実験室でよく使用される, 純度 95 % や純度 99.5 % のエタノールは, お酒の製造に転用される可能性があるということで, 酒税相当分が価格に上乗せされて流通している. 1 リットル当たり 800 円強が上乗せされているという. 厳密には「酒税」ではなく, 「酒税相当分」というらしい (ちなみに, お酒に使われる醸造用アルコールと実験室で使う試薬の 95 % エタノールとは実は同じものらしい. 醸造用アルコールが財務省, 試薬のアルコールが経済産業省と, 監督官庁が異なるだけと聞いた).
一方, お酒の製造に転用できないように, わざわざ不純物を添加したエタノールもあり, 工業用アルコール, 変性アルコールと呼ばれている. こちらは, 酒税に相当する分が上乗せされていないので安い. 工業用アルコールは, メタノール, 1-プロパノール, 2-プロパノール, 1-ブタノールなどが意図的に加えてあって, 飲むと危険である (プロパノールなどが入ると、おそらく味的にも飲めたもんではない).
酒税相当分が上乗せされているということは, 薄めれば飲めるのではないか?
蒸留によってエタノールを精製すると, 水とエタノールの共沸点である 95 % 以上には精製されない. これよりも濃くしたい場合は, エタノールと水の系にペンタンやシクロヘキサン (従来はベンゼン) を混ぜて蒸留する. したがって, 有毒なシクロヘキサンや発がん性物質であるベンゼンを含まない 95 % エタノールは薄めて飲むことができる.
一方, 日本薬局方1によると無水エタノールの揮発性混在物としてベンゼンは 2 vol ppm より大きくないとされる. また, 2008年の調査2によればベンゼンの非発がん毒性に関する耐容一日摂取量 (TDI) は 18 μg/kg/日, 発がんユニットリスク3は 0.025/(mg/kg/日) である.
つまり, 体重 50 kg の人が無水エタノールを 10度のお酒に薄めて飲んだとき TDI を超えない量は 4.5 L である. また, そのときの発がんリスクへの寄与は 0.00045 である. 99.5 % エタノールに含まれる実際の残留ベンゼンの量はこれよりも少ないと考えられるから, 人体への影響は無視でき, 99.5 % エタノールもまた薄めて飲むことができる.
- 純度99.5%のエタノールを飲用してはいけない訳: 研究と教育と追憶と展望 http://tsuyu.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/995_a8e4.html
Footnotes
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「日本薬局方」ホームページ https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000066530.html ↩
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清涼飲料水評価書(案)ベンゼン 食品安全委員会化学物質・汚染物質専門調査会 https://www.fsc.go.jp/iken-bosyu/pc1_kagaku_osen_benzene_200925.pdf ↩
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体重 1 kg あたり 1 mg/日の用量で生涯にわたり経口暴露した時, この暴露に関係して白血病の生じる発がんリスク. ↩
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読書記録『無水アルコールの美味しい飲み方』 https://note.com/kokeiro001/n/nd19b0d10ef8d ↩
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無水アルコールの美味しい飲み方(PDF版) https://ofo.booth.pm/items/2473210 ↩