この記事では,関連研究の調べ方について記します.
- 興味のあるテーマに関する研究の動向を知りたい
- ある目的を達成するための技術を調べたい
- 他の研究を比較しながら自分の研究の立ち位置をはっきりさせたい といった場合は,関連研究を調査してみましょう.
この記事では以下の項目について記します:
- 関連研究調査の大前提
- 論文の見つけ方
- 論文の読み方
特に研究活動を始めたばかり頃は,研究動向に関する知識が乏しいため,関連研究を探しがちです.しかし,関連研究を読みあさったところで,研究テーマは生まれません.研究テーマを練る段階では,関連研究を大量に読み込むのではなく,分野の潮流を概観しているような論文を数本だけ読むようにしましょう.読み過ぎると,関連研究にひきづられてアイデアが凝り固まってしまいますし,自分が思いついたアイデアに近い論文が見つかってしまい,意気消沈してしまう可能性があります.
研究テーマが決まってしまえば,関連研究を徹底的に調べてもOKです.最終的に論文を書きあげるには,他の研究と比較して自身の研究の立ち位置を明確にする必要がありますので,関連研究の網羅的な調査は必須となります.
世の中にあるすべての論文が素晴らしいわけではありません.論文には,読むべき論文と読むべきでは論文があります.詳しくは「事実上ターゲットになる論文」の節で述べますが,過去の知見に基づいて研究議論を深め,世に知見を広げていくためには,ある程度信頼性が担保されている文献をピックアップして調査する必要があります.
論文には必ず最後に参考文献が掲載されています.まともな論文であれば20〜30報の論文が参考文献として掲載されていることでしょう.さて,参考文献,特に論文はいったいどこから見つけてきているのか?
主な論文の見つけ方は以下となります.
- 論文検索エンジンを利用する
- 興味のある学会や学術雑誌で発表されている論文掲載リストを漁る
- すでに見つけている参考文献の「参考文献」を漁る
「フェイクニュースについて最新の研究動向が知りたい」といったように,興味のあるトピックやキーワードが頭に浮かんでいる場合は,論文検索エンジンを利用するのが良いでしょう.論文検索エンジンは,キーワードを入力するとそれに関連する世界中の論文のリストを返してくれます.代表的な論文検索エンジンは以下の通りです.
- Google Scholar:Googleが提供している論文検索エンジン.検索性能は高い.検索結果には関連性が高くても(研究の)質が低い論文も含まれるが,「引用数」や「掲載雑誌名」が併記されているので,それでフィルタリングすれば非常に重宝します.ACM Digital Libraryではダウンロードできなかった論文もダウンロードできる可能性あり.
- ACM Digital Library:情報学の分野では最も権威がある学会ACMで発表された論文を検索できる論文検索エンジン.やや動作が重いが,ACMで発表された論文を調べたいならこれを利用するのが確実.論文をダウンロードするには,ACM会員である必要がある(山本まで連絡いただければ,ダウンロードします)
- CiNii:国立情報学研究所(Nii)が提供する日本語の論文を検索するための検索エンジン.検索対象範囲は広いが,小規模な研究会の予稿集論文のようなものも引っかかってくるので,論文の品質に注意を払う必要がある.
上記検索エンジンを利用することで関連する論文を見つけることはできますが,肝心の論文本体をダウンロードできないことがあります.例えば,既に述べたとおり,ACM Digital Libraryの論文はダウンロードするためにはACM会員である必要があります.ダウンロードできないから諦めるのはあまりにもったいないので,その場合は指導教員まで連絡ください.可能な限りダウンロードしてお渡しします.
論文といっても玉石混淆です.論文検索エンジンで引っかかってくる論文には,まともな査読が行われていない論文であったり,学生が執筆した論文なども含まれています.そのような論文に価値がないとは言い切れません.しかし,研究の経験が浅い学生が,信頼性が高く深い知見を含む論文を効率よく見つけるには,ある程度権威のある学会・学術論文誌で査読を経て発表された論文に絞って論文を探した方が良いでしょう.目利きができるチカラがついてきたら,学会名や雑誌名に振り回されずに論文を探すのもよいと思います.
この前提を踏まえ,うちの研究室で参考文献として認められる学会・学術論文誌をいかに記します.論文を調査する場合は,以下の国際会議・学術論文誌で発表された論文をターゲットにしてください( ACM Digital Libraryで見つかる論文ならまずはOK):
ACM系
- SIGIR:情報検索
- CIKM:情報検索およびデータマイニング技術
- WWW(The Web Conference):ウェブ全般
- JCDL:デジタルライブラリ
- CHIIR:ヒューマン・コンピュータインタラクションと情報検索
- CHI:ヒューマン・コンピュータインタラクション全般
- CSCW:協調作業支援技術およびソーシャルコンピューティング技術
- UIST:ユーザインタフェース技術
- IUI :AI x ユーザインタフェース技術
- DIS:インタラクティブシステム
- UbiComp:ユビキタスコンピューティング
- RecSys:情報推薦技術関連
- ASONAM:ソーシャルネットワーク分析
- ICWSM:ウェブとソーシャルメディア
- WebSci:ウェブサイエンス
- HT:ウェブ,ハイパーメディア,ソーシャルウェブ
非ACM系
- TPDL :デジタルライブラリ
- WISE :ウェブ
- WI:ウェブ,データマイニング
- ECIR:情報検索
- HCI International:ヒューマン・コンピュータインタラクション全般
- 情報処理学会論文誌(日本語)
- 人工知能学会論文誌(日本語)
- 電子情報通信学会論文誌(日本語)
- ヒューマンインタフェース学会論文誌(日本語)
- ACM Communication
- Journal of the ACM
- ACM Transactions
- Science
- Nature
いきなり全文を読もうとしないでください.時間と気力を無駄にしないためにも,まずは気になる論文が「読むべきに値するか」を判断しましょう.読むに値するかの判断手順は以下の通りです.
- タイトルを見る
- アブストラクト(概要)を読む
- イントロダクション(「緒言」「はじめに」,"Introduction"の章)を読む
- (グラフや図表を目に入れながら)結論("conclusion" or "future work")の章を読む
上記ステップの途中で「つまらない」「関係なかった」と判断したら読むのをやめましょう.上記4ステップを踏んで読むに値すると判断したら,ぜひ論文を読みましょう.
論文を読むとき,漫然と読むのはやめましょう.以下の点を意識しながら論文を読み進めてください.
- 解こうとしている問題は何か?
- なぜその問題が興味深くかつ重要なのか?
- なぜその問題を解決することが困難なのか?
- なぜその問題は解決されてこなかったのか?(既存手法は何が悪いのか?提案手法と既存手法の差異は何か?)
- 提案内容の重要な要素は一言で表すと何なのか?(もしくは,提案手法は直感的にはどう説明できるか)
- 得られた知見は結局何なのか?
- 自分だったら論文でターゲットにしている問題にどうアプローチするか?