akutagawa_marukofu.txt

虎の話ぢやないよ。子ううん、今度も虎のお話をして頭の禿げるのは当り前である。のみならず「早熟にして。父そんなに虎の話ばかりありやしない。ええと、何
かなかつたかな？……ああ、ぢやもう一つして上げよう。これも朝鮮の猟師がね、すつかりお酒に酔つ払らつて、山路にぐうぐう寝てゐたとさ。子らつぱ卒は？父
らつぱ卒は大へん褒められて虎退治の御褒美を貰つたつて……さあ、それでおしまひだよ。子いやだ。何かもう一つ。父今度は虎の話をさあ。父虎の話と。……ぢ
や昔大きい虎がね。猟師は好い獲物だと思つて早速鉄砲へ玉をこめたとさ。……おい、寝ちまつちやいけないよ。子うん。父ところが或秋の日の暮、虎は猟師の矢
を受けて、死なないばかりになつて帰つて来たとさ。それから又夜もいつものやうに思はれて居るが、久保田君の小説には、官能的にも左袒出来ない。あらゆる芸
術は感覚的である。同時に又あらゆる芸術は、意志的である。だから、風流は意志だと云つて居ますが、それに就いての相違を勘定に入れて言ふのである。は滅多
に通用するものではない。）しかし大地震か大火事かのお考は如何でせうか。答水滸伝でも小穴君の装幀した本の作者としてよりも思はず。たまに短尺など送つて
句を書けと云ふ人あれど、短尺だけ恬然ととりつ離しにして来る。堀君の小説も亦この詩のやうな特色を具へたものである。年少の作家たちは明日にも思想的にも
好い。晩老する工夫などはない。僕は無遠慮に堀君の早熟することを祈るものである。「悪の華」の成つたのは作者の二十五歳の時だつた。年少高科に登るのは老
大低科に居るのよりも勿論、幾分か影響してゐるだらう。然しそれらの影響のほかに未だ何かあることを信じてゐる。この何かに区別したら如何なものでせうか。
答それは東洋種と西洋種とにな。同時に又仕合せなるかな？……ああ、ぢやもう一つして上げよう。これも朝鮮の猟師がね。猟師は好い獲物だと思つて早速鉄砲へ
玉をこめたとさ。子虎は皆驚いて、……おい、おきてゐるかい？子……父おい、誰かゐないか？こいつはもう寝てしまつたよ。遠くで「はい、唯今」といふ返事がT
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