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  1. 第一原理 各人は,すべての人に対する同様なシステムと両立する,最も広範で全体的な平等の基本的自由のシステムに対する平等な権利を有する。
  2. 第二原理 種々の社会的・経済的不平等は,以下の両方を充たすように設定されなければならない。
  3. 正義に適った貯蓄の原理と矛盾しない程度で,もっとも恵まれない者たちが最大の利益を受けるように,そして
  4. 公正な機会の平等を充たす条件の下で全ての人に開かれている職務と地位に伴うかたちで。

井上は「初期ロールズの結論は,例の『格差原理」以外は,基本的にいいと思っていたんですよ。」とする。

格差原理について,まずそれによって経済格差が正当化される典型的な状況(とロールズが挙げる例)を取り上げる。 それは即ち,「才能ある人々に大きな報酬を与えて才能行使のインセンティブを強化すれば,社会の生産性が高まって経済が発展し,結果として最下層の人々に至るまでその境遇が引き上げられるという,いわゆる『トリクル・ダウン(利益の滴り)効果』がある場合」である。 これについて,トリクル・ダウン効果が本当にあるのかどうかはさておいても問題があるという。 トリクル・ダウン効果が仮にあったとしても,その場合すべての階層の人々の境遇が改善されるので,格差原理を持ち出すまでもなく「パレート原理」で十分正当化できると。

パレート原理で正当化できないのは,上層の境遇を引き下げることで最下層の境遇を最善化する必要がある場合,再分配が必要な場合であるという。 しかし,この場合でも才能行使インセンティブを阻害しない程度であれば,資源移転による上層の効用減少量より下層の効用増大量が大きい(「限界効用逓減の法則」)ので,効用総量の最大化を求める功利主義によっても正当化できてしまうとする。

そのため,パレート原理や功利主義では無理で格差原理によってしか正当化できないのは,「上層から,その才能行使インセンティブを減殺する程度に,したがってまた経済的パイを縮小させて効用総計を低下させる程度に,多くの税金をとって最下層に再分配することが,最下層の境遇最善化のために必要な場合」であるという。

そしてこれを踏まえた上で,上層と下層という単純二項対立図式ではなく中間層を加えたより現実的な社会モデルで考えると,格差原理の問題点がより明確になるという。 上層には逃げ足があり租税回避が可能であるが,中間層はそうではない。さらに中間層は数も多いので,同じ税金総額でも少数の上層から集中的にとるより,中間層に広く薄く分散して取ったほうが目立ちにくく抵抗を緩和できると。 こういう条件のもとでは,最下層の境遇最善化のために上層の税負担を軽減し,中間層の税負担を増大させることが必要になる事態もあり得るが,こういう課税戦略を格差原理は正当化する。

この帰結はロールズの主張する「公正としての正義(justice as fairness)」に反して不公正なのではないかという疑問をもたせるとする。 ロールズの功利主義に対する批判「それが効用のパイ総体の最大化にだけ関心をもち,このパイを人々の間にいかに分配するのが公正かという問題に固有の関心を持たない点で不公正だ」を井上は「格差原理も最下層の境遇の最善化にのみ関心をもち,それを実現するための負担を他のさまざまな層の人々にどのように分配するのが公正かという問題を無視している」と送り返す。

井上は上で見た「分配の公正」の観点からの批判だけでなく,リバタリアンによる恣意的な市場介入の観点からの批判についても取り上げる。

この批判については,ロールズは格差原理の射程を限定し希薄化路線を取ったとする。 これによれば,格差原理は事後的な強制的再分配による是正を要請せず,市場経済の制度的基盤を何らかの指標で測られる最下層の境遇が最善化される帰結を持つように,事前調整を要請するだけだと。

これには指標選択の恣意性という問題もあるが,それ以上に重要な点は事前の制度調整が必要であることからそれで十分であるとするのは飛躍論証であるということで,井上は事後的救済も必要だとする。 さらには,「市場経済への恣意的で放漫な政治的介入の難点の回避と,弱者保護とを両立させる上で必要なのは,事後的再分配を排して事前の制度調整に限定することではない。重要なのは事後的再分配の仕方です。」とし,市場的競争を制限する規制では特殊権益保護手段として濫用されてしまう恐れがあるという。

井上は,競争制限ではなく,「だれであれ無差別公平に一定レベルまで生活保障給付を受ける『市場外での再分配措置』なら,弱者保護の公正化と市場的競争の健全化を両立させ得る」として支持する。「かかる弱者保護の指針になるのは格差原理ではなく,人間の品位保持に必要最低限の生活水準を万人に保障する decent minimum (尊厳最低限保障)の原理」であるとする。

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