これは https://note.mu/yarnaimo/n/ne9f772a7d2b7 で提案した対策の詳細です。
ATS-Sx 型およびそれを基本とした拠点 P・ATS-Ps・ATS-DK など、JR で用いられている保安装置の多くでは基本的に閉塞信号機に対する速度照査が行われておらず、冒進防護として十分とは言えないのが現状です。
この対策は、上記の保安装置に簡易的な速度照査機能を付加することによって、信号冒進距離・速度の抑制、衝突被害の軽減などを図るものです。
速度照査パターンの作成には、線区最高速度に応じて変化する標準停止限界距離という新規の基準を用います。この距離は以下の式から算出されます。
標準停止限界距離[m] = ((線区最高速度[km/h] - 10) ^ 2 / (2 * 4.5) + (線区最高速度[km/h] - 10) * (5 + 1)) / 3.6
これは、「線区最高速度より 10km/h 低い速度で走行中、ロング警報 5 秒 + 空走 1 秒後から減速度 4.5km/h/s で減速を開始し、停止するまでに要する距離」と同等で、ロング地上子 - 信号機間の平均的な距離を算出することが目的です。
以下に標準停止限界距離の例を示します。
線区最高速度 [km/h] | 標準停止限界距離 [m] |
---|---|
130 | 644.44 |
120 | 556.79 |
110 | 475.31 |
100 | 400.00 |
85 | 298.61 |
65 | 185.03 |
速度照査パターンは、既存のロング警報 (130kHz) を受信した時点で発生させます。標準停止限界距離が a メートルであった場合、ロング地上子の a メートル先を停止限界とみなし、以下のように速度照査を行います。超過の場合は即時非常 B を動作させます。
地点 | 距離 (ロング地上子起点) [m] | 照査速度 [km/h] |
---|---|---|
ロング地上子 | 0 | 75 |
- | a - 350 | 65 |
- | a - 300 | 55 |
停止限界 | a | - |
速度・走行距離の測定には速度発電機からの入力を用いるものとします。
運転台には、走行中区間の線区最高速度を選択するための最高速度選択スイッチを設けます (JR 西日本の一部車両には線区最高速度の照査を行う目的ですでに設置済み)。
- ロング警報を受信したらベル音とチャイム音を鳴動させる。(現行通り)
- 同時に 75km/h 照査を行い、超過の場合は非常 B を動作させる。(新規)
- 確認扱いが行われるとベル音を停止させる。5 秒以内に確認扱いが完了しない場合は非常 B を動作させる。(現行通り)
- 停止限界の 350m 手前で 65km/h 照査を行い、超過の場合は非常 B を動作させる。(新規)
- 停止限界の 300m 手前で 55km/h 照査を行い、超過の場合は非常 B を動作させる。(新規)
- 信号現示が停止以外に変化した場合、運転士が警報持続ボタンで警報を解除する。
現行では確認扱いが完了した時点でシステム上は警報解除が可能ですが、これを 55km/h 照査を行うまで解除できないよう変更します。
速度照査パターンが重複した状態で警報持続ボタンが押された場合、先に発生したパターンから順に解除するようにします。