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学術分野における作文方法について

学術分野における作文方法について

はじめに

本記事では,学術雑誌や技術報告,卒業・修士論文など,学術分野における文書(以下,学術文書)の作文方法について記します。小説やエッセイとは異なり,学術文書は特定の分野に興味・関心のある人に対して,事実と意見を明快かつ簡潔に伝えることを目的としています。以下では,学術文書の中でも論文に焦点をあて,良い論文を作文するポイントに記します。取り上げるポイントは下記のとおりです。

  1. 前提
  2. 執筆のフロー
  3. 文章構成
  4. トピックセンテンス
  5. 文の表現方法
  6. パクリ

なお,本記事は以下に挙げた書籍や文書の内容をベースに,山本個人の意見を加えて作成しています。学術文書の作成技術についてより深く学びたい方は,下記文献を参考にしてください:

前提

すでに述べたとおり,論文は特定の分野に興味・関心のある人に対して,研究活動を通じて得た事実と意見を明快かつ簡潔に伝えることを目的としています。良い文章を作文するには豊かな表現や感動を誘うような表現が必要と思われるかもしれませんが,論文に心情的要素は含めるべきではありません。求めている情報を読み手が論文から誤解なく効率よく得られるように注力することが大事です。

読み手が求めている情報を論文から誤解なく効率よく読み取るために,書き手が意識すべき大前提は3つあります。1つ目は事実と意見を分けることです。事実とは,調査やテストなどによって客観的に真偽が確かめられるものです。意見とは,著者が考えたり感じたりした結果,得られた結論です。論文においては,意見は事実から論理的に導き出されたものでなければなりません。論文は客観的な事実を裏付けとして,著者の意見を主張するためのものです。事実と意見が区別できない論文はその妥当性・信頼性を判断することができませんので,せっかく生み出した知見も利用されずに終わってしまうということになります。事実と意見を分けることは意外に難しいです。意識して取り組んでみてください。

論文執筆で意識すべき前提の2つ目は重点先行,概観から詳細へ です。これは,タイトルや書き出しの文を読めば文章の最も重要なポイントが,段落の頭を読めば段落のポイントが分かるようにするということです。章レベルでも段落レベルでも,書こうとすることについてまず大づかみな説明を与えて読者に概観を示し、その後細部の記述に入ることを意識しましょう。こうすることで,読み手は要点を効率よく掴むことができますし,論文を理解しやすくなります。

論文執筆における前提の3つ目は論理的で明快な文章を書くことです。論文をスムーズに読んでもらうためには,文章を論理的に構成することが重要です。そんなことは当然でしょと思われるかもしれませんが,論文執筆の経験が浅い学生さんの論文を読むと,研究活動を時系列に報告している文章になっていることがしばしばあります。研究活動を時系列に報告しても論理的な文章になるとは限りません。論文の目的は客観的事実に基づき,ある意見を主張することにあります。それゆえ,意見を論理的に主張するためであれば,研究活動の時間的順序を逆転させて文章を構成する必要もあります。また,研究の背後にある仮定を浮き立たせて書くことも意識しましょう。読み手の多くは、あなたが自明だと思っている前提や仮定を分かっていません。論文は自分が紆余曲折した道ではなく、読者が読みやすいように最も簡明な道に沿って論理的に書く必要があるのです。さらに,内容を伝えるためには,簡潔で明朗な文章を書く必要もあります。論文といえば難しい単語や堅い表現をイメージされる方もいると思いますが,そのような表現をつかっても伝わらなければ意味がありません。平易な表現でも問題ありません。読み手に誤解なく確実に伝わる表現を心がけましょう。

執筆のフロー

論文を書き始めるのは,アイデアが固まって実験して結果が出揃ってから — そう思っている学生のみなさん。それではいつまでたっても論文を書くための材料がそろいません。研究がスタートしたら,その時点で考えたことを論文のフォーマットに沿ってメモしていきましょう。これが研究の質を磨き,より良い論文を書くための秘訣です。後ほど述べますが,論文の構成は研究を進める上で検討すべきことに対応しています。フォーマットに沿って論文を埋めようとすれば,研究を進めることになり,論文の完成に近づきます。

「研究を進めるために論文を書く」というのは逆説的かもしれませんが,考えていることを言語化しなければ,アイデアは整理されないし深まりもしません。実験・調査方法も検討できません。結果を眺めながら考察を深めることもできません。文字に起こすことで考えを正したり深めたりすることができるのです。

さて,論文を書くと決めたら以下の手順にそって論文を書きます。

  1. 論文を執筆する環境を整える(後述)
  2. 論文フォーマットを準備する
  3. モデル論文を見つける
  4. 第1稿を書き上げる
  5. 共著者にチェックをしてもらいフィードバック(FB)を得る
  6. 共著者からOKが出なかった場合,FBを参考に論文を修正しステップ5に戻る
  7. 共著者からOKが出たら論文完成

学生によくあるケースは,締め切り直前に論文の第1稿を書き上げ,教員に提出するというケースです。これは困ります。誰であれ,第1稿の文章の質はかなり低いです。論文を読むに耐えうるものにするには,推敲を重ねることが重要です(論文の質と遂行回数については,松尾ぐみの英語論文の書き方の内容が興味深いです)。論文は書いては修正するものだと肝に銘じてください。

とはいえ,論文を書くこと,特に第1稿を書くのは骨の折れる作業です。いきなり完成度の高い文章を書こうとしては駄目です。(上で述べたように,普段から論文フォーマットに沿ってメモを残していくということをしていなければ)まずは論文で最も主張したいことを書き出しましょう。そして,その主張に収束するように論文フォーマットに沿ってコンテンツを埋め込んでいきましょう。最初は箇条書きやメモレベルでも構いません。考えるために書き出すことが重要です。

また,書き方の参考にするモデル論文を2,3報見つけておくと,論文執筆の助けになります。研究スタイルが似ている論文のうち質の高い論文を手元に置いておきましょう。ただし,参考にするのは書き方のみです。内容をパクるのは問題外です。

文章構成

論文のフォーマットや構成は,研究分野によって異なりますが,ある程度慣習的に定まっています。例えば,計算機科学系の論文の典型的な論文構成は以下の通りです:

  1. アブストラクト(抄録)
  2. イントロダクション
  3. 関連研究(提案内容によっては「考察」の章の後に入ることも)
  4. 提案システム・アルゴリズム
  5. 実験
  6. 結果
  7. 考察
  8. まとめ

ここでは,各章において何を書くべきかをまとめます。

アブストラクト

アブストラクトは論文の冒頭にある200-400文字程度の文章です。概要文や抄録と呼ばれることもあります。アブストラクトの目的は主に以下の2つです:

  • 同じ専門分野の研究者や学生が、アブストラクトを読んで、その論文を読むべきかを判断する
  • 関連分野の研究者や学生が、アブストラクトだけ読んで要点を得る

上記目的のために,アブストラクトには,論文で取り組む課題それに対するアプローチ論文の主要な貢献や得られた知見を簡潔に記しましょう。時々アブストラクトに研究の背景や動機を書いている論文を見かけますが,上記目的を踏まえると背景や動機を書く必要はほとんどありません。

アブストラクトは論文の内容と結論を凝縮した文章です。可能なら論文を書き上げてから書くようにしましょう。

イントロダクション

論文の第1章にあたる文章です。「はじめに」や序論,緒言と呼ばれることもあります。イントロダクションは極めて重要です。イントロダクションの役割は,読者に論文を読むべきか否かを敏速・的確に判断するための材料を提示すること,論文を読むために必要となる前提知識を提供することにあります。読者はイントロダクションを読んで面白いと思えば論文を読み続けるし,面白くなければ論文を読むのをやめます。イントロダクションで読者を惹きつけられなければ,そこで試合終了です。

魅力的なイントロダクションを書くには,どうすればよいでしょうか?山本がイントロダクションを書くために参考にしているのは,スタンフォード大学InfoLabのJennifer Widom氏が公開している”Tips for Writing Technical Papers”です。Widom氏はイントロダクションは以下の5つの質問に答えるようにアドバイスしています。

  1. 問題は何か?
  2. なぜその問題が興味深くかつ重要なのか?
  3. なぜその問題を解くのが困難なのか? (例:なぜ単純なアプローチではうまく解けないのか?)
  4. なぜ今までその問題は解決されてこなかったのか? (もしくは,既存手法の何が悪いのか?提案手法と既存手法との差異は何か?)
  5. 提案アプローチの重要な要素は何か?それを用いた結果はどうだったのか?

特に理由がなければ,上の質問に答えるようにイントロダクションを構成すると良いでしょう。上記アドバイスを補足するとすれば,可能なら論文全体を通じて説明に用いる例題を導入することです。取り扱う問題やその重要性を分かりやすく伝えるために例を使うのは有効です。提案事項の詳細を述べる章でも同じ例を用いることで,読者は論文をスムーズに読み進めることができます。

提案事項の詳細,実験・調査,結果の章

「提案事項の詳細」について触れる章の名前は内容に依ります。単に「提案手法」「提案システム」とする場合もあれば,「XXを行う手法」と具体的な名前をつけることもあります。また,章を複数に分割する場合もあります。

実験・調査の章は,提案事項や仮説を立証するための評価実験,調査の方法を述べる章です。名前のつけ方は内容や分野によって異なります。仮説の立証方法が実験であれば「実験」「ユーザ実験」など,アンケートなどの調査であれば「調査」などが章の名前として考えられます。理学などの分野では,単に「方法」とする場合もあります。

結果の章は実験・調査で得られたデータや分析結果について述べる章です。結果の章はデータや分析結果のみを淡々と記し,その解釈や結果から得られた知見は「考察」の章で述べるようにしてください。本記事の前半で「事実と意見を分けることが大事」といいましたが,結果の章は実験・調査から得られた事実のみを述べるパートとし,意見は考察の章で述べるという棲み分けを行います。

考察

論文で最も重要な章です。考察の章の役割は,結果の章で示した実験結果,調査結果を踏まえて仮説の検証を行い,結論にいたるまでの議論を展開することにあります。結果の章では実験や調査で得られた結果を淡々と報告することと述べましたが,考察の章に入ってようやく結果の解釈を行い,著者の「意見」を述べることができます。

考察の章では,実験・調査結果をもとに著者の価値判断のもと,なんらかの知見・結論を提示することになります。注意すべきは「独りよがりな文章を書いてはいけない」ということです。考察は著者の「意見」を述べる章ではありますが,得られた知見を有効に活用してもらえるよう,自分の研究を客観的に眺めて考察を書き上げる必要があります。

これを踏まえて,考察の章では以下の項目について記します。

  • 結果の解釈と仮説の立証結果
  • 提案手法,研究手法の制約条件,限界
  • 提案手法がうまく機能した理由,うまく機能しなかった理由の考察
  • 結果から導かれる提言(インプリケーション)

考察は最も重要な章であり,最も執筆に神経を使う章でもあります。特に文章の論理展開には気をつけてください。実験・調査結果を踏まえて何からの主張を行うときは,論理的な飛躍がないように注意しましょう。何らかの提言を行う場合は,立証された仮説や分析結果に関連している必要があります。実験・調査結果をよりどころとしない主張はしてはいけません。

まとめ

論文の最終章にあたる文章です。むすび,結言,結語などと呼ばれることもあります。まとめの章では,論文の主要なポイントを簡単に列挙してまとめます。列挙したポイントの重要性を強調し,今後の課題,将来の発展への道を示唆します。

トピックセンテンス

簡潔明瞭な文章を書くには,パラグラフ(段落)を立てることが重要です。パラグラフを立てることで,文章が読みやすくなり要点がつかみやすくなります。

パラグラフとは文の行頭を字下げしたものである,というだけではありません。パラグラフの重要な性質は,あるトピックについてある1つのことを述べるためにあるという点です。あるパラグラフで2つ以上のことを述べている場合は,パラグラフを分割する必要があります。1パラグラフにつき述べることは1つ。この原則を守ることで文章が簡潔明瞭になります。

パラグラフについてもう1つ重要なルールがあります。それはトピックセンテンス(主題文)を必ず含めるということです。トピックセンテンスとは,パラグラフで言わんとすることを要約した1文で,大抵の場合,パラグラフの冒頭に配置されます。本記事の前半で,学術論文では重点を先行して文章を書くことと述べましたが,トピックセンテンスも重点先行主義の表れです。パラグラフを立てるときは,まずトピックセンテンスを考えましょう。その後,トピックセンテンスを具体化したり,次のパラグラフとのつながりを示す文を肉付けしていきます。肉付けの方法は,PREP法やSDS法などが参考になります。PREP法はPoint,Reason,Example,Pointの頭文字をとったもので,最初に結論を伝え,次に理由を説明し,その次に具体例で理由を補強し,最後に再度結論を提示する文章構成方法です(Wikipedia参照)。SDS法はSummary,Detail,Summaryの頭文字をとったもので,最初に概要を伝え,次にそれに関する詳細な説明を述べ,最後にそれらを統合しまとめを述べる文章構成法です。PREP法であれSDS法であれ,最初の要素がトピックセンテンスに対応します。

論文執筆の初心者の方は,パラグラフおよびトピックセンテンスを意識して論文を書きましょう。

文の表現方法

ここでは文章を構成する文を書く際の注意事項を列挙します。どのルールも当然に思えますが,自分が思っている以上に守れていないです。意識して取り組んでみてください。

文体:「だ」調は避ける

学生の書いた論文を読んでいると,「〜は重要だ」のような「だ」調の文体で書かれた文が散見されます.論文では,「だ」調ではなく「である」調の文体で記述してください.これは慣例です.

※ 上の注意はあくまで論文を書く際のものです.他の文章であれば,「だ」調の文体を用いてもよいケースはあります.ただし,重要な指摘をもう一点追加しておきます.「だ」調であれ「である」調であれ,文章内で用いる文体は統一してください.自分では意識していなくても,学生の各文章は「です/ます」調,「である」調,「だ」調の文体が混在しているケースが散見されます.これは論外です.

参考: 「である/だ」調、混在してない?卒論で気を付けたい文体について

口語すぎる表現は避ける

学生は自分が使っている言葉がくだけた口語表現であることに気づいていないケースがあります.例えば,「〜かもしれない」などの表現はこれに該当します.このようなくだけた口語表現は論文のようなかっちりした文章では使いません.ですので,先の例であれば「〜の可能性がある」といったように,かっちりとした表現に書き換える必要があります.

参考:こう言い換えろ→論文に死んでも書いてはいけない言葉30

文はできるだけ短い文にすること

長い文は読むのが大変です。短いに越したことはないです。長い重文は短文に分けましょう。また,複文は構造が複雑でわかりにくくなるので,可能なら短い文に分解した方がよいです(英語で関係代名詞がつづくと読みにくいですよね)。

文の主語を常に意識すること

文章を書き慣れていない人の文に多く見られるのが,「主語と述語の対応関係が分からない文」です。この手の文は長い文に見受けられます。具体的には以下が挙げられます。

  • 主語と述語がずれているケース(例:想定する主語が途中で変わってしまっている)
  • 主語に対応する述語の態がおかしいケース(例:主語からすると述語は受動態で受けるべきなのに能動態になっている)
  • 主語が曖昧もしくは存在しないケース

が多いです。主語と述語の対応関係が分からないと何を言っている文か分からなくなります。必ず主語と述語の対応関係が取れているかをチェックしながら,文を作りましょう。

修飾語/句/節を用いるときは係り受け関係をわかりやすくすること

修飾語や修飾句,修飾節がどこに係っているのか分からない文は困ります。修飾語や修飾句,修飾節は修飾される語や句の近くに置くようにしましょう。また,修飾節中のことばに修飾節をつけると混乱を招きます。そのようなケースでは文を分割しましょう。長い修飾節や複雑な修飾節は混乱のもとです。

句読点の使い方を工夫すること

句読点をどう使うかは,読みやすさに大きく影響します。読点を使うことで文の切れ目を示したり,係り受け関係を明確にすることができます。2文以上から成る文の間には読点をつけるようにしましょう。また,係り受け関係がわかりにくい句や文がある場合,修飾する句や節の直後に読点を打つことで,係り受け関係がわかりやすくなります。なお,読点を打ち過ぎるとくどくなります。使いすぎには注意しましょう。

字面の白さを意識すること

漢字だらけの文章は読みづらいです。目につらいですし,読む気も失せますよね。一方で平仮名ばかりの文章も読みづらいです。字面を適切な白さに保つよう意識しましょう。

いくつかの要素を並べるときは箇条書きや番号を積極的に利用すること

要素を並列したり順序つきで列挙するときは,その構造が分かるように書いた方がわかりやすいです。

パクリ

パクリ,盗用,剽窃は絶対行ってはいけません。不正行為です。文章執筆がなかなか進まない,内容が思いつかないからといって他人の文章を盗み利用するのは最低です。文章を盗むことは,著者が行ってきた時間的・知的努力を踏みにじる行為です。あなたが必死に書いた論文を誰かがパクって賞を受賞したら腹が立ちますよね?絶対に他人の文章を盗まないでください。他人の文章を論文に載せるときは,正しい方法で引用しましょう。

もし学生のあなたが他人の文章を盗んだとしても,高い確率でバレます。文章を読むこと,書くことに慣れた教員,研究者であれば,盗まれた文章とあなたの文章の文体のズレや使われている語彙レベルの違いにすぐに気づきます。また,最近は文章のコピー&ペーストを自動検出するソフトウェアも開発されています(例:コピペルナー)。研究不正のリスクマネジメントのために,コピー&ペースト自動検出ソフトウェアを導入する大学も増えています。

仮に指導教員や所属大学が学生の不正を見抜けず,世に不正がバレてしまった場合,制裁的措置がとられます。制裁は不正を行った学生だけでなく指導教員や同じ研究グループに属する人々,所属組織にも課されます。盗用や改ざん,ねつ造などの研究不正行為を行った場合,論文の取り消しはもちろんのこと,論文執筆に関わった人々は自分の研究費を使えなくなったり,これまで使用した研究費の返還が命じられます。また,新しい研究費を申請することができなくなったりします。これに加えて,関わった人々の名誉も喪失します。

研究活動上の不正行為はあなただけでなく,あなたに関わった人々まで不幸にします。パクリを含めた研究不正は,絶対にしないでください。

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