farmtory Advent Calendar 2019 の 12/09 の記事です。farmtory 部員ではありませんが、むらさきさんにお声がけをいただき書かせていただくことになりました、 tomykaira です。fab や make といったとき、どうしてもモノ作りの文脈で語られることが多い気がします。しか し farmtory のコンセプトのひとつは「都市の自給自足をリビルドする」。自給自足の概念は、サステナブルに直結します。たんに自分で作ったモノが壊れたときに自分で直せるというだけでなく、モノが壊れずに長い期間使えること、また楽しく有用に使えることが、今回お話したい sustainable fab です。
私は普段はソフトウェアエンジニアをしていますが、趣味と実益を兼ねて、PC周辺機器を自作したり作業環境を hack したりしています。過去にはリモートワークスタイルを記事する記事を書いたりしていますね。この記事を書いたのが18年4月。もう1年半前というのは大変おどろきです。その間引越しや海外旅行をふくめ、いろんなことがありましたがだいたい同じスタイルで今も仕事をしています。こまかい構成変更はいろいろあります。たとえば重すぎる iMacを降ろして地面に置くようにした、PC をグレードアップして Ryzen TR2 にした、など。しか し一番大きく、効果の高かった変更は入力デバイスの変更でした。
すでにいろんなところでお話していますが、寝た状態で作業すると、座って作業するときに前提になっているいろいろな事実が壊れます。たとえば、ほぼ重力がありません。身体の全体はマットレスに支えられています(もしかしたらマットレスも前回からのアップデートかもしれ ません)。すると通常のキーボードの打鍵は重すぎるのです。キーボードは腕や指の全体の力をつかって打つように設計されている気がしま す。わたしの小さな手の非力な指先だけで押し下げていると疲れてしまいます。またマウスは布団の上で使えません。そこで以前はトラックパッドを使っていたのですが、問題がありました。また冬は寒いですから、布団の中に手を突っ込んだままにします。すると摩擦がすごく大きくなります。キーボードの隣に手をうごかすのは大変なわけです。このような問題点に対する解が凶夜の双翼獣<ナイトメア・ビースト>です。
代表的な工夫は以下です。
- オーバーキにより手を左右に移動させずキー数を稼ぐ
- トラックボールを側面に装着しマウスに手をうごかさずに済ませる
- 軽いバネと浅い作動点のスイッチを用い、指の負担を軽減する
- tint をつけ、寝ている時に手や腕に無理のない角度に調整する
- 長めのボルトで布団を支え、打鍵中手に触るのを防ぐ
いいものが出来ました。すごく満足して使っています。なぜか飛び道具的だと思われて「あれ本当につかってるんですか」って聞かれるんですが、めちゃくちゃ使ってます。ー年以上、平均一日10時間はつかってます。わたしもよく、他人の作品をみて「これ本当につかえるんですか」「便利ですか」と疑問に思います。研究ではもちろんアイディアをカタチにすることが重要ですが、現実の時間に生きる私にはそれが実用上非常に有用でなければ価値を見いだせません。それが「楽しく有用につかえるか」というサステナビリティのひとつめの軸です。その点、この作品は大成功でした。
でも問題点もありました。ひたすら壊れやすいんです。通常の市販キーボードはもちろん工場で厳密に生産されていますし、自作キーボードでも大抵はケースにはいっているか、最低でも PCB を使い、PCB が隠れるようにアクリルプレートを配しています。写真のバージョンでは いちおう PCB が丸見えではないですが、それでもスイッチ群と MCU の PCB は分離しており、間は手配線、上も手配線、キースイッチは半 田直付け、トラックボールのケーブルにはラベルがついていて、トラックボール基板側をバラして半田付けしています。150mmの長いネジは 非常に力がかかりやすいわりに根本は補強されていませんし、PLA の 3D プリントケースは脆く、力をかけると簡単におれます。このキーボードは当初設計からもう1年以上つかっていますが、全部組みなおさなければいけない破損だけで3回くらい、こまかい断線をいれたら20回以上補修しているはずです。最初の破損はこれを海外旅行にもっていったら、帰りの飛行機の最中にスーツケースごと割れて戻ってきました。反省して次回から手荷物で持ち込むようにしたら空港で止められました。
ナイトメア・ビーストは、非常に手のかかる子です。対照に、デスクはレイアウトを変更したのと引越しの際に組み直した以外、触っていません。組立も1時間たらずでできます。メンテナンスレスです。とても便利で毎日使う生活必需品だからこそ、そして手作りのワンオフだか らこそ、壊れるとめちゃめちゃ困るのです。電子機械だから机より壊れやすいのはあたりまえ。でもあまりに脆い。これは大失敗でした。それまでの自作キーボードはどれも2,3ヶ月しかつかいませんでした。1年もつかったのはナイトメア・ビーストちゃんがはじめてです。壊れたときにすぐ直せるというサステナビリティの観点を完全に計算できていなかったのです。次にやるとき私は以下のような点に注意します。
- 組立工程を極力簡単にする。たとえば実装難度の高い表面実装部品は使わないか、 PCBA を利用する
- 部品をすべてプラガブルにする。スイッチソケット、IC ソケット、PHコネクタを使う
- 空中配線をしない。一面にならない範囲だけ、筐体の面そって短距離を繋げる
- 筐体の強度を十分に確保する。もろい部分を作らない、補う
- 設計図面、ソースコードを適切に管理する
すべて、面倒を極小にするための努力、あるいは投資です。この計画はすでに実施中で、たとえばケースを二段重ねにすることでボルトの圧を分散し、強度を上げたケースを今日印刷しました。素敵なアイディアを思いついても、あまり手馴染みせず、すぐ使わなくなってしまうことがあります。便利に使っていても、壊れやすく直すのが面倒だと、壊れたときを境につかわなくなってしまいます。最初の一回を低コストでスタートすることは重要です。満足してずっと使いたい一品になったら、日用品だからこそお金をかけ、最小の手順でリビルドできるようにしましょう。趣味で一回つくって満足するものと、毎日何年間もつかいつづけるものは違う軸でつくらないといけません。素晴らしいアイディアが日常に定着するためには一部では相反する、2つの軸のサステナビリティが不可欠です。
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