button.html

金閣寺が坊主を燃やす小説

随分と長い時間が過ぎ去った。
太陽が消え失せ、私の屋根／私の梁／私の柱／私を囲う池／私の放つ燦然たる光、その全てがもはや誰の頭の中に浮かぶでもない抽象としてしか存在し得なかった。
私はいつしかその形而上的な美しい記号の羅列の中で私の考えを持つようになった。
私の言葉は私の物語を語りだす。

**

騒々しい爆発の音で溝口は目を覚ました。午前3時、奴らが暴れだす時間だ。
手慣れた仕草で仏壇から503口径のマグナムライフルを取り出し、溝口は寺の庭に出て耳を澄ました。

ーー3匹、いや4匹はいるな。

**

目の前に現れた X 軸と Y 軸から成る平面の中で、溝口は黙々と読経を続ける。
寺が燃えているのか、私が燃えているのか見当もつかなかった。