り知れり
八朔の夜空は山の匂ひせり
冬の星屍室の夜空ふけにけり
冬帽を脱ぐや蒼茫たる夜空
冬星座夜空果てなき多面体
冬桜夜空に枝の仔細あり
冬花火秩父の夜空匂ふごと
冬雁に水を打つたるごとき夜空
凩の吹き初め奈良の夜空見ゆ
北斗立つ夜空の青き鬼やらひ
南蛮の花綴りあふれ夜空かな
南蛮の花綴りあふ夜空かな
又一つ夜空へ積まれ古熊手
古廂のうぜんかづらは夜空もつ
命小さし余寒の夜空締め出だす
品川過ぎ五月の酔いは夜空渡る
唄ふ唇が/夜空に/老いて/老いゆく世紀
噴水の音のたしかな夜空かな
四万六千日なる大き夜空あり
地震過ぎて夜空に躍る冬の梅
堂押祭果てし夜空の雪嶺かな
墨の香や夜空の中の雪解富士
壺割つて金の罅入る冬夜空
夏めくや水なす夜空帆なす雲
夏夜空映し出すものみな敵機
夜空あり開きつぱなしの凍蝶あり
夜空うつくしくなりし山国蚊帳かな
夜空かなはじめてつかふ白団扇
夜空にもありし奈落や花辛夷
夜空にも人住む街のラムネ玉
夜空に許され橋塔の灯を胸に咲かす
夜空よりどすんと雷や花菖蒲
夜空より五位のひとこゑ避寒宿
夜空より垂るゝ芽柳バスを待つ
夜空より外しきたりぬ吊し柿
夜空より大きな灰や年の市
夜空より暗き氷湖と思ひけり
夜空より雨落ち来たる牡丹かな
夜空染め遠火事消ゆる猫の恋
夜空涯なし星・薔薇・同志明日を期し
夜空澄み霜害過ぎし星湛ふ
夜空蒼しひとりごと言ひ卒業す
夜鷹鳴き雪渓のみの夜空あり
大欅芽吹かむ気配夜空より
大藪の揺るゝ夜空や花の雨
大風の夜空きらめき銀河見ず
夷講信濃の夜空山ばかり
妻にも母の月日芽ぐみの夜空濡る
子らが囃す夜空のまろき地蔵盆
子等やいま雁の夜空の星の中
存在はかくおぼろにて幾千のこぶしは夜空にまぎれつつ咲く
宝石商冬の夜空を持ち帰る
寒参夜空の青さ沁むばかり
寒柝の夜空に飛んで星ふやす
小説の冒頭夜空晶子の忌
山桜青き夜空をちりゐたる
川施餓鬼夜空焦がして終りたる
年のネオン遠目夜空は戦火に似る
恵比須講信濃の夜空山ばかり
打ち晴れし神田祭の夜空かな
日本の夜空きれいに星祭り
星さゆる遠き夜空を染む兵火
星は夜空をおよぐ子のかず月見草
星合の夜空へ普賢岳還りけり
春祭り夜空を低くうばひたり
春蝉や夜空ながれてゆく方へ
春雪をちらりと見せし夜空かな
更けながら夜空は青し虫送り
月下美人夜空赤らむことありて
月鉾にひと雨くれし夜空かな
月鉾に夜空は雨を降らしけり
望は翌夜空にたたむ雲の冷え
木枯の吹き初め奈良の夜空見ゆ
木犀の香に光年の夜空あり
木蓮にうるしのごとき夜空かな
東京を蟲鳴きかこむ夜空低く
枇杷*もぎてもとの夜空へ枝を帰す
枝豆や夜空に近く座りをり
枯れをはる夜空の銀杏神還る
柚子匂ふ顔につめたき夜空かな
柿に遠し羽田の夜空まだはたらき
柿の木の夜空をあるく祭笛
桃色の夜空を誰のいかのぼり
桐一葉電柱きはやかに夜空
桐咲くと夜空も蒼さ失はず
桜濃くジンタかするゝ夜空あり
梅干して夜空のしめりひろがりぬ
梅雨ぐもる夜空の花火大いなる
梅雨の夜空へ工場の熱の煙
梅雨夜空ネオンがほしいままにせり
梨むくや夜空は水をふゝみをり
梨花満てり夜空の奥の伯耆富士
楮蒸す湯気を吸ひゐる夜空かな
檣燈を夏の夜空にすすめつつ
檸檬買ふ夜空の青さ春なりし
櫻濃くジンタかするゝ夜空あり
歳晩や夜空を神の灯箭まもる
残雪も夜空にしろし梨の花
水中花夜空すみずみまで夜空
水仙の香のつきぬけてゐる夜空
水打つて夜空に死者の名を加ふ
氷像の竜は夜空に昇り立つ
洗ひ髪夜空の如く美しや
流燈の浮みし紺の夜空かな
深まりて夕空夜空お雛さま
湖村音なし雪片かぎりなき夜空
湯の町の夜空にしるく雪の由布
滾々と雪ふる夜空紅きざす
漆黒の山が夜空に文覚忌
火の島の夜空焦せる神の旅
火の祭富士の夜空をこがしけり
火を焚いて夜空にありし鯉幟
火山灰の降る街の夜空の花火かな
火日湖は夜空のごとし冬来ると
火祭の夜空に富士の大いさよ
灰色の夜空の下の雪の山
焚火の音土のにほひが夜空より
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空
燈籠の絵にも廻れる夜空あり
燭のためかまくら星のため夜空
爆心の夜空露けきアベマリア
牡蠣船の上に橋あり夜空あり
玻璃越しの夜空うつくし乙字の日
疲れ鵜に水面を均らす夜空かな
白鳥の別れ夜空に雪嶺泛く
盆路をつくるや瑞の夜空あり
砂丘昏れ五月夜空を青が占む
祈りはなし寒果つ夜空星に満つ
秋夜空村びと遊ぶこと凝らす
稲を干す村の夜空の鱗雲
稲妻がかぎざく夜空喪にこもる
空鞭のひびき夜空に橇を駆る
端居して夜空の蒼き流れかな
紅梅の夜空がそこに多喜二の忌
紺暗く夜空は簾ふちどりぬ
羽音なほ夜空に残し蚊喰鳥
聲幾重帰雁に夜空ありにけり
胸板に夜空近づく祭の村
花りんご夜空冷たく降りてくる
花会式夜空に塔は忘れられ
花八つ手深い夜空に星をもとめ
花過ぎし篝平野家夜空濃き
芽ぶく木を夜空にふかく彫る燈あり
茅の輪くぐり星降る夜空詣でけり
菊の露夜空朝空うつくしく
落葉掃きためて夜空に近く住む
葛の花夜空ほとほと滴れり
蓮如忌の一枚夜空疾風なす
蔦の葉の枯れゆくひかり火の夜空
薔薇垣や更けゆく夜空うるほへり
虫送り夜空が山を降りてくる
螢飛ぶころの夜空ぞふるさとは
観覧車秋の夜空にかたまれる
訃の一方の窓ガラス夜空を貼る
赤々と夜空縮みて虫送り
踊る掌を夜空へ返し風の盆
送り火の夜空がらんと残りけり
通り魔が鴉にのりて夜空ゆく
遠き日の見ゆる夜空や雪祭
遠風か夜空に満つる秋の声
酪農に雁ゆく夜空曇りけり
針買ひに出た妻に冬青い夜空がある
鉦太鼓炎となり夜空焦すまで
鉱炉の火夜空を焦す祭かな
銀鼠色の夜空も春隣り
降り足りて夜空むらさき仏生会
雁のきのふけふなる夜空かな
雁鳴くや星のもとにも夜空あらむ
雨きらきら鬼灯市の夜空かな
雨乞の注連も動かぬ夜空かな
雨戸たてず立夏の夜空あをければ
雨雲の夜空となりつ富士詣
雪はらむ夜空はふくれネオンばかり
雪吊りの夜空の高くありにけり
雪壁の炎ゆる夜空ぞ鴨帰る
雪山のひかりのこれりかの夜空
霜下る夜空に木々の犇めけり
霧ながら夜空がまろし楡落葉
青葉木菟夜空に杉の鉾ならぶ
音たかく夜空に花火うち聞きわれは隈なく奪はれてゐる
風船の夜空に墜ちてゆきにけり
風荒き夜空に雁の帰るかな
風鈴の音を消す風の夜空覗ふ
颱風の過ぎし夜空や旅人木
高原の夜空は高し流れ星
鬼やらふ夜空に氷り比良の山
鮎料理夜空は秋のけしきかな
鳥渡る夜空の音を肴とす
鴨引きし夜空流るるもののあり
鶏頭に日和つづきの夜空あり
鶴万羽眠る夜空に星もなく
鷽替に楠の夜空は雪こぼす
黄梅や夜空あかるき雨の音
黄蜀葵夜空の雲の未だ明るし
うたかたの天地何ぞ草の花
かはほりの天地反転くれなゐに
ちぢまれば広き天地ぞ蝸牛
ぬかづきしわれに春光尽天地
ぬひあげて天地袋に薫す
ひるがほに一瞬昏き天地かな
まひ~や己が天地に遊びをり
まほろばの天地往き交ふ雲雀どち
パラシウト天地ノ機銃フト黙ル
ピカザザと天地俄にさうざうし
一片の薔薇散る天地旱の中
一瞬に天地引きよせ嚏せり
万緑にゐて天地の息づかひ
万緑の天地有情や杣男
丹頂の翔つとき天地息合はす
人も子をなせり天地も雪ふれり
冬籠書斎の天地狭からず
冬耕の天地返しと言ふ仕事
冬菜とる天地のぬくみ一身に
初富士の今し天地をつなぎけり
初茜天地ひびきあふごとし
初霜の柿や天地を貫けり
初鶏に天地大きく明け初めし
初鶏や天地の凍に朗々と
創造の天地あかつきかへる雁
古臼の天地を洗ひ飾りけり
吹かれつつ天地をまはすしやぼん玉
唐黍を刈つてあしうらまで天地
囀やわが小天地揺れやすし
囀や天地金泥に塗りつぶし
囀や天地金泥塗りつぶし
地虫出づ天地明るくなる程に
大浪に立つ足とられ立版古
天地が霞むうつゝにうつとりす
天地たゞ傘に降る雪あるばかり
天地つゆけしはだか子
天地なき金の色紙に筆始め
天地にいのちはひとつ灌佛会
天地にす枯れ葵と我痩せぬ
天地にたゞ一人の冬耕す
天地に人と生れし寒さかな
天地に今朝うぐひすの初音哉
天地に光渦なす代田掻
天地に妻が薪割る春の暮
天地に無花果ほどの賑はひあり
天地に直グ維れ神や瀧五月
天地に神おはしけり草萌ゆる
天地のあひびき長し月見草
天地のこの時若し田を植うる
天地のはざまに瀧をかけ給ふ
天地のはじめのごとき滝かかる
天地のひかりは甘し牡丹の芽
天地の乾ききつたり芙蓉の実
天地の光り巣藁にありぬべし
天地の円美しき大夏野
天地の力もて結ひ茅の輪かな
天地の在りてけぶれる蟇の恋
天地の寒さ知らざる雛かな
天地の寡黙なる寒はじまれり
天地の心をわけん今朝の秋
天地の息合ひて激し雪降らす
天地の春呼ぶ気息合ひて雨
天地の気かすかに通ふ寒の梅
天地の深きしじまに掃き納む
天地の竪琴の如春の雨
天地の色なほありて寒牡丹
天地の谺もなくて雪降れり
天地の間にかろし蝉の殻
天地の間にほろと時雨かな
天地はいまだモノクロ春星忌
天地は釣瓶落しの遊びせる
天地ふとさかしまにあり秋を病む
天地また一蝶翔ちて暗くなる
天地や揚羽に乗つていま荒男
天地をしばらくたもつ時雨哉
天地をひらくが如く葭刈れり
天地を我が産み顔の海鼠かな
天地人の恩あたたかき初日の出
天地冬白鳥水に羽摶つとき
天地凍て音の溜まれる竹の節
天地喪の如しいつしんに蝶逐へば
天地夕焼冬木の中の分教場
天地広し立春なにに礙べき
天地旱トラックの尾の赤き布
天地梅雨ともしび色の枇杷抱ヘ
天地水明あきあきしたる峠の木
天地灼けぬ兵士乗船する靴おと
天地玄黄あれよあれよと蛇穴に
天地霧に消えて雷鳥と我とかな
天地音なし春昼点滴す
妻の息絶えむと天地露明り
姉の忌の天地をつなぐ烏瓜
嫁かばと天地袋を君や縫ふ
富士の雪天地の境越えて垂る
寒鯉を生かす盥の天地かな
屑買に屑の天地や日向ぼこ
山門より天地しぐるる味噌加減
引鶴の天地を引きてゆきにけり
徹夜の目天地に夜盗虫見のがさず
徹夜の眼天地に夜盗虫見のがさず
心太天地が踊ることを云ふ
憂ふれば怒れば天地梅雨兆す
我が行く天地万象凍てし中
我れが行く天地万象凍てし中
手習や天地玄黄梅の花
拝殿の先の天地夏つばめ
新涼の天地に我等あるがまゝ
書函序あり天地玄黄と曝しけり
月沈むとき天地に言絶えたり
木馬ほか天地の廻る四月馬鹿
東菊群れて天地斑の消ゆる
栄螺の角天地をさして夏に入る
栗拾ふ天地に母の老い深し
根分して萩に天地の新しく
桐一葉落ちて天地液状なり
歩を進めがたしや天地夕焼けて
水中花開きし花の天地人
水塩の点滴天地力合せ
水餅や壷中の天地晦冥に
波間よりこゑの飛びくる立版古
注連冴ゆる俎上が天地式庖丁
浮石を踏んで天地の揺らぐ夏
渾身の天地返しや鳥雲に
炭斗や個中の天地自ら
燈すこと僅かに火蛾の天地たり
燈籠や天地しづかに松のつゆ
牡丹咲くのみの天地祷りをり
狂言白さく鼻腔饐ゆれば天地酸しと
珠数まろし天地まろし秋深く
生涯の影ある秋の天地かな
田を植ゑてにはかに天地あたらしき
病苦あり天地根元造りかな
白日の天地悲しむ虎落笛
白鳥のこゑ天地の鹹し
眦に天地青しほととぎす
短冊の天地に画く芽独活かな
石を以て素十としたり天地春
石抱いて蜻蛉天地をうたがへる
神話村天地返しの畑の靄
秋暮るるなり良寛の書の天地
秋空や天地を分つ山の王
秋立てばそれに従ふ天地かな
秋蚕ゐて天地へめぐりゐたりけり
稲咲いて天地惇厚の夕まぐれ
突かざれば天地知らぬ羽子の紅
立ち上る天地と思ふ芽吹きかな
竹青く天地のどちらにも近し
紅葉且散る盆栽といふ天地
羽抜鶏天地の間に呼吸して
翡翆とぶその四五秒の天地かな
翡翠とぶその四五秒の天地かな
老鶯や天地かがやく丘に佇つ
肋あらわ天地傷む涅槃なれ
舟霊祭る尺の天地も天草干す
花に領されて天地冷えゐたり
草のうえわが領地かな天地左右
落椿天地ひつくり返りけり
蓑虫に天地さかさとなりにけり
薄氷の天地に風あそびをり
蚊帳垂れて句を思ふ我天地かな
蝶交む一瞬天地さかしまに
蟇のこゑ夜な夜な天地うらがへる
蟇交む天地めつむりゐる如し
蟷螂の天地転倒して逝けり
負け独楽へ天地傾きはじめたり
辛夷吹き天地の間を抜ける風
金魚嬉々壷中の天地華やかに
鈴虫や壺中の天地うち顫へ
障子立つ天地の白さ一文字に
雁来紅起して天地新たなり
雪の夜の天地合掌はてしなし
雪原の天地神明去りがたし
霞初む堆肥の天地かへしけり
露すでに天地ねむりを合はすなり
露荒れて尾長鳥ばかりの天地かな
青々さつきの天地機織るひとり私ひとり
青楠の天地はじまる鯉のぼり
青葡萄天地ぐらぐらぐらぐらす
音もなく天地去りにけり蚊帳に居る
鯊釣るや一竿天地空しうす
鷺草の咲きて天地を創りけり
黄菊白菊酒中の天地貧ならず
あめつちと同じ色得てちるぬかご
あめつちにかく微なる音蓮ひらく
あめつちにひれふすこゝろ淑気満つ
あめつちに在る吾のみ稲妻のみ
あめつちに姿は見えず芦を刈る
あめつちに悼歌いくばく柿の邑
あめつちに蜘蛛と生れし糸放つ
あめつちのあはひを浮ぶ未草
あめつちのあひだふと翔つ朴落葉
あめつちのいましづかなり雪の嶺
あめつちのうらゝや赤絵窯をいづ
あめつちのくづれんばかり桜ちる
あめつちのさびしさ風鈴売通る
あめつちのどろりと昏るる沢桔梗
あめつちのぬれて夜明くる落葉かな
あめつちのねむりもやらで雪あかり
あめつちのはなしとだゆる時雨かな
あめつちのひかりかなしく蝶凍てぬ
あめつちのひかりのなかを孕み鹿
あめつちのをはりのときぞ紅一点
あめつちの中に青める蚕種かな
あめつちの中のひとりの朝寝かな
あめつちの凍て全身に旭さしいづ
あめつちの凍ゆるみつつ海荒るる
あめつちの地のあるかぎり鍬始
あめつちの天なる声も夜の蛙
あめつちの息をひとつに蓮ひらく
あめつちの息吹きそめたり溝浚え
あめつちの気の満ちてきし牡丹かな
あめつちの気息ととのふみどりの日
あめつちの濡れてにほへる花祭
あめつちの秋晴余すところなし
あめつちの端へ端へと雛流す
あめつちの間に白き不思議かな
あめつちの露の朝日の百姓家
あめつちの静かなる日も蟻急ぐ
あめつちの静かに茄子の花ざかり
あめつちの音のはじめの嫁が君
あめつちの音を一つに滝落つる
あめつちの音色曳き出す星月夜
あめつちや春をもやもや掻き玉子
あめつちをながるる鷹の眼かな
あをぞらの切れたるみやましきみの実
カルストの石の霊魂あをむ春
テレビあをし枯崖の暗玻璃一重
今朝の春あめつちにみつ神慮かな
初東雲あめつち富士となりて立つ
初茶の湯あめつち結ぶ柳かな
初鼓あめつち響きあふごとし
御柱落すあめつち息をとめ
朝雉子の一と声をあめつちに立ち
朝雉子の一と声をあめつちに立ち
朝雉子の一と聲をあめつちに立ち
甘茶仏あめつち花のかをり満つ
盆砂取あめつちしんと従へり
苞の中あめつちくらき接穂かな
蒟蒻掘るあめつち昏るる中に孤り
虎が雨あめつち狂ふごとく降る
還らざる光りあめつち秋ふかむ
お松明火鳴り天と地圧しけり
天と地といづれさみしき雪吊は
天と地と中に息して花あかり
天と地に別れ別れに十三夜
天と地のいづれ明るし仏生会
天と地の一枚闇に星流る
天と地の境は浅葱雪の果
天と地の打ち解けりな初霞
天と地の接点に在る木守柿
天と地の間にうすうすと口を開く
天と地の間に丸し帚草
天と地の間の金魚玉の水
天と地をつなぐ枯木となりにけり
天と地を結びてしだれざくらかな
天と地を霞のつなぐ乳母車
枯れ果てて煙突天と地をつなぐ
焼けおちるいま天と地のつまようじ
鮑とる一舟天と地のあはひ
おほどかや春の虹立つ青垣は
仮眠のごと牧の青垣雲隠る
凌霄に青垣ぞ為し信貴生駒
土濡れて大和青垣燕来る
山山青垣なしてこれの高嶺の夏の朝なり
日は凜と青垣なせる春の岳
梅雨明けて大和青垣入日どき
町さみし五加木青垣露地露地に
肥後しぐる青垣ごもる日田いかに
青垣の夏の夜露にふれにけり
青垣の山たたなはる雛屏風
青垣の月に日の照る角切場
青垣の雨を牡丹の中に聴く
青垣山したたる国の原爆忌
青垣山隠れる大和川太し
高原の裸身青垣山よ見よ
鱚釣や青垣なせる陸の山
いつさいがわがために在る秋の山
うつり行く蝶々ひくし秋の山
うれしさの極みの涙秋の山
すでに秋の山山となり机に迫り来
つきづきし石の響や秋の山
ひよろひよろと人の出てくる秋の山
ぶらり旅秋の山見て手相見て
まるければ丸山といふ秋の山
みんな来て車座くめば秋の山
一昔そのまた昔秋の山
一片づゝ雲をかぶれり秋の山
下るにはまだ早ければ秋の山
中年の影伸びゆけり秋の山
二階を借りてたつた一つある窓の秋の山かな
人にあひて恐しくなりぬ秋の山
人の呼ぶをうしろに秋の山に入る
仮小屋に秋山欠けて峙ちぬ
仮死のことまことか秋の山に向く
信濃路やどこ迄つゞく秋の山
入相のあとや明けにき秋の山
冷々と袖に入る日や秋の山
声あげて父母を呼びたし秋の山
壺にして葉がちに秋の山あざみ
夕日差空に離れし秋の山
夕空に足の音する秋の山
大勢のひとの集る秋の山
大巖にまどろみさめぬ秋の山
大滝を北へ落すや秋の山
大鯉の動きに秋の山のいろ
女教師ひとり秋山深き分校に
好きで来し道深まりて秋の山
子を抱いて猿が見てゐる秋の山
安来ぶしの唄の文句の秋の山
家ふたつ戸の口見えて秋の山
山彦とゐるわらんべや秋の山
山門を出て下りけり秋の山
帰る雲秋山谿を行衛かな
故人多き思ひに仰ぐ秋の山
方丈の庇の上の秋の山
方丈の間を見下ろすや秋の山
日当れば秋山の塔よく見ゆる
日永さをふと思い立ち秋山へ
旧知僧になれるに逢へり秋の山
明るくてさびしくて秋の山の駅
暮れてなほ秋山めざすダム資材
木食の人に逢ふ秋の山深み
東西に別れて下る秋の山
枯わらびつかんで登る秋の山
機関車に雲や鴉や秋の山
欠伸せる口中に入る秋の山
段丘の道弥高し秋の山
毬栗の笑ふも淋し秋の山
湯の縁につかまり秋の山を見る
火を焚けばのろしの如し秋の山
火産霊の神とこしへや秋の山
父のあと追ふ子を負ひて秋の山
牧こゝを広げんと思ふ秋の山
犬が臥て横向きの顔秋の山
生きて修業をす秋の山彼方にあり
町の子の山彦遊び秋の山
登り見ても一つの峯や秋の山
登るべき秋山晴れぬ絵の如く
石切りてたてかけにけり秋の山
秋の山ところどころに煙立つ
秋の山人顕れて寒げ也
秋の山北を固めの砦かな
秋の山南を向いて寺二つ
秋の山四明岳の猿沸くごとし
秋の山妹背のさまに肩組めり
秋の山所々に烟りたつ
秋の山新雪の富士なかぞらに
秋の山暮るゝに近く晴るゝなり
秋の山活て居迚うつ鉦か
秋の山滝を残して紅葉哉
秋の山灯れるそこも湯を噴けり
秋の山膝を揃へて見てをりぬ
秋の山遠祖ほどの星の数
秋の山関所の跡を通りけり
秋の山静かに雲の通りけり
秋の山麹埃を眉にして
秋の海秋の山恋ふひたぶるに
秋山と一つ寝息に睡りたる
秋山に僧と携ふ詩盟かな
秋山に岐れ道あり岐れゆく
秋山に得し滝一つ珠のごと
秋山に放牧の柵高く高く
秋山に昏れてゐる子の父がわれ
秋山に眼力不動古りにけり
秋山に秋山の影倒れ凭る
秋山に遊ぶや宙を運ばれて
秋山に騒ぐ生徒や力餅
秋山のあさくわが村木がくれに
秋山の上に二の丸三の丸
秋山の上の遠山移るなり
秋山の人に堕ち来る蝶々かな
秋山の午天をのぼる蝶双つ
秋山の奥も奥なる弥陀如来
秋山の橋小ささよ湖舟より
秋山の穂高の岳を母と思ふ
秋山の襞を見てゐる別れかな
秋山の退りつづけてゐたりけり
秋山の道よく見えて人家あり
秋山の遠き墓地見ゆ花圃のごと
秋山の驟雨は音を先立てり
秋山も大河も己が名を知らず
秋山やいくつか滝に沿ひ別れ
秋山やいづれは峯の坊泊り
秋山やこの道遠き雲と我
秋山やヒカゲノカヅラ露しとゞ
秋山や人が放てる笑ひ声
秋山や影むらさきに瘤二つ
秋山や椢をはじき笹を分け
秋山や石楠花咲くは春の暮
秋山や神楽寄進す二三人
秋山や草むら浅き焚火屑
秋山や谷川落し居るを見て
秋山や雲間にあふぐ師の庵
秋山や駒もゆるがぬ鞍の上
秋山をどかと下り立つ墓地かな
秋山を妻と下りくる刻ちがふ
秋山を来て教會の水むさぼる
秋山を越きて寝るや水のごとく
秋山を踏みかへり来し幸は云はず
秋山浅し芒の中の柿二本
秋山真之将軍もまつり子規忌かな
秋山聳ゆ愁を消して川手水
秋山葵味に速さのあるごとし
秋山郷赤湯に春を惜しみけり
立ち止り秋山眉にのりにけり
竪に見て事珍らしや秋の山
縄跳びの円にすっぽり秋の山
聞え来る人語も音や秋の山
聲あげて父母を呼びたし秋の山
肉を焼く煙あがりぬ秋の山
背戸を出入る妻見下ろすや秋の山
花山車や動き出たる秋の山
草鞋巡査とつれだち越えぬ秋の山
葛城に重ねてうすし秋の山
蓼科は秋の山なり木賊刈る
虚子行きし径慕ひゆく秋の山
谷に仏峰に神ます秋の山
錦秋の山に琥珀を掘りし坑
雨雲の晴れて残りぬ秋の山
雪隠の窓から見るや秋の山
雲一つはなれて晴るゝ秋の山
頂上に来てその先に秋の山
首出して秋の山見ていたりけり
馬が虻に乗つて出かける秋の山
馬放つ牧の中にも秋の山
魚屋が行ってしまひぬ秋の山
鳥かげにむれたつ鳥や秋の山
鳥獣のごとくたのしや秋の山
鳥獣見よと野糞す秋の山
鳥葬の人肉きざむ秋の山
そそる石山水仙ひとむら海を聴き
むき蜆石山の桜ちりにけり
冬日義理ほど石山の石切るに
初もみぢ石山肌を見せをれば
初紅葉石山の石ぬれそぼち
有耶無耶の関は石山霰哉
湖荒れて石山寺の落葉かな
石に鳴く石山寺の昼の虫
石山そぎ立ち真冬の鴉鳴きかかる
石山にとりし舟路や月今宵
石山に今はの雁や夕泊り
石山に夏了へて鳴く油蝉
石山に夜の水くむ新茶哉
石山に時雨るゝ虹の短けれ
石山に雲重き日ぞ蝉さわぐ
石山のいしの形もや秋の月
石山のじりりと這ひし唖の蝉
石山の大磐石に寒の雨
石山の法のともしにうんかかな
石山の石が船の荷雁渡し
石山の石にたばしる霰哉
石山の石にも蔦の裏表
石山の石の上飛ぶ螢かな
石山の石も騒がぬ二月かな
石山の石より白し秋の風
石山の石をいのちの蔦紅葉
石山の石をたたいて月見かな
石山の石洗ひけり秋の雨
石山の石皚々と冬紅葉
石山の驟雨にあへる九月かな
石山や石にさしたる花樒
石山や石取りし跡の秋の水
石山や行かで果たせし秋の風
石山切り取られた秋がもうすぐ
石山寺詣ちんちん初電車
石山寺郵便局の大根注連
福引や石山の月膳所の城
秋の暮石山寺の鐘のそば
蜆舟石山の鐘鳴りわたる
蜩や石山茶屋の掛すだれ
行く秋の石山寺の石に座す
あきつ飛ぶ島一山の峰澄める
かつこうや一山翳をふかくせる
ひぐらしの一山しんと暮れゆけり
まくは瓜寄せし一山黄色かな
一山いま花の吹雪裡山に住む
一山にまぎれず朴の走り花
一山に一千の比丘はつざくら
一山に一寺浮き出づお水取
一山に一樹のみある夕辛夷
一山に法螺の響かひ竹伐会
一山に滝の音声冬こだま
一山に秘めたる祭り五月来る
一山に草刈り作務の散らばりし
一山に薬師三尊初詣
一山に譚まつはる木の実かな
一山のことに明るき椎の山
一山のこらへきれざる花ふぶき
一山のこゝに息づき滴れる
一山のすすき陽に泛く疲れかな
一山のふもとの坊の菊真白
一山の僧が出座す十夜の燭
一山の僧に覗かる穴惑ひ
一山の僧の並びし御松明
一山の僧定に入る竹の秋
一山の僧集まりて御開帳
一山の光の渦となる落花
一山の凍死の記録棚にあり
一山の力を滝の姿とし
一山の圧のかかりし巌清水
一山の夕闇支へ桜満つ
一山の大荒れの滝蝉鳴かず
一山の威のおのづから初日滝
一山の寝落ちてしだれ桜かな
一山の崩れんばかり花の散る
一山の春蝉に身を浮かせゆく
一山の晴れては曇る桜かな
一山の杉の若木や風かほる
一山の杉揺り上げて冬の風
一山の枯れに加はる父の声
一山の枯れ清水の舞台圧す
一山の桜にひしと鎧ひけり
一山の椋鳥集め椋大樹
一山の構へを解きて早苗束
一山の涼を呼び寄せ万灯会
一山の湯けむり凍てし日に向ふ
一山の田打櫻のけさひらく
一山の石蕗が忌日を濃きものに
一山の秋風を聴く窓に倚る
一山の笑ひはじめの水の音
一山の篠枯れつづき伊豆の春
一山の紅葉に染まり死ぬもよし
一山の紅葉風を楽しめり
一山の緑の暗き茅の輪かな
一山の胡瓜買ふ腰子につかまれ
一山の芒残照ゆらしけり
一山の花の天蓋御忌の鐘
一山の花の散り込む谷と聞く
一山の花を法衣の観世音
一山の落葉松やほととぎす
一山の薬掘り得で書半巻
一山の蜩壺中にあるごとし
一山の蜩負へり朝の打坐
一山の蝉の木末枯れ立つ
一山の裾の裾まで霧氷して
一山の要に露の千光寺
一山の鐘遠近し櫻散る
一山の闇松虫の寄せて来る
一山の隠す一村鵺啼けり
一山の雑魚の中なる夏の河豚
一山の雪の深さや初薬師
一山の雪へ鐘撞く善光寺
一山の雪解の音はわが鼓動
一山の露授かりし西虚子忌
一山の青竹藪に男棲む
一山の静謐を解く落花かな
一山の風動き出す大根焚
一山は皆畑なり秋の風
一山は石楠花彩に室生道
一山や乳を出す木の春の暮れ
一山や秋色々の竹の色
一山をつつむ淡雪聖高野
一山をふくよかにして椎の花
一山を下闇として立石寺
一山を仕切る高声あれは鵙
一山を住宅にして風光る
一山を吹き抜けてゆく青嵐
一山を庭とし馬貞の忌を修す
一山を揺るがし解夏の法鼓鳴る
一山を洗ひし雨やお開帳
一山を蝉に占められ瑞巌寺
一山を賄ふだけの大根蒔く
一山を越え来し思ひ彼岸来る
一木の一山の雪しづりかな
万灯会果て一山の虫の闇
万緑の中の一山杉の鉾
三山の一山の上鳥渡る
三山の一山霧に没しゐて
三山をかくす一山高稲架に
上々のみかん一山五文かな
中尊寺一山くらき星月夜
仏法僧一山の月に鳴きはづむ
傘あげて見よ一山の雨の葛
僧千人かくし一山朝曇り
冬滝のこゑ一山の遺蹟群
分たれて鱈も一山できにけり
切子貪欲一山蛾族翔け参じ
初烏一山雪に明くるかな
初護摩の法螺一山を貫けり
初鴉一山雪に明くるかな
口笛や一山のへび棒立ちに
句碑開眼成りし一山菊の秋
夕影は一山売りの胡瓜にも
打つ鐘の一山制す初不動
採石の一山白し夏燕
日盛や一山の僧のありどころ
春蝉の声一山をはみ出せる
朴若葉して一山を隠し余る
杖振れば一山の花咲きさうな
松花季一山くもり総てくもる
樹氷いま鳴れば一山鈴の音に
水垢離場より一山の凍りたる
永平寺一山あげて障子貼る
泣き涸れて聴く一山の蝉しぐれ
滝の上に一山があり空があり
熊野詣や一山の椎花粉噴く
白菜の一山値札つきさして
真言密教一山の滴れる
磐打つて響く一山落し文
磨崖仏統る一山ほととぎす
神迎ふ一山六社みな灯り
竹秋の一山一寺雨けぶる
芒穂を解きて一山揺れ易く
花に声あらば一山華巌経
菜殻火の匂ひ一山越えて来し
葛枯れて一山の風落ちつかず
蔓踏んで一山の露動きけり
蟇出でて一山昏き接心会
蟇容れて一山の雨気ととのひぬ
行僧の去りて一山寒ゆるむ
裾に人一山葡萄棚覆ふ
鐘撞けば一山ふるふ露しぐれ
鐘楼より一山の雪囲解く
鑑真の壷眼一山しぐれけり
除夜の鐘一山の闇揺らしけり
隠国の長谷一山の蝉時雨
雨吸つて一山深し九輪草
雪ながら一山沈むダムの底
雪囲ひ解きて一山一寺かな
青ざめるまで一山の竹を伐る
食器清水に浸し一山の昼寝僧
髪剃つて一山の僧御忌支度
鳴神の一山征す小半時
鶯の声に一山失せにけり
やまなみの一つ岩山歳の市
ギリシャ岩山女身みどりに疾風の尾
一本のこの岩山の撫子よ
仏法僧岩山更けて月のぞく
初富士の鳥居ともなる夫婦岩
子とかじる青はしばみよ岩山に
岩山に冬日的*れき友の婚
岩山に張りつく農家繭白し
岩山に恋愛の胸夏の終り
岩山に生れて岩の蝶黒し
岩山に裸の櫟光りあふ
岩山のいのちかそけく滴れる
岩山のぎらぎらしたる極暑かな
岩山の何に鳴り居る朝月夜
岩山の岩あたたかく子守居る
岩山の岩より咲きぬ筆竜胆
岩山の岩を無念の日が過ぎる
岩山の岩押しあへる朧かな
岩山の崩れし跡や枯尾花
岩山の捧ぐる土の冬紅葉
岩山の石にたばしるあられかな
岩山の裾なす汀蝶鮮らし
岩山は冬かげろふに加はりて
岩山や切れとを過ぐる鷹の声
岩山や水仙かをる風の間
岩山を蝶越ゆ吾も幸福追ふ
巌山の霜枯すすき空およぎ
巌山を胸ほそり越ゆ雁の数
搦手の岩山つゝじ盛りなり
日の巌山蜻蛉の翅もひびくべし
春山やわが手ぢからにゆるぎ岩
椙炎える戦傷の足岩山に
油照巖山は巖しぼり出す
渓は鳴り岩山夜風梨花散らす
真白な寒月岩山の横へ出づ
結願の経のたかぶり岩山萌え
藻の暗層岩山海へ逆落し
遅い月が出ると巌山のかげにある甕
風雨凪ぐ大巌山のなごり花
鷹の子や岩山裾に白砂の帯
あけび熟れ裏山寂と日の移る
うねりをかくしわが裏山は東に一つ
うら山に竹伐りに来て胃が痛し
うら山に雉子啼いてゐる金閣寺
うら山のひたと動かず秋暑し
うら山の子狐鳴ける干菜風呂
うら山の影絵のきつね雪降らす
うら山を石ころげおつ二日の夜
つつ鳥や木曽の裏山木曽に似て
とぎ澄ます耳に雪ふり裏山をわたれる雉子の天斬るこゑも
わがものとして裏山の青嶺聳つ
一人静二人静も裏山に
伊勢からも裏山からもかえりくる
僻地校すぐ裏山に湿地採り
兄弟裏山のきのこ取り朝雨に濡れ来る
冬晴の裏山へゆく魔法瓶
前山の闇裏山の十三夜
四五人ははや裏山に鵙の晴
奥へ奥へ誘ふ裏山午まつり
子守半纏裏山の影足もとに
学園に裏山のある良夜かな
客来ればすぐ裏山へ菌狩
寒禽の裏山越えてくる長男
市振の雨の裏山花常山木
年の瀬の裏山とほる松を手に
庭松に裏山霞下りてあり
廃村次ぐ裏山馬場に桜散り
数珠玉の裏山道を塞ぎけり
文庫の裏山菊芋咲き出して
早や梅雨の気配裏山かけてあり
明け動く宮裏山や初烏
春暁や裏山畑の百姓家
柊挿す裏山に雲あそばせて
柿ことごとく落ち裏山の青天井
柿の裏山帽子のかるさ空に出る
梅林へ梅林へ私は裏山ヘ
歯朶刈の音裏山へ廻りたる
海鳴れば裏山鳴れり虎が雨
渡り漁夫宿裏山の夏落葉かな
港の灯華麗に裏山十三夜
湯の町の裏山に会ふ年木樵
火事消えて裏山は夏闌けにけり
父の忌の裏山歩く白地来て
片栗の花裏山を淋しくす
狩猟期に入りたり寺の裏山も
猟銃音父母の墓山その裏山
登り窯裏山伝ひ歯朶を刈る
百合白く雨の裏山暮れにけり
破れ傘生ふ裏山の道愛す
祭ある裏山里や合歓の花
禅林やその裏山の鵯谺
窯火燃え裏山若葉ゆれどほし
竹白く光る裏山日の盛り
筑波よく見ゆる裏山草萌ゆる
籾摺やわが裏山の薄紅葉
紅芙蓉暮色裏山より落ち来
紙干して裏山に猿鎮まらず
花柘榴裏山の空残りたり
茂吉忌の雲裏山の冷えを呼ぶ
薪割るや裏山に立つ冬の虹
藪巻やこどものこゑの裏山に
蜩といふ名の裏山をいつも持つ
蝶の来て裏山に父消ゆるまで
裏山がすぐそばに来る盆休み
裏山といふ名の山も笑ひけり
裏山に*ぎすが鳴き継ぐ生徒の死
裏山にいつも兄ゐて冬ぬくし
裏山にけものの殖ゆる良寛忌
裏山にのどかと日の射す安居かな
裏山にひかる雲積み蛇笏の忌
裏山にまずものを言う大旦
裏山にゑくぼの日ざし福寿草
裏山に一つの道や葛の花
裏山に人の声ある竹の秋
裏山に人語きこゆる小春かな
裏山に出て雪ありぬ兎罠
裏山に初東雲の蒼からむ
裏山に声なき鷺や大夕焼
裏山に少し雪ある雛納め
裏山に山吹咲かせ人住まず
裏山に巣箱を掛けて卒業す
裏山に手づから剪りて歯朶長し
裏山に投げ捨てられたる歯が繁る
裏山に日がさすときの麦埃
裏山に日が落ち残雪あらあらし
裏山に日が赤々と秋蚕かな
裏山に日のたつぷりと畳替
裏山に月を置きざり風の盆
裏山に来て父の息凧の息
裏山に椎拾ふにも病女飾る
裏山に滝下りをり冬の寺
裏山に登れば遅日尚在りぬ
裏山に笹鳴殖やし醤油蔵
裏山に藤波かかるお寺かな
裏山に蛇帰る振袖に手を通す
裏山に裏山かさねゆくひぐらし
裏山に返す谺や山始
裏山に金粉散らし春の月
裏山に雪の来てゐる神楽かな
裏山に音先立てて盆の雨
裏山に音立ちのぼる晩夏かな
裏山に風の荒れゐる霜囲
裏山に風募りくる冬至粥
裏山に風鳴る夜の根深汁
裏山に鴉収めて会陽寺
裏山に鶯鳴かせ老知らず
裏山に鷹の落ちたる遅日かな
裏山に鷺啼く夜の暑さかな
裏山に黄泉の使者立つ雪煙り
裏山のうぐひす老いぬ妻を賜へ
裏山のつづきの異界花すすき
裏山のにはかに暮るる掃納
裏山のほうと椿の口あける
裏山のわらびぜんまい枯れはげし
裏山の光る雉とぞ契らん
裏山の十歩の松を迎へけり
裏山の土をこぼしぬ藪柑子
裏山の奥に裏山夏休み
裏山の女つららを食つてゐる
裏山の峯に灯のある夜の長き
裏山の幼い星よ*えい泳ぐ
裏山の日ざしが縮む吊し柿
裏山の日暮が見えて雛祭
裏山の日暮れのいろの風邪心地
裏山の昏らさは桃の花ざかり
裏山の春風さむしすぐ下る
裏山の暗い青空紅葉散る
裏山の木の芽かたきにとぢて窓
裏山の杉の香つよき雪催
裏山の東風澄みまさり来りけり
裏山の栗鼠が来てをり避寒宿
裏山の梅ちらほらやお万歳
裏山の植樹千本西行忌
裏山の残雪になほ兎罠
裏山の秋の七草今朝きりて
裏山の竹炭を継ぐ大夏炉
裏山の笑ひころげてゐたりけり
裏山の遍路径てふ木の実降る
裏山の闇より去年に入りにけり
裏山の雨雲深し鳴く蚯蚓
裏山の風に応へて貝割菜
裏山の風まろび来る達磨市
裏山の骨の一樹は鷹の座ぞ
裏山はじつとまるくて鯉料理
裏山はせかせかと暮る餅配
裏山は下闇深し土着漁夫
裏山は松が枝ばかり初詣
裏山は真昼の日ざし草蘇鉄
裏山は籬に囲ふ春の雪
裏山は芽吹きはげしや達磨市
裏山は風のひびきの酢の澄む昼
裏山へ垣せぬぞよし濃山吹
裏山へ帰る子のあり花祭
裏山へ干場の伸びて海苔日和
裏山へ通ふ木戸あり冬構
裏山へ鎌光りゆく盆支度
裏山やついりの鳥は黙り鳥
裏山や枝おろし行く秋の風
裏山や緑くはしきほとゝぎす
裏山や雪頬白に枯れ盡くし
裏山より年を届けにみそさざい
裏山をこどもの通る雪解かな
裏山を僧急ぎつつ桃の種
裏山を夕日洩れくる春炬燵
裏山を百舌鳥宰領す菊日和
裏山を紋白蝶のこぼれ来し
誰れをくしけづるその裏山の屈葬
迷ひしを裏山と知る芒かな
雨あびて鵯は裏山へとぶ
雪暗の裏山に雷鳴りこもる
雲衲に裏山の百合咲けば江湖
霙ふる裏山かけて竹ばやし
霙降る幾裏山や昭和終ふ
*えびづるや大山寺道石を敷き
うすぐもり大山淡き田植かな
どむみりと大山入れて植田水
はたはた神夜半の大山現れたまふ
人参を抜き大山を仰ぎけり
伯耆大山椀の蜆の小さかり
伽羅蕗が好きで大山詣かな
刃の如く輝き始む大山の襞に残れる雪の幾条
初旅の大山を負ふ駅つづく
大山に日のあるうちは畑打て
大山に脚をかけたる竈馬かな
大山に釣瓶落としの雲ふたすぢ
大山に雲集へるは神集ふ
大山のその天上へ半夏生
大山の伏流といふ種井かな
大山の全き日なり雁帰る
大山の全容近し初御空
大山の北壁けづれ巌冷ゆる
大山の南に不二や渡り鳥
大山の各坊味噌を搗きにけり
大山の吹き飛ばし居る冬の雲
大山の夏山として今日よりは
大山の天狗が撒きし花粉症
大山の山毛欅の雪間の大いなる
大山の暁月夜ほととぎす
大山の月さしてきし梨番屋
大山の根雪もとれぬ羽子日和
大山の水が命の冷奴
大山の水をあまねく早苗月
大山の沢の奈落の山葵かな
大山の浮びし梨の花月夜
大山の火燵をぬけて下りけり
大山の男坂なる尉鶲
大山の竿雪細る花こぶし
大山の裾寒林となるはいつ
大山の闇より音となる時雨
大山の雪も間なけむ晩稲刈
大山の雲を下りて鮎を見る
大山の青を巻きたる落し文
大山はナポレオン帽春の雲
大山は霧の中なり能舞台
大山へ一拍二拍鍬始
大山や枯は怠惰の色ならず
大山を知りつくす夫茸狩りに
大山女背の斑光らす雪解水
大山山麓すかんぽ噛めば谺
大山独楽いそいそと夫購ひぬ
大山能狂ひしおもて月仰ぐ
大山詣水に研がれし冷奴
対州は大山国やほとゝぎす
急ぎ来る大山蟻や昼餉の座
新涼や子とつれあそぶ大山蟻
昔麻布大山道の桔梗かな
春の野を持上げて伯耆大山を
水神に大山百合の白さかな
猪鍋の大山詣くづれかな
猪鍋や大山の闇待つたなし
田を植うるみな大山の裾に乗り
竹箒大山麓をはくわれら
笹叢を大山百合のぬきんずる
節分の微も茫もなき大山塊
結界の轟然と鳴りて大山崩
翳す手が霧を誘ふ大山能
芯太き大山独楽を買初に
送行の大山門を返り見ず
雨雲の大山道の葵かな
雪を着て伯耆大山頑張りぬ
雪晴の大山そそり三瓶坐す
露乾く草に晴れ見ゆ大山かな
七月やひづめの音を奥山に
冬景色奥山大臼歯の如く
夫につく有為の奥山あをあらし
奥山にむささびの声山開き
奥山にもみぢ踏み分け偽書に入る
奥山に売られて古りし蚊帳かな
奥山に夏霧のぼり杉濡らす
奥山に大雪やある余寒かな
奥山に旅寝かさねて合歓の花
奥山に来て逢ふ春の障子かな
奥山に滝かくしたる平家村
奥山に雪積るらし白湯うまし
奥山に風こそ通へ桐の花
奥山のさくらは白く舂づける
奥山の囀小筥に納めたし
奥山の天をうつろふ夏雲雀
奥山の奥ある国にゐて炬燵
奥山の寒蝉月に鳴きにけり
奥山の径を横ぎる蕨とり
奥山の懸巣の羽根を拾ひ来し
奥山の枯もけぶれり野蒜摘
奥山の枯葉しづまる春夕
奥山の温泉の夜寒ひとしほに
奥山の滝に打たるる夏行かな
奥山の芒を刈りて冬構へ
奥山の花をうながす修羅落し
奥山は雪ふかけれど西行忌
奥山やめでたきものに飾炭
奥山や五声続く鹿をきく
奥山や枯木の穂にも初日影
奥山や紅葉掻き分け鹿の角
奥山や鈴がら振つて呼子鳥
奥山紅葉めぐすりの木の在り處
屋の間奥山見えて夕立かな
時雨忌や有為の奥山越えてなお
暮れそむる奥山見えて雪おろす
法然の日を奥山に籠りけり
火薬庫ある奥山かけて紅葉はげし
落蝉は有為の奥山けふ越えて
葛切や京奥山の水の味
薄氷天に奥山在る如し
谷春辺猶奥山の寝こけかな
雪かけて奥山肩を上げにけり
こゝに見る由布は雄岳や蕨狩
二上山の雄岳か星の流るるは
雌岳いま雄岳がくれに野路の秋
霧がくれ男嶽がくれに女嶽かな
コンドルの舞ひて峨々たる夏の山
伊吹峨々と眉に迫りて冬凪げり
夏山を峨々と重ねて坊夜明け
岳峨々と夢にそびえて明易き
抜きん出て冬日を峨々と荒削り
東西に峨々たる岬鰊群来
流氷の峨々たる下に海軋む
父の日の消印岳の峨々と立つ
玄冬に桂林巍々と峨々とあり
種売に彼岸の御堂峨々とたつ
臘八の旦峨々たる声音かな
鱈汁や掛軸の絵の山峨々と
麓まで山の峨々たる比良祭
*さいかちの枯山に入る夜を水の上
ここのところに俺の子枯山もう暗い
この軍旗かの枯山を幾度越えし
ただに在る一つ枯山たのみなる
ひとり来しわれに華やぐ枯山は
コーヒーの香を枯山に洩らし住む
一日世を隔つ枯山の日だまりに
僕の樹鳥の樹枯山はひかりの骨
冬苺引けば枯山やや動く
刻かけて汽車枯山に頭出す
卑弥呼径尽く枯山の列車音
少年尿す枯山をあたたかく
日当たれば枯山母に似て温し
日当りてきし枯山の色ゆるぶ
星まばらな枯山鋼の眠り来よ
暮るる海枯山かけて大雨あり
書を閉ぢし音枯山の一燈下
朝日さし枯山にぎやかにしてさびし
果しなき枯野枯山石鼎忌
枯山が日ごと枯山らしく見ゆ
枯山が霞むスモッグ入り込みて
枯山となりて明るく海を抱く
枯山と同じ日なたにをればよし
枯山にくろもじを折り匂はする
枯山にけむり一すぢ飢ゑかすか
枯山にしばらくをれば馴れにけり
枯山にすつぽりと入り女たり
枯山にのぼりておのれ葬るごと
枯山にめをと懸巣か常に二羽
枯山にもつとも近きもの嘴
枯山に一夜ねむりて血を濃くす
枯山に一筋生きて木馬道
枯山に入りし思ひを傘の中
枯山に夕日あやしきまで赤し
枯山に抱かむ黄なる日垂れて来よ
枯山に放り出されし無人駅
枯山に日ざすやいなや紫無し
枯山に日はじわじわと指えくぼ
枯山に未だ枯れぬ川侍りけり
枯山に来て研ぎたての鉈ふるふ
枯山に枯れてはならぬものを植ゆ
枯山に火を点じたり雉子の頬
枯山に火薬の匂ひふとしたる
枯山に生れて滝の白秀づ
枯山に禽啖ひいのちあらはにす
枯山に虹の一遊ありにけり
枯山に見比べて買ふ鳩の笛
枯山に釦を拾ふ既知のごと
枯山に鳥突きあたる夢の後
枯山に鳥透き肉親こぼれゆく
枯山のうしろは青し風の音
枯山のうすずみ色は唇に
枯山のかげ枯山をのぼりつむ
枯山のひよどり翔けて日の真空
枯山のむかうなほ枯れひとり旅
枯山のホテルにポーの黒猫飼ふ
枯山の上に忽として一雪白
枯山の上の荒海航を絶え
枯山の中にしづみて温泉に浸る
枯山の人声はつきりと聞いて湯に居る
枯山の低山にして雑木山
枯山の入日なつかし炭売女
枯山の向うが見えて己れ見ゆ
枯山の奥なまなまと滝一筋
枯山の岫をめぐれる水のこゑ
枯山の影の来てゐる晩稲刈
枯山の日向の道の腕めく
枯山の昼のランプに鬼をどる
枯山の暖かさうな不思議かな
枯山の暖色に馴れ狎れし愛
枯山の月今昔を照らしゐる
枯山の月光垢離というべかり
枯山の枯れの匂ひも夕日なか
枯山の火塚にのぼり天はるか
枯山の猫の迅さをかなしめり
枯山の短き谺かへしけり
枯山の背骨腰骨春めきぬ
枯山の菩薩顔して日当れり
枯山の落暉に音のありにけり
枯山の谺となれば寧からむ
枯山の起き伏し蘇領に続くかな
枯山の音のすべてを吾がつくる
枯山の骨角器にて拾ふ星
枯山はとほしかゞやく馬の膚
枯山はゆつくり来よと坐りをり
枯山は禽を放ちてくもりぐせ
枯山へわが大声の行つたきり
枯山へ走る火襷くづれ窯
枯山へ餅搗く音のゑくぼなす
枯山や子の骨格に手を置きて
枯山や屋根の風見の海を指し
枯山や振り返るとき尉鶲
枯山や昼三日月と凧
枯山や枯山なしてパン並ぶ
枯山や消ゆく電車のうしろ窓
枯山をきて頂上の平らな水
枯山をくだり来て夕富士にあふ
枯山をこだまのごとし道が這ふ
枯山をほとばしる瀬のねこやなぎ
枯山をみなもと鴉争へり
枯山を下りきて熱きぼんのくぼ
枯山を出て朽野に憩ふなり
枯山を擦つて夕雲燃えはじむ
枯山を断つ崩え跡や夕立雲
枯山を歩き来し夜はさ湯うまし
枯山を水のぬけゆく琴柱かな
枯山を渡り歩けば眼も枯れて
枯山を登り一人なる汗拭ふ
枯山を見てゐしが飽き登りけり
枯山を越え来し風に独語乗す
枯山を越え枯山に入りゆく
枯山を重ね~てあたゝかし
枯山毛欅をなぶりたわめて霧荒し
枯山飲むほどの水はありて
枯野枯山遂に脱がざる鉄仮面
柚子湯出て枯山の日に歩きけり
柚湯出て枯山の日に歩きけり
死の商人ばかり枯山鴉ばかり
母紛るるな枯山の密な日で
汽車工場の汽罐車枯山へ光向く
火塚累累枯山風をとほくしぬ
父の墓建ち枯山に親しさ増す
父の墓枯山けさは雪の山
男寝て枯山へ息通はする
石おこすや枯山に得し働き口
神呼びの鼓笛枯山目に畳む
窓に立つ枯山思ふ人遠し
誰か柴掻きて枯山匂ひくる
逝く年の枯山あかり頬にとどめ
鉄瓶の枯山に鳴る身内の喪
陶師屈背枯山の創陽にしるく
雉子のいろ枯山のかたち目なれつゝ
雪山を背にし枯れ山貧窮す
青山を枯山にしてかいつぶり
音たてて泉湧くなり枯山に
鳶の巣に枯山膚を近づけて
鴉とともに枯山くだる郵便夫
鴉低く翔ぶ枯山を知りつくし
鶴啼きて枯山は枯深めけり
函嶺の湯あみを冬の雷のもと
函嶺を率て雪の不二聳えけり
春の雲とぶや函嶺の裏関所
西函嶺を踰えて海鼠に眼鼻なし
玄冬に桂林巍々と峨々とあり
連嶺の巍々の眠りに雲の影
切岸の巍々と迫りて鰯雲
満月の光顔巍々と照りわたり
いきいきと水の出てゆく茸山
うすけむり立つるとき佳し茸山
かへり見て母の達者や茸山
これが茸山うつうつ暗く冷やかに
しめりある茸山の風土も亦
よべの月細くも差せし茸山
一睡のあとに分け入る茸山
三度行き三度迷ひし茸山
僧の機嫌雑茸山の風に吹かれ
妻の座は臀の座なり茸山
少年の尿がとんで茸山
帰郷した鼻でさまよう茸山
庭先の道を通りて茸山に
日蝕や獣の匂ふ茸山
泊雲忌過ぎし丹波の茸山に
牛に紛れて姑は分け入る茸山
生き過ぎし者で賑はふ茸山
茸山きのふの人の声のこる
茸山ざわざわとあと何か覚め
茸山とは毒茸あるところ
茸山と寂光院の径と岐れ
茸山にひるからの雨残夢冷ゆ
茸山に唯ならぬ顔わけ入りぬ
茸山に妻木を寄する走り合ひ
茸山に対し一色城址かな
茸山に煙立つなり今日は晴れ
茸山に見えてとまれる汽車のあり
茸山に近づき上るこみちかな
茸山に遊びて京の旅終る
茸山に馬頭観音ひそとして
茸山のざわざわとせるあたりかな
茸山の仕事納の一焚火
茸山の尾上の鐘をきゝにけり
茸山の昼餉始まり一人欠く
茸山の浅き山にて満ち足れり
茸山の深き落葉に藁草履
茸山の煮喰いや陽をも烟らして
茸山の白犬下り来るに逢ふ
茸山の真の深みにはまりをり
茸山の茸の孤独に囲まるる
茸山の蛾のほろほろと月の前
茸山の裾に待ち居し俥かな
茸山の道なき道のかぎりなし
茸山の頂上に水置かれたり
茸山へかつぎ登りし水一荷
茸山へひかりのはしをのぼりゆく
茸山へ三味を届くる俥夫なれや
茸山やあらぬ処に京の見ゆ
茸山やむしろの間の山帰来
茸山や巨石うしろに酒黄なり
茸山や殻鉄砲の一けぶり
茸山を下りてこゝに水迅し
茸山を出て来し人等稲架ぞひに
茸山を淋しき顔の出て来たる
茸山を背の酒ほしき夕べ来ぬ
茸山を越え来る人に遭ひにけり
茸山去年も崩れてをりし径
茸山茶粥を吹いて仰ぎけり
茸山観月の山その上に
茸山飯食はんとす海見ゆる
赤埴に茸山の径十文字
遅れつきし茸山深く声あちこち
飲食の四五人見えて茸山
老鶯や佐渡金山の狸穴
蓬萌ゆ土肥金山は風の奥
金山に夜の光りやさつき闇
金山の裾に広がる踊の輪
五加木摘む廃銀山の墓径に
哀史秘む銀山絵巻曝さるる
廃銀山馬鈴薯の花ここに尽く
泉なほ湧く天領の廃銀山
禊川銀山を出てひびきけり
花が花降らしぬ銀山坑あたり
銀山の小笹を刈つて盆の道
銀山の粒選りの雨流燈に
銀山や真冬の清水たばしりぬ
朝日さす霜の空林空山に
空山に蚤〔を〕捻て夕すゞみ
空山の常盤木に神いましけり
空山へ板一枚を荻の橋
空山へ草の絮とぶ誕生日
空山を煙上るや東風の空
落鮎や空山崩えてよどみたり
かむこどり草山高き昼の月
トマト濡れ高草山よ青けぶり
上り見れば只草山や風月夜
初不二を枯草山の肩に見つ
夏萩に草山の日の影のさす
宗祗忌の草山をゆく風の尖
幾草山芳はしき青母と行く
指で梳く蓬髪秋の草山に
教場より見ゆ草山や春の風
日のひかりきこゆ枯草山にひとり
春立つや草山ながら烽火台
暮れて越す草山一つ春の月
枯草山夏柑は色ととのへて
父こひし草山秋の日を湛へ
秋虹や草山映えて一とところ
航空燈台暑し草山尨然と
草山にかげる雲なき暑さかな
草山に下りてまばらや鴉の子
草山に夕日見送る冬の虫
草山に夜の風きて蕪汁
草山に浮き沈みつつ風の百合
草山に涼しく向かひゆく五感
草山に矢の根拾ふや時鳥
草山に顔おし入れて雉子のなく
草山に馬放ちけり秋の空
草山のくり~はれし春雨
草山のすつかり刈られ秋の風
草山の一歩ははるか秋燕
草山の墓北風に吹きはれぬ
草山の奇麗に枯れてしまひけり
草山の枯色撃ちて雉仕止む
草山の火に秋風のすぐ応ヘ
草山の谷間に槇の茂りかな
草山の重なり合へる小春哉
草山の麓燃ゆるや桃ならん
草山ばかり眺めの茶屋や萩の花
草山やこの面かの面の百合の花
草山や南をけづり麦畑
草山や沖の鯨を見にのぼる
草山や潮じめりにかへる雁
草山を又一人越す日傘かな
草山を春田へ下りる鳥居かな
草山を比叡の内チや春の雷
草山を雉子はなれざる抱卵期
郭公や草山の瘤影を曳き
雨垂れの向ふ草山仏生会
高原の草山に霧ふれて飛ぶ
三黙の行了へ下山爽やかに
下山して堅田泊りや後の月
下山して西湖の舟に富士道者
下山する釣鐘草の早や萎れ
下山の荷サロンに積まれ汗匂ふ
下山の蟻掲ぐる獲物はずみはずみ
下山一気夏雲はいま触れきし霧
下山僧に露の深さを思ひけり
下山者に杖譲られて著莪の花
乗鞍の黄葉にスリップして下山
八方尾根下山がたがた蝶番
列固く組めり下山のスキー隊
啄木鳥や下山急かるゝ横川寺
大いなる富士の影踏み下山せり
実葛青年海を見て下山
山形へ下山途中の夏薊
御しのびの下山や萩のから衣
暁の霧しづかに神の下山かな
暗闇の下山くちびるをぶ厚くし
杉の間のひぐらし下山の息ほどに
火を焚いて下山に似たる別れかな
火山灰つむじ先だつ下山秋の風
独活の実の露あるが降る下山かな
百合折るや下山の袖に月白き
着かさねて箱根を下山遅さくら
秋天下山落ちきつて太る水
立山の虹くぐり来し下山かな
花辛夷尼の下山とすれちがふ
蕗を負ふ母娘の下山夜鷹鳴く
蜩や下山の僧に追ひつけず
覗き込む下山路霧を背にしたり
迎火のとろりと浮ぶ下山口
遠雷が一つ鳴りゐて下山道
郭公や下山の頭ふつと消え
銀杏踏で静に兒の下山哉
銀杏踏んでしづかに児の下山かな
雪焼の顔を揃へて下山せし
鞍壷に摩耶昆布かけて下山かな
額の花下山の靴の紐締むる
鳴きかはす鵺に急かるる下山かな
鶯や雨となりたる下山路
八講の険しさ鳥をこぼす雲
山険し猟銃の口下方に向け
師道険し新樹の直枝左右に迫り
我等には険しき山路小鳥来る
斑猫の飛びて馬籠へ坂険し
水澄むや四方険しき出羽の山
盆栽の熔岩険しうてふ蘭
絵簾の険しき山のすがたかな
薬掘る人に声かけ道険し
貴船より険しさ参る牛王加持
道漸く険しくなりて梅多し
あそびめに塞かる鉱山や天の川
しばたいてゐる鉱山の踊の子
ラムネ吸ふ鉱山の肌見て来し街にて
向日葵に鉱山びとの着る派手浴衣
廃れ鉱山雪にたれかれありて住む
春暁のコーランに覚め鉱山の街
春潮の荒らぶ鉱山町けぶるなり
時の日の鉱山霽れ酒保に煙草着く
暑き日の鉱山見ゆる不浄門
月赫き崩崖鉱山ぞひの盆の月
松蝉や鉱山のさびれの目に立ちて
生理説く鉱山の中学軽雷す
秋祭り終はれば鉱山を離れんか
花木槿鉱山は廃れて雨に冷ゆ
葵咲く鉱山の理髪師嫁迎ふ
野葡萄負へり鉱山の匂の男たち
鉱山に朝市が立ち春大根
鉱山に生れし誇り鏡餅
鉱山に逢うて盛夏帽裏の刺を通ず
鉱山のエレベーターに見ゆる滝
鉱山の五月のさくら小さく咲く
鉱山の姿とみれば寒さかな
鉱山の村噴井に障子洗ふなど
鉱山の町や舟著く冬の川
鉱山の神露けき鉱石に注連新し
鉱山の跡分校の跡山桜
鉱山人のうまし女連れぬ寄席の秋
鉱山出来て刈田の日々の洟垂児
鉱山慣れて手拭首に涼みけり
鉱山暮るゝことの早くて霙れけり
鉱山煙日々おだやかに草の花
鉱山町や障子を洗ふ一ト流
鉱山街寂びて秋晴の墓あらは
えぞにうの木霊オホーツク海へ抜け
かしづくや木霊をさなき欅苗
かなかな木魂山萱の葉のふれ合へる
かへらざる木魂もあらむ柞山
きつつきの樹を打つ音も木霊かな
くれくれて餅を木魂のわびね哉
しめっぽい木霊とびかう置き薬
どの子にも木霊返して山開き
どの木にも木霊生まるる寒昴
ひさしぶりの雨だ灯を消せ匂う木霊
みよし野の木霊となりしほととぎす
一斉に木霊の醒むる春の森
伊那谷は木霊の色も紅葉して
冬木伐る木魂あそべり道志峡
冷まじく暮れて木霊も居らざりき
凩も負けて太鼓の木魂かな
初明り一つ咲きたる木霊かな
初猟の木霊が遠く重なれり
匂い立つ樹々の朧に笛木霊
十月の木霊が通る鉈の上
吾子呼べば吾子は木魂す夜の山瀬風
啄木鳥の纔に木霊の耳を澄ます
国栖奏の鼓は木霊呼ぶごとし
声ちがふ木霊竹霊利休の忌
夏の夜や木魂に明くる下駄の音
大暑にて杉の木霊は背の高き
密猟の火づつときけど木魂かな
寒林の切株四五は木霊の座
少年へ涼しき声の木霊が居り
山百合の哄笑谷に木魂せり
常夜鍋木霊は山に帰りけり
幹打つて覚ます木霊や西行忌
恋猫や椎の木にある夕木霊
慈悲心鳥おのが木魂に隠れけり
手をうてば木魂に明る夏の月
手を打てば木魂に明くる夏の月
春立ちし国栖の大きな木霊かな
暮れ暮れて餅を木魂の侘寝哉
月よりも春の木魂は遥かより
月山の木魂と遊ぶ春氷柱
月明の木を離れたる木霊かな
木曾谷の木魂の寒さ相よべり
木枯の木霊修那羅の神の声
木霊ありいつか身につく走るフォーム
木霊より軽き子を抱く冬隣
木霊ゐず霧か露かの山の鯉
木霊棲む山めぐらすや神楽笛
木霊棲む神の大楠夜鷹鳴く
梅雨の夜の園の木霊と犬を呼ぶ
樹氷林声なき木霊空に充ち
橇去りてより鈴きこゆ木魂とも
母声の木霊が帰る月下かな
氷る湖の木霊呼びつつ機始
汗の身を木霊が透り過ぎにけり
海棠や教会の鐘木霊なし
涸谿の木霊言霊冬ざるる
父にしてむかし不良の木霊かな
甲斐駒の返す木霊や吾亦紅
種に入る木霊の一部青くるみ
空谷に木魂して掻く漆かな
紅葉折る木魂かへすや鏡石
結界の木霊となりける青葉木菟
老桜の木霊や現れて返り花
老鴬に杣は木魂をつくりけり
落栗やなにかと言へばすぐ木魂
谿ふかく棲める木魂や棕櫚の花
郭公の木霊の中の火山かな
開拓や斧よ木霊よ遠郭公
雨細し木霊枯れ棲む磯林
雪の夜は遠き木魂に呼ばれをり
雪の日のちよつと遊びに出る木霊
露日和木霊は元の木にもどり
青梅雨や木霊棲みつく鞍馬杉
青葉木菟鳴いて木霊はうまいどき
鼓打ち新樹の木魂呼び下ろす
あさましや谺も同じ雉の声
あまぎ嶺に谺し冬の鳥射たる
いづこにも雲なき春の滝こだま
いわし雲斧の谺は父祖の声
うぐひすの谺も神の瀧のもの
おらが世は臼の谺ぞ夜の雪
かぐらせり唄谺して雪もよふ
かげろひゆく身に谺して怒濤音
かたくりの花すぐゆれて谷谺
かの瀧のかの瀧谺手を合はす
こだま欲し干潟に貝の放射脈
さきがけて蕗咲く渓の谺かな
さくら陰誰に谺か山の神
さしのぼる月の谺のきんひばり
さみしさや谺返しの威銃
しんしんと谺殺しの雪の谷
すぐ応ふ谺も秋や旅日和
そのこゑに谺ちかづく囮籠
たはやすく谺する山たうがらし
ひぐらしや山頂は陽の谺生み
まんさくや谺返しに水の音
みちのくの山谺して松の芯
むかごにもありし大小山谺
わが声の二月の谺まぎれなく
わが声の谺と知らず女郎花
わが谺かへらぬ祖谷の初御空
ボート・レース雲と谺と繋がりて
マッキンレーからの谺か秋つばめ
ユーラシア五分遅れの谺かな
一山に滝の音声冬こだま
万緑や舟唄水に谺して
丈高き谺返し来春の滝
下萌のいづこともなく水谺
二ン月の天に谺し城普請
二月ころふりさけみれば伊勢こだま
二期田植う村に射爆の遠谺
人去りて木の芽の谺包む館
人声の谺もなくて飛騨雪解
仏法僧こだま返して奥身延
伐採の谺の雪となりにけり
修羅落す谺を追ふて雪崩れたり
公害魚擲られ磯の枯れこだま
冬に入る瀧の谺の一屯
冬の宿谺を返し夕暮るる
冬山や鉈音よりも谺澄み
冬杣の谺杉枝の雪散らす
冬河に誰呼びおるや谺なし
冬滝の谺蕩々と湯の小滝
冬耕のひとりとなりて生む谺
冬菫ときにさみしき潮谺
冬麗を己が谺とゐる鴉
冴ゆる夜の谺にひゞく汽笛哉
冷蔵庫に潮騒のあり谺あり
凍てゆるむ落石音や七こだま
凍ゆるむ落石音や七こだま
凍蝶に落石の音谺しぬ
凍蝶の息ひきとりし谺かな
凍解けて瀧にもどりし水こだま
刀打つ鎚の谺す青吉野
初富士や崖の鵯どり谺して
初山や木の倒されて谺生む
初猟の第一弾の谺かな
初鶏の銘酒の里に谺して
十和田湖に暮春の谺崩しけり
友とその新妻春の汽車こだま
号令が谺す夕日の小学校
呼び出しの声谺してスキー場
咳こだまリョウメンシダの林にて
咳よりも咳の谺のさびしさよ
啄木鳥こだま山齢樹齢あらたまる
啄木鳥のついばむ音も谺して
啄木鳥の己が谺を叩きけり
啄木鳥の谺は天に滝凍る
啓蟄の蛇に丁々斧こだま
噴射機に鳴り億兆の露谺
地の底の神が滝呼ぶ闇こだま
夏みなぎるグワーングワーンと鉄こだま
夏山の大木倒す谺かな
夏潮の谺がこだま生む岬
夕霞して剥落の嶽こだま
夜をこめて会式谺す向つ峰
大山山麓すかんぽ噛めば谺
大瀧の谺相うつ杉襖
大瀧や月の谺のただ中に
大瑠璃の谺をかへす虚空かな
大花火峡の谺の逃げ場なし
大霞したる海より濤こだま
天地の谺もなくて雪降れり
姥百合にかへる谺となりにけり
威し銃裸の山が谺返す
威銃こだまを返し来て威す
威銃谺して大磨崖仏
子を叱る声筒抜けに寒谺
子花火と爆ぜて谺の返りけり
実椿の数へきれざる滝こだま
家毀つ音秋天に谺して
富士の火を鎮めの宮の鵯谺
富士夏嶺谺雄々しく育ちをり
寒山に谺のゆきゝ止みにけり
寒月や野の大門の谺呼ぶ
寒詣過去は谺の割れる先
寒谺高校生の弔銃に
対岸の石切るこだま夏蓬
射初また谺はじめの松の幹
小蒸気のもどる谺や月の潭
屏風岩河鹿が鳴けば谺する
山々にお会式太鼓谺して
山がひの杉冴え返る谺かな
山に向きくさめ一つの冬谺
山ぼうし谺がこだま生みにけり
山伏問答峰に谺し山開
山墓の巨石がまとふ夏谺
山始一人が谺起しけり
山峡の杉冴え返る谺かな
山火事のあと漆黒の瀧こだま
山焼の音谺せり大阿蘇に
山眠りいづこへ帰る谺なる
山谺かえる花火の尾は新涼
山里に餅つく音の谺かな
山雲にかへす谺やけらつゝき
岩尾根に夏暁の鳥が谺啼き
峡空に谺かへすや大花火
川原吹く風より水の青谺
幼な名を呼べど秋嶺谺なし
弔砲の谺は冬の山地駆せ
当り矢の谺がへしに霜の天
念仏踊左右の山よりよき谺
息ひそめ棺うつかぎり寒谺
悪玉の声谺して野外劇
惜春の雄波もみあひ谺せり
我が笛の谺聞きゐる月の森
採氷池子等への怒声日へ谺
探梅の谺に応ふ声のあり
斧を振る青いこだまを孵らせて
斧強く打てば谺も寒の冴
日おもてに谺のあそぶ斧始め
旧山河こだまをかへし初鼓
春光に人語鳥語の谺かな
春嶺となれり万雷の瀧谺
時無しに竹伐る春の谺かな
晩秋の木曾谷汽車の遠谺
月一痕仏法僧の遠谺
月光にしづめる部落滝こだま
月落ちて仏法僧の遠谺
木の実ふるわが名谺に呼ばすとき
木樵ゐて冬山谺さけびどほし
木耳に谺邃くも来つるかな
朴の花谺のごとく咲きふえし
朴咲くや谺のごとく雲殖えて
杉山に父かと思ふ滝こだま
杉菜の雨土足の谺渡殿に
松籟も寒の谺も返し来よ
松風の谺返しや夕桜
枝打ちの谺小さく日の澄めり
枝打ちの谺返しに始まりぬ
枝打ちの音谺して底冷えす
枯山の短き谺かへしけり
枯山の谺となれば寧からむ
梟の谺のこもる月の杜
棺を打つ谺はえごの花降らす
椿寿忌や山に谺す大木魚
樹々ら/いま/切株となる/谺かな
歩みゐて谺に呼ばる西行忌
死して/無二の/谺が/のぼる/寝釈迦山脈
残雪に少年が打つ斧こだま
残雪や谺鳴きして山の禽
水こだま走りて釣瓶落しかな
水取や五體投地の堂谺
水谺深き夜明けの初音売
氷伐る谺もきこゆ朝かな
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま
汽車たつや四方の雪解に谺して
沖津風こゝ渡り行く幟かな
浄智寺の屋根替衆に鵯谺
浦島草過ぎるは人の谺かな
海へ出て寒の谺となりにけり
深田鋤く谺しぶきに身をゆだね
温泉の宿に何建つ昼の斧こだま
湖二つ郭公谺し合ふ距離に
湯もみ唄谺す山の芒かな
湾内に花火の谺あまた度
濤こだま実朝忌まだ先の日ぞ
濤摶ち合ふ谺はけふも青岬
濤谺のぼるを追へり秋燕
濤谺天をもどらず銀河澄む
瀧壺へ根こそぎの水枯谺
炎天に谺す深井汲みにけり
炎天や鳶交る声谺して
炎天下嶺々の谺もなかりけり
照紅葉谷に谺の美辞麗句
熊撃たる谺一つで終りけり
熊野なる瀧谺なす月今宵
熊野路へ谺波打つ威銃
牧びらき牛の谺のために嶺
獺が又森谺さす夜振月
玄関へ奥の鶯の谺かな
瑠璃沼の暁け谺して里鶫
生凍豆腐叩く谺や寒未明
甦る滝の谺や梅散れり
畦叩き塗りて母校に谺さす
白木蓮鉈の一打がうむ谺
白鳥の立上りたる水谺
真夜覚めて波郷と呼べり霜こだま
石一つ抛げし谺や山桜
石伐りのたがね谺す夏の海
石叩き谷間に小さき谺なす
石抛れば汐に谺や夜光虫
石段に下駄の谺や山椿
神杉に谺し雪のびんざさら
祭の子谺遊びの町内湯
禅林やその裏山の鵯谺
秋の谷とうんと銃の谺かな
秋晴や薬草講義谺呼び
秋深し身をつらぬきて滝こだま
稲扱くや水の佐原の夕こだま
稲架を解く音の谺の山日和
空蝉の谺とならず谿昏れる
空谿の何の谺ぞ鴨かへる
立山の卯月の谺返しくる
竹取の冬の谺に入りゆけり
簗なほす青水無月の夕こだま
紅糸が足らぬ日暮の滝こだま
絶壁にて怒濤と春雷谺わかつ
綿虫消え峡を満たせる水谺
老鴬に九十九谷の青谺
老鴬の谺にふふむ雨の色
老鴬の鍛へしこゑの谺せり
聖歌果てし街は汽笛の雪こだま
聖鐘の谺と来たり初つばめ
舊山河こだまをかへしはつ鼓
船の銅羅かの雪嶺に谺せる
船笛に遅るる谺氷河より
色鳥や谺をつくる山のこゑ
花といへば鳥と答へる標語かな
花に打てばまた斧にかへる谺かな
花の峡シグナル谺して下りぬ
花火あがる母ゐる天に谺して
花火音立て込む家に谺して
若葉滝まだ谺ともなりきれず
草の絮父の谺のなき山河
草焼いて谺とあそぶ山童
草笛や白鳥陵の水こだま
荒滝の段なし谺打ち込めり
落栗やなにかと言へばすぐ谺
落石の月に響きし谺かも
落石の谺とかへる鵯の声
落石の谺は渓の早春譜
落粟やなにかと言へばすぐ谺
落葉して人にかかはりなき谺
落葉松に春逝く谺ひびきけり
蒲団叩けば団地に谺開戦日
薄墨桜ことし谺の棲むことも
薄暗き厨房秋の水こだま
蚊柱や斧の谺のいつ止みし
蜩や古鏡に谺あるごとし
蝉やむと夜は天づたふ滝こだま
蝶蜂の高さの上を谷こだま
裏山に返す谺や山始
谷底に簗つくろへる谺かな
谺こめて五月の一樹雨降れり
谺して伊那谷深き威し銃
谺して夜明けの峡の黒鶫
谺して宙真空の秋の井戸
谺して山ほととぎすほしいまゝ
谺して山川草木神楽の季
谺して春霜木々へ還りゆく
谺して男一人の斧始
谺して谷の底まで梅日和
谺して雪崩のけむりあがりをり
谺せずビル高階のつくり滝
谺たつる鈴鴨の音や水明り
谺とは思へぬひびき威し銃
谺めく津軽ことばや薄暑光
谺も不在雪渓垂らし針の木小屋
谺も豆か膝に落ちつく山の国
谺呼ぶにつれなくて昼蛙鳴く
谺生み谺をつれてスケーター
豆たたく鬼歯の谺たのしめり
豊年や谺呼びあふ出羽の山
赤げらの音の谺に穂高晴れ
赤腹鶫の谺をかへす月山湖
蹴り落す石の谺や谷紅葉
身近きは響き野分の遠谺
轟々と建国の日の滝こだま
透きとほる雨後の谺や岩煙草
逝く人を呼び谺せり冬木立
遅き日や谺聞る京の隈
遠谺して木曽谷の修羅落し
還らざる谺もありぬ朴の花
郭公こだま一車より白衣降り
郭公こだま妙法此処に定まりし
郭公の己が谺を呼びにけり
郭公の谺し合へりイエスの前
郭公の谺に晴るる阿蘇五岳
郭公や母と谺をへだて住む
郭公や谺あそびはわれもせし
野平らに何の谺や花芒
野葡萄の房にとどけり滝谺
鈴虫や甕の谺に鳴き溺れ
鉄を打つ谺短かし斑雪山
鉄砲射堋かよひけり
鉦太鼓谺し三日の山部落
銃こだま雪こんこんと葉につもる
銃声の谺雪山無一物
銃谺寒禽翔つて山緊る
錦秋の谺の中に禽死す
鐘谺宿坊の冷えきたるかな
長き夜の空に谺し孔雀経
降る雪の/野の/深井戸の/谺かな
陶土打つ杵の谺や谷紅葉
隠り滝溢れて谺なかりけり
雉子笛に霊峰谺かへしけり
雪山に春のはじめの滝こだま
雪山を匐ひまはりゐる谺かな
雪崩音止みて落石音こだま
雪折のとどまりがたき谺かな
雪解川滾ちて天に谺なし
雷鳥を追ふ谺日の真上より
青啄木鳥の笛の谺や朝雲
青天より落花ひとひら滝こだま
青嶺より青き谺の帰り来る
青葉木菟遠し二羽とも谺とも
音すべて谺となれり山始
首根っこ打てる花火の大谺
高きより谺をとばす冬の鳥
高千穂の双肩高き冬こだま
高原の鈴虫星へ谺せる
鳥威し谺となりし翁みち
鴛鴦こぞり起つ氷上の谺かな
鵜つかひの舷叩く谺かな
鵯こだま嵯峨の旨水日々に透き
鵯谺初日は千木にのみさしぬ
鵯谺稀に馬車行き谷戸の秋
鶯の谺す淵を覗きけり
鶯の谺聴きゐぬ障子内
麦秋の石切りをるや沖谺
黄昏れて山に稲刈る音こだま
抱合の神をかくして木の芽山
木の芽山どこかに父を隠し了ふ
木の芽山襁褓替ふるにひざまづく
木の芽山雨止む気配して匂ふ
木の芽山霧右往して左往して
海原の朝日返して木の芽山
雨の降りだして明るき木の芽山
鳥刺の少年の日の木の芽山
かたかごを祀る小山を指さしにけり
小山の裾の春さきにゐるやこの伊豆
枯尾花ばかりの小山鳥も鳴かず
町中の小山のすすき月祭る
野鼠ら晴れた小山を競っている
雲なくて空の寒さよ小山越
国果つるここの岬山粧ふに
岬山に月沁む寒さ土竜みち
岬山に現れて五月の一馬身
岬山のなぞへそのまま葡萄園
岬山の没日より現る鴨の群
岬山の緑竹にとぶちどりかな
岬山の蝶の恋ひたる妹が汗
岬山の雨に模糊たる花茨
岬山の雨のけむれる桜鯛
岬山は萱山にして春の山
渾身の蝉音に岬山浮き立てり
*たらの芽やまとまりて降る山の雨
あかつきの萍たたく山の雨
いち早く風鈴の知る山雨かな
おいらん草日ぐせの山雨殺到す
ががんぼや山雨がたたく夜の坊
きらきらと梅雨も終りの山の雨
きらめきて山雨すぐ止む秋薊
くわんおんの蹉*だのお山の雨螢
このわれを生まし給ひし美はしき母を呪へば三輪山の雨
しどけなく山雨が流す蛇の衣
すかんぽの一本を折り山の雨
すぐ熄めり山の蟻うつ山の雨
たかんなに白き山雨の到りけり
ただよへる梅雨蝶山雨打つて消す
どうどうと山雨が嬲る山紫陽花
ねむり草叩き走りて山雨急
ひとくちに茗荷を山の雨の粒
ひとときの山雨はげしき午祭
まんさくや雪に変はりし山の雨
むささびの巣穴濡らして山雨急
エゾホソイ山雨傍若無人なり
キャンプ更け残り火を消す山の雨
万緑や山雨が醒ます昼の酒
上蔟の音もなかりし山の雨
下り簗走り過ぎゆく山の雨
先に音来て六月の山の雨
冬鳥のこゑに霽れゆく山の雨
凌霄や刻を待たずに山の雨
初花やななめに降つて山の雨
十一の声の尾にじみ山雨来る
吾亦紅雫し合へる山の雨
土筆摘む野は照りながら山の雨
夏寒き髪をしぼりぬお山雨
夏草を打ちて沈めて山雨急
夏野行く濡るゝほかなき山雨来し
大寺や山雨に覚めし總晝寝
奥宮の山雨に濡るる祭檜葉
存分の山雨もて暑を残さざり
実紫音なく過ぎし山の雨
寒鯉の水くもらせて山の雨
射干や山の雨きて寺濡らす
山の雨かんば一葉を苔に置けり
山の雨くればよろこぶ紫苑かな
山の雨さくらに触れて光りけり
山の雨さと過ぎつんと吾亦紅
山の雨しかすがに鮎も食ひ飽きし
山の雨しはぶき走るわらび狩
山の雨たつぷりかかる蝸牛
山の雨にほひ立つ法師蝉
山の雨ひとつぶのせて秋海棠
山の雨やみ冬椿濃かりけり
山の雨春宵だんろもてなさる
山の雨束の間なりし吾亦紅
山の雨激ちやすしへ葛のさま
山の雨牡丹の庭にしぶきつつ
山の雨縫うて気儘や秋の蝶
山の雨葛の葉に音たてにけり
山の雨蛍袋も少し濡れ
山の雨靴下に浸む茂吉の忌
山の雨鼓打ちして苗障子
山帰来若葉して山の雨走る
山車曲る金をはじきて山の雨
山雨すぎし日のかゞやきや稲の花
山雨つよし伊香保は秋の夜なりけり
山雨なほ轟き落ちて夏爐もゆ
山雨に暮れゆく庭の楓かな
山雨また富士を隠せり黒鶫
山雨また来る雲行や懸巣鳴く
山雨去りほたる袋の朝の来し
山雨急牡丹くづるることも急
山雨急睡蓮すでに花をたゝむ
山雨急秋燕来てはよぎり消え
山雨来る雲の中なり葡萄摘
山雨烈したゞ籠りゐて秋深み
山雨過ぎ網を繕ふ女郎蜘蛛
山雨雪となりたる夢は音のなし
岬山の雨に模糊たる花茨
岬山の雨のけむれる桜鯛
巫山の雨乞ひべくさかづきに示すのみ
常山木咲きひかり重げの山の雨
年の夜の夢に入りたる山の雨
引き倒す牛蒡の花や山の雨
心太すすれば山雨到りけり
恵那山の雨叩きゆく栗の花
掃苔やまたもはら~山の雨
敷紙や烈しき音の山の雨
新蕎麦や暖簾のそとの山の雨
明日植ゑる杉苗に降る山の雨
明易の湯に荒々と山の雨
木の芽山雨止む気配して匂ふ
朴の芽の数によまれて山の雨
朴の香を閉ざす山雨は又晴れて
杉玉の新酒のころを山の雨
松茸の相寄る傘に山雨急
枯るるものまだあたたかし山の雨
栗の毬青くて山雨なだれけり
桐高く咲くや会津に山の雨
梅雨明の近き山雨に叩かれて
梨もぐや山雨つばさのごとく去る
水音淙々芽吹きうながす山の雨
汗に干す羅に湖の山雨かな
沙羅咲けば音立ててくる山雨かな
滴りや山雨は晴るゝことはやし
火が呼びし山雨に濡るる能舞台
火祭の大蛾にしぶく山の雨
炎昼の屋久島俄かなる山雨
煽ちては山の雨呼ぶ枯かづら
牡丹にはなればなれの山の雨
牡丹を双子見てゐる山の雨
男体山の雨となりたる躑躅かな
百八灯しづめの山雨来たりけり
石楠花の瑞枝に山雨到りけり
秋の草まつたく濡れぬ山の雨
秋の草全く濡れぬ山の雨
稗干して午後はくづるる山の雨
稲妻が磨き山雨が洗ふ杉
稲妻の更けて山雨となり来る
立葵いざや山雨を私しす
竹煮草たたきて山雨はじまりぬ
筒鳥や日暮れをさそふ山の雨
繍線菊をけぶらせて過ぐ山の雨
置かれある精霊花に山の雨
群れ咲ける仙翁へはや山雨来る
羽抜鶏追ひこむ山雨しみし門
老鴬や晴るるに早き山の雨
老鶯や音たててまた山の雨
色鳥やきらきらと降る山の雨
花ぎぼし山雨したたりそめにけり
花くえて山雨あやなし暮の春
花時雨てふ深吉野の山雨来る
苗障子鼓打ちして山の雨
草団子盧山の雨を見にゆかな
萍のひろごりあへぬ山雨かな
葉桜や滝津瀬となる山の雨
蕗の葉や斜めに通る山の雨
蕗刈るや山雨のはじめ葉を鳴らす
蕗味噌に夜もざんざんと山の雨
薄氷をたたき割りたる山の雨
虹鱒を焼く火に山の雨の糸
蛭の水叩きて過ぎぬ山の雨
蛭落ちて山雨の冷えの走りけり
蜜柑山の雨や蜜柑が顔照らす
蟹筌を沈めゐる子に山雨急
行春の苔に色ある山雨かな
見るかぎり暗き山雨や滑
貝母咲くあえかにけぶる山の雨
起きて醒めて秋打ひゞく山の雨
足早に山の雨来る門火かな
邯鄲とききしが山雨俄なり
降りいでて落葉をさそふ山の雨
雪渓を貫く如き山の雨
青胡桃音さき立てて山の雨
音たててくさぎの花に山の雨
音たててまた来る山雨藤袴
音たてて走る山雨や著莪の花
音たてて降る落葉松を山雨とも
高原に山雨到れば夜の秋
髪解けて夏の寒さやお山雨
鮎一尾反りて山雨のざんざ降り
鮎焼くや底抜け降りの山の雨
鮎膾山雨弾みて到りけり
鶺鴒のなぶり出しけり山の雨
冬夕焼山塊を押し戻し来る
小梨咲き鳳凰山塊朝蒼し
山塊にゆく雲しろむ秋思かな
山塊のいづこか欠けて寒鴉
山塊の日あたりながら霜気満つ
山塊の月の仏法僧遠音
山塊の荒息と霧押し昇る
山塊を雲の間にして夏つばめ
百千鳥ほうと山塊せりあがり
襞削ぎて穂高山塊夕月夜
見張鳰山塊に枯れ到りけり
陸地皆黒き山塊納涼船
雪光をはなち山塊ゆるびなし
雲被る妙義山塊梅雨兆す
霙れつつ山塊春を押しもどす
青緑の山塊を霧のこしけり
風邪神駈け妙義山塊ぐらぐらす
乗り換へし山岳バスにきりぎりす
山岳も村も眠りは黒かりき
山岳を見ぬ英仏や草の秋
山岳書増えて書棚も夏に入る
山岳部歌湧きて雲海ひらきたり
凧白く山嶽を引き絞りけり
菜の花や山嶽稜々むらさきに
雪やみて山嶽すわる日のひかり
霧の夜は門に山嶽ねしづみて
うかと穴出でたる蟇の山気かな
ぞく~と山気背襲ふうるし掻
てのひらに滲み入る山気一位の実
むらさきの山気そのまま沢桔梗
一の鳥居くぐれば山気登高す
反閇にゆらぐ山気や花神楽
夏深く山気歯にしむ小径かな
夕風の山気かなかなおのづから
定家かづら山気少しく動きけり
山気やや渓ほとばしるやま桜
山気凝りさゆらぎもなき花の夜
山気凝りほたる袋のうなだれし
山気十分吸ひし鶯ききにけり
山気吸ふ室生の深き木下闇
山気夢を醒せば蟆の座を這へる
山気当つひろげ通しに鵜の濡れ羽
山気澄みただよひそめし茸の香
山気降り通草に色を紡ぎ足す
暁の山気身に沁む夏書かな
梨汁のねばりや山気ただならず
水引の紅の一点づつ山気
汚れなき緑の山気摩耶詣
泥湯温泉山気令法を引き締むる
湯ざめしてにはかの山気かむりけり
滴りのひとつ一つの山気かな
白扇を用ひて山気そこなはず
神南備のにはかに山気玉霰
立ちのぼる春の山気や一位谷
薄紅葉いま安達太良の山気かな
蛇笏忌の山気つらぬく鵙の声
走馬燈軒の深きに山気満ち
國破れて蜘蛛に宿かる山居かな
壁までが板であられの山居哉
山居しぐれてけづる牛蒡のかをり哉
山居してただ雲の峰仰ぐのみ
山居よし一水葛の花がくれ
榾の火にあやしき僧の山居かな
満月を庵一杯の山居かな
百里来て結夏に参ず山居かな
鈴虫に山居暮れたる窓閉ざす
飯煮ゆる昔もゆゆしき山居かな
きりぎりす奥羽山系横たへて
さがし居り白山山系のなかのいもうと
たでの花阿蘇山系は水の音
丹沢山系新らの雪置きだるま市
凛々と蔵王山系霜日和
抽斗の中の月山山系へ行きて帰らず
日雀鳴き阿武隈山系漂はす
汝にふさふ流謫地として朝焼けの阿讃山系横たはりたり
白山山系立山山系神渡し
蓮の葉より月山山系へ足懸ける
銀芒丹波山系光りけり
非時の蝶が白山山系に
あさあけや鴛鴦のみ渡り来し山湖
そぞろ寒山湖すれすれ雲覆ふ
まひまひに山湖の広さかぎりなし
スノードロップ山湖の空気透明にて
一本のバナナ分け喰ふ山湖かな
冬木風山湖の蒼さ極まりぬ
冷やかな程なつかしき山湖かな
凍て蝶のきらめき渡る山湖かな
古雛とほき山湖の濃むらさき
夏木立映して山湖静止せり
夫婦山湖をへだてて閑古鳥
山湖ただ月天心の閑けさに
山湖ひたす星影見ても秋来たり
山湖今篠突く雨や未草
山湖対岸秋冷の灯の一つのみ
山湖澄み石投ぐことに怖れあり
山湖澄み空と檀の実と映る
岩燕明日なきごとく翔ぶ山湖
敦盛草山湖の霧の来てつつむ
新月の山湖に育ちつつありし
新涼や山湖の色の靄離れ
星飛んで山湖の芯を波立たす
父と子へ紫紺の山湖ラムネ抜く
白地着て山湖の魚にならばやと
胸に曳く山湖の暗さ通し鴨
舟底型の道は山湖へみすぢ蝶
草の丈つくして山湖避暑期果つ
草原も山湖も梅雨のふところに
草蜉蝣真昼の山湖呟ける
足もとに梅雨の山湖のなぎさ澄む
遠吠えの山湖を渡る薬喰
雉子笛に山湖の波は盲縞
雪解水注ぎ山湖の色となる
雲は貴婦人山湖の冬は終りけり
風花の山湖夕日の翼澄む
鰯雲ひろげて無垢の山湖照る
鳥渡る山湖の張りは珠をなし
鴨引いて山湖は藍をふかめけり
あきなひ憂し日覆は頭すれすれに
あたたかや茂吉墓石の頭のへこみ
あはれ頭に野はかぎろへり皿洗ふ
ある街の木瓜の肉色頭を去らず
いたどりの花か頭か野を吹き抜け
いつよりの白き頭や天の川
いなつまや誰れか頭に砕け散る
うすばかげろふ指話の指頭の爪美し
うだうだと頭でっかち蝉啼けり
うつくしき蜑の頭や春の鯛
おしろいや風吹きつどふ赤子の頭
おたまじゃくしの利口そうなる頭かな
おでん食ふよ轟くガード頭の上
おとうとの頭でつかち冬籠
おびんずるの頭ぐらぐら花馬酔木
お玉杓子は頭でつかちばかりなる
かかへゐし頭あげけり大試験
からつぽの頭を載せて籠枕
きな臭い子の頭を抱けば静かな球
きりきりと甘藍は頭を白め巻く
くくり菜の僧の頭に似る寺畑
くちなしや医者の頭の中思ふ
くるふ頭の撫で役はわれ鵙の秋
こけし屋に頭を揃へたる雛燕
こほろぎの頭にはねる伏家かな
さくらさくらこどもは頭から歩く
さくら狩り具すや白髪の馬の頭
さらさらのおかつぱ頭休暇明け
さるをがせ頭にのせてから呉れぬ
ざうざうと頭の冴え山の粗き湯に
しかるべく頭をもたげたる蝮草
しやかと呼頭も雪の黒木哉
すかんぽや叩いて頭やすませる
すなあらし私の頭は無数の斜面
すべり台児は頭から寒に入る
たうがらし売白頭の翁かな
たんぽゝもけふ白頭に暮の春
ちんどん屋の頭をかすめゆく夏燕
つくづくし頭緻密に背丈も得よ
てきぱきと頭使ひて暑を払ふ
てのひらに子の頭羞むみなみかぜ
どうしても鈍き頭や百日紅
どんぐりの頭に落ち心かろくなる
なつかしき炎天に頭をあげてゆく
なでまはす山の頭や遠しぐれ
なにもせぬ百足虫の赤き頭をつぶす
にんげんの頭集まる牛祭
にんにくに出来る頭や春近し
ねぎ坊主走れ登校の大頭
はうれん草頭そろへて友をまつ
はこべらに頭掻き~ひよこかな
はつむまに狐のそりし頭かな
はんざきがはんざきの頭を押してをり
ひところの頭をつき合わせ寒の鯉
ふたり子にて二つの頭霧笛来る
ふところ手頭を刈つて来たばかり
ふらふらと頭の上にくる岳蜻蛉
ほうたるの出合頭にともし消ち
ぼこぼこと明恵が頭くわりんの実
ぽやぽやの毛は象の頭に秋風に
まじりゐて爽かにある頭かな
まだぬくき鰯の頭挿しにけり
まだ温き鰯の頭挿しにけり
まち針の頭の瑠璃も供養かな
みちのくの頭良くなる湯に夜長
みどりのおばさん噴水に頭を越されて笑む
みな違ふ頭を越してゆく年の豆
むくどりの頭の出て雀隠れかな
もの学ぶ冷たき頭つめたき手
ゆふかぜに頭吹かれて燕の子
ゆふ風に頭吹かれて燕の子
わが座席なり頭の上にスキー吊る
わたくしの頭骨重き青葉かな
わらんべの頭程あるザボン哉
オリオンを頭にして百の馬
カルタ歓声が子を守るわれの頭を撲つて
キャベツの如く頭腐らせ待ちぼうけ
シャーベット食べる頭は空つぽに
セーターに頭のかたち頭出る
ダリア見る頭はいたく疲れをり
チゴガニの見方はしゃがんで頭を低く
ベートーヴエン頭像春の驟雨かな
ボロ市のやかん頭の骨董屋
ポストの頭冬日てらてら虚実古り
マッチの軸頭そろえて冬逞し
マッチの頭くつついてゐる復活祭
マッチの頭薬火になる速さ見えて冬
ラムネ青し鳩の頭いつまでも未熟
一夜晩夏のとどろく波を頭にして寝る
一太刀に穴子の頭飛びにけり
一羽なりや頭に入りくる灰色雁
七輪あふぐ妻の頭越しに麦萌えだす
三寒の四温を濁る頭かな
上昇の蜻蛉頭を振りぐんと振り
下生して*かりんを出づる大頭
不作の犬がかりかりと田鼠の頭を噛む
不遜なりマリヤの頭なる子蜘蛛どち
並木頭ら霧飛べり駅に鳩鳴いて
丹頂が鯵の頭をのこしけり
丹頂の頭のまぎれずに霏々と雪
主人より頭ふたつ高き冬の人
乾鮭の余寒の頭残りけり
乾鮭の頭めでたし鬼退治
乾鮭の頭もつとも乾びけり
乾鮭や頭は剃らぬ世捨人
亀の頭のごとくに朱夏の雲の浦
二度使ふ菊人形の頭かな
二月の風葬の頭は向きあへり
二月尽く墓の頭を撫でながら
五加木宿旅重ね来し頭の疲れ
五月雨晴や大仏の頭あらはるゝ
亡父来る頭にひとつ蝶とめて
人形に頭がのりて霜の晴
人形の頭に永き日がつまる
人間の大きな頭木の実降る
仏名や鰻頭は香の薄けぶり
仰臥今日指頭の蟻の何処よりぞ
伏せし掌に頭つめたく蝶もがく
休暇果おのが頭ほどの玉菜軽し
何もせぬ一日霞み頭の中も
俎に頭はみだし初鰹
信心の頭低うて榛に花
修二会待つ人の頭のぐらぐらと
個人タクシー出て頭垂れ広島忌
傀儡の頭がくりと一休み
僧の頭のなかなか消えぬ花月夜
僧の頭を僧のあたれる安居かな
僧若し頭に木槿から来た蚊
僧若し頭の青さ夏近く
元旦の頭中の鯉は異なるもの
先頭に頭を挙げし蟻父の日果つ
先頭の鴨の頭が夜も見ゆ
光頭の兜太十雨に秋日燦
入学の吾子の頭青く後前す
入學の吾子の頭青く後前す
公園テレビを仰ぐ頭沖に探照燈
六月の雪島山はソ連領
冬の蠅頭がだんだん澄んで来ぬ
冬の雷祖父のきれいな頭は撃てまい
冬光や魚の頭担ぎ来る
冬尽のふけかきこぼす頭かな
冬帽を頭より離さず農夫老ゆ
冬晴の赤児の頭胸に触れ
冬耕は灯台の頭を見て終る
冷房の頭の痛きまで効きて
凌霄や狼少女の貫頭衣
凝ると言ふ魚を頭に飼ひ雲の峰
凧持てをる弟の頭はつはつな
凩に尖らぬ頭ぞなかりける
出かければ頭押へつ月の雲
出代や頭のものを貰ひため
出開帳頭の間のご本尊
切れあじを確かめられているトマト頭
切れ凧のなほ頭を立てて流さるる
初汐や楚客船頭に何語る
初泣や末の子の頭をぶつけきぬ
初蝶や何にとはなく頭さげ
刻かけて汽車枯山に頭出す
剃りたての頭がづらり隠元忌
剃りたての頭思ふも涼しさゆゑ
剃頭の美しき魂迎へけり
北狐頭の雪は払はざる
十人の僧を頭にのせ御身拭
十夜僧くわりんのごとき頭をしたり
十夜講堂上埋む凡夫の頭
十字架の湾頭に舞ふ春の塵
十月の頭小さく水馬
午からは頭も霞む夏期講座
午後からは頭が悪く芥子の花
卒業の頭をのせる枕かな
卒業歌青き吾子の頭見当りぬ
南風に乗り沖からの浪頭
卯の花に曾良が剃りたて頭かな
去来忌や誰が頭の香して仮枕
叢に頭かくして蛇静か
古暦丸めて犬の頭を叩く
古草のひとかたまりに頭重き日
古草の上を鳥の頭行き来せり
叩頭虫を毀していたる少女なり
合掌や出合ひ頭の盆の僧
名月へ頭出したり栗の蟲
名月や寺の二階の瓦頭口
向日葵の重き頭吾の手に委ね
君子蘭蟻頭をふりて頂に
咳呼んで牀頭月のさし来り
唐子頭大市場通りの晩白柚
喜撰山入道雲の頭出て
囀に石ことごとく頭を擡ぐ
囀の片岡に頭休めゐる
囀や頭毛の雨ふるひつゝ
囚徒らの頭かがやく枯れの中
四十九年頸に頭を載せ花曇り
団栗溜めこんで長頭系の孫
地獄にも雪降るものか父の頭に
地虫は尻から子は頭から世に出しや
城頭に冬日衰へゆくときに
堂頭の新そばに出る麓かな
塔逆さまに頭の汗を拭き
変体仮名にわだかまる頭や桜餅
夏の昼酒呑み地蔵頭に手
夏蝶や楽人の頭のみな揺れて
夏衾玉の緒絶えし大き頭よ
夕焼を頭より脱ぎつつ摩天楼
夕立にうたるゝ鯉の頭かな
夕立雲頭八股裂けにけり
夜の浮塵子迫害の頭を集め
夜の雪頭よき日も終りかな
夜神楽や子の頭撫で去る手力男
夜釣火消す月きよらかな潮頭
大仏の頭出したる霞かな
大仏の頭吹きけり青嵐
大仏の頭吹くなり青嵐
大学はいま戦場か方頭魚
大寒や霜薔薇色の貯炭の頭
大寒や頭のかゆき中学生
大暑の頭巡らすよいやさよいやさのさ
大根の青き頭や神無月
大津古橋家初代の頭芋
大男の頭の上を蝦およぎ
大疑堂覗く俗頭涼しけれ
大露頭赭くてそこは雪積まず
大頭ならでは見えじ春の虹
大頭に飛鳥仏の寒さかな
大頭の黒蟻西行の野糞
天皇誕生日雀の巣屑頭より浴ぶ
太刀魚の頭を落とし安心す
妻にのみ月日つもるや炭頭
妻恋ひの杜氏槽頭鳥雲に
妻死後の冬の北斗に頭を刺され
姿見にむけば白頭昼の凍て
婆の杓こつと頭に享け甘茶仏
婆の頭の五十ゆらゆら十夜寺
嬰児の頭の淋しく赭し花の中
子どもらも頭に浴びる甘茶かな
子の頭うすらと匂ふ冬隣
子の頭さすりて過ぎぬ寒念仏
子の頭撫でて草木を愛しおり
子らの頭よ大きくなりて大食す
子曰く孔子廟頭読始む
子規像の大きな頭亀鳴けり
孑孑の頭の荒ぶりや遠流島
孑孑の頭大きく晴れにけり
字余りのような目刺の頭もぐ
富士薊子の頭に掌載せ父憩ふ
寒卵黒髪解きし頭のかたち
寒夜ひとわが言さへや頭を垂れ聴く
寒泳の頭に立つ波のひかりなし
寒雷や鯛の頭の目が光る
寒鯉の頭揃えて沈みをり
寒鴉頭めぐらす室生村
寝て起きて頭の中の兜虫
寝る蛇の頭はかなし身の円座
寝んとする頭の骨の寒さかな
小千鳥のクリクリ頭石の間
少年のいがぐり頭瓜の花
尺取のよく働ける頭かな
尺蠖の身を投げうつて仏の頭
尻を出し頭を出すや雲の月
尼どちの頭の円光や日向ぼこ
尼公がショールを頭より召さる
山と山出会ひ頭に三光鳥
山の湯に雪積む頭並べたる
山の湯の蝌蚪日輪へ頭を揃ヘ
山吹を頭簪にせよ黄金よりも
山百合の白にうたれて頭が重し
山盛りや頭ついたる焼穴子
山羊の頭のしこる遠景障子貼る
山蛭の撞木の頭あなうとまし
峯頭に片雲もなし解夏の朝
峰頭に片雲もなし解夏の朝
島の地理頭に入れをれば笹鳴けり
川上へ頭そろへて水馬
川明けの待たるる石の頭かな
巻昆布の中に魚頭やあつめ汁
帽とれば頭青き兵と汗の馬
年守るや心張棒の平頭
年礼や律儀に頭さげてをり
度忘れの頭叩いて丈山忌
座るなら鯨の頭春の潮
往き来して頭に柿の落ちるかな
征く人の頭を美くしと冬の街に
待つ母に試験監視の頭のみ見ゆ
待針の頭かなしき一葉忌
忿り頭を離れず秋刀魚焼きけぶらし
怠りて頭かゆしや栗の花
恋人よ鴨の頭をさげてゆく
恋雀頭に円光をひとつづつ
情事話頭に兵塵想ふこの柳
懸垂の頭を持ち上ぐる五月闇
我が頭穴にあらずや落椿
我頭程の瓢を作り見ん
戦勝のしるしか頭の紅椿
戸隠やおたまじやくしの大頭
手紙書く指頭そめたる蚕糞かな
掛茶屋や頭にさはる藤の花
探梅の我に頭をさげし人
揉みほぐす頭の鍔にきつね雨
摶たれむと頭を低めをり夜長猫
撫でもする小さき頭の春子かな
擂粉木の頭の白さ冬はじめ
故さとの坐頭に逢ふや角力取
故郷の電車今も西日に頭振る
敗荷や頭を垂らす無言劇
教へ子の頭の青刈りや百合開く
散髪の頭ぽっかり土用空
敦盛草の母衣も夕焼く雲の頭も
文楽の頭に懸想水草生ふ
新しき黒き頭のつばめかな
新発意の余寒の頭に隣りゐる
新發智の青き頭を初時雨
新馬鈴薯はどれも頭の友如何に
方角が頭に入らず蜜柑食ふ
方頭魚ほどの口かと聞かれをり
旅人へ告ぐたんすにスルメの頭
日向ぼこ頭の抽出より挿話
日蝕や頭黒く生れて羽蟻群る
旧約の蛇が頭をあげ雪の谷
早蕨の頭青く崖の痩せにけり
旱草抜くや指頭も汗噴きつ
昔の友夜着から頭だけ出して
星明り忽ちしぶく浪頭
春の暮頭の何処か琴鳴りて
春の汗して絶食十日頭冴ゆ
春めくや頭の上で釘抜かれ
春惜しむ頭の大き阿波の木偶
春愁や張子の虎の頭を小突く
春水や浮かせ木踏んで木工頭
春猫の頭に被ぶせたる御僧の掌
春風や頭ふれあう水子たち
春鵙の狩を見し夜の頭のほてり
昼の鵜や鵜匠頭の指ついばみ
昼中や頭揃える雲の峯
昼寝覚め頭廻転止りゐし
昼寝覚軍馬の響き頭をよぎる
昼寝覚頭のもやもやとれるまで
昼顔や吹けども花の頭をふらず
昼餉は隅夏蚕家中に頭をあげて
晴明の頭の上や星の恋
暑の引きし頭すいすい働かす
曇る頭蹴散らす石の単調音
曇日の釘の音打ち込まれる頭を机に支へる
月桃ののー鰻頭ののがやさし
月蝕や頭翳りて男立つ
月見るや寺の二階の瓦頭口
望郷台暮春の頭垂れ登る
朝曇午後は灼くべし頭のほてり
朝蝉の頭越しなる喧し屋
木の芽、湧いている水のうえ葉となる
木偶倉に頭目をむく日雷
木犀に頭すっきりする机辺
木犀や庭くゞりより鳶頭
木菟なくや剃りたての頭つゝみ寝る
木菟は呼ぶ父は頭黒うして逝けりし
木菟や剃りたての頭つつみ寝る
木菟啼くや剃りたての頭つゝみ寝る
木菟檻に鶏の頭や小正月
未熟児の頭重たし罌粟の花
末枯や人間の木は頭から
本流にきて頭を高く秋の蛇
朱の色の燐寸の頭一の酉
朴落葉汝が頭にうけて今日寧し
来黒野に雲影牛の頭ほど
杭の頭に芽吹くものあり残り鴨
東風ゆるく鷺とわれの頭わかちなく
松の花みどり児の頭の重たしや
松籟が頭のあたり寝正月
松籟やたかんなの頭の五六寸
松過ぎの帽子がなじむ頭かな
枝垂桜枝頭は若葉ほぐれつゝ
枯るる頭を潜望鏡のやうにリス
枯蘆や名をかき寄る潮頭
柊に鰯の頭留守らしき
柩置く頭の位置を大切に
柳散る地藏の頭なかりけり
栗虫の頭出てゐる山日和
根本中堂の香を指頭に妻の春
桃ひとつ母の頭に置いて去る
案頭の句作ノートや夜長の灯
桐一葉尼の頭にかゝりけり
桑摘むや桑に隠れて妙義の頭
梅が香や精進の頭の入替り
梅雨の月城頭にあるを見て泊る
梅雨来ると烈しく頭洗ひをり
梢頭に薫ずる実あり夏行寺
梨つまむ指頭にひしと来し夜寒
棚経や慈姑頭の老の僧
棚経僧の青頭が宙にひかり過ぐ
植込みの中に頭の見ゆ春雀
椿落ちいきなり頭けがすなり
楸邨や兜太の頭や青実梅
楸邨忌お水を墓の頭より
樫の実が落つ猿石の頭を打つて
樽神輿舁ける才槌頭かな
橋を守る叟の頭に柳散る
橋通る人の頭や夏の月
橋頭に富士より高き松飾
櫨取の頭が出たる梢かな
次の間の灯に牀頭の冴ゆるなり
歩を倦まぬ象と子らの頭終戦日
死の草を煮つめんと頭美しきわれら
母の日の擂粉木が頭をすり減らす
母の頭に白髪の増えて春日傘
母病むや梢頭の巣に雪すこし
毛物らの頭はかたし春の月
水切りてキューピーの頭の赤蕪
水無月の雀頭がちにこぼれくる
水無月や頭の先まで柔らかい
水鳥や頭にとまる水の玉
氷下魚釣る夜は真赤な頭燈つけ
氷枕にひたと頭あてゝ暮の春
汕頭のブラウスの背の赤とんぼ
汗拭くや時には頭の天辺も
汗疹児の頭を刈る怒り哀しけれ
江湖部屋に頭竝べる柚味噌哉
沢蟹に白頭映す家郷かな
河原鶸ひよいと頭沈め餌をあさる
河童の頭濡らせるほどを喜雨とせり
河骨にどすんと鯉の頭かな
河骨のこつんと鯉の頭かな
法師蝉薄荷のやうに頭に沁み来
法然の頭と西瓜合掌す
波こゆる海月頭を沖へ沖へ
注連飾る墓の頭に日が平ら
泳ぎの頭めぐらして海の冥さよ
泳ぐ坑夫見えぬ坑帽頭にのせて
泳げる頭くらし魚獲る鳥空に
活絞めの鱧の頭の落ちさうに
浦浪の頭をもたげくる涅槃吹
浮き上る鯉の頭を春の風
浮けばすぐ頭こづかれ浮いてこい
海亀が頭を上げて見る走り梅雨
海鳴りの砂山頭暑くをり
涅槃図の人ことごとく大頭
涅槃図の頭に敷く肘の痛からむ
清盛の頭ほどなる初日かな
温泉の朝頭大きく闘う蟻
湖を切る遠泳の頭かな
湖頭の碑欠けて無き字に時雨かな
湧き返る人の頭や雲の峯
湯ざめして頭の上にありし灯よ
湯入衆の頭かぞへる小てふ哉
源太村熊撃ちはみな頭のでかき
滞空や雲の峯には頭が増えて
漁家寒し酒に頭の雪を燒
漆頭老いゆく盆の月明り
潤ひてまた乾く頭や茂吉の忌
濁酒の頭に上る余寒哉
濯女の桶頭にのせて山笑ふ
火箸の頭まるくあたたか祖母恋し
灯涼し並べる沙弥の頭は剃り立て
炎天の農夫の頭石に負けず
炎天や釘打つ音の頭に刺さり
炎帝の叱責を頭に合掌す
炎昼の頭に負担なき戦記物
烏瓜ほどに頭の冴えきたる
無花果や頭をはがしけり秋の空
焼酎や頭の中黒き蟻這へり
煩悩の頭を剃りて夏書かな
煮凝の頭の方を吾に呉るる
熊ん蜂葱の頭に入りけり
熨斗を頭に植女幼き膝がしら
爆心や頭下げて群るゝ赤とんぼ
爪弾くつくしの頭よりぱと煙
父の死の夜の雪と思ふ肩に頭に
父の頭が見えて九月の黍畑
爽かに丸太は頭も手足もなし
牀頭の月に脳冷えて眠りけり
牛久沼頭に生き菊花節暮れたり
牛洗ふ少年頭べ下げにけり
牡蠣船に頭低めて這入りけり
物忘れ多き頭をのせ籠枕
狐狗狸の頭ならべて雪安居
狛犬の頭に苔知恵の文殊堂
猫の頭を撫でてどんたく遠囃子
甘えるやうに山椒魚の大頭
生まれ出づ悩みの頭細うして
生涯を廻り道して芋頭
生髪やかかれとてしも釈迦頭
産みに行く車燈に頭を下げ給いし母よ
産毛持つ頭にして黒く揚羽かな
田頭として初雪を被りたる
畑にて頭を使ふ柳かな
畳に頭あつちへやつて籠枕
畳荷出し糸瓜に頭こづかれて
疣々のおん頭にと甘茶かな
病む子遠し指頭に露を移し得て
白山の頭見えたりお花畑
白頭のバイオリニスト秋の宵
白頭の吟を書きけり捨團扇
白頭の耳の上まで砂糖水
白魚の小さき頭をもてりけり
白鳥に雪嶺も頭を並べたり
白鳥をかぞふる頭搖れゐたり
百地蔵見て頭重りや紅葉冷え
百物語はまはしで野郎頭になべかま乗せて
百足虫の頭くだきし鋏まだ手にす
皆尖る桃の頭や籠の中
目隠しの子の大頭福笑
真青な頭をとおす木莵の夜
睡蓮や頭悪くて楽しくて
睨めあげる童女の頭を撫で雛の日
石佛の頭に冷えてゐし金貨
石榴より硬き頭のテロリスト
石榴手に水瓶は頭にひたむきに
砂原に頭ばかりの土筆哉
破顔一笑サボテンの頭に花咲いて
硬くなる頭年々籠枕
磴頭に磴下に人語盆の月
祈りの身もだえ金木犀に頭を突入れ
神の名は頭にあらず初詣
神へ捧ぐ籠の鰹を頭にのせて
神よりも頭の高くして鵙嫌ひ
祭近き五月を出入る鳶頭
祭頭祭果つ若者は棒を持ち
福助の頭にをるや冬の蝿
福助の頭は空つぽや十二月
福祿の頭さひしやあきのくれ
禰宜さまの三角頭十六夜
秋きたる鯔の頭を切り落とし
秋の朝日指頭に炎えてあたたかき
秋冷の空とどまれば子の頭にも
秋妻に指頭ほどの癌棲みつく
秋嶺のどの襞もわが頭に栖めり
秋暑し頭の影を踏まれゐて
秋涼し画鋲の頭透きとおる
秋風に頭あずけて剃ってもらう
秋風やふくべに似たる老師の頭
秋風や無禄蓬髪大頭
科頭に烏のとまる冬田かな
称名寺殿の頭に花散れり
種吐けと葱の頭を大叩き
稻妻や誰れが頭に碎け行く
穀象虫粉まみれなる頭振り
空っぽにならぬ頭を振る小春
空青くして噴水の頭きまらず
空頭持てあますより実紫蘇引
窓越しの冬木の月が頭を晒す
立泳ぐ頭と盆のもの並ぶ
童が目守る大き頭りの寝釈迦さま
童神先だて鹿島の祭頭祭
笛吹いて重き頭や弥生尽
筍に頭出したるうれしさよ
筍の露のつまれる頭かな
筍の頭を出す奴に跼まさる
箱釣や頭の上の電気灯
箱釣や頭の上の電気燈
節多く頭がちなる土筆哉
篭枕軽き頭をのせにけり
籠にあふれ綿の実なるや頭にのせて
籠枕あてがひ呉るゝ頭あげ
籠枕ことしの頭慣らしをり
籠枕に物相頭定年後
粕汁に頭を割つて鮭とばしたり
精霊船出合ひ頭に鉦連打
紀の国のお頭つきの秋刀魚鮨
納涼映画に頭うつして席を立つ
素頭のわれは秀才夏霞
終戦忌頭が禿げてしまひけり
絶頂や頭の上に秋の空
継体天皇大頭なり雪積もり
綯ひ上ぐる縄を頭の上までも
緑の頭に亀甲の罅土筆たち
緑縁を出て雲水の青頭
羊の頭ありナイフあり夜の秋
美しく鮪の頭一列す
羽子板の値踏み群がる頭越し
翁の頭媼が剃れる百日草
翌の事頭にちらと酢蓮根
翔け翔くる蝶の頭は鈴ならむ
翔つものの頭は北へ霧の沼
老い兆す頭ごなしに十二月
老人集つて深海に棒頭の眼を挿しこむ
老若の頭を均らす秋の風
老頭児に浜昼顔がぽっと咲き
考へてをらない蝌蚪の頭かな
職捨てむか朝の頭を子にうたる
肩に頭に花は散り金は借り得んや
脳病の頭にひゞくせみの声
臘涙や少年われは頭垂れ
自給自足の鰍唐揚げ頭より食ふ
自酒を飲めぬと頭ふりにける
與次郎兵衛の頭大なる蜆哉
色里や白頭の翁花を売る
芋頭ほどの春笋刻みけり
芋頭芋もひとりとなりにけり
花ぐもり鴛鴦の頭のひかるなり
花に酔ふた頭重たし春の風
花の下先師のおはち頭かな
花の夜を塊り氷る無頭海老
花の川往き来の鴨の頭の茶いろ
花の戸の俎上に鯛の頭かな
花冷えの少年の頭に厚き雲
花守や白き頭をつき合せ
花庭にさまざまな鳥が頭を棄てて
花火して頭うごめく橋の上
花火の夜人の頭の重くして
花菜の虻頭の中で鳴ってをり
芸なしは頭を左右に年忘れ
芽に折れるジャズ地下に無頭児双頭児
若者の頭が走る麦熟れゆく
茄子売の頭に手拭を昼の雨
茶の花や坊主の頭五つ六つ
茶畠や花びらとまる畝頭ラ
茸狩や頭を挙れば峰の月
茸狩や頭を挙れば峰の月
草にかたむく雉子鳩の頭やその愛
草ゆらしゆける頭や穴惑ひ
荒東風を頭押しに島の耕牛は
荷頭ラに縄投げかけぬ飛ぶ燕
菊おこす風雨の合羽頭にかむり
菊戴寒林に頭を灯し来る
菊買ふや杖頭の錢二百文
菜の花の酸鼻の英も頭をもたげ
華の色や頭の雪もたとえもの
華の頭や数有中の椿の房
萩を刈る一個の固き頭なり
落柿舎や頭めぐらす雀の子
落葉一枚頭に載せてちちんぷい
落蝉の落ち方むろん頭から
葉の深さ頭にふれし桃をとる
葱坊主わが句に釘の頭いづ
葱月夜仏間に頭差し入れて
蒲団から頭を出せば春が来た
蓑虫の頭はいつも陽に向けて
蓮の葉に遠ちの童の頭が見ゆる
蓮の葉は頭にかぶれ草の市
蓮根掘り尽し頭中もまつ黒に
蕗漬けの香に立つ指頭昵懇に
薄原月は頭の上にあり
薄氷をやぶり真鯉の頭かな
薫風や海豹の頭の濡れどほし
薯植うる頭の中の農暦
藍浴衣出合い頭を匂ひけり
藺の花にかくるゝ鷺の頭哉
藺枕をひょいとつまみて頭に当て
藺枕を頭に馴らす身を揺すり
藻の花に緋鯉の頭隠れけり
虫の音の上さまよふや不眠の頭
蚊帳しまふ暗所に深く頭を入れて
蚊帳にある頭の影が壁に影す
蚊帳の中の頭歩ける丸さかな
蛇の頭に日のさしてゐる牡丹かな
蛇捕の脇みちに入る頭かな
蛇泳ぐ波をひきたる頭かな
蜘蛛の囲に頭つきさし五十過ぐ
蜻蛉とぶわが頭の前の青信号
蜻蜒の頭動かず日午なり
蝉鳴て殘暑の頭裂くる思ひ
蝌蚪つまむ指頭の力愛に似て
蝌蚪の頭の乱れ春闘雨となり
蝌蚪の頭の熱あるごとく振りにけり
蝌蚪沈みゆけり頭を真逆さま
蝙蝠の翅の厚みを頭に感ず
蝙蝠ふゆる程に頭の中重くなる
蝶の舞うたかんなの頭の黒かりき
蝸牛の頭もたけしにも似たり
蝸牛の頭もたげしにも似たり
蟷螂の頭を下に大文字
蟻が頭を喪のある家へ上ぐるなり
蟻の列丸刈り頭暑からむ
蟻も頭を上げることして鬼貫忌
蠅頭を掲げて急ぐ一蟻あり
蠅頭を揚げて急ぐ一蟻あり
衛兵の敬礼の頭は緑蔭出て
覆ひやるものへ雪冠墓頭へも
見つめあふ出会ひ頭のごきぶりと
親よりも頭勝ちむつくり巣立鳥
親鳥とおもふ頭が見え燕の巣
角伐の勢子頭とし祓はるる
触るる物みな凍て指頭熱したり
託禅師乾鮭に白頭の吟を彫
話頭又た亡師に及び火燵冷ゆ
諸家の句集堆く積み頭を垂るる
警笛に頭光に氷雨降りまどふ
象の頭に小石のつまる天の川
貧もものかは子の頭かゞやく梅雨まみれ
赤い金魚頭の中の金魚鉢
赤く大き鼻頭に汗のイワノフ氏
赤ん坊の頭の上は冬紅葉
赤蜻蛉頭の痛き午後の空
赤鬼に頭撫でられ厄落す
足を折りて頭に余す蒲団かな
軒氷柱七つ頭に子だくさん
軽々と土筆頭を振る昼の風
迸る梅雨こそ青し貯炭の頭
逃げゆける方が蚯蚓の頭かな
逆立ちの頭が重き文化の日
通り魔の如くかはほり頭を越せり
逝く夏の頭のかるき仏たち
逢曳や古杭の頭に菌の耳
連翹や唐子頭の愛らしく
遊行して頭につむみぞれ・雪をかし
道うねり頭やさしき刈田かな
遠望の富士頭出す海開き
遠泳の頭波間に減りもせず
遠足の頭をかぞへなほしけり
遮二無二生きん杭の頭の霜はらふ
郭公や下山の頭ふつと消え
郭公や白頭明かり曳きゆけば
酒注ぐたび餅花に頭を打たる
酒漬けのまむし頭を上ぐ極暑かな
重き頭をもちてあつまる磯遊び
重荷負牛や頭につもる雪
野火の跡頭焦げたる土筆出づ
金盞花埴輪の鼻梁頭より垂る
金蝿も銀蝿も来よ鬱頭
金魚玉いつも何かが頭をめぐり
鉄板打つ音風邪の頭にたまりゆく
鉄橋に頭出しけり雲の峯
銀三十枚の頭にはあをさぎのとまる淋しさ
銭湯の霞む富士見て頭に手拭
銭飛んで頭を越せり達磨寺
鋸屑が頭に詰まり梅雨の日々
錨草指す白髪の巨き頭よ
鐘を撞く叟の頭に柳散る
長き夜の頭をきらふ枕かな
門松立ち俎上の魚は頭を刎ねらる
闘志見す袋角もつ頭を低め
阿れる叩頭蟲を蔑みぬ
降り出すや子は掌の林檎頭にかざす
雀の頭蝿の眼秋の小豆色
雁の夜の枕の上の頭かな
雁瘡の頭なれど無垢の珠の子よ
雉子の頭は炎の鏃野を走る
雛壇や頭をふれば海ちらちらす
雛頭百一様に雪降れり
雪はやさし荒磯の墓の低き頭に
雪吊りの縄ほたほたとわが頭あり
雪霏々と大接心の頭がならぶ
雲の峯立つそのかみの金の露頭
雲の頭に晩夏の茜泉暮る
雲水の頭を剃り寒にいさぎよし
雲碧く僧の頭青し年木作務
零の発見垂れて頭の栗の花
雷とほし頭を垂るゝ八重桜
雷の転げ落ちたる方頭魚
電車の影出てコスモスに頭の影
霜焼けの頭をころころと蕗の薹
霜降るや眠りて頭小さくなる
霧の中峰頭空にきそひつつ
青勝ったあぢさゐがいい老頭児には
青胡桃頭の重きまま旅に出て
青頭り法衣からげて年木作務
非人頭住む松高し蚊喰鳥
鞭鳴らす頭の上や星月夜
鞴祭の頭に来る朝雀
韋駄天の疾走土筆つぎつぎ頭出す
音を率る音の尖頭からまるは
頭振りけふの暑さを諾へる
頭のうへにむせぶや摩所の時鳥
頭の中で白い夏野となつている
頭あり我あり発射弾快調
頭いたくなる凍て日のあるうちにきつ
頭うちふつて肥後独楽たふれけり
頭かかへてゴリラが芦になりすます
頭かくす三井寺歩行虫コウヤとも
頭からかぶり菖蒲湯香りけり
頭から木賊の枯るる汀かな
頭から茶筒を降りる春の蝿
頭から蒲団被りし海鼠哉
頭から見下ろされゐる裘
頭から足の先まで七五三
頭から足の先まで星月夜
頭から足の先まで籐寝椅子
頭から酒浴び案山子抜かれたり
頭がぼうとして来る撫子の花盛り
頭たれて月に覚め居り雪の山
頭なき鰤が路上に血を流す
頭ならべて蒲団につきし雲衲等
頭にあまる入学帽子黙送す
頭にそそぐ空美しい機械となり
頭にて突き上げ覗く夏暖簾
頭にふるる炎天の風故郷なり
頭に戴せてかつ滴らす肩に乳に
頭に星ともり子供草原を出る
頭に載せてかつ滴らす肩に乳に
頭に載せて水運ぶなり虹の中
頭のうへ酷暑の通り過ぎるを待つ
頭のごとく流氷は一家の裏へ
頭のみ日かげに入れて本を読む
頭のみ見えて雀が野分中
頭のれんげ汽車のれんげと合さりゆく
頭の上に幾重雲凝る秋の暮
頭の上に星が濃くなる村芝居
頭の上に雲ゆく重さ朴落葉
頭の上をわたる手桶のお講粥
頭の中すきまだらけの炎暑かな
頭の中で白い夏野となつてゐる
頭の中に榛の木立つは淋しけれ
頭の中に藤の暗がり垂れ込めぬ
頭の中の一個處かゆし薄氷
頭の中の地獄極楽牡丹雪
頭の中の左右あひたがふ去年今年
頭の中の涼しきものをはたらかす
頭の内にまだ遊びゐるあめんぼう
頭の大き子規の画像に冬籠る
頭の奥の覚めゐるところ虎落笛
頭の奥キーンと鳴れる寒さかな
頭の朱き水鶏のほかはそよぎをり
頭の焦げしまゝに呆けし土筆かな
頭の甕の水吹きとばし夕野分
頭の芯に海が鳴るのみ風邪残る
頭の蝿に僧のあげたる塗扇
頭の蠅に僧のあげたる塗扇
頭の裡に樟脳舟を走らしめ
頭の裡のもやもや抜けりラムネ玉
頭の赤く八月盡の醤油壜
頭の重い鴨の一羽を撃ち墜す
頭の重き日よ蓮の葉は玉こぼし
頭の重し目の重しこの青あらし
頭はどこにある春眠のにしきへび
頭は錨沈め沈めと字の鎖
頭ばかりとなり吊されてなほ塩鮭
頭ふりにげゆく彼岸木魚かな
頭へやかけん裾へや古衾
頭みなかたぶけ小春雲うかぶ
頭より家を出てゆく西日中
頭より暮れて春暮に牛歩む
頭より生まれ椿をまのあたり
頭より目刺はかじれ中年は
頭より転ぶ石狩豪雪降りやむとき
頭より鵜籠の中へ放たれし
頭をあげて咲きかかりけり芥子の花
頭をあげて電車が来るよ花芒
頭をのべて鯛をよびては老いにけり
頭をふりて身をなめ粧ふ月の猫
頭を上げてまた影踏みて夜の蟻
頭を上げて蟇にも若さ遠くの灯
頭を上げる力のこれる捨て蚕かな
頭を下げて冬の噴井を離れけり
頭を下げて歩まんか麦の青に堪え
頭を剃られ僧に非ざる半夏生
頭を剃りて棚経僧になりにけり
頭を剃りて笠をかむりて良寛忌
頭を垂れてゐるが似合ふや冬の暮
頭を垂れてをりしが哭けり寒夜明
頭を寄す子ら一人が蝉を押さえ付け
頭を寄せて子の写真みる良夜かな
頭を寄せて風の私語聞く葱坊主
頭を巡らせ探すや虹のもう片脚
頭を振りて竹はよろこぶ朝の雷
頭を振れどつひに五十の秋の雲
頭を掠め空林に入る冬の禽
頭を撫でし犬の感触けいとう花
頭を撫でて春の別れはせつせつと
頭を撫でるやうに早苗に風の来て
頭を病むやべたべたと舞ふ秋の蝿
頭を砕き取りだすさくらの花一片
頭下げ鹿が若角見せにくる
頭並ぶ盥の鯉や春の水
頭使うて腹の空きたる兼好忌
頭使ふて腹の空きたる兼好忌
頭刈つてさぶし鐘つく初冬なり
頭刈り夜ふけの梅を見にゆかむ
頭剃ってもらうあたたかな陽がある
頭勝ちなる鳰の身すぐにくつがへる
頭在る寂しさかささぎの居る淋しさ
頭大き白鳥の子に生まれたる
頭大の海苔を焙つて学問寺
頭寒し頭のかたち見えねども
頭布とれやよき商人や山桜
頭師の秋日の膝の木偶入魂
頭影テントをなかば占めうごく
頭悪き日やげんげ田に牛暴れ
頭掻く海鼠なんぞも見てみたし
頭揚ぐれば日を失しをり落葉掻
頭澄む子なれ虫音に寝かされて
頭照りつつ己れ涼しき羅漢たち
頭痛しと頭を叩く音や春
頭禿げはるかなるもの冬の岳
頭重き冬の日ことに神は近し
頸をもて揺れる頭や天の川
風光る閑散として門司駅頭
風呂吹きや頭の丸き影二つ
風筋に頭あつむる涼み哉
風邪に寝て頭のなかに海青く
風邪引いてだうにもならない頭です
風音に頭もたげし春蚕かな
颱風のことを頭に家を出る
飛ぶといふ蓮の実頭揃へをる
飯蛸の頭つゝきつ小鍋立
飲食や朝の蝉から頭が腐る
馬方の世話人頭地蔵盆
騎手の尻頭より高しよ青嵐
骨正月鰤の頭を刻みけり
髪かつて頭ちひさき秋袷
髪つんで頭の風や夕涼
髪刈って頭の頼りなき冬青空
鬢頭盧尊者注連鉢巻を太々と
魚の頭を落とす一刀幅広のにぶき光が打ち下ろさるる
鮑海士うねりの山に頭出す
鮒の頭の捨てられてある猫じやらし
鮟鱇の肝食べ頭怠る日
鯉の頭が薄氷こつと突き放す
鯉の頭の盛りあがりたる日雷
鯨の頭ほどの冬日の一礁ぞ
鰤の頭ひようひようと雪の庭に
鳥あざやかに頭をかすめ去り旅は地下ヘ
鳩の頭のうなづき歩く子供の日
鳳凰堂さむき頭で入りにけり
鳴神も叩頭虫もほとめけり
鴨の子の頭並べて親を見る
鴨居に頭うつて坐れば水貝よ
鶉の頭まるくてあかくて入日どき
鶯にちびた頭を並べおり
鶲頭は捨身の赤や東慶寺
鶲頭をこづいて友のきたりけり
麗日の出合ひ頭に霊柩車
麻畑や頭へのぼる塵火の香
黄蜀葵雲水青頭ならべ来る
黄金田を背なにダリヤの頭の重し
黒猫の頭丸しよ卯の花腐し
黒頭に白頭まじり天の川
黒頭浮かべ泳げる漁港かな
黙々と北の農婦よ鱈の頭買ふ
黙々北の農婦よ鱈の頭買ふ
黴の帽頭にのせていま自由業
鼻風邪に愚図る頭を整理せむ
たうがらし売白頭の翁かな
たんぽゝもけふ白頭に暮の春
姿見にむけば白頭昼の凍て
沢蟹に白頭映す家郷かな
白頭のバイオリニスト秋の宵
白頭の吟を書きけり捨團扇
白頭の耳の上まで砂糖水
白頭鵠の一樹明るし雨上り
色里や白頭の翁花を売る
託禅師乾鮭に白頭の吟を彫
郭公や白頭明かり曳きゆけば
黒頭に白頭まじり天の川
あかんぼの頭蓋やはらか雪起し
うちつけて卵の頭蓋割る晩夏
きらきらと頭蓋を出づるてんと虫
すつぽりと毛帽を冠る生ける頭蓋を感じ
キャベツに怖る畸形の頭蓋原爆忌
万緑やはづしてしまひたき頭蓋
傘売りにたまたま頭蓋応じけり
冷たき重き夫の頭蓋を支へたりいのちの熄みし重き頭蓋を
初み空頭蓋のなかも透き通る
夾竹桃頭蓋蔽ひて髪しげる
寒卵こつと頭蓋に打ち込めり
手形振り出し頭蓋の中の磯あるく
昆虫の頭蓋ころがるガラスの城
春の猫我に倚り来る固き頭蓋
春の鬱深きピアノの頭蓋閉づ
柿の花地に落ち侏儒の頭蓋なる
汗の髪洗ふ頭蓋も痩せにけり
流れ星頭蓋のひびは罅のまま
焼藷屋頭蓋となりてこちら向く
百頭の馬の頭蓋に寒北斗
秋天に独逸の頭蓋穹窿なす
秒針が頭蓋に移るひろしま忌
聞くうちに蝉は頭蓋の内に居る
職工の子の頭蓋みな似て跳べり
萍の一つは頭蓋のなかに浮く
落葉松の枯れて頭蓋のがらんどう
西の海にブイ浮く頭蓋より濡れて
野薊を潰して頭蓋を楽にせん
雨漏りのわが頭蓋あり杉菜原
頭蓋いま蝶を容れたるつめたさよ
風沙漠頭蓋を離れゆく骨ら
髪洗ひ頭蓋が小さし旅づかれ
魚となりて父還りこよ蒼蒼とわれの頭蓋はいつの日も海
わたくしの頭骨重き青葉かな
から鮭の髑髏に風の起るかな
ゆふがほのそれは髑髏歟鉢敲
一休の髑髏と語る日永哉
世のあやめ見ずや菰の髑髏
五月闇髑髏に密な縫目あり
五社堂の髑髏に春の影立てり
十萬の髑髏の夢や草の霜
地芝居の紙で拵へたる髑髏
夕かほのそれは髑髏か鉢叩
夕立の叩き出したる髑髏かな
宵闇や髑髏経よむ紀路の山
山あひの月にぞ語る莫斯科にわかき妻もついく髑髏ども
日ざす喫泉濡れけるままに髑髏消ゆ
春水に髑髏となりて映りけり
濁酒あり星と野犬の髑髏
焼跡の兜おこせば子の髑髏
狐火や髑髏に雨のたまる夜に
螻蛄鳴くや漆かぶれの髑髏
踊るなり月に髑髏の影を曳き
野を焼や小町が髑髏不言
降る雪や野には舌持つ髑髏
陽炎や髑髏の方へそぞろ神
雑炊に顎動かせる髑髏かな
髑髏に眼あるかに冥く梅雨深し
髑髏の眼われを見詰めて黴びてをり
髑髏みな舌うしなへり秋の風
髑髏圖も弱冷房裡国芳展
髑髏磨く砂漠の月日かな
鰒汁や髑髏をかざる醫者の家
風の源の牛のされこうべを叩け
折鶴の影めつむればされこうべ
いたづらに遅き月出ぬ大頭
かげろふの坂下りてくる大あたま
ねぎ坊主走れ登校の大頭
下生して*かりんを出づる大頭
大あたま御慶と来けり初日影
大頭ならでは見えじ春の虹
大頭に飛鳥仏の寒さかな
大頭の黒蟻西行の野糞
戸隠やおたまじやくしの大頭
断乎たる枯鶏頭の大頭
涅槃図の人ことごとく大頭
甘えるやうに山椒魚の大頭
目隠しの子の大頭福笑
秋風や無禄蓬髪大頭
継体天皇大頭なり雪積もり
ネムの木を叩いて通る石頭
押鮨に借らばや汝が石頭
着ぶくれて強情・頑固・石頭
石頭のいしもち目玉ぎらぎらす
竜貞の石頭あり野の昼月
紗のように富士見え土筆石頭
花合歓に五百羅漢の石頭
面妖なり石頭が黴びもして
うなじ剃れば秋の寒さのしのびゐる
うなじ吹く風に醒めをり五月来ぬ
うなじ迄地酒に染めて風の盆
初硯うなじをのべて磨りにけり
御身拭菩薩うなじを伸べ給ふ
海に映るは後ろより来る我がうなじ
疲鵜の細きうなじを並べけり
白鳥座うなじを森に避暑季果つ
茶を運ぶうなじ涼しき少女かな
青簾うなじ剃る灯のやはらかに
項一つ目よりもかなし月見草
髷重きうなじ伏せめに春著かな
髷重きうなじ伏せ縫ふ春著かな
冬山を仰ぎ通しの項かな
合掌の項へ弥陀の智恵貰ひ
大神神社の蟇に項のありにけり
束ね髪火おこす項見悚める
梅雨の花癌の項に匂ひ来よ
湯上りの項匂ふよ地蔵盆
萩挿すや項に凝るは有情の眸
藤浪や嫁して項の見ゆる髪
項とはさびしきところ白日傘
項より去りゆく年と思いけり
断髪の生まの襟足卒業す
春園の宵に襟あし潔き妻
洗ひ髪あげて襟あし見せくれし
火蛾舞へりよき襟あしをもてる人
白百合のここが襟足かと思ふ
蕨餅襟足白き加賀の女
襟足が野路に清しき愛鳥日
襟足に残る日焼や舞踏会
襟足のいと美しく白ショール
襟足のほのと艶めくセルの妻
襟足の奥の瞑さよ白魚飯
襟足や御輿被りといふをして
襟足や結城単のうしろつき
襟足をきれいに剃つて白露の日
身構へる襟足白し歌かるた
進学生襟足青く上京す
ふと薫る襟元傘の十三夜
吊皮の襟元潔し新社員
夏の雲襟元締めて喪の女
夕菅の襟元を風通り過ぐ
御代の千々襟もと幾重着衣始
懈怠恥づる襟もと寒し覚如御忌
竹の子や襟元つくろひ育ちし妻
羅の襟元正し香を聞く
襟もとを蜂になぶられ秋のセル
襟元に花の疲れや菊人形
襟元に蝨這出す袷かな
襟元に風の小寒き雛流す
襟元の菊の厚さよ菊人形
口乾き地獄電車に頭突き入る
噴煙の頭突きに遇ひし春の空
奴凧まづは頭突きを覚えけり
小屋頭突く牛や颱風圏にあり
日焼子の頭突を父の胸が享く
春雲に頭突きの電柱石ら多弁
水馬時に頭突きを二つ三つ
牡丹雪頭突きのブッチャーまた頭突く
牧神の頭突きを春といふべけれ
追はれたる蝿は障子に頭突きせり
頭突きくる伝教大師忌の白蛾
とんぶりを食べ禿頭やはらにす
万緑の朴がしたたる禿頭
夏落葉有髪も禿頭もゆくよ
巖の昼餉に綺麗な禿頭秋澄む海
梅咲いて音楽あふるる禿頭
熔岩の背のかげろうあそぶ禿頭
理趣経のまんまん中か禿頭
皇国少年禿頭となり花に酔う
禿頭せちに洗へり去年今年
禿頭にベレーをのせて謝肉祭
禿頭のそんな農夫に夕がらす
禿頭の兄たんぽぽの絮を吹く
禿頭の寒泳者より眼離さぬ
禿頭の悪童もいる李の里
禿頭の男に春日ただ過ぎゆく
禿頭ゐて島のおくんち囃子澄む
禿頭映り真夏の原爆図
*まくなぎが牛の眉間に鬨をなす
さがしている眉間のあたりの古いホテル
ひたひたと夜の波打つ眉間かな
むつかしき牛の眉間や稲の秋
アイスホッケー眉間の傷を勲章に
一徹な男の眉間冬の鵙
一瀑を眉間に通す初景色
亀鳴くや抓みて遠きわが眉間
伐折羅大将寒雷走る眉間かな
冬濤の眉間砕けし白煙
凍る夜や人のさびしさ眉間に来
凍滝を眉間にかかげ独鈷山
天高し眉間をまもる郵便帽
女教師の眉間の傷も夏めけり
女正月眉間に鳥の影落つる
実南天眉間につけて虚空を忌む
寒晴の切つ先にわが眉間あり
山を焼く火の煽りたる眉間かな
山登る常に眉間にある冬日
巻きそめし眉間のつむじ黒仔牛
悩む眉間たち太陽と繰綿機の狭撃
懐旧の野山の色を眉間にし
手鈎傷眉間に鮟鱇糶られけり
日が跳ねて弥陀の眉間や牡丹より
春愁を眉間にあつめ馬丁俑
春蘭や尼に眉間の皺はなし
書斎派の眉間の皺も冬に入る
木の葉髪眉間に強き刺戟欲し
梅雨に入る眉間に傷もつ鯉と会ひ
樅焼けば痛みともなふ眉間かな
歓喜天眉間を蜘蛛の下りきたる
水中り眉間たひらになりゐたり
水陽炎仁王の眉間明るうす
水鶏ゆくや落日を眉間の光とす
流れ星眉間濡れしとおもひけり
独楽の子の眉間はつしと夕日さす
疑って眉間に力かぜききぐさ
病むとなく眉間が痺る桐の花
白面の眉間発止と雪崩れけり
眉間きゅつと炎暑に耐ゆる仁王かな
眉間といふものが子鹿に駒鳥に
眉間に聳ち雪の冥さの孤峯なり
眉間まで寄せくる水や下り簗
眉間もて受くる枝影梅早し
眉間より凍ほぐれゆく磯焚火
硝子吹く男の眉間稲妻す
色鳥や何れも暗き木の眉間
花鋏つかふ眉間にいなびかり
若葉光阿修羅眉間を解かざりし
菖蒲ひらき眉間は武士の裔なるか
菫摘む阿修羅の眉間おもひつつ
著莪の花眉間のちから抜きにけり
蛇苺みてゐて眉間に眸のうまる
行々子に眉間割られる日曜日
連凧を仰げる眉間父子かな
鉤を打つ鮪に美しき眉間あり
雪の山眉間に立てゝうち仰ぐ
雲の峰眉間に湧くは掴むべし
青なつめ眉間に垂れて闇ふかし
馬の眉間つぶさに照らす聖夜の月
馬の眉間の白ひとすぢや山始
冬日閑薄き顱頂を笑ひ合ふ
利尻富士顱頂を覆ふ雪解靄
厚物の菊の顱頂に蜘蛛の子来
寒月を顱頂に置きて歩みをり
急かずともすでに顱頂に冬銀河
手花火にうすき顱頂の保釈人
枯山水巌顱頂に露を置き
瑞巌寺の廊わたる僧形の顱頂はいまだ稚かりけり
白桔梗窯の顱頂は火を裹む
赤ん坊の顱頂の雲垢や秋分来
青嵐顱頂の薄毛神父様
顱頂剃ることものび~日向ぼこ
子規いまも毬栗頭鶏頭花
母の頭に白髪の増えて春日傘
さくら狩り具すや白髪の馬の頭
錨草指す白髪の巨き頭よ
十日夜坊主頭の輪となりて
坊主頭の子が何人も更衣
御法度の坊主頭や丸頭巾
梟や坊主頭に変身す
芭蕉忌に坊主頭の披露哉
茅舎忌の坊主頭を振り返る
茶の花や坊主頭の五つ六つ
葱坊主頭を振らば飛び散らん
蓑出づと鬼の子坊主頭なり
野球部の坊主頭や紅蜀葵
麻咲いて坊主頭の子に朝日
えんぶりの笛恍惚と農夫が吹く
かつて農夫のその日新樹の爽かなり
げんげ田は農夫の座敷飯を食ふ
げんげ田や地に鳥を呼ぶ農夫の鍬
こげくさき農夫の肩やくつわ虫
さわさわと越す夕鴨や農夫わかれ
さんさんと海の陽巣線を白い農夫
どくだみに農薬まきし農夫臥す
どの畑も農夫はひとり桐の花
ふるさとや若き農夫の頬かむり
カンナの風農夫の影の紺となる
ラベンダー横抱きに来る農夫の歩
ランプ吊り暮情は一農夫にも来て
ルオーの王のごとき農夫や晩稲刈
一と所透かぬ枯木や農夫ゐて
一列の胡麻のうしろに農夫の目
一農夫なれど博学何首烏芋
低く重い声で農夫は馬を叱る
八朔や農夫ばかりの山あそび
冬帽を頭より離さず農夫老ゆ
初市へ農夫甘藍光らせて
初蝶に農夫家出づ鍬かつぎ
口中もまた貧農夫春の風邪
囲炉裏の農夫一度だまれば黙深し
土蜂や農夫は土に葡匐する
墓掘るも埋めるも農夫鶏頭咲く
声大き農夫や蝌蚪に足出でて
夏の雨農夫いちにち足洗はず
夏祭吾等農夫に灯る日
夏雲や農夫肉群負ふごとく
夕つばめ農夫芦間に顔洗ふ
夕暮を農夫の狭い額にうける
夕虹の下より農夫現われし
大青田一点白き農夫かな
天守まで聞こゆ農夫の花見唄
太陽や農夫葱さげ漁夫章魚さげ
山に百合そうして農夫嫁が来て
山の湯に浮くは農夫の盆の顔
山蟻や水はこぶ駅員農夫のごと
峡の農夫は湯に長づかり氷柱の夜
帰燕の宙へ農夫が梯子突き出せり
帰雁東風農夫ら土を篩ひをり
平らなる大暑と青田農夫小さし
戦野ならねど冬松傾ぎ農夫傾ぎ
新じやがや朝市農夫地に生えて
新馬鈴薯や農夫掌よく乾き
日々の田に日々の農夫やふきのたう
日焼農夫聖水受くる頬緊めて
早稲の香や朝の農夫のこゑ濡れて
春分や遠くの農夫藁梳ぐる
春深く山の農夫は椅子繕ふ
春耕す農夫頑固に土守る
晩霜に食われて黒き農夫の貌
暖や皆返事よき農夫達
望の座の農夫ねつとり墨を磨る
松の内農夫砥石を街に買ふ
柿の木へ向けて農夫の机置く
桃咲くや農夫に還る越後杜氏
案山子より小さき農夫でありにけり
案山子より軍帽の農夫萎えにけり
検診の農夫胸より籾こぼす
機械休む農夫地に降りたきや
櫨紅葉農夫に没日とゞまれる
毛虫の死農夫にふまれふまれ消ゆ
水呑んで農夫の道を鴉の子
水洟や追はぬに農夫を牛曳きそめ
汗の合掌顔ほどもある農夫の手
沖見ゆるまで耕さむ朝の農夫
潮枯れの蓮田に大き農夫の眼
濁酒や養子してはや老農夫
火の前へ一人増え二人来てみな農夫
火遊びの下手な農夫が畦を焼く
炎天が曲げし農夫の背と思ふ
炎天の農夫の頭石に負けず
焦げ臭き農夫の肩やくつわ虫
焼く餅の上であたたむ農夫の手
父となる農夫糯洗ひをり
片かげの代書屋に入る肩は農夫
理髪終つて農夫をかくせぬ狭き額
瓜の花手につけ農夫胸診られ
甘藷穴より突き出て赤き農夫の首
田掻終ふ水の流れに農夫の瞳
畑にある農夫ら若し復活祭
畑閉づと水菜手渡す老農夫
畦暮れて藁塚暮れてけふ農夫の婚
畦火燃ゆ夕べ農夫のひまなる顔
疲れた農夫秋の深さの瞳で語る
白シャツを汚さじと着て農夫老ゆ
白鳥を送る会あり農夫病む
盆礼や背広を着ても農夫の背
直立が農夫のいこひ桃の花
真桑瓜農夫跼みて味ふも
石仏に似たる農夫や花枳殻
禿頭のそんな農夫に夕がらす
秋晴やいよよ地を這ふ農夫らに
稲の花農夫は天も地もおがむ
稲雀農夫貧しくイエスに似て
空濠の底にも農夫*たら芽吹く
空蝉はあかるい雨の一農夫
筒鳥や農夫に托す留守の鍵
粟は刈つてしまひ農夫たんたんと手叩いては追ふ野鼠
繭玉や定年のなき農夫婦
罠つくる農夫はひどくやせていて
羽抜鶏裂く間も農夫無言のまま
老農夫熊蜂叱り飛ばしけり
胡麻の花に虻むらがりて農夫の死
能勢颪農夫等わかつ猪の肉
腕組んで農夫の彳てり芋嵐
腰叩く刈田の農夫誰かの父
花ふぶき畝に鋤きこみ都市農夫
花南瓜農夫に読まれ本白し
芽吹く木の瘤より接木農夫の婚
葡萄熟れ農夫処刑の図にある顔
虹の中天秤かつぐ農夫婦
蜩の山坂登り農夫帰る
蝶の昼農夫の憩ひ畑くぼめ
螢火に農夫粗髭照らさるる
被つて袖通す外套農夫の旅
谷戸の田に農夫ひとりの畦を塗る
豆ひきを烏に見られ能登農夫
豪雨の葱多毛な農夫の隣にゐて
赤蜻蛉分けて農夫の胸進む
踊る帯巻き工夫達農夫達
農夫いまも強き目くばり田螺田に
農夫となりぬあゝたくたくと冬の汗
農夫なり系譜辿れば霜柱
農夫にもある喀血や牡丹咲く
農夫の子宿して瓜をきざみをり
農夫の手木偶にやさしや蝶の昼
農夫の死まくなぎ軒を離れざる
農夫の死辛夷わづかに瓣のこし
農夫の罵詈に黙しとほすや冬の虹
農夫の荷鍬が一本露の道
農夫の頬骨春の雲流れ連れ
農夫の首と案山子の首と少し違ふ
農夫ゆくときは農道花野みち
農夫らに鋼のごとき秋の闇
農夫われ来世は月をたがやさむ
農夫佇ち案山子突然歩き出す
農夫切なし餅にべたべた醤油つけ
農夫口あけて花火の傘下にゐる
農夫婦かつての恋の藁塚を組む
農夫學べば火蛾へんぽんと貌せめる
農夫息太し麦刈る地の明るさ
農夫戻る夜は牛眼を微光となし
農夫昼寝しやぼんの泡を桶に残し
農夫病む雲雀を籠に鳴かしめて
農夫皆老いゆくばかり鵙の贄
農夫等の夜は神となり神楽舞ふ
農夫耀りつ朝日に西瓜抱へけり
農夫逝く花麩が浸しある寒晴
農夫酔ひ呟きあるく秋祭
迎火や孫をあつめて老農夫
遠くゆつくり動く凶作田の農夫
配置図にかがむ農夫ら花の挑
里神楽化粧にかくす農夫の手
金貨のような寒日銅貨のような農夫
鈴振りて農夫足踏み仏舞ひ
鍬をもつて農夫ひろげし泉かな
長き冬始まる農夫馬車をかる
隠し田を刈るや日曜農夫婦
雨乞や農夫の祷肩あげて
雪嶺を背骨となしつ農夫老ゆ
雲の峯農夫と同じ帽を買ふ
霧の通夜農夫ランプをいくつも借りて
青田にあり断片ならぬ農夫の鼻
面脱げば赭顔の農夫梅祭
顔痩せて青田の中に農夫立つ
鱗状に田をおこし隠れた農夫
麗かや笑ひ仏の農夫顔
麦を蒔く農夫祈るに似たるかな
麦殻を焚くや遠くの農夫耀り
麦秋の夜空かわきて農夫病む
麦藁帽われも寸土の農夫にて
あと継ぎのなき百姓の草茂る
あめつちの露の朝日の百姓家
いぬふぐり百姓の橋低くして
いわし雲地に百姓の声太し
えぞにうの北海道に百姓す
かかる世に百姓酔えばののしる性をすてず
がつしりと百姓の子の裸かな
こがらしの家百姓のちちとはは
こがらしや百姓起きて出づる家
ことしより蚕はじめぬ小百姓
これが百姓の汗して食う飯のどすぐろきを匿くそうとする
これが米つくる百姓の
しんじつたべ酔うた百姓のよろしき雨降り
すでに秋日百姓も衣をかさねたり
せつせつと百姓夫婦鵙の秋
どつと笑つて不作百姓おしだまる
ひやひやと百姓帰る山の影
ふはふはとゆく百姓の冬帽子
をうをうと蜂と戦ふや小百姓
チューリツプ畑も見廻り百姓す
ルオーの絵貼る百姓家薬喰
一つ~*もぐ茄子熱しお百姓
一族百姓大藷小藷暾へ掘り出す
一椀の自愛の蕎麦湯小百姓
一生を謬てるごとく百姓の瓜畑腐り
一茶忌や父をかぎりの小百姓
七夕や百姓の子と妻あそぶ
三椏や百姓の顔ねむく過ぎ
中元や小百姓なる一患者
亀鳴くや一百姓のホ句作る
二の酉へくらがりいそぐ小百姓
二月尽百姓の豚飽かず肥え
二番草取って百姓少し閑
五人百姓花に広ぐる風流傘
人工衛星へ尻むけ這いまわる百姓群
今年より蚕はじめぬ小百姓
何首烏芋百姓畑をみてまはり
俄百姓十分過ぎる大根引く
八朔の百姓が屋根青く塗る
八朔や扇さしたる小百姓
冬田へ透かし診る百姓の骨の写真
冬鵙や百姓肩をまろめ来る
凩や馬を犒ふ小百姓
初午や百姓衆の羽織紐
初午や神主もする小百姓
初暦一冊おきぬ百姓家
加藤洲の大百姓の夜長かな
匂ひなく百姓通る曼珠沙華
十二月百姓黒く地に憩う
十五夜の灯をほと洩らし百姓家
千曲野の牛蒡百姓牛蒡蒔く
南瓜咲き百姓の子の大き臍
口あいて百姓雁を仰ぎけり
口開いて百姓雁を迎へけり
合歓ねむり百姓はみな力ぬく
唐辛子吊りて百姓の喪はながし
土間に筍不動産屋で百姓で
堀切や菖蒲花咲く百姓家
夏の炉や住まひ古りたる百姓家
夏蚕飼ふ温泉町の中の百姓家
夕寒市場全灯をつけ百姓待つ
夕黍や百姓の胸現はるゝ
夜蛙に百姓の会牛臭し
夜鳴そば呼びて百姓豊の秋
大旱や滝の絵かけし百姓家
天の川墓地を背負ひし百姓家
奈良坂に百姓家あり土竜打
子を生んで百姓焼けをもう恥ぢず
子を負ひし百姓水を落し行く
学僧の百姓面や帰り花
孫抱いて喜雨の百姓大胡坐
宣澄踊百姓唄のぶつきれに
寒肥を撒きて百姓光りけり
寒菊や呉山の下の百姓家
小百姓を取老となりにけり
小百姓しやがみて目高清らなり
小百姓のあはれ灯して厄日かな
小百姓の嬉しき布施や草箒
小百姓の寺田の田螺突きにけり
小百姓の庇普請や芋の秋
小百姓の飯のおそさよ春の宵
小百姓ひそと高きに上りけり
小百姓冬物買ひに出たりけり
小百姓埃の如き麦を刈る
小百姓桑も摘まずに病みにけり
屋根替や土塀めぐらす大百姓
山眠る百姓納屋にはひりけり
川施餓鬼みな百姓の手足して
干魃や百姓の唯歩きをる
平日や百姓半裸で鯛洗う
年越の黒き爪切る百姓女
息長き百姓の声蕨萌ゆ
手をかざし百姓の子や雁渡る
教会へ百姓がゆく余り苗
数珠玉を植ゑて門前百姓かな
新涼や百姓の子の東京に
新米や妻に櫛買ふ小百姓
新米や賣りに出でたり小百姓
新茶撰る僧と話すや小百姓
早々と百姓寝ねし夕月夜
早梅や佳き庭ありて百姓家
早苗饗や高膳すゑてお百姓
旱天の百姓何も持たず歩く
旱星百姓強き酒に酔ふ
明日を堅く信ず百姓はおおむね猪首
昔も不作ここら百姓はや雪簑
春暁や裏山畑の百姓家
春風や馬に乗りたる小百姓
暑き夜や百姓町の真くらがり
暴落西瓜百姓くわつと割つて食う
月見草百姓泣きしを思ひ出づ
朝風呂を立てゝ百姓寝正月
朧夜や百姓の子の笛を吹く
木がらしや百姓起きて出づる家
杏百姓ありのすさびの注連作り
東風吹いてまた百姓になる雲雀
枇杷咲くや百姓馬の毛を刈りぬ
枯草や畑百姓はまだはだし
柚貰ふ日向変らぬ百姓家
桑原の枯色いでて来し百姓
梅雨の炉を焚く百姓の膝に猫
梅雨百姓あつまつてをる鍬をつき
棒杭のごと百姓黙す露のミサ
正月や下駄新しき小百姓
歩兵奥沢百姓をせりき指太き
毛見すみし百姓畦に立ち並び
気負ふなき百姓馬や野馬祭
水洟をかむ百姓の大事な金
水鳥や沼百姓の冬漁り
水鳥や百姓ながら弓矢取
湯の百姓みたりとなりて肉弾む
漁師見て来て百姓の顔さむし
炉を焚いて百姓らしき三ヶ日
炉火立てゝ比良八講の土百姓
無花果を食ふ百姓の短き指
牛にのる阿蘇の百姓天高し
牛蠅と百姓修道院に入る
猪垣をつくろひ百姓捨てきれず
生涯を百姓でよしちやんちやんこ
田より来て百姓の娘等氷飲む
田下駄曳く百姓の児よ寝にゆきぬ
田植了りても百姓の前屈み
田祭や蚤取粉打つて小百姓
田舟さして百姓遊ぶ夏の月
百姓や歯朶ゆひ添る牛の角
百姓がなくて誰が食えると爐火に父
百姓が凶作の稲を噛みしめつ
百姓が提げて鬼灯かさかさす
百姓が立てり地の底まで寒し
百姓が走る寒さの歯黄色く
百姓で三男海へ落し水
百姓となりすましたる布子かな
百姓と話して春を惜しみけり
百姓にたまの風呂沸き蚕の眼り
百姓になれず了はんぬ秋袷
百姓にまされる休躯野遊びす
百姓にゆふべ道問ふ赤のまま
百姓によびとめられぬ鳳仙花
百姓に今夜も桃の花盛り
百姓に停年はなし晩稲刈る
百姓に大慈大悲の二日灸
百姓に恋女房や麦の秋
百姓に教へて倦まず山眠る
百姓に母の日のなく草を引く
百姓に泣けとばかりに梅雨旱
百姓に泣けとばかりや旱梅雨
百姓に浴ほどこす冬至かな
百姓に翳の思ひや秋しぐれ
百姓に花瓶売りけり今朝の冬
百姓に農話あるのみ賢治の忌
百姓に鍋釜ひかる涅槃西風
百姓に雨の一日狸汁
百姓に雲雀が来鳴く田を焼けり
百姓に雲雀揚つて夜明けたり
百姓に霧きて海流鳴りやまず
百姓のあとは案山子になるつもり
百姓のいのちの水のひややかに
百姓のうりに来りし岩魚かな
百姓のくはへたばこや喜雨休
百姓のことより知らず種を選る
百姓のしぼる油や一夜酒
百姓のたばこは臭し梅の花
百姓のぬつくと立てる畦火かな
百姓のまくらき戸口梅の花
百姓のみな燈をひくく春祭
百姓のゆまるや寒の土ひびく
百姓のゆまるや寒の地ひびく
百姓のよこぎつてゆく露野かな
百姓のわれにて終る飾臼
百姓の一夜の奢り菜殻焼く
百姓の一女嫁ぎしあとの蝌蚪
百姓の一家の寝顔ガラス戸越に
百姓の一言返事地虫出づ
百姓の不機嫌にして桃咲けり
百姓の今もどりたる残暑かな
百姓の今日は菩薩や練供養
百姓の仏頂面ラや霜くすべ
百姓の仕立てくれたる蓮見舟
百姓の仕立てゝくれし蓮見舟
百姓の何をか企む林枯れ
百姓の俄豆腐屋犬ふぐり
百姓の儲話や蕎麦の花
百姓の剛髭二番茶も迫る
百姓の命かしこみ芋の秋
百姓の咳まじる遠き物音に
百姓の哄笑霜の野にきこゆ
百姓の啓蟄の畦叩きをる
百姓の坂東声や鬼やらひ
百姓の垣に菊あり鶏頭あり
百姓の塀に窓ある葵かな
百姓の墓碑に焚火の火をとばす
百姓の外出の雨に花菜濃し
百姓の夜はしづかや隙間風
百姓の夜はなんばんの闇にほふ
百姓の夜は夜長のひとつの灯
百姓の夜は暗しや桃の花
百姓の大きな声に梅雨明くる
百姓の大きな聲やみぞれふる
百姓の大き手が追ふ稲雀
百姓の大往生や鳳仙花
百姓の大戸や除夜の楽もれて
百姓の大煙立てゝ旱畑
百姓の大股がゆく実南天
百姓の大股に去る黄水仙
百姓の大股暮れて秋じまひ
百姓の妻になりきり水喧嘩
百姓の娘うつくし桃の花
百姓の娘の出たつひがんかな
百姓の娘顔よし紅藍の花
百姓の子を泳がせて見守れり
百姓の定着性蕎麦の花矩形に
百姓の家に雲烟かたつむり
百姓の家の低さよ稻の花
百姓の家をめぐりて梅の花
百姓の小さき眼俵編む
百姓の市に顔出す化偸草かな
百姓の帆待ち山女を売りにくる
百姓の年々つくるけしの花
百姓の年貢納めし頃のこと
百姓の年賀紋付似合ひけり
百姓の広き庭なり盆の月
百姓の広き背中や汗流る
百姓の床下暗く昼寝せり
百姓の庭へ降りたる初鴉
百姓の庭も垣根も木の芽哉
百姓の弓矢古りたるともしかな
百姓の径を百姓ゆきて寒し
百姓の手に手に氷菓したたれり
百姓の手の凹飯や日短き
百姓の手よと笑はれ草引くも
百姓の手足短し盆踊
百姓の持ちたる國の田草取
百姓の掌厚し鵙猛る
百姓の日の暮れ方に梅漬くる
百姓の早も跣足や金鳳華
百姓の昼餉へ甘え遠蛙
百姓の木綿たうとぶ法然忌
百姓の木綿たふとぶ法然忌
百姓の来てのぞきをる接木かな
百姓の板戸負ひ行く師走かな
百姓の桜や枝に繩垂らし
百姓の梅干我鬼の忌に貰ふ
百姓の楽寝のそばに油虫
百姓の歯は馬鈴薯の花になる
百姓の死や藁焚火どつと燃え
百姓の渋きしはぶき夕顔棚
百姓の漸く暇に親子鳰
百姓の澁きしはぶき夕顔棚
百姓の火より夜が明け大夏木
百姓の烟草輪にふく小春哉
百姓の煙草は臭し梅の花
百姓の片目泪や渡り鳥
百姓の猥歌の中に吾が娶る
百姓の玉と抱へし冬菜かな
百姓の生きてはたらく暑さかな
百姓の生きのすがた終身囚の如く老いこけて笑わぬ故郷
百姓の破れ障子や嫁ケ君
百姓の秋はうつくし葉鷄頭
百姓の笠に秋立つ曼珠沙華
百姓の筆を借りけり閑古鳥
百姓の縁の十六夜ふけにけり
百姓の耳学問や保己一忌
百姓の股引のつぎ十五夜に
百姓の肥やしては捨つ葱の花
百姓の肩に小猫や喜雨休
百姓の肩に日の出や蓮枯るゝ
百姓の肩のうへなる春の雲
百姓の肩や稲架竹浪うちて
百姓の背戸に咲けり杜若
百姓の背戸の中まで菫かな
百姓の胸中ふかくやませ吹く
百姓の腰骨盆の団扇挿し
百姓の臼豊年の幕尻に
百姓の葛に踏込む野分かな
百姓の蓬髪あつき尊農祭
百姓の蕃茄食ひ去るおのが畑
百姓の血の疼く稲刈るが見ゆ
百姓の血やまぶしくて鷺嫌い
百姓の血筋の吾に麦青む
百姓の衣黒かりし土用干
百姓の裸の背ナを汗ながる
百姓の訴訟顔なる蛙かな
百姓の豊かなくらし日照草
百姓の足吹きすかす野分哉
百姓の足腰あそぶ花神楽
百姓の踊るじよんがら背を曲げて
百姓の追ひをる蛇のいびつかな
百姓の重き足過ぐ唐辛子
百姓の野に火照りあう喉仏
百姓の金歯光るや秋の暮
百姓の頸くぼ深し大根引
百姓の顔してつぶれ新走り
百姓の顔で案山子の帰りけり
百姓の驚くほどの朝月夜
百姓の骨格われの夏帽子
百姓の麦飯あつし蝉の昼
百姓はいくさに敗けてキヤベツ剪り
百姓は下積み銀河は空の背骨
百姓は力稲を束ねる女の息
百姓は地にすがりつく霞かな
百姓は地を剰さざる黍の風
百姓は小腰夏鵙草に鳴く
百姓は我がスポーツよ去年今年
百姓は煙で天の鷹を落とし
百姓は跼み虎杖ばかり伸ぶ
百姓は野良着のまゝや親鸞忌
百姓へあつさ預けて昼寝哉
百姓も麦に取つく茶摘歌
百姓やせ馬しつぱたきから梅雨の野に出る
百姓やわけて小豆とることなんど
百姓や不作の梅を頒けくるる
百姓や合歓の万華に触らずに
百姓や床に寄せたる重ね綿
百姓よ汝が影淡きは三日月ゆゑ
百姓ら天主を信じ凍てゆるぶ
百姓ら太陽撃ち落とす仕事
百姓をしてゐる妻へ藺笠買ふ
百姓を友とし墓を洗はざり
百姓ノ土塀ニ沿フテ百合ノ花
百姓ノ麦打ツ庭ヤユリノ花
百姓出るとすぐこがらしをふくらまし
百姓名涼しく蓑湖猫又湖
百姓家にして別墅かな牡丹の芽
百姓家据ゑて餅搗く地の響
百姓昼寝熊蜂梁を打つて去る
百姓牛の尻見つつ寒い日暮を戻る
百姓等温泉へ勤労感謝の日
百姓走る麦まつ青で止どまらず
百姓顔におはす鑑貞地蔵盆
目を細め来る百姓や桑芽吹く
破魔弓や百姓ながら奈須に住む
破魔弓や百姓ながら那須に住む
神主も百姓にして川社
秋声に百姓まなこみひらかず
秋涼し花せんざいの百姓家
秋聲に百姓まなこみひらかず
秋風にたてる百姓目をこすり
秋風の百姓の顔混浴す
稗蒔や百姓鶴に語て曰く
種つける大百姓となりにけり
種伏せの遅速語るや小百姓
種蒔や髭たくはへて小百姓
種選ぶ百姓の肌眼となりて
穂波逆撫で百姓の柩通る
立つ鴫をほういと追ふよ小百姓
立春や百姓詣る三輪の神
箕も桝も百姓に神初灯
簡単なり冬の虹たつ百姓家
紅葉して百姓禰宜の出立哉
紙魚食める祖父の百姓一揆図絵
絵暦を解く百姓に半夏雨
緑蔭に*どをつり下げし百姓家
美的百姓に団栗降るや青きもあり
背広着て百姓集ふ虫供養
胡蘿蔔赤しわが血まぎれもなき百姓
脆座なして掌をすり洗ふ湯の百姓
脛立てて百姓病めり露の宿
腕さすり百姓ならねど冷夏嫌
腰たるき百姓歩む代田べり
芋秋や馬車引出づる大百姓
芋秋や馬車曳き出づる大百姓
芋飛ぶ露百姓にわれ隔たりて
苗床と甘藷苗床と大百姓
茄子苗や百姓の血は外祖父まで
茗荷竹百姓の目のいつまでも
茗荷竹百姓垣根つくろはず
荻窪にまだ百姓家花蘇枋
菊日和縁に百姓野に百姓
菊時は菊を売るなり小百姓
葱剥いて光らせて売り小百姓
蓮根掘る泥百姓に珠なす日
薔薇接ぐやわが百姓の血を思ひ
虫の宿代々百姓の仏壇よ
虫干や門三つある百姓家
虫干をして誰もゐぬ百姓家
虹をみる吾に百姓紫蘇を摘む
蚊遣火や諸膸抱いて小百姓
蚊遣香置けど百姓家の匂ひ
蛇が枝から垂れて百姓あつく働き喘ぐ息
蛇穴を出て百姓のいとまかな
螢火や山のやうなる百姓家
血縁に百姓の妻藪からし
行く年や口かず多き小百姓
行年や寺へ無心の小百姓
行春やひそみひそみし百姓家
行秋や大構して百姓家
袈裟脱げば僧も百姓菜虫取る
見るものにしてや月見の小百姓
豊作の青百姓が二枚舌
象潟に見たる椿と百姓ら
足は百姓顔は學生蝉時雨
跪坐なして掌をすり洗う湯の百姓
踊り笠とつて「お民」は十九百姓ッ娘
身に残る百姓の血やとろろ汁
軒氷柱百姓の掌が一と薙す
酔ひしれて百姓妻よぶだう取り
野のひかり百姓國をうたがわず
野の宮の別れ語るや小百姓
野良納めして松高き百姓家
金鳳華濡れ百姓に休みなし
鈴蘭を百姓が売る宵淋し
鎌鍛冶と莨百姓盆踊
門もなく大百姓の鳥総松
門口や大根花咲く百姓家
雀隠れといへり日曜百姓は
雁わたるわれ百姓の鍬を振る
雁を百姓を追ひ行きにけり
雉子の巣に百姓みちをかくしけり
雛壇や閏遅れに百姓家
雛菊や戸の内暗き百姓家
雨の日も揚羽飛ぶなり百姓家
雪に走るときも百姓口あけて
雪掘って鰌漁るや小百姓
雪解にわかに百姓の眼の秘密もつ
雲の峰百姓うごくばかりなり
雲通る百姓寺の曝書かな
露けしや百姓のみち湖に墜つ
青田見て佇つ百姓の心はも
飯熱き大百姓の田植かな
餅買ふや百姓に歯に衣きせて
馬いきれ草いきれなる百姓家
馬持ちの大百姓や月の秋
高黍や百姓涼む門の月
鯖を焼く百姓のうだつあがらざる
鰯雲百姓の背は野に曲る
鴫撃つと片目つぶりや小百姓
鴫撃てば百姓の目のさとかりき
鵙の尾や百姓もまた機械好き
鵙の聲我も百姓鍬をふる
鵙啼くやこの百姓の歯のない口
鶏頭の十本ばかり百姓家
鶏頭は百姓の花肉厚く
鷄頭の十本ばかり百姓家
麦刈りて百姓の墓またうかぶ
麦秋や狐ののかぬ小百姓
麦秋や百姓の子の村芝居
麦飯に百姓咳をおとしけり
黍の雨百姓昼寝むさぼれる
黍負へば百姓となりぬその手足
*さんざしや貧農の家に生れし身
かつこうや農魂されど額小さし
じゅず玉は今も星色農馬絶ゆ
そろひ出てぢさま婆さまも農始
てのひらに梅雨の重みの農人形
ねぎの種蒔くと記すや農日記
はみだされゆく農なるや冬の鵙
ひばりへ光る農着の上の裁ち鋏
ひんここ祭木偶の農衣の草木染
ほほかむり上手に出来て農継ぐ子
やませ続く鉛筆舐めて農日記
ゆつくりと榾火代々こんにやく農
ゆづり葉の上を鳥ゆく農暦
わが生涯農一すぢに幽学忌
われ農や年始疲れは靴からくる
ズボンと股引いちどに脱いで農去寝る
一たす一は二でないと言う農継ぐ子
三男が農継ぐ庭の百日紅
世田谷に農科大学仔馬生る
人を恃みの農を賜わる稲雀
仏前に柿が真赤よ農の葬
余寒なほ農継ぎてきし太柱
冬耕の農良着を脱ぎて一詩人
初午や農の奢りのまるめ餅
初日さす畦老農の二本杖
初燕見て来し夜の農日記
初鶏や農継ぐ家の深庇
初鷄もしるや義農の米の恩
別れ霜ありと見込んで農手入
十二月農車に黒き油さす
古茶好む農俳人ら来りけり
吾までの農かも床に藷伏せて
味噌搗や母がめくりし農暦
啓蟄やメモに埋まる農暦
喜雨につつまれてねむたき農一家
喪の家の火と酒に酔ふ農の血や
土いろに貧農貧馬麦の秋
坂なせる農のじよう口牡丹の芽
報恩講農の自動車闇に駐め
墓のごとく老農の背をながす息子
夕焼けを使い果して農終える
夕焼は美しけれど農貧し
夕霧に冷えてかたまり農一家
夜濯ぎの一竿は皆我が農衣
夜長し父を継ぎたる農日誌
大き掌に柏餅食ふ農継ぐ子
大寒や老農死して指逞し
太竿の響きや月の農舞台
女流俳人農とし老ゆる花青木
姓の子等農を守りぬく地虫出づ
子が継がぬ農守り夏を痩せにけり
寒き種子分ち農兄弟田に別る
寒き薄髭生徒に好かる農教師
寒地農頬鳶色の秋日和
尊農祭めとるにとほき葱を刈る
小豆粥果樹にも供へ農を継ぐ
山墾いて杣も農たり芋の秋
山桜桃熟れ老農夙に畦をぬる
山火立つ標高農の極限地
帰省子の胸幅広し農継がず
帰農しぶりし妻夜蛙に馴れにけり
帰農せし汝がかりそめの日焼かは
帰農記にうかと木の芽の黄を忘ず
帰農記に雪野の果の木は入れず
干瓢を干しをり農を捨て切れず
彼岸田に電球浮べ農の亡び
後継ぎのなき農鍛冶の初鞴
手足先に老いて農寡婦裸たくまし
拓農継ぐとうもろこしの花太り
新米やわが家の農に幸あれと
新藁の桟敷芳し農歌舞伎
新藁や親しき農のひとりゐて
新藁や農のこと皆美しく
日焼濃き老農仁王の朱剥げて
早苗の上農兵節の富士現るる
早苗饗の家高々と農衣干す
春暁踏みこむ影に農見えじ
春耕や農に生き行く六十路坂
春近し僧の机に農暦
晩霜警報農には農の荷あまれり
木の橋ありかしこき農馬たちは消え
木菟の冬農僕せちに妻をほりぬ
本門寺の銀杏黄葉を農暦
松蝉や一番の地に農の墓
枇杷あまく農繁の日のくもりがち
柿暮れて足太く戻る農馬かな
根深汁の熱さが救ひ農ぢり貧
桜桃の苗木植ゑ足し農を継ぐ
桜落葉と一言仰ぎ農俳人
植え穴へ茄子苗つぎつぎ農母子
楪や農俳一世たるもよし
榛青葉越の国人農の虫
樹おもてへ出て熟るる柚や貧農史
母の葬もどりし農らどつとくふ
汗沁みて亡父の香に似るわが農衣
沼はどろんとこんな光は農馬も嫌ふ
浅茅焼く火の丹が欲しき帰農帖
深梅雨や農の疲れのわがカルテ
火の用心声を聞きつつ農日記
炉開きの山農庵に招かるる
照り昃り皺む砂原農馬の市
熊突きの槍一本と農継げり
燠足して貧農の炬燵焦げんばかり
父も斯く農で終りぬ花大根
父祖の田を逆さに農の子の鉄棒
牛蒡蒔きより書きそむる農日記
生姜酒貧土の農と交はりて
生涯の農かをとめも田掻する
田に神酒を撒きたるのみの農始
田水沸く農の沈むへ振向くな
疑はず農に生き来て畦を塗る
白菜を軒に並べて農閑か
百姓に農話あるのみ賢治の忌
百姓の蓬髪あつき尊農祭
目貼剥ぐ小農牛の眼に高し
磐梯颪に農衣はたはた稲束緊む
神主は篤農の人海開き
秋めくや縁に出て書く農日記
秋時雨農継ぐ子なきこと嘆く
秋風や山を心とし農と漁
種俵焼く農やめし父ひとり
稲妻や農衣滅法よごれをり
穴出でし蛇農小屋へ入りにけり
竹植ゑて来しとふ農の声かくる
箕祭や先祖代々小作農
篤農と呼ばれ三代飾り臼
篤農に問ひてその名や胡麻の花
篤農の掌のごとき薯戴けり
篤農の確かな手足初神楽
紫苑咲く夕闇農の庭乾き
緋牡丹に農衣の股を展き干す
老いし父炬燵にて書く農日記
老いてなほ農の血さわぐ初郭公
老農に浅蜊水吐く四月かな
老農のいつも独りや花南瓜
老農の喰はず携ふ真桑瓜
老農の夫婦暮しやむかご飯
老農の新聞読めず雪を見る
老農の柩に入れし春の土
老農の洗ふ眼鏡や春埃
老農の皺の密度や青田自讃
老農の眉目しづかに田水沸く
老農の穂田を見まわる帆のごとし
老農の聖なる顔と種茄子と
老農の視力雪虫に衰ふる
老農は茄子の心も知りて植ゆ
老農は鎌で泉を飲みにけり
老農や一升瓶に蝮飼う
老農や昼寝さめたる固き踵
職業欄「農継ぐ」と書き卒業す
肺強く鳴って老農昼寝せり
胼薬しみ入る農書開きけり
花守に歇む鶏農の風雨かな
花柊農四代の香を放つ
花栗かぶさる貧農の家冴えゆく眼に
花白粉農の常口ひろやかに
苗代や抜くたび白む農の脚
苗代田に松飾りして農に生く
若布つかみ農漁の言葉叩き合ふ
茎立の農はわが代をかぎりとも
草フォークで返す秋風通ひ農
草笛吹く少年一人は農を嗣ぐ
荒地にて老農土器に湯たぎらす
菊枯れて農閑の炉となりにけり
菜の花の丘に子を生む惰農たり
菜種の農日本いつまでかくあらむ
葉柳や住み着きし農に舟と牛
葱二本抜きしのみなり農始め
蒸して来る若葉曇りへ農支度
薯植うる頭の中の農暦
藁塚に年輪はなし農に老ゆ
藁焚けば人が聚まる農始
藪巻や農納めして峡の家
蚊を打てばまた一つ出て農の土間
蚤捕ふことに雨夜の農の妻
蛇皮線弾いて農清明の野に遊ぶ
蛇苺闌け農繁の水濁る
蛙囃す働かざるが農の敵
蝶鳥や農の昼餉の椀赤し
螻蛄ひそむ農の重みの足跡や
街に出て蝿わしづかむ農歌人
袋掛け老農の声は天へ抜け
訥々と農改革を炉に語る
読初は父の形見の農日記
豆の花畔に咲かせて農安し
豆蒔くに農の凡なる知恵を借る
豪農の館あかるき桐の花
豪農や氷柱の剣をかけつらね
貧農が炎天干の胡麻むしろ
貧農にかへりて昼寝大の字に
貧農に耐ふ野火のあとかぐはしく
貧農のこばなしはずむ囲炉裏かな
貧農の小ばなしはづむ囲炉裡かな
貧農の歯が無い口も年の暮
貧農の水子を喰ひに蛭泳ぐ
貧農の汗玉なして夕餐摂る
貧農の煙りのうすき花の山
貧農の足よろよろと新酒かな
貧農の身をあたたむる干菜汁
貧農の軒たうもろこし石の硬さ
貧農は弥陀にすがりて韮摘める
輪飾の農船波をかぶり着く
農すでに忙し無人の庭牡丹
農すると訣れ来りしが農に雪
農となつて郷国ひろし柿の秋
農となつて郷國闊し柿の秋
農に生き土に還る身初山河
農に生れ長じて小吏秋袷
農に老ゆ母よ朝日に夏蚕透く
農の三和土一冬の飢象なす
農の出の二人土湯に春の月
農の友ありても遠し竹酔日
農の墓地孟夏後塵絶え間なし
農の子の指やはらかし豆の花
農の幸しかし田植はうつむいて
農の庭粒不揃ひの青みかん
農の手を休め能舞ふ雪解村
農の着ぶくれ牛がのべたる頸たたき
農の神里に迎へて田植かな
農の終焉壁を一と重に干菜鳴る
農の血を継ぐ夜神楽の太き指
農の閑愛書ひたすら冬凪す
農の顔笠でつつめば風の盆
農の餉の花菜あかりに燈があはれ
農はじめラジオに電池入れ替へて
農われの今いたゞける大初日
農をつぐ人なき畑に茎立ちぬ
農を継ぎ笛を継ぎたる秋祭
農を継ぐ子に着せたしとちゃんちゃんこ
農を継ぐ心定まり目貼剥ぐ
農会や苗代時の蛾の話
農兵のこと奏しけり県召
農兵の演習の地に籾殻飛ぶ
農冬至男水禍の土砂を踏み嘆かふ
農守りし兄に嘶け茄子の馬
農小僧経て来し月日花いばら
農幾代の墓穴ねばつく雪と土
農忙し門だけ掃きて霊迎
農捨ててなほ八朔の飯を炊く
農暦あくまで信じ田を植うる
農暦いまも手許に厄日過ぐ
農暦こんにやく畑刈る日来ぬ
農歌舞伎草の桟敷の鼓草
農留守の戸に福藁に日いつぱい
農継がぬ夫が見てをり遠案山子
農継がぬ子が自慢なり耕せる
農継がぬ子の増えてきて曼珠沙華
農継がぬ子ら脛長く麦の秋
農継がぬ子を送り出し畦を塗る
農継ぐといはず田植を手伝ひし
農継ぐや鈴生りの柿屋根の上
農育ち庭片すみの菜を間引く
農薬を撒きて農魂失はず
農衣干す雫も紺の鵙日和
農鍛冶の火の育ちゆくうららかに
農鍛冶の鞴やすみの雨水かな
農閑と云ふも束の間豌豆蒔く
農閑に入る冬麗の潦
農閑の仕事は何ぞ楠若葉
這ひ交む蚕蛾夕餉のおそき農
遠雷や帰農に柔な掌を持ちて
酒提げて農に春宵来りけり
酔ひざまも農の名残りや酉の市
酷農の娘が恋しりて初日記
酷農の娘にうす雪やなづな摘
陶雛を焼く農閑の窯一つ
雨雲の須臾にひろがる農の昼寝
雪形に越中の農動き出す
雪解田を踏みしめ農の血を沸かす
霧のながれに水脈縋る拓地農
風涼し細格子より農兵節
飯米売り霞棚引く農に落つ
餅を焼くガスの火農の土間そのまま
餅花や長く手をつき農の辞儀
馬の心農になく雨にあるらしき
駆けつけて雷火匂はす農俳人
鳥渡る辛抱づよき農の屋根
鶯や農をたのしむ鍬遣ひ
麦と雨にかかはり附添婦は農よ
麦秋の全き農主婦として在りき
麦秋や農を兼ねたる一漁村
黄牡丹一会にほぐる農疲れ
立春の園芸店は旗立てて
薔薇咲かせ園芸家をわが夢見し日
午後ぬくく酪農の娘が羽子あそび
月遅れつつ酪農の梅闌けぬ
渓きよく酪農一家鱒飼へり
酪農に雁ゆく夜空曇りけり
酪農の地に芋虫を小とせず
酪農の娘が恋しりて初日記
酪農の娘にうす雪やなづな摘
酪農の掌の真赤なる霧の中
お歳暮と鯉二尾淀の農家より
かくれなき富士に草干す農家かな
かや積んで隣り農家の冬早き
ポンプの柄がたがた風邪の農家族
一戸のみの開拓農家薯の花
会議の窓遠の農家は羽子の音
借りる湯も農家のにほひ地虫なく
冬の雁農家にたのむことばかり
冬瓜や改造農家夢肥やし
初富士へ農家はラヂオかけ放す
別荘にはさまる農家罌粟咲けり
地虫なく農家と同じ夕餉どき
垂り揃ふへちま農家の昼餉どき
夕暮農家けむりの色になじみすぎる
夜に入る喜雨農家幼きもの多し
大原のとある農家の羽子日和
宝石より光る矢車農家の空
岩山に張りつく農家繭白し
干瓢や盆の農家の隙見られ
庭広く掃いて農家の葉鶏頭
廃農家増えたる峡の田水張る
日の出殊に寒き刻なる農家族
日光を浴びに出て飛ぶ農家の蠅
晴雪や農家の花嫁野を歩む
梨どきのけふも客ある一農家
水路洗ふ農家総出の五月来ぬ
漁家農家菜の花の黄を内囲ひ
濁り酒農家の茶碗どれにも疵
灯まづしき農家がかざす八重桜
田を植えし夜は澎湃と農家族
神有月出雲農家は垣厚し
福藁に仔牛の誕生待つ農家
秋晴や蔵持つ農家稲の中
秋風に餅しげく搗く喪の農家
若楓一樹農家の庭光る
菊籬農家の犬の吠えやすく
葛飾の古き農家の鬼打木
蜑が家も農家も木槿垣を結ふ
豆撒きし闇に農家の灯が濁る
貧農家雪囲ひして明るさよ
農家の子抱けば蜩なきにけり
農家の灯庭木に溢れ夜の秋
農家族満腹すれば螻蛄鳴きだす
連綿と生れ次ぎ来し農家の蠅
鍵いらぬ農家の生活芋洗う
青葉木菟農家のあかりすぐ更けて
鰥農家に脚ふんばつて茄子の牛
鴨又翔つ飢ゑて氷噛む農家族
麺麭家族祭農家にはさまれて
さきたまの欅の芽吹き農具市
にはとりが叱られてゐる農具市
ほろ酔ひの帽子あみだに農具市
トラックの荷台が売場農具市
低き灯に買手もすわる農具市
出来のよき野菜をならべ農具市
初薬師苗木に隣る農具市
売りながらつくる木槌や農具市
少年がてつぺんにゐし農具市
手に馴染む鍬の柄選ぶ農具市
旧道に農具市立つ午祭
朴の葉の大き結飯や農具市
水楢の芽吹く青空農具市
火山灰少し降る日の農具市
焼鳥のよく売れてをり農具市
犬が来て人の足嗅ぐ農具市
獣捌く刃物もありぬ農具市
石槌の残雪遠く農具市
農具市健康器具も売りゐたり
農具市即ち天皇誕生日
農具市深雪を踏みて固めけり
農具市見て春草に横たはる
鍬の柄に蝶ひらひらと農具市
鍬一丁買ふに駆引き農具市
阿武隈の烈風の来る農具市
雪国の田は水びたし農具市
雪打つて鍬試しをり農具市
まつりたる農具障子の日の裾に
吊し柿農具納めし牛舎跡
土間があって俺の家だ農具がそこにある
大き掌は農具の一つ桜餅
新藁を積上げ匂ふ農具小屋
時雨るるや農機具光るまで磨く
柊挿す薬師寺見ゆる農具小屋
民具農具古きたつきも秋思とや
父の日の隙間だらけの農具小屋
盆休納屋に農具を押しこめて
税金のかかるリヤカーもみんなわしらには農具でねえかよ
老鴬や藁噛ませある古農具
耕すや七年農具とり合せ
豆さしも農具の一つ豆植ゑる
輪飾に暗く静かや農具部屋
輪飾に暗らく静かや農具部屋
農具など暗くて燕いねゐたり
農具は脆く立っているなり雛の家
農具船具一納屋に春俄かなり
農具錆ぶ屋根にとどきし竹煮草
農機具の納屋の戸敲く春一番
鋤鍬と農具の序あり注連打たる
韮咲くや兄が愛する馬具農具
飛行機も農具の一つ棉の秋
鵙高音農機具小屋に真昼の日
うすけむり吐き不機嫌の耕耘機
ものものし列を成し行く耕耘機
バス止まり呉れて横切る耕耘機
初荷にてわが頭上ゆく耕耘機
君がさす日傘の前を耕耘機
夕桜犬をのせくる耕耘機
座禅草咲き耕耘機来ぬところ
座禅草咲く耕耘機来ぬところ
復活祭泥紅緑に耕耘機
掻き了へて代田に残る耕耘機
春の土ポロポロこぼし耕耘機
春泥に耕耘機あり横とほる
春田より上りて弾む耕耘機
春耕や時に咳き入る耕耘機
梅咲くや納屋を出でゆく耕耘機
牛冷す如耕耘機川に入れ
牛小屋に輪飾りをして耕耘機
畦を塗りあげて耕耘機でかへる
秋に外米耕耘機いま土を足蹴
耕耘機あとを椋鳥並びゆく
耕耘機上と下との握手かな
耕耘機休ませてあり花の下
耕耘機始動の闇に子猫かな
耕耘機寄居虫ばしりをして帰る
耕耘機心許なき音出せり
耕耘機朝の桜の下通り
耕耘機洗ひて明日は野馬追武者
耕耘機深田を打つに音重き
耕耘機灯を使ひゐる夕郭公
耕耘機田を出てただの機械なる
耕耘機畦の黄菊を孤独にす
耕耘機自転車の子に追ひ抜かる
耕耘機通るたんぽぽの首短か
耕耘機遠きは空を耕すや
耕耘機重たく使ふかくれ達
見えざるも耕耘機行き返す音
見て疲る重く田を匐ふ耕耘機
陽炎の中より現れし耕耘機
颱風圏放置されたる耕耘機
さびた咲く牧場に霧や蝦夷の国
一枚の葉にありまきの牧場あり
万緑の底に物音なく牧場
乳搾る山の牧場の朝の虹
光る虻牧場の馬に伴走す
其中に牧場のある花野哉
冬夕焼空に森あり牧場あり
厚司着て熊牧場を采配す
城廓の中の牧場や夏がすみ
夏休み星の牧場の中にいた
夏山の麓に見ゆる牧場かな
夜をはなれ行く万緑の牧場かな
子羊の角出て牧場草萌ゆる
岬端の卯浪に狎れて牧場牛
川の合ふ先まで牧場萌えにけり
幾尾根に広がる牧場雲の峰
恋の山羊をり牧場の一景に
新しき牧場の柵や木の芽風
朝涼の牧場を抜けて届けもの
氷河照る*やくの牧場の草紅葉
炉を見つつ野火の話や牧場守
炎天や牧場ともなき大起伏
爽かに牧場のをとめ皆男装
牛むれて薄まじりの牧場哉
牧場にどつと著く藁年用意
牧場に獣医来てゐる良夜かな
牧場に生れし蝿とバーベキユウ
牧場に立ち寄りもして摩耶詣
牧場に置く新しき狸罠
牧場の中に大樹の茂りかな
牧場の中の小駅や閑古鳥
牧場の名残の土手の蛇苺
牧場の月見の宴に招ばれけり
牧場の木々を飛び鳴き四十雀
牧場の柵しめりがち今朝の秋
牧場の柵の近くのつりがね草
牧場の桜紅葉に沿うて径
牧場はすなはち雨のクローバー
牧場は夜もあをしよ轡虫
牧場を獣医が走る九輪草
牧場を隔てゝ望む夏の山
牧場守そこらに出でて月を見る
牧神が吹いて牧場のもがり笛
狐火や牧場に残る原始林
玄上は失せて牧場の朧月
草笛に神津牧場境無し
草青む牧場まろき空のせて
落雷の光海に牧場一目かな
車前草の花のよごれや牧場口
遠浅の海の牧場に海牛が
郭公や牧場と牧場隣り合ひ
開拓牧場貂のうろつく夕間暮
雁のこと問はず語りに牧場守
雨蛙鳴いて牧場ひつそりと
雪もあり牧場を囲む春の山
雪解風牧場の国旗吹かれけり
雲は五月牧場の蟻が指を噛む
雲海にほとりせりける牧場かな
雲雀鳴きやみし牧場に夜のとばり
馬の仔は跳ね牛の仔は伏せ牧場
馬肥ゆる牧場に遊ぶ麓の子
駒の尾に春の風吹く牧場哉
いつ絶えし牧とも知らず鳴る添水
いなづまや嘶きあへる牧の馬
ぎしと鳴つて牧柵の釘耐う雪嶺風
この島の馬柵のいらざる牧開き
この沖にサハリンありと牧開く
さびた咲く牧夫の聖書傷ふかき
しんがりの仔牛しぐるる牧仕舞
じつとして雪をふらすや牧の駒
すいと来る紐に吊るせし牧日誌
すれ違ふ車もなくて牧閉す
すゞらんや牧とも見えぬ河口の洲
つば広き麦藁帽の牧婦来る
つやつやと肥えけり阿蘇の牧の馬
どしやぶりの牧の真中や敬老日
どの牛も塩負ひて着く牧開き
どの牛も遠目せり明日牧閉す
なほ青き牧を抱きて山眠る
はじまりし白樺落葉牧閉す
ひとつ岩晩秋の日の牧に見る
ひらきたる牧まだ霧のあそぶのみ
ほとゝぎす若き牧夫と湯に黙す
まつ先に風の一周牧開き
みちのくに春色おそし牧の草
むかし妻と牧谿の柿のごとをりし
もろこし食ぶ牧の木椅子に母とゐて
やせ馬を飛ばして東風の牧夫かな
ゆく雲に高嶺はさとし牧開
ゆすらうめ牧に雀宮とこそ
ゆふ牧の駒いごくときねむのはな
りんだうや牧鐘ひびく草千里
りんどうの花圃あり牧夫老い住めり
わだつみへ落込む牧や馬肥ゆる
カウベルの音を先立て牧下り
サバトしぐれてせんち牧しまむ三界かな
ハンモック牧の匂ひの風が来る
ポインセチア楽鳴りこもる牧夫寮
一人寝の蒲団たたみて牧閉す
一人寝の蒲団の見ゆる牧閉ざす
一本の槲に小鳥牧の小屋
一樹相涼しき牧をいゆくなり
一牧の枯葉オ・ヘンリー通り
一番に仔馬が駆けて牧開き
一頭にてこずりをりて牧じまひ
一頭の仔馬になごむ牧の日々
一頭ははや駆けゆけり牧開
七夕の牧を見おろす物見岩
万緑の一端を食む牧の牛
上牧の山に日はさしふぶきをり
下萌や雪嶺はろけき牧の柵
九重山噴火激しき牧閉す
乳搾り青年牧に若井汲む
五島牛にロザリオかけて牧を閉づ
人恋ひのコリーに牧の萌え遅き
仙台虫喰牧夫の家は応へなし
仮眠のごと牧の青垣雲隠る
仰向けに牧婦ら昼寒羞ぢらはず
伝牧渓伝何くれとお風入れ
兆す雷牧神足あと爪割けて
先導に二度山の牛牧びらき
兎狩すみたる牧の扉を閉めて
八千草を食み風を食む牧の馬
六月の海霧蕭々と牧泊り
冬うらら牧の馬へも声かけて
冬山にうちひらきあり牧の木戸
冬旱尾根の草原牧のあと
冬野かへる群羊に牧夫ぬきん出て
冬青草緬羊牧に放ちけり
凌霄花墓石を庭に牧の家
初夢や牧牛を追ふ若きわれ
初暦ひらく牧神笛を吹く
初秋は雲食べながら牧の牛
初蝶や丸太打ちこむ牧の門
初詣牧の馬魂碑にも廻る
初霰たばしる牧を閉ぢにけり
別れゆく牛啼き交し牧閉す
北壁は墓標か勿れ牧の百合
十一や牧の昼餉は樹に寄りて
十勝野や幾牧かけて朝の虹
千草実に牧羊影を濃くしけり
双眼に牧をあまさず南風吹けり
吾亦紅もて転牧の牛追へり
吾妻山花野の牧は柵結はず
啄木鳥の音わたり来る牧広し
啄木鳥や落葉をいそぐ牧の木々
啓蟄やまだ影もたぬ牧の木々
四股を踏み高天ヶ原の牧開く
地下足袋を脱ぐ涼しさや牧の小屋
地平線一引く蝦夷の牧びらき
夏の蝶牧の仔牛の太り初む
夏茱萸の落つるがまゝや牧夫住む
夕づゝに牧夫の酔歌牧びらき
夕富士に預けて牧を閉しけり
夕立つや帰山を撒きし迎へ砂
夕立や牧の仔馬の濡れまさり
夜濯ぎのシャツに近寄る牧の馬
大枯野牧牛をればみどりあり
大牧の温泉へ日帰りの船遊び
大瑠璃やまだ濡色の牧の空
大瑠璃や羊歯に細りし牧の道
天道虫牧羊神の忘れもの
奥の嶺に鷹が牧閉ざす
奥牧の広さはかられず天の川
奥阿蘇の牧駆けぬけし大夕立
女佐比売のふところ牧の野菊晴
女生徒の麦笛そろふ牧の道
妊牛の一頭はやき牧がへり
妹のせて牧の起伏の橇遊び
子牛撥ね陽に輝きて牧開く
子羊の額ふくれも牧うらゝ
安豊といふ馬を駆る牧の秋
安達太良とその空残し牧閉す
客繁き牧守妻の夏痩ぞ
家の名を思ひ出すまで牧閉ざす
対岸の牧方の灯や今日の月
小沼の牧閉ぢて汀の氷りけり
尻押して牛を乗せたり牧終ひ
尾根道は牧柵沿ひに草萌えて
山刀伐の鷹来て舞へる牧開き
山桜牧をつくろふ鎚の音
山焼に始まる阿蘇の牧仕事
岩壁尽くるところ牧柵夏ならひ
岩手富士くつきり晴れて牧閉す
岳はみな雲の中なる牧びらき
嶽かけて牧堤の環や樺紅葉
帽胸に牧夫眠れりライラック
干秣に味つけ土を牧小春
干草の夜も匂へり牧泊り
干草の敷きのみどりに牧犬の仔
御嶽の裾まで晴れて牧開く
御幸待つ十勝の国の牧の秋
慈悲心鳥夕霧牧をひたしくる
慈悲心鳥牧の日の出をうながせる
手毬唄牧も雪降るころならむ
抜けかゝる杭そのまゝに牧閉ざす
捕虫網ふる子に馴れて牧の馬
掃除好きなる牧夫らや馬肥ゆる
揚雲雀牧の納戸に草積まれ
揺れやまぬ夜干のシャツに牧の馬
搬送の轍を深く牧閉す
放牛の牧やカムイの清水引き
斑雪野や産着干さるる牧夫寮
新月に牧笛を吹くわらべかな
新樹かげ濃き一本に牧広く
新涼の牛糞親し熔岩の牧
新秋の遠見に白き牧の柵
日が差して春竜胆の牧となる
日高嶺の雪のまぶしき牧開き
日高野の牧にはじまる大雪解
早祷を了へし牧夫に初つばめ
易易と霧におぼるる山の牧
星合や峠へだてて牧ふたつ
星合や牧柵抜けて夜遊びへ
星飛びしあと大いなる牧の闇
春あらし牧の木群れをわたりゆく
春の牛乳おはよう牧の雪嶺よ
春の雲牧牛跳ねてとぶもあり
春りんどう光と憩ひ牧に満つ
春曉や牧に盛らるる牛の塩
春泥の靴揃へあり牧の弥撒
春闌けし牧をいだけど雪の嶺
春風や榛名の山の牛の牧
昼の虫牧夫無聊の腕を組む
曇りても那須岳まぶし牧開き
曳かれゆく牛の一声牧閉ざす
月山の抱く大牧閉ぢにけり
朝ぎりや紫動く牧の牛
朝ざくら牧へ出でゆく牛の伸び
朝霧に寄り添ふ牛や牧びらき
末枯や北指す牧の風向器
末黒野や間のび声なる牧の牛
杖挙げて牧の緑を司る
枯野来し人を喜び牧の犬
柄長鳴き牧のポストが賀状まつ
桃あからむ夕かげ牧にゆたかなり
梅雨に倦むごと牧牛の反芻す
梅雨荒れの俄か流れや牧のみち
梅雨霧にまつげ濡らして牧の牛
楡ひかり木かげに牧夫老いにける
楡樹氷落葉松樹氷牧夫住み
樗さく牧の初蝉かなでけり
樹々遠く飛び交う鳥や牧閉ざす
樺に張る日除や集ふ牧の牛
樺咲いて牧夫の村は四五戸のみ
橙を飾りて牧の石牛に
機翼下げ牧を青田をかたぶけし
橿鳥や拓きし牧の切株に
檀の実牧の扉にひかり充ち
櫨取りを蹴て牧馬のかけそれし
櫨紅葉牧のあめ牛みごもれる
水あればあひる放ちて牧の夏
氷壁が雲とたたかふ牧の空
流氷来つひに俯向き牧の馬
海霧残る牧の沢辺の親仔馬
海鞘噛んで牧に畑に雨が降る
火の山は雲の上なる牧開き
熊穴を出づるがはじめ牧之の書
爽籟や火の山にして牧展く
牛うまれ牧をいろどる金銀花
牛と寝る仔犬や牧を閉すまへ
牛は今乳しぼらるゝ牧の秋
牛減りて十一月の牧となる
牛百頭ポンポンダリヤ咲ける牧
牛蝿のゐてこの辺はすでに牧
牛見えぬ牧の広さや雲の峰
牛追ひのときに癇性牧帰り
牝牛鳴けば牡牛鳴く牧長閑かな
牧かこむ鉄条網も霧氷かな
牧がしら雪来しを裾野蜻蛉かな
牧がすみ西うちはれて猟期畢ふ
牧がへり隠岐牛海へ声放つ
牧こゝを広げんと思ふ秋の山
牧と言ふ向うは大雨柘榴酸し
牧にして郭公のかつ翔くるあり
牧にひぐらし帰り遅るる牛二頭
牧に咲く嫁菜よさらば岳に雪
牧に満つ平安百合は妻が手に
牧に積む塩叺より雀の子
牧に降る雨は明るし蝸牛
牧に飲む牛の乳濃し草の花
牧の内沢あり仔馬跳ね遊び
牧の娘は馬に横乗り林檎かむ
牧の子は藁のにほひや入学す
牧の山羊新樹の影を得つつあり
牧の山羊日傘の影を慕ひよる
牧の径老鴬ないて果もなし
牧の朝昨日生れし仔馬見に
牧の木に彼方の木々に囀れり
牧の果太平洋や馬肥ゆる
牧の牛濡れて春星満つるかな
牧の牛集めて霧を集めけり
牧の犬むつみ来るまゝ雪嶺ヘ
牧の端に小振りも小振り蝦夷黄菅
牧の花きちがひ茄子に雨乾く
牧の荒駒尾長く垂りぬ秋草に
牧の道小鳥引きたる羽か拾ふ
牧の馬にあわないで
牧の馬みな歩きをる朝曇
牧の馬洗ふ高麗川秋高し
牧の馬肥えにけり早も雪や来ん
牧の駒あやめの沼の岸に来る
牧はまだ春虹の色整はず
牧はるか屯す馬に雲の峰
牧は朝風セーター白き牧夫出て
牧びらき焼印こばむ仔牛ゐて
牧びらき牛の谺のために嶺
牧へとぶ木の葉にあらぬ小禽かな
牧へ行く仔馬が瀧に打たれ過ぐ
牧をゆく水ささやきつ鳥かぶと
牧を閉ぢ遠山神となりにけり
牧を閉づ火山灰に汚れし鞍を干し
牧下りて踊りその夜に帰りけり
牧下りる牛越冬の牛に啼く
牧五月草に轍のかすかなる
牧入りの牛を讃へてかやくぐり
牧入りの牛を迎ふる囀か
牧原にうまし水湧きほとゝぎす
牧原の名は月寒ひばり鳴く
牧原やほの三日月の楡にかゝる
牧夫やや母へきつき語母子馬
牧夫らの鋤鍬ながしほととぎす
牧夫われキヤンプの子等に物語
牧夫来れば牛皆動く野菊かな
牧婦織り帰燕すずろに鳴きにけり
牧守に牛は身寄りや天の川
牧守の夫婦雪掻き分れたり
牧守の女房が干せる真綿かな
牧守の好きな焼酎手土産に
牧守の雲海を踏み渡り来し
牧守の髭洩るる語の露けさよ
牧寒し長きしじまの大熊座
牧小屋を今日の宿とし天の川
牧小春一樹のもとに石仏
牧帰り頸に愛撫の平手打ち
牧方や蛍は過ぎて風涼し
牧昏みシャモニーの谷雷こもる
牧暮れて木木にいたゞく雪明り
牧枯れて光ゲ一線の日本海
牧枯れて秒音確と耳に応ふ
牧柵の影の全し葛の花
牧柵の白き一条青嶺より
牧柵の破れしままに夏雲雀
牧柵を越えてあまたの秋の蝶
牧牛にながめられたる狭霧かな
牧牛に澄む水溜り草千里
牧牛に雪解のながれいくすぢも
牧牛の帰路なり嶺を海霧下る
牧牛の幼き耳に蝿生れ
牧牛の真昼ちらばり山躑躅
牧牛の瞳に花野ありにけり
牧牛の群る高原や皐月富士
牧牛の群れて草食む野菊晴れ
牧牛の背よりきちきちばつたかな
牧牛は遥かに散りて草茂る
牧牛を帰して山の眠りけり
牧牛を見ぬ秋風に岩照らふ
牧犬に羊渦なすいわし雲
牧犬の白夜を起きて仔をまもる
牧番の麓むけたる雪達磨
牧番屋果して夏炉燃えてゐし
牧神が吹いて牧場のもがり笛
牧神の午後はまどろむ羊雲
牧神の頭突きを春といふべけれ
牧神の髭白しと栗鼠は巣にひそむ
牧神を迎ふ角笛屋根わたり
牧笛の陂下るや花茨
牧閉す天馬座いよいよ瞭かに
牧閉す日の日すがらを雲とあり
牧閉ぢしあと高原の雲低く
牧閉ぢし丘に荒星降りやまず
牧閉ぢし日の八ケ岳輝かず
牧閉ぢてなほ饗宴の木の実たち
牧閉ぢて更には霧の閉ざしたる
牧閉ぢて炭馬かよふ径のこる
牧閉ぢて紫こぼす山葡萄
牧閉ぢて道まで閉ぢてしまひけり
牧閉ぢて野は野に還る風吹けり
牧閉ぢて風ぐせの山毛欅みな斜め
牧閉ぢのたてがみ黒き馬に遇ふ
牧閉ぢの酔泣きのひと泣かしおく
牧閉づる九重山系火を噴かず
牧閉づる日程報す馬駈けて
牧閉づる牛にひと声啼かれけり
牧閉づる阿蘇竜胆の野に咲けば
牧閉づ日手触れむばかり八ケ岳
牧開きホイホイと牛運び込む
牧開き四方の山々退けて
牧開き壊れし柵を補修して
牧開き日輪みどりにまはりそめ
牧開き阿蘇には白き雲流る
牧開くとて持ち馬のありつたけ
牧開く天賦自然の草の上
牧開く槌音雲に響かせて
牧開く馬は小さきほどはねて
牧開セメントのつく手を柵に
牧開汚れ鏡に笑顔ある
牧開泉声馬をみちびける
牧開白樺花を了りけり
牧霞西うちはれて猟期畢ふ
牧駈けし犬の荒息涼新た
牧黄なり悲愁の秋日岩にふり
犬馴らす牧の猟夫の肥後訛
狼のまつりか狂ふ牧の駒
瓢箪や青葉につなぐ牧の駒
甲斐駒の匂ひ立つなり牧びらき
登校の箱橇曳かせ牧の犬
白南風の牧のミルクは立つて飲む
白樺の牧の柵より花野かな
県召牧に逸足選びけり
真夜を立つ牧夫に霧の牧ひそか
石楠花や雨に削がれし牧の道
秋天をおろして牧柵をめぐらせり
秋晴の羊に遠き牧夫かな
秋晴や電車に吼えて牧の牛
秋暑し湖の汀に牧の鶏
科落葉舞ひ閉牧の嶽に雪
種馬のひとり草喰めり牧の秋
竜胆や馬柵に掛け干す牧夫服
笹鳴のひとこゑありぬ那須の牧
素朴赤城の風の牧なりすでに閉づ
紫苑高し牧之の墓の丈よりも
緬羊も走れば迅し東風の牧
群鶸の小旋風立てり牧閉ぢて
聖水盤牧夫の手擦れありて冷ゆ
肩ひろき牧夫と並ぶ聖夜弥撒
胡弓とる牧婦火によるついりかな
花アカシア牧の牛呼ぶ鐘ひゞき
花合歓や雨にかたまる牧の馬
花屑の水を飲みほす牧の馬
苜蓿の首飾りして牧夫かな
若草に牧夫も牛も染まりけり
若駒にまだとびとびの牧の草
若駒の駆け合ふカムイ嶺の牧に
草の花くぐる瀬早し牧の末
草笛に聞耳たてし牧の牛
草笛や少年牧の戸にもたれ
草萌や吾が牧となる杭を打つ
草長けて雲になびけり牧開き
荒筵積みあげ牧の冬仕度
荒馬の師走の牧の寒さ哉
菊亭のおとゞ牧馬を弾ず春の宵
萍の実をつけいそぐ山の牧
萱負せ牧より帰す牧の牛
落ちゆく日あつく牧犬らよこたはり
落葉松の色の溢るる牧開き
蒲公英やまだ鼻輪なき牧の牛
蒲公英や背中でゆらす牧の柵
薫風や草にしづめる牧の柵
藁干して牧の勤労感謝の日
蟆子生れ海の夕映牧に沁む
蟆子生れ牧の切株匂ふなり
見まはりの牧守沈みゆく花野
親に尾く牧の仔馬の霧がくれ
谺して雪嶺牧の子の相手
豚駈けて牧の陽炎汚れける
貸馬の馬具つくろへり牧閉す
赤岳の影尖り来て牧を閑づ
赤牛の火のごと阿蘇の牧の秋
走り梅雨太薪けむる牧の小屋
躑躅わけ親仔の馬が牧に来る
身に入むや湯気立つ牧の治療棟
転牧の牛の先導夏つばめ
軽鴨も草にまどろむ牧の昼
輪飾や乳はつて待つ牧の牛
迷ひ来てプールをのぞく牧の馬
遅れじと犬の駈け出し牧開き
道を得しわれも牧犬も雪まみれ
遠く啼く郭公もまた牧のうち
遠島や汐干にかける牧の駒
遠木立煙のごとし牧閉ざす
遠牧に青鳩鳴けばこたふあり
遡る柳葉魚に牧の空があり
邯鄲や呼名もたざる牧の犬
郭公は彼方の牧の彼方なる
郭公や残照牧を這ひのぼる
郭公や牧の朝餉の木のナイフ
郭公や高田大岳牧の上に
酒を売る牧之の生家つつじ燃ゆ
野あやめの花に離々たり牧の馬
野も牧も暮雲に沈む花さびた
野漆や牧の日差しに起伏あり
金鳳花群れて垣なき牧夫小屋
針金の切り口光る牧二月
鈴蘭の谷は牧守のみぞ知る
鈴蘭やまろき山頂牧をなす
鈴蘭を秘めたる森も牧の中
鏡なす湧き水ありて牧閉ざす
鐘長く鳴りぬ昼寝の牧夫らに
長閑さや牧牛富士の影も喰む
開牧の第一夜開け牛濡れ身
陸奥の牧東に開け春の海
隅作りゆく霧や牧の小屋々々に
隠岐あざみ潮の匂の牧展く
雁の声牧の大窪より起る
雉啼くや目覚の早き牧泊
雉子の雛つらなり走る牧びらき
雨あがる日高の牧や夏ひばり
雪の牧天から牛を連れてくる
雪崩えの馬柵結ひて待つ牧開き
雪嶺の天に牆なす牧びらき
雪折の桜を活けて牧ぐらし
雪折の牧柵に月のぼりけり
雪掻きて賀状を待てる牧夫あり
雲上に朝の牧澄む九輪草
雲影に山梨散るや牧びらき
雲脱ぎて待つや月山牧開き
雷や濡れ震ひ居る牧の馬
霧染めて焚きつぐ塵や牧仕舞
露すずし真黒の汽車牧をきる
露の牧羊群音もなく移り
青嵐牧の牛馬の相寄らず
青歯朶や後脚で立つ牧羊神の笛
青海が灼け牧柵に女囚消ゆ
青萩の童顔をさめ牧夫たり
韋駄天の雷に怯ゆる牧の牛
顔振つて落花を払ふ牧の牛
風渡る牧の扉の子かまきり
風谺するカルストの牧閉ざす
馬ねむく野菊の牧へかへりたし
馬の子に牧夫は父のごとをりし
馬冷す牧の中なる流れかな
馬放つ牧の中にも秋の山
馬肥ゆる牧を任地として住める
馬肥ゆる牧百町歩八ヶ岳の裾
高牧の雪解竪琴鳴るごとし
鯉幟サイロに立てて牧広し
鳥かぶと牧への道の雲と在り
鹽欲しがる牧牛がゐて夏木立
麦稈帽にかくるる牧夫の眼が見たし
麦稈帽鍔広にして牧婦なり
黄葉して真直ぐ立てり牧の木は
黍の芽の一夜にひと節牧晴るる
黒人の牧夫優しく馬肥ゆる
アイスクリームこんもり小岩井農場製
小鳥来る実験農場谷に池
花に彳ち農場の麺麭を喰ひちぎる
農場に大櫻あり春惜しむ
農場の春昼ひとり浴みしぬ
三河路にビニールハウス村なせり
大南瓜みなに叩かれ農業祭
大根に金賞つきて農業祭
生涯の農業技師や稲の花
秋晴を一所に集め農業祭
農業に定年はなし土匂ふ
農業を継ぐ決心の大根干す
農業機械が手をぶらさげて蕎麦の花
農業祭入賞葉牡丹みな予約
農業祭妻の大根賞取れり
馬酔木咲く泥の付かざる農業士
アトリエと道をへだてゝ朴落葉
アトリエに未完の裸婦や麦の秋
アトリエに父在るごとく柊挿す
アトリエに赤は目立たずシクラメン
アトリエのひゞ割れ硝子緑光
アトリエのソファに眠る孕み猫
アトリエの夜なべの灯煌煌と
アトリエの彫塑ばかりや扇風機
アトリエの木椅子に午後の枯深し
アトリエの灯を消して去る手に椿
アトリエの父は裸身に雲を描く
アトリエの秋果のひとつ食はれけり
アトリエの色の中なる煖炉の火
アトリエの高き天窓雹叩く
アトリエは吾の別宅煖炉燃ゆ
アトリエは白き喪にあり春嵐
アトリエを包む潮騒花ダチュラ
アトリエ建てむ妻に悲しき都會の瞳
文学座アトリエの古り冬灯
楽陽花やアトリエにひと入らしめず
淋しくてともすアトリエ寒苦鳥
生前のままのアトリエ冬隣
百号の裸婦アトリエに蝉しぐれ
花冷や産後の猫がアトリエに
茶の花やアトリエ占むる一家族
障子貼り替へむこころのアトリエも
雉笛やアトリエの窓あいてゐる
雑草の花アトリエに塑像成り
あぶな絵にいやにちひさき螢籠
あぶな絵のひかめつ面や秋鰹
あぶな絵のやうな二階や揚花火
あぶな絵の女の噛みし洗ひ髪
あぶな絵の女目つむる無月かな
あぶな絵の紙魚に好みのありにけり
あぶな絵の緋のいろ
あぶな絵の透明に水引きはじむ
あぶな絵の鎖骨のくらみ虎落笛
あぶな絵もまじり医の土用干
あぶな絵をなりはひにして歌麿忌
あぶな絵を脇より覗く春の暮
猫の子が踏むあぶな絵の畳皺
冬ゆつくり子の油絵の赤厚く
塩鮭を吊るに油絵の構図なり
描きかけの油絵ありぬ避暑の宿
描きかけの油絵匂ふ夜長かな
油絵に昭和の暗さ夏館
油絵のたゞ青きのみ冬の雨
油絵のピエロ跳ねだす小春かな
油絵の乾きて軽し柿若葉
油絵の奥フランスの春ならむ
油絵の波に呑まれてゐる藪蚊
油絵の遠目にくもる五月かな
油絵を抜け出てきたりアボカドは
油絵を描きし如く夏終る
秋の陽の差込む油絵の鰈
稲田描く油絵の具を盛り上げて
雪晴の部屋に椿の油絵よ
稲田描く油絵の具を盛り上げて
イーゼルの裾に縋りし草紅葉
イーゼルに鏡置かれて夜の長き
亡き夫人智恵子の色絵冬爛漫
*さいかちの莢の色付く北の風
たまさかに色付く物や柚の落葉
再建の尼へ色付く菫なり
大寒の孔雀兆して色付くか
畦に添う稲穂の特に色付きぬ
色付きて鬼灯の数現れぬ
色付や豆腐に落て薄紅葉
やゝ寒き雲の彩る湖上哉
ベゴニヤの鉢の彩り揃へけり
円窓の外彩りの影紅葉
合歓咲けりプルーラインを彩りぬ
名を伏せて風を彩る鳥兜
向日葵をつよく彩る色は黒
埋立地冬日は己彩り射す
夕刊のコラム彩る蕗の薹
小春日の花圃を彩る花として
彩りし犬の画姉妹夜学かな
彩りに海のもの添へ川床料理
梅雨の茸地を彩りてゐたらずや
梵天を競ふ彩り雪に映ゆ
歇む雪を彩る嗄れし汽笛ながら
水の縁人彩りぬ花より濃く
渋川や夏を彩る臍まつり
疱瘡神佐保の小橋を彩りて
立冬の川を彩る胡桃の黄
色鳥を彩るは樹々かも知れず
花みちて濁世をすこし彩りし
菊枯れて机辺彩るものもなし
蓮枯るる風を彩りフォークダンス
藪柑子の彩る落葉衾かな
重箱の彩りにある淑気かな
開店の二月彩り理容灯
雪の木を彩り鶲遊びけり
雲いろいろ彩る二百十日かな
青に丹に彩る春の蘭若かな
鳥一羽野分彩るごとく来て
鴨足草山神蟹を彩りぬ
花冷や印象派展モネの青
印象派の日傘の女になりすます
菖蒲田に来て赤蜻蛉印象派
星を点じ天道虫は印象派
はくれんが散り浮世絵に長煙管
ぽつぺんを吹いて浮世絵いろの空
ぽつぺんを吹けば浮世絵時代見え
山眠る浮世絵いろの夕焼に
戸袋に褪せし浮世絵鳥渡る
春の夜や浮世絵の虚と実の間
松過ぎの浮世絵展が賑ひぬ
洛中やふぐり落としの浮世絵師
浮世絵に*ゆきといふ字の霏々とあり
浮世絵に年酒の酔の発しけり
浮世絵に蝿とまりゐる川料理
浮世絵のくろき漢の寝釈迦かな
浮世絵のやうな九月の南部富士
浮世絵の一色とんで花菖蒲
浮世絵の世へいざなへる御輿かな
浮世絵の女と遊ぶ子の日草
浮世絵の女の絵馬や生姜市
浮世絵の女は長き髪洗ふ
浮世絵の女ビードロ吹く賀状
浮世絵の女房顔に更衣
浮世絵の女涼しくふり向ける
浮世絵の女肌脱ぐ寝所かな
浮世絵の女虫売軽げの荷
浮世絵の浪と立浪草の浪
浮世絵の絹地ぬけくる朧月
浮世絵の肌透きとおる寒卵
浮世絵の色に仕上がり寒茜
浮世絵の花火とおもひくらべをり
浮世絵を出よ冷し酒注ぎに来よ
浮世絵を抜けてうつつや暮春の鹿
蛇穴を出づ浮世絵の摺り手順
豊国忌浮世絵の世ぞなつかしき
革ジャンの裏は浮世絵パリ空港
写し絵の姉妹一つ団扇持つ
写し絵や行く春の夜の蝋燭火
写絵の巴里を跨ぐきりぎりす
かげろうに誘われ天井絵画見る
フランス絵画両手に余り寒の入り
セザンヌの絵画と同じ秋果買ふ
枯蓮の水面のほこり絵画館
あたたかく姑の描く絵の花ばかり
あらせいとう佛足石に肴の絵
あをあをとあかあかと絵や種袋
いくさ絵に細く描かれし春の川
いくつかは貼絵の遠さ浮寝鳥
いわし雲難解のまゝ子の絵売る
うすうすと山ありて絵も藤のころ
うの花や屋根に鶏啼く絵の模様
うるし絵の合せ鏡や一葉忌
おなじ絵の売れのこりゐる走馬燈
おもひきや絵讃の梅を冬の宿
お絵像にめをと守宮や打ちむかひ
かくし絵にワーグマン忌の木瓜の枝
かささぎの橋や絵入の百人一首
かはほりや絵の間みめぐる人の上
かまくらのまろきひかりの絵らふそく
から絵もやうつすがんぴの花の色
きりぎりす鬼女伝説を絵にて説き
くらべ合ふ帷子の絵や禿どち
こども等に涅槃の絵解きはじまりぬ
この画展巴里の絵多し年惜しむ
こもり居の梅のたよりの絵そらごと
ころんだを絵に見て久し鍋祭
さはやかや絵の中に添ふ白鸚鵡
さびしいと言へば絵になる秋の暮
ざれ絵ざつと書いてある燈籠かな
してみたくなきもの浄土絵双六
その足の絵を踏みたればどよめきぬ
たけのこや稚き時の絵のすさび
たはれめの彦根屏風の絵にも萩
たはれめの舟も絵伝に法然忌
たまごやきやまと絵に木のありにけり
たましいであるいちまい絵である川岸
ちぎり絵に濤音ありぬ夏つばめ
ちぎり絵の桜におよぶ春日差し
ちぎり絵は粋な明治の初暦
ちぎり絵や粧ふ山の色貼りて
ちちははの愉しき山を絵双六
つばくろは鏝絵の速さ内子町
とゞまればまことまづき絵走馬灯
どこやらがしかと抱一絵雛かな
どの絵にも太陽ありて進級す
なき母の絵双紙のこる近松忌
なつめ盛る古き藍絵のよき小鉢
ねぶた絵の女がひとり雪卸す
ねぷた絵の昼は眼を暗うして
ねぷた絵の義経抱かれまだ赤子
はたごやに下手の絵を張る暑哉
ははそはの習はれし絵の屏風かな
ひと振りの賽に破産や絵双六
ふるさとの山の姿や絵双六
ぶりぶりや剥げ残る絵の尉と姥
ほきと折る秋の膠や絵の支度
ぼうたんを活けて織部の絵付小屋
ぼろ市の裸婦の絵の美しすぎる
ぽつぺんを吹き絵にならぬ女かな
また冬がくるぞムンクの絵の淵に
まつ青な絵に小綬鶏をとじこめぬ
みやこが見える白い絵の咲くところから
むかし菓子といふは固きよ絵双六
めくばせはピカソの絵より今朝の秋
もどきの絵一枚敷きて獏枕
ものの芽の渦巻き上がりゴッホの絵
ゆくとしや老を誉めたる小町の絵
らふそくの花絵花色春待てり
ろうそくの絵看板より雪卸す
エミリー・カーの絵がある
オツペケペー絵を抜け出でよ正夫の忌
オホーツクの流氷ちぎり絵の如く
ガラス絵の如き寒月母の忌に
ガラス絵の空は五月かまこと青
ガラス絵を買ふ水無月の蚤の市
クマゲラも梟の子もねぷた絵に
クリスマス個展おのれの絵で飾る
クローバに腹這うて絵をかける人
コウ子忌や花鳥浮きでる絵天井
ゴホの絵も小さき庭も明易し
シャツの絵の歪める時計巴里祭
シーボルト挿し絵に遺す鯨曳
ストーブにあさましき絵のかゝりけり
タヒチの絵かけてハイビスカス咲かせ
ダリの絵の時計脈打つ炎天下
ダリの絵を見てきて栗のいが落す
デコ絵付け関羽の髭のさはやかに
ドガの絵を抜け来踊子炉へ屈む
バケツの絵蝶よ蜻蛉よ磯遊
バンガロー絵茣蓙一枚敷けるのみ
ピカソの絵ここぞ秋暑につきあたり
ピカソの絵片目で桜見て居りぬ
ピカソ絵に似し夏痩の乳を吸へ
フェルメールの絵の中に絵や遊蝶花
マッチの絵五十三次初時雨
ミロの絵に廻れる火輪涼しかり
ミロの絵をわが絵とかへし壁の秋
ムンクの絵観し目も耳も青嵐
モネの絵に電話が鳴つて春の雪
モネの絵の池畔を散歩夢はじめ
モネの絵も海も模糊たり花曇
ユトリロの絵に似し路地に春惜しむ
ルオーの絵一枚ほしき春炉の上
ルオーの絵見しよりオーバー重たしや
ルオーの絵貼る百姓家薬喰
一冊の江戸絵帖あり黴の宿
一幅の絵雛の春や草の宿
一枚の絵のうたひ出す小春かな
一番に上りてさみし絵双六
一遍の聖絵煤け初蝶来
三が出て伊勢に三泊り絵双六
三春発つて江戸を上がりの絵双六
三道を進むや軍の絵双六
上方は近くて遠し絵双六
上段に土筆の挿し絵四月号
不覚なる酔や団扇に河童の絵
中指の絵の裸婦はみな花疲れ
九絵釣は三日も坊主避寒宿
亀鳴くと思へり絵そらごとばかり
二人子にぬり絵天国梅雨永し
二月絵を見にゆく旅の鴎かな
亡き夫人智恵子の色絵冬爛漫
人の世に振出しありぬ絵双六
人の世の様描かれて絵双六
人参の絵がぬれてゐる種袋
人獣大きさ違ふ涅槃図絵
今は誰も触れず文篋の絵双六
伊都や奴や倭や狗奴国や絵双六
会議室海の絵も寂び九月尽
佇みて絵になるをとこ夕桜
佐保姫のちぎり絵ならむ野山かな
何遍も生まれ変つて絵双六
修正会や歴代の絵像掛け並ぶ
個展の絵到底難解初つばめ
傷の絵の叫びよ紅葉散り急ぐ
先急ぎしてをり老いの絵双六
八幅の太子絵伝や堂涼し
公魚やローランサンの絵の女
六ツ目出て宇宙へ行けり絵双六
六波羅に餓鬼道の絵や迎へ鐘
六道絵見て来て夜の桃すする
六郎の絵の中の子もみかん剥く
内海や貼り絵の如き蜜柑山
冬ざれや惑星の絵を地にひさぎ
冬に死す青絵の皿に舟と波
冬壁の爪画きのの絵に陽がとゞく
冬枯や絵の島山の貝屏風
冷房のかつ雪嶺の絵の前に
冷房やマチスてふ絵の真偽知らず
凍ゆるむ街デルボーの絵を運ぶ
凍蝶に絵の色のごと海の色
凧の絵にルオーのキリスト描かばや
凧の絵の蓑着し亀のたたへられ
凧の絵の貴妃が見おろす紫禁城
凧の絵も何かあはれや春立てる
分限者の己が絵像や更衣
切凧の絵をうつぶせに麦の上
初刷に立ち迫るかな富士の絵は
初午の雪洞の絵の狐さま
初場所のテレビ絵ばかり看とる夜
初明り街は未完の絵のごとし
初暖炉聖晩餐の絵の下に
初暦をはりの絵まで捲って見
初盆や厠にも吊る絵提灯
初袷やせて美しとは絵そらごと
初雪や妓に借りし絵入傘
助炭の絵どうやら田舎源氏らし
動きある絵となり波に千鳥翔ぶ
北枕真北に涅槃図絵垂らす
十卓を使ひ九絵鍋はじめたり
十牛の団扇の絵なりとりて見る
南蛮の絵に垂れ下る蓮の首
南蛮絵梅雨晴れたれば歩く様
卯の花や屋根に鶏啼く絵の模様
印籠に野遊の絵のふくれをり
双六の絵にも越ゆべき幾山河
受験生嬉々と絵雛をかへり見ず
古き世の絵双六見て年忘れ
古き絵に明るき秋の灯をともす
古りし絵に象の哭きをる青あらし
古暦絵を遊さまに屑箱に
合戦の絵詞となる春嵐
名所絵の明治風景花菖蒲
名所絵をつぎ合せたる紙衣かな
君の絵の裸木の奥通りたり
君も絵もおなし姿やおぼろ月
君絵を画け我句を書かん白扇
君追うて越せぬ大井や絵双六
吹絵籠空しらみけり霧の窓
吾子の絵の家より大きチューリップ
吾子病みて母衣蚊帳の絵を鯉と知れり
吾子等はやくはしきかなや絵双六
唐子の絵踊りだしたる春火鉢
噴水の広場を通り絵を運ぶ
囀や血の硝子絵の昇天図
四十雀絵より小さく来たりけり
四明忌やその絵すさびの初松魚
地蔵絵の肩の流れに梅雨おぼゆ
堂朧絵を出て歩く鳥けもの
堂涼し飛天の舞へる絵天井
墨の絵となりゆく松や原爆忌
壁の絵の濤みどりたり春嵐
壁の絵の裏しんしんと雪の路地
壁の絵はいまだに斜め蚯蚓鳴く
壁の絵は鳥か獣か末枯るる
壁の貼絵は天皇一家芽独活煮る
壁爐焚くシヤガールの絵を煙らして
売れぬ絵を路傍にひろげ啄木忌
夏帽の大阪訛りより買ふ絵
夏痩せへ甥の絵文の蛸坊主
夏見舞ちぎり絵に句を添書に
夏近く良平の絵の佐渡航路
夏風邪や津軽凧絵に見下され
夏風邪や津軽凧絵をながめつつ
夏馬の遅行我を絵に見る心かな
夏馬ぼくぼく我を絵に見る茂り哉
多分画家の血の赤すこし絵の隅に
夜涼や露置く萩の絵帷子
夜長し家号鰻の絵の添ひて
夢殿の絵脳裡を去らずしぐれけり
夢殿の風鎮かけし絵雛かな
大きな絵抱へて美校卒業す
大凧に触れ傾ける絵凧かな
大旱や滝の絵かけし百姓家
大道絵奔馬を白く初観音
天使絵のクリスマスカードはフィンランド
天高しシャガールの絵の青よりも
奈良町の駄菓子屋に吊る絵凧かな
女房の江戸絵顔なり種物屋
女絵の扇やたたむ竹簾
好きな絵の売れずにあれば草紅葉
姥百合や獣身美女の絵の下に
子が描く遊山の絵地図ねこじやらし
子の描きし絵の如し黄の月上る
子の描く絵いつも耳なし春遠し
子を妊み林檎を黒く塗る絵描
子燕や絵らふそく売早仕舞ひ
子等の絵に真赤な太陽吹雪の街
子蜥蜴やマチスの赤き絵にも這へ
学僧のふるさと遠し絵蓬莱
学校の上に絵凧が唸りけり
孫と行く世界一周絵双六
孫の絵のいつまでピカソ木々芽吹く
學校の上に絵凧が唸りけり
宝舟つたなき絵にてなつかしき
家遠く北斎の絵の雁渡る
富士山の絵を描き覚え入学す
寒喰の九絵一頭といふべかり
寒木を挽く音ルオーの絵にある音
寒林は騙し絵夫を見失ふ
寒紅の貝合せめく絵なりけり
寬沓と重き秋思や未完の絵
小鳥来る描きかけの絵が日に反りて
少女の絵みな鳥となる昼朧
少年我へお下髪垂れきし絵双六
尼寺にかかる鯰絵霾晦
山の晴たしかめ一気に絵鯉染め
山の晴確かめ一気に絵鯉染め
山の湯の宿のロビーに絵蓬
山寺に絵像かけたり業平忌
山火事のごとくに描いては捨てる絵よ
山腹の遠花菜畑ちぎり絵めく
島彼方積荷の凧が絵を累ね
崑の絵を掛け春日の一茶房
巴里の絵のここに冴え返り並ぶあはれ
干支の絵の透きし懐紙の椿餅
年寄りてたのしみ顔や絵双六
幼子の絵文をのぞく雪女郎
広重の絵のもぐさ屋に燕来る
廃村の絵のごと枯れていたりけり
弾初の始まるまでの絵雙六
待春のシャガールの絵に飛ぶブーケ
御ン経や見返しの絵の鳥雲に
御僧の絵解きに侍る雨月かな
御風入れ絵伝六幅かけ流し
心ゆく絵紙屏風や冬籠
忍び泣く子に今雛は絵そらごと
忘れゐしものの一つの絵双六
思えば絵の子とおい郡上の酒屋の子
思ひきや絵凧あげたる離れ島
怪獣に撃たれ振出し絵双六
悪相の九絵食いつくす年忘れ
懐炉あつしレンブラントの絵を過ぎて
戦ひの絵なれば暗し走馬灯
戦絵の源氏平氏やきせる草
戻り来て瀬戸の夏海絵の如し
打敷も厨子も濤の絵鑑真忌
担ぎたる絵凧に磯の波あがる
振り出しに戻るこはさの絵双六
振り出しへ戻りて遠し絵双六
捨て団扇拾ひて見馴れたる絵を見
摩り切れしところが上がり絵双六
支那街や絵絹売る家の海棠花
散りざまの絵ごころ誘ふ薔薇四五片
斑雪嶺を仰ぎ応挙の絵を見たり
新涼や千切絵に貼る流れ雲
旅に見る初蝶天女図絵膝に
日展をふたたび訪ひて恋ふ絵あり
日本のちちははあそぶ絵双六
日脚伸ぶ皿一枚の絵付ほど
日脚神ぶ蝋石の絵を見てゐる子
早き日没鳩の絵に唾を吐き
旱梅雨剥げし絵に生く裸婦の唇
明易き空也絵伝のされかうべ
昔より同じ絵模様千歳飴
昔絵の春や弁慶藤娘
星ぽつり団扇の絵風に消されて
映し絵のきつねを鳴かす無月かな
春の日や病牀にして絵の稽古
春の月砂絵の童らにさしそめぬ
春の絵の枠とも野行く汽車の窓
春めくやまんばうの絵の防波堤
春めくや花絵揃へし食器棚
春昼の絵の女足組んでをり
春昼や絵も無き皿の患者食
春暖炉マチスの赤き絵が眠し
春曉や夢の尾消ゆる屏風の絵
春泥や絵は豊国に陥りて
春空し宮居の疇音杉戸の絵
春近し赤蕪の絵をたまはりて
春陰や生きてゐる絵を描くといふ
春雨や傘さして見る絵草紙屋
春雨や堂に籠りの絵天井
春驟雨包みて帰る遺作の絵
昼は灯が消えてたたずむ絵らふそく
昼寝より覚めて魚の絵を描く子
晩夏憂しシヤガールの絵の隅に鳥
晩涼や切子グラスの葡萄の絵
暖房や花の絵ばかりなる画廊
暗き絵が若き証しの夏多彩
暮るゝ間を絵絹に染ん露の萩
暮雪しづかに壁の刺繍絵古びたり
月さすや癖三酔の絵の糸瓜
月曜のルソーの絵より水ぬるむ
朝寝して買はざりし絵の青空を
朝顔の実となり子等の絵も淋し
朝顔や猫来て坐る絵のやうに
木の葉時雨か北斎の絵天井
杉戸の絵雪にあかるし目鼻失せ
杉戸絵に京の底冷え極まりぬ
杉戸絵の冨嶽はくらし春障子
松園の絵雛更けゆく温め鮓
板戸の絵失せたるに立ち春惜む
板戸絵の鶏の鋭爪やむかご飯
枇杷の疵新古ながらに烙絵色
枯草の三脚の絵に戻つてくる
枯蓮の水面のほこり絵面館
枯野の絵の父の工場売られたり
柚子湯して「石版東京図絵」と決む
柱絵は富士見西行風薫る
柳花村扇の絵なるありにけり
柳萌ゆ絵を抜け出でて水流れ
梅林に昔を偲ぶ摂津図絵
梅見月百号の絵を担ぎゆく
梅雨灯す女の好きな絵らふそく
棗盛る古き藍絵のよき小鉢
椅子の絵の下に椅子あり夏館
横坐りして女らの絵茣蓙かな
橋渡り廓を抜けて絵双六
歌人の絵所訪へり春の宵
歌留多の絵小町は老いずありにけり
歌舞伎絵の血糊凝まる夏灯
死が上り一休禅師の絵双六
死にかけた子が黒鬼の絵を画いた
母召され残る手毬と夢二の絵
毛氈と絵反古の間捨て扇
民話の老婆あふれる祭
水の絵に鮎の句をかく扇かな
水底に隠し絵ひかる蜷の道
水涸れて思ひもかけぬ絵にあひぬ
水盤や藍絵の藍がぬれまさる
水音のほしくなる絵よクリスマス
汗拭ひクマの絵のもの見当らず
江戸名所図絵さながらの川開き
江戸図絵に残る墨田の桜餅
江戸絵人皆美しき四葩かな
泣いてゐるやうな子供の秋の絵に
浮浪児が土に描く絵を消す野分
海の絵の蒼きに夕日颱風過
海の色寒むざむ塗つてしまつた絵を抱へる
海は扇松島は其絵なりけり
海古き淡路に雨の絵を焼けり
海狂ふ冬も終りの絵らふそく
海贏打つや虎蔵来るの絵看板
涅槃図の絵解きなかなか蛇に来ず
涅槃図の絵解の竿も伝はりぬ
淑気かな喪章のかかる富士の絵も
淑気満つ源氏嬰児いだく絵も
深草に絵行燈にじむ祭かな
清方のほゝづきの絵のほゝづき鳴る
溜息を誘ふ鏡絵九紋竜
滝の絵にしばしの端坐群青忌
濁酒仙人仙女板戸絵に
濃娘等の疲れ欠伸や絵座日永
濱宿の蝿取リボン絵が綺麗
火の空の荒野に絵らふそくなど立てるな
火事の火に若き父の絵みな消ゆる
灯を入れて灯籠の絵の花ひらく
炎帝やパピルスの絵も反りかへる
炬燵して絵草紙見て居る女の子
炭斗の古きひさごに絵かきあり
点さねば灯篭の絵の空ろなる
烏瓜絵になるやうなその所在
無人島の大きな絵を掛け春休み
煤掃や格天井の花の絵も
熱帯夜を朦朧と来て絵金の町
燈を入れて燈籠の絵の花ひらく
燈籠の絵にも廻れる夜空あり
爪に絵を描きて皹など知らず
片輪童女の描く絵を蝶がのぞきに来
牡丹咲きトランプの絵も水滸伝
牡丹花や唐獅子は絵そらごとながら
牡丹雪ちぎり絵ちぎり過ぎしかな
猫の絵の日記帳買ふパリの昼
獅子舞や戯絵ふせたる机辺まで
環葬や舞船ぬ絵の涼冪し
生きて今宵妻子の前に絵双六
田仕事の夫婦絵となる檜笠
由来なき絵や書き壁の蝸牛
畳に手つきて絵を観る後の雛
痢を病めばほのかなる絵の岐阜提灯
登るべき秋山晴れぬ絵の如く
白南風や片目大きなピカソの絵
白桃の絵のひび割れてゐたりけり
白萩に幽霊の絵を売る男
白薔薇買ふ山下りんの絵を見し日
白酒や江戸絵の上野花真白
白魚やおもひの淵を絵杯
百匁らふそくゆらゆら絵金祭来る
百日草園児の描く絵さまざまに
百枚の絵が消え彼岸花一本
皿の絵の波また波や蕪村の忌
皿絵卑しく無花果のせて貰ひけり
益子焼に絵付けの婆や秋の昼
相見てののちの絵茣蓙の古りにけり
石の絵に硬貨弾かれ春嵐
砂の絵の太陽系に穴ひとつ
砥部焼の大根の絵も冬らしや
硝子絵のよな初富士の浮く浦輪
硝子絵の騎士新緑の窓へ向く
祖母の世の裏打ちしたる絵双六
神前に固く巻きたる絵茣蓙かな
神鳴の灸する絵も扇かな
禁断の芥子の絵触れや岬の白昼
秋の蚊や曼荼羅絵解きながながと
秋の雷個性鋭き絵を貰う
秋の風捨身飼虎絵の窟出れば
秋草を描きてさみしき絵らふそく
秋草を鳥羽絵の兎高掲げ
秋雨や搬入の絵に簑をかけ
秋雨や殊に杉戸の絵をぬらす
秋風や南京皿の絵の鯰
秋風や板絵薄れし神楽殿
秋風や絵師金蔵の血みどろ絵
種物の袋の花絵なぜ大きい
稲青し窓枠額として絵なり
空間が曲がる西日の絵曼陀羅
立春や香煙とゞく絵天井
竪琴のごとく糸張り絵茣蓙織る
竹の子や稚き時の絵のすさび
笏あてし絵扇あてし裸雛
笛の音のやうな名前のピサロの絵
笹鳴や吾子の描く絵に赤多く
精薄児といはれ金魚の絵ばかり描き
約束の絵を見にきたる草いきれ
紅梅に浄土の図絵の貧しさよ
紅葉ぬくく鳥羽絵の兎現はれし
紙燈籠絵の眼つめたくはや朝か
紙魚這いし浄瑠璃本の裏絵かな
素飛びに川越えにけり絵双六
紫陽花や母のちぎり絵刻かけて
細工絵を親に見せたる火桶かな
絨毯の美女とばらの絵ひるまず踏む
絵かきには見せじよ庵の作り菊
絵かるたの十二単衣のこのかるさ
絵かるたの清少納言背を見する
絵すだれを吊りて瓜番風流に
絵すだれを潜り童女の消えゆけり
絵にかゝせみたきやばりんの花盛
絵にこゝろたかめられゆく絵雛見る
絵にもあり葡萄の園のよきまどゐ
絵に書くは黄菊白菊に限りけり
絵のある茶碗を子に買ふ春日も卵色
絵のなかに舟を浮かべて寝積むも
絵の中に居ルや山家の雪げしき
絵の中に朱の狼藉や冬近し
絵の中に滝の小さく切子かな
絵の中に赤き花ある二月かな
絵の中に雨音が消え額の花
絵の中のむかしの景色菊の宿
絵の中の廃市を照らす夏の月
絵の中の鬼が念仏青嵐
絵の売れし画室のさびれ笹子鳴く
絵の売れて星美しや黄金虫
絵の如き日本の国に居る良夜
絵の島に詩の波よるや月おぼろ
絵の島の絵にもかき得んや魚の味
絵の島や石も五色の花盛
絵の島や薫風魚の新しき
絵の旅の父に伴ひ夏やすみ
絵の梅とほんたうの梅風が吹く
絵の浮ぶ秋の簾を遺しけり
絵の破片あり双六のたたみあり
絵の秋の空の碧さが迫り来る
絵の菊に今朝も飢えたる胡蝶かな
絵の道に立つべかりしが光琳忌
絵の魚のみな憂ひ貌梅雨ふかむ
絵ぶみして生きのこりたる女かな
絵も斯や遠山低し鳳巾の糸
絵らふそく灯る座敷や風の盆
絵を売りに弟出て行く冬の雁
絵を習ふ絵師か娘や藤の花
絵を見ての倉敷どまり厚衾
絵を見るや西瓜提灯とり囲み
絵を踏みし者等のやうにかたまれり
絵を踏むや疑ひの眼に見られつゝ
絵仏に見ゆる古びを梅噂
絵付場の筆立に挿す秋団扇
絵付師と巣藁雀と励みをり
絵付師の絶えず掃きゐる床の冬
絵付筆壺にいろいろ鳥曇
絵伝記に船出の章や鑑真忌
絵凧一つシャガールの空暮れ残り
絵双六みどりは松と決まりけり
絵双六人生戻ることできず
絵双六兄嫁一に上がりけり
絵双六死にはぐれたる生活かも
絵双六雪の匂ひのする夜なり
絵団のそれも清十郎にお夏かな
絵団のそれも清十郎にお夏かな
絵地図手に伊賀の寺町冬ぬくし
絵天井涼しき高さありにけり
絵帷子懸けし楽屋の衣桁哉
絵幟の幾旒吹川鳴れり
絵所を栗焼く人に尋ねけり
絵扇の裏の白無地しみじみと
絵扇の風蝶となり花となり
絵扇や手の回想のゆったりと
絵扇や鼻にぬけたる女ごゑ
絵扇をひさぐ家なり松囃子
絵扇子の鳥獣戯画が風送る
絵暦のあをき六月終りけり
絵暦の二月きさらぎ勧進帳
絵暦の春を定めぬ鮒膾
絵暦の満洲の春めくりみる
絵暦をくりかへしみて壁に懸く
絵暦を解く百姓に半夏雨
絵本の絵そつくりな葉と蝸牛
絵歌留多や孫取る迄は待たさるる
絵殿の絵脳裡を去らずしぐれけり
絵番付手に顔見世のもどりらし
絵看板潮噴く鯨が泳いじょる
絵筵の花つぎの世はなに病まむ
絵簾に海荒き日のつづきをり
絵簾の吹かれては透け消ゆる絵よ
絵簾の安きを買ひて淋しけれ
絵簾の険しき山のすがたかな
絵簾やいまは蚕棚も何もなき
絵絹灯籠虫の音近し草の花
絵羽織のうしろにはねしうたかるた
絵芝居の絵のコバルトの空も秋
絵茣蓙古り人生もほぼ古りにけり
絵茣蓙敷きあり見るにつけ思ふなり
絵草帋に鎮おく店や春の風
絵草紙おく店や春の風
絵莚や水のごとくに夫婦ゐて
絵薬を新茶で磨れり九谷焼
絵行器の物めく藁屋興深し
絵行器や定紋匂ふ紺暖簾`
絵行器や物よくいへる京童
絵行灯萩のとんねるほの暗き
絵解き僧桃のことなど話しをり
絵解僧こゑをおとしぬ遠蜩
絵附の娘面ざし冴えて磁器に映ゆ
絵馬の絵は葵懸けたる牛童
絹寂びて羨しき絵なり秋の暮
綱曳きや道に鳥羽絵の男皃
綿絵の吉原の景一葉忌
緑蔭の水辺明るきピサロの絵
繭玉のしだれて触るる夢二の絵
置けばそのまま絵になつてゐる通草
羊の絵うまくやさしき賀状よき
美しき金短冊の絵雛かな
羽子板の絵のまなざしの昔今
羽子板の裏絵さびしや竹に月
羽子板の裏絵てふこの淡きもの
羽子板の裏絵の淡し雪が降る
羽子板の裏絵雪中寒牡丹
羽子板や裏絵さびしき夜の梅
耕して憩ふミレーの絵のやうに
聖絵の熊野中辺路ほとゝぎす
胡桃割る絵の星を子が数へきる
胡粉絵の白ら~として秋簾
腰にさす団扇も軽し絵の旅寝
膝の上をすべる袂や絵双六
自称ゴッホ橋に絵を売る炎天下
興し絵の子等の後より旅人かな
色刷の草花の絵とスキーかな
芝居絵の絵めくり落つ芙蓉かな
芝居絵の青や祖父母の語りあい
花に啼絵になく鳥や涅槃像
花の堂石童丸の絵解きかな
花の絵のあるコーランや星涼し
花ミモザゴツホの絵にはなしと思ふ
花売を絵にもかゝばや春の雨
花愛づる毛唐の大首横濱絵
花栗やわれにも絵そらごと一つ
花芒抱いて夢二の絵となりぬ
花鳥もうら絵はうすき扇かな
茅花噛む戯絵の兎になりたくて
草庵や子の絵ひとつに春の宵
草摺りの絵双六古り蔵古りて
草紙絵のごと朝顔を盆に摘む
荒れ狂ふ絵伝の海や鑑真忌
菩提寺にして宵闇の鷺絵あり
菩薩絵に水の跡つく揚ひばり
萩の絵の古りし杉戸や法師蝉
萩咲いて絵が満つ夢二記念館
落ちたりし絵凧は軽くすぐ上る
落雁の絵があり家は没落し
蓮如忌や絵伝の日本海青し
蕪村の絵守る古寺のさくらの実
薔薇の午後子に絵が描けて昼餉とす
薔薇を描きあげしパレット絵のごとし
薬玉や杉戸に残る絵の胡粉
虹の絵のまへに師走のひと来たり
虹消えて巴里の絵の屋根みなとがる
蚯蚓鳴くエゴン・シーレの絵の中に
蛍合戦ピカソ描けば如何な絵ぞ
蜩の樹下の葬列絵にひとし
蝌蚪生る絵の夕焼は横裂きに
蝶が来てしらじらしくも絵にとまる
蟇善光寺街道名所図絵
行春や藍絵に受胎告知の図
行燈に初日の絵品川の海
袋絵のほどはのぞまず花の種
袋絵の小町ほほえむ今年米
袖円に袴方なる絵雛かな
見て来たるごとき涅槃の絵解きかな
見るたびに見かけぬが居り涅槃図絵
見送り絵小雪舞はせて雪をんな
見送り絵常磐御前の被りもの
見送り絵牛若丸の手を曳きて
豆の葉に絵を描く虫や春深き
豌豆剥くひとつが跳ねて表紙の絵
象の絵を見ている四方黴の中
負け役の父呼びに来る絵双六
貴婦人の絵のワインあり春灯
買はず帰る廻燈籠の絵は覚え
買ひに往て絵の気に入らぬ団扇かな
買ひ手待つ絵を芽吹く木に架けにけり
賑やかな骨牌の裏面のさみしい絵
賽ころのやうやくに来し絵雙六
賽の目の仮の運命よ絵双六
賽子が火星に届く絵双六
赤立つやただ一枚のゴツホの絵
足もとに絵のしま見えて風薫る
軍絵の廻り燈籠売れにけり
軒ひくき嵯峨絵店なり露の嵯峨
送り絵の静御前の遠く立つ
逝きしルオーの絵と思ひまた長く佇つ
進物の唸り添えたる絵風箏かな
遊船の提灯の絵の秋の草
道成寺絵解のつづく日永かな
遠足や海の合戦絵にのこり
遠雷や父の電車は絵の中に
避雷針より高く葬送の絵を揚げる
部屋に入る睡蓮の絵に入るごとく
郭公や雲坪の絵に雲多し
酔ふた絵かきで呉れた日車をかついで去んだ
野ざらしの月日を渡る絵双六
金堂の鳳凰の絵も秋風裡
錦木の赤点々とちひろの絵
鏡絵に武者の素っ首十あまり
鏡絵のこの透明は何處よりくる
鏡絵の大蛇は青く鬼赤く
鏡絵の女美丈夫太刀かざし
鏡絵の関羽だんびら振りかざし
長八の柱の鏝絵ちちろ鳴く
長八の鏝絵稲荷の御開帳
長崎はお伽絵のごと盆三日
陣屋涼し昔を語る絵などある
隣り合ふ青年の息涅槃図絵
雁わたり幽霊の絵を掛けながす
雁来紅絵すがた一茶背をまろめ
雛の日をすぎし絵雛は瞑るごと
雨こひや絵かきは雨をかひている
雨傘握る九月ピカソの絵の前も
雪に思へ富士に向はば故郷の絵
雪の絵を春も掛けたる埃哉
雪はげしかり劉生のかぶらの絵
雪山へ眼遊ばす絵付工
雪洞の戯れ絵拙し宵祭
雷嫌ひ宗達の絵も祓ひけり
霧流る愛用茶碗の野草の絵
静かさや絵掛かる壁のきりぎりす
順礼を猿の絵に見ん萩の風
須磨の浦の絵をかいてある扇かな
風にちれむそぢの砂絵青や赤
風に乗り糸重くする絵凧かな
風に鳴る幟刺殺の絵が蒼し
風流やうらに絵をかくころもがへ
飴売りの戦争の絵の五月かな
飾皿の絵は雪深き聖夜にて
餐館の窓辺つちふる硝子絵
館五月陰翳ふかきピカソの絵
馬ぼくぼくわれを絵に見る夏野哉
駒の絵の一子相伝初しぐれ
騙し絵に垂れしアイスクリームかな
鬼やらひ鳥羽絵のわれと男の子
魚の絵のうつは選びて暑気払
鯛の絵を的に漁港の弓始
鰯売る芭蕉の辻は図絵にあり
鰯雲沖かけて燃ゆ涅槃図絵
鱈汁や掛軸の絵の山峨々と
鳥羽絵より兎出て曳くからす瓜
鳥羽絵寺茶園に春の雪載れり
鳥追の旗八ツ裂の鳥の絵も
鳥雲に絵伝アソーカ赤き花
鵜篝や殺生図絵のかぐはしく
鶯の啼くや絵絹の後ろより
鷹の絵のかくも古りたる屏風かな
鷹舞ひて絵のごとくある四山かな
鹿の絵の屏風を立てて茶店かな
鹿鳴けり紅葉の絵札のなかにゐて
麦秋やよごれて優し絵のキリスト
黒い絵の壁をめぐらしゴヤ寒し
黒南風や絵を抜けて鰐絵に還る
4Bで描く白菜の断面図
あたたかく姑の描く絵の花ばかり
あはあはと描きて燃ゆる罌粟となす
いくさ絵に細く描かれし春の川
いぬふぐり毛描きの藍に浅黄刷き
うすずみをもて大寒の水を描く
えぞにうの花を心に描きけり
おなじ速さに円を描きてゐる鳥よかかるかたちの孤独もあらむ
お花畑霧が消しては日が描く
かいなでに牡丹描くや泥絵の具
こけしの眼描く如くに春日愛ず
こけし描く背に千仭の紅葉渓
こでまりやおんなごころを描くごとし
この方は花をどう描く覗きけり
これ以上裂けやうもなき石榴描く
こゑにして鳶の描ける初景色
さふらんの想ひを描くやうに咲く
しらかみに大き楕円を描きし子は楕円に入りてひとり遊びす
しんと秋眉を描くのは左から
すみれ咲く更地に青図描きけり
その春着難波の芦を描きたる
その羽子は忘却曲線描きけり
たむろして狩の手配り地に描く
ていねいに冬草を描く尋牛図
なぐり描き劇画のやうな驟雨くる
なめくぢの描きゐる銀誰も見ず
なやらいや濤描く大き襖明け
な踏みそともの芽の土に円を描く
ひひな師の眼を描きをり冴返る
ほのぼのと眉描く妻や朝桜
ほゝづき揉む女の手許よく描けて
まいまいの描く弧毎日倖か
まひまひの円を描きて円を出ず
まひまひや父なき我に何を描く
みえるために白線を描き蟇
みなづきの何も描かぬ銀屏風
むさしのの夕焼を描く父と祖父
やす~と描かるゝ我よ夜の寒き
やはらかき鉛筆で描く芽吹山
ゆく春のフリーハンドで描く丸
よき伴れとおれ皿に描く湖の魚
わが噴煙描き晩夏の髭伸ばす
わが洋車牡丹を描ける日覆もつ
アトリエの父は裸身に雲を描く
アマリリス描く老画家の師はマチス
カンバスに避暑地の風も描き込めり
ガソリンと街に描く灯や夜半の夏
ガラス戸に描かれてメリークリスマス
キヤンプの子大王崎の濤を描く
クレヨンの緑を選び花火描く
クレヨン画原色花火描きなぐり
コスモスを泳がす風の弧を描き
コンパスが描きちらしたる曼珠沙華
スケーター心をかたちに描きけり
セザンヌの描きし色味春北風
ハイル・ヒトラー!鵞ペンで描く髭薄暑
バツカス描く雲に乗る妻湖に出て
パレットに藍冬枯の街描ける
ペン描きの冬木のなかの狙撃兵
ボテロ描きしモナリザでぶで汗ばめり
ルオー描かば明るしや「杭ある冬の庭」
ロボツトの描く似顔絵子供の日
一日を心に描く衾かな
一流紋描く螢や水遣れば
一筆で描ききる滝冬紅葉
一筋のこでまり白き弧を描き
七月や描く眉墨の細く濃く
万燈を芯より仰ぐ眉描きて
万緑に塔を配して奈良を描く
三月の筋書桃の大枝描き
中年の眉細く描く芥子の花
丸二つ描きて乳房や雪もよひ
乱れざる菊を描きて乱れしむ
乾鮭を描くリアリズム明治とは
二羽の鳶円を描きて神迎
五六本団扇描きけり汗になる
人にわかぬさびしさもちて描きゐる水蜜桃も饐えはじめたり
人の世の様描かれて絵双六
人寄せの大地に描く暖き
今日も描く泉に雲の変りけり
仏生会手描きの帯を締めにけり
仙の拙き月のなぐり描き
仰ぎては見うつむきては描き秋風に
似顔描き続けて画学生の夏
何もなき冬海のみを描きたる
充実やスケートが円描き続け
六双の屏風に描く気魄かな
円を描きまた円を描く火取虫
冬ざれの猫の描きある杉戸かな
冬ざれや真言八祖描く塔
冬に逝く夕焼ばかり描きし画家
冬の堤に仮空の人を描き込める
冬の畦脱衣の闇を描き遺し
冬休船の見えざる海を描く
冬夜ぬくし子が描く雨降りお月さん
冬日よりあをしイエスを描きたる
冬木に凭る似顔絵描きよまた逢ひたし
冬木描くいきなり赤を絞り出し
冬樹を描く晩餐卓布手でひろげ
冬海に無き繊月を描き加ふ
冬銀河砂曼荼羅を地に描く
凧の絵にルオーのキリスト描かばや
初凪や潮が描けるよろけ縞
初日描けり二人子額を染めあひて
初秋や子に描く汽車に煙も描く
初空に心の筆で夢と描き
初笑ひ玩具の犬に描きし髯
初絵馬に目指す大学帽を描き
初陣の父祖目に描き武具飾る
利休忌や乱を描きし屏風ある
剪定の宙に未来を描きつつ
劉生が描きし童女とこれの桃
加賀ぎぬに描く小紋や鉦たたき
動脈は赤で描かれ山笑ふ
勝獨樂の大いなる輪を一描き
勤めを戻り妻の案山子に顔を描く
北風を来し骨相とがり描きやすし
千歳飴下げしを描けクレパスに
南風の岩にカンバス据ゑて描く
卯の花やちちの描きし左馬
友禅に鶴を描きて麦こがし
友禅描き梅雨百燭の畳の間
友禅描くおのが息の香雪解の音
右手で描く/その手/桑名の左手よ
向日葵と闘ふ如く描くなる
向日葵を描きお日様を描く子かな
吾子の描く追儺鬼とはぱつちり目
唇描くやさらさらと春過ぎむとす
啓蟄やクレパスで描く地平線
啓蟄や手と足を大きく描こう
囀りの空を大きく描きけり
四君子の梅を描きけり初便り
国貞の描ける女河豚の宿
土筆たのし巨木のやうに児は描く
地に円を描きある中に蜂とまる
墓灯籠牡丹描きしは見当らず
墨で描く桜いつしか色を持つ
墨を以て大萬緑を描きたる
墨涼し馬を描けば奔ばんとす
夏めくや火の島赤く描かれて
夏休み校舎に虹の壁画描く
夏山に飢ゑし眸を描き慣る
夏帯に彼の鵜篝を描きたり
夏暁の子供よ土に馬を描き
夏暁の子供よ地に馬を描き
夏空に妻子描かん雲もなし
夕すすき専太郎描く女現れよ
夜の蟻迷へるものは弧を描く
夜もすがら汗の十字架背に描き
夜振火で圓描き合うて漁終る
大いなる弧を描きし瞳が蝶を捉ふ
大いなる輪を描きけり虻の空
大胆に描きし菊を早や厭ふ
大鯰描くに力の抜きどころ
天の川児の描く夢の宇宙船
天才呑龍描きしねぷた曳きにけり
天界へ跳んで白隠雪嶽描く
天空を行く汽車描かれ染卵
天高し昨日の画布に今日も描く
太陽と麦と描けりビヤホール
太陽を必ず描く子山笑ふ
如露の描く虹の小さき春椎茸
妻を描き月見草描き戦死せり
子が描く遊山の絵地図ねこじやらし
子が描けば棕櫚みな真直鵙の声
子と描きし七月の尾根遂に昏れぬ
子に描かれねば凧の糸黒くなれず
子の写生昼寝の眼鏡濃く描く
子の描きし絵の如し黄の月上る
子の描く傘があたるい梅雨の入り
子の描く太陽の顔チューリップ
子の描く絵いつも耳なし春遠し
子の描く菊戴は大きけれ
子の描く蟹の鋏のみな大き
子の描けばびつくり眼小鳥来る
宝船砕くる波は描かれず
家の妻瞳に描きがたし青き踏む
寂寥が飽くなく麦を描かしむ
寄せ描きの観山武山冬座敷
富士山の絵を描き覚え入学す
寒牡丹描かれてゐて身じろがず
寒菊を匂ふごとくに描けといふ
寝惜みて月下美人を描きつづく
小鳥来る描きかけの絵が日に反りて
少女描く高く節なし冬木立
尽く枯れインターは弧を描く
山毛欅描くコンテさくさく雪間どき
岩群の赤く赤くて黒く描きぬ
峡の景色紙に描かれ吊忍
嶺々をもて天に描く濤端午来る
左手で絵手紙描きぬ豆の花
左眉描くのは苦手金魚玉
帆ばしらの月描きたる團扇かな
干戈のこと無かれ子が描く百合百輪
幹から枝枝からはなびら桜描く
幼く母の顔を描きその亡きことは言はぬ
幾何を描く児と元日を籠るなり
広告裏に狂院の地図描きて寒し
広重が描きし位置にて青あらし
弧を描く丘の形に花莚
弧を描く橋を彼方に夜釣の灯
弧を描く水平線の放つ春
強右衛門朱に描く磔刑図を曝す
影までも描かれ壁画の馬に冬
御降りの雪の描きし大文字
心太雨の蘇州を描きし皿
志功描く釈迦十弟子図玉椿
応援の人文字を描く夏帽子
思ひ出の上に輪を描き水すまし
思ひ出を子はいつぱいに夕焼描く
思想展蒋氏の睫うすく描かれ
恭仁京阯捩花芝を描きにけり
息とめて雛の眉描くとの曇り
想い描きの犀が重くて寝つかれぬ
慟哭の涙は描かず涅槃像
戦艦描く鉛筆をまた十本削り
手にて描く巌ふたつとも滴れり
手焙に水夫を描くも安房なれば
打水の終りは円を描きけり
描かしてはやらぬといふ眼羽抜軍鶏
描かれざるものの歎きや涅槃変
描かんとして黒ばらは黒ならず
描きあげて秋の浅間を持ち帰る
描きかけてありし画板の皐月富士
描きかけの枯野を提げて枯野行く
描きかけの椅子を並べし如月野
描きかけの油絵ありぬ避暑の宿
描きかけの油絵匂ふ夜長かな
描きかけの自画像と鶏頭
描きて赤き夏の巴里をかなしめる
描きゐる自分の迷路みづすまし
描き上げて筆置く窓辺小鳥来る
描き了へし水仙の壺床わきに
描き捨つ険しき貌の春の禽
描き来し上野の秋の草を踏む
描き眉のかゆくなりたるななかまど
描き眉のこけしにかも似松笑ふ
描くこと書くことうれし獺祭忌
描くべく椿挿されて一壺あり
描く撮る詠むそれぞれに秋惜しみ
描く龍眼のいきいきと秋惜しむ
提灯に花ぼんぼりの描きあり
政治を信じられない日は青年青葉の塔を描く
敲くとはときに描くこと石蕗の花
斜線でくもる故郷と児の描く初島と
新涼の甕に描かれし魚泳ぐ
新緑やチヨークで道に道を描き
旅景色描くパレット冬日溜め
旅絵師に鍾馗は描かせ幟かな
日の描く雪嶺の襞自在なり
春が来て黄の番号を丸太に描く
春の鳥徽宗皇帝に描かれけり
春めきて写楽の描きし男かな
春昼や劉生描く童女像
春泥をところ~に描く灯よ
春空に虚子説法図描きけり
春興や大きく描きし達磨の絵
春陰や生きてゐる絵を描くといふ
春隣古地図は川を太く描き
春雨や光るものから児が描き初む
昼寝より覚めて魚の絵を描く子
晩涼や弟が描くモデルとなる
暑さに敗けず子が描く魚は羽ある魚
更紗描くはだしの土間の蝋しづく
曼珠沙華描かばや金泥もて繊く
曼珠沙華闇に描かば地獄変
月明や地に描きし汽車動き出す
月花のあそびを描く屏風かな
朝顔の双葉の鉢に描きある画
朝顔を描くそれよりむらさきに
木瓜の昼子は空事を描きにけり
末枯れや子は描きなぐる金と銀
朱の南瓜われ太陽のごとく描く
枇杷描き枇杷羊羹の包み紙
林檎描く絵具惨憺盛り上り
林間学校空気ばかりを描きたがる
枯れしもの描きて志野の暖し
枯菊の唐草模様土に描き
枯萩の曲線描き尽しつつ
枯蔓の螺旋描けるところあり
柚子ひとつ描きて疲る風邪のあと
柳川の子は水広く夏を描く
柿二つ描き遺して戦没す
栗の上鉛筆描きの八ヶ岳
案山子に目鼻描くもほのぼの墨の香は
桐描くには水彩に如くはなし
桜など描きて冬の寺襖
桜大樹紙継ぎ足して児等描く
桜餅心に描く夕渡舟
梅雨畳千住に守る手描き絵馬
棒切れで地図を描ける花の許
椿も描き遺作の中に牛の尻
椿一輪描きし遍路便りかな
椿照りおしろいが描く巫女の顔
楽焼や茶の花らしき鉢に描く
横刎ねに描く神農の虎の口
死はきらきらと飛魚の弧を描く
母の忌の円描き重ね白蛾とぶ
水すまし己が描く輪をのがれ得ず
水に描くやまと言の葉ちりもみぢ
水に描く日ぐれの思ひみづすまし
水彩の水を描きし薔薇に捨つ
水漬田に田螺が描く古代文字
氷菓吻ふ長谷の宿女は眉描ける
永き日の地面に汽車を描く子かな
江戸描く絵師逝きにけり春の雪
河骨を描きはげしくさまよはむ
油絵を描きし如く夏終る
流し雛泣くかも知れぬ目は描かず
浪・冬木ひかりて白く描かれし
浮浪児が土に描く絵を消す野分
海に向き眉描く女聖五月
海の日の空から描く岬かな
海を描く男ひとりの家おそろし
海原として一塊の鮑描く
海野宿描く少女に秋の風
涅槃図に小さき涙描かれず
涅槃図に幼きものは描かれずに
涅槃図に泣き声を描き忘れけり
涙痕のごと蝶を描き涅槃の図
滝青く一気に描ける子ら羨し
火の山を火の色で描き青嵐
炭借りて描くお岩木山の雁渡し
点々と描く目高や水を画かず
燈籠の尾にうすうすと描けるもの
爪に描く花の金銀夏さかん
爪に絵を描きて皹など知らず
爪紅や叱られて地に何を描く
片栗よ夢の母描くペンとなれ
片輪童女の描く絵を蝶がのぞきに来
牡丹の夕や逢ふ顔描き来て
牡丹描く人にはなれて牡丹見る
狐目に描くアイライン巴里祭
猫をみて描きし屏風の虎ならん
男の描くメロンはダイナマイトのやう
男を女をじゃがたらのごとゴヤ描けり
画架それ~混血児が描く庭みかん
画用紙をはみ出すグラジオラス描きぬ
畫架それぞれ混血児が描く庭みかん
疲れきるまで描きし小鳥とスーパーマン
病む友へ絵手紙描く春灯下
病牀に秋海棠を描きけり
白扇に一筆描きの波走る
百日草園児の描く絵さまざまに
皿に盛るリンゴ崩るるところを描く
目にて描く解かれし塔を月明に
目を描かぬ眼差し深き和紙雛
目鼻なき顔描きづめに水すまし
眉描く日と描かぬ日と花散りぬ
真っ黒い太陽を描く孤児である
睡蓮を描き思ひ出を描くごとし
睡蓮描く古びる時間なきごとく
短夜の汝が描きし樹々は立つ
石南花を天井に描き庭に植ゑ
秋の壁白ければ目で鳥を描く
秋の蚊や夢二の描く美人像
秋めくと猫に眉毛を描く女
秋山路ヘツドライトは雨描く
秋晴の魚が描かれてゐるパイプ
秋深む眉を描かねば祖母に似て
秋立てる雲の穴目の藍に描く
秋終る少女が描く円の中
秋草を描きてさみしき絵らふそく
秋草を描き足す思ひ壺に活け
秋雨や鷺を描きて狩野代々
稗蒔や絹布に毛描きしてをられ
稚児が描く恋猫の貌人間に
種袋太陽を描き如露を描き
稲田描く油絵の具を盛り上げて
空にあふるる青嶺描くに画布たりず
空に弧を描きて蛇の投げられし
空描くクレパス太き新学期
窓に人ちょんと描きて芭蕉林
立山の雪渓湖へ弧を描く
童女地に描く曲線桃ふふむ
笠置路に俤描く桃青忌
笹鳴や吾子の描く絵に赤多く
筆に紅つけて雛の口を描く
筆太に描きたる円や達磨の忌
精薄児といはれ金魚の絵ばかり描き
紅がちに黄がちに城の秋を描く
紅型に紅の舟描く浅き春
紅花の船出を描く屏風かな
紅葉狩する女子共描きあり
紙ひひな唇を描かれてより白し
素足で描く秋浜の弧のほしいまま
絵団扇といふほどでなし鶏を描き
絵手紙に描く初生りの大とまと
絵手紙に描く草花や秋めく日
絵筆もて描きし如く青芒
絵馬はみな白馬を描きふきのたう
羅漢描き指いきいきと冬襖
老け役の描き皺かなし白うちは
耳なし芳一ばかり描く子に春遠し
腑分け図のごとく詳しく空蝉描く
自画像は描かぬと決めて鰯雲
色淡き夏木描ける吾子いとし
色鳥に女かなしびの眉を描く
芒野に空描き足せば荒びけり
花を描き根来寺縁起雲を描く
芽木を描き芽木の一つと化しゆくも
草描ける淡墨やがてすだくなり
菊描きて向日葵の時の如くせし
菊描くと省きし筆のただ粗し
菊描く金ンの花びら長短
菱形に沼描きつづけ二月の死
落ち着いて眉描き足せと花八ツ手
落ち葉道描くとき絵の具ねむらせる
落葉降る日は描き眉のすなほにて
葉とともに柿を描かん机かな
蒲公英に描きそへたる土筆哉
蓬や描くとすれば今日の浪
蓮の実のとんで描きたる水輪かな
蓮の葉をかぶりて蓮を描き居り
蓮を描く遠く咲く花遠きまま
薄墨で描かれし夏の蕨かな
薄描きに岐阜提燈の月ちさし
薔薇の午後子に絵が描けて昼餉とす
薔薇を描きあげしパレット絵のごとし
藍を溶く紫陽花を描くその藍を
藤を描くならはし加茂の扇には
藺座布団青き千鳥の描きあり
虚事をうつくしく描き陶枕
蛍の闇に盗られし眉を描く
蛍合戦ピカソ描けば如何な絵ぞ
蜂を描くしだいに蝶に似て来たる
蜃気楼遊女は細き眉を描き
誰が袖を描く遊里の屏風かな
豆の葉に絵を描く虫や春深き
貝に描かれたる業平の忌なりけり
貝寄風の描きし浜の砂の紋
貧相に描かれし蛇涅槃絵図
賢しらに菊描く墨を惜しみけり
赤い薔薇描き来喪中にかかはらず
赤い鳥青い鳥描き染卵
赤かぶらやさしく描き亡妻と二人
赤潮の海描き蜑を継ぐさだめ
赤馬を描きし湯飲み福沸
走馬燈文を地に描き跼み売る
輪を描く鳶をはるかに初比叡
送行の心に描く山河あり
連翹の一枝円を描きたり
釈迦はじめみな若く描く涅槃かな
里芋の毛をていねいに描きあり
金屏や寒風描きあるごとく
金泥に帯び描くことも冬安居
金泥もて枯葦描かむ久女の忌
金泥をもて描くべし豊の秋
金銀の料紙すずしく描かせけり
鈴虫の声が描きしわが山河
銀紙にどらえもん描き鳥威し
鏑木清方風も描きて納涼図
鏡中に眉描きたして東洋城忌なり
長き夜を描く幾百のこけしの瞳
長崎を夜天に描く麦の秋
闘鶏図双巒を藍に描きけり
陽の沈む前の余白に何を描こう
雛描き貧画学生何を食ふ
雛車とまづ伊勢丹が屋に描く
雪の夜の更けて雛の眉目描くと
雪の街夢二が描きて暖かし
雪女郎美女を描くといふ掟
雪山に林相白を以て描き
雪嶺描く底に羆を眠らせて
雪空に睡魔の描く大伽藍
霞む野やありし世の伽藍目に描く
露草をみづから描きし単帯
霾や古墳に描きし舟と馬
靉靆と雲を描きたる屏風かな
青き影添へて檸檬を描きけり
青田吹く風が描ける幾何模様
青空へ大き輪を描くあめんぼう
青空を配し斜面の桃描く
青芝や描きて以て白日夢
青蔦が記憶裡の人を窓に描く
須磨の宿の屏風に描く千鳥哉
須磨の宿の襖に描く千鳥哉
風を描きコスモスの描き了りたる
風浪に描く輪小さき水すまし
風邪の子が空泳ぐ魚あまた描く
風音に眉つよく描き梅を見に
飛行機雲大円を描き煤払ひ
首長く描き春愁に耐へし画家
香水や次なる嶺に眉を描き
鯊舟のあまた輪を描く羽田沖
鯛ばかり描かされていて三月尽く
鰯雲描きかけの貨車動き出す
鳥の全身描ききれずに春の雲
鳥雲に直武描きし人體圖
鳥雲の某日水を描き暮らす
鳰の描く水尾の白線剛かっし
鳰ひとりぼつちの水輪描き
鴎は輪を描き数の子を干す日和
鵙の啼く街まつしろに描くかな
鵙描き足さばや倪さん空林圖
麓人の描く冬瓜や良寛忌
麦の穂を描きて白き団扇かな
麦の芽を描く點を打つ音となる
黄水仙黄に描く他はなし哀し
黄葉描く子に象を描く子が並び
黒南風や鞭つ如く描く顔
黒田屏風鬨の声こめ描かれゐる
黙といふもの涅槃図に描かれをり
鼓膜におけるconceptionを涙で描け
鼻大きく子に描かれゐて風邪癒ゆる
山毛欅描くコンテさくさく雪間どき
かいなでに牡丹描くや泥絵の具
かはせみや絵の具を流すおのが影
そり返る絵の具のチューブ夏旺ん
クリスマス絵の具の付きし手を洗ふ
凧絵畫きし絵の具のまゝに灯りけり
初冬や石油で洗ふ絵の具筆
原色の絵の具買い足すパリー祭
幾春の絵の具や兀し涅槃像
恋人たちに海猫はふと沖の絵の具
白き皿に絵の具を溶けば春浅し
神々の絵の具も尽きて山紅葉
紫陽花に絵の具こぼせしあるじ哉
紫陽花に絵の具をこぼす主哉
絵の具とく僧と画伯の日永かな
絵の具箱明日は林間学校へ
色のない絵の具で熊手塗りにけり
菊さけり蝶来て遊べ絵の具皿
落ち葉道描くとき絵の具ねむらせる
蓮池の水もて絵の具溶きにけり
あたたかや絵筆たづさへ西へ旅
あゐの花絣を好み絵筆とり
ががんぼや壺に立つ穂のみな絵筆
のうぜんの棚かげに持つ絵筆かな
エゴンシーレの絵筆をくべし焚火かな
冬ざるる木の實草の實絵筆さへ
冬到来絵筆曲がりて乾きをり
友禅の細き絵筆や春灯
噛みほぐす仕事始めの絵筆かな
大作の絵筆もとり針供養もし
応挙忌や眠れぬままに絵筆とり
春寒しむなしき絵筆絵ノ具皿
春惜しむ遺品の絵筆軸欠けをり
晩学の絵筆の進む夜長かな
枯山のとつてもおしやべり絵筆持つ
桃の実や十年ぶりの絵筆もつ
梅雨の簷絵筆ころびてかくれなし
橋立に絵筆はしらす新松子
水仙の傍に絵筆をすすぎけり
絵筆にて寒の椿を指しにけり
絵筆の穂ふつくらと立ち日脚伸ぶ
絵筆もつ君のこのごろの垣の蔓草
絵筆もて描きし如く青芒
絵筆捨てしわれに美術の秋来れど
舷に絵筆洗ふや西祭
茅舎忌や絵筆洗ひし水に紅
草の花絵筆の水をきつてをり
荷の中に絵筆携へ秋遍路
菊月や父の絵筆を洗ひやる
うつろへる日にうすずみの花絵巻
お水取火の絵巻物繰るごとし
くわりんあり鳥羽僧正の絵巻あり
そのかみの絵巻はいづこ濃紫陽花
その続き見たき絵巻やお風入
ゆづり葉や蔵にねむれる絵巻物
をみな泣く源氏絵巻の露けさよ
一幅の維新の絵巻雪の寺
一遍の絵巻十巻花芙蓉
万緑やラインに絵巻のごと古城
三秋の絵巻果てゆくごと星座
人生の絵巻の端に鮎を釣る
信貴山縁起絵巻の山の木の実かな
先帝会絵巻に波の筋幾重
古都動く時代絵巻やおん祭
吉野山絵巻の端に入りゆく
哀史秘む銀山絵巻曝さるる
啓蟄や絵巻のやうに帯締めて
夏木立絵巻物とは剥落す
夜寒さや百鬼夜行の絵巻物
奥阿蘇に虚子絵巻ありほとゝぎす
屯田兵絵巻冷ゆ手をさすりつつ
平治物語絵巻のどこか春
年々の虚子忌は花の絵巻物
幼より絵巻このみや智恵貰
徒歩ゆくや花野の絵巻巻くごとし
戯画絵巻ころがしひらく遠河鹿
散紅葉鳥獣絵巻かくれなし
時代祭通過す絵巻繰るごとく
杜若絵巻の如く咲き揃ひ
櫟若葉に絵巻の彩の茶会びと
武者人形絵巻の山も川も晴
海棠をめぐる天平絵巻かな
炭の香や絵巻ひろげて主客こごむ
王朝の絵巻現つや申祭
王朝の絵巻繙く桐の花
白描の絵巻ほどかれお風入
百僧の金襴絵巻御忌法話
真桑瓜歳は絵巻の如く過ぎ
短夜やほどけばすぐに絵巻物
立子忌や偲ぶこころに虚子絵巻
紅梅の艶めく小諸絵巻かな
絵巻まき終ふるに間あり虫の夜
絵巻よりひとりを加へ紅葉狩
絵巻物さながら長き花筏
絵巻物ひろげし如し姫小松
絵巻物ほどの明るさ濃山吹
絵巻物三月の部は花見也
絵巻物拡げゆく如春の山
絵巻物末尾は瑞雲西行忌
絵巻見て伊豆の海見て実朝忌
藤原氏絵巻に栄え年立てり
虫干や絵巻ほどけば姫の髪
行く秋の焔の多き絵巻にて
行列の維新絵巻や開港祭
語らるる小国絵巻や夏の雨
談合の絵巻にあらむ山紅葉
通り峠棚田絵巻の遠霞
過去は右へ右へ朧の絵巻物
雪の夜の絵巻の先をせかせたる
霞む日のかなしき絵巻ひろげゆく
風入れの寺宝絵巻や文化の日
鳥獣絵巻枯れゆく山をそばだてて
鵜飼見る紅惨のこの絵巻物
麦の芽のつづきて武田絵巻かな
あたたかく姑の描く絵の花ばかり
子が描く遊山の絵地図ねこじやらし
子の描く絵いつも耳なし春遠し
春陰や生きてゐる絵を描くといふ
昼寝より覚めて魚の絵を描く子
浮浪児が土に描く絵を消す野分
片輪童女の描く絵を蝶がのぞきに来
病む友へ絵手紙描く春灯下
百日草園児の描く絵さまざまに
笹鳴や吾子の描く絵に赤多く
絵手紙に描く初生りの大とまと
絵手紙に描く草花や秋めく日
豆の葉に絵を描く虫や春深き
なやらふや大津絵の鬼目に浮べ
夕焼や大津絵の鬼瀬田渡る
大津絵にみんなが哄ひ春となる
大津絵に糞落しゆく燕かな
大津絵に達磨の眼ありその忌なり
大津絵のうかれ坊主や雲の峰
大津絵のなまづの暑中見舞かな
大津絵のゑどりも暑し甲武者
大津絵の十哲苦吟芋嵐
大津絵の口あけ笑ひ月たかし
大津絵の墨色にじむ梅雨入りかな
大津絵の瓢のながき大暑かな
大津絵の筆のつづきに寒の木瓜
大津絵の筆のはじめは何仏
大津絵の蕭条として寝釈迦かな
大津絵の赤鬼いぶす蚊遣哉
大津絵の遊女と出合ふ手毬花
大津絵の道行笠や若菜摘
大津絵の風神嗤ふ二日灸
大津絵の鬼か念佛や鬼貫忌
大津絵の鬼が手を拍つ紅葉山
大津絵の鬼が杖つく石蕗日和
大津絵の鬼が火を焚く除夜の鐘
大津絵の鬼が見栄切る年忘
大津絵の鬼が顔出す灌仏会
大津絵の鬼と遊びし夏初め
大津絵の鬼に初日や庵の壁
大津絵の鬼に止まりし秋の蜂
大津絵の鬼のうそぶく夏座敷
大津絵の鬼のふどしの薄暑かな
大津絵の鬼の哭きだす無月かな
大津絵の鬼の朱色の大暑かな
大津絵の鬼の来てゐる注連貰
大津絵の鬼の酩酊夕立来る
大津絵の鬼の霍乱めいてきし
大津絵の鬼ふと暑くふと涼し
大津絵の鬼もよごれつ榾明り
大津絵の鬼も出て来し追儺かな
大津絵の鬼も汚れつ榾あかり
大津絵の鬼も踊るか月おぼろ
大津絵の鬼をどり出すおぼろかな
大津絵の鬼出て喰ふ柘榴かな
大津絵の鬼枕上ミ宿夜長
大津絵や鬼も背に負ふ梅雨の傘
大津絵をとにかく蔵ふ水中り
大津絵を売る店もあり竹の秋
大津絵を見てのうつつや昼蛙
往還に大津絵を買ふ柿の秋
表情の生れ起し絵立ち上る
起し絵のおもひつめたる殺しかな
起し絵のけはしき富士の聳えけり
起し絵のぬれ場のほとけ倒しかな
起し絵の二色ずれて山の月
起し絵の女はいつも急ぎをり
起し絵の山紫水明五色摺り
起し絵の忠治の刃へなへなす
起し絵の昔をゆめの女坂
起し絵の景に遠近出来しかな
起し絵の波をこまかに立てにけり
起し絵の男をころす女かな
起し絵やきりゝと張りし雨の糸
起し絵や昼は桜の色淋し
起し絵や淡き嫉妬の消えかはす
起し絵や町行く人に消し惜む
起し絵や雨大粒となりゐたり
起し絵を小屋に見かけし渡舟かな
起絵のけはしき富士のそびえけり
起絵のむかし白壁ばかりの村
起絵の男をころす女かな
起絵や人形町は問屋街
起絵を組みて日曜まるつぶれ
*ささげ畑あり山荘に住める画家
ばらの芽や画家なにがしと記す門
アマリリス描く老画家の師はマチス
パリ西日意中の画家はみな故人
ローランサンよき画家なりき初暦
並び立つ画家の家族に秋の風
冬に逝く夕焼ばかり描きし画家
冬空をいま青く塗る画家羨し
冬薔薇や詩人の夫画家の妻
向日葵がすきで狂ひて死にし画家
四五本の枯木を配し画家住める
多分画家の血の赤すこし絵の隅に
大いなる枯野に堪へて画家ゐたり
巴里祭モデルと画家の夫婦老い
散華して画家一本の杭になる
日本を去りし画家あり鰯雲
春隣巴里に戻る画家と会ふ
月光に画家の遺せし芥子を蒔く
朱をさらに薔薇に加へて若き画家
檀の実画家の鉛筆やはらかし
父の忌をひとりで思う樹下の画家
画家たらんおもひ雪山前にして
画家の犬咳して青き朴の蔭
画家の眼となりて枯木に対しけり
画家らつどい魚介むさぼり夏終る
画家兄弟死後も睦まじ秋のバラ
画家去りて白樺のこる秋深し
画家太郎死す太陽より雪が降り
画家居りぬオリーブ園の日盛りに
盲画家のやうに大陸をくぐれ鱶
短夜やそぎ落とされし画家の耳
秋の海町の画家来て塗りつぶす
秋雨や赤鬚の画家キャフェごもり
秋麗やアイビー青き画家の墓
老画家とゆく落日の氷湖の辺
老画家とゐて正月の網干場
若き画家雪の但馬の景をほめ
蕪村忌や画談となれば画家あらぬ
蛇を煮る父にして画家西行忌
蝉しぐれ画家彫刻家対ひ住み
蝉の森多角に画家の朱なるかな
首長く描き春愁に耐へし画家
鷹好む画家の眼に鷹を見し
オリーブの花こぼるると画架移す
コスモスの風の続きに据ゑる画架
一人静湖畔に画架の翳伸ばし
凍港を素描す画架を石廊に
啓蟄や野を男行く画架提げて
外光の五月や画架に芝映えて
松蔭に日がな画架あり鬼やんま
水草生ふ放浪の画架組むところ
父の日の父と画架組む湖平ら
画架それ~混血児が描く庭みかん
画架たゝみ用なき麦藁帽乗せし
画架立ててより山雀の近きこゑ
画架立てて小春の人となりにけり
画架立てて師走の町に背を向ける
県庁の銀杏黄葉に画架立てて
顔濡らしきて緑蔭の画架に立つ
凍鶴に金色の額縁を嵌めよ
力んだりするから額縁歳旦吟
山門を額縁として花万朶
春雪をつけて入りけり額縁屋
葉桜に額縁はめて休みけり
額縁に犬の賞状猟期来る
額縁のやうに棚田の彼岸花
額縁をかかへて芥子の花を過ぐ
風呂敷につつむ額縁鳥の恋
カンバスに跳ぬる画室の蚤となりぬ
夜食とる画室より来し蓬髪も
山笑ふ画室に白湯をいただきて
月の出や画室の壺に白桔梗
火の気なき画室高とぶ冬の蠅
玉堂の画室色なき風とほる
画室では父もピカソも裸身なり
画室にて草干すことを見飽きたり
画室成る蕪を贈って祝ひけり
画室春宵パレツトのごと床汚れ
画室秋意出品の筆よべ措きし
絵の売れし画室のさびれ笹子鳴く
花芙蓉画室の窓の低くして
豆飯に呼べど画室に筆おかず
躑躅咲いて画室人なき日多し
雪の日の画室に置いて低き椅子
露けさの画室灯して人を招ず
鬼やらふ画室書斎と闇のまま
夢二忌の画集と詩集並べたる
恋すみし猫ゐて画集黄に溢れ
書見器にあづけし画集花明り
画集句集大邪魔物として凍る
秋日溜めて画集のゴツホ反りにける
蝶々蝶々カンヂンスキーの画集が着いた
露寒の画集をひらく膝そろへ
やや寒の古城象るステーキ店
久に雪皮膚が象るわれ在りぬ
借景の山を象り夏料理
清明の風を象る川柳
湖を象り燃ゆる山躑躅
祝がれゐて鶴を象る皿涼し
そのころの解剖の画帖曝しあり
安曇野がはみ出す画帖風薫る
峰に立ち画帳を開く宗達忌
摘草に取残されてゐる画帖
春寒し父の画帳を重ね置き
秋の潮遺品の画帖鋭きまま
黄菅咲く父に小さき画帳あり
ギフトカードにポインセチアのカットかな
この画展巴里の絵多し年惜しむ
フランス画展落葉の苑の黄の太陽
人の香のつよく秋暑の画展観る
春光や防人像もある画展
画展さながらの廊下や避寒宿
画展よりつゞく光りの銀杏の黄
画展出ていつもの無色梅雨の街
画展出て点描の森落椿
画展出て紺の印象午後の雪
画展出て落葉微光に歩み入る
画展通知ふところにして薄暑かな
秋黴雨野草画展に長居して
見逃してしまひし画展日記果つ
香水の人をあとさき画展見る
描きかけてありし画板の皐月富士
けふも画板にむかふ枯れたまゝのひまはり
*はまなすに心の画布の殖ゆる旅
いきなり跳ねて画布をぬけ出た夜の鹿
その中のひとつの枯葉画布にあり
まだ彩を入れざる画布の牡丹なる
カンナ燃えいよいよ海は寂しい画布
コスモスの花の静止を画布にかな
サティ聴く九月画布白きまま
ジャンクの帆黒き画布なり秋の果
写生する画布に秋色ぬり込めり
十月の紺たつぷりと画布の上
向日葵や画布打つ筆の音荒く
囀や画布を過ぎゆく雲の影
地の果を画布にとぢこめ花菖蒲
大画布に万の声わく沖縄忌
天の画布いま一面に鶴群るる
天高し昨日の画布に今日も描く
寒夕焼端まで塗らず画布の紅
少年の画布はみ出して夏の海
山開き画布はさみどり滴らす
描初の蒼龍画布をあふれたり
新樹ポプラの影が主題の画布となる
春郊の画布はみ出してくる雄牛
朝の日に画布の純白小鳥来る
東風寒や画布のうらには文字散らし
画布さむし大き靴音きて去れる
画布にいま雪の絶巓夜は狂ふ
画布に置く色定まれり鳥兜
画布の上に原色厚し五月の野
白昼の牡丹を暗く塗りし画布
白昼の牡丹を画布に暗く塗る
空にあふるる青嶺描くに画布たりず
紺碧の画布へ裸木林立す
若き日を断つ夏果ての青き画布
菊かをり新しき画布かがやけり
蕗の葉や旅の荷に画布括りつけ
雲雀野や少年の画布白きまま
鰯雲画布に時間の溜まりゆく
黴の夜を画布百号にたてこもる
歌舞伎絵の血糊凝まる夏灯
アネモネや画廊は街の音を断つ
人かげのまばらな画廊春一番
人を待つ画廊の椅子に日脚のぶ
元町に小さな画廊春の雪
六月の画廊に赤き椅子一つ
冬帽や画廊のほかは銀座見ず
冷房の画廊に勤め一少女
埴輪観る画廊は菊の香に満てり
客入りてクーラーつけるミニ画廊
室の花余業に画廊開きたる
宮様に若葉の日さす画廊かな
年用意画廊に陳べて偽画偽筆
日脚伸ぶ画廊は銀座七丁目
春昼の画廊に青き舟揺るる
春昼や画廊に集う女たち
暖房や花の絵ばかりなる画廊
暮早きビルの画廊に商談す
梅干して午後は画廊ヘモネを見に
水澄みて画廊の上に人の棲む
画廊にて奇遇の春を惜しみけり
画廊にはきき耳立てて落ちている指
画廊出づ春月芽苞ぬぐごとし
画廊出てやがて画が消え街師走
画廊出てポインセチアも電飾に
画廊出て人間赤し藪柑子
画廊出て夾竹桃に磁榻ぬる
画廊出て師走の人につき当る
画廊守の老女は花に
花冷の画廊は女あるじかな
遅日この画廊に時を告ぐるものなし
雑踏を抜け敗戦の日の画廊
雪あはく画廊に硬き椅子置かれ
青梅雨抜けてきた魚でしよう
風死せる画廊かつかつ登山靴
埋火や寒山誦じジード読み
寒山か拾得か肌脱ぎ給ふ
寒山か拾得か蜂に螫されしは
寒山が友ほしく来しけさの秋
寒山と拾得とよるおちば掻
寒山に拾得に逢ひ春惜しむ
寒山に谺のゆきゝ止みにけり
寒山の鼻拾得の耳夕焼ける
寒山は掃き拾得は焚火守る
寒山拾得図かけて秋風通ふ寺
寒山詩とは落葉焚く煙かな
寒山詩蟇詠じしはなかりけり
屏風絵の寒山拾得つぶやける
山寺や風の落葉をきゝ寐入
庭を掃く拾得淋し椶櫚の花
拾得に似し人に遇ふ冬山路
拾得のうそぶきやまず夏落葉
拾得の几巾にからむや玉箒
拾得の独楽に無数の創のあと
拾得の笑ふがごとく裂け石榴
拾得の箒を枯れて蓮かな
拾得の装いで来て菌狩
拾得の顔を這ひたる紙魚の跡
拾得は焚き寒山は掃く落葉
捨焚火寒山拾得来て育て
探梅の果ての寒山拾得図
箒持ち寒山拾得虫狩に
藁塚が化けて寒山和尚かな
黄葉の樹下寒山と拾得か
黄葉掃くいづれ寒山拾得か
カンバスに木々のほむらや秋の蝉
カンバスに跳ぬる画室の蚤となりぬ
カンバスに避暑地の風も描き込めり
カンバスをまた塗りつぶし春寒し
南風の岩にカンバス据ゑて描く
自在なる水のカンバス春を待つ
うち連れて戯画の鳥獣迎盆
戯画絵巻ころがしひらく遠河鹿
月の萩月の芒と戯画ながら
月今宵戯画の鳥獣出でて来よ
花まつり戯画のうさぎは地にまろび
菓子ねだる子に戯画かくや春の雨
萩萌えて戯画の鳥獣親しくす
鳥獣の戯画見て寺の風炉点前
ギャラリーに泰西名畫園に梅
倒れ菊金泥の如土砂を塗り
凶事に金泥尽す屏風かな
初鴉金泥の声あびせけり
古屏風の金泥淑気はた寒飢
囀や天地金泥に塗りつぶし
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ
大御堂金泥はげしかすみかな
定紋の金泥の艶光悦忌
寒鯉の金泥のごと沈みゐる
小硯に金泥かわく夏書哉
慈悲心鳥紺紙金泥一切経
描初の金泥を溶き銀を溶き
日を捏ねて金泥まみれ*むつ五郎
春泥の金泥となり夕日落つ
春燈や金泥にほふ塩草子
曼珠沙華描かばや金泥もて繊く
枯桜幹は金泥帯びにけり
梅花渓夜々金泥の月上げぬ
泥眼の金泥を溶くつくつくし
浅草は地の金泥に寒夜かな
涅槃像金泥は目にあたたかし
玉虫に紺紙金泥の経を思ふ
盆過の紺紙金泥日課経
砂糖水金泥で経写し来て
紺紙なる金泥の蘭秋扇
経蔵や黴臭し紺紙金泥一切経
舞そめや金泥ひかる京扇
花楓紺紙金泥経くらきかも
蜘蛛の罠金泥の都会暮れなづむ
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子
襖絵の金泥寂びぬ春愁
金泥で書く波羅蜜の涼しさよ
金泥に塗り込めし死や大櫻
金泥に塗り込めたりし余寒かな
金泥に帯び描くことも冬安居
金泥に朱を落したる淑気かな
金泥の一巻を展べ春の海
金泥の仁王の乳首あをあらし
金泥の全身ねむる冬の鯉
金泥の屠蘇や朱塗の屠蘇の盃
金泥の月のぼりをり春怒濤
金泥の水の落日鳰くぐる
金泥の淡きもしるき夏書かな
金泥の無地の衝立春寒し
金泥の筆先乾く夏書かな
金泥の荒渦や人面を痺れしむ
金泥の菩薩刺さんと春の蚊が
金泥の額の古びや冬籠
金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盃
金泥もて枯葦描かむ久女の忌
金泥をもて描くべし豊の秋
金泥を塗られしごとき春の風邪
金泥を引きてゑがける青蕨
金泥を海に流せり盆の月
金泥を溶く夜桜の冷えのなか
金泥を練る箆や冴え返るなり
金泥経を出て凍蝶の吹かれけり
金泥経蔵して山の眠りゐる
雲のうら金泥ならむ初鴉
鷽替の鷽の金泥めでたけれ
燧灘銀泥延べし良夜かな
甘酒の銀泥怖るのんどかな
銀泥に撫子薄き扇かな
七月号としてルノアールの口絵
肌を焼く口絵のやうな女かな
七月号としてルノアールの口絵
クレパスで塗る節分の鬼の面
千歳飴下げしを描けクレパスに
啓蟄やクレパスで描く地平線
子よクレパスよ原子雲などぬりつぶせ
折れやすきクレパス沖縄慰霊の日
空描くクレパス太き新学期
ちゆうりつぷふとクレヨンの赤がない
クレヨンの全きはなし進級す
クレヨンの冬の魚骨のごとく散る
クレヨンの山どう歩いても狸は枯色
クレヨンの月が匂ひて無月かな
クレヨンの歩き出したる牡丹園
クレヨンの沈んでをりし芹の水
クレヨンの緑を選び花火描く
クレヨンの色も思ひ出血止草
クレヨンの金と銀とで塗る月夜
クレヨンの黄を麦秋のために折る
クレヨンの黒はまつ黒冬隣
クレヨンをもてをさならが筆始め
クレヨンを子ども怒りて雪に投ぐ
クレヨン一本曾我兄弟の泉の中
クレヨン画バッタの貌が落ちている
クレヨン画原色花火描きなぐり
囀りやクレヨン撒いてピカソ逝く
夏山を塗るクレヨンの匂ひけり
姉は嫁げりまたクレヨンの紙を剥く
就学猶予クレヨンポキポキ折りて泣きし
散るいてふすべて地を向くクレヨン画
春を待つ子のクレヨンは海を生み
病室の隅のクレヨン星祭
白鳥来子はクレヨンの荒づかひ
空色のクレヨン眠る五月かな
絵日記のクレヨンの上蟻過る
肌色のクレヨン探す亡父との夏
ゲルニカの牛の涙や春の雷
ゲルニカの馬にまたがり春の虹
ゲルニカ彩なき声の走る青野
一斉に首垂る片栗ゲルニカ忌
芭蕉照らす月ゲルニカの女の顔
陶板のゲルニカ原寸大や朱夏
原爆図の中の魔羅だし朧の夜
原爆図より罅走り出づ西日の壁
図中に黒い虹立ち窓に旱り星
天瓜粉つけし子原爆図を仰ぐ
桐の実鳴るありありと火の原爆図
白服に玄沁みもどる原爆図
禿頭映り真夏の原爆図
稗蒔や絹布に毛描きしてをられ
絹布団纏きつく老の怖さかな
絹布著て上に紙衣の羽織かな
ゴーギャンの女等の声鮑舟
ゴーギャンの海の景恋をすてに行く
ゴーギャンみて音失ヘり晩夏の街
ゴーギャンを母と涼しく見る日かな
ゴーギヤンに佇ち哭むまで梅雨明り
ゴーギヤンのたかぶり梅雨の夜ぞ酔はむ
罌粟散るよ半刻はゴーギヤンに佇しかな
うろこ雲ゴッホの教会動かざり
かちわりの氷崩るるゴッホの絵
ごつごつとゴツホ自画像羽抜鳥
せつせつにゴッホの郷や夏雲雀
ひまはりをゴツホのやうに活けてみし
まつすぐにゴッホの麦として伸びむ
ものの芽の渦巻き上がりゴッホの絵
オーバー重し太陽燃ゆるゴッホの絵
ゴッホが見し麦と鴉に阿蘇で遇ふ
ゴッホに弟蔦茂る墓ふれあひて
ゴッホの星八十八夜の木々の間に
ゴッホの画秋草くらき彩多し
ゴッホひとり死ぬためにある麦秋や空にかぞえきれぬ円あり
ゴッホ在らば画くべき橋の初茜
ゴッホ墓所南へ渡る鳥の群
ゴッホ来るごとし麦蒔を待つ畑
ゴツホの墓青蔦は地を這ふばかり
ゴツホの星八十八夜の木々の間に
ゴツホの渦かさねて炎ゆる黄葉かな
ゴツホの画そのままの橋麦熟るる
ゴツホの画秋草くらき彩多し
ゴツホの糸杉東風に逆立つ我が蓬髪
ゴツホの視線沁みし冬帽またかぶる
ゴツホの黄あたたむる胸愛の羽根
ゴツホ在らば画くべき橋の初茜
ゴツホ展へ流れ行く人涅槃西風
ゴツホ展出でまつすぐな夏木立
ゴツホ忌や麦生の彼方汽車通る
チユーリツプ散る一片はゴツホの耳
冬ざるるセザンヌの耳ゴツホの耳
凌霄花ゴツホの町は喉かわく
初日おとろふゴツホの耳をおもふとき
口笛ひゆうとゴツホ死にたるは夏か
向日葵の黄の純粋もゴッホ以後
向日葵や花に影なきゴッホの絵
園丁に蹤きてゴッホの向日葵へ
天地占め燃え立つゴツホの向日葵群
富士は孤高にゴッホの色のみかん採る
擁けば影も炎と燃ゆゴツホの忌
木枯のてっぺんにあるゴツホの耳
枯蓮はゴッホの素描空透ける
樹下涼しゴッホに似たるルンペン氏
毒へびのひそむゴッホの麦畑
水澄むやゴッホの火の眸我に見る
狂気てふ涼しさもありゴツホ展
病み臥す視野二月暦にゴッホの絵
秋夕焼ゴッホのいろを絞りきる
秋日溜めて画集のゴツホ反りにける
糸杉やゴツホにゆがむその西日
美術展に足音を消しゴッホの炎
美術論ゴッホに飛びて南瓜食ふ
耳なしのゴッホ芳一文化の日
耳袋ゴッホ生涯安堵なき
自称ゴッホ橋に絵を売る炎天下
読み返すゴツホの手紙麦の秋
贋物は暑しゴッホの向日葵よ
赤立つやただ一枚のゴツホの絵
郵便夫ゴツホの麦の上をくる
酒舗日覆一箇所裂かれゴツホの忌
銀杏黄葉拾ひゴッホの空に会ふ
雷火立つゴツホのタッチさながらに
青嶺星ゴッホの杉も谷に暮れ
青春のゴッホに似たり青みかん
麦の秋ゴツホ畫集を買つて帰る
麦の秋扱いて零すゴッホの彩
麦秋や丘の掲げしゴツホの日
麦秋をゴツホの鴉使者のごとく
黒き蝶ゴッホの耳を殺ぎに来る
クリスマス個展おのれの絵で飾る
個展いで薄暑たのしき街ゆくも
個展の絵到底難解初つばめ
個展終ヘパリより帰国夏帽子
嚏して個展しんかんとありしのみ
夏手袋して個展のテープ切る
木枯の個展二号に花咲かせ
松過や個展の椅子に深坐り
自画像をまじへて永き日の個展
しろ~と寝釈迦の顔の胡粉かな
乳絵馬の胡粉なまめく花の昼
古き代の胡粉真白き屏風かな
嗤ひつゝ胡粉こぼせり奪衣婆
孤座へ来て漆と膠と胡粉の蝉
山の雪胡粉をたゝきつけしごと
山吹や胡粉の見ゆる雨の後
煤掃くや胡粉剥げとぶ大法鼓
畫き得て八重撫子の胡粉かな
白々と寝釈迦の顔の胡粉かな
胡粉兀し人形や土の肌寒み
胡粉絵の白ら~として秋簾
蒲公英に胡粉こぼすや土細工
薬玉や杉戸に残る絵の胡粉
蟇の夜や父の鉄瓶胡粉吹く
衣紋師の胡粉暖簾や松飾
ゴヤの妄わたくしの妄懐手
ゴヤの画にとゞく秋灯暗かりし
ゴヤの裸婦ドガの踊り子水澄めり
ゴヤの裸婦一枚残し暦果つ
ゴヤを観て目の力抜くサングラス
扇づかひ時にせはしくゴヤを見る
木下闇自画像ゴヤの瞬ける
梅雨湿りゴヤの巨人の黒髪も
男を女をじゃがたらのごとゴヤ描けり
黒い絵の壁をめぐらしゴヤ寒し
うすものを着て彩色の水ごよみ
中華風彩色花火あがりけり
土佐がゑの彩色はげし須磨の秋
土用東風吹くや彩色道祖神
彩色は女の仕事葭障子
彩色は神の体温二重虹
朝顏の彩色薄き燈籠かな
油画の彩色多きあつさ哉
父を待つわたしのイコン夢彩色
秋風や彩色さむる塔の裏
繪襖の彩色兀ぬ冬籠
繪馬堂の彩色はげて初しくれ
花鳥の彩色のこす案山子かな
おぼろ濃く一挿絵めく道後の湯
挿絵めく赤提灯や酉の市
上段に土筆の挿し絵四月号
シーボルト挿し絵に遺す鯨曳
いびつなる自画像残し卒業す
うそ寒や自画像ばかり売れ残る
ごつごつとゴツホ自画像羽抜鳥
シュルル紀の死火山自画像新聞紙
ジェラシーめく自画像仰ぎ年あらた
レンブラント若き自画像青嵐
上を向く父の自画像紅葉冷え
描きかけの自画像と鶏頭
春雷や自画像の父瞬きぬ
是か非かとまれ五月の壁の自画像は
晩夏光自画像の目に射られけり
更衣イエローを自画像へ着せ
木下闇自画像ゴヤの瞬ける
柿照るや自画像すこし酔ふてをり
泳ぐ寐ざまの自画像死また涼しきや
灯蛾狂ひ自画像の眼へとびうつる
目円に自画像成りぬ秋晴れて
自画像が我を見てゐる春隣
自画像にぶつけてしまひ年の豆
自画像に一匹加う深海魚
自画像に入れてもらへる田螺鳴く
自画像に刹那刹那の死を封じ込めしメイプルソープトシーレ
自画像に月くもりなき窓の夏
自画像に笑窪を残し卒業す
自画像のごとき羅漢や華鬘咲く
自画像のしづかな狂気さくら満つ
自画像のその前にあり寒卵
自画像の前で笑へり九月尽
自画像の問ひかけてくる夜長かな
自画像の如き鰍を齧りけり
自画像の子の首細し柿の花
自画像の息詰めてをりねじあやめ
自画像の昏き時代の銀河かな
自画像の皺ひとつ消し秋うらら
自画像の背景どれも朧なる
自画像の視線に射られ春の風邪
自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ
自画像は描かぬと決めて鰯雲
自画像をまじへて永き日の個展
自画像を飛びし黒点夜の蠅
芍薬や自画像の鼻特に良き
荒磯を来て自画像を塗りつぶす
蛞蝓を我が自画像として眺む
追悼展冬帽のその自画像も
頬燃えて自画像出来ぬ卒業す
風紋は砂の自画像鰯雲
鳳眼の子規が自画像獺祭忌
うち立てて七夕色紙散るもあり
くれなゐの色紙を選ぶ筆始
しろしろと色紙の雛の余白あり
たなばたの結ふ間も舞へる色紙かな
たなばたの色紙の中に結ふ手かな
はつ雁に几張のかげの色紙かな
まだ書かぬ七夕色紙重ねあり
七夕の色紙いちまい妻にくれよ
七夕の色紙と吾子とちらばれる
七夕の色紙ゆふ手のあひにけり
七夕の色紙分つ妹かな
七夕の色紙結ふ手のあひにけり
七夕や京の色紙を買ひにやる
七夕竹立つるや色紙地にのこる
七夕竹色紙疎らの枝長く
五月雨や色紙はげたる古屏風
五月雨や色紙へぎたる壁の跡
仲秋や師の色紙見ゆ山の家
凧の尾の色紙川に吹かれけり
初売や金地の色紙店頭に
初旅に買ひし藺草の色紙掛
墨すつてをり七夕の色紙あり
大仰に色紙裂いたる牡丹かな
天地なき金の色紙に筆始め
寒木瓜の色紙を掛けぬ夫見ませ
年酒享く色紙にじむを片寄せて
恋ゆゑや花見の場の色紙売り
恋歌を色紙に貰ふ西行忌
戴きし色紙に礼し敏雄の忌
手術受く七夕色紙書きのこし
撓ふ竹七夕色紙つけすぎる
文字細の晶子色紙や夜の秋
春立つと色紙を買へり決戦下
機下鮮明色紙並べゆく植田
流れ寄る笹の色紙を読まんとす
淑気満つ替ふる色紙の金砂子
秋もはや小倉色紙の隣まで
秋蝉に墨痕著るき掛色紙
箔燒けて萩の模樣や古色紙
色紙のいろのはなるる川施餓鬼
色紙は折られて花に雪の夜
色紙ほどの大きさの町巻という
色紙や色好みの家に筆はじめ
色紙結ふ笹枯れ早き日和かな
苗代の色紙に遊ぶかハづかな
苗代や短冊形と色紙形
茶の間にも桃の色紙や雛の宿
虎落笛色紙一枚約果す
錦帳に春暮れて行色紙哉
露地もみぢ映えて行成色紙読む
鮎宿の色紙吉川英治かな
どこか放浪の雨に咲くモネの睡蓮
まなうらにモネの睡蓮盛夏くる
キャンパスのモネの睡蓮マネの芝
コスモスの気ままに咲いてモネの色
マネの髭モネの髯秋深みたる
モネに佇つ糟糠の香と香水と
モネの絵に電話が鳴つて春の雪
モネの絵の池畔を散歩夢はじめ
モネの絵も海も模糊たり花曇
モネよりも池の明るき未草
モネを観てミロ観て都会日短か
モネ展へ娘と待ち合はす花の雨
モネ展を出て睡蓮の黄にかがむ
モネ旧居祖国と同じ草の花
モネ晩年の睡蓮の闇水中に
モネ色の夕空籠に寒卵
喪の友にモネ絵葉書を寒見舞
日盛を来て会ふモネの睡蓮に
果て弘法露店にモネもセザンヌも
水蓮や時代過ぎてもモネ、その美
河はモネの彩得つつあり朝ぐもり
湖の朝焼けモネの女ら霧に消える
睡蓮のモネより密に昏れなづむ
秋水の底よりモネの眼を拾ふ
花冷や印象派展モネの青
キャンパスのモネの睡蓮マネの芝
マネの髭モネの髯秋深みたる
あやめむらさき死んだピカソも半裸なれ
どこからも見ているピカソ冬日和
ばらばらのピカソの顔や木の芽風
めくばせはピカソの絵より今朝の秋
ジグソーパズルの海の一片ピカソの忌
セロリ噛む青の時代のピカソ見て
ピカソのこと読みし新聞に葱つつむ
ピカソの女ににらまれ落花生を食ふ
ピカソの忌蓮根縦に切つてみる
ピカソの皿こめかみの汗森で乾く
ピカソの目ひとつあまりて去年今年
ピカソの絵ここぞ秋暑につきあたり
ピカソの絵片目で桜見て居りぬ
ピカソの絵皿が見ている地球の裏側
ピカソの馬寒馬となれり大都会
ピカソみる同じ傾斜の夏帽子
ピカソより見事に置かれ福笑
ピカソ展うしろに誰かゐる遅日
ピカソ展マスクの僧とすれ違ふ
ピカソ展出て蜜豆の店に入る
ピカソ展出て蟷螂の貌に遇ふ
ピカソ展若葉に染まる人の列
ピカソ忌の萩寺尿意しきりなり
ピカソ忌の蓮根縦に切つてみる
ピカソ春に死し夏はての船首の牛頭
ピカソ絵に似し夏痩の乳を吸へ
ピカソ見る人を見てをり霧なき日
ピカソ館出て炎天を登りゆく
ポロシャツにピカソの片目海開き
下じきはピカソの青色初日記
囀りやクレヨン撒いてピカソ逝く
夏出水ピカソがそつと泣くことも
孫の絵のいつまでピカソ木々芽吹く
寄居虫とピカソの青を持ちて来し
小春日や隣家の犬の名はピカソ
少年ありピカソの青の中に病む
日焼けしてピカソの生家通りけり
日盛りやピカソ展出て腹へりぬ
星流れピカソ一枚やぶきけり
春一番ちぐはぐにあるピカソの目
春愁やひとつあまれるピカソの目
松葉蟹たべてピカソの話など
梟好きピカソの遊びごころの壺
水仙は微光ピカソの目も微光
灼熱のスペインガウディ・ミロ・ピカソ
画室では父もピカソも裸身なり
白南風や片目大きなピカソの絵
皿の裏までピカソが遊ぶ日永かな
眼光はピカソのごとし羽抜鶏
秋暑しピカソ展出て目の疲れ
秋灯下ピカソの女何を見る
稲妻にピカソの目鼻とびちがひ
紙屑のピカソも燃ゆるわが焚火
紫雲英田に鴉の黒衣ピカソ逝く
老い知らぬピカソも逝きぬ紫木蓮
背後からピカソの片目サラダ盛る
花ざくろピカソ嫌ひは肉嫌ひ
花粉症のまなこ瞠きピカソ観る
蛍合戦ピカソ描けば如何な絵ぞ
蛍火にピカソの目鼻とびちがひ
蛤の十まり提げてピカソ展
蝌蚪うごめくピカソの訃報伝へ来て
贋作のピカソを愛す年の暮
釉厚きピカソの皿や山笑ふ
雨傘握る九月ピカソの絵の前も
青嵐ピカソを見つけたのは誰
餅の耳硬しその後のピカソを見ず
館五月陰翳ふかきピカソの絵
駒鳥にパブロ・ピカソの青入れぬ
鷲とともに駆けおりて来るピカソの目
ルノアールの裸婦と私とカンナ燃ゆ
ルノアールの裸婦は虹色冬に入る
七月号としてルノアールの口絵
マラソン青年ルソーの冬の森を抜け
ルソーの森巻き込む旅の手紙かな
星月夜ルソーの獣笑ひをり
月曜のルソーの絵より水ぬるむ
紫木蓮アンリ・ルソーの馬車とまる
緑蔭にルソーの猿を呼んでをり
シャガールの月にビュッフェの一枯木
ビュッフェの垂線に蜘蛛垂りにけり
ビュッフェ館へ道の裸木線描画
冬景色殊にビュッフェの垂直線
切り刻むビュッフェの描線卓と百合
落日のビュッフェの裸木殺到す
へらへらとマチスの女葡萄食ふ
アマリリス描く老画家の師はマチス
ダリア咲くマチスの赤をふんだんに
マチスの家マチスの椅子や冬日差す
マチスの朱身に欲り初夏の風の中
マチスよりモネヘとすすむ絹扇
マチス裸婦親しみやすく明易し
冷房やマチスてふ絵の真偽知らず
子蜥蜴やマチスの赤き絵にも這へ
春暖炉マチスの赤き絵が眠し
曼珠沙華マチスは部屋をくれなゐに
銀杏散るマチスの光滴らせ
鋤鍬倚り添ふパウル・クレー的帰帆
雪にひらくパウル・クレーの線描集
ふらここにとびのるミロの女かな
ミロの絵に廻れる火輪涼しかり
ミロの絵をわが絵とかへし壁の秋
ミロの鳥浮かれだしたる夕立かな
モネを観てミロ観て都会日短か
吾亦紅ミロの構図を想ひをり
灼熱のスペインガウディ・ミロ・ピカソ
初富士や偽大観と引き比べ
大観の墳へ七つの春の石
大観の黒の一筆冬に入る
大観居門を洗へば鴨のこゑ
白魚飯大観の濤とがりをり
色変へぬ松や横山大観展
花たたなはり大観の朦朧体
贋大観ものともせざる秋の宿
松園の絵雛更けゆく温め鮓
*さ夫藍の白咲きつづき志功の死
こんなところに志功跣の神・仏
その奔放夕立に似たり志功の書
ななかまど燃えたつ赤や志功の忌
ねぶた好き近眼志功の五日弟子
はつ春や志功の女人壁にあり
ふくよかな志功の菩薩涅槃西風
一羽寒志功烏の塒指す
八十八夜すぎし志功の菩薩たち
冬ぬくし志功の仏臍出して
夜桜へ志功の菩薩うかれ出づ
大き眼の版画の菩薩志功の忌
寒灯や掘出し市の偽志功
志功の家に猫窓ふたつ萩ゆれる
志功天女はりんごの乳房冬隣
志功展出て陽炎につまづけり
志功彫る波乗り菩薩夏座敷
志功忌の大秋晴となりにけり
志功忌や版木にのこる油煙艶
志功描く釈迦十弟子図玉椿
春の灯や頬をあからめ志功の画
春闌けて志功菩薩は聖女とも
晩春の地震や志功版画展
椿咲きただれ志功のゆかり寺
灯下親し志功いよいよ眼鏡ずれ
紅を刷く志功の天女酔芙蓉
義仲寺の志功の墨絵春なかば
花りんごみんな志功の笑みになる
貧書斎志功菩薩も冬ごもり
里若葉棟方志功の光徳寺
野紺菊志功耕衣の丸眼鏡
雪掻きし火照りや志功観世音
露滲む棟方志功善知鳥の図
紅萩の枝八方へ棟方忌
里若葉棟方志功の光徳寺
露滲む棟方志功善知鳥の図
寄せ描きの観山武山冬座敷
レンブラント若き自画像青嵐
懐炉あつしレンブラントの絵を過ぎて
石榴裂けレンブラントの夜の暗さ
老醜のレンブラント自像身にしむや
ぶらんこの飛び出すブリューゲルの窓
ブリューゲルのビア樽男ビール酌む
ブリユーゲルの雪景色あり喪服着る
ボテロ描きしモナリザでぶで汗ばめり
一政の上目使ひの鮃かな
一政の心頭の薔薇真くれなゐ
一政の龍三郎の得手の薔薇
一政の背文字太かり桜草
ぬつくりと雪舟に乗りたる憎さかな
八甲田颪逆毛立つなり雪舟の犬
団栗と枯檜葉の降る雪舟碑
墨絵めく霧の山河や雪舟忌
夜明けしが雲いや重し雪舟走る
手囲ひに灯明ともし雪舟忌
月出づるけはひ雪舟道のひた下り
月雲に入りて雪舟飛ぶ事早し
水仙に鼬とぶなり雪舟寺
牡丹雪舟ゆく川の上といはず
現し世の野をゆくわれは雪舟ならむ
睡蓮の黄色ばかりや雪舟庭
紋付鳥雪舟石庭石づたひ
茶会果て雪舟庭の秋惜しむ
雪舟の不二雪信が佐野いづれか寒き
雪舟の寺の玉虫飛びにけり
雪舟の山水のなか落葉焚く
雪舟の庭と伝へて秋の暮
雪舟の庭の素朴にけむり茸
雪舟の庭の荒れやう石蕗の花
雪舟の庭見に来しが雪の下
雪舟の止宿の跡や竹落葉
雪舟の水と霞の勝景図
雪舟の達磨の前の牡丹かな
雪舟は多くのこらず秋螢
雪舟着いてどや~と立つ囲炉裏人
雪舟走りなかなる人をうたはしむ
飛ぶが如き雪舟をさへぎるものもなし
黒揚羽雪舟の海わたりけり
暮雪の軸雪村八十二歳筆
滝に皺入りて雪村観瀑圖
着膨れて解説雪村贔屓かな
雪村の鯉にまたがりゐし夢か
探幽の襖の鳥の飛ぶことよ
探幽があけぼのゝ夢や子規
探幽の襖を通る青葉風
目借時狩野の襖絵古りに古り
桔梗活けて屏風は狩野の繋馬
狩野派の襖絵四方に黴にほふ
秋雨や鷺を描きて狩野代々
狩野派を一幅吊りて扇風機
高山陣屋等伯ぶりに雪吊松
等伯の松剛直に秋草図
絹本の墨色浅し一蝶忌
萍のさそひ合せておどり哉
ひたと犬の啼町越えて躍かな
四五人に月落かゝるおどり哉
お風入れ丸山応挙は虎が得手
かくて住みし応挙ぞと知る寺冬木
化けないでわれなら殺す応挙の忌
干蕨応挙の鯉の直立し
応挙忌や眠れぬままに絵筆とり
戸袋の鴛鴦の引手や応挙の忌
斑雪嶺を仰ぎ応挙の絵を見たり
春山の日のこぼれくる応挙寺
曝涼の応挙の虎に真向へる
波音や応挙の銀の屏風より
芭蕉葉に遊ぶ犬の仔応挙寺
贋作と知りつつ掛けて応挙の忌
早稲の風とどく蘆雪の波濤絵図
波濤図の襖絵曝す蘆雪寺
柿の木に吊す茶釜も竹田忌
筆洗の水かつてあり竹田忌
目まとひに好かる田能村竹田碑
四君子の軸の薫りや竹田忌
開けてある草際吟舎竹田忌
入会山は夕日の伏籠若冲忌
初鶏に和す若冲の尾長鶏
女あるじひとりの旧家若冲忌
巻貝の置物しんと若冲忌
若冲忌鯉に遊ばせ貰ひをり
鶏頭の駈けだしさうな若冲忌
浦島草蕭白好みの画材にて
石濤に既に狎れつつ玉霰
石濤の歩に従ひて草枯るる
石濤を遠き冬木の隠すなし
返り花石濤の手に濃かりけり
むかし妻と牧谿の柿のごとをりし
牧谿の虎濛々と去年今年
牧谿猿蟹捕へんと身を乗り出す
日永なる仙厓の猫いや虎圖
*りょう喨と松のうたへり光悦忌
あけぼのの雲にちからや光悦忌
すつぽんの雑炊すする光悦忌
どうだんの芽のちかちかと光悦寺
にはたづみ蝉の落ちたる光悦寺
一礼の衿きよらなり光悦忌
人形の髪の伸びしよ光悦忌
今の世の流行文化光悦忌
光悦が惜みし秋を惜みけり
光悦が筆硯の間の茶立虫
光悦の加賀への手紙謡初
光悦の垣根華やぐ夕時雨
光悦の墓前にふくら雀かな
光悦の方へ傾き杜若
光悦の笛筒凜と能始
光悦の話ちらりと薄紅葉
光悦の蹲踞といひ花の雨
光悦垣の影のたまゆら苔の花
光悦垣苔厚くして萩のこり
光悦寺余す年木の雪かげろふ
光悦寺冬鶯が鳴きにけり
光悦寺冬鶯が鳴きゐたる
光悦寺垣にさされり竹落葉
光悦寺垣に殻透きかたつむり
光悦忌丹塗りの鞘に潜むもの
光悦忌羽織の紐に風すこし
六月の藪鶯や光悦寺
刈らである萩に光悦垣あらた
初冬の苔枯れ寂びぬ光悦寺
剪定の縄光悦の墓に垂れ
口切や光悦垣の竹替へて
句仇は庭師でありし光悦忌
唇に酒の金箔光悦忌
喨喨と松のうたへり光悦忌
定紋の金泥の艶光悦忌
寒菊やなほなつかしき光悦寺
山二つかたみに時雨れ光悦寺
山椒喰光悦の釜はいと寂びたり
山鳩の脚のももいろ光悦忌
捧げ持つ青磁の一壺光悦忌
旅人の耳に秋声光悦寺
春日万燈灯し華やぐ光悦忌
本阿彌光悦卯月は如何なもの着しや
松山に春の日はあり光悦寺
水の面のかげりやすさよ光悦忌
洛北の径知り来つ光悦忌
流れざる墨のゆくへや光悦忌
流れゆく墨の行方や光悦忌
浮かれ猫光悦垣をぐらつかす
炭火よりひとつ火が撥ね光悦忌
男不惑ひたひた寄せる光悦忌
白玉の一花を壺に光悦忌
瞭喨と松のうたへり光悦忌
秋晴れて竹伐る音や光悦寺
紅葉よりも芒のうれし光悦寺
繕うてありし茶碗や光悦忌
繭玉にかかる小雪や光悦寺
萩は実に光悦寺垣濡れて低し
萩刈られ光悦垣に日の溢る
蒲団干す三軒先に光悦寺
蒼空の松の雪解や光悦寺
貝の名に鳥やさくらや光悦忌
銀屏に萩を焚く火や光悦寺
雉子啼や藪のうしろの光悦寺
雨うそが鳴いて夕べの光悦寺
雨の萩雨の芒も光悦寺
雪折の竹をくゞれば光悦寺
鳶の輪のあとかたもなし光悦忌
鼻紙を櫻紙とも光悦忌
いなびかり海にささりて宗達忌
宗達の竹描の象身に沁みぬ
宗達の象のかぎよる菫かな
宗達忌おときの椀の菊模様
宗達銀杏光琳紅葉焚火あと
富士見たし宗達見たし百千鳥
峰に立ち画帳を開く宗達忌
花寄せに白蓮生けて宗達忌
雷嫌ひ宗達の絵も祓ひけり
風神も雷神も来よ宗達忌
かうかうと孔雀の鳴けり光琳忌
かへるでの花の紅さの光琳忌
しきたへの光琳笹や桜鯛
しろがねに川昏れ残る光琳忌
なかなかに水の暮れざる光琳忌
ゆるやかに光琳模様泉より
光琳の屏風の梅の香なりけり
光琳の梅にしぶきを
光琳の金屏の前に祝はれし
光琳やうつくしき水に白千鳥
光琳や水紺青に白千鳥
光琳図見むと縫ひゆく庭の梅
光琳忌きらゝかに紙魚走りけり
光琳忌水すれすれに錦恋
夕霙光琳笹を鳴らし過ぐ
宗達銀杏光琳紅葉焚火あと
寒梅や光琳波を寄せ付けず
寺座敷光琳かるた撒かれけり
抱一のたてし墓とよ光琳忌
持つ壺のひとつを恋ヘり光琳忌
敷松葉光琳笹を配したる
春の水光琳模様ゑがきつつ
春寒き光琳屏風水流る
月の村光琳の川溢れしめ
染め刷毛を洗ひてをりぬ光琳忌
梅の図の光琳写し雛屏風
梅園の奥光琳図顕ちにけり
武具飾る光琳水を庭先に
洛北の径知り来つ光琳忌
狩たのし光琳笹を箸に折り
白壁にあをじ映れる光琳忌
簗の簀の光琳波に落鰻
米洗ひたるのち灯す光琳忌
紫陽花に日照雨すぎゆく光琳忌
紫陽花のやうやく濃ゆし光琳忌
絵の道に立つべかりしが光琳忌
群青をゆたかに溶かし光琳忌
舟に剪るながき菖蒲や光琳忌
芒まだ青い草なり光琳忌
草田男眸つむり光琳笹も夕焼けぬ
蒔絵してその日暮しや光琳忌
薄紙に漉きこむ鳳蝶光琳忌
西海の浦の鏡や光琳忌
邯鄲の声まろび来て光琳画
雪解水光琳笹に奏でをり
風花や光琳笹のほぐれ合ふ
鯊釣るや光琳波に湖凪いで
乾山の彼の鉢出でぬ笹粽
乾山の窯もあがりて新茶かな
秋惜む歩を仁清へ乾山へ
贋作の乾山を置く涼しさよ
何菩薩春愁華岳ゑがきける
からす瓜芋銭旧居へみち細り
三椏の蕾ふくらむ芋銭の居
夏料理壁に芋銭の河童掛け
夏書して芋銭の文字にあそびけり
梅雨湿り芋銭の河童百図かな
涸沼の風粛々と芋銭の忌
炬燵して芋銭の狐隊行圖
笹鳴や芋銭旧居の大硯
芋銭の碑夜は狐火と踊らむか
芋銭子の鮒に泥鰌に水温む
芋銭忌の丹波にもある一座かな
芋銭河童に踵のありて彼岸西風
蓬莱の芋銭の一書掛け句会
蓴菜に酒汲みにけり芋銭の忌
鯰捕芋銭旧居の人なりし
山雨来て水車勢へり玉堂忌
玉堂の昔の川の夏の音
玉堂の画室色なき風とほる
玉堂館ほたるぶくろをさはに活く
九十鉄斎九十北斎春の蠅
事もあらうに大年の鉄斎忌
四図の墨豊かなり鉄斎忌
手強さと手強さ違ふ鉄斎忌
蝿虎鉄斎の書にはしりけり
鉄斎の真贋は真この淑気
鉄斎へ汗念力の膝がしら
鉄斎を背の春火桶おちつけず
一政の龍三郎の得手の薔薇
対座して梅原先生日脚のぶ
虹立てり青木繁も見し海に
劉生が描きし童女とこれの桃
劉生忌タータービーフ酒なくば
方墳の枯れのまんまる劉生忌
春昼や劉生描く童女像
春潮やひねたる蜜柑子等と喰ふ
正月や鎌倉山の松の色
蓮華摘む劉生童児童女かも
見通しのよき川に出て劉生忌
藤田の猫ボナールの犬あたたかき
リラ冷えに嗣治居そうで
嗣治の猫にも存問し館小春
かたつむり夢二生家は草匂ふ
ぽつぺんを吹けば夢二の女に似
コスモスの残花ひなひな夢二の家
六月の細き雨降る夢二展
凌霄花後ろの正面夢二かな
口紅をかへて出かけて夢二の忌
夏帽子夢二のいろとおもひけり
夢二つ彼方に運ぶ野分かな
夢二展出でて日傘を回しけり
夢二忌の画集と詩集並べたる
夢二忌の銀座に最中買ひてをり
夢二忌や白雲尽くる時もなし
夾竹桃夢二の甃の坂いまも
娘にも俳句作らせ夢二の忌
小海線松虫草も夢二の忌
山雀よ主義者夢二を呼んでいる
抱けば撓う夢二の女秋海棠
振り返る夢二の少女柳絮飛ぶ
新年の千のひとみの夢二展
春の山肩なだらかに夢二の郷
春光や夢二のうなじほのあかき
月見草夢二生家と知られけり
母召され残る手毬と夢二の絵
潮鳴りの芭蕉玉解く夢二の碑
猫は寝てばかり夢二の忌なりけり
白靴にはきかへて行く夢二展
秋の蚊や夢二の描く美人像
秋草のどれも頸長夢二の忌
秋闌けし夢二館の月見草
竜胆や瞳の蒼き夢二の画
繭玉のしだれて触るる夢二の絵
花からたち岳父に夢二の切抜帳
花芒抱いて夢二の絵となりぬ
茂次郎もお江戸ぢや夢二亀鳴けり
茘枝の実はじけて夢二生家かな
菓子つつむ伊勢千代紙や夢二の忌
萩咲いて絵が満つ夢二記念館
蘆花夢二のぼりし磴の日傘かな
螢袋夢二の面長乙女めき
行く秋や夢二の墓に一升瓶
遠く来て夢二生家の黒揚羽
雪の街夢二が描きて暖かし
雪をんな佇ちたるあとか夢二の碑
青松虫鳴く山荘も夢二遺居
木枯を来たり槐多の赤に佇つ
秋蝉や槐多の裸僧真赤なり
魁夷逝く白馬の湖の新樹光
夏霧や魁夷の白馬木の間より
魁夷逝く立夏の道の白かりき
炎の龍子露の茅舎や白絣
この空や鳥も渡らず大地獄
慈雨到る君の陸稲に及びしや
春蘭に松の落葉の深々と
春雨や大利根上る川蒸汽
福引の紙紐の端ちよと赤く
茘枝裂けて肉醤むしろ凄じく
清方の八百屋お七の紅の涼
清方のほゝづきの絵のほゝづき鳴る
青芭蕉煽らるる日の清方展
鏑木清方風も描きて納涼図
鎌倉に清方住めり春の雨
あかがねの雨樋秋の蓬春邸
蝉音断ち靫彦の釈迦説法図
百穂館窓に根太の枝垂れ桜
幹赤く守一夏の木を画ける
死を知らずよべ望月を海の中
香月のシベリア仕込みの零下の黒
黒き顔黒き手眠るツンドラに
ツンドラの軍隊毛布を抜け霊魂
鉄格子掴む手の奥黒瞳
黒き列粗密にシベリア復員図
ツンドラの黒き太陽地平線
シベリアが叩き込む黒埋葬図
お手製絵具木炭で描く虜囚の顔
再生の戦場に降る銀の雨
アトリエにも有刺鉄線雪が降る
函を負ふ黒きフォルムは運ぶ人
青葉もりもりサンジュアンの樹
真四角な青空蟻の巣穴より
ドガの絵を抜け来踊子炉へ屈む
ドガ展出て籐椅子過不足なくきしむ
ゴヤの裸婦ドガの踊り子水澄めり
さくらんぼルオーの昏きをんなたち
ルオーの王のごとき農夫や晩稲刈
ルオーの絵一枚ほしき春炉の上
ルオーの絵見しよりオーバー重たしや
ルオーの絵貼る百姓家薬喰
ルオーの黒佐伯の黒や冬立てり
ルオー描かば明るしや「杭ある冬の庭」
冬の終りルオーのやうな哀しさで
凧の絵にルオーのキリスト描かばや
友来たる花はなければルオーの絵
夕百舌やかがやくルオー観て来たり
子と寝落つ秋のルオーの森ぬけて
寒木を挽く音ルオーの絵にある音
春月のいつかルオーの聖女かな
晴れた日のルオーの黒と喉湿布
末枯れて朱焔の日ありルオー展
烏瓜のやうなルオーの月のぼる
爛々と二月の夕陽ルオー死す
田螺鳴くルオーの日いま宙にあり
稲妻の最中に訪はれルオーの論
落葉焚く浮浪児にルオーの太陽なし
蔦茂る酒場にルオーのキリストが
踏むならばルオーの蒼き基督を
逝きしルオーの絵と思ひまた長く佇つ
金雀枝や壁のルオーの痩聖者
雪の日のルオーの原色チンドン屋
また冬がくるぞムンクの絵の淵に
ムンクの叫び山茶花の散りやまず
ムンクの絵観し目も耳も青嵐
五月鯉ムンク叫びの大口で
兎の目よりもムンクの嫉妬の目
午后九時の西日紅蓮にムンクの町
帆船にムンクの貌のある白夜
春の闇あまたのムンク口あけて
末黒野に残るムンクの赤い空
枯れきるやムンクの夢にゐるごとく
炎昼の秩父ムンクの叫びあり
炎昼の追ひかけてくるムンクの目
絵葉書のムンクの叫び半夏生
花こぶし汽笛はムンクの叫びかな
難民はムンクの叫び冬が来る
鴟尾くろしムンクの景に重なれば
フェルメールの絵の中に絵や遊蝶花
石廊崎沖ターナーの冬白浪
酷評に怯まぬ錦秋球子富士
片岡球子ドカンと冠雪富士を置く
谷戸を風抜けて四温の遊亀邸
遊亀展の白寿の画業涼しけれ
啓蟄の蟻と写楽の大首絵
扇風機ぐらり写楽の大首絵
風呂吹やすっと消えたる大首絵
あをあをと暮るるも露の広重忌
ぶつかけの深川めしや広重忌
吹き晴れしあとの夕空広重忌
広重が描きし位置にて青あらし
広重忌紺の暖簾に日照雨降る
手賀沼に横降りの雨広重忌
昏れる稜線広重タッチの春霖行
松籟の御油赤坂や広重忌
海道の秋風爽やか広重忌
瀬田の橋くぐる水澄む広重忌
留女の藤沢宿図広重忌
箱根越え胸毛の馬子図広重忌
谷空に杉の鉾立広重忌
降り出してすぐざざ降りや広重忌
国貞の描ける女河豚の宿
春泥や絵は豊国に陥りて
豊国の春駒の図の女人たち
豊国やよるの椿の落る音
豊国忌浮世絵の世ぞなつかしき
ゆき違ふ姉弟の春信銭憂ふ
春信や佃に棲んで船を見て
春信のいたるところに藤さかり
ある書肆の写楽に神田祭かな
うらゝかや写楽顔して泣き羅漢
すずしさは写楽の顎のあたりより
まなじりの写楽ぶりなる案山子かな
ゆく春や写楽を憎む芝居者
写楽のやうな顔で羽子板市へゆく
写楽の目ぎりぎり寄って絵双六
写楽の絵おとがひ長く枯梗挿し
写楽の絵見てゐる春の蚊きいて
写楽の顔背中で踊る阿波踊
写楽似が顎撫でてゐる濁り酒
写楽画の変化ちぬるを菊に見ぬ
写楽顔して白鳥の首あげし
初空や北斎の青写楽の朱
別の手が出て写楽買ふ羽子の市
句じるまみだらのマリアと写楽り
台風の近づく夜なり写楽の手
啓蟄の蟻と写楽の大首絵
囓られし写楽の顔や嫁が君
団扇絵の写楽の風に負けてをり
壁の絵の写楽に湯ざめうつりけり
夏痩せて写楽の顎となりにけり
夜鷹蕎麦すすり写楽の顔をせり
扇風機ぐらり写楽の大首絵
春めきて写楽の描きし男かな
春一番写楽の顔で吹かれをり
春暑しわれも持ちたる写楽の鼻
春暑し我も持ちたる写楽の鼻
東洲斎写楽頤出しもぐら打つ
極彩の写楽を乗せていかのぼり
残暑日々写楽はとほと顎を出す
毬あぢさゐ例はば写楽の役者顔
永き日の写楽は顎に暮色溜め
汗しとど写楽の目して口をして
焦げくさき町を離れし写楽かな
牡蛎料理つるりと吸うて写楽の絵
秋の暮わが半顔は写楽の絵
秋灯下ひらく写楽のきらゝ摺
立冬や写楽が微温湯を出る
絵団扇の写楽の鼻や風もらふ
網棚に写楽眇の福袋
羽子板の写楽うつしやわれも欲し
羽子板をはみ出してゐる写楽の目
菊に見る写楽画怪をきはめたる
菊に見る写楽画雲母をおしみなく
行く春や写楽を憎む芝居者
軽暖や写楽十枚ずいと見て
酷暑なり写楽の貌をして歩む
雪のかがやき写楽絵のまづ浮かれ
顔あつめ写楽となりてばいまはし
鬱然と写楽の鼻の寒さかな
黐散りぬ見得の写楽の終焉地
齧じられし写楽の顔や嫁が君
あぶな絵をなりはひにして歌麿忌
おばしまの女匂へり歌麿忌
トラックの胴に歌麿冬ざるる
ニツポニア・ニツポンしきしき歌麿忌
ロンドンの歌麿展や秋うらら
人はみな遠世のことを歌麿忌
半衿の鹿の子絞りや歌麿忌
歌麿といふ菊愛し菊花展
歌麿の十幾枚と丸火桶
歌麿の墓の鶏頭真つ盛り
歌麿の女背高き団扇かな
歌麿の美人は紙魚に犯されし
羅かけし屏風に透きて歌麿畫
雪をんな歌麿のかほで目が光る
国芳の浮世風刺画水中花
国芳の肉筆美人門涼み
幕末絵師国芳ひろぐ怪奇の涼
髑髏圖も弱冷房裡国芳展
蝿虎即暁斎のかみつき貌
蕪の禅画禅味の風吹かす
涯の湖ルドンの舟となるまで漕げ
渦潮や真上に滲むルドンの目
逃水の消えたる宙にルドンの目
ふくろふの眼ルドンの森深し
アネモネに油玉のやうなルドンの眼
水芭蕉昏れてコローの森となる
ドーミエの顔ことごとく春酒場
笛の音のやうな名前のピサロの絵
緑蔭の水辺明るきピサロの絵
セザンヌと林檎のごと一生君も釘打て靴に
セザンヌの使はぬ色の初筑波
セザンヌの描きし色味春北風
セザンヌの林檎小さき巴里に来て
セザンヌの筆の余白に秋の声
セザンヌの絵画と同じ秋果買ふ
セザンヌの裸体習作深む秋
菊見るやまだセザンヌに憑かれゐて
虹りゆく朝半宵丁にセザンヌるかな
雪きびしセザンヌ老残の記を読めり
雪靴をもてセザンヌの前に立つ
果て弘法露店にモネもセザンヌも
鳥渡るセザンヌの山ミレーの田
冬ざるるセザンヌの耳ゴツホの耳
無花果に彳ちセザンヌを見し記憶
光の蝶スーラの道をよぎりたる
クリムトの接吻夏の兆しけり
ロートレツク見し目を解きて菊日和
蝶々蝶々カンヂンスキーの画集が着いた
藤田の猫ボナールの犬あたたかき
木枯らしに暮れてモンドリアンの木々
秋の暮モディリアーニが鰯煮る
モデイリアーニの女五月の水あかり
キリコ・退却してゆく臓器
キリコ灯籠くるりと夜空回しけり
ダリの青キリコの赤と咳けり
暮早しキリコの少女ゐる街も
白昼の背後から来るキリコの黒
ちぎれ凧吹きとび牛の目まばたく
クローバの風に眼細む産後牛
仔牛の目かやつり草にかこまれて
仔牛の目涼しく水を飲みをはる
元日の牛の瞳ぬれて啼きにけり
友が持つ牛の眼五十と薯の花
受胎してじっとして夜の牛の眼玉
受胎して眸やさしき牛冷やす
吠えて牛は巨き目をして母に叱られて故郷の痩せ
喜雨の中戻りし牛のやさしき目
天牛の小草に眼濡れて醒む
妹と母うち解けぬ故郷の牛の大きい静かな目
屠牛場の屋根なき門や夏木立
日脚伸ぶ牛飼いの目は牛に似て
春の雲貨車に積まれし牛の瞳に
晩夏光牛の瞳に収まりぬ
曲り家の牛の目やさし辛夷咲く
枯野牛雲とびとびの伏目がち
炉話の百貫目とは牛のこと
牛の目はいまも寄り目に秋の風
牛の眼が人を疑ふ露の中
牛の眼なつかしく堤の夕の行きずり
牛の眼に広がりてゐる春の野辺
牛の眼に笊を溢るる水澄めり
牛の眼に雲燃えをはる秋の暮
牛の眼のかくるゝばかり懸葵
牛の眼の春の落日よりも大き
牛の眼を金の虻すぎ五月来ぬ
牛の瞳の中へ入りゆき注連飾る
牛よりも貧しき目もて秋惜む
牛売りし夜の眼くもらす根深汁
甘藷掘りを牛はかなしき瞳もて待つ
白南風の牛はさびしき眼せる
目貼剥ぐ小農牛の眼に高し
眼のまはりに虻つけて牛こちら向く
祭笠着て牛の瞳のもの思ふ
竹林の牛の眼よ余震しきりふる
笞受く牛目使ひや春の泥
綿虫やむらさき澄める仔牛の眼
緑蔭の人の目濁り牛角力
耕牛おそろし打たれて上眼づかいする
耕牛の瞳が何ものも見て居らず
花の世を伺う金の眼
草に寝て秋空の紺眼に溶かす
菜殻火の映れる牛の慈眼かな
近づけば俺まで憎んでふるさとのうちの牛の目
闘牛の互角の牛のかなしき目
雪の牛難民の眼をしてゐたり
飽食の牛のうす眼に梅雨の蝶
飾られて初市に出る牛の瞳よ
鳴く牛の寄り目埋める阿波の麦
黒牛の眸と枯野の眼われに向く
黒牛の瞳を消すまつ毛冬ぬくし
黒牛の黒瞳が聴いて法師蝉
囀を捉へ仔牛の耳動く
牛の耳また牛の耳秋の風
牛の耳ひらひら花野進軍歌
やや寒く曳かれて伸びる牛の鼻
柚子照りて牛の鼻よりしぐれけり
牛の鼻に耳ひとしかれ子規
牛の鼻の影の近づく水すまし
牛の鼻叩いて廻るお元日
牛の鼻吊られし白眼焚火燃ゆ
秋風や牛の鼻環も滋賀の子も
耕牛の鼻叩かれて耳ふるふ
下萌や寝牛の尻のこそばゆき
枯野ゆく急かれては牛の尻尖り
椿も描き遺作の中に牛の尻
水牛の尻みな尖る夕立晴
百姓牛の尻見つつ寒い日暮を戻る
秋風やられに行く牛の尻
秋風や屠られに行く牛の尻
競り台に牛の尻押す菜種梅雨
耕牛の尻に脈うつ大地かな
すね牛の尾に力あり秋の風
やまぶきに牛の尾をふる道もなし
代牛の尾にひく水や梅雨さむさ
全円に廻す牛の尾雲の峰
戯るゝ牛の尾細し春の草
牛の太郎の尾のひとふりや冬に入る
牛の尾が右に左に初景色
牛の尾と耳がよろこび靄に富士
牛の尾に打たるゝ面や牛祭
牛の尾に追はるる恋のサングラス
牛の尾の宙を払へば雲の峰
牛の尾も残らぬ色や春の草
牛合はせ三才牛の尾にリボン
生はもの憂し牛の尾に雪飛びつく
胴をかくし牛の尾戦ぐ柳かな
蝿を追ふ牛の尾の打つ音なりし
*はまなすや黒牛は遠灘のごとし
うつうつと黒牛を乗り殺したり
三月や丘に黒牛出揃ひて
土用三郎黒牛に乗り来りけり
旅五日黒牛ばかり見てすごす
時鳥黒牛黒いグランドピアノ
森がうごくのだ黒牛の逃亡経路
汗光る黒牛押せども押せども啼かず
炎昼の黒牛舌を見せず食む
秋冷の黒牛に幹直立す
秋草を背負ひ黒牛引いて行く
紫雲英田に入りて黒牛喰み始む
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉
角矯めてなお黒牛や露しぐれ
青柿や丹波黒牛その仔牛
髪濡れてゐれば黒牛怖ろしや
黒牛が鋤きて丹波の神の御田
黒牛が駅に顔入れ菜の花嗅ぐ
黒牛にかつと夏来て桑畑
黒牛の疲れ癒えざる新春野
黒牛の眸と枯野の眼われに向く
黒牛の瞳を消すまつ毛冬ぬくし
黒牛の腹の底より白息吐く
黒牛の黒瞳が聴いて法師蝉
黒牛の鼻面にある梅雨あかり
黒牛は大根の花食い残す
黒牛やうつうつとして翔ぶもあり
黒牛ゐて雪焼け一家に田が湿る
黒牛を磨く男に土用東風
黒牛を越ゆ夏蝶のあらあらし
黒牛若し春昼の炉火馬臭し
何に急く赤牛ボートより見えて
冬耕や肥後赤牛に日の当る
夏日負ふ佐渡の赤牛五六頭
大旱の赤牛となり声となる
秋雲離々赤牛を汝が墓標とす
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉
葛の雨はじきて肥後の赤牛よ
豊年の赤牛撫でて青年よ
赤牛がどたりとねまり島の秋
赤牛が一枚上手牛角力
赤牛に空はれ風の七かまど
赤牛のかたまり動く大夏野
赤牛の火のごと阿蘇の牧の秋
赤牛岳を墓標と見ればほととぎす
道の辺に赤牛匂ふ端午かな
雪催ひ相馬赤牛首をふり
乳牛かたまりぬ大雹と人呼ぶ声す
乳牛が啼いておどして蛇苺
乳牛に乳みち月見草ひらく
乳牛に幸福な冬ひとつ星
乳牛に無花果熟るゝ日南かな
乳牛のそよりと動く冬日哉
乳牛の斑白うつくし豆の花
乳牛の背に鴎ゐて霧の風車
乳牛の角も垂れたり合歓の花
乳牛の黒き眼バレンタインの峡
乳牛の鼻先あまし烏の子
乳牛や四つの垂れ乳を草の穂に
乳牛臥す雪解白根の高さにて
乳牛鳴き秋燕は迅く花卉越えぬ
大いなる乳牛の顔や萩の上
大安の乳牛瞳うるむ芽木の水
女等青ざめ乳牛はぐくむ森の傍
山牛蒡咲き乳牛は露ねぶる
朝雲の灼けて乳牛に桐咲けり
桃の花乳牛のゐるやさしさに
父の忌の乳牛くらく草をはみ
畑を打つ修女に乳牛来て甘ゆ
苜蓿冬あをあをと乳牛臥す
遠足児よどむに乳牛尾をふりて
肉牛といふ尾が一日虻を追ふ
肉牛のさだめの牛よ春光に
肉牛の奇顔動かず雪の暮
いらだちの種牛のそこのいらくさ
夜蛙にねむる種牛精溜めつ
種牛に冷たき棒のあてがはれ
種牛の影が四角い春の草
種牛の横振り来る貌弁慶草
種牛の鳴く海明けのオホーツク
種牛は小屋で留守番赤のまま
塩舐めてまなこやさしき枯野牛
大夏野太古を今に野牛食み
草黄葉あかるし野牛の群うごく
枯野牛雲とびとびの伏目がち
春やこゝに海や野牛の角の先
ゆつたりとゆく水牛や仏桑花
仏桑花まつ赤や水牛の長まつげ
代掻くや水牛の骨皮を突き
冬の水牛の四角き顔映る
大旱や水牛が水飲む長々と
大根の花に水牛の往き来
寒の水牛まばたかず飲むことよ
星の水牛二頭ゆっくりと通る
水あがり来し水牛の背の花藻
水牛が歩きて立つる秋埃
水牛の寝たる暦の果てであり
水牛の尻みな尖る夕立晴
水牛の相争ふも旅の景
水牛の背より飛込む裸の子
水牛の角つるしたる夏座敷
水牛の角にブーゲンビリア揺れ
水牛の車入りけり佛桑華
水牛を山に追ひ上げ草刈女
水牛立つ朝の棉摘みは星摘み
稲扱くや水牛水にねむるなり
透き徹るようだ水牛に麻の花
青泥水にくびまでつかる水牛のまなこは動くわがゆくかたに
起きざまのいかにも雄牛秋あざみ
寒明けの街や雄牛が声押し出す
種雄牛眼にくれなゐをまじへ冬
角あてて新樹ゆさぶる雄牛かな
雌牛の群れは文月の偏頭痛
*まくなぎや仔牛の角のむず痒き
おんばこや息やはらかく親仔牛
しんがりの仔牛しぐるる牧仕舞
すれちがふ仔牛のぬくみ霜の夜
ほととぎす仔牛に大き耳二つ
まくなぎや仔牛の角のむず痒き
ゆふすげや仔牛の顔の蠅まみれ
ジヤケツの胸突如仔牛になめられて
今年藁仔牛にしかと敷いてやる
仔牛の目かやつり草にかこまれて
仔牛の目涼しく水を飲みをはる
仔牛の角まだやはらかに樟若葉
仔牛はや隆まる後姿夏野原
仔牛放つ清明の日の風の中
仔牛生る郭公近く啼きめぐり
仔牛群れク口ーバにみな蹄かくす
元朝に生まれし子牛しかと立つ
光りたる仔牛の尿やほととぎす
冬の雲生後三日の仔牛立つ
冬浜へ一声仔牛呼びかへす
冬渚仔牛馳せゆき汚れなし
冬萌や海と平らに仔牛の背
囀を捉へ仔牛の耳動く
垂乳根の乳の仔牛にあかとんぼ
売られゆく仔牛鳴きゐる草の絮
売る仔牛梳きて永き日永くしぬ
売札の仔牛擦り寄る星今宵
大根の花の蔭仔牛を見る人の顔が動いて居る
子牛蹤きゆく春田の牛の鞭うたれ
放牧の仔牛来て飲む野の泉
新藁の敷かれて仔牛の保育小屋
校庭に仔牛馳せさせ朝ざくら
桔梗や足しなやかに仔牛来て
梅雨寒や子牛をしきり舐むる牛
残雪や黒き仔牛に黒き母
母牛と仔牛一体虻払ふ
淡雪嘗めて貨車の仔牛の旅つづく
牧びらき焼印こばむ仔牛ゐて
福藁に仔牛の誕生待つ農家
糶市へ仔牛跳ねゆく萩の風
綿虫やむらさき澄める仔牛の眼
耕牛に仔牛もついて畔を跳ぶ
舌捲いて乳吸ふ仔牛葉月雲
舐められて仔牛よろめく草の花
苜蓿まだ濡れいろの仔牛立つ
草の花仔牛とばせて面白し
草千里まだ番号の無き仔牛
草萌やパンダ模様の仔牛ゐて
薮入に生れておりし仔牛かな
藁に寝て子牛守る爺神楽宿
親の股くゞる仔牛や草の花
親牛も仔牛もつけしげんげの荷
起重機に初荷の仔牛鳴きにけり
跳躍の仔牛何時捲む花茨
通されて子牛の穴の鼻寒し
郭公が囃す仔牛の小さき角
露の灯をかざせば仔牛生まれをり
青柿や丹波黒牛その仔牛
風花は火山のあいさつ仔牛跳ね
飾臼を仔牛の濡れし鼻が嗅ぐ
鳴きかける仔牛を牛車きしり出でぬ
うららかや牛の子も積む石炭船
水牛の背より飛込む裸の子
牛の仔が啼いて林檎の木に林檎
牛の仔に角らしきもの風光る
牛の仔の望のひかりに顔を出す
牛の仔はおとなしきもの梨の花
牛の仔を量る新藁平らに敷き
牛の子が旅に立也秋の雨
牛の子にくひ残されし菫哉
牛の子に二タ株つけし芋茎かな
牛の子に荷のつけ初めや春の草
牛の子に鼻木通すや今朝の秋
牛の子の大きな顔や草の花
牛の子の皃をつん出す椿哉
牛の子の角や待つらん年忘れ
牛の子や作る鳥羽田の作り道
牛の子よ椎の実蹄にはさまらん
秋の蝿生れしばかりの牛の子に
馬の仔は跳ね牛の仔は伏せ牧場
馬の子と牛の子とゐる野菊かな
上つ瀬を放牛わたる夜振かな
放牛に日のおとろへし花野かな
放牛に涸れ沼を渡る家路あり
放牛に雨粒太き立夏かな
放牛のまわりに烏炎天下
放牛の反芻しかと草いきれ
放牛の影ゆるやかに夏の雲
放牛の涎弧に飛び田芹の芽
放牛の牧やカムイの清水引き
放牛の眠りつやつや青嵐
放牛もゐず日もすがら阿蘇野分
放牛放馬波の際まで春の草
月灼けて放牛を逐ふ鞭ひかる
永き日や放牛四肢を集めもし
白南風の野の放牛のけふ多し
高西風や放牛広ぐ大き耳
鯖雲や放牛数へては忘れ
だん~とすなほになりぬ田掻牛
つばくらめとび交ふ中の田掻牛
地に上がる勢い残り田掻牛
往き返し山國せまき田掻牛
昼は疲れ夜は孤独な田掻牛
水の張りよしと追ひ入れ田掻牛
田一枚隔り顔や田掻牛
田掻牛いよよ叱咤の雨はげし
田掻牛うなづき思ひ出す如く
田掻牛おのが重みに沈み鳴く
田掻牛乗せて棹さし来りけり
田掻牛宇陀打つ雷にたぢろがず
田掻牛暮れゐる畦に追ひあぐる
田掻牛観世音寺の前を曳く
田掻牛角低くすぐそこが海
田掻牛雨の湖畔にいそしめる
硫黄の湯噴くやむせびて田掻牛
花栗に雨気のそれたる田掻牛
大枯野牧牛をればみどりあり
春の雲牧牛跳ねてとぶもあり
牧牛にながめられたる狭霧かな
牧牛に澄む水溜り草千里
牧牛に雪解のながれいくすぢも
牧牛の帰路なり嶺を海霧下る
牧牛の幼き耳に蝿生れ
牧牛の真昼ちらばり山躑躅
牧牛の群る高原や皐月富士
牧牛の群れて草食む野菊晴れ
牧牛の背よりきちきちばつたかな
牧牛は遥かに散りて草茂る
牧牛を帰して山の眠りけり
牧牛を見ぬ秋風に岩照らふ
鹽欲しがる牧牛がゐて夏木立
おもむろに耕牛の歩のはじまれり
ふてくされゐる耕牛や三鬼の訃
合掌造りの闇がうごめき耕牛覚む
弱国に耕牛の尿溜り沁む
影す耕牛春日に浮いて風の椎
桃の木へ来て耕牛がぬすみ見する
短くて耕牛にのみ通ずる語
耕牛おそろし打たれて上眼づかいする
耕牛が幟の部落をわけ出づる
耕牛となり変りをり橇の牛
耕牛について或は身を反らし
耕牛に仔牛もついて畔を跳ぶ
耕牛に多摩の磧べ桐さけり
耕牛に就いて或は身を反らし
耕牛のふと大声を揚げにけり
耕牛の傾きながら憩ひをり
耕牛の四肢おのづから水まつはる
耕牛の四肢のうちなる没日かな
耕牛の尻に脈うつ大地かな
耕牛の底びかりして戻りくる
耕牛の水に尿する田の面かな
耕牛の瞳が何ものも見て居らず
耕牛の腹びしよ濡れに嬬恋村
耕牛の角が沈みし麦の花
耕牛の触れて波うつ籬かな
耕牛の谷を隔てゝ高く居る
耕牛の頸皺無学の祖父なつかし
耕牛の鼻叩かれて耳ふるふ
耕牛やどこかかならず日本海
耕牛や打たるるたびに胴の音
耕牛をのせて舟ゆく春の木
耕牛を先立て妻を従へて
耕牛を叱る手綱を波うたせ
胴をもて耕牛鞭をかなしめり
荒東風を頭押しに島の耕牛は
身起す耕牛亡き祖父の声「よいこらさ」
金のこと耕牛の背に向きて言ふ
金無垢の耕牛置けり野の没日
万緑の水打つ牛飼左千夫墓
万緑や牛飼ひの掌のひろく優し
地吹雪や牛飼住める茅のはて
大原や牛飼ふ家も雛祭
後半生よりの牛飼さくら咲く
日脚伸ぶ牛飼いの目は牛に似て
氷柱打ち落す牛飼の一人つ子
波見えて夏暁に牛飼はれ
片腕の牛飼い飛行船憎む
牛飼いに嫁来る垣を繕いし
牛飼が句を見せに来る夜の雪
牛飼が好きで牛飼ふ秋の風
牛飼が歌咏む時に世の中のあたらしき歌大いに起る
牛飼と酌む菊膾房のまま
牛飼に夜は八方の落椿
牛飼のかんばせ稚き祭かな
牛飼の一軒のこり冬に入る
牛飼の子供の素足草紅葉
牛飼の山彦わかし冬隣
牛飼の歌碑に萌え出で蕗の薹
牛飼の男の子ばかりの星祭
牛飼の胴巻ふくれ銭・懐炉
牛飼は三代目雪くるべく来る
牛飼は恵方を雪にとざされし
牛飼ひが草束ねをり夕蜻蛉
牛飼ひて春の欅を雁敷内
牛飼ひて角島とよぶ天高し
牛飼ひの牛にもの言ふ桃の花
牛飼星涼し人に後るゝばかりにて
薺咲きキリシタン村牛飼へり
郭公も来て牛飼に男の子生る
雛飾る牛飼の二戸鶏往き来
ゆく船の水脈の及べる牛冷やす
メナムとは母の河の意牛冷やす
受胎して眸やさしき牛冷やす
夕べ濃き阿蘇の噴煙牛冷やす
方言の亡ぶさびしさ牛冷す
牛冷すベトナムは川ゆるやかに
牛冷すホース一本暴れをり
牛冷す如耕耘機川に入れ
牛冷す山の水来て力張る
絶海の死火山の裾牛冷す
自らも胸まで浸り牛冷す
船旅の大河米磨ぎ牛冷やし
霊廟のうしろは大河牛冷す
屠牛がぶつつけ合ふ胴夏日揺る
屠牛先ゆくいたるところに弥陀の耳
屠牛場に通ふ径の花野哉
屠牛場の屋根なき門や夏木立
血のにほひする輪飾の屠牛場
儲どの程度牛市の露けさは
寒月や牛市のこゑまだ宙に
小屋掛けて牛市あての粕汁屋
牛市がすめば但馬に冬来ると
牛市に但馬の冬ははじまりぬ
牛市のどこも穂草の曲り角
牛市の売手買手の頬被
牛市の牛の背中の毛布かな
牛市の跡はこべらの盛りなる
牛市の雪かけて消す大焚火
牛市や二夜とまりて田螺和
牛市や赤い椿が泥の上
さなぶりに灯してありぬ牛小屋も
もろこし棲む大きな牛小屋小さな家
炎える昼牛小屋までの水こぼす
牛小屋と壁一重なり施餓鬼棚
牛小屋にラジオ鳴りをり文化の日
牛小屋に牛の新角山笑ふ
牛小屋に牛ゐて曇らざる稲田
牛小屋に牛形据うる朧めき
牛小屋のもつとも匂ふ夕立来る
牛小屋の壁にもかけし初暦
牛小屋の夜からからと唐辛子
牛小屋の小戸を外しぬ出水急
牛小屋の屋根を野分にさらはれつ
牛小屋の梅雨の臭ひに堪へおはす
牛小屋の牛が貌出す花南瓜
牛小屋の牛が顔出す草の花
牛小屋の牛に流れぬ石鹸玉
牛小屋の盆灯かぶる一眷族
牛小屋の藁敷きかへて亥の子かな
牛小屋は暮れつゝ山火いろめきぬ
牛小屋も灯りてうれし井華水
牛群れて牛小屋ぬくし寒夕焼
白浪が見えて胡麻の花が暑い牛小屋
あさがほのはつのつぼみや原爆忌
うち霽れてしづくする茶のつぼみかな
かのつぼみゐし白桃の今日如何に
からたちのつぼみひそかにほぐれそむ
すぐひらく百合のつぼみをうとみけり
つぼみなる花かぞふべし西行忌
つぼみ持つものつよく揺れ半夏生
つみ残す綿のつぼみや続き雨
ふつくりと桔梗のつぼみ角五つ
まづ青む彼岸桜のつぼみ哉
りんりんと朱木瓜つぼみを棘に置く
をとめゆゑさくらのつぼみほめゆきぬ
ゼラニュームひそむ餘寒のつぼみかな
一天の深さ木の辛夷つぼみたり
三日月はたゞ明月のつぼみ哉
三椏のつぼみふくるる光かも
何の菜のつぼみなるらん雑煮汁
俤もこもりて蓮のつぼみかな
修善寺や赤きつぼみの糸ざくら
冬至梅蘗ながくつぼみしぬ
卯の花の雪にべにさすつぼみ哉
君が地の花のつぼみを見初めけり
咲きさうにしながら菊のつぼみかな
唇に似て草ぼけのつぼみかな
垣の菊ほのぼの赤しつぼみつつ
夜光る梅のつぼみや貝の玉
夾竹桃のつぼみ勉強部屋の前
家族四人雪夜は蘭のつぼみほど
寒梅やつぼみふれあふ仄明り
小さき手がきて肩を揉む林檎つぼみ
山吹の青茎の一列のつぼみ
己つぼみおのれ畫きて蓮かな
店へ出る雛に桃のつぼみかな
明日咲くいのちコップに張りて縷紅草
星わかし薔薇のつぼみのーつづゝ
昼顔のつぼみの先のややひらき
朝な朝な踏切の菊つぼみゆく
朝顔のあすのつぼみやいなびかり
朝顔やつぼみのつゝむ明日のいろ
木蓮のつぼみのひかり立ちそろふ
桔梗のつぼみふくれて見る間にも咲かんばかりに紫の濃さ
桜のつぼみ房なしてゐる雪雫
梅のつぼみとびつきて枝にとどまりしか
母亡きにつぼみふやせる黄水仙
沈丁のつぼみも天神さま日和
満山のつぼみのままのつつじかな
炎天やつぼみとがらす月見草
爪紅は其海棠のつぼみかな
痩せながらわりなき菊のつぼみ哉
白木蓮のつぼみざかりやみすゞの忌
白牡丹さやけき珠のつぼみかな
白牡丹五日の月をつぼみけり
白薔薇のつぼみ解きゆき聖母月
盆栽や梅つぼみ福壽草黄なり
真しぐらの若さ花火のつぼみかな
福と寿のつぼみを二つ福寿草
秋はまづ目にたつ菊のつぼみ哉
筆洗う梅のつぼみの白のため
紅梅のつぼみいよいよけはしけれ
紅蜀葵老いぬのこりし青つぼみ
老梅のつぼみ紅きを羞じらえり
芍薬のつぼみの間ながきかな
芍薬のート夜のつぼみほぐれけり
花はつぼみ嫁は子のない詠哉
若水や花のつぼみの一釣瓶
菊薬のつぼみのかたき暮春かな
落飾の御門の桜つぼみけり
葉がくれにひとつあさねのつぼみかな
蓮のつぼみ幼なく水をのぼりけり
試歩疲れ小菊のつぼみ金色に
買初の花菜つぼみを一とつかみ
起き~の煙草に菊のつぼみけり
野いばらの青むとみしや花つぼみ
長雨や姫柚子がもつ姫つぼみ
雨風のびつしりつぼみがある
青天へ梅のつぼみがかけのぼる
風*がうがう一木椿のつぼみ
風蘭のたつた一つのつぼみ落つ
鶏鳴いて梅はつぼみの精米所
あけぼのや椿の蕾一顆一顆
あした待つ蕾の反りや虞美人草
ありまきの中より薔薇の蕾かな
いく百の蕾こぞりて牡丹園
いとけなき蕾かくれてシクラメン
うつくしきうなじ蕾のシクラメン
おしろいの蕾そろへて咲かんとす
おしろいの蕾はマッチつんつんつん
かたかごの蕾ほとほと人遠し
きさらぎの雨粒なんと蕾なる
きちかうの角失ひてなほ蕾
ぎりぎりの省略冬薔薇蕾残す
くくられしところに蕾苗木市
くちばしのごとき辛夷の蕾かな
こゝろやさしくなる花貝母蕾して
しもつけ草蕾一粒づつ弾け
すうと出て曼珠沙華の蕾竹の根に
それは愛のかたち百合白い蕾をつけた
てのひらを添え白梅の蕾検る
どの葉とて蕾を舸子に花筏
ぬかづけばうなづく水仙青蕾
ぬきん出て天に祈りの蓮蕾
ばら蕾黄金バット中腰に
ひらかざり供花の蕾のおほかたは
びつしりと蕾の梅の鼻つ先
ふくらみのきはみの蕾白桔梗
ぼうたんの蕾俄に目立たしく
まだ珠の泰山木の白蕾
まないたにのこる蕾や鶯菜
ゆれ合ふて蕾の多し女郎花
アイリスの朝市に出す蕾かな
カンテラや蕾少き市の菊
シクラメン吊眼のごとき蕾あり
シクラメン蕾を伏せし深紅かな
フリージアあすの蕾はひくくもつ
フレームや万の蕾に紅兆し
フレームをはみ出してゐる蕾かな
プリムラの蕾多きを選び買ふ
メス入れてみたき牡丹の蕾かな
一つ咲き一つ蕾やクロッカス
一むきに蕾ならびて辛夷かな
一八のたがひちがひの蕾かな
一方を向いて辛夷の蕾かな
一束の菜に蕾あり年用意
一蕾の解け初花となる軽さ
万の蕾が鏡中に澄む枕丁花
万蕾のある日ただちに曼珠沙華
万蕾のことごとく露菊畑
万蕾のままなるがよし団子花
万蕾の一枝ほころび貴妃桜
万蕾の丸みも彩も林檎ぶり
万蕾の力をためて春を待つ
万蕾の梅を残して家売らむ
万蕾の椿と同じ陽に浴す
万蕾の椿の門を出でませり
万蕾を花の紅さに臥竜梅
三年目に蕾たのもし牡丹の芽
三日月へ蕾あらあらしき桜
三椏の蕾々の宙にあり
三椏の蕾きんいろ雨ぎんいろ
三椏の蕾のまゝの長かりし
三椏の蕾の声よ鳩と歩く
三椏の蕾の礫びかりかな
三椏の蕾ふくらむ芋銭の居
久の人に牡丹の蕾五つあり
九輪草万の蕾のゆれかはし
乾き上る菊人形の蕾かな
二三本蕾向け合ふアイヌネギ
今朝秋の蕾あげたる紫かな
仙人掌の針の中なる蕾かな
伊勢菊の蕾弾けて咲き
伐りこみし薔薇に蕾の多き哉
伸ビ足ラヌ百合ニ大キナ蕾カナ
侘助や粉引き益子に固蕾
八重ざくらなほ厚蕾還暦来ぬ
兼好忌御室の花は蕾かな
冬さうび蕾のまゝに終りけり
冬ちかく石蕗の蕾のかたいこと
冬ばらの蕾の日数重ねをり
冬木牡丹ひそかに蕾さだめけり
冬浅し埴輪の口の蕾ほど
冬牡丹咲かで腐りし蕾かな
冬薔薇の蕾のままに昭和果つ
凍雪を支へし梅の蕾かな
初午や梅の蕾の小豆飯
初桜蕾したがへ楚々として
初花の蕾ころがる山路かな
初荷着く市に蕾をこぼしつつ
十日月沙羅の蕾は明日開く
友情や薔薇の芯なほ蕾形
口切りに残りの菊の蕾かな
古代蓮宝珠のごとき蕾あぐ
古木なる軒端の梅の蕾かな
君生けるかに白百合の蕾白み
咲かで枯れし薔薇の蕾や朝の霜
咲き咲きて乏しき薔薇の蕾哉
咲き揃ふ下より蕾かきつばた
咲くあてのなき蕾添ふ寒牡丹
土用芽につきし小さき蕾かな
地に揺るる影にも蕾糸ざくら
地に臥してなほ残菊の蕾かな
夕顔の蕾つめたし父の膝
夕顔の音のしさうな蕾かな
夜の壺に蕾殖えたり返り花
大輪のあと蕾なし冬の薔薇
宵の間や芥子の蕾に入る月夜
家越シテ椿ノ蕾ウレシカリ
寒に入りばらの蕾の咲かぬなり
寒木瓜のゆるみほほ笑む蕾かな
寒木瓜の蕾に色や明通寺
寒木瓜や先の蕾に花移る
寒梅に蕾ぎつしり妹嫁す日
寒梅の固き蕾の賑しき
寒梅の蕾の真玉さやかなる
寒梅の蕾の芯はぬくからむ
寒椿ひさしき蕾ゆるびけり
寒椿蕾は色を握りしめ
寒牡丹固唾を呑んで蕾かな
寒牡丹白磁の蕾あげにけり
寒茜蕾のかたき梅林
小寒や丁字の蕾うすみどり
尖り立ち色めく蕾紫木蓮
山吹の花の蕾や数珠貰ふ
山吹の葉毎に持てる蕾かな
山吹の蕾何のおちんこぞ
山吹や三角の蕾一列に
山茱萸の蕾のはなればなれなる
山茶花のかたき蕾や初時雨
山茶花の百の蕾に破綻なし
山茶花の蕾そろひぬ初時雨
山茶花の蕾の密に母の忌来る
岡ぞひの桜は赤き蕾かな
巻葉より伸びたる蓮の蕾かな
師をいたむ芸亭のさくら太蕾
平沙濱月に晝顔の蕾かな
年ゆくや沈丁蕾とゝのへつ
庭の菊天長節の蕾哉
御所沼に蓮の艶蕾秋暑し
懸崖の菊の飛沫の蕾跳ね
手向けたる榊の花も蕾ぞや
手花火は明日咲く蕾照らし出す
手触れなば裂けむ桔梗の蕾かな
折さしてかたき蕾や冬の梅
抱く蕾いだく雨滴の貝母なる
押競の蕾が割れて枇杷の花
擬宝珠の蕾ひしめき原爆忌
旗捲きしごとく蕾やシクラメン
日の出一気に椿の丸芽青蕾
日日草明日咲く蕾無くなれり
早春の握手よ蕾よりやわらか
早過ぎて木の牡丹の固蕾
明日は/胸に咲く/血の華の/よひどれし/蕾かな
春蘭の固き蕾の解くる日を
曳き売りが桃の蕾を落しゆく
更くる夜を牡丹の蕾はぜかゝる
更る夜を牡丹の蕾咲きかゝる
月がさして蕾触れ合ふ桜かな
月見草つぎの蕾は月を指す
朝の霧より牡丹の新ら蕾
朝闇にふくらむ桃の蕾かな
朝顏の白き蕾を尋ねけり
朝顔の明日期す蕾五つほど
木々の芽や木々の蕾や春激す
木樵来る菊の蕾のはつはつと
木蓮の梢あひうつ蕾かな
木蓮の蕾ひとしくふくらみし
木蓮の蕾少き若木かな
松茸よ太い蕾と言ひゐるは
枝低き朝鮮薔薇の蕾哉
枝先へ走る蕾や梅花祭
桃の花活けこぼしたる蕾かな
桃咲くや蕾が枝をひきだして
桃挿すやこぼるゝ蕾惜みなし
桃椿なべて蕾は春深し
桔梗のつまめば凹む蕾かな
桔梗の折目正しき蕾かな
桔梗の蕾をぽんと鳴らしけり
桔梗の蕾律儀に五角かな
桔梗の蕾祈祷の調度に似る
桔梗は蕾弾けて咲くところ
桜湯に一花一蕾よかりけり
梅蕾命を丸く抱きをり
檀特の一と花咲きし蕾かな
死者のため蕾を選ぶ夏夕べ
残菊にしてその蕾この蕾
残菊のなほその蕾数知れず
残菊の青蕾さはにかなしけれ
母とゐて朝顔の蕾かぞへけり
母の忌の花屋の桃の固蕾
水仙の花のうしろの蕾かな
水仙の蕾かたく開かぬこと念うわが心育つ
水仙の蕾のままに活けてあり
汐ぬくき紀路しかすがに梅蕾
沈丁の蕾あるまま雪折れぬ
沈丁の蕾どきどきしておりぬ
沈丁の蕾の青き睦月かな
沙羅双樹あまたは蕾咲くは散る
河骨の明日咲く蕾かも知れぬ
河骨の蕾乏しき流れかな
河骨の黄蕾文殊大菩薩
泰山木の巨いなる蕾自信欲し
泰山木の蕾にをりし蟻消えぬ
浜木綿の切先たてし蕾かな
浦島草蕾がすでに釣支度
海近き桜の蕾つばらかに
温室の蕾ふくらむガラス越し
温室越しに初日蕾の赤殖やす
烈風の牡丹の蕾ときを待つ
烏瓜蕾を上げて垣越ゆる
無数の蛤無数の蕾夜の島
煖房の浜木綿既に蕾上げ
燕去る蕾のごとく神父をり
片栗の蕾乙女の祈るごと
牡丹の秋芽につきし蕾かな
牡丹の蕾の先が染まりけり
牡丹の青き蕾に遊びけり
牡丹ほのぼの白と定まる蕾かな
犬死にき実生つばきに初蕾
猫の乳ほど月下美人の蕾かな
玉の夜を重ねて沙羅の蕾かな
瓶に挿す百合の蕾にそむかるる
甘たれや三寸あやめ蕾立ち
申し訳なささう牡丹の固蕾
白木蓮の蕾大空押し上げて
白梅のまるき蕾に顔寄せる盲人
白梅の万蕾にさすみどりかな
白梅の花に蕾に枝走る
白梅の蕾は青を帯びにけり
白牡丹玉の如くに蕾抱き
白菖蒲蕾きりきり鏃めく
白蓮の固き蕾の緑かな
白薔薇と成る黄蕾や赤子いかに
白薔薇の城のやうなる蕾かな
白薔薇の百蕾不死男夫人葬
白藤の蕾はうすき~緑
百蕾の梅や神楽の笛に侍す
百鈞の重さの蕾牡丹に
盆梅のかなしきまでに蕾持つ
盆梅の蕾の玉の一つ落つ
睡蓮の水を切つたる蕾かな
睡蓮の蕾一寸法師ほど
矛先を天に万蕾花菖蒲
矢田寺や沙羅の蕾の百あまり
石蕗の蕾はシュプレヒコールする拳
破魔矢触れ梅の蕾をまなかひに
碑に恋唄紫陽花まだ蕾
福壽草の蕾をいぢる机かな
福寿草母なる子なる蕾かな
秋の風再び薔薇の蕾かな
種鯉にふくらみて来し桃蕾
笹百合の蕾一顆と数ふべき
筍哉虞美人草の蕾哉
紅の蕾びつしり臥龍梅
紅梅に癇癪玉の蕾かな
紅梅のりん~として蕾かな
紅梅の満を持しをる蕾かな
紅梅の蕾つめたし抓むとき
紅梅の蕾のごとくつゝましく
紅梅の蕾の中の花一つ
紅梅の蕾の数の雨雫
紅梅の蕾ばかりの色にあり
紅梅の蕾一粒置ける枝
紅梅は蕾のうちの真くれなゐ
納棺の泪は菊の蕾ほど
素ッ気なくて鉄砲百合の青蕾
紫の蕾より出づ銀の葦
老梅の青枝長けたる蕾かな
臘梅の蕾の数が花の数
臘梅の香の張り詰めてゐる蕾
芍薬の突上げてきし蕾かな
芍薬の蕾の玉の赤二つ
芍薬の蕾ふやして這い出す嬰
芍薬の蕾をゆする雨と風
芍薬の蕾一夜に膨らみぬ
芍薬や更に高柄の蕾して
芍薬や蕾は蕾花は花
花の上に蕾積むなる葵かな
花の奥より蕾駈け出づ桜草
花びらにかくるる蕾桜草
花会式蕾のまゝに修しけり
花白く蕾は赤くひめりんご
花籠に皆蕾なる辛夷かな
花茨の蕾ほぐすや産着の如
苞ごもる蕾日に透く黄水仙
茅舎忌や百合の青蕾脈走り
茎高く時鳥草まだ蕾
茶の花のなほ葉ごもりの蕾かな
茶の花の小さき蕾をもぎとられ
茶の花の頑なまでの蕾かな
茶の蕾千成鬼燈に似たるかな
菊人形恥ぢらふ袖のまだ蕾
菊人形素肌を覆ふ蕾かな
菖蒲園入口の蕾すく~と
菖蒲田の蕾の勢ひ葉の勢ひ
落ちてなほ蕾のごとし夏椿
落椿しそめてこぞる蕾なり
葉おもての蕾となりし椿かな
葉にそうて蓮の蕾の小さき哉
蒼天に桐の蕾のみな立てり
蓮の葉の裏に届ける蕾かな
蔟立つる水仙の葉に蕾あり
蕾あり花あり桃を吹けるあり
蕾あるかぎり朝顔咲きにけり
蕾いま紅のちからを生みし梅
蕾かたき梅に竹山颪かな
蕾かと見れば千日紅の花
蕾つく梅の苗木や霜柱
蕾ながら石竹の葉は針の如し
蕾はや人恋ふ都忘れかな
蕾ふくらむ山茶花かくも散りて
蕾よりすでに火の性海紅豆
蕾よりすでに王妃の薔薇として
蕾より大きな雫梅二月
蕾より既に王妃の薔薇として
蕾多き秋海棠の寫生哉
蕾日に焦げんとしては芍薬咲く
蕾立つ辛夷の細枝風透けり
蕾見てをり紅梅か白梅か
薄紅梅の濃蕾紅衣は幼時に佳し
薄紙につつみて薔薇の蕾かな
薔薇アーチ出入りに揺るゝ蕾あり
藤房の蕾はいまだ風のなか
蟹の瞳に似て海棠の群蕾
見舞はるる蝟集の蕾室の花
観梅や留めおきたき紅蕾
誓子忌の夜は万蕾の星となれ
賜て蕾ばかりや菊供養
賜りて蕾ばかりや菊供養
赤菊の蕾黄菊の蕾哉
転機ならむか沙羅の蕾の薄くれなゐ
辛夷の蕾搖れてある木の中
辛夷まだ蕾よこたへよこたへて
辛夷咲き万蕾いまだ空の塵
辰雄忌の朴を仰ぎて蕾なし
迎春や蕾あげたるシクラメン
近付けば蕾勝りて冬椿
返り咲くための蕾を真紅にす
野梅折る蕾はら~こぼれつゝ
鈴蘭とわかる蕾に育ちたる
鉄線花の白蕾病つまづくな
陶土練る菊は蕾を固くして
雨の日のすつくと蓮の蕾かな
雨晴れて山吹黄なる蕾哉
雨音をきく佗しさの百合蕾
雪折の椿一枝に蕾あり
青々と菊の蕾のふくらみ来
青天へ梅の蕾がかけのぼる
風の蓮紅にまさりし白蕾
風立ちて沙羅の蕾の見えそめし
飛ばむかな桔梗の蕾風はらみ
魂送百合ことごとく蕾解き
鷺草の未だ鷺ならぬ蕾かな
鷺草の華やぎ蔵しゐる蕾
あさがほの日々うまれつぐ莟かな
いくたびの花の莟ぞ庵の春
いたいけに霜置く薔薇の莟哉
うけ口の苹果の莟マラソン過ぎ
おさがりの雫莟むや梅若し
おまんが紅龍胆の莟の先にも
かきつばた莟きりりと江戸紫
きしきしと牡丹莟をゆるめつつ
けんくわの子百合の莟のやうに立つ
ことごとく紅莟む室の梅
しっかりと堅き莟の天女花
すつと出て莟見ゆるや杜若
のびよかし藤の莟の咲かで先
はこびゐる時間は見えず花莟む
はまなすの尖る莟に砂きよら
ひともとはかたき莟やふく寿草
ひなた雪犬の足あと莟みけり
ひんやりとして浜木綿の莟なり
ふくらむ莟可能ぎつしり細ずぼん
ふたもとはかたき莟や福寿草
ふつふつと彼岸ざくらの莟哉
ふところ手出して見たれば梅莟む
ほぐれ初む嵯峨菊莟おひねりめく
まんまると梅の莟を誉むるこゑ
みつまたの夕づく莟思慮深げ
みつまたの莟おつとり日の射せる
めづらしや梅の莟に初桜
もくれんの相も変はらぬ固莟
もののうれし小菊の莟鳥の声
やはらかになりたる罌粟の莟かな
よく見れば木瓜の莟や草の中
わが恋は末摘む花の莟かな
シクラメン莟を絶すこと知らず
ストックの莟ほのぼの眠くなる
ニス塗りし如くに百合の莟かな
ヒヤシンス莟むとみれば蟻のみち
一弁を吐ける莟や冬桜
一瓣を吐ける莟や冬桜
七草のはこべら莟もちてかなし
三日月にかいわるきくの莟哉
上りつめて唇莟し野分坂
不可もなし香もなし梅の莟かな
佗助の莟の先に止まる雪
供へけり莟がちなる冬さうび
八束穂の垂穂の藤の莟かな
其中に莟の多き黄菊かな
冬から一つ二つと咲きあまた莟の金盞花
凩にふとる莟や寒椿
初鷄に眼をあく花の莟哉
古庭に芒散る菊の莟かな
古沢や莟勝なる燕子花
君見ずや尾花の莟黄に光る
喇叭秘め喇叭水仙莟めるよ
埋火や梅の莟もあたゝまれ
夏菊のほぐれかけたる莟かな
夏萩の莟ともなく咲きにけり
夕顔の莟ばかりの昼は憂し
大小の梅の莟の白嵌まり
大水のあとや莟の杜若
妻子へ戻る夜空ひくめて梅莟む
姫辛夷莟で春の字を書きたし
密封のへくそかづらの莟割る
寒木瓜の咲きゐて莟ひしめける
寒菊の日和待ちける莟哉
寒菊やわきてかしこき莟がち
寝ても覚めても莟の椿が轟けり
山吹の八重の遅るる莟かな
山吹の莟も青し吉野川
山梔子の尚莟持つ薄暑哉
山茶花の莟こぼるる寒さかな
年こゝにあらたなる梅の莟哉
庭の萩莟も持たずあはれ也
彼岸花中の莟を囲み老い
彼岸花莟ばかりのお仏壇
御文庫に百合の莟のふれてをり
息つめて莟をきるやかきつばた
情なの莟さくらやひなの前
惜しまじなあすの莟となる年を
愛らしき莟からしてゆすらうめ
拝観の順路利発な茶の莟
新酒賣る家は小菊の莟かな
日に向いて菊の莟のはぜかゝる
日の暈仰ぐ枝々の莟めるや
日も風もここで軽やか蓮莟む
春の雷ばらは莟をみなあげて
春待つや椿の莟籠の鳥
暖かさ水仙がああ莟んだぞ
朝がほや宵は莟にたのしませ
朝日ゆれて棕梠の莟がせりあがる
朝顏にあさつての莟多き哉
朝顔の引き捨てられし莟かな
朝顔の莟かぞへむ薄月夜
朝顔の莟數へてまはりけり
朝顔市明日咲く莟選りて買ふ
木犀の匂ひのもるる莟かな
木瓜莟む朝日や妻の全身に
木蓮と判りしほどに莟みたり
未知数をxと置き梅莟む
杜若けふふる雨に莟見ゆ
桃日に日にちからをつけぬ八百莟
桔梗の莟の爆破遂げてをり
梅ほのと莟むへ立てる遊行かな
梅一枝莟十まり月のなか
梅剪ればこぼるる莟涙とも
梅寒し莟数へて花に及ぶ
梅林は莟ばかりで素っ気なし
椿莟み庫裡から娘が出て釜洗ふ
母子草やさしき名なり莟もち
水仙のいつまでかくて莟かな
水仙のふつとよこむく莟かな
水仙の莟に星の露を孕む
水仙の莟のしづむ眼の清くみどり児が知恵をふかめゐる冬
水仙の莟の曲りそめしなり
水仙の莟は雪にうもれけり
水仙や莟と知らずあはて剪る
水鳥や日は莟天に歩を刻む
河骨のたかき莟をあげにけり
河骨の武骨に莟突き出せり
河骨の水を出兼ぬる莟かな
河骨の莟に水の巴かな
河骨の高き莟を上げにけり
浪音をかけしさくらの莟かな
海棠の莟解く風方丈へ
潮照るや万の莟を崖椿
火を焚けばほぐるゝ莟朝さくら
烏瓜莟をあげて垣越ゆる
牡丹の花弁溢るる莟かな
牡丹活けてうなだるゝ莟二つかな
玉と降る雨や莟の海棠に
玉程にふとる牡丹の莟かな
痩たるをかなしむ蘭の莟けり
白桃や莟うるめる枝の反り
白梅の花と莟と莟がち
白梅の莟と花といりみだれ
白牡丹と思ひし莟赤く咲く
白牡丹柔はき莟が手にさはる
白芥子や莟の中の花一つ
白露に養ふ菊の莟かな
百合の莟開くばかりに濃くなりぬ
盆ほどになるてふ菊の莟哉
石蕗一茎二茎三茎未だ莟
磯菊の期待の莟数多あり
福寿草延びて莟の日数かな
稻の花東籬菊いまだ莟なり
窓ぬちは劇薬を秤り桃莟む
立ちならぶ辛夷の莟行く如し
箒目に莟をこぼす柚の樹かな
紅梅の枝のさきなる莟がち
紅梅の皷のごとき莟かな
紅梅の莟のやうな拳哉
紅梅の莟は固し言はず
紅梅の莟ぽこぽこ鉛筆描
紅梅の鼓のごとき莟かな
紙包桃の莟が覗きをり
紫荊噴ける莟の箆棒な
累々と莟むを歯にぞ花菜漬
罌粟の花莟少なに散りにけり
色罌粟の巧みに見ゆる莟かな
芍薬とけしの莟の性せつなし
芍薬莟をそろへたり堂の側面
花あやめ繊き莟のかく解けし
花は莟嫁は子のない詠哉
花籠に莟ばかりの桔梗哉
花莟む朝空ふかく風秘めぬ
花菖蒲莟するどき一抱へ
英彦より採り来し小百合莟むなり
茄子引て菊に莟の見ゆる哉
莟あげそむ仲秋の藪つばき
莟しはしらでゐにけり帰花
莟とはなれもしらずよ蕗のたう
莟とも見えず露あり庭の萩
莟とも見えてうれしき木芽哉
莟なる梅あたたむる春日かな
莟む花散る花夢の中やどり
莟もつべん~草や春の霜
莟より花の桔梗はさびしけれ
莟一つ二つは梅のすはえ哉
莟太く開かぬを愛す福壽草
莟子死なす妻の手わが手ひた緊く
莟立てて沈丁は香を揃へるらし
莟解くさんしゆゆ雨を心待ち
莟解く山茶花これは明明後日
莟解く風を待ちをり白菖蒲
菊人形莟ばかりの青ごろも
葉のかげにあしたの莟青瓢
蓮莟む紅のくちばし天へ向け
蕣の莟うれしや酒の燗
薔薇を移して跡に莟の菊を植ゑし
蜻蛉や蓮の莟に一つつゝ
見残せし梅や莟を念珠とも
解けかかる莟がひとつ牡丹苗
豆程にむらがる菊の莟かな
走り根に桜の莟踏むまいぞ
連翹の莟喰ふかかわら鶸
野ばらの莟むしりむしりて青空欲る
鉄砲百合固き莟は天に向く
鉄線の三角錐の莟かな
鉢に見る梅の莟や冬籠
鉢植に莟ばかりの椿哉
鉢植に莟久しき椿哉
鎌倉の古き冬莟石に真黄
鎌倉は松の莟さに日焼人
降りぬきし朝日に梅の莟みけり
陽微動福寿草僅かに莟む
雛罌粟の莟の考え深げなる
飛燕莟し花も過ぎたる嵐山
飯蛸の莟の花と見ゆるよな
あけぼのの色とも見えて花びら餅
あさがほの花びらの縁疲れ来ぬ
あはあはと沙羅の花びら空にあり
いのちなほ愛し花びら踏みゆける
うなゐらに花びらとなりふる初日
かはたれの花びらを享く舌の先
きりぎりす罌粟の花びら食べてゐる
くちなしの花びら汚れ夕間暮
げんげ摘みて花びらを吹く女かな
ことば失せいまも花びら塔炎ゆる
こぼるゝは柚子の花びらのみならず
さくら花びら手でぬぐひやる子の涙
さつきまで花びら餅のありし皿
さにつらふ花びら餅や老の春
しもつけの花びら綴ることばかり
しろしろと花びら反りぬ月の菊
その木暮るゝに白き花びらふりやまず
そよかぜや花びらが持つ記憶
たつき日々紙幣の花びら掌にあふれ
てのひらの花びら餅の冷たけれ
どんど火に手が花びらの子どもたち
なおらひに花びらいろの貫主さま
はくれんの花びらに音雨の粒
はくれんの花びら反れり石の上
ひなげしの花びらたゝむ真似ばかり
ひなげしの花びらを吹きかむりたる
ひろげ干す花びらほどの水着かな
ふるさとや花びらなせる洗ひ鯉
ぼうたんの花びら深く残る雨
ぼうたんの花びら笛も佳かりけり
まんさくの花びら動く日曜日
まんさくの花びら縒を解きたる
みそさざい声の花びら谷に撒く
やはらかに反れる花びら室の花
アネモネの薄き花びら風に散る
コスモスの夜の花びらの冷えわたリ
コスモスの花びらかかり蜘蛛の糸
チューリップ花びら外れかけてをり
パンジーの花びらめくれ風のまゝ
モザイクの花びらの壁冬近し
リンゴむく紅い花びらちるごとく
一八の花びら濡れてひろかりし
一輪挿しの花びらが冬の夜に舌出してる
上高地花びら小さき遅桜
乗り継ぎて花びら餅を初買に
二三片花びらつけし傘たたむ
亡き人を偲ぶ花びらほどの雪
介護する花びら花びら白さざんか
佗助の花びらが葉に巻きついて
初蝶の花びらのごと去りにけり
初釜の花びら餅の紅明り
初釜や花びら餅のうすくれなゐ
刺網に花びらほどの子鯛つく
十薬の花びらほどを父糞りぬ
十薬や四つの花びらよごれざる
口中にひらく花びら年酒酌む
君にふぶく君の桜よゆたかなる花びらの中を眠れ長身
咲きいづる花びら左右となる菖蒲
咲きそめし額に花びら離々とあり
囀に花びら型の燭ふやす
地に落ちし花びら闇のきりぎりす
地に落ちて花びらの錆沙羅の花
地に触れてより花びらの趨りけり
地に還る花びらとして汚れけり
地の冷えに牡丹花びらこぼさざる
地の窪は花びら溜りお開帳
夜は花びらのように来る雪狐
夜振火に花びらそめて大蓮
大杯に花びら受けて職を辞す
奔放な花びら放ちシクラメン
女将の哀歌河豚の花びら灯に透いて
子が与ふ薔薇の花びら天道虫
子が蜜柑剥くや花びらちぎるごと
子のくるる何の花びら春の昼
子の歳は花びらの数杏村
安バナナ花びらのごと子へ開く
安達太良の雪も花びら梨咲けり
寒紅や花びら餅はほの赤し
寒鯉の花びらとなり沈みをり
山茶花の白き花びら散るところ土より冬の寒さはのぼる
山茶花の花びらにして月に敷く
山茶花の花びらも消え青蟷螂
山茶花の花びら落ちし庭小春
嶽の子に朴の花びら開きけり
幕間の花びら餅も初芝居
廻廊に踏みし花びら菊供養
待つたなき花びら踏んで一つ老ゆ
恋さへ憂しさくら花びら創り出す
振袖や花びら餅の出る頃か
掘り出してゐる花びらと春の土
散らまくの花びら垂れし牡丹哉
散るはずも無き花びらや鳥の恋
新盆の家ひまわりの長花びら
春疾風海苔巻も花びらも食べる
春雪の花びらもちの匂ひせし
昼顔のうすき花びら地熱持つ
曇りゐて花びら重し紫木蓮
月光に花びら傷め白あやめ
朝の舟梨の花びらのせゆきぬ
朝よりの花びら浮かべ池の水
朝市の菊の花びら糧りけり
木の洞に散る花びらも寒の内
木洩日に浮かぶ花びら草の上
木蓮の花びら風に折れてあり
林中や辛夷花びら反りて散る
桜湯の花びらほぐれ日脚伸ぶ
桶の鮒浮けるは白し花びらも
次に散るまでの花びら冬桜
毒言の口をふさぐに花びら餅
水仙の花びらに見し日のかげり
水仙の花びら氷りゐたりけり
水清し花びら清し母の膝
水馬花びら筏うごかして
注射器に昂まる花びらのマニラ湾
洛中や花びら川を越え来る
流されて花びらほどの浮氷
浜風に花びら立ちて花御堂
海が嗅ぎよるいま内乱の花びら
淡墨桜その影かその花びらか
瀧壺をもんどりうちて花びらも
焦燥や花びら逃げても逃げても土
白無垢の朝の花びら牡丹果つ
白百合の花びら蒼み昏れゆけば拾ひ残せし骨ある如し
神送り椿の厚き花びらや
秋風や薔薇の花びらまとまらず
空をゆく花びら五十さびしきか
紅のさす花びらもあり菊膾
紅の花びら立てゝ萩の花
紅椿花びら傷みはじめけり
総立ちに走る花びら岸辺まで
老いながら花びらつくすさくらかな
聖霊に詞棒ぐや花びら降り
膨らむで花びらひらく干布団
舞うほどの花びら持たず冬桜
花とびし花びらとびし曼珠沙華
花の中からいちまいの花びらが
花びらが絣の紺の肩につく
花びらが胸に入りしと言ひにけり
花びらが花を離れてゆく海女の浮き桶
花びらが集う日暮の天文台
花びらとなる春愁の鴎たち
花びらと水のあはひの光かな
花びらにかくるる蕾桜草
花びらにゆるき力の芙蓉かな
花びらにアテネをのせて鉄線花
花びらにチョークの粉やシクラメン
花びらに翳しあひつつ海芋咲く
花びらに舌打したる蛙哉
花びらに花の名を当て春惜しむ
花びらに花びらの翳白牡丹
花びらに花びら積り寝おちけり
花びらに響きのあがる寒牡丹
花びらに風の翳ある冬牡丹
花びらに風の響きの寒牡丹
花びらに風薫りては散らんとす
花びらのあかるくなりぬ蓮の雨
花びらのうすしと思ふ白つつじ
花びらのおもては濡れず流れをり
花びらのがはりと外れ水芭蕉
花びらのくる方にあり桜の木
花びらのごとくつめたくなめくぢり
花びらのごとく河豚貼る伊万里皿
花びらのごとく翳もち夫婦岩
花びらのごと鱗散り桜鯛
花びらのちらりと小さき寒ざくら
花びらのてのひらほどの白菖蒲
花びらのときに入りこむ蒲団部屋
花びらのひとひらとゐる真鯉かな
花びらのふるへとどまる蕗の上
花びらのほほに触れなば旅ごころ
花びらのもつとも遠くゆく虚空
花びらのやうに子がくる目刺焼く
花びらのやうに枇杷むき近江びと
花びらのよぢれて定家かづらかな
花びらの一つを恋ふる静電気
花びらの一つ一つは老の友
花びらの一片のごと冬日落つ
花びらの上に花降る種井かな
花びらの二三それより散らざりし
花びらの付ゐて水車の廻りけり
花びらの八重拡がれる桜粥
花びらの列空をゆく奥吉野
花びらの動きてひらく牡丹かな
花びらの十七ありし野菊かな
花びらの口にひろがる菊膾
花びらの吸はるる竪穴住居跡
花びらの吹かれまがりて杜若
花びらの吹き入る電車多摩郡
花びらの吹き寄せらるる浮御堂
花びらの唇にあたりし固さかな
花びらの如き投銭冬晴るる
花びらの指のあいだをすべる錘
花びらの掃かるる音は知られけり
花びらの日裏日表紅蜀葵
花びらの来る方にあり桜の木
花びらの桂馬跳びして梅の下
花びらの流るる音や貴船川
花びらの流れて遠き昨日かな
花びらの浮かびて十日山の池
花びらの消える宇宙と思いけり
花びらの真横にとんで白牡丹
花びらの空くれなゐに仏たち
花びらの縁より乾く冬薔薇
花びらの翻るや素足して出でぬ
花びらの肉やはらかに落椿
花びらの落ちつつほかの薔薇くだく
花びらの薄さ吹かるる寒牡丹
花びらの薔薇のかたちを守りけり
花びらの重さを思うとき死ねる
花びらの階段に散り昼の客
花びらの雨粒赤し藪椿
花びらの非日常を抜けてゆく
花びらの飛びくるを土迎へけり
花びらの鮮紅崩す牡丹鍋
花びらは厚し蛇の衣薄し
花びらは水を上がりぬ水つけて
花びらは紙よりうすし寒牡丹
花びらもまた海底へ行く途中
花びらも一と日を過ぎぬ洗鯉
花びらやいまはの息のあるごとし
花びらや桜吹雪をこぼれきし
花びらや生きてゐて子のやはらかき
花びらや生れきてまだ名をもたず
花びらや鰻ぬるりと魚籠の底
花びらをうてなまかせに寒牡丹
花びらをかたびらとして犬葬る
花びらをとどめし髪の冷ゆるかな
花びらをながして水のとどまれる
花びらをふりかけに行く父の墓
花びらを乗せて走れり厨水
花びらを呑みこみ太る粘土の蛇
花びらを少し吹き入れ日の格子
花びらを崩す気のなく冬薔薇
花びらを引つぱる雨の花雫
花びらを払ひてすわる野点の座
花びらを散らすかに吹き葛湯かな
花びらを流るゝ雨や花菖蒲
花びらを浴びての恋のかいつぶり
花びらを着けし菩薩の腿濡れて
花びらを踏みももいろの胎児かな
花びらを載せてもどりぬ車椅子
花びらを追ふ花びらを追ふ花びら
花びらを重ねて寒の菊にほふ
花びらを鋤き込み老の畝高し
花びらを閉じ睡蓮にある示寂
花びらを風にたゝまれ酔芙蓉
花びら餅おもむろといふたなごころ
花びら餅姥にもかなひ乙女にも
花びら餅美しき嘘聞きゐたり
花嫁の花びら父母に薔薇捧ぐ
花氷花びらの端のしろがねに
茎の尖花びらとなり海芋かな
茶畠や花びらとまる畝頭ラ
荒々と花びらを田に鋤き込んで
菊描く金ンの花びら長短
菊酒の花びら唇にあそばせて
落下する花びら落下する記憶
葉が花びらを押しクロッカス
蓮ひらく雲も花びらなして透き
薄紙につつむ花びら最晩年
薔薇散つて花びらとなり石の上
藁深く花びらこぼれ寒牡丹
蜘蛛の糸たかく花びらつけにけり
蝌蚪流れ花びらながれ蝌蚪ながる
西東忌花びらつきし傘たたむ
足袋に散る薔薇の花びら更年期
輜重輸卒の墓へ花びら詩人より
遠州灘へゆく雪代も花びらも
重荷負うごとき花びら薔薇匂う
金賞の花びら賜ふ菊枕
雨どどと白し菖蒲の花びらに
雪の花びらひろがりひろがり睡りくる
雪片の花びらとなる子の受賞
露天湯の桶に花びら掬ひけり
青芝に白き花びらこぼれけり
韋駄天の前花びらも来てあそぶ
顔あげし鼻に花びら神の鹿
風が押す花びらぐるま舗装路は
風さきを花びらはしる田打かな
風そよろ花びらはらり生死のさかひに畳一枚がある
風ゆきしあと花びらの流れけり
風吹いて花びら動く牡丹かな
風触れて花びらうすき花菖蒲
風邪の児のふた花びらの薄まぶた
高階に花びらとどく西行忌
魚の身を花びらにして遊ぶなり
鳥となり花びらとなりどんどの火
黒い花びらのようにお玉杓子は泳ぐもの
黒マントからクルクル牙が花びらが
あはれしづかな東洋の春ガリレオの望遠鏡にはなびらながれ
うなだれて撓ふはなびら悩ましく風にさいなまるる山慈姑の花
くちづけしままはなびらのながれゆく
そのままよそらに消えたるはなびらは
はきよせてゆくはなびらも走りけり
はなびらがおとづれてゐる畳かな
はなびらが金属破片花祭
はなびらと水のあはひの光かな
はなびらに似て春禽の舌紅し
はなびらに留鳥はみな顔馴染み
はなびらに血の斑ちらしてほととぎす
はなびらに須臾瞬息の翳添ひて
はなびらのあをきたたみをはしりけり
はなびらのいま花屑となる途中
はなびらのくづれて蓮の実となりぬ
はなびらのこも~震ひ梅の雨
はなびらのごときをたたみ春日傘
はなびらのごとき夕月西行忌
はなびらのごとき炎や牡丹焚く
はなびらのとぶはゆすらか初花か
はなびらのぬるるしどみに風吹けり
はなびらのふちどりにして水凹む
はなびらのやうなあしゆび御涅槃
はなびらの前後不覚にひらひらす
はなびらの土にまみれてやわらぐ土
はなびらの垂れて静かや花菖蒲
はなびらの妻までの距離はかりをり
はなびらの小皺尊し冬ざくら
はなびらの欠けて久しき野菊かな
はなびらの白さ夢透く冬牡丹
はなびらの盡きたる深山朝櫻
はなびらの缺けて久しき野菊かな
はなびらの肉やはらかに落椿
はなびらの間のひろき野菊かな
はなびらは水を上がりぬ水つけて
はなびらもはなびらかげも水いそぐ
はなびらも花のままなる花葛も
はなびらをうちふるはせて風の罌粟
はなびらをおとすゆあみてきし肌
はなびらをのせて水くる嵯峨の藪
はなびらを押し曲げてゐる蜂の脚
はなびらを薔薇盗人が散らしぬる
はなびらを雨にたゝみてきんぽうげ
はなびらを風にたゝまれ酔芙蓉
はらりはなびらの空間わが雄島
人を焼くほのほはなびら海へ散り
人間にはなびらがある葛湯吹き
余花にしてはなびら強くあつまれり
円山のはなびらのくる大石忌
初東風やはなびら餅のごぼう味
吉野山のはなびらはポケット日航機
夜の谷をくるはなびらの記憶かな
天窓に何のはなびら機始
寒紅梅はなびらよせてむつまじき
少女期の火傷はなびらなして夏
山吹のはなびらまざる花吹雪
幹から枝枝からはなびら桜描く
弧のはなびら重ねて
忌の空にはなびら流れ刻ながれ
明の春はなびら餅にごぼうの香
春愁やはなびらいろの魚の腸
春雨はさくらはなびら抱きて落つさくらのいのち濡れておちゆく
昼の酒はなびら遠く樹を巻ける
暗室にはなびらはいること禁ず
桔梗のはなびらの線佛頭に
桜まではなびらを踏むさびしさよ
楸邨の前に葩餅ひとつ
歯に咬んで薔薇のはなびらうまからず
水曲るはなびらもまた曲るなり
注連を焼く火のはなびらに雪降れり
海にはなびら水口をまつりけり
海原をはなびらのくる机かな
無方一生はなびらの無盡蔵
白毛布はなびら溢れして抱く子
直系やはなびら色の硝子器生む
眼中のはなびらとなりとはにとぶ
睡れ睡れとはなびらのきりもなし
睡蓮のはなびら水に突刺さり
秋風を身のはなびらとしてゐたり
空に月地にははなびら子の眠り
筏ともならず池面のはなびらは
紅蜀葵六つのはなびら確然と
羽抜け鶏肉のはなびら咥へけり
肥後菊のはなびらの疎とありにけり
舟に仰げばはなびらの天を舞ふ
芍薬のはなびらおつるもろさかな
花あらしはなびらなして臓腑らも
花かげに散りしはなびら限りなし
花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹
花筵巻くはなびらを払ひつつ
襲ねたるはなびらおとし鳳仙花
西行忌菓子のはなびら食ふばかり
買初めのはなびら餅の小箱かな
逆境のさくらはなびら舞はせけり
金魚は魚でしょうか
雪見窓はなびら餅の届きたる
飛び立てり嵐の真夜のはなびら達
あつまって花片もえるかも知れぬ
お転婆な花片を持つシクラメン
ガウンの裾に拾う花片爪こがす
一八の花片垂れし昼下り
厚朴仰ぐや花片透けて光ただよふ
噴きあがる花片空ゆく夕疾風
大江は桃の花片ラも泛めけり
天に消え花片ひかりとなりきたる
寝坊なる花片栗に日は真上
山茶花の花片もまじりいぶりをり
弥撤へ行く吾も一片の花片か
散りかかる花片なれば立ちつくし
朽葉より花片栗の空の色
水底に花片沈む夕かな
水甕に花片沈み雷通る
清め膳花片ちらりほらり夜へ
滝壺の呪縛逃がれし一花片
炎立ちあふ白れんの花片日ざし
白梅のさかりの花片まへるあり
花片々片々として山頭火
花片々百態演じつつ湖へ
花片々鼓にあたる舌のさき
花片がプレパラートをすべり落つ
花片のきのふの靴を履きにけり
花片の一と筋になり流れけり
花片の肌に冷たき有風忌
花片の膨らむ胸を掠めけり
花片を喰ひつむ鯉の真昼かな
蝌蚪流れ花片ながれ蝌蚪流る
雲映る隙間もなくて花片浮く
霰打ち花片積る彫の恥部
もろこしの雄花に広葉打ちかぶり
咲き初めて雄花ばかりや花南瓜
教材の玉蜀黍の雄花咲く
瞬きてあけびの雄花雌花かな
通草咲く雄花雌花と二た色に
去年の雌花くろいやしやの新緑
瞬きてあけびの雄花雌花かな
花粉得て雌花ときめき蔓南瓜
蝶飛びて西瓜の雌花十四五個
通草咲く雄花雌花と二た色に
おしろいの黄花紅花坂下る
やませ除け黄花白花屋根に石
一枝黄花今世紀狂女斜塔を薙ぐ
西日暑し芭蕉はあれど黄花草
親音に夏の白花黄花かな
遠雲雀追へば黄花の野が翳る
黄花しようぶしずかな正義感通る
黄花のそれコウゾリナとか云ふ草か
あこがるる夕顔白花種子の冷え
いんげんの白花むつと曇りづめ
たり蔓の白花ならべて秋やたつ
むしかりの白花白花オルゴール
アカシア白花昂揚の日の来し方
イエス迎へに来ます日もかく朴白花
万里をゆく夏の白花手に挿頭し
下北のこれは白花吾亦紅
丹の馬に山茶花の白花ぴかり
地に白花そらに繊月淡路女忌
夏立つと誰に告ぐべく挿す白花
木に草に白花てがみのやうな初夏
木槿白花おのおのはなれおのおの咲き
木槿白花父の深酒のときは白花
流れ藻に白花いづこの便りかな
白花の芙蓉のをはりしづかなる園はいさよふゆふべの光
白花の芯に食ひ入る蟻一つ
破れ傘白花かかげかけこみ寺
蕃椒の白花小さく葉かげなる
藻に白花開くさざなみ淡青に
血縁の絶えて白花さるすべり
親音に夏の白花黄花かな
雨冷えの白花をつづり茜草
青葉して白花点じぬ姫林檎
饗宴の卓の白花春をしむ
光る萩の芽白い花のやうだ
夏霧にぬれてつめたし白い花
大根も薺も春の白い花
山頂にいちにち炎えて白い花
溽暑家族日暮は白い花である
白い花なくてあさまし花御堂
着せ替え人形津軽の花は白い花
秋風や島に根を張る白い花
蔓の白い花おちると豆が幼くついている
はじめから赤い花なら春の夢
イースターカクタス復活祭に赤い花
利休忌や赤い花ある寛永寺
夏館異人住むかや赤い花
春嵐水が持ち去る赤い花
春雨や蓑の下より赤い花
秋立つや隣にはまだ赤い花
秋風やむしりたがりし赤い花
赤い花は彼岸花、水に雨ふる
赤い花買ふ猛烈な雲の下
ふるえ止まぬ車内の造花春の暮
パラソル売場造花の藤のかげの鏡に
三島忌や造花の薔薇に棘のあり
冷房にありて造花と相寄らず
冷房に紫褪せし造花立ち
南部ばやし造花紅葉を稚児負ふて
商店街造花一新して夜寒
女給らに造花の春もよごれたる
寒夜明け赤い造花が又も在る
山麓駅造花紅葉も酣に
春愁やふれたる造花音をたて
暖房や造花生花のわかちなく
朱の堂に朱の造花満つ花会式
枯れきつて赤い造花と路地に棲む
梅園に造花のさくら担ぎゆく
毛糸店の菊は造花をおもはしめ
波激し三等船室のバラ造花
煖房や造花生花のわかちなく
百合山は造花でありし百合祭
経団連十三階の黄の造花
花会式造花にいのちありて褪せ
花会式造花は匂ひ持たざりき
花氷解けて造花の曝される
造花かく挿し幸せか雪降れり
造花なめる冬蠅の音のある如し
造花になき薔薇の冷肌妻は生きて
造花には散ることのなき万愚節
造花にも造花のいのち涅槃西風
造花の百合を運ぶ青年原爆忌
造花ばかりの中のまことの桜草
造花よりほこりのたちぬ冬館
造花より造花らしくて蓮の花
造花巧緻同族いくつ葬送りし
造花已に忙を極めたるに接木かな
造花軒にさせば浦風祭来ぬ
都をどり造花のさくら庭のさくら
雪に挿す造花の供花も初地蔵
雪国に住みて造花の手内職
風邪ひいて造花につもる塵少し
魚夫の死に並ぶ造花を遺児が欲しがる
えんえんと鎖引きずり草花摘み
かいまみの草花赤し秋の蝉
このあたりの草花折り来糸瓜佛
ごてごてと草花植し小庭哉
たそがれの草花売も卯月かな
つけてゆけ草花売がかへるかた
つる草花もつて工場が閉鎖している
ほのかなる草花の匂を嗅ぎ出さうとする
をとめらの強腰夏の草花らと
ノックして草花売の子は可愛
一束にして草花や秋の暮
刈株に小草花咲く春田かな
名もしらぬ小草花咲く野菊かな
名も知らぬ草花咲くや南蛮寺
天安門秋の草花植え働く
女声合唱夏至の草花咲かせけり
娘の柩菊花草花とり~に
小春野や草花痩せて晝の月
山深く草花咲いて色怪し
巌の前草花の日は冷めやすく
市に得し草花植る夜半哉
彼岸過ぎて草花の種貰ひけり
新月の草花食べる犬連れて
春の日や草花売の背戸に来る
暮れて来て植う草花や夏隣
松が根に小草花さく秋隣
水叩く草花あり蜻蛉吹かれ行く
父母のさびしさは草花をいつぱい咲かせ
知らぬ名の草花つむや足の豆
秋冷を行くや草花親まず
立ちのぼり草花木もち地の暗誦者
笊屋ある日春の草花売りに来る
絵手紙に描く草花や秋めく日
色刷の草花の絵とスキーかな
草花いつぱい咲くさまを種子まく
草花にあはれ日のさす出水かな
草花にくくり添へたる粽かな
草花に声掛く日課露の玉
草花に或日霧降る都かな
草花に汁鍋けぶる祭哉
草花に茶代を吝む鶯花園
草花のカタログ届く春隣
草花の一筋道や湯元迄
草花の一輪をもて茶事としぬ
草花の上へころりと星二つ
草花の仔細に咲きし春日かな
草花の屏風をたゝむ野分哉
草花の市へ憲法記念の日
草花の水濁せしは鰌かな
草花の知らぬが多しあるきけり
草花の種が飛ぶなり風の中
草花の種こぼれたり草の老
草花の種ぞ穂末に残りける
草花の種の光や秋の風
草花の種小粒なり日の花に
草花の種採り採らず秋しぐれ
草花やいふもかたるも秋の風
草花やはしりがきする水塔婆
草花や人力はしる秋田道
草花や名も無き小川水清し
草花や垣根も無しに台所
草花や寺無住にして鹿の糞
草花や小川にそふて王子まで
草花や湖の水つく通ひ路
草花や納骨堂に参りけり
草花や露あたゝかに温泉の流れ
草花をよけて居るや勝角力
草花を供へてゆかし閻魔堂
草花を圧する木々の茂かな
草花を天女に供へ浄瑠璃寺
草花を画く日課や秋に入る
草花を皆句に作り子規忌かな
草花ノ鉢竝ベタル床屋カナ
草花ヲ圧スル木々ノ茂リカナ
草花帖菓物帖に秋澄めり
菖蒲園に草花の咲く径多し
西洋の草花赤し明屋敷
谷にばかりかの草花や時鳥
起きて来る草花の苗茄子の苗
雪を渡りて又た薫風の草花踏む
飛石に草花鉢や水を打つ
ポピー咲き海の際まで生花村
冷まじや生花の自動販売機
原野にてみたままつりの生花展
煖房や造花生花のわかちなく
瓶に透く茎の涼しき生花展
生花に事欠く頃や枇杷の花
生花冴ゆ夜の寒風歩く人に
葉牡丹の生花鉢植客呼べる
鶯や生花の稽古はえにしだに
切り花の中に菜の花街の花舗
切花は死花にして夏ゆふべ
電気カンナのコード延び切り花大根
切花に飽いたるひとの卯月かな
無駄花の色美しき南瓜かな
南瓜咲く徒花ばかりにぎやかに
徒花のいづれも白き倅かな
たてがみの如く牡丹に花弁あり
みどりごを花弁包みにクリスマス
パンジーの花弁拡げつ陽にま向き
ヒマラヤを越えなん花弁罌粟散れり
余寒なる戒壇院址何の花弁
冬薔薇の花弁の渇き神学校
卓の五人花弁囲みに梅紅し
卓の五人花弁囲みやさくら餅
山吹の花弁不壊なり石の上
押花の菫の花弁春に透く
掌中の木瓜の花弁の厚みを羞ず
散る前の花弁を反らす牡丹かな
春陰の秘仏花弁の御手を欠く
水中花顫ひとけたる花弁かな
水引の耳掻ほどの花弁かな
牡丹の花弁溢るる莟かな
白鳥の花弁散りばめ長木川
石竹の子音連ねし花弁かな
秋天の下に野菊の花弁欠く
自づから花弁くづれし寒牡丹
花弁の肉やはらかに落椿
花弁を立てゝ落下や海紅豆
葉の上に花粉こぼせる枇杷の花白き花弁をのぞかせてをり
蓮の花弁天堂に浮き沈む
蕊の朱が花弁にしみて孔雀草
貝細工その花弁の桜貝
身の花弁開き白鳥羽づくろふ
返り花弁財天は水に飽き
黒百合の花弁を打ちて日照雨来る
そばで見て新鮮な蕋のつばきだ
向日葵の大き黒蕋秋の風
向日葵の蕋を見るとき海消えし
夕顔の開きし蕋は夕日得し
大風に蕋見えにけり蓮の花
山茶花の蕋かげ消ゆるときしぐれ
山茶花の蕋ばかりなる黄色かな
座禅草仏のごとく蕋蔵す
心眼にサフランの蕋あざやかに
日輪の光芒曼珠沙華の蕋
梅の蕋つよし青天衝きあげて
水仙の蕋に宿せり五黄星
浜木綿の蕋に雨はれゐたりけり
牡丹の蕋金色に発光す
芍薬の蕋の湧き立つ日向かな
花の蕋ほどにめでたし初若菜
花桃の蕋をあらはに真昼時
茶の花のひそかに蕋の日をいだく
茶の花の蕋のまづしき入り日かな
蕋の朱が花弁にしみて孔雀草
蕋の金初日に匂ひ庵椿
開くとき蕋の淋しき月見草
*さんざしのくれなゐの蕊黒の蕊
*はまなすの蕊のもつるる潮曇
あさがほの蘂さし出づるところ白
おおぞらや言葉は赤き蘂となり
かさなりて蘂食ひあへり落椿
きつちりと蕊を結んで白牡丹
くちびるにさくら蘂降るひびきかな
この降りになりてはやまじ松の蕊
こもり居や茶がひらきける金の蘂
これよりはまつすぐ学べ松の蕊
さくら蕊人の上にふる祭来ぬ
さくら蕊忌日いくつも過ぎにけり
さくら蕊散るやつつしみなきさまに
さくら蘂地に落つ誰も振り向かず
さくら蘂敷けり湖上にゐたる間に
さくら蘂降るやつつしみなき様に
さくら蘂降る制服の紺の肩
さざん花の長き睫毛を蘂といふ
ざりがにのバケツに降つて桜蕊
しなだるる未央柳の蕊の雨
その蕊に黄河のひびき白牡丹
だんだんに腹立つてくる桜蘂
ひとりこそ自在や花の蕊に虻
ほころびて蕊うすみどり月見草
まむし草蕊覗かむと指触るる
まんじゆさげ月なき夜も蘂ひろぐ
やつと半どん桜蘂がち嫩葉がち
をんな佇ちて牡丹の蕊の発光す
アネモネの蕊黒し家追はれをり
ハンドベル金の蕊振る朝の百合
パンジーの紫ばかり金の蕊
ロックバンドは蕊を打ち合いクリスマス
一人来てあざやかなもの松の蕊
一枚岩雨水ためて桜蘂
五万分の一地図に降る桜蕊
人去りてさくら蘂ふる石の上
人絶えて桜蕊降る石畳
仏桑花白日の圃に蘂ながき
内側へふかくこぼれて牡丹蘂
出遇はねばよかつた桜蕊降る日
初凪や蘂のあふるゝ磯椿
十薬の蕊高くわが荒野なり
受難日の静けさに降る桜蕊
向日葵の公開の蘂孕むなり
向日葵の秋日の蕊となりにけり
向日葵の蕊の密集湖照りぬ
向日葵の蕊や慕情も黒きまで
向日葵の蕊らんらんと智恵子抄
向日葵の蕊を見るとき海消えし
向日葵の蕊焼かれたる地図のごと
向日葵の蘂を見るとき海消えし
命終の桜蘂降る春蝉忌
唇にさくら蕊降るひびきかな
塵としてややうづたかき桜蘂
壽の字は紅梅の蕊のさま
夏ふかく何の蘂降る熊野径
夕かげの蕊にましゆく寒牡丹
夕かげの蕊をつゝみて牡丹花
夕光に桜蕊降る泉岳寺
夕顔のひらきし蕊は夕日得し
夜の雷にもどり冷えせり松の蕊
大小の蘂八方へ梅の花
大文字草大の要に蕊を張る
大海の蕊はプランクトンの鼓動
大空の穴がさくらの蘂のぞく
大蓮蘂ざつくりと剥がれたる
大虻や椿の蕊に泰然と
天つ日に金の蘂吐き黒牡丹
天に蕊あり蛇苺ぬれてをり
天平のこがねの蘂の白牡丹
天涯へ梅の蕊張る気息かな
天瓜粉吾子の睫毛が蘂となり
太陽へ蕊をあらはに仏桑花
奥美濃の桜蕊降る陶干場
女遠しぐん~伸びる松の蕊
姫塚の凹みに溜る桜蕊
子や帰りこむ蘂ながき夜寒の灯
子午線を貴ぶ町の松の蕊
季の深む蕊をゆたかに茶の咲きぬ
寒木瓜の蕊のぞきたる花一つ
寒梅の蕊授かりし天に向く
寒牡丹蘂に溺れし虫の貌
寝転べば睫毛蕊なす花野かな
寿の字は紅梅の蕊のさま
山吹の蘂も金色乳かゆし
山撓宝珠銀の蕊吐き秋風に
山桜たえだえに蘂こぼしては
山百合の蕊つけ下る峯行者
山茱萸の蘂に緻かな日の光
山茶花の金の蘂病癒えしかな
山茶花や日日蕊の黄の乱れ
幻想家庭さくらの蘂の降りやまず
延年の舞に桜の蕊降れり
弟切草日照雨に金の蕊張れり
張り出して全円の蕊曼珠沙華
心眼にサフランの蕊あざやかに
忌七たび七たび踏みぬ桜蘂
怠れる手紙重たく松の蕊
手拍子や水に降りこむ桜蘂
指を透く血の色さくら蕊降れり
掃き寄せて嵩となりたる桜蕊
掛花の宗旦木槿蕊つつむ
探り得し梅の応へてふるふ蕊
散残るつゝじの蘂や二三本
日あまねし紅梅の蘂長く永く
早梅の蕊影つくる弁の張り
春寒や切り取られたる百合の蕊
春暁やいさゝか長けし松の蕊
春着の子座れば蕊のごときかな
春蝉忌けふ桜蘂降りしきる
昼顔や蕊のまはりのうすぼこり
暖かや蕊に蝋塗る造り花
暖房や崩れてのぞくばらの蘂
暗誦の声ちらばりし桜蘂
曙や蘂を離さず梅ひらく
曲りて赤し風無き日の出の松の蕊
曼珠沙草蕊のさきまで意志通す
曼珠沙華の蕊全円をなせり皆
曼珠沙華の蘂の金環欠けるなし
曼珠沙華わなわな蘂をほどきけり
曼珠沙華ガラス繊維の蘂を持ち
曼珠沙華落暉も蕊をひろげけり
曼珠沙華蕊のさきまで意志通す
曼珠沙華蕊反り勁き古戦場
曼珠沙華蕊奔放をこころざす
曼珠沙華蘂のさきまで意志通す
曼珠沙華蘂の先まで蟻ゆかしむ
曼珠沙華蘂毛のごとし鋼のごとし
月下美人夜は百条の蕊を吐く
月日なき鯉に散りつぐ桜蘂
月見草蕊さやさやと更けにけり
朝の声已れにひびき松の蕊
朝日さす冬靄中の火の蕊に
朝月の白梅蘂をきそひけり
朝雀疾風ををらぶ松の蕊
本丸の窓の高さに松の蕊
札所ひま桜蘂ふるばかりなり
朴の花日輪の蘂ほのぐらし
松の蕊みな上向くに狂ひなし
松の蕊ガラス戸磨きたる日かな
松の蕊傾け暗め雨重し
松の蕊千萬こぞり入院す
松の蕊日々たち昨日より立ちぬ
松の蕊日々伸びきのふより立ちぬ
松の蕊日本の城うつくしき
松の蕊硝子戸みがきたる日かな
松の蕊糸くづつけて立ちて見る
松の蕊群れて鳥の音へだてけり
松の蕊群立つ燧灘を前
根はただに蕊よりうへを牡丹かな
桔梗の蘂のひらける小諸晴
桜蕊ふる夢殿のにはたづみ
桜蕊ふる奇兵隊小者の墓
桜蕊ふる流鏑馬の馬溜り
桜蕊仏頭に降りわれに降る
桜蕊子供の髪に付き易し
桜蕊散り込む島の洗濯場
桜蕊濃き子の家に病めりけり
桜蕊石屋の音に石に降る
桜蕊耳のうしろを打ちにけり
桜蕊踏まねば神に近づけず
桜蕊降るや厩舎の出払ひて
桜蕊降るや月光散らしつつ
桜蕊降るや無冠の身ほとりに
桜蕊降るを怺へてほの朱し
桜蕊降る一生が見えて来て
桜蕊降る不来方の啄木碑
桜蕊降る喪ごころに似たるかな
桜蕊降る犬小屋に犬の貌
桜蕊降る舟小屋の真暗がり
桜蘂か双手のぬくみ去る刻か
桜蘂こぼしてたたむ喪のテント
桜蘂ばかりの赭き木となれり
桜蘂ふるふる母を遠くして
桜蘂ふる一生が見えてきて
桜蘂ふる夢殿のにはたづみ
桜蘂ふる流鏑馬の馬溜り
桜蘂ふる門をくぐれば養鱒場
桜蘂仏頭に降りわれに降る
桜蘂踏まねば神に近づけず
桜蘂踏む靴裏に傷増やし
桜蘂降らすや三嶋大明神
桜蘂降り沖浪の尖り来る
桜蘂降り込む山の投句箱
桜蘂降るそれだけの非常口
桜蘂降るや無冠の身ほとりに
桜蘂降るや細妻ともなへる
桜蘂降る一生が見えて来て
桜蘂降る空つぽの車椅子
梅の蕊虻が足踏みして移る
梅をはる葩散らし蘂を吐き
梅雨ちかし松の蕊長けつゝじ褪せ
椿落ちてわづかに土を染めし蕊
樹下にゐて雀もさくら蘂浴めり
櫻蕊身のいづこよりこぼれけむ
水仙の蕊に宿せり五黄星
氷爆実験地球の裏に桃の蘂
波郷忌や白玉椿蘂見せて
泰山木けふ咲きけふの蘂こぼる
泰山木の蕊くづるるは噎ぶなり
浦風に芙蓉の聖き蕊ふるふ
浮く日あれ寒紅梅の蕊ひらく
滝ざくら空覆ひ蕊降らしけり
漁夫の子の強き素足や松の蕊
点鬼簿に降るにまかせて櫻蘂
無花果の蘂を啜りて無頼作家
父となる日を急ぎをり松の蕊
片栗の蕊を紫紺のなみだとも
牡丹の咲き初め蕊のぎつしりと
牡丹の日に日に蕊のおそろしき
牡丹の色違へども蘂の金
牡丹の蕊に痴れたる虫翔たず
牡丹蕊分け入りし虻ころげをり
牡丹蕊深く分け出づる蜂の名残り哉
牡丹蘂深く分け出づる蜂の名残りかな
猩々袴水音に蕊のばしけり
猫柳みどりの蕊を吐いて咲く
玉川や蛇蕊を這へる蔦紅葉
琴平参道さくら蘂降る石畳
田にあればさくらの蕊がよく見ゆる
癒えし眼に未央柳の蕊の金ン
白亜紀の潮の匂いや桜蘂
白光を蕊に灯して梅昏れぬ
白息のごと紅梅の蕊真白
白木槿朝日が蘂にすべりこみ
白梅の蕊にふれたる鼻の先
白梅の蘂に光つてゐたる蝿
白梅の蘂ぱつちりと雨後の山
白梅や蕊の黄解けて真盛り
百合の蕊いのちのはじめ濡れてゐし
百合の蕊みなりんりんとふるひけり
百合の蕊焦け付くほどに指染める
百合の蕊皆りんりんとふるひけり
百合の蘂いのちのはじめ濡れてゐし
百合の蘂摘まるる何の咎なるや
百合の蘂金色に妹とく癒えよ
相模灘砥の如き日や松の蕊
睡蓮の蕊の見えざる白さかな
睫毛は蕊かまくらの中あかあかと
祝はれて近々とある百合の蘂
競へるは沖白浪に松の蕊
節分草つばらなる蘂もちゐたる
紅卯木蘂をつばらに吐き初むる
紅彩のすうつと月見草の蘂
紅梅のかくまで蕊のあきらかに
紅梅の花一ぱいに蕊ひらき
紅梅の蘂の精しくゆれうごく
紅睡蓮太陽に蕊きらめかす
緋牡丹の一片いまだ蕊を蔽ふ
緑陰の蕊まで駆けて犬戻る
羽たたむ孔雀量ばる桜蘂
翔けながらちゅんちゅん雀松の蕊
能面は耳もて拝す桜蘂
芍薬や蕊の心まで真紅にて
花の蕊掃きては小石掃きもどす
花散りて蕊の散りざり百合の精
花桃の蕊をあらはに真昼時
花虻に抱へられたる蕊唸る
茶が咲いて夕月の香の金の蘂
茶の花のひそかに蕊の日をいだく
茶の花の蘂の雨粒暮色めく
茶の蘂や讃美歌ではじまる母の会
菊の虻蕊を抱へて廻りけり
落椿蘂をまもりて流れ来る
葉牡丹のいのちの蕊をしかと抱き
蕊とれし百日草の花一つ
蕊に置く蕊よりほそき蝶の足
蕊の朱が花弁にしみて孔雀草
蕊の穢は何時なくなりし木の芽哉
蕊の赤が花瓣にしみて孔雀草
蕊の金袖に一刷き牡丹散る
蕊の黄の浮き上りたる落椿
蕊は金花烏羽玉の黒牡丹
蕊も真白にていれぎの花小粒
蕊をゆたかにしんがりの曼珠沙華
蕊を吐きつくして暮るる藪椿
蕊含み切れず茶の花開きけり
蕊残りなほも花相や日の山茶花
蕊深く紅をたゝへし冬薔薇
蕊秘して後ろに佇てり鳥兜
蕊金ンに風に弁解く黒牡丹
藁塚の蕊ぬくぬく母郷出づるなきか
蘂が蘂舐めて雨中の曼珠沙華
蘂つたひ露の玉落つ仏桑華
蘂に置く蘂よりほそき蝶の足
蘂のみのさくらとなりて夕日透く
蘂の影落つ凌霄の花の中
蘂の朱が花弁にしみて孔雀草
蘂ひとすぢ螢袋の中にあり
蘂わたる一匹の蟻まんじゅさげ
蘂包む百合流感の都心まで
蘂掻いて百合の丸蜂あわてもの
蘂深く薔薇のゆるせる雲の影
蘂深く蜂ゐて雨になりにけり
蘂立つる腐れ椿の美しく
蘂触れて砂洲に漂着曼珠沙華
虻ひとつ蘂より落ちてひかりけり
蜜を吸ふ度に蕊打つ蜂の尻
蝶せせる蘂わなわなとまんじゅさげ
裸木の蕊の白さをおもひけり
触るべくもなし巖と牡丹を支ふる蕊
谿音や百合はねむりて蕊めざむ
身に何のあしあとのこる桜蘂
輪かざりや三筋にたるゝ藁の蘂
近づけば黄の蘂見ゆる椿かな
酔つてをり桜の蕊を運ぶ蟻
金婚は死後めぐり来む朴の花絶唱のごと蕊そそりたち
鉄線の蕊紫に高貴なり
鉄線花うづ巻く蕊をのこしけり
鎌倉に桜蘂降る康成忌
長き蕊残して躑躅地に落ちぬ
開きつつ梅は蕊こそ大事かな
間語り桜蘂降るひと夜冷え
阿波淡路皓歯の渦や松の蕊
降りてより縺れ合ひたる桜蘂
降り積みて来し方くらむ桜蕊
降るほかはなきごと桜蘂降れり
陰神にどつと降りたる桜蘂
雨に色交へて桜蘂降れり
雨の香に立ちまさりけり松の蕊
雨乞ひの絵馬に降り来る桜蘂
雨水に蕊の漂ふ山つゝじ
雷過ぎし蕊なほふるふ水芭蕉
雹のあと蘂真青に梅こぼれ
電線がぼろぼろの感じ松の蕊
露けさに蜥蜴のぼりゐし松の蕊
飢餓の手の習作冬日蕊ながし
首塚の荒れ桜蘂降るばかり
黄菅咲くその蘂を見し空を見し
黄菊とは蕊に籠れる黄なりけり
つい~とつゝじの雄蕋残りたる
われら傘の雄蘂と雌蘂今日より夏
囀りや雄蕊のごとき消火栓
月下美人雄蕊雌蕊も火神かな
百千鳥雌蕊雄蕊を囃すなり
茶の花は雄蕊の奢日は沈む
蓮散りて離れがたきは雄蕊かな
返り花雄蕊雌しべの覚束な
金色の雄蕊とろりと黒牡丹
雄蕊相逢ふいましスパルタのばら
われら傘の雄蘂と雌蘂今日より夏
月下美人雄蕊雌蕊も火神かな
百千鳥雌蕊雄蕊を囃すなり
雌蕋長う残して躑躅雨と去りぬ
雪嶺を雌蘂とし夕日の巨花開らく
風の百合雌蕊受粉のよろこびを
腕細き働き盛り花ざかり
菊盛り花もてその身翳らせて
わが静臥馬酔木は白き花冠る
誰が編みししろつめくさの花冠
鶏頭のたたみ尽せし花冠かな
鶏頭の花冠おごそかに枯れはじむ
その中の早咲ほめよ雪囲
ねむき灯色すみれ早咲く崖も闇
埋めつばき早咲ほめむ保美の里
早咲きのいくらなんでも夾竹桃
早咲きの木瓜の薄色蔵開き
早咲きの梅さかりなり初大師
早咲きの梅にマスクを掛けぬ日々
早咲きの梅の一枝の怯えかな
早咲きの梅の白さに振り返る
早咲きの椿椿と口揃え
早咲きの花のいたづら心かな
早咲きの花菜のちょこんちょこんとな
早咲きの萩にのぼるや紀三井寺
早咲きの蓼のひとすぢ風の盆
早咲きの赤い椿が咲きにけり
早咲きも早咲き明王院の梅
早咲の得手を桜の紅葉かな
早咲の朝顔赤し五月晴
早咲の梅に與けて白木箸
早咲の梅の香もあり納豆汁
梅つばき早咲ほめむ保美の里
梅林の早咲きの梅これったけ
梅椿早咲きほめん保美の里
釜敷や早咲き見する今朝の雪
まんじゅさげ遅咲きの村円空守る
遅咲きの茎を立てたる曼珠沙華
遅咲の薔薇赤うして散り易き
山茶花の八重咲く白さ昃りても
二重三重すぐ八重咲きの揚花火
受難図に海光桃の狂ひ咲き
バラの名は娘の名ベツテよ狂ひ咲き
八月の藤狂ひ咲く非文の忌
朝顔や父が丹精狂ひ咲き
水仙の花原狂ひ咲く野菊
狂ひ咲きし一朶の藤も供へけり
狂ひ咲くつつじの緋色澄みて秋
狂ひ咲く杜若や三河の一揆寺
狂ひ咲く桜一輪涼しけれ
狂ひ咲く牡丹ハミングしたき晴
狂ひ咲く花や鏡のはこばるる
狂ひ咲く鉄線高さ失はず
玻璃に照る一樹や椿狂ひ咲く
耳をよく掻く日や桃の狂ひ咲き
青春と口紅でかく狂ひ咲き
つばさ傾け満開の桜かな
どおんと云ふ音聞こえむか花満開
どくだみの満開敬語使はねば
もう一つ満開の花仏の座
わが舎利を撒きしごとくに梅満開
わたくしの骨とさくらが満開に
オリーブの花満開の島さみし
乱れ菊括られてより満開に
五色椿満開色の定まらず
人格を穢す満開の花の幹
公園の桜満開思い出も
地に深く居る満開の桜の根
壇上桜満開の虚子忌かな
夕冷や満開の花葉に出でゝ
夜は桜の満開とおもふなり
大雨の迫れるさくら満開に
山二つ向き合ふ新市花満開
巡礼に花満開の紀三井寺
幹老いて満開の花支へをり
敵味方すでに満開菊人形
日の束となり海棠の花満開
日曜の百合満開に脳死論
桜の森の満開の下傴僂が一服
桜満開おのが身に皮膚いちまい
桜満開ひとりごろ寝してあれば
桜満開人は地べたに座りたい
桜満開湯屋の鏡に骨透く胸
椿満開内耳へ降りゆく夜道
樹氷林満開にして花ならず
樹液鳴りとよむ満開のさくら揺れ
死が見ゆるとや満開の花仰ぐ
母の歩に合せてさくら満開に
毛皮剥ぐ日中や桜満開に
気のつかぬうち満開の枇杷の花
海女の家満開の桃と水澄む溝
満開が暗しくらしと糸切歯
満開といふ淋しさの稲の花
満開といへどあはあは黄蜀葵
満開と言へどはるかなさくらかな
満開にしてふつと消ゆ桃の花
満開にして淋しさや寒桜
満開に身を固うして桜守
満開のけふを逃して何とする
満開のこぶしに森も涯ならむ
満開のこみ上げてくる櫻かな
満開のさくらに匂ひ無かりけり
満開のさくらに浮きて鴉かな
満開のさくらに軍鶏の飛び上る
満開のさくらのうしろ魚籠ひゆる
満開のさくらの中の榾乾く
満開のさくらの空に蝶を見ず
満開のさつき水面に照るごとし
満開のしだれざくらに風翳る
満開のしだれ桜の地へとどく
満開のすすきはしあはせだらうか
満開のつつじきのうは古りにけり
満開のにはかに冷ゆる桜花
満開のふれてつめたき桜の木
満開のほかにすべなく水中花
満開のぼうたんよりの雨雫
満開のダチユラの花に靴かくす
満開の一と木しづけき朝を佇つ
満開の下をけもののように過ぐ
満開の嗚咽ばかりや桜の夜
満開の地獄の昼を間近にいる
満開の心を一に山桜
満開の心を一に濠桜
満開の日の裏側の水溜り
満開の春閉ぢてゐる孔雀かな
満開の朝の桜を賜はりし
満開の桃の畑が川を曲げ
満開の桜がうつる入江かな
満開の桜が雲を低くせり
満開の桜に仁王の顔ゆるむ
満開の桜に吼ゆる海驢かな
満開の桜のうしろから抱けり
満開の桜のこゑに耳とざす
満開の桜の上に空のあり
満開の桜の上の電気館
満開の桜の上の鬼瓦
満開の桜の下の子守唄
満開の桜の中の辛夷かな
満開の桜の苗木畑かな
満開の桜の隙を船ゆけり
満開の桜や学問ノススメ
満開の桜や干してあるような
満開の桜や救急車が過ぎる
満開の桜散らねばならぬかな
満開の桜機関車独走す
満開の桜突つ切り鴉とぶ
満開の桜胃カメラ飲みに行く
満開の梅しら~と雪もよひ
満開の梅なり風もふれしめず
満開の森がひからす楽器の胴
満開の森の陰部の鰓呼吸
満開の櫻のために琴を弾く
満開の海の岩岩船遊び
満開の牡丹風ごと買ひ帰る
満開の紙の桜の初芝居
満開の花くぐり来し愁ひかも
満開の花ことごとく瞳もつ
満開の花のうしろの雑木かな
満開の花のことばは風が言ふ
満開の花の一枝とかざし見せ
満開の花の中なる虚子忌かな
満開の花の枝に杖かけてあり
満開の花の湘南平かな
満開の花の隙間へ早鼓
満開の花の香に入る児の寝息
満開の花を離れて一片飛ぶ
満開の隙間より花散りはじむ
満開や塩土老翁遠目して
満開をかくもさびしく山桜
満開をみづからいとひ散るさくら
満開を見上げる無限落下感
無量光帯びて桜の満開す
町中の墓所の桜の満開に
盆梅が満開となり酒買ひに
盆梅の満開となり酒買ひに
祈願して雨後満開の花の杜
福寿草満開雪塊しりぞくに
私の円周率せばまる百日紅満開です
空いちまいを使って花が満開です
胸乳ひらくごと花こぶし満開に
花満開余生に揺らぎなかりけり
菊芋の花が満開山の駅
菜は満開膝高上げて歩む子に
葬儀屋に金銀満開冬ざるる
薔薇満開一夫一妻つまらなし
蜷を見てゐて満開のさくらかな
街路樹となつて満開花水木
貧は永久雨のち桜満開で
辛夷満開こぞりて天に祈るかな
連翹満開このあかるさはただならず
金盞花満開にして島乾く
雪柳いま満開の重さかな
雲珠桜満開にして花供養
雲白し蝉満開の故郷の杉
靴に入る小石の痛さ桃満開
鶏頭花いま満開と言ってみろ
黒点の太り蔓薔薇満開に
あぢさゐの花の花粉に黄色なし
あら壁に百合の花粉の触れし跡
いづれかの穴へ花粉の飛びにけり
おのが花粉にまみれし牡丹みだらなり
かへり血の如き花粉に百合活くる
たれさがる花粉の紐や月見草
はんの木の花踏まれあり花粉黄に
ぽつてりと椿に花粉政子の墓
まぶしい花粉に姿隠して逢引きする
むき~に花粉こぼして卓の百合
よく晴れて杉に花粉を飛ばす色
カサブランカの花粉まみれや未来仏
コスモスの花粉を吹けり黒表紙
ネクタイに椿の花粉つきにけり
ピノキオや杉の花粉がとんでくるぞ
ワイシャツの肩姫百合の花粉つく
一指弾松の花粉を満月へ
人に生浄土のえごに花粉季
人妻に致死量の花粉こぼす百合
伽藍まで吹きけぶりたる松花粉
佐渡見んと大虎杖の花粉浴び
分け行けば躑躅の花粉袖にあり
前山の花粉霞と申すべし
化石のなかのヒロシマおびただしき花粉
北に雪山松は花粉を北へのみ
十五歳抱かれて花粉吹き散らす
千年の杉の花粉を浴び詣づ
千年の神杉降らす花粉浴び
又松の花粉の頃に病める子よ
口中に花粉あふるる螢の夜
吉野よく見つ松の花粉のとぶことよ
啓蟄の虻はや花粉まみれかな
喪ごころや花粉まみれの秋の蜂
地下足袋に土筆の花粉水跳べば
壮年期すぎるアカシアの花粉あび
夕づくや見えねど杉の花粉散る
大男杉の花粉に泣きながら
大空も頭の中も花粉満ち
天皇誕生日の松の花粉かな
太子廟松の花粉を漲らし
太郎杉降らす花粉や地震あるな
妻子置き来て桃の花粉がとぶ岬
少年に小さきものの死夜の花粉
尼とゐて松の花粉に吹かれたり
山焼かれなむ銃床に降る花粉
峡いづる百合の花粉に肘染めて
平成の杉の花粉の乱なりし
平野より山へ杏の花粉見に
幾度か松の花粉の縁を拭く
御陵に松の花粉の雲起る
愛さぬなら百合の花粉を付けてやる
手に受けて通草の花粉濃むらさき
手を触れし杉の群れ花花粉散る
持ち歩く百合の花粉が花汚す
挿し置きし夜叉五倍子花粉こぼしをり
日も花粉まみれ授粉のすもも畑
日高しやおのづとけぶる松花粉
明らかに花粉とびつぐうらゝかや
春睡はしろき花粉をみなぎらし
昼花火虻が花粉に眼を汚し
晩學静かなり松は花粉をとぼす
晩春の花粉を浴びて女眠る
書院の縁に松の花粉や掃けば飛ぶ
杉の花粉黄粉のごとく卓上に
松の花粉みぢん鱒二の詩かかぐ
松花粉秋声文学碑を染めし
椿の花粉紬の羽織に
椿落ちて水にひろごる花粉かな
椿落ちて花粉浮き出ぬ潦
槇が吐く花粉この眼をもつて生きる
横だよ山吹の花粉の粒々
毛糸帽椿の花粉付けて来し
水つかう見えぬ花粉が夜も流れ
水打つて百合の花粉の漂へる
水澄むや花粉のつきし虫が葉に
水馬松の花粉にゆきなやむ
注連さげし杉の神木花粉撒く
海女の笑ひ浴びて花粉を流す松
海難碑松の花粉のけぶりたる
温室の花粉に窓の曇りたる
灯から灯へ花粉まみれの男とぶ
烈風の花粉にまみれ蝶つるむ
烙印のごとくに胸の百合花粉
煙り散る松の花粉に気を転じ
熊野詣や一山の椎花粉噴く
父母の杉より花粉童子かな
生い立ち白い男の花粉となり
生きてまた松の花粉に身は塗る
生まるるは火傷なりけり松花粉
畳染めてこゝにも百合の花粉かな
白紙に土筆の花粉うすみどり
百合の花粉白衣に著いて落ちぬなり
百合の花花粉に意地のごときもの
百合の花花粉流れし跡のある
百合咲きていまだ花粉をこぼさざる
百合花粉君の睡りに鎖かけ
百合花粉太宰の墓碑をよごしけり
百合花粉拭いてもとれぬ罪のあと
石狩の花粉でよごす白き服
空をゆく花粉の見ゆるエレベーター
窓開けて居られず松の花粉かな
網干すや松の花粉の吹雪く中
翌朝の月下美人の花粉かな
背の子の明暗松の花粉ふり
胸突坂杉も花粉を吐き尽す
花*ささげ旅信に花粉の匂いすこし
花に葉に花粉ただよふ牡丹かな
花樺の花粉がすみといひつべし
花粉にあらぬ灯を浴び冷えゐん弥勒像
花粉にまみれ少年に酔う蛇苺の夜
花粉まふ土筆とみれば雨がふる
花粉まみれの蜂の脚蜂の貌
花粉まみれの蜜蜂の貌きびしくて
花粉吐く杉のしばらくして照りぬ
花粉得て雌花ときめき蔓南瓜
花粉性昨日の脳が錆びるなり
花粉負ひ蹉く蜂でありにけり
花粉金粉ぶつかけられて駄目になる
花菜の虻花粉運んで黄昏まで
落椿掃けば崩るゝ花粉かな
葉の上に花粉こぼせる枇杷の花白き花弁をのぞかせてをり
薫風や滝のごとくだつ朴花粉
蜂飛ぶや花粉まみれの足太く
蜂飼の家族をいだく花粉の陽
蜜蜂の花粉の足が天へ向く
袖口に菊の花粉や我が花粉
調律のピアノヘ花粉運ばれる
象よりも淋しき日なり松花粉
遊船の楽にただよひ松花粉
野牡丹の総紫の花粉まで
野遊びの児の尻花粉まみれなる
関東は花粉に満ちて蟇のこゑ
闇が闇とぶつかるときも花粉降る
雀鉄砲綺羅の花粉の火薬付
雪折れの杉の花粉を婆娑と浴ぶ
青空や松の花粉のたちしあと
額の花ひすいの花粉葉にこぼれ
駐車して杉の花粉に曇る窓
鬼ゆりのあふれる花粉渇水日
あさってが横浜開花予想日よ
さわさわと蓮華開花の呼吸整ふ
市電くる開花予想の遅れつつ
耳立てて蓮の開花を待ちにけり
開花了南無不可思議光白蓮華
いで征くと鎌倉山の花おそし
のぼりゆき上野の山の花埃
一寸だけ春めく山の花きぶし
伊賀囲む名のなき山の花襖
妹山に見る背の山の花霞
山の花下より見れば花の山
竹筒に山の花挿す立夏かな
虎杖は火の山の花夜も白し
越後路や山又山の花卯木
雨ありし上野の山の花の首尾
いつも忙し雑木の花の咲く頃も
しぐれつつ木の花うかぶ高さかな
せせらぎは臭木の花の真下より
なが雨や泰山木の花堕ちず
ゆりの木の花たぷたぷと海風に
ゆりの木の花に夜は星宿らむか
ゆりの木の花の緑盃風溢れ
ゆりの木の花を見上げる初対面
ゆりの木の花影揺れて地にとどく
アパートは泰山木の花に古る
カンガルーポーの木の花飛交うて
モノレール泰山木の花の上
ユリの木の花はと街の空を見る
人知れず夜を飛ぶ泰山木の花
今日の興泰山木の花にあり
代牛に木の花にほふ山の空
何の木の花とは知らず匂ひかな
兄妹に雑木の花の降る日かな
八雲旧居泰山木の花澄めり
十方に花の木の花降る薄暑
国賓に泰山木の花ひらく
土用餅木の花遠く咲きにけり
夕顔ほどにうつくしき猫を飼ふ
夜は月と契る泰山木の花
夢殿や泰山木の花ひらく
天の無垢泰山木の花染むる
天界に捧げ泰山木の花
妻の背に泰山木の花裏に
宗吾堂泰山木の花かかぐ
庭の木の花に来てゐる蜂すずめ
後れ揺れて泰山木の花一つ
思はずに臭木の花とよばれけり
手のひらの熱き泰山木の花
接骨木の花にはじまる旧街道
接骨木の花にはとりの糞にほふ
接骨木の花の盛りに里がへり
接骨木の花まぎれんとしてゐたり
接骨木の花を散らせり木出し橇
接骨木の花噴きあぐる立石寺
接骨木の花散る子規の遺髪塚
接骨木の花新しき塔婆建つ
接骨木の花貧乏に飽きて主婦
揚羽たち秋は臭木の花を恋ひ
昂然と泰山木の花に立つ
明るくて泰山木の花に蟻
朝霧の深き泰山木の花
木の花か春の露かがこぼれたる
木の花の匂ひ五月の森の奥
木の花の散るも混じれる夏落葉
木の花の終りて鮎がよく釣れる
木の花の香の高きより五月闇
木の花も青みさしたり心太
朽葉寂雑木の花の降るも寂
水懈く臭木の花を浮べをり
水打つて奈良に大きな仏かな
水迄も匂ふ泰山木の花
沙羅の木の花の眠れる月夜かな
泰山木の花ありつたけ崩壊秘め
泰山木の花かげに鶴もゐたり
泰山木の花にまだある夕日かな
泰山木の花の中より楸邨忌
泰山木の花の香追善茶会なり
泰山木の花の高さに日照雨
泰山木の花を淋しと騎手が言ふ
満月に放心泰山木の花
溝川に田五加木の花暮れにけり
火車加速泰山木の花に沿ひ
白楊の木の花はどんなかまた来たし
百合の木の花のグラスは何湛ふ
百合の木の花乾杯は高々と
百合の木の花戒律は破るべし
百本の泰山木の花の垣
目を雲へ誘ふ泰山木の花
硯海に泰山木の花の風
移り香に泰山木の花終る
空のくもりうつゝに咲きし榛の木の花
籠を編む十指泰山木の花
美しき山に向へる曝書かな
良寛の戒語空木の花の数
苔の香や錦木の花散り溜る
葉がくれに泰山木の花終る
葉を一つ落とし泰山木の花
虚空より泰山木の花の匙
見廻して臭木の花でありにけり
逃ぐる子を臭木の花に挟みうち
連翹に似て非なる木の花黄なり
錦木の花がほつほつ地に小犬
錦木の花こぼれつぐ山の駅
錦木の花に料理のいとおそし
錦木の花のかそけき墓どころ
錦木の花のこぼるる土乾く
錦木の花のさかりは人知らず
錦木の花のみどりのうすうすと
離れれば見えて泰山木の花
雲流れ泰山木の花のころ
けふよりの冷し甘酒百花園
この園の百花のなかの花みようが
ばら百花曇天の日のある限り
みすずかる信濃にちらふ百花の賦
みよしのゝ百花の中やひそと著莪
めつた打ち百花の柄の干し布団
ゑんどうの百花鎮めて朝日出づ
サフランを庭の百花のはじめとす
ハーレムの跡に百花の薔薇くづれ
一めんのすゝきの枯レや百花園
一木に一花一木に百花これも牡丹
一花咲きたちまち百花水芭蕉
一身を励ます曼珠沙華百花
人日や江戸をとどむる百花園
佗びすみて百花あまねく悩む春
八十の父にぼうたん百花かな
冬ざれや鶲あそべる百花園
冬小菊祝ぎの百花の手に重し
冬枯れの葉づれこゑだつ百花園
凧ひとつ延び来て澄めり百花園
加賀友禅えがく百花や冬灯
友禅の百花磨ぎゆく雪解水
合掌部落百花を抽きて一辛夷
咲きつぎて朝顔百花もう結構
四月逝く百花騒然たる中に
垣の外に萩咲かせけり百花園
夕ベ来て梅雨のはれ間の百花園
子はコイン投げ込む百花撩乱へ
山形は百花のさかり四月尽
待春の名札ばかりに百花園
春雨のふれば恋しき百花園
春雨の雪となりたる百花園
朝顔の百花登校誘ひあふ
枯れに入る百花百草あるままに
枯野見やついでにのぞく百花園
柩かこむ春の百花に喪の色なし
根分せるもの何々ぞ百花園
水明りして睡蓮の百花かな
法師蝉ばかりの昼や百花園
消息やコスモス百花揺るる中
満天星の百花の揺れて相触れず
濁流にちらと白浪百花春
牡丹焚く百花千花をまぼろしに
牡丹百花衰ふる刻どつと来る
犬ふぐり一つ見つけて百花ほど
玉虫の落ちてゐたりし百花園
白木蓮百花に後れなかりけり
百花とは百語に似たり夜の桜
百花もて葺きし御堂の重からず
百花ゆれ千花をさそふ牡丹園
百花咲き春の月夜の北信濃
百花咲くや麦藁帽子まづ買はな
百花咲く園や囀り日もすがら
百花咲てかなしび起るゆふべ哉
百花園の塀のうちそと残る虫
百花園はいりてひろき木の芽かな
百花園もとより浸り秋出水
百花園冬日衰へゆきにけり
百花園大入日して梅の上
百花園子規忌と思ひつつめぐる
百花園移り変りて梅はなし
百花終るに葱坊子急ぎけり
短夜の花圃の闇あり百花園
秋もまだなか~暑き百花園
秋晴や月が出てゐる百花園
立てひらく屏風百花の縫ひつぶし
良夜かな琴の音揃ふ百花園
芍薬の百花の中や我一人
茴香の夕月青し百花園
薔薇百花壷中の家となるも良し
見に行くや野分のあとの百花園
見るところみな枯草や百花園
観月や高張立てて百花園
誕生日牡丹百花にまみえけり
連翹の百花ゆらして一枝切る
雪吊や椿百花をこぼさずに
雪晴に明るき百花屏風かな
風光る卓布に百花刺し終へて
餅花の百花開けば百の鬱
馬車の荷の百花に風や復活祭
魁の一花百花の気概もて
鰊来ず百花一時の春も尽き
おとのして花壇の零余子霜枯れぬ
チューリップ花壇の三角・丸・四角
ビルの花壇東京陽炎生まれけり
プール捲き花壇をつつみ芝みどり
ベゴニアの寄植え母と子の花壇
二つ三つ棉吹く学級花壇かな
二年生になれば花壇も一人出来
円かにも名草萌ゆる花壇かな
冴返る花壇の端に靴のあと
卒業歌止んで花壇の石黙る
噴水のあがり花壇の回転す
土くれにまじる蚰蜒痩花壇
大ひまはり花壇の外に咲いてをり
天草を煮つつ薔薇花壇信じをり
学校花壇サルビヤつねに軽騎兵
後から朝日さす菊の花壇哉
手作りの花壇仕上がりみどりの日
日もなかの雨あしあらき花壇かな
映画みて花壇の榻にまどろめり
残菊と枯鉢と並ぶ花壇かな
温風に虫集まりし花壇かな
玉霰花壇はつよき皮膚もてり
王宮のあとの花壇の牡丹かな
病院に煉瓦の花壇小鳥来る
癆咳の娘が露いとふ花壇かな
秋晴れの都バスは花壇の日比谷過ぎ
穴を出し蟻に花壇の煉瓦赤し
老いそめし己れをしりて花壇ふむ
芍薬のひしめき咲きてミニ花壇
花壇の香統べる三鉢のラベンダー
花壇出来るひかる青年をホース洗う
花韮や学級花壇画然と
菊枯れてしばし花壇のわかれかな
誰が好いて花壇のへりの唐芥子
豆の花咲く学校の花壇かな
金雀枝を咲かせて花壇あるくらし
仲秋や花園のものみな高し
春分を迎ふ花園の終夜燈
梨の花園丁の恋知つてをり
氷上に花園なして鴛鴦ねむる
海酸漿籠に花園盛るごとし
燈台の娘は花園に土用浪
百八や月の花園真如堂
税署の花園に「みなさんの花です大切に」
花園に晩涼の蝶一しきり
花園の垣倒れたる野分哉
花園の塀の中より石鹸玉
花園や畑中にたつ大根市
花園よりだるい手が伸び灰雲垂れ
花園日記図でものの芽をたどりけり
草花に茶代を吝む鶯花園
うつむける雨の花屋に春の唄
すゞしさや花屋が店の秋の草
たたずみて秋雨しげき花屋跡
つばめ来る花屋と八百屋隣り合ふ
としの夜や梅を探りに花屋迄
ふところの花屋日記や夕時雨
ままごとの花屋に紫雲英高値なり
みせばやを知らぬと言ひし花屋かな
やませ除け黄花白花屋根に石
をりからの雪に解かるる花屋の荷
七草を売る丸ビルの花屋かな
三月や花屋の花のみな欲しき
丸ビルの花屋に隣り日記買ふ
丹前着て花屋を出るは面映ゆし
偽書花屋日記読む火をうづめけり
冬の雨花屋の全身呼吸かな
十輪院前の花屋に菊降ろす
名月や花屋寐てゐる門の松
啓蟄の花屋から水流れけり
地吹雪は遠く花屋に花満ちて
夕暑し花屋は水が飛ぶ井戸辺
夕風や花屋あるじのコック帽
夜長の灯水音に明き花屋にや
完き虹花屋と蛇屋隣り合ふ
宮前の花屋に着きし初荷かな
寒の雷花屋の中をまだ去らず
寺にある花屋日記や翁の忌
島の花屋に桔梗の荷のとどく
年の夜や梅を探りに花屋迄
忌中なる花屋の青簾かゝりけり
搾取のない世が来たように花屋に菊あふる
春の花屋も遮断機に堰かれひしといる
春日傘港の見える花屋さん
春泥に映る花屋と床屋かな
春驟雨花屋にさけて人を待つ
暖冬の花屋のホース水走り
枇杷の花屋根の照つたり曇つたり
枝長く柳活けたる花屋哉
母の忌の花屋の桃の固蕾
母の日や花屋に母のパート居て
水仙の花立てて出る花屋より
流れたる花屋の水の氷りけり
涼しさや花屋が店の秋の草
片蔭に花屋がありて水つかふ
町に出て宵は涼しき花屋かな
相聞や雪の底なる花屋の灯
秋晴の踏切濡らし花屋過ぐ
秋雨に泪さしぐむ花屋跡
臘梅を老梅と書く花屋は駄目
花屋いでて満月に年立ちにけり
花屋から絵具こぼれる雨の空
花屋にて遠き河骨を想いおり
花屋のはさみの音朝寝してをる
花屋の荷花をこぼすは雪柳
花屋の返り花よう咲いて樒買ひに来た
花屋出で満月に年立ちにけり
花屋去つて瀬戸貝売や午の町
花屋暮れいろの花の中へ医者がはいつた
菊の香や花屋が灯むせぶ程
街角の花屋に咲ける吾亦紅
貝寄風や碑ここに花屋阯
買初の花屋の水をまたぎけり
門へ来し花屋にみせるぼたん哉
門前の花屋の樒咲きにけり
門売の花屋が手よりちる桜
階子して花屋が室を山櫻
雛の日の花屋の奥の男かな
雛立てゝ花屋呼び込む戸口哉
雨の花屋の奥のテレビに毛沢東
飯炊くつらさ花屋もパン屋も灯らぬ夜
げんげ摘まれ花束になる迄無心
その妻と目が合ふ薔薇の花束越し
とりどりの火の花束や湖上祭
まずい物一点ばりで死ぬまで生活の花束なし
アネモネのこの花束は亡娘にわかつ
アンコール薔薇の花束置いてより
パンジーの小さき花束わたす役
児の手では黄の花束や散銀杏
公魚を買ふ花束をかふやうに
冬あたたかし花束の赤子抱き
冬夜の舞合裏に花束抱へてゐる女だ
凍鶴を指すに花束をもつてしぬ
初雪や琴弾きカーネーシヨン花束を
初風呂や花束のごと吾子を抱き
劇終り女優五月の花束抱き
十和田湖に花束投じ除雪終ゆ
受賞者は花束を見ず金屏風
啓蟄の燭に花束くばらるる
噴水は水の花束広島忌
夕端居花束のごと膝を抱き
大仏に花束抱かせたき無月
天高し花束のごと子を抱けば
宅急便の花束匂ふ啄木忌
寝台車に花束香る死はかくも
師に捧ぐ花束花の蕾む下
後部座席に花束在りて春の闇
惜春や山すみれなど花束に
抱かれたくゐて花束のままの薔薇
抱へたる花束に来る黄蝶かな
歌留多宿花束のごと娘等集ひ
母の日の花束空路病室へ
水放つ花束ほどの夏野菜
氷河仰ぐ花束ほどの日だまりに
沖へ急ぐ花束はたらく岸を残し
沖縄は浮かぶ花束梅雨明ける
男にも似合ふコスモスの花束
白日傘花束のごと嬰を抱き
花束が流れ五月の別府湾
花束というよりもなお雉子の束
花束に埋れ罪障なきに似る
花束に氷柱しづくのかかりけり
花束ねをり木枯の玻璃のうち
花束ね炎天の旧軽井沢
花束のやうに冬菜を抱いて来し
花束のような祝砲いすぱにや
花束のセロファンくもる墓参かな
花束の出来上るまで春の雪
花束の如抱き上げし七五三
花束の茎を揃へて十二月
花束は胸に抱くもの風光る
花束や夜汽車見送る出雲神
花束をたばねつづけて沖を見ず
花束を運び入れたるサングラス
蘆の花束の間燃ゆる夕茜
蝉時雨供華の花束砂にさし
詩人齢なし花束抱けば薔薇適ふ
*えびづるや大山寺道石を敷き
「ダビデの石」青林檎を手におさめたり
『死者の書』を脱け来し石の蛍よ
あきの別れ石ともならで女郎花
あたたかし鞄を置けと石があり
あたたかや石と思へば亀なりし
あたたかや石に声かけ石を据う
あつしともの給はぬなり石地蔵
あまたなる秋思の石の一つなる
あまり鳴て石になるなよ猫の恋
あやかしやつみ重ねたる石二つ
あらくれの那須野の石も今朝の秋
あらせいとう佛足石に肴の絵
あるときは石音発し木の実落つ
あれまあと石ぶち割って咲く桜
いささかな草も枯れけり石の間
いさゝかな草も枯けり石の間
いたづらに石のみ立てり冬の庭
いつも鵜のゐる石もなしけさの雪
いと軽き石のおもしや桜漬
いなづまや石ことごとく微笑佛
いらぬ石かたづけにけり冬ざるる
いろいろを石に仕あげてかれのかな
うちの石が千九百五十六年になつている空
うつうつと石の階段柳絮とぶ
うつし身に石のむかしの冷えが来る
うららかや業平塚はただの石
おとす種子しば~石を打ちにけり
おわら流しころと川原の石鳴れり
お別れや露地の小春のとゞめ石
お遍路に路傍の石も仏顔
お降りや磐座の石しめるほど
かいつぶり女のなげし石とべり
かかりうど石削るまで水を打つ
かき抱く子狐も石つゆけしや
かぎろひの野に石の貌石の尻
かげれば石のかげつたきり
かげろひ易きやう石組まれけり
かささぎや石を重りの橋も有り
かじか啼て袖なつかしき火打石
かたまつておろす千鳥や沖の石
かねの筒も名もたははなり石の竹
かはほりの往来の下や石地蔵
かりがねにとろりと眠る石つころ
がん封じてふ石撫でて初詣
きさらぎの書棚に旅の苞の石
きさらぎや雪の石鉄雨の久万
きしきしと石円くなる春隣
きびしさや寒の霜夜の石の冴え
ぎざぎざの石槌山に五月来る
ぎぼし咲くや石ふみ外す葉のしげり
ぎんなんを祷り石とし秋惜しむ
くり抜いて石の湯舟や花楓
けし咲くや石地の火蛾は盲とび
こがらしや油からびし石地蔵
こがらしや石を翻せば馬の神
こがらしや野河の石を踏わたる
ここに這個あり十五の石に雪ふる
ことごとく石に苔もつ五月哉
ことに大きな石のうつれり春の水
このときのための踏み石雛流す
この宿や飛瀑にうたす鮓の石
この庭の遅日の石のいつまでも
この石にまた腰かけて桜見る
この石を墓と思へぬ枯野かな
この石を洗へば仏著莪の花
この道のどこか磨けば光る石拾う
こぶし咲く商家に江戸の火打石
こほろぎや露なめて居る夜泣石
こま~の蟻の光に打水石を退きぬ
ころころと眼が泣く石のしきつめられ
こんな石にも願かけて人の秋
ごろごろの石も仲間よ蒟蒻植う
ごろ石の三つ四つを州に夏の果
さざめごと石冷えびえと取り囲み
さざ波にさざれ石あり浜千鳥
さびしさつのり木から石から老人墜ち
さみだれや石噛んでゐる火喰鳥
さらさらと石を流るゝ清水哉
しくるゝや石にこぼるゝ青松葉
しぐるるや蓑虫庵の石竃
しぐるゝや山道深く石だゝみ
しぐれくるシカゴの街に石の椅子
しぐれては枯れゐる石をなほ枯らす
ししおどし大寒の石ねむらせず
しずくとは生まれる前の石のこと
したたりや石の仏の二重顎
しとどに濡れてこれは道しるべの石
しどみ野や石くれとなる仏たち
しんしんと夜空ゆ降り来る宇宙線みえねど石に飛沫きてをらむ
じやがたらの花の石屑畑かな
じやんけんの石より大き葱坊主
すぐき桶しぐれの石を三つ吊れり
すすみ寄る蜥蜴を石の炎えて待つ
すずしさの極みは何時の石に影
すゝしさに平内石となりにけり
せきれいに伏流の石夥し
せきれいに日当る石日翳る石
そそくさと麦踏み石を斫りにゆく
そほふるや焼野の石に雀鳴く
それぞれの石に貌あり滝四段
たかんなや石斧は狩の傷をもつ
たく駝して石を除くれば春の水
たたかひを終りたる身を遊ばせて石群れる谷川を越ゆ
ただ石として灼くるのみ野の佛
たなごころ当てて暮春の城の石
たなつもの石にならべし御或かな
たんぽぽや敷石残る絹の道
ちちははを一つの石に団扇風
つきづきし石の響や秋の山
つき山のつゝじ咲く也石の間
つくつくし鳴きをり亀は石となり
つくばへば石のほとぼる御祓かな
つくばへる石より低く花馬酔木
つくばへる石をめぐりて菖蒲の芽
つつじ咲いて石移したる嬉しさよ
つながれて犬秋曇の石に坐し
つまづきし石をはなれて胡桃おつ
つまみ菜を洗ひ置きある川の石
つま先に石さからひし枯野かな
つゝじ炎ゆ浜の崖石みな尖り
ときには石の回りから和む
とび石の石の終はりの白桔梗
とまりたる石に火の影赤とんぼ
とんばうや河原の石をかぞへ行く
とんぼとまる石の平らの真中かな
どう見ても眠る亀石冬うらら
どかと坐す石に貌あり行々子
どの石も三角じみて蕎麦畑
どの石も仏に見えて遠野冷ゆ
どんぐりの沈める頃の虹の石
なつかしき神田も失せて石に霜
なめらかな石拾いけり夏の風邪
なめらかに石を越えたる蜥蜴かな
なんとけふの暑さはと石の塵を吹く
ぬけ星は石ともなるか鳴く千鳥
ぬけ石も羊か岡の秋の暮
ねむたくて河鹿か石か白千曲
のぼりつつ陽炎となる石の階
はこべらの石を包みて盛上る
はこべらは萌えて鶯石に垂る
はつ雪や石に敷たるさんだはら
はてしなく石落ちゆきぬ御来迎
はるばる花もちて尋ねてきたのも石の前
ひく濤の石を鳴らせりちぬを釣る
ひぐらしや仏となりし石の数
ひとすぢの草矢は石に当たりけり
ひとつ根にひとつ石置き山葵沢
ひとびとよ池の氷の上に石
ひややかに水分石の濡れとほす
ひよ鳥や世の囀も石の花
ひろびろと石を配して夏茶碗
ほそぼそと荒野の石も芽ぐみけり
ほたる待つぬくき平たき川石に
ほたる火や石の館に木の扉
ほのとある月日の塵の漬菜石
ほのぼのと姙婦すわれり枯野の石
ほろほろと石にこぼれぬ萩の露
ほろほろと石に日の射す冬至かな
ほろ~と菊が残るや石のそば
まくなぎや庭の要の座禅石
まぐはひの奇石寄せある枯野かな
まだ立てぬ石の鳥居の寒さ哉
まなうらに蝮棲むなり石降るなり
まひまひや深く澄みたる石二つ
まひ~や手洗ふ石も舟路なる
まろくして寒き姿や鮓の石
まろやかな石も雛なり宝鏡寺
ま空よりこぼれて石へ秋の蜂
みぞるるや石明りして石の庭
みづから遣る石斧石鏃しだらでん
みの虫や真下におわす石ぼとけ
むさゝびの石弓渡る寒さ哉
むめが香やたが売喰ひの火打石
むめが香や石もかほ出す雪間より
むめが香や誰が売喰ひの火打石
もがり笛息継ぐ茅野の尖石
やませ除け黄花白花屋根に石
やんま出て空伐りはじむ石伐場
ゆうぐれの石濡れており骨もまた
ゆく秋や河原の石に煮炊きあと
ゆく秋や石榻による身の力
ゆすぶつて動ぜぬ石や自然薯掘る
ゆふづけば綿虫の世や二面石
よべ野分朝の日に照る石の影
るいるいと石うみおとすひでり空
わがあぎと離れて石に汗ぽとり
わが不眠石もねむれぬ夜と思ふ
わが骨朽ちたり野末の石といふ言葉も
わさび田のまろ石寒の水ながれ
われになき石の黙欲る秋の風
ゐるはゐるは小鮎ういもの石めぐり
アクロポリス補充の石を蟻登る
アルプス越ゆ金の苔つく石拾ひ
イコンからイデアヘわたる石のうえに橋ぞ濃き憂ひろぐれ
イプセン忌鸚鵡は石の舌をもつ
インカの子虹に向つて石を打つ
エンチアン摘み氷河の石を持ち帰る
カーブミラーが映す屋根石台風過
ケルンには石が殺到して残る
コスモスや放った石が落ちてこぬ
シクラメン石は武装のためにあり
シーザーのものなりし石秋の蝶
ジャンケンの無口な石が夕焼ける
ダリア咲く庭に石けり幼き日
ニユーギニアの石を夫とし盆の婆
ハンカチの忘れてありぬ自害石
バルカン戦争カランコロンと小さき石
ポインセチア小さな箱の光る石
ユダヤ墓地より石の声花ユッカ
ライラック天使に石の翼あり
ロシア向日葵石の種もち窶れたり
一と腹の蜥蜴生るる石のうら
一と霰鬼の俎石を打つ
一匹の蝉全島の石乾き
一塊の石にも供華や秋彼岸
一塊の石に神棲み陽炎へる
一塊の石を墓とす木下闇
一字なき石くれの塚露寒し
一心に石握り来し冬田かな
一掬のこの月光の石となれ
一月の沖へ石曳く親不知
一月二日奇石瑞草を見る
一足の石の高きに登りけり
丁石の四面ざらつく冬の蜂
七夕の文字うするまで石埃り
七夕の枕に貸さん子持石
七月や銀のキリスト石の壁
万両やとび石そこに尽きてゐる
万緑の句碑石も句も字も誓子
万緑や万の影曳く石小法師
万緑や地より剥がせし青目石
三つ石の幣に静まる冬怒涛
三伏の石のくぼみに眠る獣
三光鳥聴きに来いとよ暮石翁
三光鳥風筋の石乾きをり
三光鳥飛鳥に多き謎の石
三十石船の来さうな葭雀
三寒を送りし石の四温かな
三鬼さん来たでと暮石秋暑し
下宿屋の二階の西日石のごとし
下萌えや石埋り薪割り了る
下萌や境界石の十文字
下萌や石をうごかすはかりごと
下闇やびつくりしたる石地蔵
下闇や文字も見わかず夜泣石
下駄の歯に石つまりたる四迷の忌
世に人あり枯野に石のありにけり
世紀移るとさざれ石寒かりし
丸き石が尼の墳なり秋の草
丸亀七万五千石鳥渡り見ゆ
主知的に透明に石鯛の肉め
乾いたる石の下よりちんちろりん
乾きたる石鳴りもせで
乾季来る石中の獅子駈けつづけ
亀あまた噴水浴びて石となる
亀の子のみなその石に執着す
亀石といふ亀鳴いて飛鳥の夜
亀石のまなぶた重し神の留守
亀石の前より今日の稲を刈る
亀石の厚きまぶたや稲の花
亀石の厚きまぶたや草紅葉
亀石の居眠る荒鋤田の真昼
亀石の滑かならずねこじやらし
亀石の眼をねむたげとみて小春
亀石の立退きできぬ野火となる
亀石の首の短さ喜雨いたる
亀石の鼻の先より耕せり
亀石を重石に鮓のなるるころ
亀鳴くと亀石重き瞼上ぐ
亀鳴くや木曽の浦島太郎石
二つあり相隔つ石の枯野かな
二分過ぐ古代遺蹟の石に佇ち
二日月石の動けば蟇となる
二月尽大きな石から村はじまる
二百十日過ぎぬ五千石やあーい
二面石いづれも善に菊日和
二面石善相ことに秋晴るる
二面石喜面わづかに夕焼けをり
二面石悪相撫でし手がぬくむ
二面石悪面撫でて冷まじき
二面石枯れて善悪なかりけり
五月雨の降るも晴るるも石に影
五月雨や善き硯石借り得たり
五月雨や尾を出しさうな石どうろ
五月雨や濡るるに遅れ石の壁
井戸ばたの舐石寒くてやがて冷ゆ
亡弟の形見秋風の石拾ふ
亡父よりも冷えし石以て柩閉づ
交番の踏石にとまる蝶々哉
亥の子石イギリス人の庭を打つ
人といて耳が二つや寒の石
人ときて野焼のあとの石熱し
人の声石の声凍て磨崖仏
人去つて句碑は枯野の石となる
人絶えて炎天の石壇風渡る
人訪へば冷やかに立つ石の門ン
人頭税石に日の射し冬の蟻
今生の石の閻魔の灼けにけり
仏ともただの石とも苔の花
仏めく石を見立る枯野かな
仏体にほられて石ありけり
仏彫る石飛び散つて初時雨
仏足の肉づけの石法師蝉
仙台虫喰昼餉は石を卓として
仮墓の石あつくなる罌粟の花
伊予石に青一流れ師亡き秋
伊勢桑名十万石の鰡とぶよ
休み石あるおくつきや松の花
何もなし飛騨山中の火打ち石
何代の苔むす石が雪のした
佛像に飽き炎天の石跨ぐ
佛足石に賽銭を置く冷えまさり
作務僧の石に腰して瓢鳴らす
依代の石に香焚く暮春かな
俗名の石にうするる枯山河
信濃追分刈田の畦の石赤らむ
修験者護摩火渡りの石の涼
倶利伽羅の落花敷きつめ軍議石
偲べよと信夫文知摺石に秋
側溝に石乾きいる野分あと
傭兵生き埋め馬刀のあなたのさざれ石
傾く石に傾いて乗り秋の風
傾ける茎菜の石を直しけり
傾城も石になりたる夏野哉
僧の座す石ひやゝかに野梅散る
億年を氷河に漂ひゐたる石
儚な身に首の重石や百千鳥
元日や野の石として妙義山
先生の文字をとどめし月の石
八千草や古墳に白き枕石
八石ノ拍子木鳴ルヤ虫ノ聲
八重山吹生国はもう見知らぬ石
八陣の石は崩れてあられ哉
公孫樹黄に石に踞したる大人なりき
六月の海見て那智の石採女
六月の蟻おびたゞし石の陰
六月の風まつたりと鞍馬石
六月や水行く底の石青き
円き石あれば腰掛け十三夜
冬ざるる遠くの石を叩きけり
冬ざれて石朽つ遣新羅使の墓
冬ざれの石の残照声届く
冬ざれや石に腰かけ我孤獨
冬すみれ名古曽の滝は石ばかり
冬に入るこのおほらかな亀石と
冬に入る石の一つが浮き上り
冬ぬくきひとりの道は石も蹴る
冬の川石飛び渡り越えにけり
冬の川腰くだけたる石の橋
冬の日の蝋石あそび船来るまで
冬の滝徹頭徹尾石を打つ
冬の田や石処々顕れぬ
冬の石個性なければ飛礫とす
冬の蜂石の温みをたしかむる
冬ふかし薔薇園石の天使おく
冬を待つ河原の石のひとつひとつ
冬三日月屋台車に石噛ます
冬山に憩ひし石を忘れまじ
冬山中日向の石の平らなる
冬川にかゝりて太し石の橋
冬川や小さき石に浪の花
冬川や腰くだけたる石の橋
冬日逃げるな河原の穴に石取女
冬枯や石ども石となり出づる
冬構肌も衣も石の地蔵
冬深し薔薇園石の天使おく
冬深む漬物石の重たさに
冬灯に透きて女濡れたる石のごと
冬瓜か石か一と雨ごとに秋
冬籠り人富士石に向ひ坐す
冬紅葉ここに坐れと石のかほ
冬紅葉瞬けばまた石の痩
冬耕す驢馬を石馬につなぎとめ
冬耕や石を噛みたる鍬の音
冬苔の睡りを添へて石十五
冬草や廻しつ運ぶ石の臼
冬菊の凭るる石に触れてみる
冬菜漬の重石たひらに夜が沈む
冬薔薇石の天使に石の羽根
冬蝶の力得て石離れけり
冬鴎石になるまで沖を見る
冬鵙や石も煤けて工都の墓地
冬麗の石旅人を待つごとし
冴返る野天に石の御百体
冷え谷の石ごろごろと月をまつ
冷かや山茶花こぼる庭の石
冷まじき野ざらし石や人恋ひ石
冷まじや濁流に石動く音
冷やかに千曲の川の石の肌
冷房の淡きところに火打石
凌霄や海辺の出城石のこり
凍つまま枯野の果の石二つ
凍りたる石もて棺打ちつくる
凍蝶のやがて石とも別れねば
凍道の転石も愚な彼とする
凡愚には凡石蝉は一途に鳴く
凩は賽の磧の石飛ばす
凩や水涸れはてて石を吹く
凩や耳の中なる石の粒
凶作の靴脱ぎ石に及びけり
出土せる亀形石や竹落葉
出女の出代見たり石薬師
出女の声のどかなり石薬師
刀疵のある石に傘をさしかける
刈込に隠れし石も寒の入
列見や菊石引伸す烏帽子の緒
初冬の鋪道の石は欠けしまま
初夏や汀の石の微塵鰕
初夢や漬物石を磧より
初夢や膝に三枚石を抱く
初天神石の牛にもコイン置く
初嵐石尊さまに掌を合はす
初嵐箱根の石のあらはれぬ
初巡り飛鳥の不思議石七つ
初春の秘園氷に石を打つ
初時雨姫街道の石紅し
初木枯酒舟石を響すか
初氷何こぼしけん石の間
初氷木曾石道の石の窪
初灯明上ぐ火打石うちにけり
初秋の石のひとつに座りけり
初秋の石壇高し杉木立
初空や石に置いたる葱の束
初紅葉石の蓋して石の井戸
初萩と吹かるる沓脱石を降り
初蝶のいまだ過ぎねばたゞの石
初蝶の影はたはたと石の川
初雪や石の寡黙は永久のまま
初鶏も石中の火を見しならむ
初鶏や手にとるからに火うち石
利久忌のわが庭一塊の石もおかず
利休忌の石の膚えの冷たさよ
利休忌や石の筧は水を絶ち
刻々と石の流紋の冷えまさり
刻む石磨かるゝ石枯葉照り
化野の念々の石しぐれけり
化野の石より湧きし秋の声
北上の秋暑に乾く磧石
北風や石を敷きたるロシア町
十一月石も素肌をさらすかな
十万石の程は刈られて加賀平野
十二月八日ごつごつ石ばかり
十六夜の石おのづから光り出す
十六夜や石にたぐひて亀の甲
十月や畑の石の影匂ふ
千々岩灘あをさの石に波たゝむ
千両の石の重さや牛の汗
千代尼忌や屋根石灼くる街に佇ち
千年を石に問いつつ黒揚羽
午睡そして雲雀野の石の一つ
卒業子龍馬の海へ石を投ぐ
卒業歌止んで花壇の石黙る
南よぶ針吸石あられよぶムー
単線の石押しのけて野水仙
卯の花腐し善悪の二面石
卵塔の石に涼しき波紋あり
厩出しの石にも当つる牛の舌
又つゞく三十石や春の雨
又もとの石にあらはれ手長蝦
収筆に露の涼しき梵字石
口も鼻も眼も塞がれて化す石の両腕ふかく子をつかむなり
古ローマや穂草吹かるゝ石壁に
古城の石かけ崩す寒さ哉
古城や菫花咲く石の間
古家や苔蒸す石を鮓の圧
古池や柳枯れて鴨石に在り
古草や飛鳥は謎の石多く
古道跡石に黄菅が咲くばかり
叩きたる石の中より冬のこゑ
叩く尾のすりきれもせす石敲き
只一つ鵜の守るのみの沖の石
台風にもぎとられても石で継ぐ
台風来屋根石に死石はなし
名と日のみ彫れば墓なり冬の石
名なき背に混みあう空家の青い石
名にし負ふ石の大谷の蝉しぐれ
名のある石無名の人の春の帽子
名月や石の下なる蚰蜒蜈蚣
名月や雪踏み分けて石の音
君かへす朝の舗石さくさくと雪よ林檎の香のごとく降れ
君が代の石ともならず芋の頭
君が踏めるさざれ石なむ玉とせむ
含滿や時雨の狸石地藏
吹かれ来て石にも止まり秋の蝶
吹きおろす浅間は石の野分哉
吹き落す石は浅間の野分哉
吹き飛ばす石は浅間の野分哉
吹とばす石はあさまの野分哉
吹殻の石にちりつく熱さ哉
吹雪く声石咽ぶ声荒れ磧
吾も石か露の羅漢にとりまかれ
吾子の冬蝋石いつもポケットに
告別や身を石として落雲雀
味はうて石翁の海鼠の句
味噌十石醸し来たりて秋比叡
味噌蔵の三十石樽春の闇
呼子鳥なくか碓氷の盤根石
和布刈火に照る一塊の石の雪
咳熄んで大きな石をみつめゐる
唐めかす石に竝びて芭蕉かな
唐臼の重石うなづくほととぎす
唐黍に重石の妻を載せ運ぶ
唖ボタン殖える石の家ぬくい犬の受胎
啓蟄の石じつとりと産気づく
啓蟄の石押し退けて何ぞをる
啓蟄や如露でぬらす庭の石
啓蟄や石を動かす寺男
善悪を夏日にさらす二面石
喜雨通りをり海石と山石と
喪服来て花野の石につまづきぬ
噴水の石に水面に落つる音
嚏して化野に石殖やしけり
囀に石ことごとく頭を擡ぐ
囀に羽摶つことなき石天使
囀りも栗鼠も石斫るおとに馴れ
囀りや黐叩き練る石の音
四万十川底の石まで秋澄める
四阿に石の円卓燕去る
回廊は石の回廊花薊
団梨の掃き溜めてあり石まじり
囮鮎生かす磧の石囲
土塀壌ちて石入れ据ゑぬ冬の月
土砂降りの石くれの顔義仲忌
土筆生えコンセイサマの石ほとり
土筆野の石合戦に加勢せむ
圧石の力うつりし鮎の鮓
在し世の寂よそのまま霜の石
在処秘密の石磨く夏
地に沈む石も寝墓や草苺
地吹雪に石にならむと身を丸め
地境の石に角なく胡瓜咲く
坐す石にまだ日のぬくみ夕花野
坐り良き屋根石蒼し十三夜
坐禅石とも思はれて樹下涼し
坐禅石にねむりふかめて雨蛙
坑の滴り石の響きで鉄帽打つ
埋墓の石をぬらして盆の雨
埋没の石獅子の首麦青む
城あとや石すえわれて蓼の花
城の石あるひはなでて秀頼忌
城の石落ちて居並ぶ煤日和
城址とて石あるのみぞ春闌くる
城垣の石がせり出す楠若葉
城塁の石の隙間の冬すみれ
城壁の石に育ちて末枯るゝ
城跡は石の塊花いばら
堀の氷廻礼の酔や石を打つ
堰石に土器灯す御祓かな
塋域に石の碁盤や梅椿
墓参り指さき熱き石の文字
墓地にて石も死人も風発す
墓洗ふ印度の石に漢の文字
声声は環状列石霜の夜
売られゆく石の観音二月来る
夏しろき伊良湖の石をもてあそぶ
夏の寺石のころがるままに影
夏の露昆布干し場の留石に
夏を愛す水盤の石冬ざれぬ
夏夕日石柱青き薔薇をまとふ
夏山や雲湧いて石横たはる
夏川の流れ少なに底い石
夏川や行きて憐む石の痩
夏怒濤千畳の石折りたたむ
夏朝地に一つの石がありそのまはりを持てり
夏桑に石地を来たるてふてふよ
夏桜石を火に焚く山家哉
夏燕硝石にほふ海の崖
夏痩せて石斧の稜のこころ持つ
夏空の笠石もなし曽良の墓
夏草に沓脱石や余は空無
夏菊や東籬といはむに石熱し
夏陰や鐘に石うつ田舎人
夏隣る早瀬の石を家づとに
夏霧に陰陽石のかくれんぼ
夏霧の陰陽石のかくれんぼ
夏鳥はわが化身なれ沖つ石
夕すゞみあぶなき石にのぼりけり
夕光の石の放てる白蛾かな
夕凍みや石の円柱に燈咲き出で
夕日凍み石塁矢竹生ひにけり
夕桜城の石崖裾濃なる
夕涼みあぶなき石にのぼりけり
夕焼けて石造伽藍峨々と立つ
夕焼に子がかたまりて石数ふ
夕立にやけ石涼し浅間山
夕立のあとの大気や石拾ふ
夕立の石もふるかと鈴鹿山
夕立や焼石冷ゆる浅間山
夕立や片頬濡れたる石の像
夕紅葉わが曳く杖の石に鳴り
夕蒸しの蒟蒻畑に石の音
夕虹の消え石小法師顔のなし
夕間暮石槌詣帰りけり
夕鴨や汀の石に羽づくろひ
多摩石の中に寝て鴨石となる
夜の石を隣の人も見えてかみつむ
夜の秋や乾ける温泉の石だゝみ
夜の駅の冷ゆる石もて胡桃割る
夜咄や関守石に灯が及ぶ
夜泊りの石を眺めに炉を開く
夢占や石槨の草刈り残し
大わだの夜寒の石をひくひびき
大夕焼いつしか双手に石握る
大寒やいちまいゆらぐ路面の石
大寒や石のあはひに草のぞき
大寒や石のごとくにねむりたし
大寒を掴むごと田の石拾ふ
大岩に石を供へて草の花
大師つらしかほどの月に石の芋
大年の月の踏石明らかに
大年の石が落ち来る崖に来し
大悲閣の碑石の蔦も枯れにけり
大粒に置く露寒し石の肌
大綿や医師季石いま手術中
大谷石の肌あらあらし冬将軍
大谷石截り出せし山滴れり
大阪城がらんと鮓の石ありや
大霜のもたげし石の昼ふかむ
天☆に石のつぶてや憂国忌
天ぐさの洗ひ場の石濡れ氷る
天命のたまいし石を負う他ない
天草は重石のやうに蒲団被す
天高し岡崎城は五万石
天高し海女の着物に石を置く
天高し芭蕉稲荷の石蛙
太古より神の石指す糸芒
太閤の一文字石やかづらの芽
太鼓石の戒石銘に鵙猛る
夾竹桃廈の石造貧に耐ヘ
奇巖怪石たま~蝶の生れけり
奇蹟起こるまで歳晩の石に坐す
奈良に拾う石の軽かり露の秋
奈落築く木組石組春の冷え
奥の院へ十町と記す石に涼む
奥山や屋根に石おく梅の花
女の素足石を掠めて失せしかな
女狐の石になつたる枯野哉
如月の礫になりたい石ばかり
如月や石の佛に石の衣
妖怪火の爆竹の弾づ石敢当
妻が指置きても涸れし泉石
姑なくて灼けしままなる休み石
姥石のあたりが濡れて蓼の花
姨石の闇にしるべの鉦叩
姨石をちからに更て月すゞし
姫島を望み陰陽石しぐれ
子の縁にうすくて石に足袋を干す
子持石選り拾ふ数に橋かすむ
字古田小字暮石水温む
存分に踏石ぬらし白芙蓉
安居とは石あれば腰おろすこと
実万両やとび石そこに尽きてゐる
実南天一冬は陰となる石か
家々に柿温石を抱くごとし
家康忌老歯さながら城の石
寂寞と冷ゆ埋め墓の無数の石
寄りあひてはなれて石の秋思かな
寄りそへる石の童子や冬うらら
富士冴えて山拓く人ら石担ふ
富士川の石あらはなり初嵐
富士見えぬ秋の野面に石斧あり
寒き天より鳥糞が石に落つ
寒に入る石を掴みて一樹根
寒に入る蝸牛らも石の類
寒の最中に石を見て石に触れ
寒凪を音立てて石船の群れ
寒夕焼じゃんけんぽんの石と紙
寒天煮る十石釜の蓋荒ぶ
寒庭に在る石更に省くべし
寒旅行目につく石のみな平ら
寒月が鵜川の底の石照らす
寒月や石きり山のいしぼとけ
寒梅に寵愛す石二つあり
寒梅や社家それぞれに石の橋
寒残月闘竜灘の石碩
寒泳に芋粥煮ゆる石竃
寒潮に磧石つみ垣とせり
寒菊にこけ居る石や詠まんとす
寒行の渡りし石の濡れてをり
寒釣の煙管を叩く石置けり
寒雲や地蔵となりて石怺へ
寒雷やセメント袋石と化し
寒雷や石よりも乾く馬の膚
寒風や石の如くに抱く決意
寒鯉の深く沈みて石となる
寒鯉や声をあげねば石になる
寒鯉や石ともなれず身じろぎぬ
寝かさば石立たさば仏夏蓬
寝牛とも石とも見えて草萌る
寺に入れば石の寒さよ春の雨
寺焼けて墓より寒きその他の石
寺石に忍耐の二字達磨の忌
尉と言ひ姥と言ふ石木下闇
小千鳥のクリクリ頭石の間
小春日の対話たいらな石に掛け
小春日の石に本読む孤児の午後
小春日や石を噛み居る赤蜻蛉
小松石春の渚にあるはまろき
小正月路傍の石も祀らるる
小町草石屋の石の間かな
小蟹逃ぐ石をめくられめくられて
小雪舞ふ石標「女人高野山」
小鳥来る小夜中山の夜泣石
尼寺の沢庵石にかぎろへる
尾花枯て石あらはるゝ箱根山
尾花枯れて石あらはれぬ墓か否か
尾道や石に置きたる落椿
屋のむねのあやめゆるくや石の臼
屋根に石のせて雁来る日本海
屋根石と転つてゐる南瓜かな
屋根石にしめりて旭あり花棗
屋根石に円光あるや鳥の恋
屋根石に四山濃くすむ蜻蛉かな
屋根石に嶺の梅雨雲下りたるよ
屋根石に炊煙洩るゝ豆の花
屋根石に熊野路の春遠からじ
屋根石に磐梯とがる落し水
屋根石に降り込む木曽の桜しべ
屋根石に雨さだめなし秋蚕飼ふ
屋根石のあかつき濡れし飼屋かな
屋根石のころりと八十八夜かな
屋根石のふえて番屋の冬構
屋根石の一つを冬日ゐざりそむ
屋根石の墓石めきたり青山河
屋根石の濡れて家郷の虹太し
屋根石の苔土掃くや帰る雁
屋根石の面それぞれ魂迎
屋根石の鴉の横目ソ領凍つ
屋根石も坂なす小諸良夜かな
屋根石や前山焼くる火明りに
屋根石や春日影曳き静かなる
屋根石を草の支へて送りまぜ
屋根石を見あげて寒き宿とるも
屑々に蝶の翅や霜の石
山ざくら石の寂しさ極まりぬ
山ちかく山の雹降る石の音
山に蘭渓に石得て戻りけり
山の井や氷解けて石落ち入れり
山の家や留守に雲起る鮓の石
山の蝶去りて病葉ののこる石
山の辺の石とて仏著莪の花
山中の石気に冷ゆる新茶かな
山吹や池にかけたる石の橋
山吹や石のせてある箱生簀
山城の石かけくえし若葉哉
山墓の石も巷も露の秋
山宿や花桐がくれ屋根の石
山寺の石の苔はむひたき哉
山寺や石あつて壇あつてつゝじ咲く
山寺や石にしみつく蝉の聲
山崩れ石あらはに芒處々
山川の石ふみよごす遍路かな
山川や飾してある濯ぎ石
山帰来石は鏡のごとくなり
山椒魚石になるため森に入る
山椿砥に掘る石の色青き
山治む石の祠や牛蒡注連
山焼きの煤溜めて畝石まじり
山焼の煤溜めて畝石まじり
山百合や夜泣石まで坂一丁
山眠り石で囲ひし楮畑
山石の文鎮たちまち枯山河
山石をはさむ木履やほととぎす
山茶花の庭に遺りし絵踏石
山茶花の散りくる下に石の臼
山茶花は石の間に吹き荒るる
山茶花や小さき庭に石二つ
山茶花や瓣たまりよる石の段
山荘へしるべの石の露ながら
山葵田の立てしばかりの石の畝
山葵田を溢るる水の石走り
山蟻の這ふ牛若のゆかり石
岡々を削り石々を鐫りし冬
岩にはとくなれさざれ石太郎
岩室涼し石を重ねてわらべ墓
岩山の石にたばしるあられかな
峰入のしるべ石より坂急に
崩れたる石の鳥居や散松葉
崩れ簗石飛びとびに水激つ
嵯峨菊は火花打ち出す燧石
巌石の如き冬雲日をかくし
川の湯や行きて憐む石の痩
川底の石うつくしき鵜川かな
川底の石なめらかに春惜しむ
川施餓鬼ゴロンとひとつ石流れ
川明けの待たるる石の頭かな
川普請石を投げこむ焚火かな
川涸れて吹きさらさるゝ石寄れり
川涸れて石に白鷺姿映え
川涸れて石激流の相をなす
川漁の石を叩いて冬の家族
川石に鱗の乾ぶ獺祭
川石の日にあたたまる山桜
川蜻蛉飛ぶ石の夢石のうた
巡礼衆に菩提子こぼる石たたみ
巣立鳥雲洞庵の経石に
左石より暮れはじめたる浮寝鳥
左義長の宝前におく火打石
巨大な工区の隅で国境石枯れる
巨象めく根府川石に散る紅葉
巻尺の端に石置き半夏生
巻柏を植ゑた痕ありすしの石
帰り花石を逸れたる風一筋
常磐木落葉のせたる石の寂とあり
平なる石より落つる春の水
年月の重石のききし夏羽織
年歩む大樟の根の砧石
年立つや雨落ちの石凹む迄
年立や雨落ちの石凹む迄
幽石を知らず三竿の竹の秋
幽篁に石あり牡丹なかりけり
幾秋の油やそむる墓の石
広前は石も犇めく冬日かな
底の石ほと動き湧く清水かな
底の石動いて見ゆる清水哉
座す草も石もあたたか女正月
座禅石まづ薄氷を離れそむ
座禅草石の仏にひざまづく
庭にある雪間雪間の石つたひ
庭におく深雪の石にみそさざい
庭に石どっかと据り去年今年
庭めぐるほどあたゝかし石ぬれて
庭先の石に日のある春火鉢
庵主逝き石組に添ふ秋の水
廃山荘霧の出入りの石の窓
弓始め禄百石の指南番
引汐や薄雪つもる沖の石
彫られては柔らぐ石や薔薇の昼
影のみを石に焼きつけ蜻蛉はひかりのなかにたちまちに消ゆ
影曳いて石柱に蝶と踊りけり
役げし石の凍るほかなし遭難碑
彼岸花も夜泣石も雨に濡れ
往来のころく石や冬ざるゝ
待春か耐寒か石しづかにて
待春の水よりも石静かなる
後の月に来ッて石榻の主かな
後撓ひ下る石道苔の花
心なき石とも見えぬ暑さ哉
必中の石つかみ立つ野分中
念仏寺雨降る石の二日かな
恋ひ狂ひ飢ゑ死にし石秋の虹
恋猫に投げたる石の見えて弾む
息杖に石の火を見る枯野哉
息白し河原の石を拾ふとき
悪の愉しさ石より重き雲居据わる
悴むや注連を引きあふ陰の石
悴めり波濤は石をまろばせつ
情とげし蝸牛二つが別れゆく石に音なき雨はれゆけり
惜春の情石に苔水に苔
想ひ出の石窪に鳥黐を搗く
意味が字となり石となる枯芝に
慰霊碑は伊予の青石薺打つ
憩ひ石あり草紅葉するところ
憩ふ石にふさはしければ赤のまま
懐手して石ける子見てゐる子
懸巣鳴き硫黄の染みし磧石
我が恋は千曳の石かより鯨
我に問ふわれ似而非者か石に露
戦災の石もて漬けし沢庵ぞ
手が灼けて昔も関の手付き石
手してうつ鐘は石なり寺の霜
手に重き石斧銀河の湖庭より
手をついて見よとや露の石ぼとけ
手を水に浸けて暮石の忌なりけり
手を突けばあたたかき石ジヨン・レノン
手毬突く石の仁王に唄聞かせ
手洗ふや公魚囲ふ石の槽
打水に石の流紋走りけり
打水や石への愛は日に一度
投げもせぬ石もて沼の秋惜しむ
投げ上げし石が西日をおびて落つ
抱いて来て紫雲と題す鮓の石
押し石を転がし来るや畑の霜
拝まれて倒れる石や秋の風
拝まれて神になる石ちんぐるま
拝聴す石の哲学藪椿
拾はれて夜盲の石は霧のいろ
拾ひたる石に色あり吾亦紅
拾ふ石五色揃ひぬ磯遊
捨て猫の石をかぎ居つ草いきれ
捨畑の石のまばらに受難週
捨石のかげで飛けりみそさゞゐ
捩り花地蔵無言の石並ぶ
掃かれゆく落葉の中に石の音
掃きとるや落葉にまじる石の音
掌にしつつつめたき石の死を愛す
掌に揃ふ石の五色や磯遊び
掘り出して石斧石鏃小鳥来る
掘り起す石にお螻蛄がひそみゐぬ
探梅や石の音色のよかりける
揚羽蝶しばらく石に遊びおり
揺れもせずいちづに懸る酢茎重石
搗布焚く海女が竃は石固め
摘みためて石の重みや梅の籠
撫し子のはかなや石に根を持て
撫て見る石の暑さや星の影
敗荷の真昼をよぎる石礫
教師近づけば石柱を蜥蜴攀づ
散る柳纜石のかくる程
敦盛草石で築きし監視小屋
敷き石に小便するや明けやすき
敷松葉石悉く由ありげ
敷石に日のぬくもりや魂迎え
敷石に灼きつけられて男座す
敷石に紅葉散りけり門の内
敷石に落ちしばかりの桐の花
敷石に遺す春雨の軌あと
敷石に雨の常磐木落葉かな
敷石のながしの井戸や河豚洗ふ
敷石の一つが沈み処暑となる
敷石の角の寒さの万福寺
敷石を縁どりて散る金木犀
文字摺の石や緑雨に綾見たり
文知摺の石や緑雨に綾見たり
料峭の石のけて石濡れてをり
斫るも負ふも生涯奈落石涼し
断腸花飛鳥に石のものがたり
新庭の石も落ち付く初しぐれ
新樹あり被爆石あり朝日さす
新樹深く囲みて長し石の塀
新漬の重石うつくし霜月朔
新緑の流れうれしき蛇石かな
新緑や石をこえゆく水の音
新緑や魚棲むらんか枝に石に
新聞に石のせて売る春一番
新聞や鎮石にしたる籠枕
方形に秋の日容るる石ノ庭
旅人にキャンプファイヤーの石も残る
日が落ちて亀石長き夜がはじまる
日ざらしの石にひとつや瓢虫
日だまりの石を離れず秋の蝿
日のあたる石にさはればつめたさよ
日の当たる石に腰かけ菊根分
日の影の石にこぼるる瓢かな
日の照れる石も愛しき二月かな
日射し来し石の匂ひや飾臼
日暮れては石となる鴨電車過ぐ
日溜りの石に腰かけ楮剥く
日盛りの石の中より水の音
日盛りの石弾かれて天に消ゆ
日脚神ぶ蝋石の絵を見てゐる子
日蓮のお寝石に群るゝ千鳥かな
日迎への婆休みをり道の石
日雀ゐて石の髄まで凍ててをり
日雀来ていよいよ丸き夜泣石
日雷かろがろと石摶つたりけり
早春の流れのくぐる石の橋
早春の漁夫からもらふ丸き石
早春の飛鳥陽石蒼古たり
早鉦に石採の山車遅々として
旭にあひて石も筧もあを~と
旱星食器を鳴らす犬と石
明易し引く潮に石鳴りひびき
明易し耳環の石のむらさきに
星がともだち石焼いもを石から掘り
星合の飯の中より石の粒
星春の飛鳥陽石蒼古たり
星落ちて石となる夜の寒さ哉
春の夜の石壇上るともし哉
春の寺漬物石が置いてある
春の日にあたゝめられて墓の石
春の水堰きゐる石の下よりも
春の水揚屋揚屋の石の段
春の水石をめぐりて流れけり
春の濤七里御浜の石鳴らす
春の燭石卓の花全貌を
春の線路にぎつしり堅き石つまり
春の蟻はや石亭の庭走る
春の雨均等に石濡ちたり
春の雲石の机は照りかげる
春の鵙濡れたる石が曇りけり
春を待つ石のねむりのみとり妻
春光や石にからまる枯茨
春寒やからまつ山を転ぶ石
春寒や石のこゑ聞く竜安寺
春志の石を鳴らして戻りけり
春愁と問はば無常と石羅漢
春愁や石の裾曳く万治佛
春愁や鳴くこと知らぬ石の犬
春日傘千曲川の石を見てゐたる
春昼の石の扉に耳をよせ
春昼や庭師石にも語りかけ
春暁や鋪道の石の面減りて
春服も耳輪の石もうすみどり
春来れば路傍の石も光あり
春水のほとりの石に植木鉢
春水の堰の上なる渉り石
春水の辺の石にこそ憩ふべく
春水や瀬石こえては深窪み
春水をむすぶと眼鏡石に置く
春汐の底にて石の岩を巻く
春泥の中に石あり踏み応へ
春泥や石と思ひし雀とび
春浅く踏みし穴居の土止石
春淋し波にとゞかぬ石を投げ
春深し石の仏は石の声
春深し都の跡に石ならび
春潮や石はこぶ船の他にあらず
春疾風すつぽん石となりにけり
春疾風石で押へる設計図
春眠の石ともならで覚めにけり
春眠は一枚石のごと足りぬ
春禽や供華の色消す鏡石
春窮やこんにゃく石のごところぶ
春蘭や石二つおく山境
春蝉や乾きて青き石の肌
春陰や三萬五千石最中
春隣まつすぐ通る石のひび
春雨に敷石長き宮居かな
春雨や石の濡れたる金閣寺
春雨や石曳き来たり下ろす馬
春雨や空がわきなる虎子石
春雨や蜷這ひ上る庭の石
春雨や鴬這入る石灯籠
春雲に頭突きの電柱石ら多弁
春雷のともなふ雨に打たれつつ歌はぬ石もうたへとやいふ
春雷の鬼の名のつく石にかな
春風が吹いても石は石佛
春風にふとりもせぬか虎子石
春風の石にジンタが喇叭置く
春風や石に字を書く旅硯
昭和終るタイヤが咥えたる石と
昼しぼむ花や涼しき石の間
昼の虫草に沈みし土台石
昼は寝て夜泣きの石や吾亦紅
昼寝覚また屋根石の眼に入りぬ
昼顔は摘まぬ花なり石の門
昼顔や砂に埋れし石地蔵
時雨忌の伊賀の木のこゑ石のこゑ
時雨来やわらびかたむく岨の石
晝中や石に蟲鳴く九月盡
晩夏なり陸を離れて沈む石
晩夏の街角衝動的に石がある
晩夏光石を砕けば石の花
晩涼や簾の下の石濡れて
晩秋や石にものいふ男ゐて
暑き日の石にとまりて舌をはく蜥蜴は秋を思ふとなけれ
暖かき敷石の渦鴨の渦
暖かし始祖のおもわの二面石
暖かや森の木の椅子石の席
暗さもつ石の重たさ胃を病める
暗闇に石のつらなる障子かな
暮れてしまふまでには雪置く石とならむ
暮石の忌きつねのかみそりが咲けば
暮石は四戸の小字竹の秋
暮石先生にご馳走の松葉焚く
暮石忌の太陽暑さ極まれり
暮石忌や遺影と眼が合ひ照れくさし
曇る頭蹴散らす石の単調音
曇日の石とむきあふわが秋思
曲りても八石どりよと田植ゑたり
曲り角に大きな石や大根焚
曽良の忌や踏石に置く夏草履
月さすや籬の奥の石の門
月さむし寺あとといふ石いちまい
月の夜の石にかへりし道祖神
月の夜の蹴られて水に沈む石
月の夜はあまたの石に泪溜め
月の夜や石に出て啼くきり~す
月の道大きな石に見えにけり
月も路傍芋焼くための石を焼く
月下の石二つ相呼びゐて触れず
月代や石をめくれば水滲む
月光の固まりである石の斧
月光の珠のごとしや漬菜石
月光の透きとほりたる石の墓
月光も重石としたり冬菜漬
月冴ゆる石に無数の奴隷の名
月明の冷たき石に蝸牛
月照るやしゞまの凝れる城の石
月高し池舟あがる石だゝみ
朝の気の漲る石割桜是
朝の石からだを曲げてゐる蜥蜴
朝凪や漬物石を日に晒し
朝寒や寒水石の手水鉢
朝霜の沢石夫の歩幅拠る
朝顔の石に這ひつく山家哉
朧夜のただやうものに石を投ぐ
木ぎれ石くれ寒い前歯の二人見ゆ
木と石とあつめてわたし暗くいる
木に石に供物のありぬ父子草
木の実ふる温泉近しと帽石に脱ぐ
木の実降る石に座れば雲去来
木の情石のこころに秋遍路
木の暗や魂呼び声の石よりす
木の秋思石の秋思の仏たち
木の階段石の階段開山忌
木も石も注連をまとひて神となる
木も石も雌雄の負ひ目冬の山
木も石も露ふんだんに死場所ぞ
木彫師の舐石の水の澄みにけり
木斛の花の辺の石乾きゆく
木曽谷の素白の石の淑気かな
木枯や石引き入るゝ庭普請
木犀のこぼるゝ石に憩ひけり
木石や石も芽吹かむ春の雨
木羽屋根の石に水打つ人もあらず
木蓮や泉石の幽今春に
末枯や動かぬものに石の影
末枯や墓に石置く石の音
末枯や石に錆置く忘れ鎌
末枯るる石の声にも耳貸して
末枯れて石太りゐる子らの園
末黒野や現れ出でし標石
朱肉つけて一塊涼し山の石
朴葉散る崖にせり出し座禅石
朽もせぬ石に袖なし花すすき
村中の沢庵石が位置に着く
杖に石ふれ炎昼の百歳婆
束の間の夕映ぬくし石の街
東風の坤石産るほど夜雨足りて
松か根に煙管はたけば石龍出る
松に時雨石の霰も幾秋ぞ
松の根も石も乾きて月見草
松伐つて石の凹みや水温む
松手入石にこつんと綱のこぶ
松籟や生害石に苔の花
松葉牡丹の敷石大跨郵便夫
松蔭や雲看る石に秋の立つ
松風や霜に浮いたる石の貌
枇杷の花くりやの石に日がさして
枕木は石を枕に陽炎へり
林中の石みな病める晩夏かな
林泉新涼ふみ渡る石つゞきけり
林泉明るくところどころに石抱く雪
林間学校椅子の傾斜に石噛ませ
枝川の石に躓く茄子の馬
枝張りも根張りも石割大桜
枯るる中指輪の碧き石ぬぐふ
枯るる園石のみ生きて影を得し
枯れてなほ芝は炎と石を攻む
枯れにけり土塁石組崩れつつ
枯れ急ぐ大湯列石謎として
枯原に石あり人が泣きに来る
枯山水の石に紛るる秋の蝶
枯芝や石と冷えゐる詩をしかと
枯草に石と化したる亀並ぶ
枯葉のため小鳥のために石の椅子
枯蓮に石舫の影は冷たき
枯蓮や舟のくゞらぬ石の橋
枯蔓の石にはりつく高札場
枯蔦や石につまづく宇都の山
枯蔦や石の館の夜の雨
枯蟷螂石に抱かれてをりにけり
枯野に石誤算の一生ならずとも
柊のこぼるる石にうす日さす
柔肌と石と触れたる初湯かな
柩打つ石に鶺鴒が止まるよ
柩打つ石拾ひ出づ春の雁
柳ちり清水かれ石ところどころ
根のつくやさきざきヘ飛ぶ石荷
桐一葉笠にかぶるや石地藏
桐咲いて信濃は石の無尽蔵
桜蕊石屋の音に石に降る
桟や花眼に氷る石の数
桶を出て用なき石や日脚伸ぶ
梅の中敷石分れ塔頭へ
梅の花寒水石の寒さかな
梅咲けり何時より失せし石の臼
梅天やさびしさ極む心の石
梅林の戸をとめてある石ぬくむ
梅漬けの丸き石選る吉野川
梅漬ける母の遺せし石のせて
梅雨の日が石を照らすに借衣かな
梅雨の霧迷へるここに野石墓
梅雨晒し被爆聖像石に帰す
梅雨滂沱石の仏も解けさうに
梅雨荒れや二つに割れし川瀬石
梨かじる風の筋なる路傍の石
梵字川石まろやかに竹の秋
棄石を打つ閑けさや茄子の花
棒のごとし石のごとし夫の阿波踊り
棒をもて叩けば固し寒の石
森の中ついに夕焼けざる石と
棺を打つ手頃な石の二つ三つ
棺打ちし石を花野へ戻しけり
棺打つ石炎天へ還しけり
椅子となる石は占められ居待月
椎の実や石の鳥居にはねかへる
椎の花青面金剛へ石を踏む
椎落つる石の聖書のひらく上
楮干す楮沈めし石も干す
極月の書棚に置きし海の石
樋を長く春雨を石に落すなり
樟落葉首塚といふ石囲
樫の実が落つ猿石の頭を打つて
樫落葉つぎつぎ降つて関の石
樹々揺れて居り石のみの花曇
樹のよはひ石の光陰枯深し
樹の洞に小春の温み石小法師
樹も石も勁きは黙す大やんま
橙を飾りて牧の石牛に
欠け欠けて露けき石となりにけり
正月や荒磯の石を耳に当つ
此宿や飛瀑にうたす鮓の石
此石に秋の光陰矢のごとし
歩くほかなし五千石忌なりけり
歯痛むと石踏みに森へ天の川
歳晩の路の石踏み無言なり
歳月や漬菜にまろき石のせて
殉俳の使徒五千石忌なりけり
殉教の墓は石のみ草の花
残菊のあたたかければ石に坐す
残雪が石のごとくに梅の谷
残雪が石の重さのうこぎ山
段敷の石ゆるませて男梅雨
殺さるゝ夢でも見むや石蒲團
母なくて夜々の温石妻も抱く
母の忌の椿がかくす母の石
母よりも重き石のせ冬菜漬く
毛虫よけてかけたる石のあたゝかし
水こそ欲しと云いし日の、水を石にそそぐ
水そそぐ石に縞現れ福寿草
水ちかき夜涼の石を踏まへけり
水のこゑ木のこゑ石のこゑ冴ゆる
水の広場石の広場や紅葉敷く
水の秋石樋渡す江名子川
水中に及ぶ石組神渡し
水中の石に魚載る厄日かな
水口の石も洗ひて年用意
水垢ののりたる石に蜷澄めり
水底に動かぬ石や秋の立つ
水底に見ゆ踏石や青嵐
水底の文字悴まず虹の石
水底の石うつくしき雪解かな
水底の石にこもりし梅雨の星
水底の石のゆらめき山笑ふ
水底の石みな透ける涼しさよ
水底の石を数へて年新た
水打ちし石より風の生まれけり
水打ちて石に命の戻りけり
水打って木に葉に石に當たる音
水打つて性の寂しき石ばかり
水打つて石の眠りを覚ましけり
水打つて石の素顔をよびおこす
水打つて石無一塵夕の星
水洟や石に腰かけ日暮待つ
水涸れし石に落ちつく鳥のあり
水温む洗濯石の二つかな
水澄むや清朝の威の石の船
水澄むや角の取れたる石二つ
水無月の凩聞くや石の室
水無月の蟻おびたゞし石の陰
水無月や石に木の影水の影
水甕は石を沈めて柿の花
水盤に他山の石の座り良き
水盤に郭公鳴きし富士の石
水盤に雲呼ぶ石の影すずし
水石に滝の一条夏座敷
水石に激する処河鹿鳴く
水臭き夏野の石に腰をかけぬ
水落す手慣れの石に声かけて
水落ちて石痩せにけり崩れ梁
水青く石白く両岸の紅葉哉
水面見て通う日々なり石の牛
水飯や石きり五六人つどふ
水飯や石に踞したる足の冷え
水鳥の下りゆく石の沈みをり
池に立つ石に山蟻あそぶとは
池の石に龜の居らざる小春哉
池中や石も吹かるる萩芙蓉
沖の石のひそかに産みし海鼠かな
沖ばかり見て秋風の石小法師
沙羅散るを組みしばかりの石が待つ
沢庵の桶に去年の石を置く
沢庵の重石に足すや谷の石
沢庵漬ける父祖伝来の石のせて
沢庵石てこでも島を出ぬ気なり
沢庵石ほど憮然たるものはなし
河の石青みどろ濃く雷来る
河凍てしことを確かむ石飛礫
河童忌あまたの食器石に干す
河童忌やあまたの食器石に干す
河鹿待つ石のこころを聴く如く
河鹿鳴く己れの態の石に居て
油でくびれた石白く笑いだす鉄道員
泉より石輝ける二月かな
泉石にきて禽せはし秋の影
泉石のあきらけくある雨月かな
泉石をはづるる滝や青嵐
泉石を外づれる滝や青嵐
法医学の石の廊階寒さ旺ん
法念の腰掛け石や竹の春
泛びくるごとく石あり冬の水
波打てる鎌倉石に落椿
泳ぎ子の石を濡らして去りにけり
洗はるる大硯石にかへらんと
洗はれてつむり涼しき石地蔵
洗ひたる石の如くに更衣
洗ひ場の石の臼目や水草生ふ
洞穴や石を流るゝ晝の露
洞窟の石の王座を蠍這ふ
洪水あとの石白く灼け鳥渡る
活火山炎天にあり石を投ぐ
流れせばめる石ほのかゆき青みどろ
流星や膝より欠けし石の馬
流星群見て黎明の石と化す
流灯やひろしまの石みな仏
流燈はたゞ川中の石に燃ゆ
流觴の石にあたりてひとめぐり
流觴の石にあたりて水に乗り
浜の石噛ませて祭屋台組む
浜名湖の何より寒き石鰈
浜木綿の蔭にて海の石の墓
浦島草城は石組のみ遺し
浦島草島の墓域に石の門
浮かびくる如く石あり冬の水
浮き鳥を石とあやまる水遠し
浮浪児のいる塔は石黴の匂い片面講和発効す
浮石の細き渕なす水の秋
浮石を踏んで天地の揺らぐ夏
海を負ふ暮らし漬菜の石探す
海亀の涙とおもふ石拾ふ
海女死ねばただ海に向く石と化す
海明けや石葺屋根に銅鑼を打つ
海星より淋しきわれや石に座す
海泡石のパイプ以上の前置詞があらうか
海苔を干し劃つに薪と石と置く
涸川に石の放さぬ赤き布
涸川の明るさ石を投げてより
涸川の石晩年の円みかな
涸川や梅提げて石を飛び渡る
涸滝をまぶたに眠る石のごと
涸谷の石の波紋や秋の蛇
涼しさや去来の墓の一つ石
涼しさや石に注連張る山の奥
涼しさや石握り見る掌
涼しさや石灯籠の穴も海
涼しさや雨後の畠の石拾ふ
涼風や左手の石の沈みつつ
淡雪のかかりてゐたる和合石
深更の五千石忌の雨篤し
深秋の川原に白き石拾ふ
淵に石擲げて雨乞ふ老一人
淵青し石に抱つく山ざくら
清算のごとく雪野の石の家
渓川の石走らすも雨水かな
渓流のとび石も径菌狩
渓石を渡り馴れたり炭荷馬
渓魚眠る石ありて水涸れ残る
渡し石ひた濡れてをり青棗
渡り石踏み濡れてあり冬の川
温石がころがり出でし父の老い
温石にひたと硯の主泣く
温石のさめぬうち也わかなつみ
温石の冷えて重しや座業了ふ
温石の抱き古びてぞ光りける
温石の百両握るふゆの月
温石や人にすゝむる武玉川
温石や衾に母のかをりして
温石を手首に結へ大根引
温石を焼きし渚に舟繋ぐ
温石を焼く火とぼしき夜更かな
湖に臨む石の華表や青嵐
湖の舟舫ふは眠る山の石
湯けむりに屋根石倦めり夏燕
満月や海辺の石は屋根の上
溝川や蛭徒らに石を吸ふ
溝石の並みさへ宮趾昼の虫
滑かに水かぶる石や風光る
滝じめりしてどの石もどの石も
滝凍てて木の声石の声聞かず
滝壷に硯彫る石拾ひ来る
滝近く石踏みこかしたどりけり
滝開石動山の芋供へ
滝音となる水と水水と石
滴りて石に還りし仏かな
漁れる海鼠百貫石鏡海女
漏刻の古りゆく石やかたつむり
漬物石になりすまし墓のかけである
漬物石載せて狸の飼はれけり
漬石の残る色濃や秋なすび
漬菜の石胸に抱き上ぐ尻つき出し
漬菜石赤児のように洗われて
漬菜石重しゆめゆめ妊らぬ
漸寒や一万石の城下町
潮州の碑の石摺や蘭の花
潮干狩倒卵形の石拾ふ
潰ゆるもの去来の石に蟻の列
澄む水に石の流離の見えにけり
澤庵の石に上るやみそさゝゐ
澤渡りの石ぬれそめし時雨かな
激流の石に鳥ゐる厄日かな
濡れてゆく石を見て待つ鮎料理
濡れて付く佛足石に萩の塵
濡れ石にある雪洞の夕おぼろ
濤暑し石に怒れるひびきあり
濤暑し石に怒れるひゞきあり
濯ぎ石炎天をのせはじめけり
瀬の石に乗り放心の初烏
瀬の石に洗ひのせつつ芹匂ふ
瀬石皆影曳き流れぬ夏の月
灌仏やぽつんぽつんと石に雨
火の朱鳥石の茅舎や蝉時雨
火の消えた石の囲ろりの寒さかな
火の燃ゆる石を抱きぬ秋の夢
火の色の石あれば来て男坐す
火の階となる火祭の石の階
火口壁石落ちてゆく夜鷹啼く
火灯石発止と武具を飾り据ゑ
火祭のはじめ石もて火を創る
火鉢抱いて灰まぜて石を探り得たる
火鉢抱て灰まぜて石を探り得つ
灯が寒し生涯刻む石の窟
灯台の石の階段春寒し
灼くる石籠に満てば立つ石負女
灼け石に所有者のないからだ置く
灼石の一つ憤怒の目鼻みゆ
炎ゆる日の翳れば現るる石の相
炎天に窪む石あり塩くれ場
炎天の石の剛直安土城
炎天の石の時間のゆっくりと
炎天の石動かせて挺子しなふ
炎天の石柱に手を触れんとす
炎天の農夫の頭石に負けず
炎天へ生命をさらす木も石も
炎天やひしと蔦這ふ石館
炎天や口をつぐみし石地蔵
炎天や木の影ひえる石だゝみ
炎天を来し子抱き上ぐ石のごとし
炎昼の石みなゆらぐ渡船場址
炎昼の石担ぐ息ふれあへる
炎昼や石の館の絵画展
炎昼や離れてふたつ火打石
炎熱の城の石崖草田男忌
炭焼きし石組もまた廃墟たり
炭賣の休むか石に粉炭かな
無縁塚花舞ふ石と舞はぬ石
無花果とコスモスと石とトタン塀
無類の石組み夏朝の大阪城に古妻と
焼石や春の裾山草もなし
焼石を谷に投げては秋耕す
熊手また売れたり火打ち石をちょい
熊野路や屋根に石置く氷菓店
熱砂降る砂漠の薔薇と言ふは石
燈籠のとまれる朝の瀬石かな
燈籠の石の荒れざましずかに死ぬ
燧石使つてみたき落葉あり
燧石修二会の行の火を点す
燭の灯に月下の石のゆらぎけり
爆音に石の面や小六月
爪ほどの石に夏痩せ二キロほど
爪白の石のあはれや秋の霜
父亡くて春の川越す石つぶて
爽やかや円天井を支ふ石柱
片手では釣れぬ石鯛の首かがやき
片時雨するや人なき石車
牛の糞凍りて石よ蹴つまづく
牡丹への道のしるべに石を敷く
物を干す石のひまより秋のこゑ
物干すに躓く石や鳳仙花
犬にうつ石の扨なし冬の月
犬ふぐり崖石にまでレールの錆
狛犬の仔は石気取り松の花
狛犬の口より出でし石竜かな
狸ともただの石とも証誠寺
猶石にしぶ柿をぬる翁かな
猿曳の猿を抱きて石に腰
猿石に似た顔をして大根引く
猿石の何か言ひたげ木の実降る
猿石の喜相福相冬日ざし
猿石はふぐり笑へり青嵐
猿石は姫の墓守鳥雲に
玉になる石もあるらんけふの月
玉垣の根石ゆるみてすみれ草
玉垣は石七五三声徹る
玉川の石の河原の野菊かな
玉座石とや曲水の一角に
玉石の石よからずや卒業す
玉葛に水噴く千引石根かな
玉霰ほちりと石を打ちけるよ
玩具にされたようなその値に父の形相が澤庵石を投げて庭が凹んでいる
環状列石の森の暗がり虎鶫
瓦とも石とも扨は海鼠とも
甌穴をつくりし石に春日さす
甘草の咲き添ふ石の野中めき
甘蔗ばなの影をさばくか石屏風
生き代り石の屋に住む日除して
生はさびし秋水の底石うごく
生まれ日よ石のさざめき額に残りて
生ま紙に重石をかけて春を待つ
産神や石の鳥居も冬木立
田の神とよめる石より水澄める
男の根石霜にもめげず艶艶と
男鹿島や石に泥塗つて雨乞い
畑うつや石ずゑ起す城の跡
畦塗の笠石さんに遠会釈
疲れ鵜の石にのりたり石となり
疲れ鵜の石も濡らさず籠に入る
病葉や石にも地にも去年のやう
痩身の石ぼとけあり汽車の音
登山道石斧に似たる石拾ふ
白い唾で濯ぐ石斧の養老院
白き石に黒き毛虫の横に這ふ
白くなりたい石の願望雪降れり
白堊紀の石に波寄す賢治の忌
白川の石屑径番茶干す
白川や屋根に石おく秋の風
白州石磊々と打つ暴れ梅雨
白玉や連中といふ火打石
白玉享ける石の童顔緑の星
白雪を冠れる石のかわきをり
白露かな石の貌掃く僧の居て
白魚や石にさはらば消ぬべし
百丈の石修羅を懸けほととぎす
百両の石は小さし水仙花
百千の石の小法師の秋の声
百千鳥石ぬくければ石に座す
百石の小村を埋むさくらかな
皓々と見慣れし石の良夜なり
皸やほそ谷川は石高み
盆僧の歩む置石掃き清む
盆栽の旱の石も痩せて老父
盆石の灼けて何でもござれ市
目に余る夏海なれば石擲ぐる
眩しい海石踏み岩踏み鷹の方へ
眼のごとく石乾きをり野火のあと
着ぶくれて仏の貌の石拝む
睦みては拒み忘春の石十五
矢の跡や石に来て鳴く閑古鳥
短夜の石をつかめる蜻蛉かな
短夜や水をかづきて石たひら
短夜や火をうつ石に火の走り
短日の押す乳母車石多く
短日の石つまづけとばかりなる
短日や砂の江尻の流れ石
石、蝶が一羽考えている
石あげて野菊花さく力餅
石あまた踏みて那須野の秋霞
石あれば仏と思ふ野紺菊
石あれば石で脊を掻く猪なりし
石あれば石に分かれて春の水
石あれば石に坐りて秋祭
石あれば石に小踊り春の川
石あれば石に憩ひぬ秋日和
石あれば石に注連張り山始
石あれば石も瞠き露の中
石あをきあはひつぎつぎ鮎のぼる
石おけば流れのかはる作り滝
石かかへ天道虫の動かざる
石かけや石に根をもつ花菫
石かけや筍横に生えてでる
石かげに水湧くごとく朝の虫
石かとも重なれる亀よ落葉中
石かます土蔵の歪み梅の花
石が曇れば土用秋風樹の間より
石が母胎の石割ざくら鳥とめて
石が石の声を放つて秋の暮れ
石くぼむ床几の跡や苔の花
石くれか何ぞと落つる雲雀かな
石くれが翁の冬を哭すべく
石くれも人も憎しや霜匂ふ
石くれも情に加はる仏生会
石くれも焦ぐる匂や焼蠑螺
石くれも顔あげて霜みだれそむ
石くれを仏と祀りうつぼ草
石けりの子ら屯ろして冬に入る
石けりの石をせっせと埋めている
石けりの記憶の広場落葉踏む
石ごとに水は奏でて桃の花
石ざらざら掌に十月の径遠し
石すべるとかげに午の鍬すゝぐ
石だらけの五月石のしたしさに
石つるして扉押へや萩の花
石づたひ冬寒からず月の庭
石で打つもののひとつに草の息
石で飾る穴と年寄りばかりなり
石となり流れとなりて河鹿待つ
石となり砂と乱れて夕焼くる
石となるまでは海鼠にてをらむ
石とばす風踏み浅間十二月
石と亀ともに動かず冴返る
石と化せぬジェノサイド紀の草の花
石と化る狐の話春煖炉
石と水一つに氷り樒谷
石と玉取り違へては亀の鳴く
石と石打ちて火を生む淑気かな
石と話すことますます多い晩年
石どれもわらべ顔して水温む
石どれも仏のまろみ桃花郷
石なげやどの石も南瓜畑に
石なげる夕空にがく塩かたまり
石なごの一二三を蝶の舞にけり
石におく薄らなる雪かがやきて断念という塊ひとつ
石にかけて痺れし尻や鳥渡る
石にそふ狐の跡や別れ霜
石につく鮎に明るき杉丸太
石になりきつて磧の青蜥蜴
石になる阿國も小春日和かな
石にむき菜をそろへたる寒さかな
石にもたれ咲く桔梗や雨に濃き
石に伏しおのが身冷やす赤とんぼ
石に反る厠草履や初比叡
石に坐し恍惚のとき白すみれ
石に坐せば陽炎逃げて草にあり
石に声ありしと思ふ寒旱
石に寄るたましひあらむ冬櫻
石に寝て腹にしみるや陽の匂い
石に寝る蝶薄命の我を夢むらん
石に対へば石にひびけり鉦叩
石に居て水に映れる螢かな
石に干し石濡らしけり峡の稲
石に座し石となりけり落葉雨
石に座せば陽炎逃げて草にあり
石に彫り野に捨てておく顔ひとつ
石に彫る佛とびちる葛の花
石に影置いてとまりぬ風車
石に忘れし鋏に夕立煙あげて
石に戯るる水のこゑとも河原鶸
石に打たれて母さんねむれ夜の浜
石に打つ鎹も石囀れり
石に日の仄かな温み穴惑ひ
石に残るアラビヤ文字の懐しき
石に水びしびし打ちぬ今朝の秋
石に水触れ冬の日のちりぢりに
石に無く岩には雪の残りたる
石に生ふ短き草も一穂づつ
石に矢の立つ例あり弓始
石に穴あくる濤あり鶴渡る
石に絞る香や橘の筆の汗
石に置く灯や梟啼く音羽山
石に置く菱の実雫にじみけり
石に置く青水無月の双手かな
石に腰かけて枯野の芯となる
石に腰かけて露けし四十過ぐ
石に腰を、墓であつたか
石に菊たわゝなりしが枯れにけり
石に落ちて小枝となりし枯蟷螂
石に落ちて汗も花型働くべし
石に落ちて空の音する木の実かな
石に落ち空の音する木の実かな
石に触れて芭蕉驚く夜半かな
石に詩を題して過る枯野哉
石に語る幾日冬の深さかな
石に踞してさつきの汗を拭ひけり
石に踞して蚋にほくちの定まらず
石に踞し仰で秋の雲を見る
石に踞し聞く高原の昼の虫
石に針生姜も入らず清水かな
石に雪石に雪母に高齢きて
石に顔描いてあそぶ子神無月
石に鳴く河鹿投網をかむりけり
石のうへ圧しつゝとぶ揚羽蝶
石のかげ木のかげ青し川施餓鬼
石のかどほのくれなゐに地蟲いづ
石のころもに山茶花ちりぬ地蔵尊
石のこゑききとめしあと露のおと
石のごと湯豆腐売らぬ塔頭は
石のしたしさよしぐれけり
石のせし雁木につゞくアーケード
石のとかげの憩ひ羨しも夏深く
石のひび蟻いさぎよく陥ちにけり
石のまろさ雪になる
石のみの川に水音谷あけび
石のみの庭は動かず年歩む
石の下石の眼もてる山椒魚
石の世の石吹く笛のさびしさよ
石の中に家灯りけり田螺鳴く
石の中巧にぬけて野火走る
石の冷身に伝はりて来るも旅
石の卓木の実の仕分けられてをり
石の原緋の一脚の椅子もなし
石の堅さの藍玉は手にほのぬくし
石の塀に白樺のびて若葉哉
石の声水の声して山ざくら
石の天使半顔黒く春暑し
石の如く犬眠りをり春嵐
石の如く羊眠れり薄雪草
石の家にぼろんとごつんと冬が来て
石の家に春陰深き小窓あり
石の家ばかりの国の秋の蛇
石の家灯を洩らさずにクリスマス
石の山凩に吹かれ裸なり
石の巻の長十郎が見舞かな
石の庭月夜に組みしかとおもふ
石の影午後は置かざる花曇
石の影深くて金魚冴ゆるなり
石の影石にをさまる秋の暮
石の景より滴りて水の景
石の橋多き耶馬渓朱欒咲く
石の牛の木陰にあへくあつさ哉
石の牛もあへきそふなるあつさ哉
石の男根そこらあたりのかけら探す
石の目に打ち込む楔涅槃西風
石の相俄かに暮るる寒雀
石の相時にやさしく冬日濃し
石の碗ささげて水の朧かな
石の秋式部が恋を綴りしも
石の窓雪合戦を俯瞰せり
石の窪雨をたゝへし花ぎぼし
石の絵に硬貨弾かれ春嵐
石の肌蟻のながるる牡丹かな
石の色いろいろありて水澄める
石の芯透くばかり松葉牡丹照る
石の花咲く紫の春の夢
石の蝶金色すべく没日まつ
石の親石の子を生む寒夜かな
石の謎解けぬ雲雀の揚りけり
石の貫禄そこへ置く
石の閾掴まん朝の水は流れ
石の面へゆく白息をたしかむる
石の首こちら向きをり赤芒
石の香や夏草赤く露あつし
石の鳥居くぐり高きに登るべく
石の鹿灯袋を駈け二月尽
石は屍木は骨と立ち梅雨磧
石は昼の温さで花火待ちあぐむ
石は死を人は思ひを閉ぢて冷ゆ
石は痩せ菊は枯るゝに任せたり
石は石はけふ白川のなづなかな
石ばかりの中に寝ころび泪にじむ
石ばしる水にぎら~猫柳
石ひろふ女手しろし秋の浜
石ふたつすゑたる風の花野かな
石ほとけ寺よりかりて冬の苔
石まろく僧の墓なり草紅葉
石まろく又ずれてあり茎の上
石もて何滅多うつ野分中
石もまた晩秋の色持ちゐたり
石も木も眼にひかる暑さかな
石も水吸うて春待つ城普請
石よけて水あたゝかに流れけり
石よりも地よりも生ける蝸牛冷ゆ
石よりも石の顔して山椒魚
石をきる山の梺や桃のはな
石をくゞり来る水も晴るゝ秋湛ふ
石をたたく鳥が来ている遠い飢え
石をつつむ氷もありぬ鬼やらひ
石をまつり水のわくところ
石をまわって蜥蜴神託をわする
石をもつてうてどひるまぬ羽蟻かな
石をもて何擲つべきや敗戦日
石をもて固むる民家海は夏
石をもて撲たるるごとくサングラス
石をもて猩々袴掘り出せり
石をゆく蜥蜴の音を聞かざりき
石をパンに変へむ枯野の鍬火花
石を以て素十としたり天地春
石を出て石に帰れず野分仏
石を出る流れは白し花薄
石を噛む流れのありて落花かな
石を売る娘と雲仰ぐ秋の風
石を巻く秋の高波がぼごぼがぼ
石を愛し草木を愛し水を打つ
石を打ち霰は石と並びけり
石を打つ印地は五月碁にちかな
石を打つ波まぶしくて小春凪
石を打狐守夜のきねた哉
石を投げる少年の力学肉の挨拶
石を抱く力ゆるみて蔦枯るゝ
石を曳く綱の太さや梅の花
石を替ゆ蠅と退屈同士かな
石を縫ふ水に蜘蛛が居蚊が居りぬ
石を置くだけの仕掛のこれも簗
石を置く屋根も荒磯や立葵
石を置く板屋しらけつ鮭おろし
石を見に庭師と連るゝ山小春
石を負ひ冬寂光を負ひゆけり
石を這ふ音の侘しき寄居虫かな
石ノ卷ノ長十郎ガ見舞カナ
石・流木秋めく白にあばれ川
石三つ寄せてうららや野の竈
石三つ立てて芋煮の鍋すわる
石乗せて熱きてのひら桜桃忌
石二つありて渡りぬ春の水
石二つかちかち言はせ簗案内
石伐つて壁に垂線百灼けたり
石伐りのたがね谺す夏の海
石位寺脇街道の草紅葉
石公へ五百もどすとしのくれ
石冷て下闇匂ふ草木かな
石凍てて抱かれぬ埋められむ為
石刷の軸多く掛けおき祭
石刻むわざの正しく桜咲く
石割つて花の木となる箒星
石割のえらい桜を一目見ん
石割桜石に籠れる石の音
石卓の雨滴長柄の曼珠沙華
石唱ひ月の渚をつくるなり
石噛んでをりし磯巾着の馬鹿
石噛んで野分は果ての空知川
石固き邪宗の坂ぞ樟若葉
石地蔵の袖の長さよ七五三
石坑の口あたたかし冬の菊
石垢になほ食ひ入るや淵の鮎
石垢に猶くひ入や渕の鮎
石壁の裾から祖母呼ぶ
石壇に鹿鳴く奈良の月夜哉
石壇は常磐木の落葉許りなり
石壇や一つ一つに散もみち
石壇や一汗かきて冬椿
石壊えて夏蝶の天鮮しや
石売に声かけられつ霜がこひ
石多き冬川を過ぐ鉄音たて
石多き土を起こして鰯雲
石多き坂秋風に師の顔笑み
石室に入りし落葉のうらおもて
石室に大黒天や神無月
石室の口に雨降る薊かな
石室の味噌汁の実の薊の芽
石室の戸の出で入りに霧どつと
石室の石呻るよに雷雨かな
石室の魂はいづくに夏の草
石室へ又雪田を渡らねば
石寒し四十七士が霜ばしら
石尊の大太刀古りて閑子鳥
石小法師顔犇めきて虹あかり
石屋根の石に噛ませて菖蒲吹く
石屑の埋めし石屋の月の屋根
石屑を氷沼に落とす修羅場かな
石崕にはこべ咲きけり春の雨
石崖に山吹の花散り付けり
石崖に撫子旅の妙な時間
石崖に木蔦まつはる寒さかな
石崖に蛇の垂尾や何時迄も
石崖の影に沿ひ漕ぎキヤベツ船
石崖の蕗の長けゆくばかりなる
石崖の間の道や花曇
石弓で眼白落しぬ今朝の冬
石愛し過去を語らぬ懐手
石打つて石ののしつて畑打てり
石投げて石の音する旱谷
石抛れば汐に谺や夜光虫
石抱いて蜻蛉天地をうたがへる
石抱きしままに夕べの花の下
石抱て樵夫の眠る涼しさよ
石持ちの釣るゝ月出て人去らず
石捨てて子どもが帰る春の暮
石据ゑて庭引き緊まる白露かな
石採りの石を落すや鯖の海
石掴みころんと倒るしじみ蝶
石搭を橋にかけたり蓼の花
石摺のその跡黒し山桜
石摺の余り墨捨つ落葉かな
石摺の歌をみやげの夜の秋
石摺を掛けて盆蘭の花黄なり
石摺を鬻ぐ翁や夏木立
石擲ては短日の鐘にあたりけり
石敢当に供へてありぬ月桃餅
石敢当穴を出て蟻迷ひなし
石敷に影ふかぶかとはしり梅
石文の上にしだるゝ柳かな
石斧のごとき残雪多喜二の忌
石斧の憩ひ六月の沼青む
石枯れて水しぼめるや冬もなし
石枯れて石の言霊風となる
石柱の山乃神佇ち山眠る
石柱の彫にささりて紅葉濃し
石柱や太陽の円とどまらず
石桃の茂り没して忘られし
石梨のからり~と夜寒哉
石梨や盲の面に吹きつける
石榻の冷たかりける夜の新樹
石槌の残雪遠く農具市
石槌の神立風ぞ颪しくる
石槌は四国の屋根よ山開
石槌やきのふにたがふ秋の雲
石槌山雲来ては去る風鶴忌
石槽に清水を落す筧かな
石槽に蝌蚪生れ少年隊士の墓
石橋の石に喰ひつく蜻蜒哉
石橋の石の平らに夕牡丹
石橋や尾のなき石竜出て遊ぶ
石毎に松もつ谷の風薫る
石泉の能く湛ふるあり夏百日
石測る手尺いくたび谷の雪
石溜り菫咲くむらさきの濃し
石潤へば雨降ると知る安居かな
石濡らす小雨の見えて松の芯
石濤に既に狎れつつ玉霰
石濤の歩に従ひて草枯るる
石濤を遠き冬木の隠すなし
石灼けて生絹のやうな黒揚羽
石灼けて粉塵に帰す恐山
石灼けて纜の影濃かりけり
石灼けて賽の河原に一穢なし
石炎えて泳ぎ児の雫垂るるなし
石炎ゆる羽抜鶏また燃えんとす
石牢に已たしかむ咳をする
石牢に立ち寒禽の鳴けるのみ
石獣のひたすら座せる大暑とも
石獣の口あけしまま陽炎ひぬ
石獣の口が吐き出す鉦叩
石獣の口に虫棲み融雪期
石獣の口よりつづく蟻の道
石獣の口中苔の花ざかり
石獣の背に干しける汗の衣
石甃にあふるゝ水や落ち椿
石白く清水湧き出る野中哉
石白く秋海棠の小庭かな
石白く粗く化野露佛
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し
石盗むくるまを入れて秋磧
石磨くインディアン
石磨く背と水仙に強日ざし
石磴に日の坐りゐる昼の虫
石磴の百はよき数法師蝉
石穿つ力を秘めし滝の音
石窓に垂れる縞蛇常しなえ
石窟に入るを禁じて滴れる
石窟の仏に釣瓶落しかな
石窟の滴り太古よりつづく
石窟仏滴りの音聴き給ふ
石窟仏葛の初花崖に垂れ
石筆のころがる椽や干大根
石粉かぶつた親子で頒つ煙草の火
石組に亀の集まる仏生会
石組に滝跡ありて水草咲く
石組みに庭師のこころ笹子鳴く
石組みの冬日るいるい白虹忌
石組みの粗き古城や猫柳
石組んで飯炊きし跡葛の花
石経の墨を添へけり初しぐれ
石縋の湧水さはに心太
石置いて火を沈めある夏炉かな
石置けば砂の流るる夜の秋
石置けるばかりの墓のお盆かな
石肌に月の光年ひしめける
石肌をながるる如く蟻二つ
石舫のただよふさまに蓮咲けり
石舫の動かむとして薫風裡
石舫へまだ秋水をさしはさむ
石舫を離れ遊船遠ざかる
石船の石に流るる霙かな
石芋としもなく芋の廣葉かな
石落しより吹き上げて秋の風
石落ちて縁破れしまゝや秋の雨
石蔵にジャズが流るる桐の花
石蔵の暗きに春を呼ぶ小窓
石蔽ふ八つ手の葉など花曇
石角に蝋燭立ててさし木かな
石触れ打つ音と覚む野分夜凪ぎをり
石語り来るまで坐る木下闇
石負うて枯野に人のおはしける
石負女の幸一握の夏蕨
石走る垂水ぞ惚け猫柳
石走る水ぎざぎざや青胡桃
石走る水になびかぬ山葵かな
石走る水にのる時落花急
石走る水のとばしり箒木に
石走る水を見せけり木下闇
石跳んで女滝を浴びるをとこかな
石踏みて汐のにじみし干潟かな
石踏めば水にじみ出づ枯山路
石踏めば石がぐらりと蝮沢
石車地にめりこむや蝉の声
石造の町秋風の稜ばかり
石運ぶ踵の沈み落椿
石運ぶ辺は水仙の葉も荒ぶ
石重ねあるも墓かや草の花
石鉢に寒さをすくむ海鼠哉
石鏡人崖に吹かせて籾を摺る
石除るや十薬の根の白々と
石陳のほとり過けり夏の月
石集めてひとり遊ぶ子鳰淋し
石青く目覚めてをりぬ秋の雨
石青し雪代山女魚影ながれ
石風呂を祠の如く覗き秋
石馬の眼許のやさし秋の暮
石高な都よ花のもどり足
石魂と法と闘ふ芒かな
石鯛きて舟底叩く嬉しさよ
石鯛の条掌に移る朝の凪
石鯛の縦縞沖の波の縞
石鯛の縦縞潮を離れ濃し
石黙し樹々さゝやける冬安居
石齧る音も混じれり草刈機
石龕の小角秋風見てありぬ
石龕をのぞき蜥蜴を走らせり
砧うてば破れ了りぬ鮓の石
砧石の落花の藤をうち払ふ
破蓮の真昼をよぎる石礫
硯かと拾ふやくぼき石の露
磊塊と磧の石は冬もしろし
磐座となむ一塊の寒き石
磐座は常濡るる石青木の実
磧湯の石の白さや十二月
磧灼けバッタは石の色に飛ぶ
磧石蹠にあらく螢狩り
磨かれて石さながらの寒蜆
磨り減りにつつ石役や時鳥
磯石をかづらで縛り島亥の子
磯菜干す伊豆権現の石の階
祈りつつ時間の上に石を置く
神通川の石で押さへる鱒の鮨
祭幟石の鳥居にはためける
禅寺の石より生れし秋の風
禅寺や石冷かに小萩散る
禅林に石の声聞き達磨の忌
禅林の石を杖とし臥竜梅
秋かぜや石がうごかす石の舌
秋さびた石なら木なら二百年
秋の声石窟にとどこほるかな
秋の夜の川を流るる石の音
秋の夜や鳥目をためす石拾ひ
秋の山中に石鐵山高し
秋の山野の石に耳あるごとし
秋の川真白な石を拾ひけり
秋の日にぬくむ渡しのごろた石
秋の日に心の字浮けり写経石
秋の水流るれば石を白うせり
秋の田に石の標や白毫寺
秋の田の只中石の鳥居暮る
秋の町石の橋梁峡に入る
秋の荒田の石ひとまとめふたまとめ
秋の蝶ひらりと石に触れず去る
秋の蝶翔ちて重みのもどる石
秋の蟻石より蜂をひきおろし
秋の野路歩々に土から石の音
秋の霜うちひらめなる石のうへ
秋出水仁王面して山の石
秋出水竈の石を女持つ
秋天やひとつの石に人集ふ
秋天や石に塩置き放牧す
秋彼岸海のなめらかな石雨に冷ゆ
秋思、ふと伊良湖の岬の石を拾ふ
秋旱水かけて見る石の傷
秋昼寝よき磧石拾ひ来て
秋晴に紋理の石の階をふむ
秋晴の川瀬の石に憩ひけり
秋晴より蜂がかへり来石窟仏
秋月五万石になほ住み春田打つ
秋水や石を鳴らして石の間
秋深き石の小臼のおきどころ
秋深き石やひとごゑあたたかし
秋渓の濡れゐる石をほとりにす
秋燕忌露にぬれたる石の音
秋耕の石くればかり掘つてゐる
秋耕や火走る石にさはりけり
秋近し石ごもり鳴る水聴けば
秋雨や石の仁王のあら木どり
秋霖や蕨かたむく岨の石
秋霖雨一仏八僧石と化しぬ
秋風が決め石の位置松の位置
秋風にわれ愧づらくは二千石
秋風に牛をつなぎし黒き石
秋風の石が子を産む話
秋風やひとみうすれし石天使
秋風やをみなを讃ふ石の文字
秋風や仏と云ふもすべて石
秋風や拾ひあげたる石に縞
秋風や斧の刃缺きし隠れ石
秋風や杉の葉くさる石のあひ
秋風や石あればみな風化仏
秋風や石たゞ白き梓川
秋風や石にうすうす野の仏
秋風や石に香焚く古墳祭
秋風や石吹きおろす浅間山
秋風や石柱は身を寄するもの
秋風や美濃蕉門の石いくつ
秋風や骨の白さの磧石
秋高し藁打石が眠る納屋
秩父夜祭石もて焚火消しにけり
稗を干す人に流心石とばす
稜もたぬ石を水神雪ばんば
種袋抑ふる石に蝌蚪のよる
種鮎の魚篭浸しあり石乗せて
稲埃まとひて独り石地蔵
稲架解いて亀石に日のあたりけり
稲雀さわぎ都府楼址石黙す
稻妻や石にあたつて折れ返る
穀象のちらばるやこゑ石の中
穴出づる蟻を石もて塞ぐ孫
穴出でし蟻目をこする沓脱ぎ石
穴惑ひ石のごとくにゐたるかな
空になき時雨の音の石にあり
空を見て島の薄の中の石
空梅雨の庭に乾きし石の影
空蝉の反り身にかかふ石祠
突堤は江戸の石築きさくら散る
立つ石も横たふ石も神の留守
立待月露けき石を照しそむ
立江寺の阿波の青石青き梅雨
竜胆や片手をがみに自然石
竹の中へ敷石長し落椿
竹の秋時雨亭とは石ばかり
竹の音石の音とも添水鳴る
竹伐れば秋風石にひゞくなり
竹情の温石花意の懐炉かな
竹林に石を抛つ秋思かな
竹葉降る體内にまだ石をもつ
竿石に蟻がかがやく天守臺
笊入れて石もろともに鮴すくひ
笋の勢にこけたり鮓の石
笠塚や晝の蟲鳴く石の下
笹鳴くや石にいろなき野の夕日
笹鳴に石柱の影ふくらめり
笹鳴や石に日が跳ぶ杉襖
笹鳴や蔦の細道石粗し
筆置ける石あり酢茎桶ならぶ
箱根路の石落ちかゝる芒哉
篁の日のかろやかに冬の石
築城に残りし石や蜥蜴出づ
築山につゝじ咲くなり石の間
篠小屋に石梨食うて擁かるゝ
簑編みの糸に吊る石鳴りて冬
簗を組む水を知りたる石を寄せ
糸とんぼ宙にして石進むなり
糸引いて石這ふ蜘蛛や冬川原
糸瓜作り石錘せしむかしより
糸瓜忌の畑の石に腰かけて
紀の川の石の一つの日焼顔
紀の川の石の色とも冬雲雀
紅梅や坐せば石にも血の通ひ
紅梅や敷石伝ひ蔵へ用
紅梅や石に沈める磨崖仏
紅石の雨となりたる先帝祭
紅葉す石の聖書を読むために
紅葉ちるやねの木の葉や石まじり
紅葉折る木魂かへすや鏡石
紅葉狩石観音は跣にて
紙屋川石に乗りしは三十三才
紙砧をりをり石の音発す
紫蘇きざみ石の重さの後頭部
紫蘭咲く雨上りたる石に觸れ
累々として馬鹿面の旱石
細石の巖とならず木箱鳴る
組まれたる石に貌あり涅槃西風
組上や多田の薬師の石置場
経石の塚に枝垂るる糸桜
結界の石みな仏夏の月
絵の島や石も五色の花盛
絶望もたやすからねば雪の夜をかじかみながら石斧を研げり
絹雲やローマの快楽きざむ石
綿虫が飛ぶ石の宙竜安寺
綿虫とぶ石のマリアの後向き
綿虫や納屋に用なき石の臼
緑蔭に石割る鑿の火を放つ
緑蔭の石截るひびき繰りかへし
緑蔭や石にも石の機嫌あり
緑蔭や石の情に腰下ろす
緑陰や釈迦説法の石坐る
線路ごろ石動くと見れば寒雀
纜を陽炎ふ石に結び去る
缶珈琲温石として懐に
罅さむき石柱支ふ明治館
罪なきもの石もて摶てと蛇出づる
羅漢どち夜は露けき石とならむ
羊蹄に石摺り上る湖舟かな
翡翠研ぐ石冷やかに割れにけり
老人に石のつらなる秋祭
老鴬や大雨にまろぶお辞儀石
老鴬や必須の石が十五かな
老鴬や扉もあらぬ石薬師
老鶯や石の羅漢は草の中
耕しか石拾ひかと思ひつつ
耕せば石に沁み込む北の無口
耕や五石の粟のあるじ皃
耕馬無く石はさびしき力持つ
聖五月石の罅より葡萄の木
聖堂や棕梠の花散る石の道
職擲うたむか大寒の石もて摶たむか
肌のよき石にねむらん花の山
肌寒し石に雨降る夜の音
肩替へて石運ばるる枯の中
胃の腑とも見えて寒夜の路傍石
腰かくる石さめざれど夕涼し
腰下ろす石のほてりや花火待ち
腰下ろせよと冬日の石のひとつひとつ
腰巻奉納ぽっくり寺くっくっ石笑う
腰掛けてゐる石も墓鳥雲に
腰掛し石を飛びのく暑さかな
腹這ひに蜥蜴ぬくもる子産石
臍石を鳩がくすぐり春隣
舗石を剥がせば地誌の遥かな眼
舞ひ尽きて石に消えたる牡丹雪
舟底の石を擦る音八重ざくら
舟虫や石に纜動く毎
船底から湧くジャズ
船蟲や射す日とぼしき石時計
艫綱を幾重にも巻き石灼くる
良夜明け蝸牛の殻石の如し
色々の石に行きあふ枯野かな
芋かしらん石の如きを植うる僧
芋煮会二人掛りで石運ぶ
芋虫は石にのぼりて何もとむ
芒枯れて千年の野狐石に化す
芙蓉小さし石屋の石の間々に
芙蓉落ちて石這ふ虫に秋明し
芝枯れてねむりさだまる石の数
芝桜石の母子像永遠に泣けり
芝紅葉焔となりて石つつむ
芦の温泉の石に精あり秋の声
花あやめ戸毎にかゝる石の橋
花こぶし石のゑくぼを水が打つ
花と見てをられぬ水に石の雲
花のいろは、年々石はふるびゆく
花の世へあまたの石を踏んでゆく
花の堂石童丸の絵解きかな
花の水堰きとめてゐる坐禅石
花冷えの城の石崖手で叩く
花冷の石に刻める南朝史
花冷の石もて打ちぬ棺の釘
花冷の石窟庵に辿りつく
花南瓜石の台にのりきそひ
花合歓や脚たたみ歔く石の象
花咲くや役の小角を石として
花擬宝珠眼より暮れゆき石地蔵
花散りかヽる水口の塞ぎ石
花曇桔槹空に石を縛す
花枇杷や石つむに似てひと日果つ
花桐を拝める石の地蔵尊
花楓石こがすまでもの焚いて
花火消え石ら眼をもつ空知川
花火見しきのふの石に坐りけり
花石路や黄を静かなる色と知る
花苔や石の寿命の尽きざるも
花菜漬二人住まいの石軽く
花菜漬夫の知らざる石重し
花蓼や去年と同じう石に咲く
花蕎麦や浅間の石の降りし庭
花蕎麦や祖より畑石減らず
花鋏つゆけき石に置かれたる
苔いつかつく石なりし花菜風
苔さくや仏うするゝ石の面
苔のなき石を踏場の清水哉
苔の蟻石の蟻とはかゝはらず
苞にせんゴビの灼石拾ふわれ
若楓石の凹みに水たまる
若竹のくねりて出たり石の下
若者には若き死神花石櫂
若鮎やうつつ心に石の肌
若鮎や石をころがす谷の水
茄子漬や砥に似た石を拾ひけり
茅舎亡き朝顔に露石に露
茅舎忌の緑凝りたる石の苔
茶の花や石をめぐりて路を取
茶の花や雨にぬれたる庭の石
茶祖禅師茶の苗伸ばす石の杖
草あれば草石あれば石に霜
草に臥て石のごとくにいくつゐる鹿みな聡くその耳うごく
草の実や河原の石に雨の糸
草の実や男神と女神ひとつ石
草ゆれて石ゆらゆらと残暑かな
草原や踏む石くれの草深く
草庵に温石の暖唯一つ
草摘の負へる子石になりにけり
草枯れて石のてらつく夕日かな
草萌ゆる味噌の重石に矢作石
草萌ゆる石むらさきにかげりけり
荒涼と蛇でつながる石と石
菊に石抱かせる術に道理あり
菊の花咲くや石屋の石の間
菊目石ひろひたる避暑散歩かな
菜に重石余生の足を踏んまへて
菜の花に居あまる蝶の石地蔵
菜の花や荒磯の畑は石囲
菱の実売る水の城市の石の橋
菱採女舳に坐り艫に石
萩を刈りはじめ石には替の鎌
萩散るや坐禅の石の冷やかに
落し水は女もすなり石二つ
落ちかかる石を抱えて藤の花
落ちかゝる石を抱えて藤の花
落ちし雷を盥に伏せて鮓の石
落葉中石のごとくに踞る
落葉被て被爆石獣病む如し
葉がさねのひさごの花や石の露
葉桜の昼の虚しさ石を蹴る
葉桜や木目模様の石ベンチ
葉蕨の抽きてしづもる野石墓
葉鶏頭いちにち風の石の町
葎枯れて雲わき起る石のあたり
葛の花こぼれて石にとどまれり
葛の花石の燈台明治調
葛枯れて怒りのごとく石現れぬ
葛餅や庭のかなめに臥牛石
葱坊主ジヤンケンすれば石ばかり
葵かけて横顔青き舎人かな
葺き替へて屋根石もとの位置に載る
蒼石の耳秋風にかなひけり
蓑虫がすてし簑あり鞍馬石
蓑虫に亀石までの道を聞く
蓑虫や吹き起されて石の面
蓬に能登の荒磯の石を据う
蓬莱に能登の荒磯の石を据う
蓮の實の飛ばずに死し石もあり
蓴菜や筧の石に注ぐ所
蓼の花石踏んで水を堰きにけり
蓼紅き道にゐざりて石仁王
蔦枯れて蔦の爪あと石にのこる
蕗の芽の石動かせる野路なりき
蕗の薹石卸すまで口きかず
蕨採りいくたり石に吸はれけむ
蕭条として石に日の入枯野かな
薄暑の地に嵌まれる石に釘直す
薄氷の動きて瀞の石の貌
薔薇の束石の聖書の見開きに
薔薇の苑石の天使は薔薇を見ず
薬掘松下の石に憩ひけり
薺売石薬師より御所に入る
薺打つ人とこそ見れ五百石
藍玉の重きは石と異ならず
藤村忌馬つなぎ石に馬在らず
藤枯れて晝の日弱る石の牛
藪入や覚えの石に川渉る
藪蚊生れて湯灌場の台石遣る
藻に埋もるゝ石あればよる鯊太し
藻刈舟石の錨を落しけり
蘖や石塁高く沖見えて
蘭咲くや夢窓国師の名は疎石
虎が雨石それぞれの面がまへ
虎御前今はつめたし石の肌
虎耳草夕風の戸を石に堰く
虚子句碑を唯の石とし露滂沱
虚子庵の敷石の隙滑歯筧
虚子庵の沓脱ぎ石に白靴を
虫の音や夜更てしづむ石の中
虫の鳴隅隅暗し石灯籠
虫声如雨燧石すりこぼす
虹の石には手を浸けて御慶かな
虹の輪や一人二人は石を投げ
虹を前夕映を背に屋根の石
虹を見る目のありやなし石小法師
虹消えて石の仏の大き耳
虹消えて石小法師の顔ありやなし
蚊遣木や女の斧に石をわる
蚯蚓這うゴロゴロ石の乾きけり
蚯蚓鳴くや冷き石の枕元
蛇の屍と摶ちし石と子は在らず
蛇失せしあとの石をも怖れけり
蛇消えて敷石に雨意仄かなり
蛇穴を出て洗礼の石礫
蛙を愛す蛙露石を愛す哉
蛞蝓の銀かわきたる酒船石
蜆蝶とまるにはどの石も不安
蜆蝶穂草にもつかず石の陽に
蜑小屋の屋根に石置く鮭颪
蜥蜴の尾消えて鏡の如き石
蜥蜴出づ開山堂の踏石に
蜩の鳴くみちのくの石の貌
蜩や掘り起されし石の斧
蜩や水藻は鬱と石を抱き
蜻蛉のせはしく飛ぶや鏡石
蝉がもつ固き眼石粉杉にとぶ
蝉しかと流れの石にすがりをり
蝉なくや我家も石になるやうに
蝉の音の万貫の石負ひにけり
蝉遠し石のことばを聴くごとく
蝌蚪の紐汀の石にあげてあり
蝙蝠のはりつく石の眠りかな
蝶去つて重み加はる旱石
蝶去りて磧にのこる石の数
蝸牛が一日の行の石めぐる
蝸牛に石過ちし障子かな
蝿と遊ぶ石の唐獅子磯祭
螢とぶや泉石ひろき庭の面
螢光るとき眼前の石やわらか
螢火の水口の石照らしたる
螳螂の石を枕にはてにける
蟇なくや雨あらあらと巫女の石
蟇忍ぶ石かげの雨昏みせり
蟇自若たり石のごと身じろがず
蟷螂に石うつて去る野路かな
蟷螂の咀嚼のつづく石の土
蟷螂の石を抱きて枯れそめぬ
蟷螂の衰へてより石に執す
蟷螂や曠野のゝ石に風の中
蟹を捕へ蟹を困らせてわが影と石とさびしく
蟹歩くところや石に還る臼
蟻の出て石をつたふや笠置寺
蟻の地より石をひろひて教師悔ゆ
蟻出づる石ことごとく仏たち
蟻出でてたちまち石も艶ふくむ
蟾蜍ゆらり罷りて父祖の石
行く年や石にくひつく牡蠣の殼
行く年や石噛みあてて歯にこたへ
行く春を小夜中山の石なでつ
行く雁の嶺に鋸目の大谷石
行年や笹の凍てつく石の水
行春の石ともならで尼一人
行春や風渡り居る苔の石
街裏の石のくぼみを死へ一歩
表秋や土台の石も汗をかく
褄とつてあがる踏石迎春花
見て居れば石が千鳥となりてとぶ
見むとし見れば石の涼しさ湧き漂よふ
見上ぐれば石壇高し夕紅葉
視線あふまで青蜥蜴石にゐる
詩も非力かげろう立たす屋根の石
誰が寐て石に跡ある朝の露
誰もかけぬ石にすわりて花くらし
謎めける石の顔あり春隣
謎石の線かんがへてゐる蜻蛉
谷川の石の百態春奏づ
谷川の石も一つに氷りけり
谷川やいつの落葉の木の葉石
谷水や石も哥よむ山ざくら
豆柿や石ばかりなる山畑
豊年のひと雨ありし城の石
貝拾い石拾いわが骨軋む
貝殻の風鈴石の家に吊る
貞女石に化す悪女海鼠に化すやらん
貧血の鶏血石や襤褸市に
貧農の軒たうもろこし石の硬さ
貨車過ぎし枕木露の石にしづむ
責台と抱石四枚凍て白州
賜りし言葉温石となりけり
賢治忌の野づら石づら遊べるも
赤とんぼ宙にして石進むなり
赤とんぼ石のほとぼり冷めやらず
赤とんぼ石噛んでゐる入日時
赤とんぼ踏まるる石に出でにけり
赤のまんまけさがけに負ふ石ぼとけ
赤潮や旅鞄置く石磧
赤蜻蛉飛び立ちて石軽くなる
走り来し子に春水の汀石
走馬灯川上へ石還りゆく
起きぬ間に露石去にけり今朝の秋
足摺の石鯛とどく月今宵
足許の石に来てゐる鮎夕ベ
跪坐石にいま人あらず青蜥蜴
跪坐石にてんたう蟲の朱一點
路三叉草茂りけり石地蔵
路傍の石に夕日や枯すゝき
路地に石置けば結界月祀る
踏まんとす石に息づく深山蝶
踏みわたる石のゆるぎや柳鮠
踏み崩す浮石の果岩ひばり
踏み揺らぐ石や水底まで夏日
踏み渡る石がぐらりと川蜻蛉
踏み登る石美しや著莪の朝
踏み石に密集の蟻くらくなる
踏む石も大杉も古り神の留守
踏石に椿落ちたる端居かな
踏石も洗ひ上げたる年用意
蹲石に凍ては見えずよ年の朝
蹴り落す石の谺や谷紅葉
蹴ればころがる石よ詐欺師が案山子となる
躓いた石が声出す半夏生
躓きし石が追ひくる灼けし坂
躓きし石にものいふ寒さかな
躓づきは石ではあらず菊枕
身に入むや踏み落す石の谷の音
身の内の石さぐらるる十二月
車窓の墓碑寒石群と一瞥す
載せ石の灼けて籠の鵜老いゆくか
輪飾を負ひて石獣舌を吐く
辻君や落葉ひつつく石地蔵
迎火送火遺愛の石を焦したり
返り花石濤の手に濃かりけり
追いおわれ荒野の石になった雲
追分の冬日溜めゐる路傍の石
送り来し温石母のこころざし
送火のあとやもうき焦れ石
送行や問答石に一礼し
通るたび触る緑蔭の大き石
逢ひたき日は泣けと重たし茎菜石
連翹の奥や碁を打つ石の音
連翹や蛭ケ小島は石ばかり
遅れ来て石の冷たき芋煮の座
遅日光縁に影ひく石いづれ
運ばれてすぐに沢庵石と呼ぶ
遍路石風くたくたと過ぎにけり
道に寝る石取太鼓打ち疲れ
道ばたにしぐれて沖の石といふ
遠くにも石運ぶ人冬の川
遠国の石を配せる牡丹かな
遠木枯し魚らやさしく石を抱く
遺言状に漬物石のことを書く
遺跡暑し石の小鳥は少年の手に
那智黒のかがやき坐り鮨の石
郭公や石もみどりに雨上り
都府楼の石にしみじみ月おぼろ
都心にて巌石売る店降り出す雪
酒五石豆腐万丁黒川能
酒折の石白うして葡萄祭
酒船石に風の打ち合ふ竹の秋
酢に逢うて石となりたる海鼠かな
酸葉噛み酒船石にもたれをり
重石いま外せし酢茎買ひにけり
野に坐る眉目よき石の灼けてくる
野に山に石が貌出す紅葉鮒
野に拾う昔雲雀でありし石
野の中やひとりしぐるゝ石地藏
野の石にまぎれ墓立つ茨の実
野の石に犬を想いて花菜置く
野の石やあらゆる形の椅子を経て
野べの石七草すべて寄り添へる
野仏の石となりゐて日脚伸ぶ
野佛に石置く二月礼者とて
野施行や石に凍てつく小豆飯
野施行や石に置きたる海の幸
野梅見る谷間の石を一つづつ
野石墓すみれ摘むにもひざまづき
野石墓またぎて野火の走りけり
野菊揺れ影おく石に情あり
野菊殘り露草枯れぬ石の橋
野遊びの戻りつまづき石の橋
野馬や石付馬の出づる時
金木犀風の行手に石の塀
金槌をなほす石槌連翹忌
金水引終の町石梵字跳ね
金輪際動かぬ石に水澄めり
金雀枝や嬰児は漬物石と同じ重さ
釣瓶置く石を包める厚氷
鈍器としてキャンプの跡に石残る
鉄と石柔らげ首都の雪一夜
鉱石の擂石の減り冷まじや
銘石を構へて涼し松の風
鎌きりを石にふせるや桐一葉
鎌倉の古き冬莟石に真黄
鎌倉や誰が石すゑを鮓の圧
鎌倉石げっそり減りて梅雨近む
鏡餅弁天池の石となれ
鐘乳石太古春愁一滴づつ
鑿受けず踏まれず河の日焼石
長き夜やひそかに月の石だゝみ
長崎の敷石溝に住む鼠旅の浅夜を出て鳴きにけり
長谷寺はこれより右としるしたる石を濡らして行く時雨かな
長閑さや干潟の石の鶴一羽
門とぢて良夜の石と我は居り
門を入りさらに寒風の石の坂
門前や何万石の遠がすみ
門川に糸瓜沈めし石傾ぐ
開拓地石磊々と萩乱る
閑古鳥こぞの串柿石となり
閑子鳥氷のやうな石ありけり
間断なく石を慰む冬の水
関守の石も仄めく今日の月
闇の鹿石につまづく聲すなり
闇へ投げる石や硬貨やテープなど
防塁の石みな尖り冬ざるる
陰の石拝む晩夏の笑ひごゑ
陰陽の石で飯食ふ寒の寺
陰陽の石のありたる枯野かな
陵枯れぬ短き脚の石馬立つ
陽のぬくみある敷石骨を胸に飾り
陽炎に投げたる石の砕けけり
陽炎の古し新らし塚の石
陽炎やしきりに動く要石
陽炎や石に下ろせし小鳥籠
陽炎や石の仁王の力瘤
陽炎や石の魂猶死なず
陽炎や苔にもならぬ玉の石
陽炎ヤ石ノ魂猶死ナズ
隅つこの座もよし温石ぬくめいる
雁ないて看護婦石となりにけり
雁や歳月沈む石の下
集めたる石も漁具にて日向ぼこ
雙六の石もまばらや菊の宴
雨かかる螢の匂ひ石にあり
雨を喜ぶ木や石や木の枝はうごく
雨垂れ石しののめあかり暁蜩
雨寒く石に還らむ佛たち
雨石あるこの世の春の煙柳忌
雨粒来鯰を押へたる石に
雨蛙石となつたる墓は黙す
雪しまき石敷くのみの隠し墓
雪しろに石の小躍りして流る
雪しろの日暮石屋に石の嵩
雪の暮石灯籠に灯を入れて
雪中や泉は底の石うごく
雪代や一羽鴉が石にをり
雪国の雪の奥より火打石
雪来ると僧の言ひたる石まろし
雪残る汚れ汚れて石のごと
雪渓の石くれがちとなりしかな
雪片が舞うくらがりの石の椅子
雪眼して力授かる石の前
雪蛍ただよふ茅野の尖石
雪解や石に平たく生ひし草
雪解雫念珠粒々石ぶみに
雪降れば石の耳輪はおもからまし
雫せよ若葉か下の石灯籠
雲の低く石おいた屋根も梅雨に入るまえ
雲の峰ガレ場の石の鳴りにけり
雲の峰石伐る斧の光かな
雲の詩を深く彫る石鳥渡る
雲も石もいない山なり現存す
雲水や石な礫の端五つ
雲起る石の間やうなり虻
雷ひとつひびきをはりし石の中
雷近づきつつある石の姿なり
霜しろし石にからまる沓のおと
霜刷く石ことばかがやきくるを待つ
霜月や石の鳥居に鳴く鴉
霜柱そだちし石のほとりかな
霜柱石灯籠は倒れけり
霜焼の黒曜石の瞳が二つ
霧いまだ迷へる朝の石を蹴る
霧の石俥灯借りて徘徊す
霧はれて浴女石より白かりし
霧月や石の火はしる鹿の眸
霧濡れのお釜の石に御注意を
霧走る死より冷めたき渓の石
露けさや石の下より草の花
露けしや地震の創ある石灯籠
露けしや真葛ヶ原に石の階
露けしや石には石の相ありて
露けしや石の貌にもうら表
露けしや磨崖仏にも石廂
露さへに置かぬ石つむ恨かな
露の石寝がえりをうつこともなし
露も黒き屋根石月日沈めたり
露一と粒の光陰石を噛む根株
露光る今日ヴィーナスとなる石に
露晒し日晒しの石桔梗咲く
露涼し佐用媛石の泣くといふ
露霜の石抱くものに蔦かづら
青き踏む亀形石のところまで
青すすき川底の石走りをり
青北風や石の鳥居の先は海
青山椒ほつりと石に零しけり
青嶺聳つに白鳳石の句碑坐る
青木の実大きな石がうつ伏せに
青東風や屋根に石置く鯵ヶ沢
青柳や灯をともしたる石灯籠
青梅雨の苔衣重ねて石四天
青海苔や石の窪ミのわすれ汐
青潮に石花菜の花は深けれど
青空に並んで冷たい墓となる石
青空のかけらはすでに石である
青羽黒志石踏みにけり
青苔にちよところばしてありし石
青萱の石にみだるる炎天下
青葉雨石の齢のふかまりぬ
青葉騒石据ゑて心据ゑられず
青鷺や府石乾く豊平川
靴の釘石もて曲げる野分中
靴磨き聖夜の隅で石となる
靴脱石に主客の靴とシクラメン
靴脱石に何神の娘ぞ苗置きし
鞍馬路に石彫る音の秋思かな
鞴祭燧石にて火を創り
頑石にいぶりかゝりぬ山焚火
頤を石にあづけし秋の鮎
頬落ちて野末の石を訪め歩く
題目や髭に花咲く石の苔
風あをあをこの世に馬の繋ぎ石
風光り石の流るる音すなり
風光る石を出られぬ野仏に
風情なき石に来て舞ふ秋の蝶
風死すや川原の石の貌白し
風船やうるみそめたる石の壁
風花や石みなまるく水に入る
風見えて石の十五の暮れ早し
風車賽の河原の石に挿す
風鳴りて酒船石へ竹落葉
飛び去りて石にもどりて冬の蜂
飛び散つて石の匂ひの秋の水
飛烏坐神社とや春の兆す石
飛騨隣り一万石の夜寒町
飛鳥坐神とや春の兆す石
飛鳥川瀬石を渡り夏花摘む
飛鳥路や稲架のかげにも石の弥陀
館失せ泉石のこす冬の水
首まげて石にのりけり初雀
首塚の石の扉や蝸牛
馬つなぎ石の残りて歯朶若葉
馬の片荷石つけて来ぬ虫の宿
馬洗ひ去るさび色のさざれ石
馬立ちて利根の雪代石曇る
馬糞をはなれて石に秋の蠅
駈け下る我を石追ふ秋の山
駒草に石なだれ山匂ひ立つ
駒鳥やまづ雪を脱ぐ庭の石
駒鳥鳴くや朝鮮髷の石仁王
骨は土納豆は石となりけらし
高城の石かけ畫がく吹雪哉
高田石硯となれり梅匂ふ
鬼胡桃割れぬを石と思ひ見る
魚が氷に上るを待てり石に坐し
魚扠の章魚抱き来し石を落したる
鮎さびて石とがりたる川瀬哉
鮎の川石を焦せし焚火跡
鮎澁ていよいよ石に似たりけり
鮎看るべく流聴くべく渓の石
鮒鮓や三たび水打つ石暮れて
鮒鮨の譜代伝はる重石かな
鮒鮨の重石利きゐる良夜かな
鮓の石を抜きとる川の清さかな
鮓の石冷極つて曇りけり
鮓の石雨垂れの穴あきにけり
鮠に石擲ちゐしが又泳ぐ
鮠寄せの石に水鳴る千曲川
鮭石に憩ひ矢島の落花浴ぶ
鰍きらめき石から石にかくれけり
鳥とならむか月光沁みし風化の石
鳥の眼には如何に焚火の煤け石
鳥もまた石の色なる寒さかな
鳥啼て石を打こむ若葉哉
鳥帰る雁木の上の石の数
鳥渡り来る五千石逝きにけり
鳥渡る小樽運河の石の倉
鳥群れてわが憑代の沖の石
鳥雲に入る日晒しに石の臼
鳥雲に夫婦顔して石二つ
鳥雲に石は千年答へざる
鳩墜ちて正方形の石並ぶ
鳩翔けて彫塑の薔薇に石の蝶
鳳仙花まろめてパンは石の炉に
鳴りだす第五灼けしづまれる石の塀
鴉啼いて寒の明けたる砦石
鴉騒げば宙まじりくる石の国
鴎の涙何年たてばトルコ石か
鴛鴦の胸石暖き夕日かな
鴬や子授け石へ日が移り
鵙も木も石も白色旅に出るか
鵯とんで石の面のさびしかり
鵲の巣くふ古木や石の塀
鵲の橋は石にも成りぬべし
鶏逃げし石の階日向ぼこ
鶏頭に露けくならびをる石あり
鶯や十万石をふみつけて
鶯や石崖に手をかけしとき
鶯や老いて深山の石に鳴く
鶺鴒に叩き頃なる石ならぶ
鶺鴒の去りたる石に坐りけり
鶺鴒の叩く泉石序ありけり
鶺鴒の来て渡る石今日は雨
鶺鴒の石あり淵は瀬とひかる
鶺鴒の石に記憶のあるごとし
鶺鴒の石乗りかへし湯冷かな
鶺鴒の石踏み来ては若葉哉
鶺鴒の罪なき石を叩きをり
鶺鴒の遊べり石の浪人と
鶺鴒や叩き折つたる石の橋
鶺鴒や屋根に石置く筏小屋
鶺鴒や水痩せて石あらはるゝ
鶺鴒や罪なき石を叩きけり
鷲老いて止り木の糞石と化す
鷹の空屋台で石と火を曳いて
鸛の巣くふ古木や石の塀
麗かや関守石の縄ゆるぶ
麦秋や石より大き石の影
黄梅の影石に在り土に在り
黄鶺鴒たちたる石や波かくれ
黄鶺鴒叩きて渡る石の橋
黄鶺鴒堰より石へ飛び渡り
黒土の踏石に染みて油照る
黒揚羽水辺の石で息したり
黒揚羽野のまんなかの石乾き
黒百合の一茎へ石かつかつ踏む
黒眼鏡かけた女が石に休んで居るばかり
黒耀石にもどる日時計鳥曇
黒鳥の赤い顔ぬれ秋の石
黙り合ふ磧の石やねこじやらし
黙契のごと秋澄める石と居り
鼻欠の猿石よ青蜜柑の木
齢氷き陰陽石や天の川
しっ……、庭石が歩いているぞ夜明け
凍解や庭石乾き薄埃
四葩咲く庭石にある美靨かな
岐阜提灯庭石ほのとぬれてあり
庭石が起点蝶には蝶の道
庭石にもみぢ葉寄する夜風あり
庭石に二つ茗荷の忘れ物
庭石に何時よりの苔朝の霜
庭石に影を遊ばす沙羅の花
庭石に打つ水春のひかりかな
庭石に斑にさせば冬日かな
庭石に日がなある陽も秋めける
庭石に昨日のまゝの一葉かな
庭石に梅雨明けの雷ひびきけり
庭石に石の根が張り秋の風
庭石に紅葉の雨の寒きかな
庭石に線香花火のよべの屑
庭石に腰していよよ木の芽空
庭石に花こぼしたり沈丁花
庭石に表裏あり水澄める
庭石に鳥の尾が跳ねお元日
庭石の下駄からからと寒明けし
庭石の乾けば松葉牡丹咲き
庭石の仏顔鬼顔しぐれけり
庭石の十四五跳んで渓涼し
庭石の布置のなかばに木下闇
庭石の濡れはじめたる時雨雲
庭石の窪みに残る年の豆
庭石の苔を見に出る炬燵かな
庭石の薄暑となりし蜥蜴かな
庭石の裾のしめりや敷松葉
庭石の輝る日もなくて風邪ごもり
庭石へ跣足で出たり衣かへ
庭石やいま微に入りし遠ひぐらし
庭石や霜に鳥なく藪柑子
庭石を二つ渡りし良夜なる
庭石を子の字はみだし春の昼
庭石を抱てさつきの盛りかな
庭石を草のうめたるあつさ哉
春の蠅庭石はまだ冷たかろ
書屋まで庭石伝ひ賀客来る
柑子剪る庭石凍る手燭かな
河童忌の庭石暗き雨夜かな
炎日の庭石重み失へり
立秋の庭石ひそと青蜥蜴
紅梅に至らずに庭石曲り
置きざりの蒼き庭石花かんば
おろす子の泣声あつし石の上
かげろふに俤つくれ石の上
かげろふや誰が鼻血たる石の上
こほろぎの昼は遊べり石の上
さへづりや鳥屋に注連張る石の上
せきれいのかぞへて飛ぶや石の上
つゆ蠅のからみもつるる石の上
とんぼうの居直るやあつき石の上
なめくじり這へり仏足石の上
はくれんの花びら反れり石の上
はんざきの石の上なる眠りかな
ぼう丹のあはれは散りし石の上
一枚の石の上なる秋の寺
丈六にかげろふ高し石の上
下り簗さして径あり石の上
人去りてさくら蘂ふる石の上
冬の梅きのふや散りぬ石の上
凍蝶の落ちくだけけり石の上
初鵙や水は色なき石の上
名刺尽き石の上には冬の蜂
名月や人うづくまる石の上
名月や舟虫走る石の上
夕立やほつり~と石の上
夕風や牡丹崩るゝ石の上
大綿の宙のたしかさ石の上
孤立して秋の火を焚く石の上
小春日や柘榴は割れて石の上
少しづつ動くばつたや石の上
山吹の花弁不壊なり石の上
山茶花の紅つつましく石の上
山陵や稲妻しきる石の上
岩魚焼く塩こぼれけり石の上
干飯やとかげの遊ぶ石の上
御祓すんで冠を置く石の上
摩尼寺や蝉の経ふる石の上
旅人の扇置なり石の上
日がまはりたる臘八の石の上
春の暮狐きて舞へ石の上
春の雁石の上なる竹履かな
晩年とはいかなる嘘や石の上
晩秋の蜂がよろめく石の上
朝顔や漏斗置きたる石の上
本山の桜ちるなり石の上
枯蟷螂落ちても構ふ石の上
柿の花こぼれて久し石の上
桐一葉雨の洗ひし石の上
桑の実の落ちてにじみぬ石の上
桔梗や雨飛び散つて石の上
椿の実拾ひためたる石の上
殺鼠剤と氷塊失せし石の上
毒茸ののせてありけり石の上
毬栗の吹きちぎられて石の上
水痩せぬ鶺鴒走る石の上
水際の石の上なる雲雀籠
泳ぎ来て二人で濡らす石の上
海女の身を落ちし着物が石の上
涼人飛び~渓の石の上
澁柿や落ちて踏まるゝ石の上
炎天や石工やすらふ石の上
炭賣の休むか粉炭石の上
点るごと立春の豆石の上
焼石の上に盛られたる方頭魚
生きながら蜻蛉乾く石の上
畦焼くや蜘蛛走り出し石の上
白結飯すずしく被爆石の上
真をとめの梅ありにけり石の上
石の上につくねんとある思想かな
石の上にのぼり亀の子首のばす
石の上にはへぬ許りそ花薄
石の上にほむらをさます井守かな
石の上にみじかき蜷の道ありぬ
石の上にやみはじめたる朝しぐれ
石の上に三年すごし茶立虫
石の上に人あり茶あり夕涼
石の上に散るうれしさよ返り花
石の上に石鹸乾く草紅葉
石の上に秋の鬼ゐて火を焚けり
石の上に秋風吹くや我うつろ
石の上に膩をこぼす干鰈
石の上に芋茎を干して使徒の家
石の上に苔青う松の落葉かな
石の上に茶碗のひとつ雁渡し
石の上に蜥蜴ののれるをだまき草
石の上に踏みし枯藺や十二月
石の上に重なりあふて蝸牛
石の上の春日やさしき忌日かな
石の上七夕の蝶けむりをり
石の上往く目返す目凍つるなり
石の上昔春菜を摘みし丘
石の上春の霰の鮮しき
石の上毛をむしつた鶏置く
石の上花のごとくに足袋を干す
石の上蜻蛉は翳おろしたり
石の上雪空となりゆれ通し
磯の日や庭石の上の草若葉
秋の蝶脚を出しけり石の上
秋日さす石の上に脊の児を下ろす
秋蝉のむくろ吹かるゝ石の上
秋蝉の死のあつけなく石の上
竜安寺蜥蜴よろこぶ石の上
糸とんぼ野良着干しある石の上
絵日傘や海に崩れし石の上
腸透きて目高はかなし石の上
芦鴨のさはがぬ宿も石の上
英霊の迎火焚くや石の上
茸狩が莨入拾ふ石の上
菩提子の飛び来ぞひびけ石の上
萍のまだきらきらと石の上
萩咲くと正受老人石の上
葛落花草に弾みて石の上
薔薇散つて花びらとなり石の上
蜥蜴出てしばらく坐禅石の上
蜻蛉のかさととまりし石の上
蝶ぬるや波にぬれたる石の上
蟷螂や二つ向きあふ石の上
贖罪のごと椿落つ石の上
軽鴨の子のお手玉ほどに石の上
送火や橋の袂の石の上
酔うて寝むなでしこ咲ける石の上
金剛の露ひとつぶや石の上
釣りあげて河豚投げつける石の上
陽炎や梅ちりかゝる石の上
陽炎や蝶のいきする石の上
青梅やこつりと落る石の上
青麦色につつまれ久し石の上
風わづかに石の上なる蝉の殻
風花や石の上石載せて墓
鬱々とはんざき登る石の上
鳴かでたゞ鶺鴒居るや石の上
鵙きくや片足あぐる石の上
鶺鴒やきのふも居りし石の上
黙礼にこまる涼みや石の上
あやしげな石一つ買ふ秋まつり
いにしへを知る石ひとつ実千両
このまろき石一枚の枯葉のせ
ごろた石一つ一つへ春の風
ぜんまいや聞く耳もたぬ石一つ
てのひらに夏の終りの石ひとつ
わが前の妹にかくるゝ石ひとつ
井戸蓋に置くいなづまの石一つ
人目なき石ひとつ濡れ春の闇
仏界へ積み石ひとつ雪消ゆる
冬ざれや神とし祀る石一つ
古草や遺跡といふも石ひとつ
叫ばぬ石一つとてなし大雪渓
囀りのなか生涯の石ひとつ
国境や秋深く置く石一つ
地蜂出て石一枚をわたり終ふ
城跡といへど炎暑の石ひとつ
寒菊やころがり侘びて石一つ
山帰来石一蝶寂と石に影
山茶花や飛石ひとつずつに貌
庭石一つすゑられて夕暮が来る
徂く春や阿闍梨も死せば石一つ
放心の石ひとつ置く枯の庭
未来への石一つ投ぐ湖おぼろ
来て見れば沢庵漬の石一つ
松の芯千人塚は石一つ
桜もみぢ肩のやさしき石一つ
梅雨寒や戦意のような石一個
武将の墓と言へり秋風の石ひとつ
水口に石ひとつ置き稲の花
水盗むとは石ひとつずらすだけ
水盤の月日古りゆく石一つ
浮き上がる飛石一つ忘れ霜
炎天にところを得たる石一つ
白洲跡石ひとつづつ冷えてをり
石ひとつおろかにまろびよろづ枯る
石ひとつひとつに躍り春の川
石ひとつ山の神とし雲の峰
石ひとつ段々畠に発芽する
石ひとつ置いてはるかなもの癒す
石ひとつ銀河よりより来て座りけり
石一つありてせゝらぐ冬の溝
石一つあれば来て居る蜻蛉哉
石一つしづかに溺れ秋の水
石一つたす茎漬の手くらがり
石一つとむらふ鐘や梅雨曇
石一つふたつと冬の深む水
石一つケルンに足して岩を攀づ
石一つ刈田ののちも水岐つ
石一つ堰きて綾なす秋の水
石一つ夜に入りけり茅舎の忌
石一つ崩して水を落しけり
石一つ抛げし谺や山桜
石一つ抜けしあとあり草萌ゆる
石一つ据ゑて植田の水整ふ
石一つ棗一粒猫の墓
石一つ猫の墓とす草いきれ
石一つ神と崇めて山初め
石一つ置いて仏や桃の花
石一つ置いて史蹟や椎落葉
石一つ置き替へ庭に東風を呼ぶ
石一つ踏みて渉りぬ春の水
祠には石ひとつ在り蝉湧く村
秋風の石ひとつ積む吾子のため
秋風や遺品とて磧石ひとつ
笹鳴の来そめて関守石一つ
絶えず人いこふ夏野の石一つ
聖木曜月光浴びて石一つ
花ちるや遊行の果ての石一つ
花八ツ手扉おさへる石一つ
花空木母のため積む石ひとつ
花筏流れを変へし石一つ
花野雨土止めに小さき石一つ
苔ふかき庭に沈みて石ひとつ
茎の石一点滴と置かれたる
菜の花や海石一つが乳児の墓
葭切や流れを変ふる石ひとつ
蛇ごろも吹かれ井戸蓋石一つ
蝉塚といふ浅春の石ひとつ
行く春や世阿弥憩ひし石一つ
裸子に貰ひし海の石ひとつ
野狐死して尾花枯れたり石一つ
雉鳴くや石一つ置く耶蘇の墓
露けき地吾が墓に石一つ置け
露草や小鳥葬りし石ひとつ
青嵐しのぶもじずり石ひとつ
風花や縄を十字に石ひとつ
風邪猛る道に大きな石一つ
鮎落ちて久しくなりぬ石一つ
鳥帰る佐和山城址石一つ
かへり見る我が積む石のしぐれけり
しぐるるや積まれし石が音を出す
仏界へ積み石ひとつ雪消ゆる
地車や石を積み行く落葉道
城塁に下積みの石苔の花
子の積みし石に瀬を変へ冬の川
年暮るる忘却の石ひたに積み
果樹園に積む石ありておぼろかな
森供養百の仏に石を積む
殉難の碑に石を積む白日傘
母のため秋暑の石を一つ積む
渋谷には親よりはやく死にたる児ひすがら石を積みそして積み
石あれば一つ積んでは囀れり
石ぬくく積みて穴太のうめもどき
石を積み紅蟹置けば梅雨の宮
石を積む遊びを覚え烏の子
石を積む雨夜の御子の為とかや
石三つ積んで墓とすもがり笛
石二つ積めば仏や杉の花
石幾重積みて時雨の遺髪塔
秋風の石ひとつ積む吾子のため
積まれたる石の放熱夏空に
積まれ乾けり嘗て淋漓の汗の石
積石に沈みし蛇や花胡瓜
筒鳥の呼ぶものを呼び石を積む
紅梅や母情は石を積むに似し
舟に積む石に緑のさしにけり
色鳥も来よ積み石の神婢墓
花空木母のため積む石ひとつ
若き僧積石のごとし高野山
蔦すがる古城の石の野面積み
逢いたくて生まれるまえの石を積む
霧流れ積石に吾も石加ふ
青嵐娘に積む石を掌のなかに
青石の船に積まるる子規忌かな
鳥帰る塚となるまで石を積み
うつせみや一切空の石舞台
かじかみて石切る山と海の間
どんと冬濤石切り唄の語尾を消し
チーズ切る朝が始まる石の家
三人の汗の男の石を切る
五月雨の石切り出だす深山哉
冬山に石切りて顔とがりけり
冬日義理ほど石山の石切るに
冬満月島の守りうた石切り唄
冴ゆる灯の見えて石切る遠音かな
切干の風の莚の押へ石
初山の神に斎きて石を切る
四ツ木立石葭切が鳴き湯屋があり
夕冷えの切石に置くをみなへし
大寒の石切山の武骨かな
天に寄りそい贖罪の石切れり
奈良阪や石切る家の秋の風
奥山に石切る音や閑子鳥
対岸の石切るこだま夏蓬
山神に新酒を供へ石を切る
春風の石を引き切るわかれかな
枇杷熟るる香に石切れる塩飽島
根を切つて載せあり石に青蕨
根府川や石切る山の青蜜柑
炎日や切られて石に煙立つ
田植女の踏切の石濡らしゆく
盆近き天つつ抜けに石切る音
石だけは喰えぬ石切山ま冬
石の碑は吉原女郎切山椒
石を切るけむりを通す木瓜の花
石を切る山の光りて麦を踏む
石を切る山の麓や桃の花
石を切る身のやはらかく汗を噴く
石切つて生涯島に冬昴
石切つて麦植ゆ島の麦の秋
石切の古間は辛夷恬淡に
石切の奈落にうかぶ雪ぼたる
石切の奈落百丈春寒し
石切の火をきり出す暑さかな
石切の石の鋭角冬ざるる
石切の音小寒の谷の中
石切りし梅雨の奈落に観世音
石切りてたてかけにけり秋の山
石切りの唄石にありこひるがほ
石切りの奈落むは見えず冬雲雀
石切りの島の変貌春大根
石切りの指紋なき日々蝦夷菊咲く
石切る音加えて谷のもがり笛
石屋の子石切る音で眠ったか
石枯れぬ立ちて切なく縁軌む
秋は絡まぬ石切槌の二挺の音
秋蛙鳴く大谷石切られけり
粧へる山に働き石を切る
羽根頑丈に鴉春まつ石切山
藪からし石切の棲む石の谷
藪陰に石切る音の朝寒し
蚋にさへ負くる男の石を切る
蜥蜴去り石切る孤独また戻る
蝶凍てゝ青空石切るこだまのみ
麦秋の石切りをるや沖谺
憩ひたき石は石仏草の花
残る虫石仏石に還りつつ
石にまた戻る石仏時雨晴れ
石仏と石人と棲む野のおぼろ
石仏に石を背負わせ日脚伸ぶ
石仏石に還りぬ七竃
秋深し石に還りし石仏
しぐるるや語り始めし石人像
ぶしつけに石人石馬寒きかな
古草と石人とある世界かな
早梅に石人芝を歩くなる
春陰の李朝石人眉目散り
木の実給ふ石人石馬対にして
炎帝の石人石馬立ち上る
石人に吾に一日さみだるゝ
石人に撒きたるごとき木の実かな
石人の三頭身や初鴉
石人の嘆きの蟆子のおびただし
石人の四角の肩に風花す
石人の渋面つくる西日かな
石人の石の袂に冬の蝶
石人の裾には芹の水流れ
石人の跪づくあり野火の中
石人も石獣も冬紅葉中
石人を畏れ里人麦を蒔く
石仏と石人と棲む野のおぼろ
雁渡る仰ぐ眼もたぬ石人に
鳥雲に石人厚き裳裾曳き
鼻大き石人に降り花樒
冬すでに石塀に手を触れ行けば
枯蔦や石塀の角廻り込み
白地着てすぐに石塀沿ひをゆく
石塀に十字窓あくエリカかな
石塀に午後の窶れや姫女苑
石塀に囲まれてゐる夜長かな
石塀に大きな葉影赤痢出づ
石塀のさはれぬ熱さ百日紅
石塀の厚き構や八重桜
石塀は桃水生家蔦紅葉
石塀へ水鉄砲のためし撃ち
石塀を三たび曲れば秋の暮
石塀を縄ではたく児冬迫る
花の夜の石塀小路抜けやうか
こんな大きな石塔の下で死んでゐる
寒月や石塔の影杉の影
石塔に月漏る杉の小道哉
石塔に漏るゝ日影や夏木立
石塔に誰れが遺恨のかまきりぞ
石塔に風鐸の穴秋高し
石塔の上にこぼれぬ百日紅
石塔の時の重さよ蜘蛛飛びぬ
石塔の沈めるも見えて秋の水
石塔もはや苔づくや春の雨
石塔や一本桜散りかゝる
石塔をなでては休む一葉かな
石塔寺韓のほとけに沙羅咲けり
蝶も哭け石塔も哭け棺着く
身に入むや誰が石塔を刻む音
青葉山万の石塔在します
冬日義理ほど石山の石切るに
初紅葉石山の石ぬれそぼち
幾時雨石山の石に苔もなし
石に鳴く石山寺の昼の虫
石山の石が船の荷雁渡し
石山の石にたばしるあられ哉
石山の石にも蔦の裏表
石山の石の濡れゐし良夜かな
石山の石の裏飛ぶ蛍かな
石山の石も騒がぬ二月かな
石山の石より白し秋の風
石山の石をいのちの蔦紅葉
石山の石をたたいて月見かな
石山の石洗ひけり秋の雨
石山の石猿吼えよ初あかね
石山の石皚々と冬紅葉
石山や石にさしたる花樒
こおろぎが石工に見えるあかるさなり
供花を売る石工の妻や雁の秋
四万六千日の鉛筆を買ふ石工
夏野路や渡り石工が鑿袋
嫩草や石工の夢の橋残り
寒星率てもどる石工を父と呼ぶ
寒雀石工微笑を刻みをり
早春の城出て帰る石工達
暖の無き採石工の石ぐらし
梅干は冬陽の芯よ石工の飯
永き日の寺に石工の手弁当
滴りは石工の岩の泣きぼくろ
漂へる石工一団麒麟草
濱に出てあそぶ石工の日永かな
炎天へ石工は石のくせを組む
炎天や石工やすらふ石の上
石ぱっと割れて石工に冬かがやく
石工の鑿冷したる清水かな
石工あり玄翁宙に風冴ゆる
石工に四角な秋の天ありぬ
石工の子あはれ秋暑のトラコーマ
石工の指傷たるつゝじかな
石工の鑿冷したる清水かな
石工の鑿冷し置く清水かな
石工の飛火流るる清水哉
石工ひとり冬の月光梁つたふ
石工もしや始祖鳥を見しかこの日ざし
石工今恵比寿を創る日除けかな
石工小屋毛布を張りし窓に梅
秋彼岸石工の妻になりきつて
臘八会石工の子らも来てをりぬ
葉桜や石工ひねもす墓石彫る
蜩や石工を熱き風呂が待つ
返り花石工ひとりが出湯の中
露の村天使の羽を彫る石工
石庭の石それ~の初日影
石庭の石の三々五々の涼
石庭の石も靡くや秋の風
石庭の石よりはがれ木の葉蝶
石庭の石濡れやすし竹落葉
紋付鳥雪舟石庭石づたひ
あたたかし石に木枕石枕
石枕してわれ蝉か泣き時雨
石枕して雲仰ぐとき秋風
石枕夜闌の水にうつりけり
石枕山淑魚の出を待てり
石枕玉簪の触るゝ音すなり
花冷ゆる石棺に石枕かな
虎魚飼ふ海酸漿の石枕
鉦叩黄泉より茅舎は石枕
雪沓を吊せし下の石枕
でんがでんがと石棺の這ひ出す雨月
三内丸山遺跡石棺冬北斗
天日の下石棺と曼珠沙華
忘れな草冷ゆるラファエルの石棺に
日食下石棺依然よこたはる
春仏石棺の朱に枕しぬ
木枯ややじり石棺犬の骨
木瓜の朱は匂ひ石棺の朱は槌せぬ
木瓜匂ひ石棺をくらく見て目馴る
梅雨寒や石棺のごと校舎響き
清明や飛天彫りたる魏の石棺
無名こそ可し石棺の梅雨じめり
石棺といふ世に重きもの散るさくら
石棺といふ冷まじき野べのもの
石棺にたゞよひ落ちぬ蒲の絮
石棺にはいりいちめん銀杏の葉
石棺に下駄音高き帰省かな
石棺に夕日まばたく烏瓜
石棺に直に触れむと手套脱ぐ
石棺に色なき風の出入りかな
石棺に螺鈿とまがふ青蜥蜴
石棺に銀杏降りこみ死華やぐ
石棺に鳥の声沁む竹の春
石棺のひろら羨しく鳥くもり
石棺の上の上なる若楓
石棺の夜へたたみこむ傘の骨
石棺の暗さをこめて竹落葉
石棺の朱におどろくや秋の暮
石棺の蓋あいてゐる朧かな
石棺の蓋濡れ色に冬浅し
石棺は湯舟のふかさ夕桜
石棺も句碑も拝みて福詣
石棺や濡れたるものにひめぢよをん
石棺を水溜にして花の寺
石棺観て寒風を来し耳ふさぐ
花冷ゆる石棺に石枕かな
著莪咲いて石棺遠き昔呼ぶ
葭切や石棺しづむ浦の波
鰯雲石棺におく石の蓋
湯をむすぶ誓ひも同じ石清水
石清水音羽の滝として落つる
藤咲くや海ヘ落込む石清水
雲に立つ不動の像や石清水
雲に立つ不動濡れたり石清水
すてゝある石臼薄し桐の華
はこべらや石臼祀る市の神
また雪の降る天平の石臼に
冬されや石臼殘る井戸の端
冬枯や石臼殘る井戸の端
年の暮石臼をひく老母かな
庭石のなかの石臼鶲くる
庭石のひとつ石臼のどかなる
庭石の中の石臼秋の風
捨て石のなかに石臼寒四郎
歳旦や捨石臼に鶫乗り
池塘春草石臼を踏み石に
石臼で過ぎし月日を茎の石
石臼と木臼つくつくぼふしかな
石臼にたつぷりとみづ夏行かな
石臼にのつたる桜落葉かな
石臼に冷えの凝りたる隠れ里
石臼に塩辛とんぼ止まりをり
石臼に斜めに張りし氷かな
石臼に盛りて黍売る五木村
石臼に終日氷浮いている
石臼のはじめは少し霧を挽く
石臼のはればれ打たる穀雨かな
石臼のものうき音や朝曇り
石臼のもの懶き音や暮れ遅き
石臼の傾いてゐる栗落葉
石臼の片割れに挿す実むらさき
石臼の穴いぶかしむ梅雨の鶏
石臼の陰のしぐれてあそこ爰
石臼は一戸に一個螢の夜
石臼は踏み石にされ遠き雷
石臼も唐箕も軒に夜寒かな
石臼も底荷の一つ春北風
石臼も父の匂ひよ冬日みち
石臼を回しておれば蓮枯れる
石臼を回せばそこに冬の母
石臼を廻せば廻る春の闇
石臼を牛舐めてゐる良夜かな
石臼を碾きゐる屋根の雪解くる
石臼を祠としたる暑さかな
石臼を零れてあをき新蕎麦粉
石臼を飛石にして草紅葉
秋に來て石臼頼む胡蝶かな
縄文の石臼暑し廻らねば
草色に染まる石臼餅を搗く
蒙塵や重い水車の谷間の石臼
行く春の石臼まはす息深く
軒つらら石臼はさみしさに慣れ
軽々と廻す石臼走り蕎麦
雲の峯石臼を挽く隣かな
音やみ豆の粉挽き終りたる石臼の形
風に来て石臼たのむ胡蝶哉
餅花を吊り石臼をかくしたり
うつし世の蜥蜴の走る石舞台
うつせみや一切空の石舞台
かげろふの独り舞台の石舞台
とんぼ生れ朝の日差しの石舞台
ならい吹く森の日に寂ぶ石舞台
人来ねば鶸の来てゐる石舞台
傾きて裾濃のおぼろ石舞台
冬の蝶舞はねば落ちむ石舞台
冬帝のずしりと在す石舞台
冬鳥の翔ちて影とぶ石舞台
勾玉の春月出でよ石舞台
天道虫翅をたたまず石舞台
天高し石組粗き石舞台
太子会の雨を掃き出す石舞台
春の暮狐きて舞へ石の上
春寒や足跡かさね石舞台
末枯れて石にもどりし石舞台
枯るる音四方より迫る石舞台
柿ひとつ落ちたる音の石舞台
桑の実の紫こぼる石舞台
正月の月出て照らす石舞台
火焚鳥来てゐる朝の石舞台
炎帝や蝶の落下す石舞台
田を植ゑてあはき靄立つ石舞台
石舞台に宙より流る円舞曲
石舞台めぐりてきそふ落し水
石舞台めぐる三日の畦匂ふ
石舞台大きな春の闇つくる
石舞台大万緑を楯となし
石舞台浮き上がるほど陽炎へり
石舞台遠巻きに春闌けにけり
秋の野やとりのこされて石舞台
秋色のど真中なる石舞台
穴惑ひ日のぬくもりの石舞台
緞帳は春の空なり石舞台
羊蹄花の吹かるるばかり石舞台
草萌ゆる匂ひの中の石舞台
蘇我の子らも雲雀聞きけむ石舞台
蝗飛び日は暈着たり石舞台
踏青や沓のかたちの石舞台
轡虫に占めらる夜の石舞台
逝く秋の日ざしとどむる石舞台
遠足が去り石舞台怖き石
野稗引くたび石舞台昏るるのみ
隍に蝶の相摶つ石舞台
雁行くや月に片照る石舞台
鶏鳴くや雪一刷けの石舞台
たいくつの石蹴つてゐる春帽子
寒立馬石蹴り遊びすなり
引出しに石蹴りの石小鳥来る
急行通過駅の秋灯に石蹴りを
灼くる石蹴る影ひかず飛びにけり
石蒋の花石蹴つて夕空が澄み
石蹴つて惨たる寒に縛さるる
石蹴つて田螺の鬱を感じをり
石蹴つて石光らしむ卒業期
石蹴つて石蹴つて行く懐手
石蹴つて鎌倉の冬起しけり
石蹴りし子は逃水のゆるる中
石蹴りつつ行く子の寒きそぶりかな
石蹴りつ行く子の寒きそぶりかな
石蹴りに飽けば春月昇りをり
石蹴りの丸書き足して春の蝉
石蹴りの地に画きし輪に蝶よ下りよ
石蹴りの子に道きくや一葉忌
石蹴りの石の失せどの蛇苺
石蹴りの筋引いてやる暖かさ
石蹴りや出雲の奥に想ふ秋
石蹴ればはや秋風の音醸す
石蹴れば暖冬築地本願寺
石蹴れば落ちゆく谷の朧かな
石蹴をして榾運びなまけゐる
石蹴リの子に道きくや一葉忌
阿漕塚石蹴りの子に暮早し
雪解部落に三叉路一つ石蹴る子
駒寄に石蹴の子が春日かな
鵙鳴くや石蹴るほかになき別れ
みちのくは初夏石階の裾水漬き
冬雨の石階をのぼるサンタマリヤ
利休忌や石階丸き島社
印度人と握手石階紅葉して
堂あふれ石階に和す降誕歌
墓参り父の寄進の石階を
夏蓬石階の地に減り込める
失語して石階にあり鳥渡る
孑孑の水石階にくつがへす
常照光寺石階を踏む雪あかり
春の月石階さぐり上るなり
春雨にぬれし石階上りけり
時の日や石階すでに草隠れ
沈丁の香の石階に佇みぬ
海しまき見つ石階の日に去らず
焼あとに残る石階と大冬木
石階にましろき日射し蝉時雨
石階に尻打ちて起たず秋の朝
石階に悴める手ぞ十字切る
石階に蔦紅潮し昔の友
石階のしろきにあそび咳く子あり
石階の二つの蜥蜴相識らず
石階の滝のごとしや百千鳥
石階の蟻大いなる影はこぶ
石階は波郷の席や銀杏の実
石階をもんどり打つて木の実落つ
石階を上り第二の薔薇の園
石階を下る一歩に鵙鳴けり
石階を寒の日射しの降り来る
石階を踏みて冬日に近づきぬ
花御堂ありて石階のぼりけり
踏青や古き石階あるばかり
夕雲の石門めぐる紅葉哉
散るさくら石門閉ぢて冷淡に
石門に雲の宿かる紅葉哉
石門の中に月あり時鳥
石門や内をのぞけば芍薬花
石門や蔦紅葉してぶら下る
石門をくゝりぬけたり秋の山
石門を五つくゞりて秋の山
石門を斜に冬の日影哉
第三の石門涼し雲の上
紫陽花の石門に入りし佳賓かな
赤十字車来ては石門の秋陰に
雪舞へる石門になほ故人の名
万緑や産土神のお百度石
濃く淡く蟻の影曳く百度石
百度石千度石あり日の永く
百度石忘れられをり針供養
百度石朝顔市の風の中
竹秋や竹のいろして百度石
羅の女がひとり百度石
街裏の捨百度石蔦枯れて
雪女触れしや蒼む百度石
しみじみと母のものなる茎の石
ベランダに忘れられゐし茎の石
人の家にまゝごとじみて茎の石
体育の日や茎石の面洗ひ
冷えきつて茎石碧むまで磨く
初霜の置く石の臼茎の石
圧へきつたる茎石おのれ沈み果てぬ
夜は凍の力加はり茎の石
大凡にまろき形や茎の石
大徳寺その茎石のおよそ百
妻留守の厨守るかに茎の石
忘れられゐしにはあらず茎の石
月光のはじめて中る茎の石
枕ともならで茎石となりにけり
波郷忌の日の残りをり茎の石
洗はれて山河へもどる茎の石
漢文の教師に似たり茎の石
焼原の夕日の末や茎の石
石臼で過ぎし月日を茎の石
累卵を敢て試む茎の石
茎の石ずらすずゐきに涙とよ
茎の石やぶにてあそびゐたる石
茎の石よりふるさとのことに触れ
茎の石一点滴と置かれたる
茎の石効きをるならむ妻寝落す
茎の石動かすのみに呼ばれけり
茎の石厨終生母のもの
茎の石土間の暗さになら馴染む
茎の石年々角のとれてきし
茎の石抱いて日暮と思ひけり
茎の石母あつかへば素直なり
茎の石母の力の底知れず
茎の石洗ひて顔のごとくなり
茎の石濡れにぞ濡れし泣いてをり
茎の石煤の夕に洗ひけり
茎の石珠と洗ひて眺めけり
茎の石納屋の静かを守りけり
茎の石結婚用意洩れなきや
茎石が廃めし旅館の玄関に
茎石に寒の没日のしばしあり
茎石やときどき裏の犬が吠え
茎石や昭和さんざん泣かせたる
茎石や泥にもならで泥まみれ
茎石洗ふ笛吹川の白水泡
過去帳に代々のをみなや茎の石
鯖街道廃家茎石のみ遺す
石一つたす茎漬の手くらがり
茎漬けの石のしづめる落葉風
茎漬の石の大中小を備ふ
茎漬の石は長子の手を借りて
茎漬の石も古りけり母の年
あしたばや岬へ抜ける石だたみ
ふいに影伸び短日の石だたみ
下駄ひきて初金比羅の石だたみ
信心の石だたみ蟻湧くごとし
冷酒やはしりの下の石だたみ
初詣吾子とかぞえる石だたみ
千歳飴袋引き摺る石だたみ
夕涼の風を踏みゆく石だたみ
宵闇やひとにしたがふ石だたみ
戛々と応ふ夜寒の石だたみ
手毬つく六波羅蜜寺石だたみ
木犀や夕じめりたる石だたみ
栴檀の実に風聞くや石だたみ
沈丁や根岸の路地の石だたみ
石だたみいたく濡れゐし雪解かな
石だたみ崩えて青栗一つ落つ
石畳飛花着地して石のいろ
神馬の瞳冬撒かれゆく石だたみ
萩咲くや馬籠に古りし石だたみ
葉桜といふ奥行の石だたみ
蓑虫が泣いてあるいた石だたみ
蜩に立ちつくすのみ石だたみ
門松に風吹き下る石だたみ
雀子や飯台直す石だたみ
青胡桃蚕飼ひの村の石だたみ
餅搗のこころ浮遊す石だたみ
馬場裏や夜の新樹の石だたみ
黐の花こぼれて月の石だたみ
かろやかに渡る飛び石実千両
その人が飛び石にゐる秋の風
ひき臼のいま飛石や花擬宝珠
ぽんぽんと巨き飛石梅早し
初雪も飛石ほどの高さかな
咳きて飛石ひろひ来つつあり
大空に飛石の如冬の雲
山茶花や飛石ひとつずつに貌
待宵や飛石幾つ先の関
新涼の飛び石ふかき家を訪へり
春の水飛石づたひ遡る
永き日や飛石苔に沈み居り
泥濘に飛石二つ落椿
浮き上がる飛石一つ忘れ霜
白砂に水に飛石かきつばた
短日や飛石おそるおそる跳び
石臼を飛石にして草紅葉
秋行くや菴の飛び石飛び飛びに
竹生島は神の飛び石冬日輪
蔵までは飛び石三つほととぎす
門を入りて飛石遠き落葉哉
障子あけて飛石みゆる三つほど
飛び石とならび据はれる一葉かな
飛び石にもたれかかるや杜鵑草
飛び石のごとき島々鬼やらひ
飛び石のひとつ離れて初霰
飛び石のまだ濡れている牡丹寺
飛び石の臼にしぐるる直指庵
飛び石はいま月の石招かるる
飛び石は昔の歩幅夏落葉
飛び石を三つ越えれば黄水仙
飛石にぶつかりをどる白雨かな
飛石にまじる挽臼蟻の這ふ
飛石に一もとづゝの菫かな
飛石に草花鉢や水を打つ
飛石のごとくに蓮の浮葉かな
飛石のほどよき湿り沙羅の花
飛石のほどよき間合水温む
飛石のをはりの石に雁仰ぐ
飛石の一つ一つの寒さかな
飛石の大小の妙夏落葉
飛石の段々下がり花の雨
飛石の湖水にをはる夏座敷
飛石の雨の短し木の芽あヘ
飛石の霜置きそめし雀かな
飛石の高さになりぬ霜柱
飛石の高さを足して梅見客
飛石へはだしで出たり衣かへ
飛石も三ツ四ツ蓮のうき葉哉
飛石をふまへてかゞむ春の水
飛石を一つ照らして梅の月
飛石を三つまでかくし青簾かな
飛石を人来る気配釜はじめ
飛石を余さず渡り春着の子
飛石を腹ほとぬらす蛙かを
飛石を跳んで渡る子すみれ咲く
鶺鴒の飛び石づたひ来りけり
黒揚羽すと消え飛石あるばかり
冬杉矗々眦挙げて石狐
夜泣石狐火を焚く夜もあらむ
春月や鳴くに顎上ぐ石狐
町師走とぼけ顔して石狐
秋風のそろと笠間の石狐
薄氷や耳の尖れる石狐
行く年やみな横向きの石狐
鼻合はす石の狐や春の月
あたたかし仏足石に足重ね
すが~し仏足石に松落葉
なめくじり這へり仏足石の上
ひざまづく仏足石も露の石
人の泣く仏足石や小六月
仏足石ここを動かぬ冬の蝿
仏足石五体の窪みみな暑し
冬日差す仏足石を囲みけり
凍蝶の翔ちて仏足石残る
初蝶は仏足石へいそぐなり
大いなる仏足石撫で福詣
小蛇消え仏足石のただ平らか
手入良き仏足石や山笑う
新涼や仏足石は五指ひらき
昨夜の雨溜めて仏足石ぬくし
木の実独楽廻してみたき仏足石
梅雨晴や仏足石にリラ銀貨
死場所を仏足石に冬の蜂
沙羅散りぬ仏足石といふ石に
秋霖の洗ひつづける仏足石
翔鶴忌仏足石に日のぬくみ
花吹雪く仏足石を浄めんと
花虻の仏足石を摺りて飛ぶ
蝉涼し仏足石に供へ米
蝗飛びきたる仏足石のうへ
蟻の道仏足石を越えゆけり
蟻んこの遊び場となる仏足石
蟻地獄仏足石の影およぶ
遠足の仏足石にかたまれる
雨蛙仏足石の窪に座し
青しぐれ仏足石を降りのこし
音立てて仏足石の木の実かな
鹿ケ谷仏足石に春落葉
あきの浪岩のいかりをくだきけり
あはあはと岩に吾が影冬牡丹
あをあをと岩に映れる額の花
いくたびも蟹岩を落ち身をかくす
いただきの岩に雲湧く花きぶし
いちはつや岩に眼鏡を置く長湯
いつも出れば狼岩の名ありけり
いつ翔つとなく岩の鵜の初景色
いづこより渡りし岩ぞ山女釣
いま割れしばかりの岩ぞ二月尽
うつくしき岩の綿が死を誘ふ
うつむいて谷みる熊や雪の岩
おはぐろ蜻蛉とめて夕づく岩湿る
おぼろ夜の海に橋杭岩並ぶ
お花畑岩に棲む鳥来て隠る
かくれ岩あり春の波立ちまさり
かくれ岩捌きて行きぬ精霊舟
かのときのかの岩いかに土用波
からみゆく登山綱にわれに岩灼くる
こがらしや滝吹きわけて岩の肩
ことごとく牛となる岩霧晴れて
この岩の百尺寒し鬼ケ城
この谷の岩に合はせて紅葉川
こぼれんばかり初日の岩のかもめたち
ごり押しの一手亀の子岩に乗る
さびしさや岩にしみ込む蝉の聲
しづかさや岩にしみ入る蝉の声
すこやかに岩を割りたる桜かな
すさまじき枯岩となる座禅の刻
するすると岩をするすると地を蜥蜴
すゞかぜや吸殻はたく岩の窓
せきれいの霜の色して岩畳
ぜんまいや岩に浮きだす微笑仏
そのかみの力士と云へば名寄岩
たのもしき岩の風切り寒の内
ちぎれ雲夜の岩々に露生れぬ
ちぬ釣りの危ふき岩に佇ちにけり
つきはなす水棹や岩のすみれ草
つつじ密磊塊過ぎる造り岩
つばくらや春夕焼の岩の角
ところどころつゝじ咲く也屏風岩
となりは薩摩鬼の洗濯岩渇く
とりつきし岩から剥がれ浪の花
どの山車の岩にも牡丹むかしより
ながき夜や潮にもまるる岩のこぶ
なさざれば極寒の岩さけることも
ななかまど岩から岩へ水折れて
なめらかに絖の春水岩すべり
のしかゝる岩を支えて清水飲む
のどかさや鞄寄せある岩畳
はたと逢ふ夜興引ならん岩の角
はつ雪や波のとゞかぬ岩のうへ
はりつける岩萵苣採の命綱
はんめうのふつと消えたる岩の色
ひとつ岩晩秋の日の牧に見る
ひと岩を占めて鵜の群身じろがず
ひよいひよいと鶺鴒ありく岩ほ哉
ふところに吉原本や扇うり
まだ雪を残して岩の若がへる
まなかひに蔦のくれなゐ岩を這ふ
みそさざい岩かけのぼり囀れり
みづうみに岩出てゐたる旱かな
むら雲の岩を出づるや雪吹の根
もののふの腹切り岩やかきつばた
ものゝふの誉の岩に鯊ひとつ
もの凄き道のこりけり岩の霜
もの影もなき岩だたみ寒鴉
やどかりの宿替へてをり岩の陰
やませの魔手蝋燭岩に伸びにけり
ゆきも帰りも飛ばない岩の鵜妻の名呼ぶ
ゆく春や汐ひききりし岩だたみ
ゆらゆらと岩に吸ひつき寒八ツ目
ゆるぎなく汀の岩の氷りたる
わが岩に秋日ひた押す夕めざむ
アメリカの波打ちよする岩ほ哉
カムイ坐す岩はいびつに蛇の殻
カルストの岩に並べて大根干す
カルストの岩面に野火吹き上ぐる
キヤンピング赤い毛布を岩に干し
コップ砕くごと寒濤岩に散る
コリントヘ行けず風葬の岩耀る
サングラス漱がんと岩に置き
ザイル置く岩を雷鳥走りけり
シギリヤ・レディの眼下
テント張る磯の釣鐘岩のかげ
バスが行く漁村岩蓴も少し干し
マンモスの臼歯のやうな岩に蝶
ライオン苦し赤剥け岩の一冷雲
一ツ葉の五百羅漢の岩庇
一個の岩に母来てすわる虚空かな
一切がもみづる中や岩湯浴ぶ
一枚の岩に居続け磯菜摘む
一枚の岩を砦に海女焚火
万愚節岩がするりと波脱いで
万緑や岩殿城址岩あらは
三十三才川海苔岩に噴き出でて
三陸の岩屑つきし海鞘届く
上流や凍るは岩を押すかたち
下り舟岩に松ありつゝじあり
不動岩の稲妻の中に隠見す
中天に竝ぶ岩あり霧の奥
中流につばめのとまる岩を置き
乙学忌や天狗岩より風花す
乳房をどる六月の濤岩打つて
乾く岩濡るる岩ぜんまいあまた萌ゆ
亀乗せて岩も睡りぬ半夏生
亀岩までとびしま萱草立ち騒ぐ
亀灼くる岩とひとつに禅定めく
二見にも似たる岩あり朝日の出
五月の雨岩ひばの緑いつまでぞ
五月雨の岩並びけり妙義山
五月雨や足駄岩を踏で滝を見る
人をめき岩攀づ鉄火そこに裂け
人黙り冬日の岩にいどみゐる
仏頭に似る岩暗し鯒出てこい
伏流は岩に現はれさくら蓼
伴天連魚藻の花がくれ岩がくれ
俊寛の岩掴む寒さもて終る
倒れ木の岩散乱と紅葉かな
側の岩に仏を刻む清水哉
傾き立つ水蝕の岩過剰に耐え
僧あるきゐて岩梨はまだ熟れず
光蘚手力強く岩掴む
八月や潮の下の岩畳
冬あかき岩を昆虫のごと摯づよ
冬ざれや岩たゞれたる湧泉のあと
冬の暮波かけおりて岩のこる
冬の水音なく岩を濡らしけり
冬の波軍艦岩をひと呑みす
冬の浪ささくれ立ちて岩を噛む
冬ひばり岩砕きしを凱歌とす
冬凪や岩のくぼみに小蟹這ふ
冬山の夕べを岩と分ちけり
冬山や岩のおもての観世音
冬山や我禅定の岩のどれ
冬岩をはなるゝ湯女としばらくす
冬川や宿雨うちやむ岩だたみ
冬帝の男ごころに女岩
冬待つやひとりぼつちの神威岩
冬怒濤噛む岩々に神在し
冬晴の御在所岳の岩仏
冬暁の岩に対ひて人彳てり
冬曉けの岩に對いて人彳てり
冬海や人岩に居て魚を待つ
冬海美くしくて岩の草みどりを残す
冬涛の轟き攻むる沖の岩
冬潮の岩をめぐりて相摶てる
冬濤や痩せしとおぼゆ夫婦岩
冷まじや岩に船漕ぐ棹突きあと
冷やかに忘れ潮あり岩畳
冷やかや縄かけられて夫婦岩
凍つる日の山に及びて岩檜葉も
凍てし頬を岩に触れしめ息づきぬ
凍瀧の人影しかと岩に踏む
凩や岩につまづく波のおと
凩や岩に取りつく羅漢路
出潮の岩の蟹あらは暮るる風吹けり
切通し岩に日の照る蜻蛉哉
初もみぢ明かりの及ぶ岩湯かな
初凪の岩の鵜ひとついつ翔つや
初凪の岩より舟に乗れと云ふ
初凪の岩飛び~の遊びせり
初夏の風遊船岩をはなれじと
初景色鬼のせんたく岩跳べり
初東風や浪の洗へる夫婦岩
初湯浴ぶ天の岩湯のここちかな
初漁や神とし斎きかくれ岩
初潮に和布刈の神の岩沈む
初潮に突出し岩の神事かな
初潮や鵜戸の神岩たたなはり
初霞岩縛られて獣めく
動きなき岩撫子や星の床
十六羅漢岩鳥海の雪解風
千々岩灘あをさの石に波たゝむ
千万の舟虫が舐め岩痩せし
千仭の岩に蔦なし秋の風
千鳥がへしといふ屏風岩冬の海
午後からは岩の現れ春の海
南海の孤岩を洗ふ初景色
南風の岩にカンバス据ゑて描く
南風や洗ひさらしの岩の列
卯波寄す力くらべの神の岩
友ら護岸の岩組む午前スターリン死す
台風の余波立つ岩に男松
右左岩間々々の岩かゞみ
合歓咲いてははより継ぎし濯ぎ岩
吊橋や河鹿澄む岩平たく見ゆ
名ある岩には棹あてず船遊
名月や小牛のやうな沖の岩
名月や船なき磯の岩づたひ
吹く風の雪まじへつゝ岩に鳴り
吹雪けども岩攀づのみにたかぶれる
吹雪来し岩に眼つむりうれひなし
吹雪来て眼路なる岩のかきけさる
唾らむとせり秋風の岩めぐり
喇叭ふき人ら岩攀づ墜ちては攀づ
喝采の与一が岩よ揚羽舞ふ
噴水も濡れたる岩も涼しかり
四十年経し思い出の岩妻と来てダイヤの海
国境過ぐ岩と蛇との空間澄み
土うすき岩の対島の野紺菊
土用波かぶりし岩は滝をなし
土用波中空もたゞ岩盛る
土用浪大砲打ちに沖の岩
地底の鑿岩冬の裸が発光して
地震ののち岩がはなせし屑若布
堅氷の岩に身をかけ頬あつき
堅灰岩仰ぎ黙祷梅雨晴間
変な岩を霰が打つて薄日さす
夏の濤幾岩窟に憂ひの門
夏の鴨岩隠りつゝ舟に添ふ
夏場所や土俵いのちの名寄岩
夏山の岩に老若励めよと
夏山ヤ岩アラハレテ乱麻皴
夏椿峡の湯岩古くなりぬ
夏氷河果つ岩黄蝶翔ぶを見し
夏濤夏岩あらがふものは立ちあがる
夕日燃ゆる岩うつてとぶ燕かな
夕月や怒濤岩をうつて女立つ
夕焼の断雲つひに岩を染めず
夕焼の暗澹たるや隠れ岩
夕焼の赤き山女を岩にならべ
夕闇に雷鳥まぎれ岩残る
夜のま冷えし岩に日あたる躑躅かな
夜の岩の一角照るは鯵釣れる
夜は秋のくらき岩湯に通ひけり
夜光虫岩を蝕むごとく燃ゆ
夜振火の片手さぐりに岩伝ひ
夜涼の三人笑えば遠く岩を感じ
大日如来岩へ火をかけ蔦紅葉
大水が置き去りし岩稲の花
大瑠璃や岩の鎮もる奥之院
大瑠璃鳥の鳴くと登れば岩仏
大神の降臨の岩交喙鳥鳴く
大船の岩におそるゝ霞かな
天涯の岩のくぼみを海霧抜けず
天澄むやしかと爪ほど岩仏
天炎ゆる神のくぐりし岩の門
天狗岩百丈岩も囀れり
天草干岩の平らを使ひきる
奥の湯へすぐる岩の門瑠璃鳥高音
奥瀬上より第一門の岩涼し
女体なき夏山発破岩焦がす
女体透く岩湯に楡のあおければ
妄執や萩の散り込む岩の罅
姥岩の声となりたる夕野分
姥岩の月へせり出す力かな
姨岩にひびく棚田の威し銃
姨岩に白髪のごとく枯れし草
姨岩に雪の褥の敷かれあり
姨岩へ化石を負へり花槐
姨岩を囲む新緑柔らかし
姨捨てし岩の辺に菜を懸けて住む
子の去りし秋逝く岩は大きくて
子の嘘は子の夢岩を縫ふ蛍
子の岩の没りて出でこぬ卯浪かな
子をつれて岩にふりむく雉子かな
家を空らにして来ぬ岩鵜の長き思慮
寒の月川風岩をけづるかな
寒垢離の終へたる岩を浄めをり
寒暁や素わらじで僧岩を踏む
寒月や鋸岩のあからさま
寒潮の岩踏めば戦さ近くなりし
寒潮の海苔ふくむ蒼さザゝと岩に
寒潮やざう~岩を落ちる渦
寒潮や蟹釣りの子の岩濡らす
寒潮や針ぬくかいづ岩を摶つ
寒禽の鳴かず飛び去り岩残る
寒釣の径なき岩に移るなり
寒釣や物見鴉の岩移り
寒鴉岩より岩へ脚つよむ
尖閣湾春潮岩を噛みどほし
屏風岩刳りたる湯壺雪囲ふ
屏風岩垂水ぞすなり著莪の花
屏風岩廻ればすぐに滝の前
屏風岩河鹿が鳴けば谺する
屏風岩高く翔れる鴛鴦もあり
屠蘇に醉ふ龜岩ふんで躍りけり
層雲峡岩岩紅葉黄葉して
山女浮く岩を木の葉を保護色に
山女釣荒くれ岩をひょいひょいと
山小屋は岩を楯とし夕焼けぬ
山椒喰岩攀ぢがたく仰ぐとき
山津波響き岩流れランプ揺れ
山焼や岩の悲鳴がひた走る
山田とて稲を刈り干す岩多し
山翡翠が捕へし魚を岩に打つ
山葵田を溢るる水の岩走り
山頂はごろごろ岩や御来光
山鳥の入りし茂みや花岩韮
岩々に源流の相渡り鳥
岩々のくつがへりをる紅葉かな
岩々のまとふ青さに滝凍る
岩々のみえかさなるや梅雨の瀬に
岩々のわれめわれめや山つゞじ
岩あればしたがひ巡り浮寝鳥
岩あれば冬濤百態父子睦ぶ
岩かけて青蔦馬頭観世音
岩かこむ枯生に聴けば洋恋し
岩から柿へゆっくり飛んで伊豆の鴉
岩かゞみ鉄鎖抱きし子の腕
岩がくれ浪がくれゆく遍路かな
岩がくれ草刈舟の棹せる
岩が岩に薊咲かせてゐる
岩が根に湧く音かろき清水かな
岩きびし凍雪とびてひかり消ゆ
岩くだくごとくに牡蠣を割りにけり
岩くらやさもなき家の青簾
岩すつて影のごとくに鮎はやし
岩すべてちり葉をためるくぼみ持つ
岩すべる水にうつぶす椿かな
岩すべる水音へ垂る沢胡桃
岩すみれ濃ゆし陽炎躬にのぼる
岩せり出て寒の滝撚る堅撚りに
岩たぎつ水おもしろに翡翠かな
岩づたふきさらぎ海女といはれけり
岩とがり流水激ち冬は来ぬ
岩と岩そこに動かず御来迎
岩と波語らうを聞く涼み船
岩なだれとどろ荒尾根蝶湧けり
岩なべて白き早瀬に余花のあり
岩にあてしむる草鞋や山始
岩におく手提の刺繍南風
岩におく水さへ碧し草雲雀
岩におく鮎のひかれりくらけれど
岩にすがるたまゆらの龍胆碧し
岩にただ果敢なきの思ひ哉
岩にのぼりてたゝみし日傘かざしけり
岩にはとくなれさざれ石太郎
岩にはや岩魚ひそむか奥信濃
岩にふれ飛沫新たに滝落つる
岩に乗り上げて曲がれり秋出水
岩に化け潜める蛸の眼の光る
岩に坐せば秋雲膝に平らなり
岩に坐る青田から善き壺釣るかと
岩に干し胸開け放つ海女着なる
岩に手を掛けて退ければきょとと蟹
岩に手を触れて茸の季とおもふ
岩に散り定家蔓の印結ぶ
岩に来てわれの目と遭ひ小雀去る
岩に棲む鷹さみしくて鳩となり
岩に渇一蛇身を巻き身をほどき
岩に爪たてて空蝉泥まみれ
岩に生えて岩を裂く木や閑古鳥
岩に生ひて松の勁さよ枯芒
岩に眼を打ち込めば一滴の始源
岩に着く鮴掃き寄せて捕りにけり
岩に立ちて鷹見失へる怒濤かな
岩に篠あられたばしる小手さしに
岩に置くナイフに夏の過ぎゆくも
岩に置く山への供物山始
岩に腰かけて春先考へる
岩に腰梅林暮れてきたりけり
岩に腹つけてのぞけばもみち哉
岩に腹這ひ天草汲みの俊寛めく
岩に落葉表裏生死のごとくあり
岩に蜥蜴蟹は木の根に海荒ぶ
岩に貼る登山教室予定表
岩に跳ね卵こぼせり花*うぐい
岩に身をよこたへいこふ滝を前
岩のいろ一色となし春日没る
岩のいろ一色となり春日没る
岩のかげより尿する海は静まれり
岩のみの主峰かがやく日の盛
岩の一点鵜ならましかば青北風に
岩の亀萍に乗る亀落とし
岩の奥のいのち背伸びをしているか
岩の寛容涼しさに吾を載せ
岩の日の秋日に敵意なきねむり
岩の湯を落す谿より虎つぐみ
岩の画をつるし独身神の留守
岩の目に走り枯れたる芝根かな
岩の秀の十基の墓の春没日
岩の窪衣の袖の木の実かな
岩の端に柿噛りつゝ足垂らす
岩の胸厚く秋水かがやき落つ
岩の貌木の瘤の貌梅雨ながし
岩の雉子尾をひるがへし動かざる
岩の雪とばす汐風や初日の出
岩の雪にうぐひ血走り釣られける
岩の面にはづみて梨の落花かな
岩の面に影をひきつつ春の滝
岩の面に筍梅雨を溜めて澄む
岩の頬濡らす涙の春時雨
岩の頭に身を支へゆき春着の子
岩はなやこゝにもひとり月の客
岩はなや旅人労れていちご食ふ
岩はなや月にうつむく鹿一つ
岩はみな沖へ尖りて涅槃西風
岩はわがふるさとの灯よ風の街
岩は皆渦潮しろし十三夜
岩ばしる水に橋あり不如帰
岩ばしる水や黄落いそぐなり
岩ぱなや旅人労ていちご食ふ
岩ひとつ土となりゆく鳥曇
岩ぶよぶよ嬰児ぶよぶよ地球抱く
岩へ散り紅葉のなほも日を透かす
岩へ滴るゝ巖の紺や月の潮
岩ほうつ波も泣いたり怒たり
岩ほとり秋の嘆きの身ぞおもき
岩またぎ岩くゞり紅葉見てありく
岩むらに潜む海豹ひそみ観る
岩めぐりとは船虫の中歩く
岩めぐり鮎わき来るをいのちとも
岩めぐるちりめん波や海蘿摘
岩めぐる汐にしろき身をしづむ
岩も七いろ神の石狩秋激ち
岩も晴れて海へしづくしてゐる
岩も皆鋸山や安房の海
岩よわが息吹きににほふ夏来る
岩をうがちて生簀つくるや土用凪
岩をうつ水のしぶきも桃青忌
岩をかむ人の白歯や秋の風
岩をかむ佐渡荒浪に寒響き
岩をみて肩の凝りたる紅すすき
岩をめぐりたゆたふ潮や初日の出
岩をめぐり吹く風のあり蝉涼し
岩を下り又平凡に街へかえる
岩を噛む念力秋の水にあり
岩を攀ぢ天の夏日の小さゝよ
岩を攀ぢ立つ涼風の天狗岳
岩を越すも越せぬも波のうららかに
岩ヶ根の立浪草に雨あらく
岩ヶ根を湧き上りくるべらの潮
岩三方甍を走る雲涼し
岩乾き谷間は冬の響き去る
岩乾くばかりやませの能登岬
岩伝う干潟の独語誰も聞くな
岩伝ひしゃらんしゃらんと女滝落つ
岩伝ふ水上走りがざめの子
岩伝ふ渓流蝶は花伝ひ
岩伝ふ鎖に休む夏の蝶
岩凍てて寂光仏となりたまふ
岩削がれ漢のかたち浪の華
岩割れの梅に歳月やどりけり
岩創撫で窪む緩流温みつつ
岩化してダルマオコゼとなる暮春
岩噛むは冬波すべて三角波
岩大好き岩も磯巾着が好き
岩子ねむし膝の薊の刺にぶり
岩室には剪りし菊満つ歡び何
岩室涼し石を重ねてわらべ墓
岩寒し殘暑の空へ五十丈
岩小屋に紅葉時雨をやりすごし
岩屏風衿まだ固き水芭蕉
岩屑にまぎれずこまか麝香草
岩岩を膨み流れ水澄めり
岩峯のチロルの秋は雲よりぞ
岩峰に雲触れ流れ檀の実
岩峰のチロルの秋は雲よりぞ
岩峰を空へ連ねて夏立てり
岩座に神の貌あり滴りぬ
岩座に降りつむさくらもみぢかな
岩座の栂の夕蝉鳴き納む
岩彫りの仏ひたせる清水かな
岩影に神饌の生簀や寒椿
岩惣の塗脇息に花疲れ
岩打って滝となる瀬や小鮎汲む
岩抱いてもみづる楓養老谿
岩掴み岩をつたひて和布刈禰宜
岩掴み若葉の渓を渉りそむ
岩摶つてそろり辷りぬ朴一葉
岩攻めて波千々細耕遅々と成りぬ
岩昃りそめて駒草昃りけり
岩梨の花やザックの上に坐す
岩棚に大雨たばしり鷹巣立つ
岩殿の巌を神とし初詣
岩殿山の初松籟に詣でけり
岩水の朱きが湧けり余花の宮
岩清水別の岩から噴き溢れ
岩温泉に老猿ばかり深雪晴
岩温泉出で枯蔓を噛む猿のあり
岩湯滾くけぶりも立てず日の盛り
岩濡らすはげしき谿をなほ攀づる
岩灼かれわが登山綱さへ目守りえず
岩灼くるにほひに耐へて登山綱負ふ
岩灼くる光の底に蛇ゆけり
岩灼けて北岳草の残り花
岩焦けていのちを奪ふ砦かな
岩照らば鳴らん毛物らの白髪
岩畳蟹追いかけて追いかけて
岩痩せて足下に秋の水細し
岩登りかけてその儘日永亀
岩相の九十九態や川涸るる
岩相は神の悪戯つつじ咲く
岩砕く金剛力や焚火人
岩磊々水潺々と岩魚棲む
岩磯に渚とほのき冬日和
岩稜に声よみがへる雷のあと
岩稜に巻き干すザイル小鳥来つ
岩稜に張り付き涼し北穂小屋
岩稜の角鋭しとまる孔雀蝶
岩稜の風吹き変る夏つばめ
岩稜を風打ち月光靡き見ゆ
岩積みし雄山が放つ蛾の淡さ
岩穴をぬけて鳴きけりきじの声
岩穿ちけるを昔に泉かな
岩窟にともりゐる灯はパナマ編み
岩窟にどよもす浪に初明り
岩窟の歯朶天井のあふらるゝ
岩窟の祠の神の両面
岩窟をどよもす浪に初明り
岩端や爰にもひとり月の客
岩羊歯や常世の風の吹きわたり
岩膚の玉あられやみ霑へり
岩舐めて引く力なき春の潮
岩苔に水のふくらみ谿紅葉
岩藤くらしわが山窟女を発見し
岩蛇の眸の切れ長に日強まる
岩裂けて冬天にひとを攀じらしむ
岩裂けて夏日に人を攀ぢらしむ
岩襞にすこしたまりて霰かな
岩襞に咲いて水辺のつゝじかな
岩襞を逸れ水走り風の滝
岩走る水しろじろと秋の声
岩走る水音のして朴の花
岩走る瀬も月寒鮭のぼる
岩走る雷鳥哭いて捜査やむ
岩起こす手力男ゐて磯遊び
岩越えて還れぬ波や春日溜む
岩跳びの子らも影なり柿若葉
岩跳んで流れを越せり松迎
岩踰ゆる吾を郭公の申し継ぎ
岩辿る黒蟻は一登攀者
岩運ぶ声を絞れり冬紅葉
岩關の岩にけし飛ぶ霰哉
岩隠すほどの萩咲く往生寺
岩離る藤の落花は渦を呼び
岩雪崩とまり高萩咲きにけり
岩雫すれ~に鴛鴦の日向ぼこ
岩風にお調子づいて紫蘭咲く
岩飛んで麦藁帽の物売女
岩高く天をささへる黄葉谷
岩鳶のよろりとうかぶ天の河
岩黒しわが名呼ばれて死ぬ日まで
岬端の岩落ちさうに法師蝉
岳人の岩を枕に大昼寝
岸釣の軍艦岩は人多し
峯行者岩跳び岩に抱きつける
島の子と岩グミ噛めば雲親し
島の影岩の影秋深みかも
島の雨さゞえの籠を岩籠めに
崩れ落ちる岬の岩や小夜千鳥
川涸れて包茎の岩現はるる
布引の観音の岩滴りぬ
布海苔篭岩の窪みに置きかへし
帽頭や思ひがけなき岩の雪
干潟あるき岩あたたかくかたまりて
干潟なす岩や歳月われに過ぎ
干潮の岩に嗅ぎよる孕鹿
年玉や岩のまはりに遊ぶ波
底岩と一重の天水もがり笛
底岩に幾つとまれる海鼠かな
引き汐の岩の肩借り根釣りせり
引き汐や岩あらはれて蠣の殻
引き潮の岩の青海苔引きのこし
引くときも二日の波の岩を越ゆ
張りぼての岩のやうなる春の雲
待宵の濡れ岩隠り蟹の爪
御前崎卯の花腐し岩腐し
御神体岩熱湯噴くへ蛇跨ぐ
復活思うとき婢は転ぶ岩ひばに
怒濤寄す潮吹岩に虹かかぐ
怒濤岩を噛む我を神かと朧の夜
怪僧の力瘤なり滝の岩
恋ボートならぬに岩のかげに入る
恐ろしき岩の色なり玉霰
息づけば灼けし風さへ岩吹かず
悴むや岩に魑魅の水の音
手かけ岩誰も決りて登高す
手袋を岩に置きたるままにして
掌に傷あり舟虫の岩へ寄る
掌に支へる岩や清水吸ふ
探梅は岩躍り越す水見たり
探梅や岩にこつこつ茄卵
探梅や日当る岩にもたれもし
数十丈見あぐれば岩のつらゝかな
斑猫や心経岩に道尽くる
斧仕舞鎧擦岩に尿して
新春の小さき岩よ吾子と来ぬ
新涼の岩畳いま潮畳
新涼や急流に岩たち上がり
新藁の注連張つてある夫婦岩
旅痩や木の根岩ばな郭公
日ざかりの岩よりしぼる清水かな
日の色や岩噛む浪も夏となり
日をかくす雲の岩座鹿の聲
日光は木さへ岩さへ紅葉哉
日光沢しぶける岩ももみづらん
日出づる岩の尖りに乗り山の雀なり
日盛りの岩をめがけて草の蔓
日蓮の俎岩に卯波寄す
日雀鳴き岩崩落の六合目
春の水岩のかたちにふくれけり
春の水岩を抱いて流れけり
春の海岩はひ上る遊び波
春の潮ねぢれて岩をのぼるなり
春の潮踊るさまもて岩を越す
春光や岩に嘴研ぐ川がらす
春暁や岩神木神芳しく
春暑しバイソン岩の如くをり
春水の噴き出る岩の裂目かな
春水や岩をいなして通り過ぎ
春汐の底にて石の岩を巻く
春潮のけづれる岩のかたちかな
春潮のひじきの岩の蠢ける
春潮を堰く岩門あり鵜戸といふ
春祭岩の潮穴おびただし
春蘭や岩を標の貴船道
春行くや樋の水走る窓の岩
春陰の岩吹き出づる水の銀
春雨にぬれて岩が根瀞に入る
晩涼や海の中なる疊岩
暦日や鵜の糞白きめくら岩
曙やたんぽぽの群岩を凌ぐ
月いでて岩のしづまる山女魚釣り
月がでてころげさうな山の岩々
月を待つ将門岩のほとりかな
月光の岩攀づわれをうつゝみぬ
月光の穿つ岩湯に下リんとす
月光も岩越す濤も寒明くる
月山はるか岩の裂け目の曼珠沙華
月明の岩に凭れて死にはじむ
月明の岩より湧きし蝸牛
朝和や鷹声立つる岩の松
朝涼や簗を組む背に岩しぶき
朝焼に群立ちむかふ岩昏し
木ともいはず岩ともいはず苔の花
木の芽晴風の笛生む屏風岩
木下闇六角岩の玄武洞
木天蓼や花ちる岩のたまり水
木枯に岩吹きとがる杉間かな
木枯や落ちなんとする岩に堂
木流しや百態の岩そらんじて
未踏の岩嶺へ鷹は登りの舞見せて
来る波に蟹のたじろぐ岩っ角
松明や和布の岩むらの神ながら
松虫草処を得たる岩と風
松蝉や岩穿つ道濡れてをり
林中に音返す岩漆掻く
枯れ果てて鬼神は枯れず岩に立つ
枯急ぐなり海底へ岩の階
柔かく女豹がふみて岩灼くる
柞紅葉神にて湯岩縦割れに
校園盆景岩組すでに黄葉して
梅の中来て岩の吹き曝さるる
梅咲いてひらたき岩を水流る
梅白し日陰日向に岩ありて
梅雨の海静かに岩をぬらしけり
梅雨鯰古地図にのれる屏風岩
楮晒す岩に打ちつけ~て
楯に似し岩打めぐり鳴くは千鳥かな
楯岩に鶚居り寒き入日かな
極寒の塵もとどめず岩ぶすま
極月の魚貝ひそめる岩生簀
樹に岩に礼して行くよ春着の子
橄欖岩そがれつめたき肌さらす
橋杭のせて乾ける岩や若楓
次の岩へ海苔掻移り音幽か
歯朶もえて岩滝かけるきぎすかな
残暑の岩移る鴉のかわと啼き
残陽や蟹も這ひ出る岩がもと
毛のぬけしお岩の顔や秋の蚊帳
水じく~岩の窪みに栗のいが
水底の岩に落つく木の葉哉
水月光坂水走り岩涼し
水楢のこかげに憩ひ岩畳のさざなみを踏み
水浴ぶる木桶を岩に安居寺
水疾し岩にはりつき啼く河鹿
水蛸は海の忍者よ岩に擬す
永き日や橋杭岩に海鵜群れ
汐ひけば出て秋汐を鳴らす岩
汐干岩藻をうちかぶり現れし
汐干潟汐になりきる岩騒ぎ
汐引けば岩々荒るゝ薄暑かな
汐限る岩囲ふ温泉に月も見つ
沐猴の岩温泉に子を肩ぐるま
沖つ岩鵜がゐて泳ぎつかれたり
沖なるや鵜のとまりたる汐干岩
沖の岩今年の波を被りけり
沖遠くまた汐干岩離れ出す
河鹿聴く我一塊の岩となり
泉までゆく冬岩の序列見る
波を脱ぐ度にかゞやき海蘿岩
波形の絵島の岩に春の草
波来れば岩にはりつき海蘿掻
波照りて昃りて岩の鵜はさみし
波白く岩捉へをり秋の風
波越ゆるたびふくらみて海苔の岩
泳ぎきて閑かなりけり沖の岩
泳ぎ子のはや占め朝の離れ岩
泳ぎ子のひとり淋しや岩に上り
泳ぎ子の去んだる岩の沈みけり
洞門の岩に織りなすあや錦
流し雛岩めぐるとき後向く
流星やかくれ岩より波の音
流燈にまくろき岩のたてりけり
浅蜊の黙岩色砂色もたらせしに
浜菊や波の飛沫の届く岩
浦島草一つが岩を下りて咲く
浪か岩か巌か雲か室戸岬
浮かぶ身を岩に支へて鮑採る
浮寝鳥岩に身をうつ夜もあらん
海に潜り麦稈帽は岩に置く
海ふくれきては鹿尾菜の岩に寄す
海南風岩の平らに現在の母
海底の岩になり切つたる虎魚
海底の岩にわが影雁渡し
海昏れぬ青春の唇濡れ合うて岩匂う
海照りて鬼の手作り岩を灼く
海苔掻きのあまた出てゐて岩がくれ
海苔掻の去りたる岩の暮るるのみ
海苔掻の眼はをみならし円き岩
海苔掻は他を見ず岩を見て去りぬ
海蘿生ふ鹿尾菜のつかぬ岩なれば
海髪生きて海の底にも岩とがる
海鳥に岩のぬめりや初日射
海鳴りにはなやぐ岩の若緑
海鵜翔ち何も無かりし沖の岩
涅槃其時岩は裂け地は凹みたり
涸川の岩に腹すり鱒ほそる
涼しさに寐よとや岩の窪溜
深山晴虻蜂を岩すがらしむ
混浴の女岩踏む跣の音
清水入り清水出づる岩の窪哉
清水掬むや犇と岩に倚る繊そ腕
清水湧く岩のさざれや山椒魚
清滝や岩にほしある夏ぶとん
渓の岩蠅を点じて颱風期
渓埋めし水禍の岩に落葉はや
渓流の岩食む力秋深む
湯の岩のぬるぬる去来忌も過ぎし
湯の岩を愛撫す天の川の下
湯華掻く執心岩の鳴りやまず
満開の海の岩岩船遊び
源流の岩がはじけて鮎がとぶ
滝しづか岩苔萌ゆる光りあり
滝と見し霧かゝり岩を人登る
滝の前しぶきに磨がれ岩の立つ
滝の岩灯取虫など舞ひながら
滝の瀬の岩に食み入る落葉かな
滝ほとり岩も木立も氷柱かな
滝川の涸れたる岩に人小さし
滝泡の岩めぐる鳥を叩くさま
滝涸れて垂水の黝く岩づたふ
滝茶屋の鏡に岩の映りをる
滝落ちて岩をめぐれば春の水
滝落とすなり直立の玄武岩
滝行者岩の貌して打たれをり
滝行者平らの岩にゐて行かず
滝見岩にんげん声をしまひけり
滝道といへどおほかた岩づたひ
滝道の岩じめじめと眠くなる
滴りて滴りて岩を黒くしぬ
滴りは石工の岩の泣きぼくろ
滴れり三葉虫の潜む岩
滴れる岩に刻める仏あり
漁家二軒石蓴の岩を踏みて訪ふ
漕ぐ暖さや岩をめぐれるとろとろ藻
潮さしてくるを待つ岩灼けてをり
潮吹きの岩鳴りよどむ青葉笛
潮吹ける岩の微塵と見て千鳥
潮引いて三月の岩真みどりに
潮引きしあとあたたかき岩畳
潮退いて石蓴の岩の色ちがふ
澁鮎の岩關落す嵐かな
濃すみれや岩だたみ尽き粗朶の橋
濡れ岩の乏しき海苔を掻く音す
濡れ岩の榧青々と滝嵐
瀧涸れて垂水の黝く岩づたふ
瀧茶屋の鏡に岩の映りをる
瀧落ち岩尖る處鶺鴒飛ぶ
瀧落つる岩父に見え父に見え
瀧落る岩父に見え父に見え
瀬に乗るも岩に残るも落椿
瀬の岩へ踏んで銭鳴る二月尽
瀬は岩に岐るる鴛鴦の思羽根
瀬音やややはらぎ岩に萩も咲き
灯り居る岩湯に夏の出水して
灯を離れた霧がまつ赤な岩面ゆく
灼くる岩ふと背に影を恐山
灼けし岩噴煙けぶり行きがたし
灼けそゝぐ日の岩にゐて岳しづか
灼けゐたり漢の触れし岩も樹も
灼け岩のにほひさびしき飯噛みしむ
炎天の岩にまたがり待ちに待つ
炎天の岩に山羊臥し蜥蜴臥す
炎天の海、底岩の彩たゞよふ
炎天の雲のゆきたる岩照りぬ
炎天や雫たらして岩兀と
炎熱や鉄の楔を岩に打つ
炭焼の貌の冬ざれ岩よりも
照紅葉焚火跡ある瀞の岩
照葉して五體あられもなき岩湯
熱風や若者に岩砕かれて
燃えて燃えて岩韮はかなし藪の中
燈台や霧吹きめぐる岩の角
燈籠をかざして渓の岩づたひ
爪木崎浸食岩へ和布干す
父の跳びし順に岩跳ぶ鮎の川
片あしは岩に放つてかぶとかな
片尻は岩にかけけり花筵
片陰のふかき岩なり背に憩ふ
牡蠣の岩戦後の殻を固めけり
牡蠣の岩踏みつたひ来て隣り字
牡蠣を打つ岩と同じに死にたけれ
牧牛を見ぬ秋風に岩照らふ
牧黄なり悲愁の秋日岩にふり
犬岩を冬川の一点景に
猪の岩ふみはづす吹雪哉
獅子岩の吠ゆるがごとし冬の海
獅子岩の獅子の口より芽吹き初む
獅子岩の陰にゐるらし磯あそび
玄海の鉾やあふれて岩の鵜が
瓦色黄昏岩蓮華所々
甘草を燭と見立てて仏具岩
生れたる蜥蜴岩抱く掌をひろげ
生死渇くやつつじ戯れに岩に落ち
産卵の海亀黒き岩めけり
甲斐は道の岩坂ばかり栗のいが
男郎花将門果てしかくれ岩
畑中の岩のきはまで貝割菜
畑岩に薪組み干しぬ花大根
畑打つもかりかり岩の土掻いて
発破もて割りし岩見ゆ労働歌
登山靴岩かと小雀止まり飛ぶ
白檜曾の樹海岩荒れ瑠璃鶲
白玉や岩に滲みゆく雨の色
白雲の上に岩あり蔦紅葉
百千鳥薬種箪笥に岩絵具
百尺の裸岩より夏の海
盆の荒れ三方岩の壁の海
目の前の岩に雲立つ涼しさよ
目をあぐるたびに岩見の花辛夷
真田領猿飛岩の野菊かな
真鶴も岩も漁場なり春の泥
眠りたる山ひゞかせて岩くだく
眠る岩立ちあがる岩冬日濃し
眩しい海石踏み岩踏み鷹の方へ
眼下の怒濤女・子供に日向の岩
睡蓮の岩にかしづく二つかな
短夜の岩に降り来し白鳥座
短日やあるとき乾く岩の膚
短日や獣の檻に岩ひとつ
石に無く岩には雪の残りたる
石一つケルンに足して岩を攀づ
石楠やその岩も澄み苔も澄み
石楠花の岩落つ水は淵をなす
石楠花やキャンプはりつく夕日岩
石楠花や賀茂源流の岩梯子
石灰岩映えし紅葉や帝釈峡
石蓴採る声をすつぽり岩かくす
石蕗の花岩割るごとく茎立てて
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