卒業・修士論文研究をはじめるにあたって,学生の皆さんにはこれから最大3ヶ月かけて研究テーマ案を検討していただきます.とはいっても研究の経験が乏しい場合,いきなり研究テーマを考えるのは難しいと思います.そこで,以下のステップで研究テーマを決めてみましょう.
- 興味・関心のあるトピックを洗い出す
- ステップ1で洗い出したトピック間の関係を整理する
- 指導教員からのフィードバック
- 研究テーマが決まり次第,本作業は終了
- 研究テーマが決まらなければ,ステップ1〜4を3回繰り返す
- ステップ1〜4を3回繰り返してもテーマが決まらない場合,指導教員がテーマを与える
なお,上記ステップを回すのに3ヶ月程度かかると思います.3月から活動を開始した場合,研究テーマが決まり具体的な研究活動に取り組むのは6月頃となります.卒業・修士論文の草稿の提出が1月末であること踏まえると,夏休みを含め研究に時間をかけられるのは最大8ヶ月程度となります.
納得できる卒業・修士論文研究ができるよう,着実に準備を進めていきましょう.まずは以下の「研究とは何か」を読んでください.その後,「ステップ1とステップ2の詳細」に従って作業を進めてください.
研究とは何か?それは「新しい仮説を提示し,それを立証する行為」です.ここで,以下に仮説および立証という言葉を定義します.
- 仮説:正誤が客観的に判定できる言明
- 立証:筋道を立てて理解すれば、仮説が正しいと納得できるように議論を構成すること
以下は仮説の例です:
- DNAの立体構造は二重螺旋である
- 細胞に酸によるストレスを与えると,細胞が万能細胞化する
- ウェブ探索中に批判的思考を持つ人を想起させる語を見せられると、注意深い情報閲覧が促進される
仮説には"まともな"仮説と"まともでない"仮説があります."まともでない"仮説とは,
- 研究の領域について述べているだけのもの
- 具体性がないもの
- 「作りました」だけのもの などがあります.以下は”まともでない”仮説の例です:
- AI技術を用いることで自動文書作成システムが実現できる(研究領域を述べているだけの仮説)
- 笑いの理論を考慮すれば笑える情報の検索システムを実現できる(具体性がない仮説)
- 情報の食わず嫌いをなくすシステムを開発する(「作りました」だけの仮説)
まともな仮説が提示できてはじめて,研究の価値を評価することができます.いろいろな評価基準がありますが,研究の価値を評価する主な基準は以下の3つです:
- 新規性:誰も取り組んだことのない問題か(同じことをやっている人がいないか?既存の方法で解決できることではないか?)
- 有用性・意義:学術的 or 社会的に意義のある研究か(やる意味のある研究か?)
- 再現性:仮説立証の手続きは妥当か.提案手法は正しく機能するのか
以上の3点をある程度満たさなければ,研究は研究として認められないということになります.
いきなりカチッとしたテーマを出すのは難しいです.また,今の段階では,テーマ案を複数出すことも難しいと思います.ですので,まず興味・関心のあるトピック(アイデア)をひたすら出しましょう.この段階では出したアイデアの評価は行いません.評価はステップ3で行います.
具体的には以下の切り口でアイデアを100〜300程度出してください.アイデアの粒度は具体的でも抽象的でも構いません.また,アイデア同士が似ていても構いません.なお,このステップでは必ず出したアイデアを紙もしくはPCに記録するようにしてください.
- サブステップ1「ネガティブ要因をなくす」:日々の生活や社会で起きていること,未来に起こりえることの中で,あなた自身が不満に感じていること,怒りを感じること,恐怖を感じることをひたすら書き出してください.
- サブステップ2「ゼロからイチにする」:妄想を膨らまし,「こんなことができたらなぁ」「こんな未来になればいいなぁ」ということをひたすら書き出してください.これは妄想なので,実現可能性は問いません.
- サブステップ3「広げる」:ステップ1 & 2で出したアイデアを具体化,詳細化したアイデアを書き出してください.
- サブステップ4「発散」:ステップ1〜3で出した結果を眺めて,別の観点からアイデアを発散させてください.
- サブステップ5「さらに広げる」:アイデアの数が100〜300になるまで,ステップ1〜4を繰り返してください.
ステップ1ではひたすらアイデアを出したため,アイデアが整理されていません.出したアイデア群のエッセンスを把握するために,アイデアの整理をしましょう.
具体的にやっていただきたいのは,以下の作業です:
- 関連のあるアイデアを線でつなぐ.
- 類似するアイデアをグルーピングする
- 関連のあるグループを線でつなぐ.
- 重要なグループや関連には名前を付ける
以上の作業を行うことで,自身が興味・関心の方向性が浮かび上がってくるはずです.この作業中にアイデアが浮かんだ場合は,その都度追加していってください.また,作業中に「これはいまいち」だと思ったアイデアがあっても消さないでください.繰り返しになりますが,この段階ではアイデアの評価は行いません.なお,このステップでは必ず出したアイデアを紙もしくはPCに記録するようにしてください.
以上がやっていただきたい作業になります.この作業を効率よく行うためには,付箋紙を使うとよいかと思います.またデジタルに検討したい場合は,マインドマップのようなツールを使うとよいかもしれません.無料のマインドマップツールとしてはcoggle.itなどがあります.
フィードバック時期については,指導教員の指示に従ってください.